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都市マルクト【繁華街】ヘブンズドア
また
珠洲
【オープニング】
いらっしゃいませ。ヘブンズドアへようこそ。
まずは一杯。貴方の生還を祝って、これはこの店のバーテンの私がおごりましょう。
貴方の心を潤す一杯になったなら何よりです。
さて、今日は誰かと待ち合わせですか? 愛する人と二人きりも良し、テーブルに行って仲間と語り合うのも良いものです。
それとも、今日はお一人がよろしいでしょうか? そうとなれば、貴方の大切な時間を私が汚してしまった事を許してください。
さて、それとも‥‥今日は何かを抱えて店にやってきた。辛く苦しい事。重苦しく、押しつぶされそうで‥‥
そんな時は、誰かに話してみてはどうでしょう? こんな私にでも話してみれば、少しは心が晴れるかも知れません。
夜の時間は長い様で短い。せめて、その一杯を飲み干すまでは、軽やかな心で居られますよう。心より願っておりますよ。
** *** *
常ならばそこは、真砂朱鷺乃という人間にとっては背中越しに喧騒を聞きながら食事を取り時間を潰す、それだけの場所だった。
それが滅多にない感情――人恋しさと言う程ではなくとも多少の会話を求めた結果、店内を見回した視線を目敏く拾った酔っ払いに絡まれ、断りの言葉が相手の好みではなかったのか断らせるつもりもなかったのか押問答がいまや口論となっている。いや、口論という段階も通り越しつつある状況を朱鷺乃は冷静に捉えていた。
(殴られた方が早いかしら)
幸いというべきか、自分はハーフサイバーだ。常人よりは多少なりとも頑健なのだから話も早く片付くだろう。そこまで考えて赤い瞳を眇める。
しかし同時にハーフサイバーであるからこそ、生身の酔っ払いに力で訴えることが出来ないのではないか。ESPだけならば平手なりには影響はないというのに。
(光――は他の人にも迷惑がかかるし)
視線を向ける照明は店内に広がる雑多な煙でうすぼんやりと霞がかり、ちらりと時折埃が明滅する。いつものようにさっさと一人で食事を摂れば良かった。
「聞いてんのか!」
「聞いてる」
訪れた頃の自分をいささか悔やんでいると、問題の酔っ払いが朱鷺乃の肩を掴んで怒鳴る。咄嗟に身体を動かして振り解くと相手の赤ら顔がまた歪んだ。
良くない。
離れた場所で連れと思しき数人が先程から囃し立て始めていたのが、それにも飽きた様子でこちらに来ようとしているのが見える。
殴られて相手が僅かばかりも冷静になる隙を狙うか、早々に背を向けて去る可能性に賭けてみるか。
選択肢を確かめる間に連れらしき者達がついに立ち上がった。うんざりとした気持ちでそれを見て取る。
「他を当たった方が」
有意義でしょう、と言って黒髪を揺らし距離を取ろうとした朱鷺乃の動きと。
逃走を察した――酔っている割には勘が良い。泥酔ゆえに逆に、だろうか――男がついに腕を掲げて拳を握るのと。
「はいチェンジ」
それから、あっさりした聞き慣れない声が大きな背中と一緒に現れるのとが同時だった。
瞬間に朱鷺乃が足を止める。再び伸ばされかけていた片腕を避けつつ動いていたのを急停止する形で、ぐらりとバランスを崩しかける中で見えたのは現れた背中の向こうで件の酔っ払いが軽やかに飛ぶ姿。
朱鷺乃が殴られるのに割って入って、それから殴り飛ばした。
気付くのはすぐだったけれど割って入った男を確かめるより先に必要な行動がある。
崩れた体勢を立て直して、と意識より前の反射を遮ってそれも誰かが。
「ありがとう」
「いや。ちょっと待ってろ」
支えてくれた相手に礼を言いながら立ち直り、振り返った先に切れ長の深い黒瞳の男性。
女性としては長身の部類である朱鷺乃との目線の差がある。相手もなかなかに背の高い人物のようだった。それからその背の高い相手が見た先の男性も。
「あの」
「すぐ戻る」
