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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


【破滅への使者】血ニ狂フ狩人ノ夜想曲


潰れた遺跡。
潰れた神殿。
その話を酒場で聞いていた黒服の男。
注がれた酒を一気に飲み干すと、その話をしている男達の下へと歩み寄った。

「おい」
「な、なんだよ?」
「その話は本当なのか?」
「神殿が潰れたっていう話かい?あぁ、本当だとも。女が潰したんだ」
その話を聞いて、その男の眉がピクリと動いた。
男は気にせず話を続けている。
「女?お前…それを見たのか?」
「あぁ、この目でしっかりとな!ありゃ気味の悪い女だった!緋色の瞳だぜ!?」
「緋色の瞳か。お前にはそれが不気味に見えたのか」
「あぁ、見えた!あれは不気味だった!」
「ならお前の目にはこの紅の目もさぞかし不気味にみえるのだろうな?」
「へっ?」
男が振り返った瞬間の出来事。
黒服の男の腕が微かに動いたと思うと、話していた男の首が綺麗に飛んだ。
ゴロリと転がり落ちる音。
ざわめく酒場の人間達。
冷静なまま、その首を見下ろす黒服の男。

「静寂の君を見た者には災いを…そしてその君を貶した者には死を。貴公には死しかなかったわけだ」
「おい、お前!こんな所で何を…!貴様が殺したのか!?」
「捕まえるか?ならば殺すだけなのだがな?貴公に俺が止めれるとは思えん」
そう言い残すと、男は黒のコートを翻し酒場の出口へと歩きはじめた。

