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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


【セフィロトの塔】Emergency call3


 【Opening】

 セフィロト内にラジオ局があるのは誰もが知った話である。
 勿論、流したい奴が勝手に流すだけなので決まった番組表があるわけでもなかったが、それなりに聞く人間もいた。
 何もないのは寂しいと、怪しげなオブジェ達に囲まれた通称『トサカの間』で、見るからに胡散臭い実験をしているマッド・サイエンティスト――エドワート・サカもその一人である。
 彼はそこから流れてくるどうでもいい内容の放送をBGMに、その日も贅肉で太らせた体を器用に動かして、試験管の中身をそっとビーカーへ注いでいた。ビーカーの中でどんな化学反応があったのか、綺麗な緑色の液体は、注がれるオレンジ色の液体によって、形容しがたいどどめ色に変わっていく。
 それを目を細めて見ていたエドワートの手が、ふと、止まった。
 背後を振り返る。そこには彼がガラクタを寄せ集めて作ったお手製のスピーカーがあった。


『セフィロトの塔、都市区画『マルクト』にある居住区。
 その一角に、噂のゴミ屋敷は存在しているといいます。
 誰がそんなにも大量のガラクタを集めてきたのでしょう、しかしろくでもないものばかりが詰まったこのゴミのオブジェの中には、これまた極稀に、超S級レアアイテムが眠っているという噂もあります。
 集めた者は何を求めて集めたのでしょうか。
 しかし、不思議な事にその姿を見た者は一人もいないというのです。
 ただ、日々ごみばかりが増えていく。
 これは、そのゴミ屋敷にレアアイテムを求めて潜入した、ある人物の証言です。
「部屋に入ると、どこからともなくガサガサという音がしました」
 また、このような証言も出ています。
「そういえば、何かが黒光りするのを見ました。こう……巨大ななすびのようなものが」
 果たして一体、そこには何があるのでしょう!?』


 実況中継なのか、ラジオ局からただ放送されているだけなのか、スピーカーから流れる音声に、エドワートの分厚い頬がピクリと動いた。その瞳は好奇心に彩られている。
 彼はゆっくり傍らの助手を振り返った。
 黒の上下に白衣姿で、エドワートの実験の手伝いをしていた彼の助手――怜仁の切れ長の目が、眼鏡のレンズの奥で更に細められる。
「果たして、そこには一体何があるのでしょう?」
 エドワートが言い、怜仁ことジーンは諦めたような溜息を吐き出した。




 ■Let's go dust house■

「えぇ!? ゴミ屋敷!?」
 ルアト研究所所長エドワートの愛娘、マリアート・サカ――通称リマが外まで響くような大声をあげた。驚きとういうよりも不満なそれが強い。
 だが、声をあげられた相手は別段嫌そうではなかった。行く気満々。掃除する気も満々。いつもの兎印の箒を手にホクホクの笑顔で、今日はいつも以上にやる気なのか、箒だけでなく、何が入っているのかわからないリュックまで背負っていた。ルアト研究所で専属メイドを務めるらびー・スケールである。
 彼女……いや彼、いやソレは、にこやかに微笑みながら頷いた。
「えぇ」
 らびーの傍らには疲労感たっぷりの影を落としたジーンが立っている。それだけで何となく状況を察して、またあのクソ親父か、とリマが重たい溜息を吐いていると、研究所のドアが開いた。
「リマいる?」
 という声にらびーはお仕事の顔になり、ジーンは相変わらずの無愛想を貼り付け、リマは救世主とばかりに駆け出していた。
 銀色の長い髪を煩わしげに掻き上げた白神空が玄関口に立っている。リマはそれに有無も言わせずタックルしていた。
 突然抱きつかれ、その状態で暫し固まりながら、きょとんとらびーとジーンの顔を見返した空は、自分に抱きついているのがリマだとわかって、すかさず腰に手をまわす。
「何? どうしたの、リマ? みんなにいぢめられた?」
 しかしその問いかけにリマが答えるより早く、空の首にぶら下がるリマを見ていたらびーが、いいアイデアでも思いついたような顔で、ポンと手を打って言った。
「そうだわ、空ちゃんも一緒に行きましょうよ」
「あ……出かけるとこだったんだ」
 空はリマの顔を覗き込む。
「でも、空が来たなら私、行けないよね」
 リマが言った。ゴミ屋敷に行く事にあまり乗り気でないリマにとって、空はいい口実である。
「どこ行くところだったの?」
 空が尋ねた。
「ゴミ屋敷よ」
 らびーが答えた。
「は? ゴミ屋敷? リマも行くの?」
「いいよ、せっかく空が遊びにきてくれたんだもの」
 リマはニコニコして答える。
「でも、レアアイテムがあるかもしれないって……」
 らびーが食い下がるのに、リマはなんとも複雑そうに溜息を吐いた。
「まぁ、それはちょっと気にならなくもないけどね。でも、ゴミを集めてきたタクトニムなんかと出くわしたらどうするのよ」
 リマの言に空は腕を組んで想像してみた。ゴミを集めてきたタクトニムに出くわしたリマ。タクトニムがリマに襲い掛かる。それを自分が助ける。「ありがとう、空!」となって、あーなって、こーなって……(以下、自主規制)
「リマも行こうよ! あたしも一緒に行くから」
「えぇ!?」
 空の考えている事が予想の範疇を越え、リマは驚いたように空の顔を見返した。ゴミ屋敷に自ら進んで行きたいなんて言いだすとは思ってもみなかったのである。
「ね、ね」
 空がリマを誘う。
 リマはうーんと考え込んだ。確かに、らびーやジーンと一緒に行くのはどうかと思っていたが、空も一緒ならいいような気もしてくる。
「空がそう言うなら」
 答えたリマにらびーが歓声をあげた。
「まぁ! じゃぁ、らびーちゃんがお掃除用のエプロンを貸してあげる」
 そう言ってらびーはどこからともなく白いフリルのエプロンを取り出した。2枚ある。空が慌てて言った。
「あ、あたしはこっちのがいいな。ジーン、白衣ある?」
「ああ」
 ジーンが白衣を取りにいく。その背にリマが「私も」と声をかけたが、ジーンが戻ってきた時にはリマは空とらびーによってエプロンドレスを着せられていた。
 それも、既にらびーに着せられていたひらひらのワンピースを着替える暇もなくだった。エプロンドレスを着せられ、リマは冷たい視線をらびーに注いだ。そもそもゴミ屋敷までまだ距離があるのに、何故ここからこんなかっこをしていかなければならないのか。タクトニムと出くわした時の事を考えると、もっと動きやすい服の方がいいはずだ。
 更に言えば。
「……ゴミ屋敷って、そんなにでかくないと思うんだけど……この通信機は必要なの?」
 リマは自分の頭に装着されたうさ耳バンド・改を指して言った。うさ耳バンド・改とはうさぎの耳の形をしたヘアーバンドに通信機能が付いたものである。付属のヘッドフォンマイクを使えば、電波の届きやすいところなら10km先まで通信可能な優れものだ。その形を除いて。
「うんうん、必要、必要。可愛い、可愛い」
 空がリマの肩を笑顔で叩いた。
「…………」
「みんなの士気があがるんだから!」


 ▼▼▼


 ルアト研究所のすぐ隣に今にも壊れそうなほったて小屋がある。ガス・水道・電気。その全てを隣のルアト研究所から無断でひいてきている貧乏人、ゼクス・エーレンベルクは一応いいらしい頭をフルに使って作った、その内売れるかもしれないラジオでその放送を聞いていた。
 そこから聞こえてくる超S級レアアイテムという単語に立ち上がる。そこから先は殆ど聞いてはいなかった。彼の特殊な耳が超S級レアアイテムの自分を呼ぶ声を聞いていたからだ。左団扇な生活が自分を待っている。そんな使命感を胸に、彼はほったて小屋を出た。
 しかしそこでまっすぐゴミ屋敷に向かわず、隣のルアト研究所に出かけていったのは、彼が自他共に認める天下無敵の貧弱男だからであろう。戦力外の男。その為、一人でヘルズゲートをくぐる事は自殺行為にしかならない事を彼は自分でよく知っていたのだ。つまりはぼでぃーがーどが必要なのである。それと、大きい上物アイテムが見つかった時に運ぶ為の人手もいる。
 そんな次第で彼は、戦利品を入れるための大きなかごを背負い、巨大な炭挟みと熊手を持って、ルアト研究所へ赴くと、丁度、ジーンとらびーとリマと空が研究所から出てきたところであった。
 ジーンと空は白衣を、リマとらびーは白いフリルのエプロンドレスを付けている。頭には兎の耳。どこのコスプレ集団だ、というささやかな疑問をすんでのところで飲み込んで、ゼクスは彼らに声をかけた。
 すると返ってきたのは、これからゴミ屋敷に行く、というものである。
「なに!? うーん……」
 ある意味ラッキーである。しかし激レアS級品をゲットし左団扇な生活を妄想していたゼクスはその一方で怯んでもいた。ライバルは少ないに越した事はない。正直に言えばジーン一人で充分なのだ。
 だが、掃除する気満々のらびーがいれば、探す手間がはぶけるかもと思いなおす。究極的には、最後に自分がゲットしていればいいという事に気づいたのだ。彼にかかれば人生など砂糖よりも甘い。
 そこへゼクスの元にシヴ・アストールが遊びにきた。綺麗な長い金髪を、邪魔にならないように編みこんで後ろに一つ束ねた、柔らかい笑みが印象的な女性である。手には大きなバスケット。中に何が入っているのかは神と本人のみぞ知る。しかしとにかくいろいろな物が入っている事は確からしい。ただし、武器の類は持っていない。彼女に言わせれば扱えないから、という事になる。一般人である彼女が持っているのは、人よりちょっぴり旺盛な好奇心と、面白そうなことにはやたらと反応する女の勘。それから、それらを実行に移すための無謀なまでの行動力だけだ。
 というわけで、ヘルズゲートの中にあるというゴミ屋敷に、これから行くのだと言われても、彼女はなんら臆する事なく言った。
「まぁ、お掃除は得意ですのでお手伝いします」
 押しも押されぬ一般人。しかし彼女も確かにビジターであった。
 かくして空、らびー、リマ、ゼクス、シヴ、ジーンの総勢6名はヘルズ・ゲートへ向かって歩きだした。
 ジーンがふと突き刺さるような視線を感じて後ろを振り返る。
 通りの角に、こちらの様子をチラチラと覗いてる人影があった。
 ジーンのサイバーアイが人影を捕らえる。
 くすんだブロンドの髪に緑の目をした細身の少年だった。雰囲気がどこかシヴに似ているだろうか。振り返ったジーンに気付いて少年は即座に影に引っ込んでしまう。高機動運動で彼に近づく事は簡単だったが、別段敵意のようなものも感じられなかったので、結局ジーンはわずかに首を傾げただけで、5人の後を追いかけたのだった。


