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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


便利屋集団の事務所に行ってみよう 〜部品調達&契約希望


 …整備工場、に向かっていたつもりだったのだが。
 少し考え事をしていたせいか、何だか見慣れない場所に入って来てしまった。セフィロトの塔第一階層入口周辺、都市マルクト。その筈だが…見渡せば心持ち、覚えのある都市マルクトの風景と比べて廃墟っぷりが派手である。
 とは言え、だからと言ってヘルズゲートを潜った記憶は無い。それだけは当然言い切れる。幾ら考え事をしていたからと言って、そこまで忘れる程ボケてはいない。
 まだ都市マルクトの内で、派手な廃墟。
 掃き溜めと言うか吹き溜まりと言うかゴミ捨て場と言うかガラクタ市と言うかスラムと言うか…雰囲気としては煩雑な繁華街っぽくもあり、だが都市内にある、も少しまともな店舗を構えたぼったくり店その他にあるような…裏世界とは言え特定マフィアの息が掛かっているような、それなりに統制取れた匂いも…この場に於いてはやや薄め。
 …となると、ジャンクケーブにでも入って来てしまったか。
 そこまでは一応、察しが付く。
 付くが。
 …それ以上が、よくわからない。
 言い訳になってしまうが、都市マルクトであるだけでも気を抜くと外の世界と比べて己の現在位置がわかり辛くなって来る事が多いもの。セフィロトの塔は本来きちんと区画整理された場所であり、特に第一階層は元々都市住居区画ではあったらしいが――長年人間からは捨てられていた都市でもある故に、今更になって外の人間が住み付いている代償はこんなところに出て来る。日々、住み易いよう施行される建物施設の改築に次ぐ改築、増築に次ぐ増築。時々迷い込んだタクトニムによる街中の破壊もあったりして、それを修理するとなると更にまた風景ががらりと変わってくる。その上に、それら建物施設の廃材置き場から自然発生したという起源を持つジャンクケーブともなれば――道標に良いような建物その他の存在を期待する方が端から間違っている場所な訳で。慣れない場所なら迷って当然でもある。
 …否、一度来た場所で慣れたと思っていても、気が付けば何やら周辺の様子が変わっている事も少なくないから侮れない。

 …とまぁ、御大層に並べても言い訳は言い訳である。有態に言えば現在の自分は、迷子だ。
 この歳で迷子と言うのも何だかなと思いつつ、シャロン・マリアーノはひとまず自分の所持品を確認。…財布その他掏られてないわね。ならばまずは上々。改めて目的地へどう向かうか考える。
 さて。
 取り直して目的地――整備工場まで出る為、まずは辺りを見回してみる。あんまりお付き合いしたくない雰囲気の人が多く見えるが比較的普通にのんべんだらりと人は居る。となると最低ラインとして、御近所に強盗が出たやら銃撃戦やらタクトニムが侵入した等々の緊急性ある事態は取り敢えず無さそうではある。そこはよし。では次。
 と。
 思ったところで――見渡した中、何か見た事あるようなのが座り込んでいるのに気が付いた。
「…あら?」
「…お?」
 自分と殆ど同時に声を掛けてきたのは、壁に凭れて、ぼー、と眠そうな顔で座り込んでいた一人の華奢な体型の女性――ではなく、そんな無駄に可憐な外見だが野郎。
 お互い、殆ど同時に気付いたらしく殆ど同時に声を掛けていた。
 見知った顔である。
 道に迷っている現状ではそれだけでもかなり心強いと言えるか。
「…ブラッドサッカーじゃない。先日はどうもってところかしら」
「んにゃ。こちらこそどーも…って、ンなとこで何してんだ?」
 この辺つーと…あんまりねーさんが用ありそうな場所じゃねー気がするけど。
「整備工場行くつもりだったんだけどねぇ…」
 ちょっと困った風に苦笑しながら、シャロンはぽつり。
 それだけで、ブラッドサッカーの方にも…まぁ、シャロンの状況はわかった。
「整備工場ね…何か壊れた?」
「ちょっとね。壊れたって言うかその一歩手前」
「ふーん。…んじゃこれも何かの縁と思っとくか。ここからあんまり遠くない場所にある便利屋集団の事務所紹介してやるよ」
「そんなところあるんだ」
「おう。俺もよく駄弁りに行ってるとこなんだけどな。整備工場で取り扱うような仕事好きなのが契約してたりもしたと思ったし。元締も機械モノ強いしな。…元締はどっちが居たとしても特に違いは無ぇし…整備工場系の話だったら事によったらその場で解決する事もあるぜ?」
「うーん。腕が欲しいんじゃなくて部品探しに来た訳だからその場ですぐって言うのはさすがに無理だと思うけど…便利屋ね。そっか、そっちに持っていくのも手よね…」
「どうする? どっちにしろ道に迷ってたんだろ」





