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<アナザーレポート・PCゲームノベル>


気が付けばいきなりの事 〜トキノ・アイビスの受難

 右腕損傷。
 黙って立っているのを見る限りでは何も問題はなく見えるだろうが、どうも駆動系がやられたらしく右腕が全く動かない。少し派手に動けばその不調はまず一発で見抜かれる。知能の高いタクトニムにでも遭ったらすぐに衝かれる弱点になると簡単に判断が付く。
 …飾らず言えばそれが今日の塔内探索をここで切り上げる事にした一番の理由。とは言え現在位置の座標は少々奥まった地点になる以上、状況次第では今のままの状態で独り戦い抜かねばならなくなる。…その事を覚悟してはいた。元々オールサイバーであるこの身、この程度特に構う事でもない――この程度の損傷は特に命に関わる訳でもない。ただそれでも、このままでは活動するに当たり己の機能に制限が出てくる事は確かで――塔内イエツィラーと言うこんな場所でこれから戦いになった場合、少し厳しい事になる可能性はある。
 機動力最重視のボディカスタムである以上、元々パワーは生身の常人並になっている。それでも一応軍事用オールサイバー、持参している対戦車ライフルの武装を片手で振り回す事は出来ないでもないが…やっぱり片手のみでこの大口径を振り回すのは多少心許無いのも事実。そうなると結局、左手で扱う日本刀型高周波ブレード一刀だけが一番頼れる武器になる。幸い、高周波の電源の方には不安はない。
 …それにしても、先刻の油断が悔やまれる。回避能力に優れたカスタムである癖に、これ程明らかなダメージを受けてしまうとは、何たる様かと己に対して怒りを覚える。
 己の油断をきつく戒めつつ、ヘルズゲートまで速やかに戻る方策を考える。まずは何はともあれ極力タクトニムに遭遇しないよう気を付ける事、そして戦闘は極力避け――そう思考を巡らせた時点で何処からか激しい銃撃の音が漏れ聞こえる。遠くない。思わず目を細める。戦闘に巻き込まれる事は避けた方が良い――そう思っていた矢先に。
 容赦無く、飛んできたのは流れ弾。視界に入る位置、地面に着弾。その銃弾が射出された角度、そして発射音の大きさ…射程距離の推測が付く。強くなる火薬と硝煙、機械油の臭い。人の足音。機械の駆動音――最早サイバーアイで確かめるまでもない。
 既に関わりを避けられる位置に無い。
 そう判断するなり殆ど反射的に無事な左手で右腰に差していた日本刀型高周波ブレードを抜刀。
 身を潜めて無難に遣り過ごす事を諦め、心を切り替えた。



