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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録
『意外な出会い』

橘真斗

 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。


〜遭遇〜
「あ〜もう、どないしようなぁ……皆も酷いで、いまさら登録せーゆーのは」
 前のほうから深いため息とともにイントネーションが独特な日本語がスノウの耳に入ってきた。高いソプラノな声は子供だろうか?
 ここはビジターズギルドの受付けロビーである。屈強の男たちなどが『ビジター』としてセフィロトで仕事をするために必要な手続きを行う場所だ。
 壁は崩れかけていて、色もあせている。改装もせずにいるのはビジターは男の仕事という雰囲気がでるらしいと、どこかのメディアが取り上げていたことをスノウは思い出した。
 もっとも、女性ビジターもいるがごく少数だ。ましてや子供が入ってくるようなところではない。腕が無ければの話だが。逆をいえば腕さえあればビジターという職業に年齢は必要ないということにもなる。
「私よりも年下の子かな?」
 目の前は並んでいる傭兵じみた男たちで塞がっていた。体を右に傾けて確認する。ブロンドの髪がさらりと揺れた。ずれた眼鏡を手で戻すと並んでいる男たちの一番前にちょこんとポニーテールが飛び出しているのが確認できた。
「次の人どうぞ」
「あ、はい〜」
 受付嬢に呼ばれるとポニーテールが揺れながらカウンターに動いていくのが見えた。
「また後で話せたらいいな」
 体を戻しながら、スノウはそっと呟いた。人垣がどんどん流れ、スノウの番になった。ふぅと息を吐いて手に持っていたモバイルなどを持ちなおした。
 受付嬢は珍しそうな顔もせず、二コリと微笑むと丁寧に書き方の説明をしてくれた。
「これが書類です。必要事項を枠の中に漏れなく記入をしてくださいね? 登録が済むまで待合室の方でお待ちください」
 受け取った一枚の紙はスノウには重く感じた。必要事項といっても履歴書程度のデータである。この一枚の契約で、ビジターとなり生命保障は無いが、その代わり莫大な資金が稼げる道を勧めることになる。この地で生きるために必要なこと。
「ありがとうございました」
 受付嬢に一礼をすると、スノウは扉を開けて待合室のほうへゆっくりと足を一歩踏み出した。

〜回想〜
 待合室にはいるとサイバーボディをまとった男たちがタバコを吸っていたり、自分のサイバーパーツの自慢をしていた。エキスパートやエスパーもここにはいるかもしれないが、姿形が変わらないのでスノウでは見分けられない。
「サイバーボディってどうなのかな」
 スノウはエキスパートであり、鋼鉄の体を持っていない。五体が不満足でなったがゆえにサイバー化したものもいるし、望んで改造してもらうというものもいる。体を機械と連結する感覚はスノウ良くわからない。機械は弄るのは好きだが、それは、機械は機械、人は人として分けているからである。
 スノウは待合室のソファーに腰をかけて、受付からの呼び出しを待ち始めた。キィとスプリングが悲鳴をあげた。あれと思いソファーに手を伸ばすとずぼっと手がスポンジの中に埋まり体が勢いよく傾いた。
 驚いたが、気づかれないように体を元に戻し周囲を確認する。
 すると、金髪で片腕が銃の形をしたサイバーボディの男と目が合い、笑われた。
「ここはオンボロだから気をつけろよ、お嬢さん」
 葉巻を咥えた顔で、ニヒルにウィンクをしてその男は発行窓口へと向かった。
「タバコは所定の喫煙所で済ませてください」
 証書を受けながら男は指で葉巻の火を消すと、すたこらさっさとギルドから足早に走りさっていった。
「何だったのかなあの人」
 でも、優しそうな人だったな。と、スノウは頬を綻ばせてソファーの背に体重を預けた。ほこりが舞い上がり、古びた匂いが鼻に入ってくる。機械を触るのが好きなスノウにとってはこの古びた匂いが好きだった。思い切り息を吸った。
「そこのねーさん、何やってんの?」
 そんなとき、急に声を駆けられた。高いソプラノの独特なイントネーションをした日本語。
「貴方は?」
 顔を起こして声が聞こえてきた正面を見た。ポニーテールをしていて頬の星型のペイントが目立つ背の低いジャンパーに帽子を被った男の子に対して、スノウは少し恐る恐るとしながら聞いた。
「うちはアマネ・ヨシノや。よろしゅーな? ねーさん」
「私はスノウ。スノウ・ファーノよ。よろしくね、アマネさん」
 アマネはスノウ問いかけに笑顔で答えると、ズボンで手を拭いてから満面の笑みを浮かべて手を差し出した。それをスノウは深呼吸をひとつすると握り返すと微笑みを返した。