 で。
 結局、ブラッドサッカーに連れられてジャンクケーブの迷路の如き路地を幾つか抜けて行くと、その内『四の動きの世界の後の』と書かれたプレートが掛けられた、立て付け適当鍵の有無すら怪しいドアの前に到着していた。そのドアが付いているのは中に人が入ってちょっとした活動は出来るだろう程度のこぢんまりとしたコンテナ。その周りにはちょっと見ただけでもうねうねと蔦のようにくねる配管やら、真ん中からブッた切られた廃車やら何やらごちゃごちゃと付いており、奥の部屋とでも言うつもりか裏からはまた別のコンテナに無理矢理繋げられてもいる。それら総じて、何処か異界めいた不格好さを感じさせる場所になる。何でもありのジャンクケーブ内にあって、更にまた独特の違和感を醸す場所。
 …そこがどうやら、ブラッドサッカー曰く、さっきの話にあった便利屋集団の事務所であるらしい。
 と。
 ここな、とシャロンに声を掛けつつ、さて入ろうか――とブラッドサッカーがドアに無造作に手を掛けたそこで、おや、お客人ですかブラッドサッカー? と後ろから声が掛けられた。男の声。一応まだ若い。シャロンはその声の主を確かめようと振り返る。
 …思わず、一時停止。
 それはシャロンは大抵の事にはあまり拘らず、動じない。が、今視界に入ったその風体は…ジャンクケーブ内とは言え都市マルクトに居るにしてはあまりに物騒だった。なので、思わず一時停止。
 血液と機械油で裾が派手にだんだら模様に染められた、最早白衣と言えないような白衣を無造作に羽織ったアジア系、染めているのか地毛なのかアッシュカラーな頭の兄さん。それはここがヘルズゲートの向こう側であるなら真面目な戦闘行為日常茶飯事な訳で…血まみれ油まみれなそんな風体でもまだ違和感は無いが、曲りなりとも街中でそれは…少し違うものを思わせる。
 この男はビジターとしてのお仕事帰りなのか。はたまた先程ブラッドサッカーに会う前、シャロンが己の所持品の次に目的地へ出る為周囲を確認した時に注意して考えていたのと同じ事柄――強盗か、銃撃戦か、タクトニムか。その辺りの鉄火場がすぐ近くにあり、それに巻き込まれたが故の事なのか。
 …と、一旦は思ったのだが。
「お、ミクの旦那。…そうそう客客。こっちのねーさんね、整備工場行こうとしてジャンクケーブに迷い込んだんだとさ。…ここでちょうど良いような契約してる奴居ねぇかな、って思って連れてきた」
 一時停止したシャロンと違って…ブラッドサッカーの方には、どうも今ミクと呼んだこの彼の風体を全然気にしている風が無い。となると、別に気にする事も無いのだろうとあっさりシャロンも片付ける。…よくよく見ればその派手な汚れ、あまり新しくもないし新鮮な血の臭いもしない。となれば近くで何か事が起きた訳でもないのだろう。ついでに言えばこの男、つい今し方戦闘行為を行って来た――と言うような硝煙火薬の臭いも何もない。
 …となればこれが普段通り、の姿なのだろうが。
「整備工場ですか。そうですねぇ…ま、こんなところで立ち話も何ですから、とにかく中へ」
「…あんた、ここの人?」
「ええ。ミクトランテクトリと申します。長いでしょうからミクで良いですよ」
「あたしはシャロン・マリアーノ。…凄い恰好ね。いつもそうなの?」
「ああ、これは…そろそろ洗濯しても落ちないんですよ。だからと言っていちいち新調するのも勿体無いので」
 このままでも特に不便は無いですし。
 新調して真っ白な物を着ていてもすぐ同じような汚し方してしまいますから。
 さらりと不穏当な事を言いながら、どうぞどうぞとにこやかにミクトランテクトリは二人を部屋へ促す。
 …元々狭い上にガラクタ散らばってたり何故か蝙蝠やら犬が微睡むコンテナの中には、色と刺青の左右を除けば瓜二つの少女が居た。





