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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


【専用オープニング】ホワイト・ノート
 Be Happy!!

 ライター:斎藤晃



 ブラジル北部アマゾン川上流域に聳え立つ高層立体都市イエツィラー。審判の日以後ロスト・テクノロジーを抱いて眠る過去の遺物は、もしかしたらその目覚めを静かに待っているのかもしれない。忘れられ続けた軌道エレベーター「セフィロト」に集う訪問者たちの手により、ゆっくりと。
 そしてこれは、決して安全とは無縁のその場所で繰り広げられる訪問者たちの日常と非日常である。



   ◆



「え? 格闘術?」
 ストローから顔をあげてマリアート・サカことリマが怪訝そうな顔を、前の席に座る美女に向けた。
 レアチーズケーキを口の中に頬張ったまま白神空は笑顔で頷く。口ほどに語る彼女の銀色の目が、勿論と自信満々に告げていた。
 しかしリマは何を今更と言わんばかりの態で椅子の背もたれに体重を預けた。彼女の黒目がちの目が、店内をぐるりと一周する。その視線を追うように、何とはなく空も店内を見渡した。
 セフィロトの塔の入口に作られたビジターの街マルクトの一角にある喫茶店――パティスリー・ラピスラズリは、内装を深い蒼で統一した、まるで夜の街か深海の底にいるような錯覚をおぼえる店だった。10席ほどあるテーブルは全て埋まっているのに騒がしくする者もなく落ち着いていて、しっとりとしたジャズが煩くない程度に響いている。デートにはもってこいの場所であった。
 穏やかな昼下がり。とはいえ、この都市マルクトは屋内であったから太陽が昇ったり傾いたりするわけでもないのだが、昔の名残なのか、はたまた外との流通の都合なのか、多くの人は24時間を1日として過ごしていた。
 今は15:00。アフターヌーンティーを傾けるには程よい時間である。
 空の隣にもリマの隣にも大きな紙袋が置かれているのは2人がショッピングの帰り道だからだ。
 リマが首を傾げると彼女の耳元で大きなリングに赤い石のついたピアスが揺れた。先刻立ち寄ったアクセサリーの店で空が見たてたものだ。代わりに、空の胸元では青い石が揺れている。大き目のピアスは慣れないのか、リマはそれが揺れるたびに意識して、気になって仕方がないとばかりにピアスに指を伸ばす。
 きっと耳も弱いに違いない、なんて思うとにやけてしまう口元を手で覆い隠して、空は軽く咳払いをすると身を乗り出した。
「ESP吸収ボールや抗ESPフレーム、ESPを無効化する技術は今でも残ってるじゃない。ま、それだけ超能力が兵器として使用されてきたって事なんだろうけど。でね、そういう状況に陥った時の事を考えたの」
 今までもヘルズゲートをくぐるたび、自分の足りない部分を痛感していた。そして『あの一件』で、空はいくつかの限界を知ったのである。ESPを無効化する技術を除いてもESPを使い過ぎれば体に高負荷がかかる。たとえば、その臨界点を越えたとしたら――体が壊れるのが先か、ESPを使えなくなるのが先か。どちらにしても超能力に頼り過ぎていたのは確かだった。だからこれを期に、それ以外の戦闘技術も磨く事にしたのである。
「そのためにライフルなんかがあるんじゃないの?」
 リマが肩を竦めながら気のない顔で言った。
「弾切れになったら終わりじゃん」
 それに、銃火器は中長距離向けの武器だ。自分のESPが近接向けなのを補うために必要であり会得したものであって、今のところそれは超能力の代わりにはなりえない。
「タクトニムやMS相手じゃ肉弾戦を挑む方が無謀だよ。三十六計逃げるに如かず」
 簡単に言っているが相手が簡単に逃げるのを許してくれるなんてケースは滅多にない。リマもそれは充分承知しているはずだ。
 リマはコップを取り上げると、再びストローに口を付けた。
 空もアイスティーで喉の奥を潤す。そして言った。
「通常時の格闘センスをあげておけば、ESP負荷を減らせるかもしれない」
 ESPは最後の奥の手に残しておく。雑魚はESPなしでかたずけられれば、更に負荷は軽減できるかもしれない。
「まぁ、それは一理あるかも」
「どうせパワーやスピードじゃオールサイバーやタクトニムには勝てっこないんだからさ、柔よく剛を制すテクニックを学んで、ESP負荷を減らせるようになったらいいじゃん」
 幸いこのブラジルには、ブラジリアン柔術がある。
 当身は殆どの場合通用しないかもしれないし、投げや関節技はそういった形態のタクトニムしか通用しないだろうが、捌きの技術はいろんな局面で応用がきく筈だ。
「わかった。そういう訓練施設なら、いくつか知ってるよ」
 そう言ってリマが小さなリュックを開けた。紙とペンを探しているのか、施設を紹介してくれるつもりらしい。空が慌てて付け加える。
「あ、習うのは性にあわないから、出来れば見取りで倣う方がいいんだけど……」
 まずは受身から、なんて考えただけで気が遠くなりそうだ。基本は大事なんだろうけど、殆どは実戦での見よう見まねとはいえ、全くの未経験というわけでもない。
 それに使い勝手のいいように自己流アレンジもしたい。
「まぁ、即実戦は無理だろうけど、リマ相手に鍛えていたら多少は使えるようになるかな、なんて」
「私で試すのか……」
 リマが苦笑を滲ませる。それでも別段嫌そうな顔はしていない。マンゴジュースを飲み干して、からになったコップをテーブルに置いた。
「なら、今からうち来る?」
「今から?」
「ジーンがいるから」
 ルアト研究所の研究員ジーンこと、怜仁は、ああ見えて一応戦闘用ハーフサイバーなのだ。格闘技術は一通り体得しているに違いない。
 それにジーンに見本を見せてもらうと、その場ですぐにリマで試す事が出来る。これは効率がいいに違いない。投げて捌いて寝技に持ち込んで……(以下、自主規制)
「行く」



