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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


第1階層【都市マルクト】ホワイト・ノート

 続・うさ耳おやじメイド喫茶


 ライター:斎藤晃





【Opening】

 ご承知の通り、前回【うさ耳(おやじ)メイド喫茶 らぶらび とキュン】は一部の心ないお客さまの野望により、跡形もなく吹っ飛びました。
 しかし人は言うのです。

 ―――Woods never die.(雑草は死なない)

 踏まれても、踏まれても、立ち上がる雑草のように。
 本日、らぶらびとキュンキュン、リニューアルOPEN。






【いろいろ復活の時】

 開店前の店内は一種戦争のようでもある。

「キウィちゃん。寝てないで早く制服に着替えてちょうだい」
 口早にそう言って、彼……いや、彼女……いや、それは、キウィの肩を叩いた。
「…………」
 面白そう。という単純明快な理由でメイドとして潜入したはいいが、朝が早かったので、ついうとうとしていたキウィ・シラトは、らぶらびとキュンキュン店長らびー・スケールに起こされ、うつらうつらとロッカーの扉を開ける。
 手渡された制服は新装開店記念の期間限定用らしい。
 ワンピースのようだが前を合わせて幅広の紐で結ぶ。裾にも袖にもフリルが付いていて、前の合わせには白のレース。ボタンのようなものはない。ボタンは留めるのが苦手なのでそれはいいのだが、着方がよくわからなくて適当に合わせていると。
「キウィちゃん! 左前は死人よ!」
 らびーに叱られた。
「…………」
 死人よ、と言われてもキウィにはどうしていいかわからない。ぼんやり突っ立っていると、らびーが言った。
「ジーンちゃんお願い」
 忙しそうに走りまわるらびーの代わりに、黒髪の男が音もなく現れる。
「…………」
 半ば呆然としているキウィに、彼は手早くゆかた型の制服を着せた。幅広の紐―――帯というらしい、をマジックテープできちっと止め、ジーンこと怜仁は、キウィの背中にオーガンジーのリボンを器用にあしらってみせる。
「…………」
 前回は、エドワートが店員として来ていたが、今回は代理で彼が手伝いに来ているらしい。
 美形といえば美形の麗人だが、可愛いものが全くといっていいほど似合っていなくて、キウィはやっぱり彼を呆然と見返してしまった。
「…………」
 時に、通訳さえ必要とするほど無口な彼に、果たして店員など務まるのか。ちょっと想像が出来ない。
 また1つ楽しみが増えてキウィは意気揚々と、この店の看板でもあるうさ耳を装着する。
「武器の持ち込みは一切禁止だから、持ち込もうとしたご主人さまがいたら、さりげなく回収してね」
 らびーがホール従業員のキウィとジーンに念を押した。語尾に飛び散る見えないハートマークを、キウィはさりげなく手で払い、ジーンは気付かない顔でやり過ごした。


