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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【密林地帯】インディオ村

メビオス零


【オープニング】
 アマゾン流域の密林地帯には、昔ながらの暮らしを続けているインディオの村が幾つもある。
 インディオは凄いぞ。あの審判の日と、それ以降の暗黒時代、高度なテクノロジーを持ってた奴らがバタバタ死んでいった中、インディオ達は何一つ変わらない生活を送っていたというんだから。
 本当に学ばなければならないものは、インディオの元にあるのかも知れないな。







〜正しい霊の払い方〜


 ボォッ‥‥‥
 怪しい炎が揺れ動く。
 いったいどんな薬草を焚いているのか、揺れる炎の色は紫色に染まり、その炎は白神 空と、空が持ってきた怪しい人形を取り囲んでいる。
 ‥‥‥空は炎に取り囲まれながら、目の前で異様な存在感を強め始めている人形を不安そうに凝視してから、頬を流れる汗を振り切るかのようにして、炎の外に立っている呪術師に顔を向けた。

「こちらを見ないで下さい!」
「は、はい‥‥」

 呪術師に一喝され、空は再び人形に向き直る。だが空が余所見をしたからか‥‥‥怪しいオーラはどんどん強まり、そのオーラが空の精神を圧迫していく‥‥

(こんな事なら、拾ってくるんじゃなかった‥‥)

 空は人形如きに気圧されてなるものかと睨みつけ、無言で、しかしこれでもかとばかりに近付きがたい空間を形成する‥‥
 そんな中、炎の中の二人(?)を見守るようにして炎の周りを踊っていた呪術師が次の段階に入り、怪しい呪文を唱えながら人形に近付いていく‥‥‥
 ちょうど人形を空と挟み込むかのようにして移動しているため、嫌でもその姿は空の視界の中に入ってくる。
 チラリと空が呪術師を盗み見ると、同じようにして空の事を盗み見ていた呪術師と目があった。

(うわぁ‥‥可愛い)

 ポッと頬を染めて目を逸らす呪術師を見て、空は思わずそう思ってしまった。







 ‥‥‥‥‥‥‥この日の朝、空は早朝からアマゾン流域の密林地帯に入り込み、古くからこの地方で暮らしているインディオの村へと向かっていた。
 理由‥‥‥‥というか原因のアンティーク人形は、現在の鞄の中で不気味なオーラを放っている。これから自分を待ち受ける運命を感じ取っているのか、何だか鞄の中でカタカタ動いているような‥‥‥

「気、気のせいよね」

 自分に言い聞かせるようにして呟くと、草木を掻き分けて足を動かし続けた。
 空は、インディオ村に居るという呪術師を頼り、この人形を解呪して貰おうというのだ。
 勿論街の中にもそう言った類の事が出来るという者達は多数居る。だがそこは都会の者の偏見なのか‥‥‥こう言った事はインディオのような、古い人々の方がよっぽど上手いのだろうと、空は思っていた。
 出来るだけ街で村の情報を集め、呪術師の事を調べた。
 古くからそう言った呪術師の類を置いている村は、大抵一癖も二癖もあるものだ。
 ちょっとした事でこちらに向けて牙を剥いてくる事もあるのだから、手土産の類はキッチリと持っておきたいところだ。

「ぁ、あの村ね‥‥‥やっと着いたわ」

 アマゾン川を船で下り、そして歩く事数時間‥‥‥ようやく空は目的の村を見つける事が出来た。
 早朝から出発したというのに、到着した時には既に昼を大きく過ぎ、後少しで夕刻という時刻になる。

「今日中には帰れそうにないわね。事情を話して、一晩だけ泊めて貰いましょ」

 泊めて貰えなかった時には野宿‥‥
 こんな密林の中でそれは嫌だと思ながら、空は村の様子を窺うようにして、その中へと入っていった‥‥‥‥





「そうですか。それならば、今日の所は泊まって行かれればいいでしょう」

 インディオ村の村長は、穏やかな口調でそう言った。
 まず一番最初に村長の家(木と藁で出来ていた小さなテント)へと向かった空は、自分の用向きと、泊めて貰う事を頼み込んだ。
 元々余所者への警戒感があまり無かったのか‥‥‥村長どころか、村の子ども達ですら空の事を歓迎している。

「で、問題の人形というのは?」
「はい。これです」

 鞄の中から布袋を取り出し、その中に拘束してあった人形を取り出した。布の袋は汚れ防止のための配慮であり、拘束は呪い防止のための悪あがきである。
 村長は人形を手に取ったりはせず、空が持っているのをジッと見つめ‥‥‥

