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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第一階層【ショッピングセンター】必ず帰るから


〜そして続く愛がある〜

 周囲は瓦礫。瓦礫。瓦礫の山だけである。
 大型のショッピングセンターは物の見事に崩壊し、そこら辺の下水道から漏れ出た汚水があちこちの瓦礫に滴り、油断していると頭から溜まった汚水を被ってしまいそうになる。
 つい数十分前までは、ここまで酷くはなかった。
 だが建物は集まってきたタクトニムの群、そして荒れ狂った銃火器の流れ弾が次々にショッピングセンターを崩壊に導き、現在、自分もほぼ生き埋めに近い状態になっているのである。

(今すぐ出たい所だけど‥‥‥やっぱり今はまずいわよね)

 頭の上に鉄の板(瓦礫)を載せてカモフラージュしながら、白神 空は辺りの様子を窺った。
 今、空は戦闘によって空いた大穴の中に居る。
 十数階もあるショッピングセンターが真上から崩壊してきた時には死を覚悟したが、運良く予め瓦礫で埋まっていたこの穴の中へと潜り込む事に成功したのである。
 それからは瓦礫で身を隠しながら辺りを窺っているのだが、空と激しい戦闘を繰り広げていたタクトニム‥‥‥‥X-AMI38スコーピオンやソーサラーと言った、火力の高いタクトニム達に囲まれている。
 数は見える範囲だけでも十数体‥‥‥崩壊しているとはいえ、一部の天井と壁はあり、更に今まで受けたダメージによって身体能力はいくらか低下している。
 最高スピードを出したとしても、とてもこの数の弾幕を潜り抜ける事は出来ないだろう。

(かといって片手が塞がってたら一体一体でも片付けられないと思うし、下手に攻撃を受けたら“これ”が消し炭に‥‥‥‥それだけは絶対にダメ!!)

 たった一つの入手アイテムを詰め込んだ鞄を抱きしめ、タクトニム達が生み出す隙を逃さず見つけようと必死に目を凝らした。






 さて、唐突に始まったこの話の解説をしなければなるまい。
 ‥‥‥‥時は数時間前にまで逆昇る。
 数週間前に怪しげな人形のお払いをするためにインディオの村まで出向き、そこで(美味しそうな)少女と出会い、特別に親しい仲になっていた空は、もう一度その少女に会おうと数回に渡って連絡を村の方へと入れていた。
 しかし少女との行為が村人の知る所となってしまったのか、連絡を取ろうと行商に手紙を頼んだ(村には通信機の類が存在しなかった)のだが、戻ってきた行商から、「もう二度とアンタの頼みは聞かん!!」と、手紙を突っ返されてしまった。

「ぁ〜‥‥やっぱり村の主役に手を出したのはまずかったのかしら」

 そうぼやきながら、空は突っ返された手紙を喫茶店のテーブルの上へと放り、しばらく未練たらしく眺めていた。
 当然と言えば当然だが、どんな小さな村だろうと呪術師、祈祷師の類は特別扱いを受けている。まして、あの村が呪術の類で儲けている(でも詐欺だった)のは知っていたのだから、もう少し気を付けるべきだった。
 如何様の中心である少女と深い関わりを持ってしまった空を警戒し、村人が近づけないようにしているのだ。

(やっぱり直接行ってさらって来るべきかしら‥‥? ダメね。あの子も指名手配される可能性が高いし、そうなると可哀想だわ)

 村から連れ出すという選択肢はなし。ならば一体どうするのか‥‥‥?

「やっぱり直接行って、楽しんでから帰る‥‥と。日帰りかしら?周りがジャングルだから、結構辛い旅行になりそうね」

 溜息混じりにテーブル席から立ち上がり、料金を支払ってショッピングモールへと繰り出す。例え短期間でも、空は準備もせずに旅立つつもりはない。大した準備もせずにジャングルの奥へと会いに行ったら、あの少女に迷惑を掛ける事は想像に難くなかった。
 まずは着替えに食料等の様々な物を見繕い、旅支度を手早く済ませる。普段からセフィロトに潜ったりしている分、この辺りは実に手慣れたものだった。
 一通りの準備を済ませた空は、それから少女へのお土産を探して歩き回る。

(あげるとしたら、やっぱり服かしら?)