酒場の主の話では……。
数人の腕のたつ男達がその男に向かっていったらしい。
しかし、皆無残にも殺されてしまったそうだ。

その男は去り際にこう語ったという。

「俺の名はカイル。全ての愚民に等しく滅びを与える者。君の邪魔をする奴は何人たりとも生かす事はない」

正気とは思えなかったそうだ。
人の返り血を浴びながらも冷静でいられるその男は。
まるで人を殺す事を楽しんでいるに近いと。

それから数週間たらずでその酒場がある街に噂が立った。
人を喰らうバケモノが夜、現れるという……。


「本当に、カイルなんだろうか…?」
そのバケモノの噂を聞きつけ、お気に入りのバイクで街へとやってきたアルベルト・ルール。
「さぁね? 私は彼を知らないから何とも言えないけれど、興味はあるわ」
アルベルトに誘われ、一緒にこの街へとやってきたジェミリアス・ボナバルト。
風の噂を聞いたのはつい最近だ。
行方不明になっていたカイルがこの街にいるかも知れない、と聞いたのだ。
彼を探している人物もいる事なので、2人は探さなくては…と思い来たらしい。
「でも、どうやって探すの? 手分けするにしても私は彼の顔を知らないわ。貴方だけが知っているのでしょう?」
「そうだなー……とりあえずその騒ぎが起きた酒場へ行こう。本当にカイルだとはあまり思いたくない…!」
「(…そうね、あの子は人を嫌えない…だから信じたいのでしょうね…)」
こうして2人は事件が起きた酒場へと急いだ。
その酒場は街の裏の顔とも呼ばれている地域に建てられていた。
今もひっそりとしており、人の賑わう声すら聞こえない。
それもそうだろう。ここで人間が数人殺されているのだから、誰も怖くて近寄らないだろう。
「すいません」
「いらっしゃい。珍しいな、客だなんて」
「いえ、私達は客ではないのよ。……酒場にしては人がいないわね?」
「そりゃバケモノが来る店では誰も呑みたがるわけねぇよ」
小さく溜息をつくマスター。
その話を聞きたくてここまで来た二人からしてみれば、あまり聞いてはいけないのだろうか? と悩むところではあった。
だが……カイルの事もある、聞かなくてはならないだろう。
「その事件さ、詳しく教えて欲しいんだけどさ?」
「あの事件を調べてるのかい? 止めた方がいい、あんなバケモノを相手にするだけ命の無駄だ」
「それでも聞きたいんだ。もしかしたら俺の知り合いかも知れない、だったら俺が止めなきゃなんないんだよ」
「だが……!」
「大丈夫、彼は死なないわ。彼もまた、バケモノみたいな力持ってるし…ね?」
ジェミリアスがクスクスと笑ってマスターにそう告げると、マスターも観念したのか小さく首を横に振った。
「物好きな奴等だな…」
「ははは…お礼といっちゃなんだけど、ここで少し飲ませて貰うからさ。話、聞かせてくれよ」
「あれは、満月の夜だった。珍しく月が紅いから、何か起こるんじゃないかと思ってたんだが……何時も通り、客が賑わうだけの酒場だったんだ、ここは」
酒が入ったグラスを2人に差出しながらマスターは話始めた。
紅い月の夜、何時も通りだったこの酒場に一人の見慣れない男が客として来た。
その客は、不気味なぐらい静かだったが害を成す様子ではなく、黙々と飲んでいたという。
「けどな、様子が一変しやがったんだ。ゴロツキどものたった一つの言葉でな」
「ゴロツキ…? たった一つの言葉…?」
「あぁ、そのゴロツキはな…以前変にヤバイ奴等に雇われて一人の女を襲ったって奴等だったんだが……失敗したらしくてな」
「女を襲った!? なんてヤツだ、そいつ等…!」
「しかも、セイレーンの神殿で銃をぶっ放したらしくてな。バチアタリもいいところだ。っと…話がそれちまったな」
「(あの神殿で…? まさか、彼女を襲った人物か…?)」
「その男が言ったんだ。潰れた遺跡、潰れた神殿は緋色の瞳の女が潰した、とな。そうしたらその男、表情が一変しちまってな…まるでバケモノの目ェしてたぜ…」
マスターの話。その緋色の目の女というのはその男を探している人物の事だろう。
アルベルトは崩れたその場にいたのだから、其れは分かる。
だが、その男がカイルだという確証は何処にもない。
「その男、確かにカイルって名乗ったのか?」
「あぁ、確かだ。黒のロングコートに紅い十字架の絵柄! 忘れるはずはない!」
「…アナタの知り合いだったの、アール?」
「…みたいだ。何があってこうなってるのか、俺にはさっぱりだが本人に会うしか方法はないんだろうな」
「でも問題はその会う方法よ? 一体どうするつもり?」
「夜、外を歩いていると襲われるって話だ。会いたいんならそうするしかないんじゃないか?」
マスターがそう助言する。
ありがたい助言ではあるが、一部危険な賭けではある。
だがこれしか方法はない。
2人は其れを決行する事にした……。


――紅い月。
――静かな夜。
――獣は闇に踊る。
夜の街を2人は辺りを見回しながら、警戒しながら歩いていた。
「本当に彼はここに来るのかしら?」
「それは俺にも分からない。だが、マスターの話だと、夜道を歩いていると確実だって言ってたし…」
「いっそ、その静寂の君っていう人の話をしてみたらどう?」
「彼女の? いや…確かに其れが一番確実なんだろうけど…」
心配だった。
もしそれで誘き出せたにしても、話し合いが出来る状態ではきっとないだろうから。
そんな時だった。一発の弾丸が、アルベルトの足元を狙い放たれた。
「……ッ!?」
上の方からの発砲。
慌てて警戒しながらも民家の屋根の上を見上げる。
其処にはいたのは――
真紅の瞳を闇に浮かべた――
彼の姿だった――
「カ、カイルなの…か?」
「静寂が――…全てを生む――怒りも――悲しみも――歓びさえも――…!」
「どうやらあれがカイル、という人物みたいね」
「いや…それにしても雰囲気が違い過ぎる…!」
「全ては、ハルファスの為に…」
「ハルファス…?」
アルベルトは聞き逃さなかった。
ハルファス。其れは確か悪魔の名であったはず。
その悪魔の名を何故カイルが口走っているのだろうか?
やはり、狂ってしまったのだろうか?
「カイル、テメェ…! 静寂の君ってのはマイの事なのか!? あの酒場で言ったその言葉は本当にマイの事なのか!?」
「アルベルト、下がりなさい! 今の彼に何を言っても無駄よ!」
「でも…!」
「有害であるのならば排除する。それしかもう手はないんじゃないかしら? 気になる所は多々あるけれど、今は其れを言っているヒマはないわよ?」
2人の間に割って入り、ジェミリアスカイルらしき人物に忍ばせて置いた高周波ナイフを一本投げ、牽制する。
その間にアルベルトは体勢を整え、戦闘体勢へと入る。