 ▼▼▼


 ヘルズゲートはいつもと変わらず静かに、しかし厳然と、区画都市『マルクト』を、ビジターたちによって作られた都市マルクトと、タクトニムの徘徊するエリアに分かっていた。ゲートの前には屈強なガードマンが立ち、ゲートを開けた時にタクトニムが出てこないようにする傍ら、中へ入るビジター達のチェックをしていた。極稀に、顔PASSな人物もいる。少なくともらびーちゃんはその一人ではないだろうか。あの屈強なガードマンさえも退ける視覚的脅威であった。
 と、それはさておき。
「これは、ゼクスさん」
 ヘルズゲートの前で銀髪の男がゼクスに声をかけてきた。クレイン・ガーランドである。
「む。まさか、お前もゴミ屋敷に行くのか」
 これ以上ライバルが増えるのはあまり喜ばしくないゼクスが相手を敵視でもするかのような目付きで言った。
「はい、ですが一人でヘルズゲートをくぐるには少々心もとなくて」
 誰か知り合いが通らないものかとゲートの前をうろついていたクレインなのだった。ゼクスほど酷くはないが、戦闘にはあまりむいていない彼なのである。
「貴様もS級レアアイテムを……」
「いいえ。私は巨大ななすびが気になりまして」
 ラジオを聴いたクレインはそれがどうしても気になって来たのである。果たして巨大ななすびは種も巨大なのか。その種を蒔いたら、巨大ななすびが出来るのか。
「何!? 巨大ななすびだと!?」
 今までS級レアアイテムに気を取られていて、というより、そこでラジオを切って出かける準備を始めてしまったので、その後に続いたコメントを聞いていなかったゼクスが慌てたようにクレインに詰め寄った。
「巨大なすび……それは譲れん」
 たとえ消費機嫌が何ヶ月も前に切れていようと火を通せば食えない物はないと豪語する男。時にビジターキラーさえも食材と呼ぶ男である。それがゼクス・エーレンベルク。食べ物の前では知らない人も知っている人。食べ物をくれると言われれば、知らないおじさんにも二つ返事でついていく男である。
「私は食べませんので、大丈夫ですよ。少し見せてもらえれば満足です」
 ゼクスの食欲魔人っぷりをよく知っているクレインはにこにこして言った。
「…………」
 その時ゼクスにはクレインに後光がさして見えた。
 なんて、いい人なんだ……。ゼクスは感動のあまり感涙に目を潤ませて、クレインに抱きついた。顔は無表情であったが、涙は溢れるらしい。
 それを見ていたシヴが負けじと拳を握った。
「調理は私に任せてください」
「おお、まかせたぞ」
 シヴの肩を叩いたゼクスに、シヴは何とも柔らかい笑みで「はい」と言った。心なしか目が笑っていないのが気になるが、ゼクスがそんな女性の機微にいちいち気付く事もなかった。
 一方、ジーンは研究所からずっと付いてきている少年が気になっていた。しかし近づこうとするとすぐに逃げられてしまう。
 声をかけるべきか、どうしようかと迷っていると、そこに銀色の髪に青い目をした小柄な少女が立っているのに気が付いた。少女はヘルズゲートをじっと見上げている。
「ヘルズゲート」
 ジーンは声をかけた。ヘルズゲートに入るのか、と聞きたいらしい。
 それが伝わったのかどうか、少女――メイ・フォルチェは突然声をかけられ目を丸くして彼を振り返った。
「え?」
 それから、彼のヘルズゲートという言葉とその指差す先を見て、慌てたように手を振る。
「私は無理ですから。ラジオ聞いて野次馬しにきただけで入るつもりはないです。戦えないし」
 ラジオの話を聞いて好奇心でここまで来たはいいが、さすがにヘルズゲートを越えるには勇気がちょっぴり足りないでいた彼女である。タクトニムが徘徊する中では、恐らく自分は足手まといにしかならないだろう、誰が好き好んで一緒に行ってくれるものだろうか。何より、自分はまだ命が惜しい。
 しかしジーンは彼女の予想を超えたところにいたらしい。
「大丈夫。俺が守る」
「は?」
 思わずメイは呆気に取られたように彼を見返していた。
「行こう」
 彼は真顔でメイを促す。本気で言ってるらしい。
「え? えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? で、でも、ヘルズゲート……」
 の中にはタクトニムがいっぱいいて、危険もいっぱいで。
「みんな、いる」
 彼が言った。
「みんな……」
 メイは彼の視線の先を振り返った。
 そこに、ピンクのうさぎの耳を付け、我が目を疑いたくなるような鮮やかなピンクに染めあげられた髪を黒のリボンで愛らしく飾って、分厚い胸板にはピンクのふわふわのレースをあしらい、可愛らしいメイド服から逞しい上腕二等筋と、フリルのスカートから、筋肉質の足を生やした、人ならざるものが立っていた。
「って、なんで、ヘルズゲートの外にタクトニムが!?」
 思わず悲鳴にも似た声をあげてしまったメイに、ソレが気付いたように振り替える。
「まぁ、酷いわ!」
 ソレが言った。心外そうな、それでいて哀しそうな目でこちらを見ながら。
「しゃ…喋った……」
 メイは開いた口が塞がらない。するとジーンが言った。
「らびーは、うちの専属メイドです」
「……人間、なの?」
 尋ねたメイにジーンはこくりと頷いた。
「オールサイバーですが」
「…………」
 メイはらびーをまじまじと見た。それから思い出したように他の面々を見る。白衣の綺麗なお姉さんに、メイド服の美少年然としたお姉さん。それからメイド服のまっちょおやじに、不機嫌で貧弱そうな男。バスケットを持った大人しそうなお姉さんに、クレインさん。そして、この白衣のお兄さん。正直に言ってあまり強そうには見えないメンバーだった。しかし、このメンバーで今からヘルズゲートをくぐろうというのだ。誰一人不安そうにしている者はない。どちらかといえば気合が入っている風にも見える。もしかしたら、みんな、何度もくぐっているのかもしれない。
「本当に守ってくれる?」
 メイが尋ねるとジーンは力強く頷いた。
「じゃぁ、入ってみようかなぁ……」
 こんな機会も早々ないだろう。