 いよいよ開店。


 前回の一件を踏まえ、らぶらびとキュンキュンの入口は空港の出入国管理システムもかくや、という物々しいものとなっていた。
 表向きは可愛らしくデコレーションしてあるが、どこからどう見ても金属探知機に超音波監視装置である。勿論、それだけではない。
「…………」
 トキノ・アイビスは、それを嫌そうに見上げた。
 出来れば2度と来たくはなかったメイド喫茶である。しかし前回の悪夢を払拭しなければ、夜もゆっくり眠れない。それに、どこからどう見てもタクトニムの巣窟であるこの店を、素敵なお店と誤解し、騙されている者達を救ってやるためにも、この世から抹殺しなければならないのだ。
 早く、彼女たちの目を覚まさせてやらなければ。
 自分の嗜好に尤もらしい大義名分をつけて使命感に胸を焦がしながら来たのである。
 しかし来た早々、トキノは看板を蜂の巣にしたい衝動にかられた。トキノからすれば下品にしか見えないネオンで飾られた『らぶらびとキュンキュン』。前回からキュンが1つ増えている。
 そんな些細な事が一つ一つ癇に障って背負った対戦車ライフルに手を伸ばしかけた時、後ろから聞き知った声をかけられた。
「あ…ト…トキノさん」
 ゆっくり息を吐いて振り返る。そこに女の子が俯いて立っていた。顔が見えなくてもわかる。この店を素敵だと信じて疑わない、この店の被害者の一人、常盤朱里であった。
「あ…ありがとうございました」
 朱里はそう言って、一枚のチラシをトキノに掲げてみせた。らぶらびとキュンキュン新装開店のそのチラシは、以前トキノが彼女にあげたものである。
 それを見て来たのだろう、何とも複雑そうにトキノは視線をそらしながら「あぁ」とだけ応えた。
「ト…トキノさんも、き…来たんですか?」
「……ああ」
「は…入りませんか?」
「……ああ」
 彼女に促されるままに地獄の門をくぐる。
 ヘルズゲートをくぐる時だってこんなに背中にべっとり汗をかいたりなどしない。もとより、オールサイバーである彼は汗などかいたりしないのだが。
 では、この背中の不快感はなんであるのか。
 トキノはゆっくり背後を振り返った。
「トキノちゃん。武器の持ち込みは禁止よ」
 おやじメイドらびーが、トキノの対戦車ライフルを握り締めながら満面の笑顔で立っていた。
「…………」



   ◆



「トキノん、武器持ち歩きすぎ」
 トキノが持ち込んだ武器を、お預かり用ロッカーに運ばせながら、キウィが面倒くさそうに呟いた。キウィは指示を出しているだけで、運んでいるのはジーンである。
 らびーはトキノと朱里を席まで案内していた。
 そうして、やっとのことで全ての武器をかたずけ終えた頃、入口の自動ドアが開いた。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
 まるで条件反射のように、キウィがマニュアル通りの応対で出迎えると、ツヴァイレライ・ピースミリオンは機嫌のいい顔をキウィに向け、「うむ」などと偉そうに応える。基本的には若くて可愛い女の子が好きな彼なのだが、らびーやエドワートのお出迎えに懲りたのか、多少融通がきくようになったらしい。人はそれを妥協と呼ぶ。
 つまりは、かわいければ何でもいいのだ。
 幸先良いスタートである。
 心機一転新装開店、美味しいスイーツを用意してくれる素晴らしいお店なのだから、素敵スイーツを満喫出来たら目的の半分以上は達成させられる。しかし、どうせならかわいい子に接客されたいのだ。
 そんなこんなでツヴァイは意気揚々と足を進めたのだが、
それはすぐに止まってしまった。
 ついでに言葉も失ってしまう。
 目の前に、ジーンが何とも威圧的に立っていたからだ。
 にこりともしない怜仁がメイド服を纏っているのだ。

 ―――なんでこんなに似合わないんだろう。

 とにかく似合わない。とことん似合わない。ミスマッチにもほどがある。しかも笑えない。笑いもこみあげてこない。うっ……と呻くのが精一杯だ。
 まだ、らびーやエドワートの方が似合っているとさえ思える。
 フリルの似合わない男。
「ご主人様。武器。不可です」
 ジーンは棒読みにそう言って、ツヴァイの腰におさまっていたレーザーソードを無造作に抜き取った。
「……似合わねぇ〜」
 ぼそりと呟いたツヴァイに、キウィはしみじみと頷く。
 らびーやエドワートのような視覚的暴力はないが、どうしようもなく似合わないのが、いっそ痛々しい。
 しかしツヴァイは、朱里たちのテーブルを見つけて気を取り直した。
「一緒でいいや」
 むしろ、一緒がいいや、とばかりにそのテーブルへ近づく。
「やぁ、久しぶり」
 そう声をかけて、ツヴァイは朱里の隣に腰かけた。






