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〜欠かせない瞬間〜
メビオス零
自警団員は、基本的には不真面目である。
原因は数多いが、主なものを上げるとするなら、まず団員に払われるような報酬が少なく、腕の良い者たちは敬遠していること。また、団員になるための面接などはこれでもかとばかりに甘く、誰でもなれるために悪党に金を貰って、情報操作などをしようとする者たちが大勢居ると言うこと。
他にも、『施設が汚い』とか『厄介事に巻き込まれるのは嫌』だとか、挙げ句の果てには『この街では騒ぎが多すぎる』‥‥‥
まぁ、要するにこの街は騒がしいのだ。何せビジター達が集まるこの街には、サイバー化している暴れん坊や未知の能力を秘めた能力者、堂々と開業している無免許医や平気で麻薬を売りさばくマフィア等々‥‥‥一般的には関わりたくないような者たちが非常に多いのだから‥‥‥
「の割りには、今日は暇ね。ちょっと退屈だわ」
「‥‥‥まるで騒ぎが起こって欲しいような言い方だな」
消火用MSのコクピットの中で待機がてら、周りの機器を調整していたパトリシア・フリアスの独り言に返事が返ってきた。
MSの状態を紙面に書き出し、メモを取っていたパトリシアは、声の主の姿を確かめるためにコクピットから顔を出す。
そして、その顔に向かって投げつけられた缶ジュースを容易にキャッチした。
「珍しい。リベルタさんが奢ってくれるなんて」
「毎日毎日待機してくれてる部下だ。これぐらいはな‥‥しかし、だ。毎日のように自分のMSを自警団の倉庫で整備するのはどうかと思うぞ。こちらの活動資金は、これで結構厳しいんだからな」
マルクトの自警団設立者、リベルタ・ザイツェフの言葉に苦笑しながら、コクピットから飛び降りる。
コクピットから出たことで全身が見えるようになったが、パトリシアは整備中にも関わらずMSのパイロットスーツを着込んでいた。
茶色い髪に色の白い顔、緑色の瞳を残して、あとは全て紺色のスーツで包まれている。
しかし肌にピッタリなサイズのスーツは豊満な体型を浮き立たせ、見慣れない者が見たら数秒は釘付けになるだろう。(あまり長い間見ていると、生命の保証は出来ません)
リベルタはそんなパトリシアを見ても特に違和感を感じていなかった。
常に出動に備えているパトリシアは、自警団にいる時はずっとパイロットスーツを着込んでいる。この詰め所に常駐している者にとっては見慣れている姿なため、もはや誰も気に留めていない。
パトリシアは全身サイバー化している者特有の、『ガシャン』と言う重い着地音を立てて着地すると、受け取った缶ジュースのフタを開けながらリベルタに向き直った。
「すいません。整備するのは癖みたいなものでして‥‥あと、別に騒ぎが起こって欲しいわけではないですよ?暇なら暇で良いことですから。息子が巻き込まれるようなこともないでしょうし」
パトリシアが言っている息子とは、全身をオールサイバー化する前に産んだマリオ・フリアスの事である。パトリシアの外見年齢が20歳前後なために想像しがたいために、意外とこれを知っている者は少ない。
オールサイバー化している者は辛い過去があることが多いためか、過去や家族について聞かれにくい。そのため、長く自警団員として働いているにも関わらず、意外にもパトリシアについて突っ込んだことを知っている者は少なかった。
リベルタは、そんなパトリシアのことをよく知っている人物の一人だった。
「息子、か。この街に住む以上、自警団に入って治安維持するよりも、いつも一緒にいる方が安全な気もするんだが‥‥‥‥ん?」
リベルタの言葉が途切れる。代わりに飛び込んできたのは、同じ詰め所で電話番をしている団員だった。
倉庫の入り口からバタバタと駆け込んできた団員は、MSの前で話し合っている二人を見つけるなり大声を上げ、呼びかけてきた。
「隊長ーーー!Aの34区で、喧嘩です!なんか、ハーフサイバーらしくて手に負えないって!」
「了解!さて、お仕事だ。言ってくれるかパトリシア」