 ▼▼▼


 セフィロトの塔第一階層――都市区画『マルクト』の一角に、廃墟となった普通の住居が並ぶ居住区がある。これといったレアアイテムがあるわけでもなく徘徊するタクトニムも殆どいない為、時にタクトニムが巣を作っていたりする事を除けば、ヘルズゲートに最も近いという点でも、ヘルズゲートの中では比較的安全なエリアといえた。
 勿論、それに比例して情報を含めた戦利品も格段に少ない。
 タクトニムも人も殆ど見当たらない静かな目抜き通りを歩いていると、前方に見知ったシルエットがあって、スピラエ・シャノンは目を細めた。
 黒い髪の毛先が白いというのもそうはないだろう。彼が纏う背筋をピンと伸ばしたくなるような張り詰めた空気も嫌いじゃない。
「トキノさん?」
 後ろからそっと声をかけると、彼はスピラエを振り返って、相好を緩めた。
「これは……スピラエさん。お久しぶりです」
 優雅に一礼されて、何だか気圧されつつもスピラエも笑みを返す。
 向かう方角が同じで、スピラエはトキノの横に並んで歩き出した。
「トキノさんもゴミ屋敷に?」
 この通りの先に、ラジオで話していたゴミ屋敷があるはずだ。これといったアイテムもなく、自分の力量を試すためのタクトニムとの遭遇率も高くないこの場所に、わざわざ足を伸ばすとしたら、目的はそれぐらいしか思いつかなかった。
「はい。レアアイテムとやらに少々興味を惹かれまして」
 トキノが柔らかい微笑を返してくる。それにスピラエは後頭部で両手を組みながら薄暗い天井を見上げて言った。
「俺は黒光りする巨大ななすびかな。撮っときたいと思って」
 いや、ガサガサって音とそれを総合的に鑑みると、撮りたいよーな撮りたくないよーな気もするのだが。怖いものみたさというのもある。運よく面白そうな映像が撮れたらラッキーだとも思う。撮れなかったとしても、それはそれだ。
「では、ご一緒しましょう」
 トキノが言った。スピラエが彼を振り返る。自分より少しだけ高いところにある彼の横顔に、不安や緊張といったものが感じられなくて、スピラエは小さく息を吐き出した。
「うん。心強い」
 そうして2人はそのゴミ屋敷へ訪れた。外見はずっとここまで並んでいた家と大して変わらない佇まいをしている。タクトニムとの激戦の跡地である都市マルクトに比べると随分状態はいい。
 ポケットからカメラを取り出してまずは1枚なんて思っていると、突然トキノが足を止めスピラエを手で制した。
「!?」
 緊迫感のようなものを感じて、スピラエはトキノを見た。しかし辺りに殺気のようなものは感じられない。
「なに?」
 怪訝に首を傾げながらスピラエは尋ねたが、トキノは無言で腰に佩いた日本刀の柄に手をかけているだけだ。
 ゴミ屋敷の門の前で、何かが動いた。
 それはショッキングピンクの巨大なかたまりに見える。
「あれ? 黒光りじゃなくて、ピンク!?」
 スピラエは一瞬我が目を疑って、目をこすった。何度も何度も目をこする。サイバーアイがとうとういかれてしまったのか。右腕がやばいのは随分前から指摘されているし、そもそもその以前から時々動作不良も起こしていた。だが、サイバーアイまで、とは思ってもいなかったのだ。
 ショッキングピンクが何かに気付いたようにこちらに向かって駆け出した。――駆け出した?
 スピラエは赤い目を何度も瞬いた。
 サイバーアイの望遠機能がピンク色の物体を捉える。
 長い髪を可愛らしくピンク色に染め、同じくピンクのうさぎの耳の付いたヘアーバンドを付けて、谷間は見当たらなかったが3桁を軽く越えてるだろう胸、それ故にやたら細くくびれて見える腰、それからプリティーなお尻をピンクのフリルとリボンの付いたメイド服で愛らしく包んで、彼女…でもなく、かといって彼、というには多少の抵抗を感じつつ、何と評していいのやら、とにかくソレが、近づいてきた。
「気の狂ったタクトニムですか。悪い冗談は顔だけにしてもらいたいものですね。この世の生き物とは思えません。今、即刻この世界から消してあげましょう……」
 口の中でそんな事をぶつぶつと呟いて、トキノが日本刀を抜き放った時だった。
「シオンちゃ〜ん!」
 ソレが言った。
「しゃ……喋った?」
 スピラエはタクトニムが喋ったという事実に腰を抜かしそうになる。
 確かにタクトニムの中には知能が高い者もいると聞く。当然喋るタクトニムもいるだろう。うさ耳メイドなまっちょおやじのタクトニムが存在するくらいなのだから。やっぱり、サイバーアイの調子がどこか悪いのだろうか。無意識に腕が何度も目をこすってしまう。
 トキノはその言葉とソレの視線に背後を振り返っていた。
 トキノの視線の先でシオン・レ・ハイが肩膝を付き、ガトリングガンを構えている。どこかで拾ってきたものらしい。有無も言わせず引鉄を引くと発射されたのは無数のBB弾だった。本来であれば、本物の鉛玉をお見舞いして、奴を蜂の巣にかえたいところなのだが、一応彼なりに周囲に気を遣った結果らしい。
 ソレを滅する事は出来なかったが、とりあえず、自分に近寄らせない事にはそれなりの成功をおさめたようである。
「酷いわ、シオンちゃん!」
 ソレはよよと顔を両手で覆って泣き崩れてみせた。但し、涙は出ていない。単なる泣きまねなのか、オールサイバーゆえなのかは果てしなく謎である。
 全弾を撃ちきってシオンはガトリングガンを肩から下ろすと、ゆっくり立ち上がった。ソレの後ろで顔を引きつらせて笑っているシヴたちを見つけて場を取り繕うようにコホンと咳払いする。
「すみません。サイバーアイの調子が……」
 シオンのセリフにトキノは冷たく指摘した。
「もっと高性能なのにしてはいかがです」
 勿論これは、シオンが貧乏なのを知ってて言っているのである。
「ほっといてください」
 シオンはムッとしたようにそっぽを向いた。そのシオンに声を潜めてトキノが尋ねる。
「貴様の連れか」
 普段、礼儀正しく気品に満ち溢れた言動をとるトキノにしては物言いがぞんざいになっていた。本人、気付いているのかいないのか、よほどアレに動揺しているとみえる。
「気色の悪い事言わないで下さい、トキノさん」
 シオンは声を荒げた。何を言われようとも、アレと並べられるのだけは嫌らしい。
 トキノがシオンの持っている対戦車ライフルに目を付ける。
「それを貸しなさい。私が奴をあの世に葬ってやります」
「ブレードがあるじゃないですか」
「あんな粗大生ごみなんか斬って汚したくありません」
「……ガーン……粗大……生ゴミだなんて」
 トキノの言葉にソレはしたたかショックを受けたようだった。
 しかしトキノの言は止まらない。
「いや、粗大生ゴミの方がマシですね。一応それまで人の役に立ってきたわけですから。存在自体が既に害である害虫と一緒にするなど粗大生ごみに対して失礼というもの」
 きっぱり言い切ってみせるトキノに、らびーはよよよ、と涙を流した。
 それまで、半ば呆気に取られて見ていただけのスピラエが、ソレと知人らしいシオンに声をかける。
「あの……それで、アレはタクトニムなんですか?」
 たぶん、きっと恐らく十中八九ぐらいの確率でタクトニムだと思いたいのだが。
「もう、シオンちゃん達ったら酷いんだから」
 ソレは気を取り直したように立ち上がると、先ほどまでのショックを微塵も感じさせない軽い足取りで、満面の笑顔を浮かべて言った。
「でも、好きなものほどいぢめたくなるって気持ちはらびーちゃんにもわかるわぁ」
「は?」
 トキノとシオンが顎がはずれるくらい大口を開けてソレを見返している。
 らびーちゃんと名乗ったソレは、うふふと何か企んでいるような笑みを浮かべ、たかと思うと両手を広げた。
「はぎゅっ!!」
 両手でシオンの体を力いっぱい抱きしめる。
「……あら?」
 しかし、目測を誤ったらしい。
「…………」
 というよりも、すんでのところで高機動運動にスウィッチしたシオンに逃げられたのである。
「スピラエさん、大丈夫ですか!?」
 らびーの腕の中で、らびーに強く抱きしめられ、気を失っているスピラエにトキノが慌てて声をかけた。
 らびーが腕をほどくと、スピラエはくったりとそのまま地面に頽れる。
「彼を人身御供にしてどうするんですか」
 トキノがシオンを怒鳴りつけた。
「すみません。つい、条件反射で……」
 シオンはばつが悪そうに頭を掻く。
「ごめんなさい。つい力いっぱい抱きしめちゃったわ。お詫びにらびーちゃんのお掃除衣装、一式あげるわね」
「…………」
 気絶しているのをいい事に。
 シオンとトキノはらびーの凶行を止める事も出来ずに見守っていた。
「成仏してください、スピラエさん」
 合掌。



 スピラエの着せ替えが済んでご満悦のらびーがゴミ屋敷の掃除に戻りかけた時、誰かがらびーに声をかけた。
「らびーちゃん!」
 振り返った先に青い髪を後ろで一つ束ねた女性が、なにやら大きな青いポリバケツにいろんなものを詰め込んで立っていた。
「まぁ、ナンナちゃん!」
 らびーが満面の笑みを返すと、ナンナ・トレーズはポリバケツを掲げてみせながら「お掃除頑張ります」と意気込んでみせた。
 その傍らに、白いエプロンを付け三角巾を愛らしく頭にかぶって、掃除機を持っている女の子がふよふよと宙を浮いていた。
「……と、こちらは?」
 初めて見る美少女にらびーが尋ねる。
「瑛といいます。初めまして。ナンナお姉さまとお掃除に来ました」
 姫瑛は慎ましやかに掃除機を掲げて柔らかい笑みを返した。どうやららびーと初対面らしいが、全く動じた風もない。時々そういう人間もいる。比較的女性に多いのは気のせいではあるまい。
「まぁまぁ、じゃぁ、一緒に頑張りましょうね」
 そうしてナンナとらびーと瑛が連れ立ってゴミ屋敷へ歩き出す後ろ姿を、トキノは驚愕と共に見送った。
 ナンナと瑛のどこか穏やかで上品な、お嬢様然とした雰囲気があまりにもらびーのそれをそぐわなくて。にもかかわらず、事のほか親しげであるのが理解出来ずに。
「彼女の目を覚ましてさし上げるためにも、何としても駆除が必要ですね」
 トキノがぼそりと呟いた。
「はい」
 普段はとにかく仲が悪くて、一緒にいても険悪なムードを撒き散らすだけのシオンとトキノである。
 しかしこの時初めて、2人は意気投合したようだった。