【突っ込み不在】

「ゆかた?」
「お…お客様用のも、あ…あるんですって」
 朱里が言うのに、ツヴァイはキウィを振り返った。それからトキノを見た。
「まぁ、俺は似合うな。勿論、朱里ちゃんも似合うと思う」
「トキノんも着るよね?」
 キウィがトキノに尋ねる。
「……着ない」
 トキノは不機嫌そうに応えた。着るよね、と誘われた事が不快なのではない。トキノんと呼ばれる事が不愉快なのである。
「い…一緒にどうですか?」
 朱里が誘う。
「……断る」
「トキノんも似合うって」
 ツヴァイが言うのに、トキノの眉尻があがる。いつの間にか着々とトキノんが定着しつつある事実にトキノは無視を決め込んだ。
 一方ツヴァイは言ってからジーンを振り返っていた。
 恥じらいもなく、堂々としちゃってるところがまた可愛げがなくて、可愛らしいメイド服との相性を最悪にしていた。しかしトキノならそれなりに可愛く仕上がるかもしれない。
「耳寄り情報があるんだけど」
 キウィがトキノの耳元に囁いた。
「…………」


 ―――30分後。


 ピンクのフリル付きの可愛らしいゆかたに着替えた3人が、1つのテーブルを囲んでいた。
「ト…トキノん。本当……ぷぷっ……似合うよ…ぷっ」
 そう言いながら、キウィはデジカメのシャッターを押し続けた。暫くはこれをネタに仕事を手伝ってもらえそうである。
「…………」
「か…可愛いと思います」
「いやいや、僕は朱里ちゃんの方が可愛いと思うよ」
「そ…そんな……ツヴァイさんも、可愛いですよ」
「そう?」
 満更でもなさそうに笑ってツヴァイはメニューを取った。
 トキノは早く着替えてとっとと帰りたい気分を押さえつけ、目的のためには手段を選んでいられないのだと自分に言い聞かせ、心頭滅却に励んだ。
「ご主人様。お似合いです」
 らびーが笑顔でやって来る。
「…………」
 今、自分はこいつと同類と思われても仕方のないようなかっこをさせられているのだ、と思うと、トキノの理性の糸がはち切れんばかりになった。切れる時も近い。
 そんなトキノを彼女の声が引き戻す。
「あ…ありがとうございます」
 朱里の声にかろうじて、我を取り戻した。ここで切れている場合ではなかった。自分には大事な氏名があったのだ。
 危機を乗り切りトキノはゆっくり息を吐き出した。今、自分がどんなかっこをしているのかは考えないことにする。
「今ね、カレーフェアをしているの」
 落ち着いたトキノの声に彼らの会話が聞こえてきた。
「カレーフェア? なんで喫茶店でカレー? カレーは普通ラーメン屋で食べるもんだろ!」
 ツヴァイは断固カレー反対顔でらびーに向かって主張した。辛いものが大の苦手な彼は、たとえ甘口であってもカレーは嫌いなのである。
「ラーメン屋とは、また偏った意見ですね」
「ラ…ラーメン屋では、ラーメンを食べるものではないのですか」
 朱里が言った。全くもってそうであろう。勿論、ラーメン屋にもカレーは置いてあるが、普通、カレーはカレー屋である。
「…………」
 カレーなど大嫌いなので、カレー屋の存在は抹消、どこに置いてあるのかなど、興味もなければよく知らないツヴァイなのであった。
「あら、そんな事言わないで、自分好みのカレー作ってみない?」
 らびーがツヴァイに勧める。
「は…はい」
 応えたのは朱里だった。
 料理は大の苦手で、家事全般壊滅的に出来ない彼女であったが、半分は料理を教えてもらうのを目的にこの店に来ているのである。
 前回のチョコレートはいろいろ不評に終わった彼女としてはリベンジもあった。
 そんな朱里にツヴァイが仕方なさそうに立ちあがる。嫌ならここでスイーツでも頼んで食べていればいいのだが。
 自分好みのカレーに心惹かれたのか。それとも朱里と一緒にカレー作りに挑戦してみたくなったのか。
「トキノんは?」
 楽しそうにキウィが尋ねた。
 トキノは答えた。
「もちろん」