   ◆



 お会計を済ませて空はリマと連れ立って店を出た。いつの間にか通い慣れてしまったルアト研究所までの道のり。異様な活気を醸しだすジャンクケーブを2人は並んで歩いていく。
 リマがふと口を開いた。
「古流武術の基本は、生理的弱点と力学的弱点を付くことだと言われているの」
「生理的弱点と力学的弱点?」
「うん。生理的弱点というのは、いわゆる急所の事。力学的弱点ていうのか、たとえば相手の重心を奪う事かな」
「あぁ……」
 力のベクトルを変えて揺さぶりをかけたりする、『崩し』と呼ばれる技術の事だ。
「で、その弱点を付くためのポイントが、まず騙しのテクニック」
 リマが人差し指を1本立てて言った。
「騙しのテクニック?」
「そう。例えば敵に対してファイティングポーズを取らないとするでしょ。或いは、とっても隙だらけ。そうすると、敵は自分をどう見ると思う?」
 勿論、相手は、こいつ戦い方を知らないな、と思うだろう。
「ああ、侮らせるって事ね」
「そう。それ。要するに相手に100%の力を出させないって事」
「確かにそれはポイントだとは思うけど……」
 何かが腑に落ちなくて空は首を傾げた。戦えないという演技が、どうしたらポイントになるのか今一つピンとこない。
「じゃぁ、私に向かって思いっきりパンチを打ちこんでみてよ」
 リマが歩きながら、片手でファイティングポーズをとってみせる。
「え?」
「力いっぱい」
 笑顔で言うのに困惑げにパンチを打ち込んだら、それはすぐに手加減しているのがバレて睨まれた。
 片手が塞がっているから、全力とはいかないが、仕方なくそれなりのパンチを打ち込んでみる。
「…………」
 それは、彼女の胸元で止まっていた。
 勿論、すん止めをしたわけではない。
 届かなかったのだ。
「あ、そっか」
 自分の拳を見つめながら、空は思い至って呟いた。
「うん」
 リマが満足げに笑っている。
 何度か戦闘を経験している人間というのは、一番力が発揮できる間合いを体が覚えてしまっている。だから、そういう間合いでパンチを繰り出してしまうのだ。相手の目を見て攻撃を仕掛けるから、その顔の位置で相手との距離を測って間合いを取るのね。それを逆手にとって相手がパンチを繰り出す瞬間、打ち込まれる側は顔を少し前に出して、少しだけ体を後ろに引いてやる。するとパンチを繰り出す側は顔が近づいた事で相手が近づいてきたと誤認して、少し手前に打ち込んでしまう。ところが打ち込まれる側は実際には体を後ろに引いているから、パンチは届かない、というわけだ。
 遠近法を用いて視覚的には近づいたと錯角させ、実際には遠ざかる。視覚を騙すというテクニック。
 なるほど、彼女が騙しのテクニックとやらを格闘術のポイントの一番最初に挙げた理由がわかった気がした。パワーのない彼女自身が身を持って感じている事なのだろう、これならスピードはともかくパワーには対抗出来る。万一当たっても、届いても、相手の最大ダメージを食らう事はなくなるのだから。わざわざ捌かなくても最小限の動作で攻撃をかわす。相手の力点をずらすという点で、これも力学的弱点をついた技の一つなのだろう。
 これが剛を制す柔のテクニックというやつか。
「後はそうねぇ……よく使われるのは、脳を騙すテクニックかな」
「脳?」
「同じ攻撃を繰り返して慣れさせたところで攻撃を中断したり変化をつけて、相手の思考を一瞬停止させて隙を誘う、ってやつ」
「ああ、それはよく使う手ね」
 これは、スピードに対抗できる技かもしれない。オールサイバーも脳は人間のそれと同じ。ならば高機動運動中でも一瞬の判断の遅れが致命傷になりうるのだ。
「こんな風に相手を騙すのが格闘術のポイントなのよ。初段に於いては侮らせることで相手の全力を出させない。中盤に於いては攻撃を届かせない事で精神的に相手を追い詰める。そして相手の肉体的・精神的体力を殺げるだけ殺ぎながら自身の体力は温存させる。後は、隙だらけの相手を全力で叩くだけ」
「そっか」
 騙しあい、相手の攻撃の先を読む。