〜同調〜
「「乾杯」」
 商魂逞しくギルド内で営業をしている生ジュース屋台で飲み物を買い、二人で軽くカップ同士を当ててから喉の奥へ弾ける液体を流し込こんだ。
「ぷは〜、空調が壊れとるからこの手の飲み物はさいこーやな」
 口元にこぼれた雫を右の甲で拭ったアマネは満面の笑みをうかべてけらけらと笑いながら、スノウが座っている古びたソファーの隣へ腰をかけた。
「なんか、親父くさいよ」
 そんな、アマネの行動に頬を綻ばせてスノウは笑った。部屋にはいったころは気にならなかったが、確かに暑い。西欧生まれであるスノウには厳しい湿気を伴う暑さだ。汗が頬を伝い首筋から胸元まで流れ落ちた。ふと、胸元のシャツを摘んであごうとすれば視線が集中する。
 はっと、スノウは気づきいそいそと胸元を整えると俯いた。
 体の心から火照ってくるのがわかる。
「サービス精神豊富見たいやね〜。 あ、それってMSの制御ディスク管理用のモバイル?」
 にししと笑ったアマネの目線がスノウの手に持っていたモバイルパソコンにそそがれた。
「そう、私の全財産の一部よ。大切な……」
 スノウは目を伏せて、それを胸に抱きしめた。このセフィロトにきた理由がここにある。自分の過去に関するものがあるとは思っちゃいない。だけど、それ以上に興味のわく宝物がそこに眠っている。祖父がさがしていたものもきっと……
「そか〜、うちもうごかすんやMS」
 アマネは自分のモバイルを出して外観やスペックなどを見せた。
「お互いフレームがわからないくらい改造しているみたいね」
「せやね」
 外装のゴテゴテぶりを確認しあったあと、内装の話に移った。共にメカフェチと呼ばれる人種であるため盛り上がるのは早かった。
「スノウはんはMSバトルとかせーへんの?」
「まだ、こっちに着たばかりだし、様子見かな?」
 飲料を飲み干してアマネはダストボックスへバスケットのシュートのごとく狙いを定めて投げた。からころんといい音をして空き缶は吸い込まれた。
「よっしゃっ、今日は色々ついとるわ」
 アマネはガッツポーズを決めながら、ソファーから立ち上がり、スノウの前にたつと手をとった。
「こんな綺麗なねーさんと友達になれそうやしな〜」
「友達といってくれるの? ありがとう」
 突然の申し出に驚きながらもスノウはアマネの手をゆっくりと握り返した。
 初めての土地で出会ったはじめての仲間。それが何よりもスノウには嬉しかった。心なしか声が弾む。
「受付番号、20番〜40番までの方。発行が終了しましたので受付までおいでください」
 待ちにに待ったアナウンスが聞こえると、二人は手をつないだまま、軽い足取りで受付へと歩き出した。

〜その後〜
「きぼちわるい」
 アマネは口元を覆いながら、トイレから出てきて洗面所で口をゆすいだ。
 鏡を見たが、自分には見えないくらい酷い顔をしていた。
 昨夜は受付をすませて、そのまま所属チームのメンバーを紹介して酒場で飲み明かしたところまでは覚えていたのだが。
「あかん、調子に乗って飲みすぎたわ」
 洗面所で口をゆすぎながら、ぎんぎんと鳴る頭を抑えながら呟いた。
「しかし、あれや……何か忘れとるような」
 思い出そうと考えるが、ぐらぐらと揺れる感覚と吐き気がこみ上げてきてまったく思い出せない。
「えらい重要なことやったはずなんやけどな……なんや、うぷっ」
 アマネは思考を遮断し、吐き気に悩まされ続けるのであった。

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0753】スノウ・ファーノ
【0637】アマネ・ヨシノ

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 遅くなって申し訳ありません。久しぶりのパーティノベルでした。
いろいろと書き方を考えてやってみたのですがどうでしょうか?
 楽しんでいただけたなら嬉しく思います。
 データとして公式登録という形にしましたので、これをネタに新たな冒険に旅立っていただけたらと思います。
 それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。