 ■Welcome to dust house■

「きったなぁい」
 玄関を開けたジーンの脇から顔だけ覗かせてメイが言った。汚い以前の問題である。
「本当ですわ。掃除機をかけられるほど床が見えません」
 床どころかゴミは天井に届くまで積み上げられ、彼らの行く手も視界も遮っていた。
「ピカピカに磨こうと思って、いろいろ用意してきましたのに」
 ナンナは意気消沈気味で持っていたバケツの中を覗いた。
「まぁ、それはミルク?」
 ナンナのバケツの中に入ってる瓶を見つけてシヴが尋ねる。
「えぇ。フローリングにはワックス効果もあると聞きましたの」
 ナンナは答えた。その他にもバケツの中にはお酢や重曹、小麦粉、レモンといったものが入っている。果てにはお米のとぎ汁なんてものまであった。合成洗剤はよくないと用意してきたらしい。ゼクスに見つかったら即座に没収されそうな中身である。食べるものを掃除道具に使い捨てるなど言語道断な彼なのだ。幸い、何が出てくるかわからないので、ジーンらに先陣を任せた彼は最後尾にいたので、ナンナのバケツの中身にはまだ気付いていなかったが、気付かれるのは時間の問題だろう。
「その前に、このゴミの山をどけて動くスペースを確保しなきゃだけど……」
 メイが息を吐く。果たしてどこから手をつけたものか。
「この量を運び出すのは骨が折れそうですね」
 シオンがゴミ山を見上げて言った。
「まぁ、大丈夫ですわ。わたくし、力には自信がありますの」
 ナンナが力こぶを作ってにこやかに笑む。
「そういう意味じゃないんですが……」
 シオンは苦笑を滲ませた。
「それならPKで圧縮してみてはどうかしら」
 そう言って瑛はゴミ山に向かって両手を伸ばした。彼女の緑色の目が白く輝いたかと思うと、彼女の周囲に力場のようなものが発生していた。恐らくはエアーPKの応用のようなものだろう。圧力をかけられたゴミがへしゃげ、そのサイズをどんどん小さくしていく。とは言っても質量が変わるわけではないから、小さくなるだけで重さは変わらない。
「これならどうですか」
 キューブのようにコンパクトになったゴミを掲げて見せる瑛にゼクスが慌てて後ろから顔を出した。宝が圧縮されたのでは、と思ったらしい。が、どうやら圧縮されたのは瓶か何かのようだった。ガラスの原材料は小石であるから、彼の中での価値は非常に低い。わざわざここから持ち出すような代物ではないと判断された。
「よし、その調子で宝の山を減らそう」
「しかし、どこに運び出しましょう」
 クレインが首を傾げる。
「そういえば、外にダストシュートがありましたよ」
 シオンが言った。家のすぐ傍にゴミ収集用のダストシュートがあるのだった。それはゴミ処理施設に元は直結していたらしい。今はどうかわからないが。
「ふむ。不要なものはそこに。お前は圧縮。ナンナとシオンは運び出し。らびーとシヴは出来た空間を掃き掃除。クレインとメイは拭き掃除。空とリマはめぼしいものの選別」
 ゼクスが指図する。
「なんであんたが仕切ってるのよ」
 リマが呆れたように腕を組んで文句をつけた。
「わかりました」
 シヴが敬礼する。
「任せて」
 らびーが兎印の箒を構えた。
「瑛、頑張る!」
 瑛が腕を振るう。
「わたくし、圧縮もお手伝いいたしますわ」
 ナンナが腕まくりをして手近なゴミを握り潰した。
「そうですね」
 クレインは雑巾を取り出すとメイに一つ手渡して笑む。
「お手伝いします」
 シオンは手近なゴミを抱えあげた。
「…………」
 皆が意外とやる気なのに、リマは傍らの空を見やる。空は別段不満はない顔で肩を一つ竦めてみせた。掃除やら戦闘やら面倒ごとは他の人にお任せと思っていた彼女として、めぼしいものを探す係というのは都合が良かったらしい。それについては、リマも異論はなかったのだが、ゼクスに指図されるというのが彼女の中でどうにも納得できなかったようである。
「では、私は外で見張りをしていよう」
 トキノが言った。内心で、服が汚れるから、と付け加えながら。
「ジーンはゴミの切り崩しにかかれ!」
 ゼクスが言い放つ。
「…………」
 そして指示を出すだけだしたゼクス自身は皆を叱咤激励しながら、ナンナのバケツの中身を物色するだけだった。



 シオンとナンナが手分けをしてゴミの運びだしをしているところに、圧縮作業を終えて手の開いた瑛が加わった。
 瑛がダストシュートにゴミを捨てに行く。
 ダストシュートの蓋を開けた時、彼女はそいつと出会ってしまった。どうやらゴミを運んできているらしい奴らしい。奴はゴミを持ってダストシュートの中から瑛を見つめていた。
 ゴミはゴミ処理場から集められてきているのか。
 暗がりから愛らしい目をこちらに向けている奴と目が合って瑛は大きく目を見開いて絶句した。
 それが何であるのかを認識するよりも先に、本能が全身全霊をこめて拒絶する。
 大抵は台所に多く生息し、汚いところが大好きで、カサカサと物音をたて、時に生ゴミを漁っては、黒光りした茶翅で飛翔し人を襲う。
 それは正に、ソレだった。勿論、彼女が知っているそれとは大きさが全く違ったが、大きさなどこの場合特に問題ではない。大きくても小さくてもとにかく全てがダメなのだ。
 きっかり10秒。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
 悲鳴と共に気を失い瑛は地面に倒れたのだった。
 瑛の悲鳴に一番に駆けつけたのは意外にもゼクスだった。手が開いていた、というのが最大の理由だろう。
 ゼクスは倒れている瑛には目もくれずダストシュートの中を覗いていた。
 後から駆けつけたトキノが瑛を助け起こしている。
 ゼクスと奴との目が合った。
 どうして隣の庭はこんなにも青く見えるのだろう。
 ゼクスは奴が手にしているものが宝に見えた。そもそも彼の感覚でゴミというものは存在しない。
 食べられるか、食べられないか、食べられないものは、物々交換で食べられるものになる確率がどのくらいあるか。全ての物は食べ物変換率で表される。ちなみに食べ物が100%で、現金は食べ物に次いで第二位99%の食べ物変換率をほこっている。
 とにもかくにも奴の手にしているものが、ゼクスには食べ物変換率のやたら高いものに見えたのだった。
 奪おうと手を伸ばす。
 その手を払うように奴の触覚が動いた。奴のもつ触覚はウィップのようにしなり、高周波振動して時に鋼鉄もバターのように軽々と切断してしまう。それがゼクスの手を手首から切断するように走った。
 しかし、そうはならなかった。
 ジーンがダストシュートの中へ鉛玉を撃ち込んだからだ。
「何てことするんだ!!」
 ゼクスがジーンを怒鳴りつけた。
 鉛玉を喰らって奴がダストシュートの奥へ落ちていく。勿論、持っていたものも抱えたまま。
「大事な食材が……」
「…………」
 とにもかくにも、こうして『奴』の脅威はひとまず去ったのだった。


 ▼▼▼


 そんなこんなで廊下の掃除が進められていた頃、らびーの抱擁に気を失っていたスピラエが目を覚ました。
「…………」
 いつの間に着せられたのか、白いフリルのついた愛らしいエプロンドレスとうさ耳バンドを付けている。
 そんな自分に気づいて、スピラエが声にならない悲鳴をあげながら内心でらびーにありとあらゆる罵声を浴びせていると、電信柱の影から顔を出している少年と目が合った。
「…………ぷっ」
「!!」
 噴出す少年にスピラエは冷たい視線を送る。やり場のない怒りと羞恥で頭に血がのぼってくるのを感じながら。
「いや……あの、ごめ……ぷっ」
 笑ってはいけないと思えば思うほど人は笑ってしまうものらしい。どうしても噴出してしまう少年にスピラエは溜息を吐く。
「…………けんか売ってるわけ?」
 地を這うような低い声音で尋ねたスピラエに、さすがに少年も笑っている場合ではないと悟ったのか、慌てて笑いをおさめると、スピラエをなだめるように手を振った。
「べ……別にそういうわけじゃ……や、凄かったよね、あの人」
 場を取り繕うように矛先を変える。
「くそぉ。タクトニムの分際で……」
「あれ、タクトニムなの?」
 少年が尋ねた。ここは彼にとって重要なところだった。
 彼――メイリ・アストールはシヴ・アストールの弟である。
 すぐに行方を不明してしまう姉を心配して、こそこそ姉を尾行してこんなところまでついてきたのである。ちなみに彼も押しも押されぬ一般人だった。その一般人が、やっぱり何ら臆する事無くヘルズゲートをくぐってきたのだからこの姉弟、なかなかに侮れない。と、余談はさておきその姉は、なんとあのタクトニムらしきものとヘルズゲートの外から一緒にここまで来たのである。しかも親しげに話ながら。
 何故、あの姉はタクトニムなんかと知り合いなのだろう。
 しかしメイリの聞きたい答えは得られなかった。
「知るか」
 スピラエは一言忌々しそうにそう吐き捨てただけである。彼にとってはどちらでもいい事だったのだ。
 かくて2人は成り行きで、何となく一緒にゴミ屋敷へ入る事になったのだった。
 メイリは姉を心配して。
 スピラエはうさ耳まっちょおやじメイド型タクトニムを締め上げるために。
 玄関から入ると廊下は随分すっきりしている。スピラエが気を失っている間に掃除がある程度進んだらしい。2人は恐る恐る中へと進み、一番手近にあったドアを開いた。
 最初の部屋はリマと空が掃除中だった。