 普段、何気なく使っていたテクニックの一つ一つに意味を持たせる事で、より小さな力で戦いを制する事が出来るという事か。自分の戦闘は無駄が多いのかもしれない。と内心で省みる。
「で、全力で叩くために必要なのが筋肉の使い方」
「筋肉の使い方?」
「そ。パンチを繰り出すのにも腕だけじゃなく全身の筋肉を使うって事」
 リマがパンチを打つ真似をしながら腰をまわした。
「全身ねぇ」
 ウェストの捻り、全身の捻りを意識してパンチを出す。それはわからなくもない。重心は低い方が安定するのだ。
「特に内筋」
「内筋?」
 耳慣れないと言葉に空が首を傾げる。
「そ。内側の筋肉。特にここね」
 リマは笑って空の内腿の辺りを掴んでみせた。
「…………」
 あまりにさりげなかったので、空は思わず呆気に取られてしまう。
「ここの筋肉鍛えておくと、足場の悪い場所でもよろめかなくなるよ」
 邪気のない顔で言ってのけるリマに何とはなしに脱力する。
「……なによ、リマは鍛えてるの?」
「もっちろん」
 自信満々の笑顔でリマが頷いた。
「…………」
 空が手を伸ばす。鍛えて筋肉質になっているらしい内腿の辺りをしっかり掴んで揉んでみた。
「なっ……ちょっ、何やってるのよ!!」
 リマが驚いたように飛び退る。
「まだまだ柔らかい、柔らかい」
 内腿の感触を思い出すような仕草をしてみせてニヤリと笑ったら、リマに睨みつけられた。
「むー……」
「でも、柔らかいままがいいわよ」
 固い内腿なんて抱き心地が悪そうだ、なんて内心で舌をだす。
「何言ってんのよ」
 リマが拗ねたようにそっぽを向いた。それでもその頬がほんのり赤らんでいるのが可愛くて、まぁまぁ、なんて宥めすかす。
「でも、全身の筋肉を使うっていうのは使えるわよ。腕力だけじゃ勝てない相手に対しても、こちらの使う筋肉量が相手を上回れば力で押し勝てるって事なんだから」
「力で? まさか……」
「だってほら、拳法家にマッチョはあんまりいないでしょ?」
 リマの言に想像してみる。程よく均整のとれた若者から、年老いた老子までが脳裏に浮かんだ。確かにボディービルのような筋肉隆々の人間ばかりではない。
「言われてみればそうかもしれないけど……」
 それは重心を奪う技に長けているからではないのか。
「たぶん空の妲妃も、そうだと思うよ」
 リマが言った。
「…………」
 妲妃――空のESPメタモルフォーゼによる人型戦闘変異体は、生体反応を駆使した戦闘形態の一つである。
「別に見た目もマッチョになったりしないし、全体の筋肉量も変わってないと思うな。でも格闘センスがあがるのは、筋肉の使い方が変わるからじゃないかな? なら、妲妃の反応速度に耐え得る体なんだから、反応速度が劣ってもESPなしで肉弾戦に挑めるようになるかもしれないね」
 確かに妲妃は玉藻姫と違って細胞組織の変換による変身もないし、筋力増加によるマッスルボディー化もないから、リマの言う通り筋肉量の変化もないだろう。神経の伝達系統がはやくなる分、反応速度は飛躍的にあがるし、敏捷力増加による身体能力だって底上げされはするが。
「ふむ……」
「それに、脂肪を筋肉に変えたり、その逆が出来るなら……」
 そう言ったリマの視線がふと、空の顔から下がった。
「何?」
 空が怪訝にリマを見返す。
「ESPで、もちょっと大きく出来るかも?」
 ・・・・・・。
 一瞬何を言っているのかわからなくて、空は暫くきょとんとしていた。だが、やがてリマの視線が自分の胸にある事に気づく。脂肪を筋肉に変える、その逆といえば、筋肉を脂肪に変えるという事だ。で、大きくといったら――思い当たった。
 実はちょっぴり気にしている事を。
「……リ〜マ〜……」
「なんちゃって」
 冗談っぽく笑ってみせるがさっきのは本気で言っていたような気がして、空は目を吊り上げてみせた。
「許さーん!!」
「キャー!!」
 逃げるリマを追いかけてジャンクケーブを抜けていく。気がつけばルアト研究所は目の前だった。



