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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【自警団詰め所】自警団員になろう

メビオス零

【オープニング】
 お、一体何をやらかしたんだ? 違うのか‥‥まさか、自警団員になったのか?
 自警団詰め所に来る奴なんてのは、おイタをしちまってこれから叱られる腕白か、これからこの街の正義を護りつつ、ちょいと美味しい思いもしようなんて考えるヒーロー気取りのどちらかさ。
 何にせよ、そっか‥‥いやなに、気にしないでくれ。お手柔らかに頼むぜ、全く。
 って‥‥サイレンか。早速、出動だな。
 頑張って行ってこい。まあ、給料分くらいはしっかり働いてくれよ?





 都市マルクトでは、日々様々なことが起こる。
 あちこちで盗みや喧嘩は基本として、それぞれの能力(超能力とかサイバーとか)を使っての隠れた犯罪が、昼夜必ずと言っていいほど行われている。
 まぁ、それは仕方のないことかもしれない。何せ都市にいるのはくせ者揃い。エスパーやサイバーなどならともかく、ちょっとした裏商店に入ったが最後、もう一度外に出られるような保証など‥‥‥‥ない。
 ‥‥‥‥もっとも、それでは都市に住み着いているものにとってはたまったものではないし、当然訪れる者たちも警戒し、都市は廃れていく。
 そんな状況を少しでも改善しようと設立された自警団は、毎日のように忙しく駆けずり回っていた。
 しかし残念ながら、それでも状況が劇的に改善されるようなことはない。なぜなら、自警団に入っている者たちは暇を持て余している荒くれ達であり、街を守るという純粋な意志を持つ者など、それこそ一握りにも満たないからだ‥‥‥





「けーれよ。あんたみたいなのは、ここじゃあ、雇わないんだよ」
「何で?腕になら自信あるわよ」

 そんな自警団詰め所に詰めかけた白神 空は、面接用の椅子に座って面接官と対峙し、ものの数秒で入団を断られた。
 自警団は都市にとっては警察のようなもの‥‥‥‥確かに入団するのにいくらか条件があったとしても決して不思議ではないだろうが、はっきり言ってそんなものはない。何せ家出したボケ老人が詰め所で電話番をしていたり、どう見ても子供にしか見えないような男の子が自警団の腕章を付けて街の中をとことこラブリーに歩いていたりする。
 ‥‥‥いったい自分に何が不足するというのか!?

「腕前には不足はねぇよ。ただな‥‥‥その格好は何だ?」

 詰め所の中で面接に出てきた男が言って来る。
 前もっていっておくが、別に空は怪しい格好などしていない。
 獣のコスプレをしているわけでもセフィロトに潜って持ってきたキワドイ下着を着けて街を闊歩しているわけではない。では何が怪しいのだろうか?

「その‥‥‥エルフ耳は何だぁ!!」
「うわっ!初めて指摘されたわ」

 面接官が「マジかよ!?」などと言って悶えている。
 てっきり露出の派手な服装とか目の色とかすぐに美少年少女を誘惑しに走りそうなオーラとかささやかな胸とかそういったもので判断しているのかと思ったのだが‥‥‥‥胸の大きさは関係ないでしょ!?
 冷静に考えてみると、様々な者たちで集まるマルクトと言えど、空の尖ったエルフ耳はとっても珍しいのだ(つ〜か居ません。探さないように)
 ‥‥‥まぁ、それが空を自警団に入団させない理由になどならないが。

「だめ。帰れ。なんか怖い。俺の趣味じゃねぇし。俺は胸の大きな女が好きなんだ」
(‥‥‥‥‥‥自殺願望者かしら)

 手伝って上げようかと空が腰を浮かせ、椅子から立ち上がろうとする。
 と、そのとき!