 その瓜二つの少女、すんなり白人種に見える方がケツァルコアトル、そして彼女と同じ顔である以上黒人種の顔立ちではないが純血アフリカ系黒人種並に色が黒い上、髪が銀に瞳が青銀、と不自然な取り合わせの色を持つ方がテスカトリポカと言うらしい。曰く、この二人両方が先程ブラッドサッカーが言っていたこの便利屋集団の元締だとか。
 で、機械モノに強い云々の話を改めて聞いてみたら、機械モノに強いと言うより、機械的機構のあるものなら何でも簡単に操作できる、と言うのが正しいとの事。その延長である程度機械モノの修理も出来るので、そちらが一人歩きしての評だったらしい。ブラッドサッカーの言が間違いとは言い切れないが、正しくも無い様子。…そのくらいなら技術としてはシャロン当人と大して変わらない。わざわざ頼むまでも無い。
 そんな訳で――改めて、別の専門でやれそうな人が居ないか――契約の方頼みになる。
 ふむ、と頷きながらテスカトリポカが分厚いファイルをぱらぱら捲っていた。
「…農耕機械の部品、か」
「そうなのよ。吸気バルブの幾つかもエレメントもヤバいし良く見たらタイミングベルトまで劣化気味でね…このまま下手に使ってたら壊れるなぁってところまで来ちゃったから。それから…バッテリーのキャップも幾つかバカになってるし、タイヤもそろそろヘタれてるかなぁってところで…ついでにこっちも何とかするつもりで来た訳」
 これら、同じような物作れるところ探してるんだけど?
 普通のキャリアやバイクの部品じゃないからサイズも特殊だし――水素燃料じゃなく生活廃油で動く旧式機械の部類になるから、すぐ手に入らない事は覚悟してるんだけど。
 ただ、時間は問わないけど、安価く上がって良い物だったら言う事無し。一応、支払いはレアルでそれなりに用意してあるけど――野菜とか果物で良かったらそっちでも良いんだけど?
「…ふむふむ。条件はそんなとこだね」
 と、ケツァルコアトルもまたテスカトリポカ同様に頷きつつ、ファイルを横から覗いている。
「ええ。…どうかしら?」
「と、なると――モノは塔内からの回収品を再生した物の方が良いだろうねぇ。最高級品だ」
「だな。その方が持ちが良い。…塔内の方が環境が良いのか、使われている技術故かその両方か――外の物に比べて塔内製造の物は細かい部品も劣化し難いからな」
「出来るの?」
「出来ない事も無いよ。けどそれって基本的に結構高価い」
 言って、ケツァルコアトルはテスカトリポカが開いたファイルのリストを指差しシャロンに示す。機械部品修理・作成致します、の系統に数人の名が連ねてあるが、塔内回収品再生請け負いますとなるとどれも軽く100レアル超えている。
「…何だかぼったくりのような」
「…ま、ここで塔内回収品を求めるって事は火器の類を想定してる事が多いからそっち基準に考えて値段付けてると思うけどね。農機具のバルブとかエレメントだったら二桁でも何とかなると思う。ただこいつらの場合、書面上で歌ってある事を盾に取ってこのままの値段で本気でぼったくりに来る可能性がちょっと高い」
 こういう連中は使いどころを見極めれば結構便利なんだけど、今回のシャロンさんの場合は向かない相手になるね。
 言いながらケツァルコアトルはファイル上のまた別の幾つかの名前に指を滑らせる。
「…この辺の連中なら、交渉の余地がある。そのくらいの技術は持ってるし気軽に請け負ってくれる。書面として書いては無いけど、言えば適正価格でやってくれるよ。…こいつらは整備工場に居る奴らでもあるんだけどね。営業の延長のつもりでここで契約してるだけだから」
「その辺になるかしらね、やっぱり」
 と。
「…ちょっと良いですか?」
 無難なところで手を打とうとしたそこで、ミクトランテクトリが口を挟んで来た。
「何ミク?」
「シペ・トテクだったら野菜や果物だけでも結構良いところまでやってくれると思いますけど」
 それを聞いて、数瞬、間。
「…ああ、客人の条件ならばそれも良いか」
「あそっか。奴が居たね」
 ミクトランテクトリの出した名に、うんうん、とあっさり同意するテスカトリポカとケツァルコアトル。どうやらシペ・トテクと言うのは人の名らしい。
 シャロンは小首を傾げた。
「…シペ・トテク?」
「ええ。時間は問わないって言いましたよね? シペ・トテクはマナウスに住んでるうち専属のメカニックなんですけど、近々セフィロトに資材調達に来る事になってまして。彼女が来るまで待って頂けるのなら、対価は野菜や果物だけで済むと思いますよ。メカニックの腕の方は勿論保証しますし。農園をお持ちの方なんでしたら、現物の方が安価く済むでしょう? …ただその代わり――彼女の場合扶養家族が只事じゃないので特に日持ちの良いものをたくさん欲しがるでしょうけど。宜しければ連絡付けておきますが…どうします?」
「うーん。…そっちの方が良いかも。頼めるかしら?」
「了解しました。では…ひとまず機械本体のメーカーや型番、それから必要な部品のサイズ詳細を教えてもらえませんかね? 事前に教えておいた方がシペ・トテクの方でも参考になると思いますから。時間のロスも幾らか少なくなりますし」
 言って、ミクトランテクトリは人の好さそうな微笑みをシャロンに向けて来た。