 機械の残骸が凄い勢いで吹っ飛んで来た。
 抜刀した彼――トキノ・アイビスの居た位置にその残骸――タクトニム・シンクタンクの残骸ががしゃりと降ってくる。まさにその直前のタイミングでトキノはその場を離れていた。元々機動力最重視になっているトキノのボディカスタムならば高機動運動を使うまでもないが、そうでもなければ避ける為に高機動スイッチの必要があったかもしれない程ぎりぎりのタイミング。…何やらこの騒ぎの原因――向こうでは事態が色々と目まぐるしく動いているらしい。
 続いて、残骸が吹っ飛んで来た当の方向から飛び出して来た生身の人間が二人。片方はちょうどトキノと同じような黒い肌を持つ小柄な銀髪の少女で、片方は裾が血と機械油に染まっただんだら模様の長衣――恐らく元は白衣――を羽織った、東洋系の顔立ちに見える眼鏡の青年。
 前者は背に鞄を背負っており、武装は銃剣付きのアサルトライフルを持っている。後者の武装はサブマシンガン二丁。それ以上は殆ど身軽に見える。
 彼らの登場から殆ど時差無く、その後を追って突進して来るタクトニム・シンクタンクの新手。青年の方が振り返り様やけに的確な狙いを付け片手のサブマシンガンを短連射。続けて別方向――そちらにも別のシンクタンクが現れている――にももう片方のサブマシンガンを同様に短連射。その直後、少女の持つアサルトライフルの先端に付けられた銃剣が大きく翻っている。同時にぶぅんと空を震わす独特の異音も翻る。その銃剣、高周波仕様になっている――サブマシンガンが取り残した至近に迫るシンクタンク数体を軽やかに切り裂いていた。途端、シンクタンクは爆発――その機体はソーサーのような爆弾内蔵型のシンクタンクであったらしい。
 トキノは咄嗟に爆発から己が身を庇いつつ前転、更に移動する――と、引っ掛けている蛍光紫のブルゾンを爆風で膨らませつつ少女も同じ方に転がり込んで伏せて来た。それでトキノにちらりと青銀の目を向けてくる。…よくよく見れば顔の左半分にびっしり異国の文字らしき刺青が入っている事と言い、何だか生身ではなさそうな配色だが――サイバーアイで確認出来る身体の熱分布からして、この少女はまず生身だ。
 トキノは赤色のサイバーアイで、少女に真っ直ぐ視線を返す。
 と、少女からは――済まんな、と短く返って来た。それは計らずもこの状況に巻き込んでしまった事について、なのだろうが…態度からはどうにもそう見えない。
 言葉とは裏腹に何とも思っていなさそうな無愛想なまま少女は身体を起こす。済まんなと言うだけ言いつつ、だがこうなってしまった以上、少し手を貸してくれとも平然とトキノに言って来る。無論報酬は分配する、とも続けて来た。…まぁ確かに、事ここに至ればトキノとしても逃げ場は無い。手を貸すのも吝かではない…と言うか、まず仕方なかろうが。
 がしゃりと金属音がする。少し離れた位置、青年の方がサブマシンガン二丁の弾倉を交換していたらしい。どうやら…ちょうどそちらの弾が切れたところで敵をわざと爆発させ、時間を稼いだ、と言うところか。
 少女が再び口を開く。
「私はテスカ。そっちはミク。…何と呼ぼうか?」
「トキノと」
「心得た」
 それだけの短い遣り取りでテスカは再びその場から立ち上がり移動する。トキノは己の視界内に自分へと目礼をするミクの姿も確認。
 二人の動きと装備を見届けてから、トキノもすぐさま動く事にする――殆ど同時に再びシンクタンクの稼動音が迫って来た。今の爆発も僅かな時間稼ぎにしかならなかったらしい。…彼ら二人、妙に多勢に追われているようだ。いったい何をして来たのだろうと思う。