物怖じする訳ではないが見知らぬ相手にそう遠慮なく話しかける習慣もない。
短く言い置いて先の男の辺りへと向かう黒髪の男を見送った。
――自分を支えた一瞬、彼が息を詰めたように聞こえたのは気のせいだろうか。
さて、朱鷺乃と酔っ払いの間に入ったのはレオン・ユーリー。
彼がにこやかに相手の拳を捕らえて返した結果、目の前で見事に相手は他所のテーブルに突っ込んだ。席を立ったばかりのテーブルには食べた後の皿だけで人は居ない。
騒ぎの拡大は免れた様子に倉梯葵は胸中で息を吐く。
ちらと振り返った先で、先程受け止めた若い女性がいささか困惑した様子でこちらを見ている姿があった。面倒事を止めてやったのは理解している風であるし名乗るのはまずこのなかなかに喧嘩好きな男を抑えてからでいい。
「美人にゃ優しくしてやるもんだぜ」
近付く間にもレオンの下ろした腕の先、小さく軽く指の関節を鳴らす。締まった肘先の筋が指先の動きに少しだけ動いた。
一際鮮やかに浮かび上がる銀髪の中の赤い一房。
流石に気色ばんで立ち上がる、殴られた男の知り合いらしき者達。子供のように目を輝かせているレオンの顔を思い浮かべてみるのは葵には至極簡単だった。
そこそこの量の料理を前に酒を傾けていたのはついさっきであるのに、本当にこの手のことには目敏い。そんな気分で何気なく身体を屈めると転がったフォークを拾い上げる。それから軽く握り込んだそれを、銃を取り出したばかりの相手の一人にすいと突き付けてやった。
「酒の所為で済ませたいだろ――押し付けるなレオン」
「なまってねぇか確かめてやったんじゃねーの」
はっは、と妙にリズミカルに笑うレオンの前で倒れている男は増えている。
相手の連れだけではない気もするが、危惧していた程の騒ぎには発展していない様子によしとすることにした。出来ればなるべく酒場に来辛い収め方はやめておきたいのだが。
『美人の危機だ』
『ん?……ああ』
あれか、と目線でレオンが示した先に居たのが真砂だ。
二人で酒を飲み交わしつつ胃を満たす。習慣のような頻度の食事会というか酒盛りの中で丁度、最近の仕事の平和さを嘆いていたレオンが気付いた面倒事。
「フォーク一本かよ葵」
「抜いたら同じだ」
「そりゃそーだが、いやなんかこー……」
ヤル気が感じられないんじゃ、とぶつぶつ冗談めかして言う彼が嬉々として関与するだろうとは見た時点で気付いた。仲裁は良いが、身体を戦闘関係で動かすことがご無沙汰だったレオンが余計な被害を出したりしないようにと葵が続いて席を立つ頃には、絡まれていた女性と酔っ払いとの遣り取りは喧嘩腰以外の何者でもなく。
「じゃあ後始末は店の仕事、っと」
「……殴りに入っただけか」
「美人の救出が第一だぜ相棒」
踵を返して戻りざま、葵の肩をポンとひとつ叩いて笑う。
発散を兼ねていたとしても、元の目的はそうだろう。レオンの人の良さを葵が知らないわけでもないし、割って入った後は酔っ払い相手ばかりだったのは葵がまず女性を保護するだろうとふんでいたからだろうし。
その辺りは確認の必要もないが――フォークをテーブルの上に放り出して響く硬い音。聞きながら葵は綺麗に意識を失っている男達と、銃を構えようとしていた男とを見るとまたひとつ息を吐いた。
通りの方向からがやがやと何事かの声。
店員か用心棒の類かあるいは自警団か、どれにしても行動の遅いことである。
** *** *
銀髪の、一房赤いメッシュが目を引く男性が「楽しいです」と顔に大書きして歩み寄って来たのを朱鷺乃は少しだけ緊張しながら見詰めていた。
絡まれていた自分を助けてくれたのは確かだが、流石に同じ展開に至る可能性が皆無とも限らない。そう考えずにはいられなかったけれど、間近で――ただしテーブルを挟むだけの幅を取って――見下ろす相手の瞳がぼやけた照明にきらきらと瞬いているのに足裏から力を抜いた。
酒に濁ったものではなく、どこか都市マルクトの中で駆け回る子供と通じるものがある。