「てぇへんだ旦那!M66地点の麻薬密売店で一騒動起こってやすぜ!!」
「何だと!他の自警団は!?」
「へい、いま連絡が向かってるところで!!」
「馬鹿野郎!俺に報告する前に現場を押さえにいかねぇか!!あそこが捕まると俺たちがくさい飯を食うことになるじゃねぇか!!」

 なにやら物騒な会話が繰り広げられるのを、空は“自警団に入る人たちって、本当に面接なしなのね〜”などと考えながら眺めている。あえてコイツラを捕まえようとはしない。だってまだ自警団じゃないもん♪
 部下からの報告を聞きながらだんだんと顔色を変えた面接官は、舌打ちしながら空を睨み、ズイッと指を突きつけた。

「よし。非常事態だ、あんたを採用する。初任務はここの留守番だ。まぁ、数人は残しておくが、数が減るからな。仕方ねぇ。おとなしく待ってるんだぞ!良いな!!」
「了解です隊長。お気を付けて」

 空はにこにこしながら手を振り、大慌てで出て走っていく面接官とその部下達を見送った。
 それから詰め所の中を歩き回り、残ったメンバーの人数と顔を確認する。
 ひぃふぅみぃ‥‥自分以外に三人か。少ないと言えば少ないが、まぁ非常事態発生中ならば仕方のないことだろう。

「それじゃ、事件でも起こるまで、お茶でも飲んでようかしら」

 走っていった自警団の者たちを捕まえるのはあいつらが帰ってきてからにしよう。
 そう思いながら、空は詰め所備え付けの汚い厨房でやかんを火にかけた‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥

‥‥‥

 意外と言うべきか、問題はすぐに発生した。いや問題というか、事件が飛び込んできたのである。それもお茶を入れ終わったコンマ数秒後に。
 飛び込んできた事件は少女の姿をしていた。いや要するに少女が飛び込んできたのだが、その姿は異様だった。
 まず髪はボサボサになっている上に白い肌には煤がこびりついている。
 路地裏で転びでもしたのか、元は明るい色をしていたであろうメイド服をほこりだらけにし、体はあちこち傷だらけだ。もっともかすり傷ぐらいのものなのだろう、大きな出血はみられない。
 しかし空からしてみれば、自分の肩ほどの背丈しかない白肌の少女がボロボロの服を着て傷だらけでこっちに向かって「助けてください」と訴えかけてくる様はまさに直球ど真ん中。一目で気に入り、空は用意したお茶をポイッと放り捨てた。

「その傷は!?いったい何があったの!?」

 空は駆け寄って少女の手を取る。少女はすでに疲れ果てているのか、フラフラとしながら空の体に寄りかかってきた。

「うぅ‥‥‥た、助けてください」

 少女が小さくそう答えている間にも、遠くの方から男達の怒声が響いてくる。まだ詰め所からは見えないが、おそらくこの少女を傷つけ、追いかけている者たちなのだろう。声を聞きつけ、少女の体がビクッと震えた。

「っ!こっちよ!」
「えっ!?」

 空は少女の手を引っ張り、しかし傷だらけの足では走れないと踏んでその体を抱き上げて走り始めた。電話番をしていた老人にウインクして合図だけは送っておく。時間稼ぎぐらいはしてくれるだろう。

(確かこっちに‥‥‥)

 まだ少女から事情を聞いたわけではないからどっちが悪かはわからない。だが傷ついている少女を捨て置けるほどに空は非情ではない。
 空はとりあえずの処置として詰め所裏手にあるMSの倉庫へと駆け込んだ。非常事態の時のため、すぐ近くにこういった施設は置かれているのだ。
 手近なMSのコクピットの中に体を滑り込ませると、中で整備をしていた整備員の腹部にボディーブロー。訳のわからないうちに気絶させられた整備員からツナギを剥ぎ取り、外に蹴倒すと、空はそのツナギを着て外から見える位置に体を持って行った。

「あの‥‥?」
「しっ!静かに‥‥」

 ドタドタドタ‥‥‥
 複数の足音が近づいてくる。
 かなり荒々しい足音だ。気が立っているのか急いでいるのか、わずかに殺気が漏れている。
 やがて倉庫の中にまで入ってきた追っ手は、辺りをキョロキョロと見渡し、コクピットの中に顔を突っ込んでいる空に怒鳴り声を掛けてきた。