 ―――参加するしかないのである。



 店の中央に用意されたカレーフェア特設コーナーにはカレーを作るスペースは勿論、食材なども並んでいた。
 また、作ったカレーを並べるコーナーもある。
 朱里はさっそくマンゴーを手に取った。
 別の店で食べたマンゴーカレーの味が忘れられなかったのである。
 しかし、カレーの材料がよくわからない。たぶん、これと思うものを適当に見繕って包丁を握った。
 じゃがいもの皮を剥く。あきらかに、皮についた実の方が多い。野球の硬球くらいあったジャガイモが小さなビー玉くらいのサイズになったのを見かねて、らびーがじゃがいもの皮剥きを手伝いつつ包丁の使い方を教えてやった。その甲斐あってかビー玉サイズだったじゃがいもは小さなピンポン玉くらいには切れるようになった。
 その傍らでは、ツヴァイがじっと食材とにらめっこをしている。辛くないカレー。むしろ、甘いカレー。
「うむ……」
 ツヴァイはそこにあったフルーツ缶を全部取ると、煮込み途中のカレーの中に残らず入れてみた。
 おたまで掻き混ぜる。微妙にねっとりとしているのはカレーのとろみ故か、フルーツ缶のシロップゆえか。
「あ…あの……味見、お願い出来ますか?」
 かき混ぜながらカレーを煮込んでいると、朱里が声をかけてきた。
 朱里の作っているのはマンゴーカレーである。
 カレーは嫌いだが、もしかしたらマンゴーカレーも自分のフルーツたっぷりカレーと同じく、甘いかもしれない。
「うむ」
 ツヴァイはさっそく一口食べた。
「…………」
 辛くはない。
 ほんのりマンゴーの甘さがある。
 しかし、これは果たしてカレーなのか。どちらかといえば、マンゴースープのようだが。ツヴァイは首を傾げつつも、自分的には食べられるのでOKを出したら朱里はほっとしたように微笑んだ。俯いてばかりで内向的な彼女が、珍しく笑っている。可愛い。いじめたくなってくる。Sの血が騒いだ。しかし朱里はツヴァイに背を向け今度はジーンに味身をさせていた。
「ご主人様。これはカレーではありません」
 ジーンが社交辞令という言葉も知らぬげに言い切った。
「え……」
 朱里が戸惑うようにジーンを見上げている。
「何、本当のことを言ってるんだ、この男」
 ツヴァイは助け舟からうっかり突き落としていた。
「…………」