――血の匂い。
――人の死の匂い。
カイルらしき人物と拳を交わした時、アルベルトは其れを感じ取ったのだという。
人ではない、獣のような目と合わせたその異様な匂いは、アルベルトの思考を更に掻き立てていった。
「(もし、これが本当にカイルなら……赦せよ!)」
拳を交わした後、カイルらしきその人物は身軽にアルベルトへと振り返る。
そのタイミングを見計らって、アルベルトがボディPKとサイコキネシスを駆使して、腹部に一撃重い拳を叩きこむ。
…鈍い音がした。
これは骨折どころではなく、砕けただろう。
「「『静寂の君』ってのは、マイの事か?お前、バカじゃないのか?あのマイが、他人を殺すのを望むかよ。初めて会った時……単に花を探すのを手伝っただけの俺に、大事な花をくれたマイが……ペットの砂ネズミが逃げたと悲しんだりするマイが……んな事を望む訳ねぇだろうが!」
アルベルトの激怒した咆哮のような声が夜空に響く。
「あの彼女が、静寂の君というのね? でもそんな感じはしなかった…。それと気になるの、ハルファス…何故貴方はその名を…? それと、屋根の上にもう一人いるわね…そろそろ高みの見物は止めたら如何?」
「ブラボー。そしてブラバー。貴公等に暴れる場面をとられてしまったなァ?」
パンパンという荒い拍手の音が響くと、アルベルトはハッとして上を向いた。
ジェミリアスは気配を察知していたようなのだが、アルベルトの方はぶちギレモードだった為、周囲に気配を配らせる事が出来なかったようだ。
そして、その屋根の上に乗っていた人物のシルエット。そして、聞き覚えのある声。
だがその声の人物はここで腹部を抑えのた打ち回っているのだが……。
「な……どういう、事だ? あっちもカイルで、こっちもカイル? 変わり身か!?」
「バカ。俺は本物だ、アルベルト」
「ほ、本物? じゃあ…」
「こののた打ち回っているのは偽者、とでもいいたいの?」
「うむ。アルベルトがこの街に来ていると聞いてテレパシーを送ろうとしたのだが、何だ…タイミングが悪かったのか心のカーテンが閉まっていてな。お陰で暴れられず俺はションボリしているわけなんだが」
屋根の上からふわりと降り、着地しながらカイルがぼやく。
アルベルトは目を点にしてのた打ち回っているのと交互にカイルを眺めているのだ。
「アナタがカイルね? なるほど、此方は狂ってはいないようね。でも、どうしてアナタの偽者がここにいるのかしら?」
「こいつは元々魔物だったンさ。つまり、皆が噂するようなバケモノ。…必要以上に静寂の君をつけ狙うオカルト集団が飼っている、な」
「オカルト集団? 飼っているって…どう見ても彼は人よ?」
「そう、人だ。人の姿をしたバケモノだ。人の思考を持つ、低級のバケモノだ」