   ◆



「いい?」
 一通り、投げ・足・関節・寝技を披露して、ジーンが言葉少なに尋ねた。
 ルアト研究所の地下にある、30畳はあろうかという畳敷きの部屋だった。
 勿論、柔道などをするために用意された部屋ではない。その証拠に壁際には戸棚などが並んでいる。地下なのに窓があって和風を思わせる外の景色がリアルに映写されていた。空調は少し低めに設定されているのか肌寒い。その部屋は、この研究所所長エドワートの趣味によって作られたものだった。ブラジルに居て日本の冬を満喫する事が出来る部屋。真ん中に置いてあった筈の炬燵は、今は部屋の片隅に移動させられている。
「OK、OK」
 空が笑顔で応えると、ジーンはそそくさと部屋を出て行った。
 ジーンが見せてくれたのは、どれも簡単で実用的なものばかりだった。軍の格闘訓練では取れる時間が限られている為、即実戦で使えるものしか教えないのだという。
「よし、やってみるか」
 立ち上がった空に、リマがふと手を伸ばした。
「よいしょ」
 そんな掛け声があったかと思った時には、既に空の体は宙に浮いていた。
「わっ」
 目の前に天井と、それから自分の顔を覗き込むリマの顔がある。
「これが、くうき投げ」
 不意打ちとはいえ、綺麗に投げられてしまった。崩されたのが自分でもわからないほどだったのは、スピードのせい、というよりは絶妙のタイミングというやつに違いない。
「リマがやってどうするのよ」
 呆れたように言って空は立ちあがった。
「じゃぁ、返してみたら?」
 リマが挑発する。
「よーし……」
 今、投げられた時の崩しのタイミングを思い出すように空はリマの腕を掴んで音もなく畳を蹴った。そのまま足を彼女の腕にかける。肘の関節をとると、自分の体重にリマの体が傾いだ。
 仰向けに転がったリマに腕ひしぎ逆十字を決める。
「むっ……飛び関節とはやるな。タクトニムやサイバー相手なら、すぐにボキっと折っちゃわないとダメだよ」
 そう言いながらリマが足をあげた。
「えいっ」
 反動で後ろにでんぐり返しをするようにして、リマは関節をとられている腕の肩を中心に体ごと反転すると、あっさり関節技をはずしてしまう。
「……ああ、なるほど。とられている関節も反転すれば自由になるのか」
 空は考えるように自分の手の平を見つめた。関節技のはずし方を自分の中で反芻する。それは自分がかけられた時にも役立つが、相手がはずしにかかった時にも先手を打てる。
 それからふとリマを見返した。そういえば『あの一件』の時、彼女は自分に取られた関節をはずさなかった。
「勿論、しっかりきまってたらはずせないけどね」
 なんて笑っているが、付け焼刃がしっかりきまっていたとも思えない。
 わざとはずさなかったのか。
 考えてもわからない事か。
 空は一つゆっくりと息を吐く。
「よし、次々!」