「ああ、このままじゃ死ぬのう‥‥」

 なんて事を呟いている。

「あの‥‥‥村長?」
「うん。これなら大丈夫じゃろう。うちの者は優秀じゃからな」
「良かった。一瞬、本当にどうしようかと‥‥」
「紹介しよう。我が村一の呪術師じゃ」
「‥‥‥‥‥」

 村長が家の入り口に顔を向けて言うと、そこからタイミングを見計らっていたようにして、空よりも二回りは小さい女の子が現れた。
 まだ十五かそこらか。髪は腰まで伸ばされており、露出の高い服の合間から見える素肌には、呪術師の証らしい入れ墨が見えていた。
 恐らく全身にあるのだろう‥‥‥顔にまで入っているその入れ墨の所為なのか、少女の表情には、常人ならば必ず持ち合わせているであろう、感情の機微が見て取れなかった。

「すまないが、名前は訊かんでくれ。この村のしきたりで、余所者には我らの名前は教えられん」
「はい。存じております。では、この人形の解呪は‥‥」
「この娘の役目だ。そうじゃの。時間は今夜のうちじゃ。そうだな?」
「はい。呪いの解呪は一晩程の時間が必要です。身を清める時間も」

 口を開かなかった少女が、顔色一つ変えることなくそう言った。その言葉に満足したのか、村長は空に向かって頷いている。

「‥‥との事じゃ。先程の泊まる件じゃが、この娘のところに泊まってくれ。良いか?」
「勿論です。異論などありませんわ」

 空が穏やかに微笑みながら村長を、そして呪術師の少女を見る。
 少女は無表情のままで空にお辞儀をして‥‥‥
 空の笑顔と、そして人形の瞳にゾクッと背筋を震わせた‥‥‥







 そしてその夜‥‥‥
 例にもよって例の如く、空は行動を開始していた。

「つ、冷たいわね」
「我慢して下さい」

 少女のテントの中で身を清めるための冷水を被せられ、空は与えられた装束を水で濡らせていた。
 呪術師という役柄の御陰か、少女のテントは他の者達の者よりもずっと大きく、都会に暮らしている者でもくつろげるような民芸風の作りになっていた。もっとも、呪術師と言うだけあって‥‥‥簡素なベッドや棚はともかく、あちこちに怪しい干物やら薬草やらが吊してあるのが異様である。
 テントの中に入った空は、儀式用の装束を渡され、早々に準備に入った。儀式は他の者達には見せない方針らしく、少女のテントを訪れてくるような村人は一人もいない。

(ありがたい事なんだけど‥‥)

 思わず震える空に、少女は素っ気ない返事ばかりを返してくる。
 少女はあくまで呪術師としての顔のみを空に見せようとしているのか、それとも元からそうだったのか、少女は無表情を崩そうとはしない。
 だが感情がないわけではない‥‥‥
 村長の家の中でチラッと見せた少女を、空は決して見逃してはいなかった。

「ところで、これからどうするの?」
「これから祈祷を開始しますが、その前に準備をします。この祈祷の前には、私達の体を同調させねばならないので、まずこの刃を―――」
「そう‥‥同調ね‥‥フフフフ」

 少女の言葉を都合の良いように解釈し、素早く立ち上がる空。
 少女は村長の村で感じた得体の知れない悪寒に襲われ、ズサッと後退る。だが出口は空が背にしているため、逃げる事が出来なかった。

「? ぁ、あの‥‥」
「それって、心と体を近づけるって事よね?」
「は?はい。まぁ‥‥‥ですが、血を互いに少量ずつ器に入れて飲み交わすというのがこの村の伝統‥‥‥ちょ、なんで迫ってくるんですか!?」
「ぁ!今、表情崩したわね?」
「なんで脱がすんですかぁ!?」