「当然です。応援は?」
「私も出る。ちょうど退屈していたところだしな」
リベルタはそういうとパトリシアに背を向け、詰め所の中で騒いでいる団員達に指示を飛ばして居残り組と出動組を分け、テキパキと命令を下していく。
「それじゃ、私は先に行かせて貰うわね」
残ったジュースを一気に飲み干すと、パトリシアは空き缶を握り潰し、タッとMSの中へと一息に跳び込んだ‥‥‥
ところ変わってマルクトの繁華街。ここは常に活気に溢れ、人が絶えるような時間がない。
もっとも、全ての店が24時間営業というわけではなく、単に昼と夜の顔が入れ替わるだけである。マフィアや闇医者達にとって、このいつでも活気に溢れている繁華街も、ただの隠れ蓑に過ぎないのかもしれない。
‥‥‥‥そんな一歩裏路地に踏み出せば危険な繁華街を、一人の少年が歩いている。
茶色い髪。青い瞳。白い肌。そこそこに整った顔立ち‥‥‥
彼こそパトリシアの息子、マリオだった。
手には買い物かごを持ち、慣れた様子で繁華街の行きつけの店を物色する。ちなみに買っているのは夕飯の材料であって、決して物騒な物は買っていない。
マリオとしては射撃練習に使う弾薬の類を買い溜めしておきたかったのだが、パトリシアの許可なしに弾薬の類を買うことは禁じられていた。
「はぁ、せっかく安くなってるのに‥‥‥」
食料品店で2〜3日分の食料を安く買い込み、帰りに銃砲店を物色していたマリオは小さく溜息をついていた。
冒頭でも言ったが、自警団の給料は、安い。
それこそ二人で暮らすのに支障が出てないのが不思議なぐらいだ。
マリオがしっかりと財政監理をしているおかげではあったが、如何せん、やはり安くなっている時に買い込みたくなるのが人情である。
(せめてセール品を狙って買ってくれたら楽になるんだけどなぁ)
夕食の後にでも相談しておこうと決め、マリオは歩き出した。
‥‥‥‥歩き出したのだが、その足は、一歩目を踏み出した瞬間止まっていた。
ガシャアン!
「わっ!」
瞬く間に目の前を通り過ぎていったナイフに驚き、マリオは肩を震わせて飛び退いた。通り過ぎていったナイフはマリオが覗いていたショウウィンドウに突き刺さり、分厚いガラスを砕いていた。
「あんた大丈夫かい?」
マリオのすぐそばを歩いていた青年が、飛び退いてから慌てて周りを見渡しているマリオに話しかけてきた。
「な、何ですか!?」
「喧嘩だよ喧嘩。あっちの店で、馬鹿者同士で喧嘩を始めたんだ」
言われてから指された方角に顔を向ける。
なるほど、今では人集りが出来ていて見えないが、確かにその向こうでは喧嘩が起こっているらしい。
耳に響く怒鳴り声と、時々上がる歓声。ついでに宙へと舞い上がるテーブルやら食器やらが、惨状の凄まじさを物語っている。
‥‥‥時折飛んできた物が当たり、悲鳴を上げている者もいる。
「っ!」
「おい!ちょ、どこに行く気だよ!」
「止めるんですよ。決まってるじゃないですか!」
「!? 馬鹿!見たとこ生身じゃないか!!ありゃどう見てもサイバー同士の争いだ。俺たちじゃ太刀打ちできないさ。放り投げられてしまい。だから止めとけ、巻き添え食うぞ」
そうは言われても、マリオは穏和そうな外見とは裏腹に自警団に入ることを志しているのだ。騒ぎの現場に立ち会っておきながら、ただの野次馬で終わっているのは気分的に良い物ではなかった。
あと、もしこの喧嘩を収めることが出来たのならば、もしかしたら母はマリオが自警団にはいることを許してくれるかもしれない。未熟者ではないと言うことを、僅かにでも示しておきたかった。
「お、自警団のお出ましだ」
「‥‥もう来ちゃいましたか」
自分を引き留めた青年と、駆けつけてきた自警団員達を恨めしそうに見やり‥‥‥
今度は先ほどとは違った理由で硬直した。
「お〜、喧嘩にMSを出動させるとは、すごい気合いの入れようだな。ってか、あれって消防用‥‥‥‥すげっ、喧嘩してる奴ら相手に放水攻撃!?あれは痛い‥‥‥ってどうした?」