   ◆



 それからどれくらい経ったのか。肌寒い部屋にも関わらず全身に汗が滲み、肩で息を吐き始めた頃。
「ふふふっ。抑え込みー」
 マウントポジションから片腕と首を両手で抱え込むようにして空がリマを抑えこんだ。柔道で言えば肩固めといったところか。
「…………」
 リマの開いた手が空の腕を掴む。後転して逃れようとするリマに、空が耳打ちした。
「抜けさせないわよ」
 とはいえ、強く絞めたりはしていない。がっちりと腕と首を抑えこんではいるが、そもそも肩固めは割りと容易に抜けられる固め技だ。
「…………」
 リマが自由になる片足を振り上げた反動で体を回転させようとした。
 そんなリマの耳朶に空は歯をたてる。
「きゃっ!?」
 甘噛みされてリマの全身が竦み、回転に失敗する。
「やっぱり弱かったか」
 デート中、ずっと揺れるピアスを気にして、弄っていたのだ。
「何するのよ」
 睨み付けてくるリマに、空は満足げに笑みを返す。
「格闘術の基本は生理的弱点を付く、だっけ?」
「なっ……」
 怒りにか、顔を真っ赤にするリマに空は不敵な笑みを作ってみせた。
「ふっふっふっ。耳の他にも弱点はあるかなー?」
「ちょっ……空……」
 リマの体が自分の体の下で強張っているのがわかった。それでも、空の腕を掴む手に力がこもっている。逃れようとするリマの耳元に囁いた。
「嫌?」
「え……?」
 再び彼女の動きが止まる。
「隙あり!」
 固め技の中では安定している横四方固めに移行した。これは抜けられまい。
「!? 騙したわねー!?」
「別に騙してないわよ。でも、騙されてくれたんだ?」
「……もう……」
 参りました、と抵抗が止む。
 手を離すと疲れたとばかりに大の字に寝転がったまま、リマは荒い息を吐いていた。
 寝技は攻める側より、攻められる側の方が体力を消耗するというのはどうやら本当らしい。
「あんまり無防備にしてると襲っちゃうぞ」
 そう言ったら、あっさりとした返事が届いた。
「いいよ」
「え……?」
 思わずリマを振り返ると、リマが転がったまま回転しているのが視界に入った。
「隙あり!」
 何だかんだと疲れている空の足をリマが払う。
 空は見事に足を払われてリマの隣に倒れこんだ。
「ささやかな復讐」
 リマがにっこり笑う。
「……許さん……」

 呟いて再びリマの上に覆いかぶさった。





【大団円】

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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0233】白神・空

【NPC0124】マリアート・サカ

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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。