 一方、トキノである。
 彼は珍しくやる気満々でカレーフェア特設コーナーに立っていた。
 武器は全て入口で回収されたが、彼にはまだ別の秘密兵器が残っていたのである。
 持参したカレー用食材。材料は持ち込み可と新装開店&カレーフェアのチラシに載っていたのだ。
 第二階層で集めてきた得体の知れない食材群はまだ、トキノの手の中にある。
 この店の評判を地の底まで落としこむためのアイテムが。
 トキノはバッグを開いた。
「トキノちゃんは、何を持ってきたの?」
 興味顔でらびーがトキノのバッグを覗いた。
 キノコ。ビビットカラーのポスターカラーをぶちまけたようにカラフルなマジックマッシュルーム。人の形をしたマンドラゴラのような高麗人参、エトセトラ。
 メインは黒い不気味なかたまり。キャビアか何かを団子にしたような、といえば聞こえはいいが、らびーの本能が、イエローではなくレッド信号を灯している。
「こ…これは……?」
 らびーが恐る恐る尋ねた。
「新種のスイカです」
 トキノはきっぱり言い切った。
 何かを連想させるようにグロテスクに黒光りする球体。ダイナマイトなどでは無い事は、入口での入念な検査によって明らかだったが。
「……スイカはカレーには普通入れないわね」
 らびーの言にトキノはそちらを振り返った。
 朱里はカレーにマンゴーを入れている。
 ツヴァイはカレーにフルーツ缶を入れている。
 キウィはカレーに生クリームを混ぜ合わせていた。
 スイカは野菜だ。何の問題があるか。そんな顔付きでトキノは視線をらびーに戻した。
 しかし尚も何かがらびーに警報を鳴らすのだ。全身がそれに対し拒否反応を示している。
 叩き壊したい衝動を必死で堪えてらびーは言った。
「入れるのはやめましょう、ご主人様」
 それにトキノはあっさり応じた。
 よくよく考えればこれは時限爆弾という名の生物兵器なのである。うっかり煮込んでダメになってしまっては困るのだ。
 とりあえずそれを店内の特設ステージに設置して、トキノは早速調理に取り掛かった。
 らびーの絶妙なフォローなどもあって、全員、それなりに出来上がる。
 キウィの作ったカレーに、ツヴァイが目を輝かせた。
 電気うなぎの蒲焼カレーはともかく、カレーケーキやカレーアイスは食べられそうである。
 カレーの練りこんだアイス。そう思って取ったアイスに、更にキウィは特製カレーをかけてくれた。
 ツヴァイは意気揚々と一口。
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ」
 激辛20倍ハバネロたっぷりカレーのかかったアイスクリームは、更にクリームの甘さで感覚的にも辛さを増していた。
 火を噴く勢いでツヴァイが噴出す。
「ツヴァイさん……」
 向かいの席で、顔にかかったカレーアイスをナプキンで丁寧に拭きとりながらトキノが睨んだ。
 キウィが可笑しそうに腹を抱えている。
 オールサイバーであるトキノに怪しい料理を食べさせたところで、味覚を切られたらちっとも楽しい事にはならない。
 しかし、これはいけると思ったのか、トキノで遊びたいキウィは、大量の水をガブ飲みしているツヴァイに、にこにこしながら、お口なおしと称してカレージュースを差し出した。
「どうぞ」
 ツヴァイが不審にストローで中をかき混ぜる。コップの中に、にんじんやじゃがいもが浮かんでは沈んだ。
「……大丈夫なんだろうな?」
 胡散臭げに尋ねたツヴァイにキウィがガムシロップを添える。
「うむ」
 ツヴァイはがガムシロップを5個ほど入れてストローをくわえ込んだ。
 啜る。
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ」
「ツヴァイさん……」
 地を這うような声音でトキノが言った。
 しかしツヴァイはそれどころではない。
「だ…大丈夫ですか?」
「水……水……」
 朱里が差し出すコップを奪い取るようにして、ツヴァイは水にガムシロップを入れ一気に飲み干した。
 となれば、さすがに次に運ばれてきたキウィのカレーケーキには、最早食指も動かない。
 可愛らしくデコレートされ、美味しそうに見えるが、既に2回も騙されているのである。これで食べたらただのアホだ。
 だからケーキは横に置いて。
 ツヴァイは自分で作ったカレーを取り出した。
 それを、ライスではなくかき氷にかける。禁断のカレーフラッペ。
 きっとこの冷たさが、今までの激辛カレーで燃え上がりそうな舌を冷ましてくれるに違いない。
 スプーンで掬って一口。
「ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっ」
「…………」