「…古典的も良いところ、って言っちゃ悪いかしら」
「今時だと遠方との連絡ってこの方が安全確実なんですよ」
 伝書鳩方式。
 …先程、マナウス在住のメカニックことシペ・トテクと連絡を付けておくとミクトランテクトリは言った。が、ここはセフィロトの塔、アマゾン川上流域の奥地、外界と繋がる陸路は基本的に無い場所になる。船でしか来れない場所。自然、外界と出入りするにはマフィアの息が掛かった定期便を利用するような形が主流になる。まぁ、それしか無い訳でもないがそれが一番便利な事は間違いない。…シャロンもそこを使う事が多い。
 つまり、外界との連絡手段は限られて来る。電話は不通が基本、地理的条件からして遠方との無線連絡も少々引っ掛かる。そんな中で外界とコンスタントに連絡を取り合うのは結構難しい。
 そこを、この『四の動きの世界の後の』では時代逆行な伝書鳩方式で切り抜けてしまった、との事。遠方との遣り取りなら、むしろこんな原始的な手段の方が余程迅速に連絡が付いたりする。低空で川に出、セフィロト上空は迂回するよう仕込んでおけば特に問題も無い。
 それも――ミクトランテクトリが仕込んだ上にばっちりサイバー化させた鳩さんやら蝙蝠さんが大切な連絡事項を書いたお手紙――と言うか実際は大容量記憶媒体だったりもするが――の担い手になる訳で、天然生身の猛禽に狙われたりしても装甲の関係で結構平気だったりする。サイバー化している以上、自然界で有り触れた弱肉強食は通じない。
 そんな訳で、シャロンの依頼の件をシペ・トテクに連絡する為の連絡手段も、それになる。
「…それでここで蝙蝠飼ってる訳なんだ」
「いえ、その理由は後付けなんですが。ここに動物さんが居るのは単に私の趣味…と言う理由が一番大きいです」
「ふーん。…ああ、蝙蝠と言えば――ねぇブラッドサッカー、こないだ持ちかけられた血に関してだけど、あたしも飢えた経験あるし、手加減してくれるなら――…」
 と、何の気なく言いながらシャロンはミクトランテクトリからブラッドサッカーへと目を移す。
 が。
 皆まで言わない内に、テスカトリポカからいきなり制止された。
「…待て、ミクの居る前でそれ以上言うな」
「?」
 …が、遅かった。
 ミクトランテクトリは察していた。
 何やら嬉しそうにぽんと両手を合わせつつ、ブラッドサッカーに話し掛けている。
「あ、そうそう。傷の殆ど無い綺麗な失血死の死体、ブラッドサッカーに是非一度作って頂きたいなぁと密かに期待してるんですけど、良い機会は無いですかね?」
「…やらねぇよ。俺何の為にセフィロト居るんだよ」
 人食うと面倒起きるからタクトニム食ってんだって。
「…私はタクトニムの死体でも構いませんが」
「…わざわざンなもん持って帰って来ねぇって」
「では今度塔内に御同行させてもらっても」
「…勝手にしろや。…ただわざわざ俺の方でお前と合流する気ァねぇからな」
「はぁ。つれないですねぇ」
「…」
 唐突なそのやりとりを見、如何とも言い難く困ったようにミクトランテクトリ以外の顔を見渡すシャロン。…何だか助けを求めるような表情である。ケツァルコアトルもテスカトリポカもブラッドサッカーも、はぁ、と三人三様に溜息を吐いていた。
「…そういう話持ち込むとこの男トリップするから気を付けましょう」
「…ミクはどうしようもない死体好きでな。普段は問題無いんだが…話題が少しでもそちらに傾くとこんな風にブッ壊れる。以後気を付けた方が良い」
「あー、気持ちは有難ぇけどタイミング悪かったな。…ってか基本的に『食事』する時は相手殺しちまうのが常だから、んな気遣いしなくていーって。あの時ああは言ったけど今ンとこねーさん食う気ねぇから」
 そーだな、よっぽど切羽詰まった時に居合わせたならそん時には少しだけ宜しく、ってくらいかな。
「で、少しで済まなくて羽目外してもらえたなら私としては嬉しいんですが」
 それと、宜しければ私が同行している時に。
 と、にこにこ満面の笑みを見せながらブラッドサッカーの科白に割り込むミクトランテクトリ。
 また一瞬、間。
「…余計な口挟むな変態」
「ヘマトディプシアに言われたくないんですけどねぇ?」