 普段は無言で済ませているからか、少女の悲鳴は遠くまで響かない。
 空に聞こえるので精一杯だっただろう。他の村人が来るような気配は‥‥‥‥ない。

「もっと良い方法があるから。それを試しましょ?」
「え‥‥ええええええええええ!!!?」

 少女の驚く声は、空によってあっさりと塞がれる。
 
 その後、二人がどうなったのかは‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

「‥‥‥‥‥‥‥」

 テントの隅に転がされた、不気味なアンティーク人形だけが知っている‥‥






 そうして今に至る。
 どうやら空の方法でも良かったらしく、儀式は滞りなく進められている。
 二人の‥‥行為の所為なのか、アンティーク人形が放つ不気味なオーラが妙にレベルアップしていたが、空は少女を見るだけで気力十分となり、それをはね除ける。
 少女は慣れているのか、それとも空の御陰でそんな事に気が回らないのか‥‥儀式に集中しようと、必死に目を閉じている。
 他の者が居なかったから良かったが、そうでなければ赤面している少女と妙に嬉しそうな空‥‥‥
 二人の関係は、あっさりと見破られてしまっていただろう。
 ‥‥‥‥しかしそんな状態でも少女の儀式が止まるような事はない。呪術師の少女が何事かを呟くと、炎が一気に燃え上がった。

「木々に集う小さき者達よ、我が真言を聞きとめ、その力を持ってこの小さき人型に取り憑きし呪縛を解き放ち給え‥‥‥!」

 テントの中に充満している煙が、紫色から白い煙へと変わっていく。
 少女の言葉に反応するかのようにして煙はテントの中を流れはじめ、アンティーク人形の目の輝きが一層強く光り、目の前にいる空に向かって―――

「きゃっ!?」

 カッ!
 光が瞬き、空の目を眩ませる。
 そしてその輝きは、本当に一瞬で過ぎ去り‥‥‥

「ふぅ‥‥‥どうやら去ったようですね」

 少女が息を吐いたと同時に、テントの中の煙も人形の光も、跡形もなく消えていた。

「これで終わったの?」
「はい。もう、この人形が何かをするという事もないでしょう」
「そう‥‥‥こんな不思議体験、もう出来ないでしょうね」

 冷や汗を拭いながら、空は少女に微笑みかけた。
 少女の方はようやく儀式が終わった事に安堵したのか、赤面した顔を、空に背中を向ける事によって隠していた。

「呪いなんて事で来るのはあんまりですよ」
「そうね。そんな物に付き合わされるのは、もうごめんだわ。だから‥‥」

 空は立ち上がると、儀式の片付けを始めている少女に向かって歩み寄り、背後から突然抱きしめた。

「きゃっ!」
「今度はもっと、別の用事で‥‥‥って、あれ?」

 ガシャンガシャン‥‥‥!
 少女を抱きしめた途端、その手に持たれていた儀式の道具‥‥焚き火のセットや、お払い棒、盃などが床に落ち‥‥‥‥
 壊れ、中に入っていた物が破片と共に散乱した。

「これは‥‥?」
「あ、あははははは」

 少女は笑って誤魔化そうと、急いで破片と道具の中から出て来た物………小さなライト、鏡、薬品の入った小瓶などを拾い集めていた。
 だが空は、慌てて拾い集める少女の隣にかがみ込み、フッ、と小さく笑みを浮かべた。

「詐欺‥‥‥ね?この催眠薬を香で焚いて、後はライトとかの特殊効果」
「あ、あははははは!」
「‥‥‥他のセットにも仕組んであるのね?」
「‥‥‥‥あは?」
「これは‥‥‥お仕置きが必要よね?」

 少女の隣に座っている空の手が、そっと少女の肩に置かれ、その体を拘束する。
 少女は肩をビクッと震わせ‥‥‥

「あ、あの‥‥‥なんで脱がしてくるんですかぁ!?」
「まぁまぁ。出発までまだ時間はあるから、それまではお仕置きタ〜イム♪」
「〜〜〜!」
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』

 儀式が終わった途端、その間に堪った憂さ晴らしとでも言うかのように、空の手が怪しく動く。
 少女はその手から逃れる事も出来ず‥‥‥





 ‥‥‥‥・この日以降、この村で行われる儀式の類が今までとは違った形になるというのだが‥‥‥
 その真相を知るのは、テントのはじっこに居る、綺麗な人形のみであった‥‥‥





★★参加キャラクター★★
 0233 白神・空


★★WT通信★★
 毎度毎度ありがとうございます。メビオス零です。
 今回はいつもと変わった不思議体験ですね(詐欺ですが、御利益はありますよ。きっと)‥‥‥怪しい現象爆発です。
 まぁ、とはいえ、人形の呪いは解かれましたので、あとはプレゼントするなりどうぞ。結構良い品物ですから。w

 では、今回のご発注、誠にありがとうございました。(・_・)(._.)
 またのご発注をお待ちいたしております。ご意見ご感想を頂けたら幸いです。