 ■in Bedroom■

「うーん……。あんまりめぼしいものないなぁ」
 空はぼやきながらもゴミ山の中からナックルを引っ張り出した。特にこれといった特徴のないただのナックルだ。何とはなしに手にはめてみる。近距離戦用のアイテムはそれなりにそろっているんだけどなぁ、などと思いながら握った拳の中に電流を流し込んでみた。ナックルをつけているだけでそこに力を溜め込むイメージがしやすくなっていた。ナックルとしての本来の打撃力アップという効果はともかくとして、力をイメージコントロールするには適しているようだ。
 この狭いセフィロト内に於ける戦闘は近接がその大半を占める事になる。かさばるものでもないし、持っていてもいいかもしれない。もしかしたら役に立つ事もあるだろう。
 そんな事を考えながら手の平を握ったり開いたりしているとリマが声をかけてきた。
「どう? 何かいいものでもあった?」
「うーん。これなんてどうかな?」
 覗き込んできたリマの手をとって、空はリマの手首に先ほど見つけたバンドをはめてやる。いや、バンドというよりはブレスレットに近いだろうか。細いシルバーの輪に大きな石のようなものがはまっていた。
「何これ?」
 尋ねたリマに空はシレッと答える。
「妲妃召喚アイテム。いつでもどこでもどんな時でも、それに声をかければあたしが助けにいくの」
「ただのトランシーバーバンドにしか見えないけど」
 リマが冷たい視線を装った。装っているがその顔は満更でもないようだ。
「バレたか」
 空はペロリと舌を出して笑った。
「ただのブレスレットでも可愛くない?」
「まぁ、確かにこのうさ耳バンドよりはマシね」
 リマは肩を竦めてみせる。
「それも充分可愛いってば……あら?」
 そこへスピラエとメイリが入ってきた。
「うさ耳……白いフリルのエプロン……あのタクトニムの犠牲者か」
 スピラエはリマを見て呟いた。何か感じるものがあったらしい。
「でも似合ってるから」
 メイリが冷静に指摘する。
「…………」
 スピラエは静かにメイリを横目でにらみつけた。こんなもん似合っても嬉しくない、とは負け惜しみでも何でもなく、本気である。
「せっかくリマと2人きりのチャンスだと思ったのに。でも……可愛い子は好きよ」
 そう言って空はメイリの前まで歩み寄ると顎を掴みあげてその顔を覗き込んだ。
「あ…あの……」
 メイリが驚きつつも綺麗なお姉さんに頬を赤らめる。
「ったく、空ったら……」
 腰に手をあて呆れたように肩をすくめると、リマはやれやれと溜息を吐きだながら、掃除に戻るべく寝台の上のベッドカバーをどけた。
「!?」
 リマの手が固まる。
「なっ……」
 スピラエはベッドの上にのっかっているそれに目を見開いた。
「え?」
 スピラエが何かを凝視している様子に、空が振り返る。
「リマ!?」
 そこには巨大なゴキ……ボキちゃんが一匹横たわっていた。どうやら眠っているようだ。
 スピラエは無意識に後退った。
「あんまり近づきたくないフォルムだよな」
 ぶつぶつ呟きながらスピラエは胸ポケットから357マグナムを取り出す。
「素早そうだよね、アレ……」
 カサカサと音をたてて動く、なすびのようなアレ。ある意味予想通りではあったのだが、マグナムを構えながらも自然腰は退けてしまった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 恐怖の臨海点に達したらしいメイリが突然悲鳴を発すると、その辺にあるものを掴んでは投げしながらスピラエの背中に隠れた。
「お…おい、ちょっと……」
 メイリに背中を押されてスピラエは思わず踏み出した足に力を入れる。だからこれ以上近づきたくないのだ。出来れば素手で触りたくない。接近戦は避けて通りたい道なのである。
 メイリの投げたゴミがベッドの上でお休み中のボキちゃんに命中した。
 ボキちゃんが目を覚ます。
 赤い目がギラリと光って、それはゆっくりと起き上がった。平均体長1m60cmは2本の触覚まで含んだ大きさなのか、それとも目の前のがたまたま小型の奴だったのか。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 メイリは腰も抜かさんばかりにもんどり打って、逃げ場を探すようにもがいたが、極度の恐怖に頭が働かないのか、場所は1cmも変わってはいなかった。床に縋りついている。
「うるさい!!」
 背中で大騒ぎのメイリを怒鳴りつけながらスピラエは銃を構えなおした。
 しかし彼は引鉄を引けなかった。
 ボキちゃんがお得意の高周波ウィップである触覚を振り上げている。
 そんな世界が傾いて、一瞬スピラエは何が起こっているのかわからなかった。
「え? なんで……?」
 空が視界の隅で動いた時、彼女が自分の足を払ったのだと気付いた。
 スピラエは傾ぐ体を支えきれず床に倒れながら、半ば呆然とそれを見つめていた。
「リマ、大丈夫!?」
 襲い掛かるボキちゃんにリマが間合いを開けるように後方へ飛ぶと、その間に割って入って空は持っていた高周波ナイフを横に凪いだ。
 リマを助けて好感度アップ大策戦中の空にとって、リマを助けようとする者は、全て敵と同等だったのだが、そんな事は露ほども知らないスピラエは呆気に取られたまま彼女の戦闘を見守っていた。
「うまい……」
 高周波ウィップと高周波ナイフ。普通にぶつかったなら、互いの周波数が同じであれば高周波は相殺されるか共鳴するか。つまりは供倒れるか、互いにただのウィップとナイフと化すか。だが、そのどちらにもならなかったのは、空が高周波ナイフでボキちゃんの攻撃を牽制した直後、触覚の付け根に向かってナイフを投げ込んでいたせいだ。
 触覚の一方が機能を停止する。
 彼女は綺麗に飛んで、突き刺さったナイフを回収すると、自分を追いかけるもう1本の触覚を鮮やかにかわして再びナイフを投げた。
「…………」
 着地と同時に先ほど見つけたナックルを構える。それはほぼ、一撃で決しただろう。
 容赦というものもない。
「お姉さん……強い……」
 メイリがぽつりと呟いた。
 スピラエも無言で頷いた。さすがはヘルズゲートをくぐってくるビジターだ、と思う。自分もそうなのだが。
 そんな事をぼんやり考えながら相変わらず床に転がっていると、メイリが心配そうにスピラエの顔を覗き込んできた。
「大丈夫?」
 そういえば、彼もヘルズゲートをくぐってきたビジターだっけ、と思う。
 脳裏をピンきりという言葉が過ぎっていった。
 そして、視線を空の方に戻す。
 殆どミンチ寸前のボキちゃんを見ながらスピラエは思い出したように呟いた。
「あ、撮り忘れた……」
 撮りたいような撮りたくないような。

 とりあえず、2人の邪魔はしてはいけないらしい。
 妙な悟りを開きつつ寝室を這う這うの態で逃げ出したスピラエとメイリが、次に訪れたのは向かいの子供部屋だった。
 そこはメイとジーンの2人が掃除をしていた。