【誰が事態を収拾できるのか】

 そんなこんなで、ツヴァイも朱里もらびーの作った特製スイーツで口直しをし、トキノは紅茶で人心地ついた頃。
 キウィが花火セットを持ち出してきた。
 ご主人様の荷物は厳重にチェックされるが、従業員の荷物は全くチェックされないのである。
「花火しよう」
 と、誘うキウィに朱里が一番に席を立った。
「はい」
「だめよ、キウィちゃん。ここは屋内なんだから」
 らびーが慌てて止めに入る。
「大丈夫ですよ。換気扇も回ってるし。ほら、よくライブなんかでもやってるじゃないですか。屋内でも大丈夫ですって」
 そう言ってキウィはさっさと水の入ったバケツを用意した。
 確かにライブなどでは演出として花火をする事がある。
 天井もそれほど低くないこの店内なら、大丈夫かもしれない。煙の少ない手持ち花火なのだ。
 それに、何よりご主人様方がやる気なのである。
「しょうがないわねぇ」
 らびーは1つ溜息を吐き出して、不承不承頷いた。
 ツヴァイも参戦したので、キウィと朱里の総勢3人はさっそく花火に火を点けた。
 キウィがねずみ花火に火を点けてトキノの椅子の下へ投げ込む。
「!?」
 慌てるトキノを楽しんで、らびーにも投げた。
 ピンクのふわふわのウィッグの上でねずみ花火が跳ね回る。
「キャー! キウィちゃん!! そんな悪い子はお仕置きよ」
 らびーがうさぎ印のほうきを持ち出してきた。
 キウィに向かっていくらびーの足をトキノが反射的にひっかける。
 らびーが派手に転んだ。
 すっかり忘れていたが、一応トキノはキウィの秘書兼護衛だったのである。
 朱里が転んだらびーに駆け寄ろうとした時。
 ツヴァイがそれを見つけた。
 先ほど、トキノがステージに仕込んだ時限爆弾という名の生物兵器である。
「なんだ、これ?」
 不思議そうに取り上げて、それから得たり顔で頷いた。
「打ち上げ花火発見!」
 言うが早いかロウソクの方へ持っていく。
「あ…それは……」
 トキノが慌てて呼び止めた。
「スイカよ」
 床に這いながら、らびーも言った。
 しかしツヴァイの手は止まらなかった。
「!!」



   ◆



 結論から言えば、ツヴァイが手にしたそれは、打ち上げ花火ではなく、もちろん新種のスイカなどでもなかった。それは恐ろしき時限爆弾であり、生物兵器―――ボキちゃんの卵だったのである。
 それが危機を察知したように一斉に孵化した。
 おぞましい数のボキちゃんの卵が一斉に……。
 耳を塞いでも塞ぎきれない、暫く夢に魘されそうな野太い悲鳴が、その瞬間店内に響き渡った。
 らびーである。
 ツヴァイは自分の手の中で孵化したそれに気を失いかけた。
 キウィは何かを堪えるように口元を押さえる。
 一枚のシーツと共に、うさ耳型イヤーマスクが朱里の耳を覆っていた。
 ジーンが素早く朱里だけ庇ったのは、彼女が唯一の女の子であり、非戦闘員だったからに違いない。
 そして彼は手早くトキノの作ったカレー鍋を取り上げると、孵化したばかりで辺りにまだ広がっていないボキちゃんの幼虫の群れにぶっかけたのである。
「…………」
 らびーの悲鳴が止んだ。
「あ…あの……何が……?」
 朱里がシーツから顔をだし、イヤーマスクをはずした。
 ツヴァイの手にカレーがかかっている。
 その中に黒いつぶつぶが埋もれているのが見えた。動いてはいない。
「も…もしかして、出たんですか?」
 朱里が何かを察したように恐々尋ねた。
「…………」
 誰も何も答えなかった。
 ジーンがわずかに頷いたか。
 生物兵器を持ち込んだのもトキノなら、その爆発をおさめたのはトキノの作ったカレーであった。
「ト…トキノさんのボキコロリは……や…やっぱりすごい威力なんですね」
 朱里の言葉に、トキノが納得のいかない顔で憮然と鼻を鳴らした。
「ふん……」





 その日―――。

 うさ耳(おやじ)メイド喫茶、らぶらびとキュンキュンの店頭に貼られた注意書きに次の一文が書き加えられた。


【新種のスイカの持込を、かたく禁止します。 メイド一同】





【大団円】

■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□

【0289】トキノ・アイビス
【0295】らびー・スケール
【0347】キウィ・シラト
【0659】常磐・朱里
【0778】ツヴァイレライ・ピースミリオン

【NPC0104】怜仁

■━┳━┳━┳━┳━┳━┓
┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━□

 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
 ご意見、ご感想などあればお聞かせ下さい。