「おい!!こっちに変な女が来なかったか!?」
「私が声を掛けたら、あっちに走っていきましたよー!」

 空が少しだけ声を変えて言い、裏口の方を指さした。もちろん振り返らないし体も起こさない。顔を見られたらやっかいだし、体を起こせば追っ手達に少女が見えてしまうかもしれないからだ。

「やっぱこっちに来てたか!あのじじいあっちこっちわけわかんねぇこと言いやがって!!」

 追っ手達は本当に急いでいたのか、「あっちだ!」「追え!!」だのと叫びながら、全員でバタバタと裏口に殺到した。
 ‥‥‥やがてその音が聞こえなくなると、空は一息つき、少女に話しかけた。

「もう大丈夫よ」
「あ‥‥りがとう‥‥ございます」

 途切れ途切れに答えてくる少女の声は疲れている。
 体の傷も痛むのだろう。時折傷を見つめ、顔をしかめている。

「ふふっ‥‥直して上げる」
「え?なっ!なっ!にゃああ!!」

 擦り傷が付いている少女の手を取り、その傷を舐め始める。少女は肩をビクリと震わせると、恐る恐る空の顔を伺った。

「何してるんですか?」
「消毒。手当。気持ちいいでしょ?」
「気持ちいいとかそういう問題じゃあ‥‥‥ひあああ‥‥」

 傷を舐められる感触と空の体から滲み出てくる百合オーラに当てられたのか、少女の頬が紅潮し始める。
 だがそれ以上には決して進まず、空は外の様子を窺いながら少女に顔を向けた。

「まだ動かない方が良いわ。でも、一つ聞かせてくれる?」
「はい?」
「何で自警団に追われてるの?」

 ビクッと少女の体が震えた。
 そう、今しがた空の背後を駆け抜けていった追っ手達は、空が来たときに詰め所にいた自警団員達だった。
 空を面接していた男を筆頭に、ほぼ全員がそうだ。何人か見慣れない者たちがいたように思うが、詰め所全員の顔を覚えているわけではないので見分けることはできない。

「何か、悪いことでもした?」
「えっと‥‥‥その」

 少女は歯切れの悪い口調で視線を彷徨わせた後‥‥‥じっと空を見つめ、口を開いた。

「あのね‥‥‥実は‥‥‥」
「うん」
「あたしね、この街に来てから、ちょっとスリみたいな事してたんだ」
「うん」
「それでね、最近実入りが少なくって‥‥つい」
「つい?」
「マフィアの倉庫から、取引のお金盗み出しちゃった♪」
「ちょっ!?それは‥‥!」

 いきなりスリから泥棒か、それもかなりの高難度な‥‥
 これで話が繋がってきた。あの自警団員達は、マフィアと癒着し、その悪さを見逃していたのだ。もしくは捕まったときの恩赦か‥‥‥もちろんマフィアが自警団に捕まりそうになったときには自分たちで捕まえ、後でこっそり釈放してしまえばいいのだ。
 しかしそのマフィアから金を盗み出した少女が出てきた。そんな少女をマフィアが生かしておく訳にはいかない。しかしマフィアが表立って逃げる少女を追いかければ、当然自警団とて黙っていない。場合によっては両方とも捕まってしまうだろう。その場合、この自警団とマフィアの関係もバレてしまう。
 ‥‥‥だからこそあれだけ自警団の者たちは必死になっていたのだ。よりにもよって他の自警団に先に捕まってしまっては、いままでの悪事がすべて明かされる可能性がある。

「よく逃げられたわね」
「逃げ足だけは自信があったんです」

 その割には傷だらけだが‥‥‥確かに生きてここまで来れただけでも賞賛ものだろう。
 だがここから先は、無い。マフィアというのは手が広い。この都市にいる限り、必ず抹殺されるだろう。