青年が硬直しているマリオに向かって話しかけてくるが、マリオは喧嘩を止めに入ったMSから顔を出しているパイロット‥‥パトリシアに視線を向けたまま、微動だにしない。
滅多に見ない母の働きぶりに、何とも言えない微妙な感情がわき上がってくる。
「あれって良いんですか?街中で放水って‥‥‥何より、相手死ぬんじゃないですか?」
「まぁ、生身の人間が消防用の放水をまともに受けたら痛い思いするだろうけど、ありゃサイバーだからな。あれぐらいは大丈夫だよ。‥‥‥あ、MSのパイロットが降りたぞ?どうしたんだ」
「たぶん、説教に入るんだと思います。周りをかえりみずに喧嘩をしているような人には、容赦しないんですよ」
「あのお姉さん知ってるのか?」
「‥‥‥‥‥‥‥母ですから」
マリオの回答に目が点になる青年。まぁ、20前後にしか見えないパトリシアに、マリオのような息子がいるとなれば、ショックぐらいは受けるだろう。
マリオは人集りの向こう側から聞こえてくる怒鳴り声に、頭を抱えながら帰宅を再開した。
‥‥‥‥‥夕食の後に相談することが一つ増えたと、そう思いながら‥‥‥
「今日の揉め事は一件だけか‥‥これぐらいなら楽なんだけど」
人気のない開けた場所をMSで歩きながら、パトリシアは一人ごちていた。
街での喧嘩を止めたあと、パトリシアは喧嘩していた者たちに小一時間もの間説教をし続け、グッタリとしている二人と留置所の中に放り込み、僅かに苦笑を浮かべていたリベリアに報告書を提出して今日の勤務を終えていた。
日頃はもっと仕事がある‥‥‥と言うより、自警団の詰め所は街の至る所にあるため、パトリシアの管轄内で揉め事が起こらなかっただけ、と言うことだ。恐らく全体で見ればかなりの件数の事件が起こっていたはずだが、パトリシアが珍しく定時で帰れているのも、その偶然のおかげである。
少しばかり物足りないような気もしたが、パトリシアとしては早めにマリオの元へと戻ることが出来るため、口振りとは違って上機嫌そうに頬を緩めていた。
「あ、帰ってきた」
コトコトと煮えている鍋をかき回していたマリオは、遠くから響いてくるMSの駆動音に気が付き、窓に振り返った。MSの駆動音は出来るだけ静音になるようにマリオが改造してあるが、それでも家に近くなると駆動音は嫌でも聞こえてくる。
通常のMSはなかなかうるさい奇怪なため、MSで帰宅‥‥‥など普通はしないことである。であるが、マリオの改造と二人の家がかなり開けた場所に建っているため、近所から苦情が来たことはない。
マリオはエプロンも手に持ったお玉も片付けないままに玄関へと向かった。
扉を開ける。すると目の前には、見慣れたMSと、それ以上に見慣れた母親の姿があって‥‥‥
「お帰り母さん!」
「ただいま!!」
今日も息子が無事でいられた安堵感から微笑むパトリシア。
それに釣られるように、言おうとしていたことも忘れて笑いかけるマリオ。
二人にとってはいつものこと。しかし一日たりとも欠かしたことのない、大切な瞬間‥‥‥‥
☆☆☆参加キャラクター☆☆☆
0780 パトリシア・フリアス
0789 マリオ・フリアス
☆☆☆WT通信☆☆☆
ども、メビオス零です。
これで2度目、ですかね?前の時にはファンレターありがとうございました!いやぁ、返事を書かなくてすいません。読むのにも勇気がいるもんで・・・だって怖いんですよ?結構・・
今回の作品はどうでしたでしょうか?NPCの出番はそこそこ。でもパトリシアよりセリフ多い気が・・いや、描写はあくまでパトリシアが主役だ。OKOK、セーフだ。うん。(焦
マリオ君は、何故か主夫と化してます。主婦じゃないですよ?でも似合ってるなぁw
今回の作品の方も、また感想や注意点があったら容赦なくファンレター経由で送ってください。怖くても読みます。これは絶対ですから
では、改めまして、今回のご発注誠にありがとうございました。
またのご依頼の時には、もっと早めに書きますね。もうそろそろスランプも脱出・・しないとなぁ(泣
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