 しかしあの村では、そもそも衣服に気を遣うのも難しいだろう。
 入手経路の不明な衣服を少女が着ているのを見られたら、それこそ空の事がばれてしまう。
 しかし、あの少女にあげるとしたら、空はどうしても身に付けられる物をあげたかった。

(外から見えるんじゃあダメなのよね。やっぱりアクセサリーかしら‥‥‥却下ね。それじゃあ私が楽しめないわ。もっとあの褐色の肌に似合う物の方が‥‥‥)

 少女にプレゼントをした後に“楽しむ”為に、出来ればそれに合った物を用意したい。
 ならばここは、外から見えないところに着る物を‥‥‥‥

「あ‥‥」

 褐色の肌。
 少女。
 そして身につけた上で自分も楽しめる物‥‥
 ここまで連想し、ようやくその答えに行き着いた。
 





 そしてセフィロト、しかももっとも多様なタクトニム達が徘徊し、常に崩壊の一途を辿り続けているというショッピングセンターへと足を運んだのだった。
 出来れば街の商店では見かけないような珍しい物を手に入れようとしたためなのだが、手に入れた物に付加価値を付けてやろうと、わざとタクトニムに見つかってみたのが拙かった。
 よりにもよって最初に空と遭遇したモノが指揮官機だったのか、あっと言う間に仲間達が集まりこの有様だ。
 回収してきた物に大きな付加価値と土産話が生まれたが、正直これでは本末転倒もいい所だろう。このままでは少女の村までどころか、このショッピングセンターからの脱出すら危うい状況だ。
 やはり、変な考えを起こさずに、街で売っている物で済ました方が良かったのだろうか‥‥?

(それじゃあダメよ。これには‥‥‥あの子への、私の“愛”が詰まってるんだから!)

 ある意味ヤケとも取れるような執念。お宝を仕舞った鞄を強く抱きしめ、空は笑う。
 だがこのお宝を身につけた少女の姿を思い浮かべるだけで、周りを囲んでいるタクトニム達への恐怖や戦慄が呆気なく吹き飛んだ。
 ‥‥‥‥今まで自分を隠していた瓦礫へと手を掛ける。
 目に見える範囲で三体のシンクタンク。視界外のモノを考えれば、隠れてから数十分が経過した今でも確実に包囲されているだろう。一度外に出れば砲火の嵐。それこそどちらかが滅びない限りは続くだろう。
 ‥‥‥しかしここであと数時間程眠っていれば、それだけでこのタクトニム達も退いてくれる。侵入者は既にこの場にいないのだと、空を見つけられずに去っていく事だろう‥‥‥
 だが、それでもこんな場所には長居は無用だ。
 今は一刻でも早く、空は愛しい少女の元へと駆けつけ、そしてあの少女にこのお宝を着せるために‥‥‥‥!

「大丈夫よ。これぐらいのピンチ、今まで何度だって潜り抜けてきたんだから!」

 鞄にだけは被弾しないように力強く胸に抱き、片手で瓦礫を弾き飛ばして跳躍する。周りを瓦礫に囲まれて上手く飛べないため、もっとも足の速い玉藻姫へと変化して傷ついた足に鞭打ち、壁を蹴りつけ地を蹴りつけて疾走する。

『ピーーーー!』
「早い!」

 穴から飛び出した空を、シンクタンク達はものの数秒とかからずに捕捉し、電子音を盾ながらロックして銃口を向けてくる。あとは引き金を引くだけで数百数千の弾丸が飛び出し、瞬く間に空を蜂の巣にするだろう。
 だが空は地を蹴って壁に飛び、そして天井へと飛び移って一瞬たりとも同じ所にいないようにして照準を絞らせない。出来るだけ姿を瓦礫の陰に隠しながら様々な方向へと向きを変え、シンクタンク達がトリガーを引かないようにロックを外しにかかっていた。
 ‥‥‥その様子は、まるで狼から逃れる狐のそれか。
 玉藻姫となっている空は瓦礫の合間から合間へと次々に逃げ込み、巧みにシンクタンク達の包囲の合間を抜けていく。

(このまま駆け抜ければ大丈夫。待ってて、貴女にこれを着せるまで、私は絶対に死なないから‥‥‥!?)