 ■in kidsroom■

 パステルピンクにパステルオレンジ。そこは子供部屋の名に恥じぬ何ともメルヘンチックな部屋だった。集められたゴミもそういった明るくカラフルなものが多く、ぬいぐるみなども多く集められていた。
「えぇっと……大きい物は」
 メイはそれを引きずりながら壁に寄せた。それをジーンが外へ運び出すといった具合だ。だが、中で何があるのかわからないので、ジーンが外へゴミを運び出す時は、メイも小さなゴミを持って一緒に外に出るといった具合だった。
「あ、これ可愛い」
 ゴミの中に小さな箱を見つけて、メイはそれを拾い上げた。宝石箱か何かのようだったが、振ってみても手ごたえはない。中を開くと半分が上げ底になっているのに、メイは小箱を裏返した。ネジが付いている。
「何?」
 ジーンが背後からメイの手元を覗き込んだ。
「オルゴールみたい……でも、鳴らない」
 ちょっと残念そうに言ってメイはそれをゴミの中へ戻しかける。そこへジーンが手を伸ばした。
「貸してください」
「……なおる?」
「…………」
 尋ねたメイにジーンは無言を返して、暫く小箱をいじっていた。やがてネジを巻いて蓋を開く。
 タンタンタンタン……と可愛い音が一つの曲を奏で始めた。
「わ、凄い」
「はい」
 ジーンは箱を閉じるとメイに手渡した。
「くれるの?」
 メイが尋ねるとジーンは頷いて言った。
「あなたのです」
「ありがとー」
 ちょっといい物があれば『ぽっぽないない』とは思っていたが、別になくてもそれはそれでいいと思っていたメイである。そもそも、中へ入る予定はなかったのだ。
 それは、レアアイテムというほどの物でもなかったが、掃除を手伝った報酬というのなら、それはそれでちょっと嬉しかった。
 と、そこへメイリとスピラエがやってきた。
「ここはまた、メルヘンチックな部屋だな」
 スピラエが呟く。
 あのうさ耳まっちょ親父メイド型タクトニムが喜びそうな部屋である。幸いというべきか、奴はいなかったが。
「……ぷっ」
 メイがスピラエを見て噴出した。
「…………」
 言葉もなくスピラエがメイを睨みつける。
「似…似合ってますよ、その……メイド服……ぷぷっ」
 メイは必死で笑いを堪えようとしたが、あまり成功しているようには見えなかった。噴出すメイにメイリもついつい笑ってしまう。
「あーりーがーとー……あのタクトニム知らない?」
 メイリに拳骨を一発くらわし、抑揚なく礼を述べて、スピラエが尋ねた。
「さぁ?」
 メイが首を傾げると、ジーンが答えた。
「リビング」
「リビングか……」
 確認するように言って、部屋を出て行こうとするスピラエをメイが呼び止める。
「あ、待って、出ていくならこれ運び出すの手伝って」
 何となく抗いがたいものを感じて、スピラエはメイが指差す前時代的なブラウン管テレビらしきものを見やった。
 それからメイリを振り返る。
「手伝うよな?」
 否を言わせぬ迫力でスピラエが言った。
「何で俺が……」
 ぶつぶつと呟きながらメイリはスピラエの反対側に回って手を伸ばす。普段姉にこき使われているせいか、どうも命令口調にはパブロフの犬の如く従ってしまうメイリだった。
 スピラエとメイリが、せいのでテレビらしきものを持ち上げた。
 持ち上げた瞬間メイリが手を離す。
 重かったからではない。
 幸いそれは、スピラエの足の上には落ちなかった。それより速く、スピラエも後方に飛び退っていたからだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「……飛ぶ。絶対、飛ぶ……」
 上から落ちてきたテレビにも動じず、それがわさわさとテレビの下から這い出してきた。
 それは、ボキちゃんだった。ただし、まだ子供なのか、15cmほどの大きさしかない。触覚を合わせたら20cmくらいだろうか。小さいがちょっぴり数が多い。
 メイリとメイは奴らを視覚に捕らえた瞬間闇雲に走り出していた。
「やー!! いやー!!」
 2人は半泣きで逃げ惑い、やがて正面衝突して互いに後ろへ倒れた。半ば気を失っている。
 刹那、一斉に小型ボキちゃんが飛び立った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 メイリは本当に気絶した。
 スピラエはナイフを手にしながらサイバーアイで無数の小型ボキちゃんを捕捉し逃げ回った。
 小型でも高周波ウィップは健在なのか、ゴミというゴミが綺麗に切断されていく。
 ジーンは銃で牽制しながら、倒れているメイの体を片腕で軽々と抱き上げ、何かを部屋の奥へ投げて、メイリのベルトを掴み上げるとドアの方へ走った。
 彼がどうやってドアを開けたものかと逡巡した一瞬、恐らくはメイリの悲鳴に駆けつけたのだろうリマがドアを開けていた。
「ジーン!!」
「あなたも外へ」
 ジーンがスピラエに声をかける。
「え?」
 スピラエは一瞬状況を理解出来ずに固まっていた。部屋の奥でジーンが投げた何かが煙を吐き出し始める。リマが彼の襟首を掴んでドアの外に引きずり出した。それにジーンも続く。
 すぐにドアは閉じられた。
「な…なに……今の……」
 スピラエが尻餅を付きながら尋ねた。
「地雷型殺虫剤、ゴキタイサン」
「…………」
「霧状の殺虫剤が部屋中に充満してゴキを一掃するの。ボキちゃんに効くかどうかはわからないけどね」
「ボキ……ちゃん?」
 ボキ、はともかく、ちゃんとは一体どういうことか。
「さっきのアレよ」
 空が答えた。
「ボキ『ちゃん』って、そんな可愛いものじゃないだろ!?」
 視覚的脅威という点ではあの、うさ耳…以下略といい勝負だ。
「でも『ボキちゃん』が名前なんだもん」
「…………」
 ちなみにこれは余談だが、この後スピラエは、あのうさ耳まっちょ…以下略が、らびーちゃんと呼ばれている事実を知って、世の無常を嘆く事になる。閑話休題。
「大丈夫?」
 ジーンが抱き上げたメイの顔を覗き込んだ。メイリとぶつかった時に鼻を強く打ったようで、血が出ている。
「ふぇ〜ん」
「はい」
 仁がメイにティッシュを手渡した。
 それを横目にリマが口を開く。
「寝室でボキちゃんが寝てたでしょ」
「夜行性ってことかしら」
 空が首を傾げた。
「じゃなくて、子供部屋に子供のボキちゃんがいたって事は……」
「それって……」
 リマの言わんとしている事に気づいて空は小さく肩をすくめ、スピラエは無意識に息を呑んだ。
「もしその推測が当たってるなら、ちょっと考えた方がいいんじゃない」
 何となく、廊下の奥の扉を振り返る。恐らくあの扉の向こうがリビングだろう。
「一旦外に出て庭から回りましょ」
 リマが言った。





