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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


始まりの夜


 ボストン、田舎とも都会ともつかない古びた街の一角に、レンガ造りのビルが建っている。
 そのビルは古く、あちこちに小さなヒビが入り、それこそ大きな地震が起こるかMS装備の銃弾が一発でも当たれば崩れてしまいそうな、そんな雰囲気が醸し出していた。
 もっとも、それは見てくれだけを知っている者の場合である。
 このビルはアルビオーネ・ファミリーが所有する物件の中でも特に重要拠点として重宝されている、中心的な場所だった。
 古いレンガで覆われているものの中はしっかりと補強され、崩れそうな見せかけとは裏腹に、それこそ戦争拠点にすら使えるような頑強さを誇っていた。
 ‥‥‥いくら物騒な時代だからと言って、ここまでの補強が必要だったのだろうか?答えるとするなら、やはり必要だったのだろう。
 どう足掻いても、この時代では武装の持ち歩きを制限する事が出来ない。
 もちろんあまりに大きすぎる武装(MSとか)ならまだ良いのだが、体の中に重火器を仕込んだりしているサーバーが歩いていても、それと解らずにあちこちに出歩きしてしまうのが現状だ。
 ‥‥‥‥よって、多方からの恨み妬みを買いやすいファミリーの中心地としては、それなりの頑強さを求められたのだ。
 現在のように、各地方に散っている幹部達が一堂に会しているような時に襲撃されても保つように、と言う事である。もっとも、だからといって盛大に警備していては“怪しい事をしてますよ”と宣伝するようなものなので、警備事態はいつもと変えないようにしていたが‥‥‥

「‥‥‥‥やはりここはまだ期を見るべきです。あの場所のブラックマーケットは確かに魅力的ですが、それだけに既に何組ものファミリーが進出し、派閥を作っています。確かに我々の組織の名もこの大陸では広がっていますが、あの場所は別です。場合によっては、食われる場合も‥‥‥‥せめてもう一年、下準備を整えてから出向くべきです」

 そんな何時もと変わらない警備、いつもと変わらない古びた建物の中で、いつもとは変わった話し合いが行われていた。
 大きな長方形の卓に並べられた椅子は優に二十席以上。その全てに着席している者がおり、ざっと見渡すとそれなりに年を取った中年から老人ばかりである。
 皆、このファミリーに長年仕えて組織を盛り立て、尽力してきた幹部達である。年相応以上の風格と威圧感を持ち、広がったファミリーの各地域を統括する、ファミリーになくてはならない者達であった。
 そんな中、白いスーツに身を包んだ男が一人、忠告を発した幹部を片手で制していた。
 彼が手を翳しただけで、さらに何かを言おうとしていた幹部は口を閉ざし、その男の言葉を待つ。彼の名前はカルロ・アルビオーネ。組織の者ならば決して逆らう事の出来ない、忠誠を誓った組織の長である。
 先代から組織を受け継いでからまだ数年だったのだが、忠誠の揺らいでいた組織を数年の間に完全に掌握、今では誰もが信頼を寄せる長に収まったのだった。
 もっとも、彼の過去について詳しく知る者はいない。
 下手に調べようとし、信頼関係を崩したくないからだった。

「言いたい事は解らなくはないが、向こうにいる友人からの誘いだ、むしろ今を逃せば機会が無くなる。そもそもルートを確保するための麻薬、人材は既に調達が済み、高速船も購入し、向こうで拠点を開く用意すらいつでも出来る状態に持っていっている。何を恐れるのかね?食われる?そんな事、我々とて何度と無く行ってきている事だ。“虎穴に入らずんば虎児を得ず”‥‥‥危険は承知で出向かなければ、得られぬ物もある」
「それは解ります。しかし‥‥‥‥百歩譲って遠征を承諾したとしても、何故カルロ様が直接赴くのですか。我々が懸念しているのはそこです。あの場所、セフィロトでは日常のように死人が出ますし、広いジャングルには野党が巣くっている‥‥‥‥たとえ人一人が行方不明になったとしても、満足に捜索すらされないような劣悪な環境‥‥そんな場所に、どうしてカルロ様が単身で行かれるのです!?」