 瓦礫の合間を駆け抜けていた空の表情に驚愕が走る。
 背後から迫ってくるシンクタンク達の群から一刻も早く逃れなければならないというのに、“それ”がこれから起こす行動を知っている者なら、反射的にでも急ブレーキを掛けてしまうだろう。
 瓦礫の合間‥‥‥‥空が逃走経路として瞬時に選んでいた狭い通路に現れたのは‥‥‥‥

『‥‥‥‥ジ、ジジ!!』
「こ、こんなところで!!」

 自爆のエキスパート、ソーサラーの大群であった。







 コンコン

「‥‥‥? はい、どなたですか?」

 星が瞬き獣も寝静まる夜遅く、とある村に客人が訪れた。
 木と皮、そして丈夫に防水加工された布の扉の向こうから、呼び鈴代わりの木の板を叩く音がする。
少女はまだ十五かそこらか。髪は腰まで伸ばされており、露出の高い服の合間から見える素肌には、呪術師の証らしい入れ墨が見えていた。
 恐らく全身にあるのだろう‥‥‥顔にまで入っているその入れ墨の所為なのか、少女の表情は妙に疲れ、以前は年齢に似つかわしくない程に美しかった瞳に、僅かな陰りが見える。
 空との事で、少女は外部へと連絡が取れないようにほとんど軟禁状態にされていた。このテントからは数日程出ていないし、出て行こうにも不定期に訪れる監視の目がなかなか外れず、戦闘や冒険の類のスキルがあるわけでもない少女は、出て行く事など出来なかったのだ。
 呪術師の少女はまた監視の目が来たのかとウンザリしながらも呼びかけ、反応がない事に訝しんだ。

「誰です?入ってきて良いですよ」

 特にやましい事をしていたわけでもない少女は、例え監視の村人でも平静に受け流し、また追い払ってやろうと待ち構えていた。
 空との事は村人達に疑われても仕方ないと思っていたが、ここまでされては腹も立つ。
 こうなっては徹底抗戦だとばかりにテントの扉(カーテンみたいに垂れている)を睨みつけ‥‥

「え?」
「こんばんは。良い夜だけど‥‥‥あまり健康的な生活はしていなさそうね。顔色が悪いわよ?」
「ぁ、あなたは‥‥!?」

 カーテンを押し上げ、物音一つ立てずに入って来た空を見て声を上げそうになる少女。
 だがその口を素早く塞いだ空は、首をゆっくりと左右に振り、声を上げないように促した。

「ここで声を上げたらダメよ。こわ〜い人達が起きて来ちゃうから」
「御姉様。一体どうしてここに‥‥」
「どうしても何も、こわ〜い人達が連絡もさせてくれないから会いに来たのよ。まさかとは思うけど‥‥‥‥私がまた来ないとでも思ったのかしら?」
「そんな事はないんですけど‥‥」

 そこまで言って、少女はようやく空の身体に細かい傷がある事に気が付いた。

「御姉様、怪我を!?」
「え?大丈夫。別に村人と戦ったわけじゃないわ。それに、もう塞がってるから」

 安心してと、空は少女に笑いかける。
 少女は知らない事だが、空の傷は既に大分塞がっている。そもそも細胞組織を操る事の出来る空にとって、少女が発見した傷など今晩のうちに全て完治してくれるだろう。
 空は心配そうにしている少女を放すと、ソッとその手に丁寧に包装された包みを手渡した。