 ■ティーブレイクは忘れずに■

 5人が庭先に来てみると、テラスには大きな白いアンティーク風のテーブルを囲むようにイスが10脚ほど並んでいた。
 その2つのイスを使ってトキノとクレインが優雅にティータイムを楽しんでいる。
 向かいの席では、ナンナと瑛がスコーンを頬張っていた。
「お掃除ばかりしていると疲れてしまうので休憩中です。皆さんもいかがですか」
 なんてティーポットを取り上げるクレインに、スピラエは気が抜けた。一応ここは危険がいっぱいの筈のヘルズゲートの中ではなかったのか。ある意味、みんな大物であった。中でも一番の大物は……。
「わーい。スコーンいっただきまーす」
 と、一番乗りでテーブルについたメイリではなかろうか。戦闘力皆無。サバイバルスキル0。運だけを頼りに生き延びてきたと思われる男。
「楽しそー。リマも休もうよ」
 そう言って空がリマの手を引いてテーブルに加わった。
 ジーンはメイをイスの上に下ろす。見た目は確かにまだ子供かもしれないが、一応実年齢はそれなりに数をこなしているメイは、完全に子供扱いされている自分に、何とも複雑なため息を吐いていた。ここまでずっと抱っこされてきたのだ。守ると言った約束を守ろうとしているのかもしれないが、ちょっとこれは過保護すぎる気もしなくもない。
「スピラエさんもどうぞ」
 トキノがスピラエを促した。
「ああ、うん。いただきます」
 スピラエが開いてるイスに腰を下ろすと、すかさずクレインが紅茶の入ったティーカップを置いた。それを受け取り、一口啜って喉を潤す。
 それからふと思い出したようにトキノに言った。
「トキノさんもスコーン食べるんですか」
 トキノはオールサイバーの筈である。
「服が汚れるので」
 トキノはシレッと答えた。
 要約するとこういう事らしい。服が汚れるので掃除を手伝わず、外の見張りと称してここで紅茶を飲みながら油を売っている。
「…………」
 一体彼は何をしにこのゴミ屋敷に来たんだろう。確かレアアイテムがどうとか聞いたような気がしたが。
「そういえば、寝室にボキちゃんが一匹眠っていたの」
 リマは口の中のスコーンを飲み込んでから、言った。
「ボキちゃん?」
 クレインはその名前に心当たりがなくて首を傾げる。
「えぇ、タクトニムの一種よ」
 リマが答えるのに、クレインはふむと頷いた。トキノの眉間がわずかに寄る。
 瑛とナンナはお喋りに夢中なのか聞いていないようだった。
「そして子供部屋には小型のボキちゃんが大量にいたわ」
 それを聞いてクレインはここに来るまでずっと考えていた事を口にした。
「思ってたのですが、ここは実は何かイキモノの巣ではないですか? たとえば、そのボキちゃんとやらの……」
 この居住区はもとが生活する為に作られたエリアであるため、住み心地がよいのか、時々タクトニムが巣を作っている、というのは知られた話だった。
「ボキちゃんの……巣……」
 ボキちゃんの何たるかを知っているスピラエは、余計なものを想像して気分が悪くなった。その隣でメイリはのほほんとスコーンを頬張っている。
「やっぱり、そう思う?」
 リマが尋ねた。
「あまり想像したくないけど」
 スピラエは口元を手で覆いながら、しかし否定する何かも思いつかなくて、重い息を吐き出した。
「ゴキタイサンが効くなら先に仕掛けて駆除してしまった方がいいかもね」
 リマがぼやくのに空も眉を顰める。
「あれで、見た目だけじゃなくいろいろ厄介だもんね」
 面倒ごとは出来れば避けて通りたい空だった。
 と、その時突然トキノがティーカップを置いて立ち上がった。
「!!」
「どうしたの?」
 リマの問いに、しかしトキノは答えず高機動運動にスウィッチしていた。庭に面したリビングへ入ったかと思うとそこにあったものを拾いあげる。めざとくも何かレアものでも見つけたのだろうか。
 しかし――――。
「あぁ! それは、私のです」
 シオンがトキノの取り上げたそれを見て目を丸くした。それはシオンが持ってきた対戦車ライフルである。
「落ちていました」
 トキノは淡々とした口調で言って、初弾を装填した。カシャーンと小気味いい金属音が響く。
「置いていたんです!」
 シオンは声を荒げたが、トキノの特殊な耳には入らなかったのか。彼はゆっくり膝をつくと全長2m近くあるそれを軽々と構えていた。
「静かに。今がチャンスです」
「え?」
 ライフルの銃口が向けられている先を追いかけるようにシオンがそちらを振り返った。そこに宿敵らびーの無防備な背中がある。
「私にやらせてください」
 シオンはトキノの持つライフルの銃身を掴んだ。それを振り払おうとトキノがもがく。
「私がしとめます」
「私のです」
 シオンはかじりついた。
「私が拾ったのです」
 トキノが主張する。
 そんな2人を庭先から遠目に見ながらリマは溜息を吐いた。
「……なんていうか、大人気ないわね」
「リビングはあまり大したものがありませんでしたよ。ボキちゃんも見当たりませんでしたし。あ、そういえば、本を見つけたんでした」
 クレインは思い出したようにそう言って、懐にしまっていた本を取り出した。
「本?」
 スピラエが覗き込む。黒の装丁の本だった。マット加工された表紙はさわり心地がいい。タイトルには金の箔押しで『ある愛の詩』とあった。
「はい。何の本かはまだ中を開いてないのでわかりませんが、実は私、こう見えて本は結構好きなので、後でゆっくり読もうと……」
 話すクレインのそれを聞いているのかいないのか、スピラエが本を開いて、気持ち悪そうに舌を出した。
「うげぇぇぇぇぇ〜」
「は?」
 今にも吐きそうな顔のスピラエに、クレインが不安そうにそちらを振り返る。
 リマが本を覗き込んだ。
「……これは……」
「……すごっ……」
 メイリも隣で絶句している。
 そんな彼らに気付いたナンナが、スコーンを置いてスピラエの前に広げられた本を引き寄せた。
 中をぺらぺらとめくって微笑ましげに感想を述べる。
「まぁまぁ、らびーちゃんのような方がたくさん……」
「あ…後でゆっくり読もうと……思って……」
 クレインの頬が引きつり始めた。
 ナンナは親父メイド・ドール写真集だったそれの1ページを開いてクレインに見せた。
「これを?」
 スピラエが尋ねる。
「いえ……」
 クレインは視線を彷徨わせながら答えた。
「ゴミだな、ゴミ」
 スピラエはナンナから本を奪うと、いろいろ積もりに積もったストレスを発散すべく破ろうとする。
 そこへ、さっきまでお掃除にご執心だったらびーが飛んできた。スピラエの持っている本に気付いたのだ。
 何を隠そうその本は、誰かに薦めてみようとらびーが持ってきた、らびーお気に入りの同人誌だったのである。ところが、掃除の途中にうっかりなくしてしまったのだった。
「酷い!!」
 言ったらびーに、しかしスピラエはテーブルを両手で叩いて立ち上がった。
「酷いのはあんただ!!」
 唾を飛ばす勢いで怒鳴りつけたスピラエに、らびーはショックに打ちひしがれる。
「ガーン」
「俺の上着はどこだ?」
 スピラエが尋ねると、らびーは庭の人工芝にのの字を書き始めた。
「せっかくらびーちゃんのお手製なのに……」
 そんならびーの背後にトキノが忍び寄る。彼は問答無用で持っていた対戦車ライフルを振り上げた。どうやら装弾数7発、全て撃ち切ってしまったらしい。
「あぁ!」
 とシオンが止めるのも聞かずに振り下ろす。
「滅!!」
 しかし、瑛がトキノに気付いてらびーに声をかけた。
「あ、らびーちゃん。危ないですよ」
 らびーはぎりぎりで難を逃れた。対戦車ライフルが人工芝に突き刺さる。
「やん。何するのよ、トキノちゃんったら。危ないじゃない」
 と、目を瞬かせて上目遣いにトキノを見上げるらびーに、トキノ頬がぴくぴくと引きつった。出来ればこのまま血祭りに、八つ裂きに、などと考えるが、瑛が驚きまなこで自分を見ているのに気付いて、踏みとどまる。
「瑛も、びっくりしましたわ」
「……すみません。サイバーアイの調子が……」
 目元を手で覆ってみせるトキノに、対戦車ライフルが壊れていないかと確認していたシオンが顔をあげて言った。
「トキノさんもメンテナンスした方がいいんじゃないですか?」
「……だまれ」
 トキノが低く切り捨てる。
「で、俺の上着はどこだ!?」
 スピラエがばんばんとテーブルを叩いた。
「たぶん、リビングにあると思うけど……」
「まさかゴミになってないだろうな」
 スピラエがらびーを拉致してリビングへ向かう。
 それを見送りながらシオンがイスに腰を下ろして、クレインの紅茶を啜ろうとした、その時――。
 絹を引き裂くような女の悲鳴がとどろいた。
 その声に真っ先に立ち上がったのは、メイリである。
「!? 姉貴の声!?」
「台所の方からだ!」
 トキノもそちらを振り返った。
「まぁ、わたくしタクトニムなんかには負けませんわ」
 ナンナも拳を握って立ち上がる。
「瑛も頑張ります! ……でも、ダストシュートでばったり出会ってしまったのだったら、どうしよう……」
 逡巡しながらも、瑛もスコーンを置いた。
「待ってて」
 ジーンがメイの頭を撫でてやる。メイが頷くと彼はリマを振り返った。メイを頼むと告げているような視線にリマが頷く。
「うん。大丈夫」
「あたしもいるしね」
 空が手を振った。
 瑛とナンナとメイリとジーンがリビングに入っていく。更にその後をシオンとトキノが追った。
 その背を見送ってクレインは残った面々を振り返ると、ティーポットを掲げてのんびりと言った。
「紅茶のおかわり、いかがですか」





 ■キッチン大戦線■

 少し前に遡る。
 ゼクスが台所を自分のホームに選んだのにはそれなりの理由があった。
 セフィロト髄一の惰弱者は食い意地の汚さで彼の右に出る者もない。彼はヘルズゲートからここに来るまで、ずーっと考えていたのだ。
 巨大ななすびを取るか、それともレアアイテム左団扇を取るか。
 そして彼は巨大なすびを取ったのである。
 未来の事より目先の事。
 彼がもしここで、レアアイテム左団扇を選択するような男だったなら、今頃、とうの昔に彼はもっといい生活をしていたに違いあるまい。
 少なくとも、明日どころか今日食べるものにまで困るようなど貧困生活は送っていなかったと思われる。
 そんな次第で彼は、食料といえば台所という思考回路のもと、台所へ直行したのであった。これは、クレインが考えていたような、何かの巣かもしれないから、というような論理的思考による推論などではない。言うなれば野生の勘。いわれなくても野生の勘。
 当たりかどうかは神のみぞ知る。
 しかしシヴもゼクスも戦闘面では象の前のアリのようなものだ。タクトニムなんかにうっかり出くわした日には抵抗する暇もなくプチっといくだろう。だから最初はぼでぃがーどにらびーちゃんを連れていた。本当はジーンをと思ってたいたのだが、ジーンがメイのお守をしているので仕方なく妥協したのである。
 ちなみにこれは余談だが、シオンには頼まなかった。シオンにはかつて後でぼでぃがーど代を請求されたという苦い思い出があるからだ。その上壊れたパーツの修理代まで請求されてはたまらない。前回は口八丁で何とか難を逃れたが、また合わせて請求がきても困るので、頼まなかった。勿論、また踏み倒されてはたまらないシオンは、頼まれても丁重にお断りする可能性の方が高かったが。
 更にこれは余談になるがトキノには、服が汚れるから、という理由で断られた。一体奴は何しにきたのだ。
 後はクレインと女子供しか残らない。強そうなのが他に彼しかいなかったのである。
 ついでに掃除はプロ級だし、とは妥協の結果であった。
「らびーさんはそちらをお願い」
「わかったわ」
「ナンナさん、これ運び出してくださるかしら」
「ええ」
「瑛さん。この生ゴミを圧縮しておいてくださる? 後で素揚げにするので」
「え? 食べるの?」
「はい。私はいただきませんが」
「はぁ……わかりました」
 シヴはてきぱきと指示を出しながら、自分はマスクを付け、はたきを手に掃除を始めたのだった。
 ゼクスはゴミ山にダイブなどしてがらくたの山にご執心である。
 その内、らびーが何かなくしものをしたらしく、辺りを探し始めた。
 そのすぐ傍でクレインが黒い表紙の本を見つけて拾った。後で休憩の時にでも読んでみようと懐に仕舞う。
 探しものが見つからず、うろうろしているらびーに時々、サイバーアイの調子が悪いらしいシオンがライフルで狙撃していた。
 別にタクトニムが現れたわけでもないのだが。
 その内、掃除に飽きたクレインが埃っぽいのは苦手とガーデンテラスでお茶の支度を始める。
 トキノはいつの間にかテラスでくつろいでいた。
 そこへスピラエたちがやってきた。
 ゼクスもスコーンの甘い香りに誘われていた。誘われてはいたが彼はそちらへ向かうどころか立ち上がる事さえ出来なかった。背中のかごが、彼言うところの宝の山でいっぱいで、彼自身がその重さに耐え切れなかったからである。じたばた。
 そんな時、奴が現れた。
「巨大な黒光りするなすび!?」