だから「災難だったな」とそのままの距離で言われた真砂は苦笑すると、自分からテーブルを少し迂回して距離を詰めた。
「ありがとう。どうしようかと思っていたから」
「そりゃよかった。食事取れてなかっただろ」
「ええ、まあ」
腕を組んでレオンがちょっと納まり悪く笑う。
楽しそうにしていたとは思うけれど実際助かった。
「それで、あー……っと、俺はレオン・ユーリー。レオンで」
「真砂朱鷺乃。どちらでも」
「じゃあ朱鷺乃。ボディーガードはどうだ」
唐突な言葉にボディーガード?と繰り返すとわざとらしくレオンは重々しげに頷いてみせる。すぐにその作った重さは消えるのだけど。
「お前さん、食事くらいのんびりしたいだろ?」
「……ええ、そりゃあ」
「だったらここにうってつけの人材が。報酬は一緒のテーブルでどうでしょうお客さん」
酔っ払っていないだけで先程と結局は同種かと瞬間的に思ったが、続いた言葉にまたその気持ちも失せる。親指で示すテーブルは良い具合に喧騒から距離を取れる位置にあり、料理も酒瓶も綺麗に並んでいた。
丁寧に誘いかけるレオンの顔を見ると眉を上げて楽しげにされる。
誘われるようにしてくすと笑いかけたところでまた声が増えた。
「恋人持ちが何をやってる」
「浮気じゃないぜ」
「だろうな」
よろけた真砂を支えた男性だった。
黒髪の、レオンに比べてそっけない鋭さの瞳が覗く。
「アレは連れな。倉梯葵。で、こちらの美女は真砂朱鷺乃嬢……聞けよ」
「聞いてる。真砂でいいな」
几帳面であるのか飛んできていた皿を拾って手近な空きテーブルに置く。
頷く朱鷺乃の前で彼は早々に皿を回収に来た働き者の店員に向き直る。低く最小限の声量の声からグラス、という単語を拾ったところでレオンがすいと腕を伸ばしたので意識が向かう。
「さて、お雇い頂けましたらこちらへどうぞ」
言ってから咽喉で笑うから、今度こそ朱鷺乃も笑みを誘われた。
その背後でカチリと小さな音。
グラスと酒瓶を片手の指の間でしっかりと捕らえて葵は朱鷺乃が腰を下ろす頃に椅子を引くと静かに座る。つと目が合う。レオンがちょいちょいと皿から料理を小分けに取る姿が――なんと当人にその気がなくとも奢ってまでくれる様子だ――視界の端でちらちら動く間に改めて互いを見る。
「真砂は」
先に口を開いたのは葵だった。
朱鷺乃の前に料理を取り分けた皿を置きながら「お」という形にレオンが口を動かす。一瞬だけ。
「ハーフサイバーなのか」
「え?……ああ、そう。ハーフサイバー」
エスパーでもあるけど、という補足は珍しくもない。セフィロトで日々を送れば様々な人間に出会うものだ。
葵が何故気付いたのかと訝しんで、しかしすぐに思い至った。
レオンがまず酔っ払いとの間に割って入ったときによろけた自分を支えてくれたのだ。ならば重量で判別したのだろう。
そうか、と呟いて酒で唇を湿らせる葵に朱鷺乃が今度は問うてみようかとふと思う。
オールサイバー程には顕著でないハーフサイバーの民間人との重量差を一瞬で判じた彼は、親しい相手にハーフサイバーがいるのかと。それは些細な、他の会話に至る切欠程度の筈だったのだけれど、葵の変化のない表情とレオンの瞳に結局飲み込んだ。
何か、あるのだろうとは出逢ったばかりの朱鷺乃にも察せられたから。
「事故に遭ってハーフサイバーになったらしいの」
だからハーフサイバーという言葉から繋がるものとして、代わりに自分の現在の身体になった理由を軽く話すことに代えた。ごく軽く話すならば身の上話程でもなく自然だ。
「らしい?」
「記憶がなくて」
「ああ、成程」
あっさりと頷くレオンの隣で葵は静かに朱鷺乃の言葉を聞いている。
対照的な色彩の置き方の二人だと見比べて思った。
それなのに声のトーンは不思議と近いとも。
話し方はまるで違うのに、どこか冷静さの残る声音。
言葉を投げ合う間に自分の身体は寛いでいるとなんとなし、感じたよう。
――似ていない。まるで違う。
