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ブラジル【アマゾン川】ジャングルクルーズ
ライター:燈
【0.オープニング】
セフィロトはジャングルの中に孤立している。
そこで唯一、他の土地と繋がる道。それがアマゾン川だ。
河口の方とは違って、マナウスからセフィロトの辺りは対岸が見えない程広いって事はない。
それでも、セフィロト建造の際には、外洋で使う様な巨大な貨物船が川を遡ってきて、その資材を運んだというから、アマゾン川の大きさがわかるってもんだろう。
人も物資も、このアマゾン川を通して運ばれている。貨客船の定期航路もあるし、少々稼げば手漕ぎのカヌーくらいは簡単に手に入る。
船旅をしながら、マナウスまでゆっくり過ごしてみるのも良いかも知れないぜ。
ところで‥‥お前さん、船酔いに弱かったりしないよな?
【1.船旅】
(退屈……)
空は青々と雲ひとつなく、太陽が水面を強く照りつけていた。船頭が冗談を言ったり、その博識を披露したりする度に、船の中では歓声が上がるが、はっきりいってそんなものは空の耳には入っていなかった。
船縁から腕を伸ばして、手の先を水に浸すと、心地よい冷たさを感じることができた。この点マフィア所有の中型船と比べて、ボートにした甲斐があるというものだ。
「坊主、また釣りか!」
船頭の大きな声に視線を向けると、川岸に釣り竿を片手に手を振っている男の子が見えた。
「おじさんも仕事頑張って!」
あの明るい笑顔には見覚えがある――空がそう認識した頃には、少年の姿は大分小さく、後方へ流れていた。それでもまだ彼が手を振っているのがわかる。空は多分向こうは気付くことはないだろうけど、と思いつつ、小さく手を振り返した。
マナウスに着くと、ぞろぞろと市場へ向かう観光客を他所に、空は早速船頭を捕まえて、釣りをしていた少年のことを聞き出した。何でもあの辺りから1キロほど内陸部へ向かったところに小さな村があるらしく、少年は父親とふたりでそこで暮らしているらしい。少なくとも、週に2度はこの時間帯にあの場所へ釣りに来ているということで知り合いになったらしかった。
「譲ちゃんはあの子に会ったことでもあんのかい?」
「ええ。ちょっと借り物をしているの」
家に置いたままの水色のパーカーを思い出して、空は小さく笑み零した。手土産を持って会いに行こうか。お礼、という口実がある。ちょうどここは交易商の集まる都市だし、いいものはたくさんあるだろう。村に住んでいるならナイフは必需品だし、半ズボンなんかもあって困るものじゃない。この間魚を捕った時に物珍しそうにしてたから、銛と水泳パンツも贈ってみよう。細いけれどしっかりと少年特有のしなやかな筋肉がついた脚は見せてしかるべきね、と空は笑った。
レンタルしたカヌーに荷物をのせて、のんびりと川を下っていく。あらかじめ船頭に聞いておいた時間帯に着くように逆算し、余裕を持って出てきたから焦る必要はない。乾いた風がカヌーの背を押してくれることもあって、快調と言えた。漕がなくとも進むぐらいだ。
緩く束ねてキャップに通した銀髪を風になびかせながら、空はのんびりとカヌーでの川下りを楽しんだ。川面を撫でていく涼しい風にからっと晴れあがった空は、ちょっとした運動をするのには最適の天気だ。
しばらくすると先日と同じ場所で、例の少年が釣りをしているのが目に止まった。空はカヌーを岸辺へ寄せて降り、ロープで背の低い木の枝にしっかりとくくりつけた。
「手伝おうか?」
かけられた少し低くなった声に顔を上げると、少年の少し驚いたような顔に出くわした。
「お姉さん……」
「こんにちわ。よかったわ、会えて」
空がにっこりと笑うと、少年は少し照れたように笑った。
「うん。でもすごい偶然だね!ここへは週に2度ぐらいしかこないんだけど……」
「この間のパーカーと、お礼をしに来たの。あなたの知り合いの船頭さんに聞いたのよ。でも本当に今日会えてよかった。そうじゃないと、何度かカヌーで川下りをしなきゃいけなかったから」
荷物を背負って少年が差し出した手に掴まり、軽く跳躍して岸に降りた。分厚く固い手の平が少年のイメージに合わず、空は何となく苦笑した。
「えっと……もしかして、疲れてるならうちに来る?ここから1キロは歩かなきゃいけないんだけど……」
ためらいがちに切り出された少年の申し出を断るはずもなく、空は持ってくれるという彼にナップザックを預けて、彼の住む村へと向かった。
「遠慮しないで上がって。父さんは漁にでかけてていないんだ」
簡素な家は風通しがよく、入った途端に木の香りに包まれた。少年はテーブルの上にそっとナップザックを置いて、台所へ入っていくとお茶を持って出て来た。
「どうぞ」
「ありがとう」
そうやって少しの間他愛もない話を交わしつつ、空は思い出したようにナップザックの口を開けた。
「これ、この間のパーカー。それからこっちはお礼に」
木工用のナイフと、組み立て式の銛、それから半ズボンと水泳パンツを続けて出すと、少年は目を見張って、それから慌てて首と手を同時に振った。
「そんな、こんなにもらえないよ。パーカーを返してくれただけで十分だって!」
「でも私はもうナイフも銛も持ってるし、半ズボンと水泳パンツはサイズが合わないし、もらってもらえないと困るわ」
焦る少年をかわいいと思いつつ、少し眉尻を下げてそう言うと、少年も弱り顔になりつつ「ありがとう」と礼を述べた。
「ね、着てみてくれないかな?」
空がねだると、少年ははにかみながらも着替えて来る、と言って部屋を出ていった。後姿を見送って、そういえば以前に会った時よりも少し大きくなってるかもしれない、と思った。考えてみればあれぐらいの年の子なら成長期に入っているはずで、2、3ヶ月で4、5センチぐらい伸びているのかもしれない。だとすると自分が見立てた服は少し小さいかもしらないな、と空は思った。
「どうかな……」
微苦笑しながら入って来た少年には、案の定半ズボンは短すぎたらしく、あまり日焼けしていない部分が少しだけ露わになっていた。おいしそう、と空は心の中で呟いて、立ち上がって少年に近付いた。
「背、伸びたんだね。ここ、日焼けしてない所が覗いてる……」
そっと少年の大腿に触れて日焼けのコントラストの部分を撫で上げると、少年は明らかにびくりと体を強張らせた。だがそれが恐れや嫌悪からくるものではないことは、彼の頬に急速に血が昇っていることからわかった。
「ね、お姉さんにもっとよく見せて」
耳元で囁くと、少年は俯いた。耳の後ろやうなじまで真っ赤に染まっている。しかしその手はしっかりと空の手を握っていたので、彼女は嫣然と笑い、ゆっくりと少年を床の上に押し倒した。
>>END
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名/性別/年齢/クラス
【0233】 白神・空(しらがみ・くう)/女/24才/エスパー
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは。この度パーティーノベル『ブラジル【アマゾン川】ジャングルクルーズ』を書かせていただいたライターの燈です。
12、3才というと成長期真っ只中、ということで、前回より少年の身長を伸ばしてみました。大抵の場合日焼けの境目って間抜けに見えるものだと思っていますが、もともと肌の色が褐色だとそうでもないとも思ってます。あれはきっと白と茶のコントラストだから笑えるだけな……はず。
毎度くだらないコメントでお茶を濁してすみません。少しでも楽しんでいただけることを祈って。
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