「そういえば昔、鉄板焼をしていた時、友人が、縦半分に切られた焼きナスを見ながら言ったんだ。『この形とかさ、この黒光りする感じとかさ、つぶしたら白いものが出ちゃうとことかさ、俺、決まってあるものを連想しちゃうんだよね』と」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「姉貴!!」
 メイリは姉の悲鳴に一番に現場へ駆けつけたが、カウンターキッチンのこちら側から声をかけるのが精一杯だった。残念ながら助けに行く度胸はない。なんと言っても、姉の目の前にはボキちゃんがいるのだ。
 4畳半ほどの狭いキッチンである。
 続いた瑛はボキちゃんを視界に捕らえるやいなや、キッチンに入る事も出来ずに気を失った。やっぱりダメなものはダメだったらしい。
 ナンナは恐怖のあまり手当たり次第に手近なものを投げつけ始めた。
 椅子だの。
 机だの。
 台所に入るのが怖いのでリビングから。
 しかし目をつぶっているので、全然明後日の方向に飛んでいる。
 ジーンは素早く瑛を抱え上げるとリビングから庭へ出た。
「こ…これ……は……」
 シヴはただただ息を呑む。奴に出会ったのはこれで何度目だろう、この世でもっともおぞましいフォルム。
 どんなタクトニムと出くわしてさえも、のんびりお茶を啜るゆとりを忘れなかった彼女が、唯一受け付けなかった奴である。頭ではわかっていても、生理的にダメなのだ。全身が総毛立つ。膝ががくがくと震えて逃げ出したいと全身が叫んでいる。
 しかしシヴはその極限状態で言ってみせた。
「ど……どうやって料理しましょう……」
 そうだ。こんなものでも彼はこれを『大事な食材』とのたまうのだ。彼への思いが恐怖に打ち勝ったのか。
「は? 何言ってんの、姉貴」
 メイリは我が耳を疑った。
「大事な食材ですものね。何としてもゲットしなくちゃ」
 シヴは自分に言い聞かせた。そうして必死で奴を睨み据えながら奴の調理法を考え続けた。恐怖の思考を、楽しい料理で上書きしているのだ。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
 メイリは最早開いた口が塞がらない。姉の迷走ぶりにどうしていいかわからなくなった。姉貴は好きだ。姉貴の作った料理も好きだ。しかしアレを使った料理を自分は好きになれるだろうか。それ以前に食べられるだろうか。考えただけで胃が痛くなってきた。アレを食べる……。
 その時、ナンナの投げた机がメイリの後頭部を直撃した。
 メイリの体が傾ぐ。
 ナンナは見えていない。
 スピラエの上着探しを強制的にさせられていたらびーが、廊下の向こうの個室で上着を見つけて、かすかに聞こえたシヴの悲鳴に、リビングへ戻ってきたのは、そんな時だった。
「ナンナちゃんだめよ! メイリちゃんが!!」
 らびーが倒れたメイリを助け起こす。
「気の毒な奴」
 スピラエはエプロンドレスを着替えながらメイリを暖かく見守っていた。
 何となくボキちゃんに慣れてしまった感のあるスピラエである。別段慌てた風もなく、マグナムの残弾を確認して彼はキッチンに向かった。
 しかしやっぱり彼は構えた弾を撃ち込む事は出来なかった。ついでにいえば、やっぱりそれの映像も撮り損ねた。
 らびーがシヴの前に立ちはだかるボキちゃんに気付いたからだ。
「ぎっやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!」
 野太い悲鳴がゴミ屋敷を揺るがした。
 らびーは高機動運動で動いた。
 一心不乱にボキちゃんを叩きのめす。
 シヴが止める暇もなくまたたくまにボキちゃんは潰れてしまった。放送コードにひっかかりモザイク処理が必要なほど原形を留めていないソレにシヴがぼそりと呟いた。
「ハンバーグになら出来るかしら……」
 そんな姉の言葉を最後にメイリの意識は急速に遠のいていった。





 ■Last Stage■

「ねぇ……あれ、雨雲かしら」
 リマがぼんやりセフィロトの天井を見上げながら言った。
「何言ってるんですか。このセフィロトは屋内ですよ。雨なんか……」
 と言ったクレインの口が『か』の形で固まった。
 普段、薄暗いセフィロト内を更に暗くする謎の影が視界に入ったからだ。
 確かに、雨雲のように見えなくもない。
 だが、徐々に近づいてくるにつれ、クレインは無意識に生唾を飲み込んでいた。
「あ…あれ……まさか……」
 メイが紅茶の入っていたティーカップを思わず手から滑らせてしまう。テーブルの上に紅茶が広がったが、誰も、そんな事は気にもとめすらしなかった。
「1匹見たら、30匹……」
 クレインがぼんやり呟いた。
「何匹見た?」
 リマが尋ねる。
「寝室で1匹。子供部屋は……20匹くらいいたかしら」
 空が答えた。
「じゃぁ、あれは少なく見積もっても600匹くらい?」
「何が?」

 ――1匹見たら30匹。それがボキちゃんなのである。

 それは天井を暗く覆うほどのボキちゃんの大群だった。
 クレインもリマもメイもただひたすら息を呑む。
「あの数、相手するの面倒だし、さっさとトンズラしよう」
 空が言った。
「うん……」
 リマも頷く。
「いやぁ〜〜〜、もう、やだぁ〜〜〜!! 帰りたい〜」
 メイは立ち上がるやいなや、泣きながら駆け出そうとしてイスに足を取られて転んでしまった。
「一応、中の皆さんにも伝えた方が……」
 そう言ってクレインはリビングに声をかける。ボキちゃんの大群が近づいている、と。
 するとリビングの一番手前にいたシオンは部屋を出て、ティーカップに大量の砂糖を溶かして再びリビングへと戻っていった。
 クレインはそれを半ば呆気にとられて見守っていた。
 シオンの頭の中身はこうだった。
 このままサイバーアイの不調を理由に転んで、この砂糖たっぷりの紅茶をらびーにかける。するとボキちゃんが甘い香りに誘われるようにらびーに群がる。そこへC4爆弾を投下する。らびー駆除完了――完璧な策戦であった。
 だが、彼はサイバーアイの不調ではなく、ふいに出されたトキノの足によって転んでしまった。
 ティーカップは転んだシオンの頭上に飛び上がり、中身はシオンに降り注いだ。
 折りしもシオンは黒のレザーのロングコートを着ていた。
 らびーは恐怖で目を潤ませていたので、見えるものの輪郭が滲んでぼやけていた。
 そこに黒光りする何かがある。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 シオンの悲鳴が轟く中、トキノはスピラエに、クレインはゼクスとシヴにボキちゃんの大群の事を話した。
 ジーンがナンナをなだめて外へ促す。そこに倒れているメイと瑛を抱き上げると彼はナンナと共に走りだした。
 既にリマと空は退避している。
 ゼクスは背中の荷物のどれ一つ減らせないと駄々をこねていた。
 クレインは暫く説得に努めたが、背中のゴミを選別し始めたゼクスに、時間がかかりそうなのを察して「急いでくださいよ」とだけ言って先に屋敷の外へ出た。
 シヴはメイリの頬を腫れあがるほどひっぱたいて叩き起こすと2人で外へと走り出す。
 ボキちゃんの大群が近づいていた。
 ヘルズゲートへ皆走った。
「まだ、中にシオンさんとらびーちゃんがいるのでは」
 ナンナが言うと、トキノはナンナを手で制して「安心してください」と言った。
 それからおもむろにC4爆弾をゴミ屋敷に向かって投げたのである。
 爆音は離れたここまで轟き、爆風は彼らの髪をうしろへとなびかせた。
「ああ、シオンさん、らびーちゃん!!」
 ナンナが叫ぶ。
 トキノは一仕事終えたような清々しい顔でゴミ屋敷の方を眺めていた。
「ま、何て言うか、ある意味いつも通りよね」
 空が言った。
「うん……」
 リマが頷く。
「そういえば、ゼクスさんは間にあったのでしょうか」
 クレインが言った。
「…………」
 トキノがクレインの顔を振り返る。それからばつが悪そうにそっぽを向いた。
「やっちゃった……」
 ぼそりとスピラエが呟いた。





 ■Ending■

 その日ジーンは2つの機能停止寸前のオールサイバーを抱えてルアト研究所に帰ってきた。
 ちなみにゼクスはゴミに埋もれていたおかげで何とか一命をとりとめ、治療ESPでピンピンしていた。ゴミの中から救出してやると、彼はありとあらゆる悪態を吐きながらもほったて小屋に帰っていった。
 ゴミ屋敷にあるレアアイテムとゴミ屋敷の謎に関する土産話を期待していたエドは、ジーンが抱えているそれに、不満そうに言った。
「もっといいものはなかったのか?」
 だが、言葉の割りに目は楽しそうに歪んでいた、という話である。





 ■大団円■



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0233/白神・空/女性/24歳/エスパー】
【0295/らびー・スケール/男性/47歳/オールサイバー】
【0375/シオン・レ・ハイ/男性/46歳/オールサイバー】
【0641/ゼクス・エーレンベルク/男性/22歳/エスパー】
【0712/メイ・フォルチェ/女性/11歳/エスパー】
【0648/シヴ・アストール/女性/19歳/一般人】
【0727/メイリ・アストール/男性/16歳/一般人】
【0289/トキノ・アイビス/男性/99歳/オールサイバー】
【0758/スピラエ・シャノン/男性/22歳/ハーフサイバー】
【0579/ナンナ・トレーズ/女性/22歳/エスパー】
【0474/クレイン・ガーランド/男性/36歳/エスパーハーフサイバー】
【0677/姫・瑛/女性/7歳/エスパー】


【NPC0124/マリアート・サカ/女性/18歳/エスパー】
【NPC0103/エドワート・サカ/男性/98歳/エキスパート】
【NPC0104/怜・仁/男性/28歳/ハーフサイバー】
【NPC0250/ボキちゃん/無性別/???歳/タクトニム】

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。