 幹部が勢い余って立ち上がる。他の者達が慌てて押さえて座らせるが、本当ならば自分達が言いたい気分だっただろう。
 だがカルロは、それを意外そうな顔で眺めていた。

「単身?配った資料に、ちゃんとモニカと一緒だと書いてあるでしょう」
「あ、あんな者を信用するのですか!?アレは傭兵です。ファミリーの一員ではないのですよ!!その上無礼で口の利き方を知らないし、何よりあいつは金で動く‥‥‥‥もしかしたらカルロ様を裏切り、余所の組織に売り渡すかも知れません。そんな可能性のある者を連れて出向くなど――――」
「それは間違ってる。彼女は金にはうるさいが信頼関係よりも優先させるような事はないし、させたなんて言う話を聞いた事がない。彼女はプロだ。一回受諾した契約は、たとえ後で十倍の報酬を払うと言われても破らないだろうな」
「し、しかし‥‥‥‥では私の部下の中から、腕の立つ者を誰か――――」
「彼女の腕は確かだ。それに交渉事や周りの状況を見て判断するだけの適応性を保っているのがありがたい。‥‥‥‥一目で組織絡みの者だと分かってしまう内部の者は、出来るだけ避けたいのだよ」
「‥‥そこまでして欲しい物が、あの場所にある、と?」
「ああ。何としてもてに入れたい物がね。‥‥‥すまない。別に君たちの事を信じていない訳ではないが、私が居ないあいだ組織の事を任せていられるのはキミ達だけだ。使える手駒は、こっちに残しておきたい。理由はまた‥‥‥帰ってきた時に話すとしよう」

 そう言い、カルロは静かに席を立った。
 有無は言わせぬ、とその仕草が言っている。
 今まで組織を引っ張ってきたカルロの、決して曲げようとしない意志はしっかりと伝わってくれたらしい。幹部達はそれ以上の意見を上げることなく、静かに会議室を出て行くカルロの背中を見送っていた‥‥






 ‥‥‥‥‥その日の夜、小さな港から一隻の大型クルーザーが出航した。
 外装からして上等な物だと分かるこれならば、それこそ大海を渡る事も可能だろう。もちろん内装もそれに併せて非常に高度な機器が積め込まれており、単身運転でも長い間巡航する事が出来るだろう。
 現在の世界情勢を見てみれば、これだけの機器を積んだ物を手に入れるにはそれなりに地位がなければならない。もちろん見合う金も必要であり、それら二つを兼ね備えるとなると‥‥‥当然のように、その職業は限られていた。
 ‥‥勿論、この船はアルビオーネファミリーの長、カルロの所有する高速船である。
 本来ならばその立場上、専属の操舵手やボディーガードの類を数名連れているはずなのであるが、会議で言っていた通り、誰一人として部下を引き連れていなかった。
 いや、“部下”でない者が一人、高速船の中に潜んでいたが‥‥‥‥

「陸地から大分離れたな‥‥‥そろそろ出てきたらどうです?」

 陸から離れて数q経ち、ようやくカルロは船内に潜んでいる友人に向かって話し掛けた。
 その声を聞き、船内から一人の女性が現れる。小麦色の肌に茶色い髪。両足と右腕をサイバー化しながらも、表情が豊かそうなその笑顔が外見上のごつさの心象を完全に奪っている。
 親しみやすいお姐さんといった印象を受けるのだろうか?もっとも、傭兵な上に金にこだわるという性格を知っても、その印象を保ち続けられるかどうかは分からないが‥‥‥
 彼女こそ、ファミリー会議に置いて幹部達から批判され続けていた女傭兵、モニカ・バエアスである。
 モニカは船内で装備の点検をしていたらしく、手に持っていた銃を腰のホルスターの中へとサッと仕舞った。