 ともあれ、事前に戦略を講じているような余裕はなさそうである。
 ならば、戦況を――二人の様子を見ながら動くのみ。



 再びタクトニム・シンクタンクが散発的な銃撃と共に雪崩れ込んで来る。狙いはテスカとミク――と言うより既にして疑いようなくトキノもまた攻撃対象に含まれている。さすがタクトニムと言ったところか。標的を選ぶ事無くただ前方、『そこに居る』ものを躊躇なく攻撃している。何処で判断しているのか、前方に新たに増えた一個体が『外敵――ビジターである』と見抜くのが早い。いや、『仲間』であったとしても連中ならば気にせず攻撃を加える可能性はあるか。知能が低ければ尚更の事――人間とて切羽詰まればそのくらいは簡単にやらかすか。
 テスカもミクも正面から迎え撃つ事はしない。崩れ掛けた建物の壁、折れた柵、内部機械が抜かれ最早使い物にならない大型キャリアの残骸――幾らでもある遮蔽物の影にそれぞれ転がり込む。やや離れた別の位置に移動。一つ所に固まってしまう事のないように、出来るだけバラバラにそれでいてお互いをカバー出来る位置に動く。
 両方の動きを追ってシンクタンクの狙いが分散する。シンクタンクへの反撃のタイミングもそれぞれでズラしている。事前に示し合わせているようでもないのにお互いの隙を補うよう互い違いに息の合った銃撃。遮蔽物から銃だけ表に出し短連射、飛び出して来たシンクタンクを殆ど順番通り的確に一体もしくは二体ずつ撃破している。
 …先程テスカがああ言いはしたが、この様子では手伝いは要らないかともトキノは思い始める。この様子ではむしろ下手に横合いから手を出した方が邪魔だろう。トキノは二人同様、遮蔽物の影に飛び込み戦況を伺っているところ。二人の連携振りと、己の武装に己の状態を顧みると――下手に攻撃に参加せず、このまま大人しく隠れながら逃げておき、攻撃は任せておくのが一番良さそうに思えてきた。
 …但し、このままの戦況で終わらせる事が出来るなら、だが。
 勿論、何かあれば――自分の手が必要な時が出てくれば、トキノとて隠れているだけで済ますつもりはない。…敵側がやけに執拗であるからそうなる可能性も低くない。だからこそ先程、改まってテスカから助力を請われたのだと思われる。
 弾幕が張られ爆音が轟く。シンクタンク側の攻撃。俄かに反撃が出来ない――反撃しても意味がないような状態が暫く続く。その状態の敵側後方から、ゆっくりと索敵を開始するまた別の機体が姿を見せる。…光学機能の種類によっては遮蔽物があってもすぐに判別が付けられてしまう懸念がある。テスカとミク二人の位置は今のトキノには把握出来ている。銃撃を返していた位置、移動した先。…二人のサポートをする為必要と考え、トキノはずっと彼らの動きを目で追っていた。けれど今はどちらも動かない――動けないのかもしれない。
 …ならば今度こそこちらが動くべきか。陽動の二文字が頭に浮かぶ。敵側後方から現れ索敵を開始した機体、その装甲をサイバーアイの望遠アイ機能で確認、防御力を目測。少し考え、トキノは遮蔽物の影、スリングで肩に掛けていた対戦車ライフルの銃口をひっそりとそちらに向け構えた。満足に機能するのは左手だけなので瓦礫とスリングを利用し上手く銃身を固定させ狙う。弾幕が張られていると言ってもこちらには比較的銃撃が来ていない。今の状態では特に自分がマークされている風は無い。今は特に二人の居た方角に集中砲火。こちらに来るのは殆ど流れ弾――まだ空間が、隙がある。
 軽く息を詰めてから、トキノは対戦車ライフルを発砲。遮蔽物にしていた瓦礫が吹っ飛び、殆ど時差無く標的――テスカらを索敵していた機体も大破した。銃撃が一瞬止む――それは本当に一瞬だけの事で、次からは弾幕の方向が読めなくなっていた。突如動き出したトキノと言う伏兵の存在に浮き足立っているのかもしれない――何処から弾が飛んでくるかわからない滅茶苦茶の状態が続く。勿論トキノが身を隠していた場所にも雨霰と着弾している――とは言えその時にはトキノはもうそこには居ないのだが。
 移動するその足で近場に接近していた機体一体を両断しつつ、トキノは躍り上がる――対戦車ライフルを撃った直後から既に身体制御は高機動運動に切り替えてある。左手に握ったブレードの高周波も当然ON。銃弾と銃弾の隙間を見極め、間に合わなくばブレードで弾体を斬り、間に合うならば先にすり抜け次の機体を撃破する。戦場を軽やかに舞い閃く赤と黒と白――それらはトキノの纏う色。
 銃撃が今度はトキノに集中する――が、その時来ていた追っ手のタクトニム・シンクタンクは機能上高機動運動速度には対応出来ない機体だった。光学機能の方ではその姿を捉えられてはいるが、それで駆動系に適した出力を行うまでは回らない。けれど看過出来ない事柄が起きている事には変わらない訳で、結果として銃撃の精密さは捨ててただ闇雲に撃ってくる事になる。
 と、標的が切り換わったと見たそこで、暫し沈黙していたアサルトライフルとサブマシンガンが再び的確な射撃を見せ始めた。標的をトキノに変えたシンクタンクの機体を狙い、精密な短連射を駆使して待ってましたとばかりに次々撃破。自分たちから意識が逸れたと思ったら、早い。…あっという間に片が付く。
 トキノは自分を狙い飛んで来ていた最後の銃撃を躱しつつ、索敵。新手は居るか――居ない。