「あの、これは‥‥?」
「お土産。プレゼントよ。この前来た時には何も残してあげられなかったから。最初はペンダントか何かが良いかな〜って思ったんだけど、やっぱり貴女にはこれが似合うかなって思って‥‥探すの大変だったのよ」
「御姉様‥‥」
「フフ、これからはこれを着るたびに私の事を思い出してね。大丈夫。私がいつかきっと、この村から貴女を連れ出してあげるから」
「‥‥‥ありがとうございます。でも、私はここを離れる気は‥‥」
「‥‥そう。でも必ず私達が自由に会える。そういう風にこの村を変えてあげるから‥‥‥だから、それまでは待っててね」
「はい。えっと‥‥‥では、早速この服を着てみますね」
「ぁ、それは服じゃ‥‥」

 空が間違いを正すよりも早く、少女が包みを開ける。
 明かりすら消されているテントの中のために薄ボンヤリとしか見えていなかったのだろう。包みの中から出て来た物を見つめた少女の身体はピキッと固まり、それからジッとそれを凝視し、ゆっくりと空に振り返った。

「御姉様。あの‥‥‥これは?」
「え?下着よ?し・た・ぎ♪貴女の肌と体型に一番似合うのはやっぱり真っ白なのが良いって思って、わざわざセフィロトに潜って持ってきたのよ。ぁ、大丈夫よ。それは呪われてたりとかはしないから‥‥‥ってあら?どうしたの?」

 プルプルと肩を振るわせている少女の顔を覗き込む空。
 少女はそれに気が付かないように、そして何より、まるでこの村での自分達の立場を忘れたかのように‥‥‥

「こんな物を取りに行って怪我までしてたんですか!?」
「声が大きいわよ。大丈夫、これぐらい、貴女の下着姿に比べれば安いものよ」
「‥‥‥わ、私の下着姿‥‥」
「ふふふふふ‥‥そうね、絶対綺麗よ。だからほら、早く来て見せて‥‥‥ぁ、やっぱりそのままでいて。私が着せてあげるから」
「!?!?!?!? な、何を!?」
「え?だから脱がして着せるのよ。まぁ、その後でまた脱がすんだけど」
「ちょ、強引な‥‥」
「あんまり騒ぐと、誰かが来ちゃうわよ?」
「〜〜〜〜〜!!」

 声にならない声を上げながら、少女は空に取り押さえられ、この後は初めて会った時以上に熱の入った時間を過ごす事になる。
 そして早朝、少女が居るかどうかを確認しに来た村人に、空は少女と添い寝をしている所を発見されたりするのだが‥‥‥
 それはまた、別の話である。







 しかししばらくして、一つの村の住人全員が経った一人の戦姫によって気絶させられたとかいう噂が立つのは、それ程先の事ではないのであった‥‥‥












★★参加キャラクター★★
0233 白神・空

〜WTコメント〜
 メビオス零です。長らくお待たせしてしまって、申し訳ありませんでした。(・_・)(._.)
 今回は以前に出した呪術師少女の再来‥‥しっかり出番もありましたが、それ程多くはありません。ちなみに夜の事とか村人が気絶した後の事とかは想像にお任せですかね。たぶん間違ってないです。
 ‥‥‥っていうか、空さんは手を出しまくりです。羨ましい!
 呪術師少女、一体どうなってしまうのか‥‥まぁ、空に関わった以上、たぶん不幸にはならないでしょうね。きっと。
 さて、今回のお話、どうでしたでしょうか?
 どうも最近疲れてるのか、ちょっとスランプ気味なために時間が経過してしまい、申し訳ありませんでした。出来るだけ早くリハビリして復活します。
 感想などがありましたら、よろしければまた聞かせて下さい。届く度に開けるのが怖くって、大抵一日か二日くらい怖々と放置していますけどね‥‥(結局見るけど
 では、今回の発注、誠にありがとうございます。またの御機会がありましたら、ほんっとーーーに頑張らせて頂きますので、よろしくお願いします。