楽しそうな、例によって家族や近しい人々に重ねているのかもしれない友人の声を聴きながら葵は朱鷺乃を見る。
真砂朱鷺乃。赤い瞳。口調は柔らかさを捨てがちの相手によっては(先刻の酔っ払いのように)愛想が無いと取って勝手に機嫌を損ねそうな風でもある。今レオンの話に相槌を打ち時に考えを言う姿は笑みを薄く湛えがちで、常日頃から柔らかい言動を取る人間ではないだけなのだと思われる女性。
手早く片付けられた先刻の騒ぎの辺りは既に別に人間が居るのをちらと見る。
あのときに支えた感覚からハーフサイバーだと判じ、けれどそれだけで今自分が彼女に抱く既視感――力無い華奢な一人を亡くしたときの重みとかぶるのか。
けれど同じであるのは生身ではないが故の重量だけだ。他には何も。
(何故だろうな)
奇妙に重なる印象を訝しく思いつつも、葵は朱鷺乃へと顔を向けて話しかける。
そのときの自分の感情はけして感傷の類を混ぜてはいないと確かめながら、街角に立つ女達とは異なる媚のない言葉を聞いて。
感傷はなく、そしてどこか気にかかる。話し方だとか仕草だとか、それらの間の取り方が葵にとって居心地の良いものなのだろうとは自ら判じながら、けれど明確な言葉には出来ない感覚で。そのまま朱鷺乃と会話をしていた。
それをまたレオンが興味に瞳を深く染めて眺めている。
仲裁に入ってついでに多少の発散もした彼が誘った女性――けして浮気ではないと誓って言う。彼には最愛の女性が既にいるのだから――に短いながらぽつぽつと声を掛けては返されて、また返す。その遣り取りに口を挟みつつ。
普段の倉梯葵という人物は、誰かになんやかやと話しかけることはない。
必要な事を必要な分だけ。
そういった類だった筈で、レオンといればそれは尚更であることが多かった。
なのに今は自分の目の前で真砂朱鷺乃という女性と会話を続けている。
珍しい、と考えながらグラスに酒を追加して一息に呷るとぱちと目を瞬く朱鷺乃と呆れた風の葵が揺れるアルコールに見えておかしい。
「強いんだ」
「味わう事がない」
「そう?」
「いつもあれだからな」
自分の飲みっぷりをネタにまた会話が続く。
いいじゃねーか、と愉快に思いながら「味にゃ煩いぞ」と訂正だけしておくレオンである。
席に招いた当初はレオンと朱鷺乃の遣り取りが殆どだったのに、気付けば葵と朱鷺乃の淡々とした遣り取りになっている。なんて珍しい姿だと店員に氷を頼むレオンは考えるばかりだ。
(悪くねーな)
ピリと舌を刺す辛味はどこの辺りの料理なのか。
咀嚼しつつレオンは朱鷺乃についてそう思う。
きっと、今日だけの関わりでなければ良好な関係を築ける相手の筈だ。距離を誤らなければ信頼の置ける友人となれる。お互いに。
そして悪くないというのは自分とのそういった予想できる友情ではなく、葵との。
どこか通じるものがあるようにレオンには感じられて今日の一件がひとつの出逢いとして、先に続くものであればいいと感じるのだ。
「基本的に拳がまず出る男だからな」
「喧嘩のひとつやふたつ」
「妹に一度過去を遡って貰え」
「…………」
とはいえ所詮は人の感情に拠るものであるからして、自分は期待してみるだけだとレオン・ユーリーは笑う朱鷺乃を見ながら胸の中でひとつ呟いておく。
** *** *
絡まれたときには稀なことは考えるものではない、と悔やみもしていたけれど結果的に気持ちの良い人々と出逢えた。これは幸いというべきか。
普段よりも多目に食べてしまったのを実感しながら冷水を咽喉に流し込んで朱鷺乃はふと吐息する。
傭兵と元傭兵。長い付き合いなんだと互いを軽くけなしさえしながら親しげに話す二人は今も酒を傾けているが、酒量の程はどれだけになっているのだか。
「レオンさんだけじゃなくて、倉梯さんもかなり呑むのかしら」
「こいつに付き合うとな」
「ちびちび舐めてんじゃねーよ」
問うてみれば、どちらも冷静さを持って話すのにレオンは陽気な色が表にかぶさってまるで違う。葵は突き放す感じにも取れそうで、あるいは自分と似ているだろうか。