「どうも‥‥ってさすがに真っ暗だなぁ。夜の海は。これで迷わない?」

 船内から出てきて開口一番、周りを見渡し、言う。
 とてもマフィアのボスに対する口調とは思えないが、カルロはまったく期にした風もなく、その言葉に応えていた。

「大丈夫ですよ。この時のために取って置きの高速船を入手したんですから」
「ふ〜ん‥‥‥でもここまでして付いて来て欲しくないの?あんたの組の奴ら、絶対に悲しむよ」
「‥‥‥かも知れません。ですが、今回の同行者はあなただけを連れて行く方が良い。そう判断しました」
「嬉しい事を言ってくれてるけど、なに?もしかして新婚旅行とでも言うの?」
「‥‥‥‥前もって依頼の契約までしておいて、その冗談は怖いですよ。変な事をみんな
に吹き込んでませんよね?」
「大丈夫だって冗談だから。でもねぇ、あの契約‥‥‥なぁ、いい加減陸地からも離れたんだからさ、どこに行くのかぐらいは教えてよ〜!」

 そう言ってゴロゴロと、まるで猫のようにカルロに抱きついてくる。豊満な肉体の感触にクラッと来るが、サイバー化されている右腕が首に回された瞬間、嬉しい感覚が半分程吹き飛ばされた。
 右腕に回された腕には力が籠められている。依頼を出す時には相当な額を提示し、目的地はしばらく秘密だという事も了承させたのだが、それでもさすがに納得させるまでに入っていなかったらしい‥‥この行動は抗議行動である。

「ぐっ‥‥分かりました。言いますから、離れて下さい」
「ムッ‥‥ちょっと気になるけど良いよ」

 パッとカルロを解放し、ニヤリと笑いながらカルロの顔を覗き込んでくる。

「行き先だが、ちょっと南にね」
「南?南極?」
「まさか。もっと暑くて、自然がいっぱいで、今世界で一番賑やかな場所さ」
「‥‥‥‥ま、まさか‥‥」
「キミの両親の国だよ。キミのとっては里帰り、と言う事になるかな」
「うわっ‥‥‥なるほど、組織の幹部連中が止める訳だ‥‥‥こりゃ大変‥‥って言うか、楽しみな二ヶ月になりそうだね」

 行き先を聞き、一瞬驚き、そして豪快に笑い出すモニカ。釣られてニヤリと笑うカルロも、これから自分達を待ち受けているブラジルの街並みと困難を思い浮かべ、心の底から笑い始めた。






 ‥‥‥‥‥‥カリブの海上を行く船は、真っ直ぐにブラジルへと向かっていく。
 二人の激動の二ヶ月はこうして、この夜から始まった‥‥‥








☆☆参加キャラクター☆☆
0777 モニカ・バエアス
0750 カルロ・アルビオーネ

☆☆WT通信☆☆
 お久しぶりです。メビオス零です。
 本当にお久しぶりですね、ソーンでの仕事の事は覚えてますよ。何せソーンでの仕事はあの時を含めてたったの二回しか来ていないですからねw
 印象に残ってます。
 今回のお話はどうでしたでしょうか?もう少しモニカにセリフと場面を割り当てようかと思ったのですが・・・・つか、モニカが可愛くなってます。微妙に・・う〜む、情熱的な口調ってどんなんだろ。難しいねぇ、ここら辺が。
 このお話の感想は、またファンレターにでも書いて送って下されば次回からの執筆に役立てます。勿論批評も・・ああ、ファンレターが来ても開けるのが怖いよぉ〜ww
 では、今回のご発注、誠にありがとうございました。
 今後とも細々と活動を続けていきますので、どうか、よろしくお願いします。(・_・)(._.)