 思い、動きを止めたところでトキノさんと声が掛かる。どうやらミクと言う青年の方の声らしい――と思ったら、そのミクの姿もテスカの姿もやけに離れた位置に居た。トキノが声に反応して振り向くと、ミクは銃を握ったまま器用に人差し指一本を口の前に立て静かにとジェスチャー。一方のテスカは来い来いとばかりにトキノを手招いている。
 そして。
 …二人とも、ごく僅かな間だけそうしていたかと思うと、今度は当然の如くトキノに背を向け走り出した。
 ?
 つまりは静かに付いて来いと言う事だろうか。何だかよくわからないながらもトキノはそう判断し、彼ら二人が消えた方向に走り出す。
 二人は生身。トキノは程無く追い付いた。…けれど二人が足を止める気配もない為、トキノも一緒に並走するような形になる。テスカとミクは瓦礫を越えて脇道に入り、また脇道に。入り組んだ道程を軽やかに慣れた調子で進んでいた。…まるで追っ手でも撒こうかと言うように。
「…どうしたのです?」
「御覧の通り、逃げてます」
「ですが今の敵は全て倒せたようですが。後続も居ないように思えましたが…」
 何故逃げるのか。それ程慌てて逃げる必要など。そう言いたげなトキノの疑問に、にやりと薄く笑みを返すミク。
「後続はすぐに来ます」
「…。…断言しますか」
「ええ。頂いて来たのは連中にとってそう簡単に諦められるような代物じゃないですから。それに今のはまだそれ程知能が高い相手ではなかったですし。ぐずぐずしていれば本隊が来ますよ」
 その前に撒く事が出来れば良いんですが。
「何を取ってきたのです? …テスカさんのその背の鞄、ですね。何らかの機械装置とお見受けしますが」
 ちらりとテスカの方に振る。
 こちらも平然と口を開いた。
「目敏いな」
「先程の戦闘の最中に偶然見えまして。…教えては頂けませんか?」
 それが、何なのか。
「駄目だと言ったら?」
「少し残念です。材質からしてあまり見掛けないもののように思えたので興味が湧いていたのですが」
「…。…これは特殊な電磁波の発生装置だ。電源を入れると強力な電磁波を半径約10m圏内に発生させる。その範囲内ではコンピュータで動くような機械は動かなくなる。…機械的な構造だけを持つ機械でも幾らかおかしくなるくらいだ。電子集積回路はまず確実に不具合を起こす」
「…。…OEIC――光伝達方式の電子集積回路でも不具合を起こすと?」
「起こす。…だからクライアントが目を付けてね。つまりはシンクタンクも取り返すのに躍起になって当然の代物って事になる。まぁ色々と問題も伴うが、連中を相手に回すと考えるなら必勝の兵器と言えるからな」
「――。そんな物が」
「だから追っ手も多いんですよね」
「手に入れられたなら形振り構わず帰る必要が出て来る訳だ」
「…なら何故、使わないのです?」
 他ならない今この場で、彼らを止める為に利用も出来るのでは。そう思い、トキノは素直に疑問を投げてみる。
 と。
 何故か、一瞬にして空気がびしりと凍り付いた気がした。
 が、すぐにその違和感は溶け元に戻る――元に戻ったように緩和する。
 それから、テスカが答えた。
「使わないと言うより――今の時点では使えない。どう考えても電源がそれ程持たない。まず保って一分弱。あくまで最終手段として使える程度だ。それに電磁界が発生している間はこちらの銃の精度も著しく悪くなる――と言うか弾が普通に真っ直ぐ飛ばなくなる。ついでに言うなら命綱の無線まで殆ど無効化する。この御時世では今更な話になるが、このレベルの電磁波になると生体にも影響が無くもない。
 …それにトキノ。貴方はオールサイバーだろう? …この距離で使ったらまず維持モードになる。そうなってしまってはこちらとしても色々と厄介なのでな。…元々負傷しているところを巻き込んでしまっただけでも申し訳無いのに、その上そんな事になってしまっては、色々と申し訳無さ過ぎる」
「…」
「トキノさん?」
「…どうやら私は足手纏いだったようですね」
 この右腕の損傷に加え――サイバーであった事も。
「いや、そういう意味じゃない…と言うより足手纏いどころかあのタイミングで陽動に出てもらえてこちらとしては大いに助けられた。感謝している。今厄介だと言ったのは…完全にこちらの問題になる」
「? …どういう事です」
「今この場で説明してしまうとすぐにもっと厄介な事になる。出来ればここから先――ある程度離れて連中を完全に撒けたようなら、別行動を取らせてもらいたい」
「…それは、構いませんが」
 元々成り行きで一時的に共闘したに過ぎませんし。
 そう答えると、今度は横合いから正反対の科白が飛び出す。ミク。
「私は是非このままヘルズゲートまでトキノさんと御一緒したいと思うんですが…駄目でしょうかね、テスカ?」
 右腕の件からしても御一人じゃ大変そうじゃないですか。
「駄目だ。…トキノ。今のままの貴方が我々と行動を共にしては非常に危険だ。別行動を取るなら先程の助力に対する報酬はビジターズギルドに託しておくが。『四の動きの世界の後の』セフィロト支部元締、テスカトリポカの名に於いて。…呼称では無く貴方のビジター登録正式名を教えてくれ」
「私は二人より三人の方が塔内を歩くにも心強いと思うんですけれど。トキノさんお強いですし。…あ、お別れの際にはお礼代わりに右腕の応急処置でもしましょう。その様子ですとメインの駆動系がやられているとお見受けしますが…外装の損傷からしてサブ機能は生きていると思いますから繋ぎ直せば取り敢えず動くと――…」