「るせえぞネクロフィリア」
「…」
 血液嗜好に屍体性愛。…シャロンはまた反射的に元締二名に視線で助けを求めてしまう。別にイカレた話自体はどうでも良いし基本的に気にしないのだが、自分がネタにされているとなればさすがに話は別になる。
 ま、こいつらは放っとけば害は無いしミクも仕事になれば信用出来るからと苦笑しつつシャロンを宥めるケツァルコアトル。まぁ、元締の方はシャロンが見ても比較的まともそうである。
 ちょっと、悩む。
「…どうしようかな」
「ん、今の仕事何か条件変更あり?」
「ううん、そうじゃなくて。それはそれで良いんだけど…さっき宣伝の延長でここと契約してる整備工場の職人も居るって言ってたわよね。似たような事って飛び入りでも出来るのかなって思うだけ思ったのよ」
 あたしでもここで登録とか出来るんだったら…ついでにしておこうかしら、って思ってね。
 不作だった時の稼ぎ場所確保しておいた方が良いかなー、って。
「…あ、シャロンさん契約希望もありなんだ」
「まぁね。でもこれ見ちゃうとちょっと二の足踏むかなーって」
「…いやぁ、ミクを基準にされるとボクらも困る。ミクはうちで一番アクが濃い方のキャラクターになるからさ。普段人の好い普通のにーちゃんてな顔してるから余計その落差で強烈に感じるし」
「それに仕事で毎度こいつに付き合わなきゃならないって訳でもない。気にするな」
「…ま、言ってみただけだけどね。本当に止めておこうと思うならまず初めから口に出さないし」
「んじゃそっちの方向――契約希望もありって事でお話進めるよん?」
「お願いするわ」
「りょーかい。…ただ一つ勘違いしてるかもしれないから改めて言っとくね。ブラッドサッカーはうちの事便利屋集団って言ってたと思うけど、うちって一応建前『傭兵ギルド』だからそこんところびっくりしないでね? って言っても勿論事前に希望が無ければ戦争屋な仕事は回さないから安心して貰って良いけど。現実として便利屋同然だからね。仕事は危険なのから近所の奥様、ガキんちょに気軽に頼める物までピンキリであるし」
 んじゃ受けたい仕事と持ってるスキル他条件、こっちに書いてくれるかな。シャロンに一枚書面を差し出しそう言いながら、ケツァルコアトルはちゃき、と鋼板が付けられた円筒形の腕章を何処からとも無く取り出し、デスクに置く。そこでついでにもう一つちょっとした話。
 …曰く、この腕章は防刃布部分も鋼板部分も、先程シャロンが部品を頼む事に決めたシペ・トテクの手掛けた物だったりするらしい。
 そしてこれが、所持している限り契約有効な『四の動きの世界の後の』の傭兵契約証、だとも。


 Fin.


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/クラス

 ■0645/シャロン・マリアーノ
 女/27歳/エキスパート

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 …以下、登場NPC(□→公式/■→手前)

 ■NPC0127/ブラッドサッカー
 ■NPC0126/ミクトランテクトリ
 ■NPC0120/ケツァルコアトル
 ■NPC0121/テスカトリポカ
 ■シペ・トテク(未登録・名前のみ)

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          ライター通信
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 いつも御世話になっております。
 今回は発注有難う御座いました(礼)
 シャロン様一名の御参加で、内容は…農機具の部品、御引き受け致しました。安価く上がって良い物だと、とあったので時間の方は少しは融通が利くのかな、とこんな形にしてみました。
 それから…某変態の行状については何だかすみません(汗)、これが居るとメカニックとの繋ぎ&血の件で引っ張れるかな、と思わずやってしまいました(苦笑)

 少なくとも対価分は楽しんで頂けていれば幸いです。
 では、お気が向かれましたらまたどうぞ。

 深海残月 拝