レオンの好意は解りやすかった。
自然な様子で気を遣い話しかけ、唐突な相席に戸惑わないようにと賑やかしてくれる。大家族という彼は面倒見が良くてその辺りで染み付いているようだ。
けれど葵は、と彼を見る。
「どうした」
一見して判じ辛い気はするが、今のように視線を向けるだけで察して問いかけてくることを思えば彼も人の面倒を見るのは上手そうだ。
ええ、と曖昧に返す。
朱鷺乃の言葉を待つ葵の切れ長の瞳が印象深い。
「そろそろ」
「ああ」
あるいは、波長が合う、とでも言うのかもしれなかった。
まとう空気、動作の速さ、声のトーン、何が一番の理由であるかは解らず当然言葉にも出来ないけれど、倉梯葵という人物は真砂朱鷺乃にとって何某かの興味を引く存在だと思われる。
会話を拒絶はしていなくとも、二人並べば基本的にはフレンドリーなレオンに話すことの方が多いはず。であるのに気付けば葵との会話はレオンとのそれよりはるかに多く、――そしてレオンはやはり瞳に照明を映しこんで瞬かせつつ愉快そうに朱鷺乃達を眺めては言葉を挟んでいた。
相手も似たようなものなのかと感じたのは、訝しげな様子をときに見せながらすぐにそれを消す姿が繰り返されたからだ。誰かを重ねでもしているのかと思えば自ら否定するように一度目を閉じて酒を飲む。違う、とそれを見て朱鷺乃は。
「家は」
「大丈夫」
「そうか」
席を立って店の外を一度確かめに行くレオンの背中を見送ってから、傍らの葵を見上げる。すぐに視線に気付いて目で問う彼。
「料金を」
「気にしなくていい」
「でも」
「どうしてもと言うなら肴になりそうなものでも頼んでおいてくれればいい」
どうせ代金は控えちゃいないしな、と冷めた語調で親切な言葉にならばと頷いた。
この手の遣り取りは押し問答になるものなのだから。
戻ったレオン共々に見送られてから店を出る。昼夜の別はこのセフィロトの中にはさしてありはしない。ぱちとどこかの線が疲労を訴える音を聞きながら朱鷺乃は住居へと足を向けた。
数歩進んでから一度店を振り返る。
律儀に二人が見送っていて、レオンがひらりと手を振ってそれから並んで戻っていった。
『気をつけてな』
そう笑ったレオンの隣で静かに葵が言う。
『またな』
不思議と、その再会を前提にした言葉に唇は綻んだ。
「また」
だから再び歩き出す前に朱鷺乃は、別れ際に返した短い言葉をもう一度呟いたのである。
どこか懐かしささえ感じる彼らとの遣り取りに気持ちを寛がせながら。
また逢いましょう。
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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0776】 真砂朱鷺乃/18/女性/エスパーハーフサイバー
【0652】 倉梯葵/21/男性/エキスパート
【0653】 レオン・ユーリー/21/男性/エキスパート
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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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はじめまして、こんにちは。そしてありがとうございます。
ライター珠洲です。
それぞれに人との距離の置き方が違うんだろうなと思いつつ書かせて頂いたのですが、描写としてははっきり出ていませんね。
会話自体は少なめですが、大騒ぎではなく(レオン様も含めて)相手と調子を合わせながらの会話だったとライターはイメージしております。
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