「――…トキノ、命が惜しくば登録名を名乗った上で疾くと去れ。このまま我々と居てはいけない」
「…」
 何だか、二人の様子が微妙に変である。
 と。
 少し離れたところから爆音が聞こえた。何度か連続する。まだこの場所からは見えはしないが、音は確実に何かを追っている――三人を追っているのだろう。方向と距離からして恐らくはタクトニム・シンクタンクの後続。テスカ――テスカトリポカとミクの二人はその爆音を聞くなり、それぞれ違った反応を見せている。
 テスカの方はやや渋い顔で嘆息、けれどミクの方はにこりと嬉しそうに笑っている。
「見付かっちゃいそうですね」
「喜ぶな」
「これでその装置を使うような事にでもなれば凄く嬉しいんですけれど」
「却下。…依頼最優先で逃げ切る。お前の趣味に付き合う気は無い」
「…何の話です?」
「私の趣味の話です」
「ミクの趣味は死体作りと死体弄りだ。…サイバー含む。そして時と場所を選ぶ分別は持ち合わせていない」
「…」
 思考停止。
 困惑。
 …つまり、何故装置を使わないのです、とトキノがテスカに問うた瞬間――先程、空気が凍った気がした瞬間、ミクの中である種のフラグが立ったと言う事になるらしい。以降、本人は気にしたくは無いようだが右腕が良い具合(?)に損傷、使えば確実に維持モードに陥るだろう装置がすぐ側にある、とミクの視点から見れば好条件(?)が重なり、トキノ自身が格好の標的にされてしまっている訳で。
 それでテスカは、トキノをミク――アステカに於ける荒涼たる冥界の主ミクトランテクトリの名を名乗る男の魔の手から逃がそうと、別行動しろしろと勧め続けていた事になるらしい。
 前の遣り取りにそんな理由があったなら、当然トキノの答えは決まっている。勿論テスカの言う通り別行動――物騒な白衣を来た男の悪趣味な趣味のモルモットになる気は無い。
 …だが、今の状況を考えるに、今すぐ別れると言うのはどうやら都合が悪い。
 路地の来た道の方から銃撃が来た。今度は音だけでは無く直接――見付かってしまったらしい。ふ、とトキノの姿が消えている――高機動運動で銃撃を避け接敵。左手に握られた日本刀型高周波ブレードの刃が、現れたシンクタンクの機体に一閃する。…トキノは普段ならば二刀流、今は右腕が動かない為左手のみの一刀だが、それでも軽やかな身ごなしで隙は殆ど無いに等しい。
 一閃の後、装甲で覆われたシンクタンクの機体がぱくりと割れ、内部機械を晒して地に落下。続いて襲い来る別の機体――トキノはそちらにもブレードを振るおうとしたが、直前にサブマシンガンの恐ろしく精密な――寸分違わぬ同じ点に対して続け様に撃ち放たれた短連射で撃破されている。…よく考えればサブマシンガンの火力――ピストルと同じ弾なのだ――でシンクタンクの装甲を破壊出来ていると言うのはとんでもない離れ業になる。それを当然のようにやってのけている時点で――今間近で見せられるまでトキノの目にすらそれが変だと言う事を気付かせなかった事からして――この男の技量は推し量る事が出来た。
 トキノは先程までとは少し違った意味を込めてサブマシンガンの持ち主を振り返る。
 にこりと微笑み返された。
「まぁ、細かい事はさて置きまして」
 こうなってしまったなら、やっぱり一緒に帰りましょう。はい。
 お楽しみは、これからです。

 Fin.


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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
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 ■整理番号/PC名
 性別/年齢/クラス

 ■0289/トキノ・アイビス
 男/99歳/オールサイバー

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 …以下、登場NPC

 ■NPC0121/テスカトリポカ(テスカ)
 ■NPC0126/ミクトランテクトリ(ミク)

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          ライター通信
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 いつも御世話になっております。今回は発注有難う御座いました。
 色々と嬉しいお言葉も有難う御座います(礼)。これからも精進したいと。
 …ってその割には…日数上乗せの上にお渡しがやや納期過ぎとまた遅れております。…こういうタイミングになる時はなるべく前日の金曜に納品しようと思うだけ思ってはいるんですがどーも間に合わない事も多く…。とにかく大変お待たせしました(謝)

 今回はPC様御一人の御参加になっております。右腕損傷で動かずと言う大変なところにわざわざ有難う御座いました。…で、それを含めてと言うかそれ以外でもと言うかむしろそれ以外の方で…何だかんだで際どい目(?)に遭わせてしまったような気もしておりますが(汗)
 如何だったでしょうか。

 少なくとも対価分は楽しんで頂ければ幸いです。
 では、お気が向かれましたらまたその時は。

 深海残月 拝