「この街にはいられなくなるわよ」
「みたいですね‥‥‥もっと簡単だと思ってたんですけど」
「そんなわけがないわよ。まぁ、それでも手段がないわけでも‥‥?」

 言葉を切る。MSの足下から足音が聞こえる。
 それも複数。先ほどのようなドタドタした音ではなく、何というかこう‥‥忍び寄るかのような‥‥‥

「ごめんね。ちょっとお話が過ぎたみたいだわ」
「え?」
「どうやら、お客が来てるみたいだから」

 空が振り返る。そこには‥‥‥

「よう新入り。どうやら初手柄だな。で、その娘、引き渡してくれるのか?ん?」

 自警団(偽)達は、こちらを睨み付けている。
 手にはそれぞれ銃を握り、こちらに向けている。
 どう見ても、逃げ場はなさそうだった。

「うわぁ‥‥‥もう、どうにもならなさそうですね」
「そうでもないわよ。ただし、条件があるけど‥‥」

 ニヤリと空が笑う。ちょうど良いところにここに来てくれた。案外、この手が一番いい気がする。
 この不良自警団達を投獄するというのは無理だが、しかし利用することはできる。

「条‥‥件?」
「そう。条件は‥‥後で、ね?」

 そう少女に言い終わると、空はMSから飛び降りた。







 ‥‥‥‥数日後、自警団達の処遇は決定した。
 幸いというか何というか、マフィア達もその事件のことをすんなりと受け入れた。
 まず盗まれたお金については、自警団に隠されていると言うことになり、探し出されて回収された。その辺りの罪は自警団員達に押しつけた。空達を追いかけてきた者たちが金を盗み出した黒幕で、少女は金を奪い合って自警団員達が争っている隙に逃げた‥‥‥ということになっている。ちなみに自警団員達は互いが互いを引っかき回し殴りつけ大怪我を負ったらしい。奇妙な爪痕があったという報告もあったが、残念ながら彼らはすでにマフィアの手中にある。誰もそれを突き止めることはできない。
 と‥‥‥まぁ、こんな具合に、物語は空の思い描いたとおりに進んでいった。
 少々裏ルートのコネを使いもしたが、基本的には難しいことはしていない。
 あとは、少女が都市から脱出した、と思わせるだけの時間を稼げばいい。数週間ほどかかるだろうが、これは簡単だ。その期間の間、少女は――――

「傷も治ったわね。‥‥ふふふ、本当に良い肌してるわ」
「あ、あのぉ‥‥空さん」
「お姉様って呼んでってば」
「は、はい。お姉‥‥様」

 空が借り入れた部屋の中で、少女はぎこちない笑顔で空を迎え入れていた。部屋は妙に少女趣味なゴスロリになっている。フリフリなレース付きなカーテンや何故か異様に大きなベッド。
 少女は空に匿われ、こうしてすでに数日間、部屋から一歩も出ずに、空と共同生活を送っている。
 下手に外に出てマフィアに見つかると消されてしまうと言うこともあり、少女は外に出ず、空は少女が外に出ても良いという状況が出来上がるまで、様々なところで情報を収集している。
 もちろん見返りがないわけではない。それが空がMSのコクピットの中で言っていた条件であり、それはもちろん、空が毎度毎度行っている‥‥‥

「さぁ、今夜も楽しみましょ♪」
「あの‥‥一晩ぐらいは休みませんか?」
「だ〜め〜よ♪ほら、あっちこっち走り回って疲れてる私を癒してちょうだい♪」

 そういい、空は少女をベッドの上に引っ張り込む。
 少女は、諦めたようにその手から逃れようとはしない。慣れてきたのか、それとも悪い気はしないのか‥‥‥

(あ〜、なんだかこの人に染められてってる気がする)

 空に連れ込まれた少女は、ほとぼりの冷めたあとの数週間後、果たして自分がこの場所から出られるのか‥‥‥




 むしろ、マフィアよりもそっちの方が心配になり、少女は苦笑していた。





☆☆☆参加キャラクター☆☆☆

0233 白神・空

☆☆☆WT通信☆☆☆

 お久しぶりです。メビオス零です。
 今回の作品は・・・む?バッドエンドか?これ
 このあと少女はどうなったのでしょうか。果たしてマフィアから逃れられたのか、空から解放されたのか、それとも空に飼われてしまっているのか(汗)
 すべては脳内補完でよろしくw
 今回の作品の感想や注意点があったらまたお願いします。最近はスランプ気味なせいか、あまり書いていないので・・・
 またのご発注がありましたら、その時までには本調子を取り戻しておきます。がんばりますので、これからもよろしくです(・_・)(._.)