そう言うと、カイル本人もそののた打ち回っている人物を蹴り飛ばす。
ゴロリといきおいよく転がると、更に苦痛でのた打ち回る。
傷に触るというか、しみるというか、響いているのだろう。
「カイル…よかった……お前があんなんになったら、俺骨折とかさせるしかなくてさ…マイも悲しむし、どうしよう?って…」
「はいはい、貴公は本当にキレたら手加減できないタイプなのは分かった。俺と同類な」
「お前と同類認定だけはされたくないぞ、無茶無謀男!」
「でも、気になるわ。ハルファスって言葉といい、あの人から放たれている匂いといい…」
「ハルフェスゥ?…なんだ、悪魔の名かよ。そんなもん熱心に拝んでるのか、実在もしないってのに」
「悪魔? 其れを崇拝していたというの?」
「その名を口走りながら人殺してたんなら其れが正解だ。ハルファスは死と破壊の公爵とされている悪魔だ。更には人肉が主食。…生贄にしてたんだろうよ、呼び出せるわけもない悪魔のな」
カイルがつまらなさそうに目を細めてそう言うと、今更ながらその女性、ジェミリアスとは面識がない事に気付くのである。
「アルベルト、こいつ誰?」
「ジェミリアス・ボナバルトよ。挨拶がまだだったみたいね」
「うむ。カイル・B・イェーガだ、見知りおけ」
「それよりカイル。マイがお前を探してたぜ?」
アルベルトがそう言うと、カイルは小さく溜息をついた。そしてやっぱりと小さく呟いたのだ。
「アイツ、方向音痴だし目は見えないしで自分が今何処にいるのか分かってなさそうだな…テレパシーしても錯乱して話にもなんねぇし…」
「は、はは……彼女らしいというかなんというか…」
「アイツを守る身にもなってほしいもんだ…」
「彼女を守る前に自分の性格をまず直せよ…」
「うるへぇ…」
「さて、お2人さん?他愛もない話はいいけどこののた打ち回ってる人どーするの?」
『自警団に放り渡せば?』
息ピッタリでそう言う二人を見て、ジェミリアスはおかしそうに笑っていた。
まるで本当の友達のような、そんな2人に見えるからでもある。
母としての歓びだろう。

「まぁ、そいつ等の始末は貴公に任す! 俺は暴れられなかったウサ晴らしでもしてくる」
「カイル! 彼女探してやれって…!」
「どうせすぐここに辿りつくだろ? …それより、そのミサンガ。…誰にも渡すなよ? 渡したりしたらぶっ飛ばす」
そう言い残すと、カイルは欠伸をしながら夜の街へと消えて行くのだった。

そんな彼を見送ると、ジェミリアスはのたうち回る人物の首根っこを引っつかみズルズルと引きずりながら歩き始めた。
「いい友達を持ったのね、貴方は?」
「ん? カイルの事? 確かにアイツとはダチみたいだよなぁ…。それよりも…そいつ、痛そうなんだけど…?」
「あら、呻き声が煩いかしら? 黙らせておくわね」

その日の夜。
男の絶叫が街中に響き渡り、その声の主は自警団に引き渡される頃には
ジェミリアスを怖がり、痛みを我慢しているわんこのようになっていたという……。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【0552】アルベルト・ルール/男/20歳/エスパー
【0544】ジェミリアス・ボナパルト/女/38歳/エスパー
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■         ライター通信          ■
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神無月鎌です、この度のご依頼ありがとうございました。
そろそろネタやりたいとじたばたしている鎌でございます。

毎回毎回こんなNPC寄りな物語に参加してくださり
マジ感謝感激しております(苦笑)
そろそろカイルのネタキャラっぷりを発揮していきたいと思いますので
その辺はご期待くださいませ(笑)

アルベルト様とカイル、友達みたいな状態になっております。
更にはジュミリアスは私の中ではS級に…(笑)

とてもお気に入りのお2人を書けて嬉しく思います。

またどこかでお会い出来る日を…。