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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【密林地帯】インディオ村

メビオス零

【オープニング】
 アマゾン流域の密林地帯には、昔ながらの暮らしを続けているインディオの村が幾つもある。
 インディオは凄いぞ。あの審判の日と、それ以降の暗黒時代、高度なテクノロジーを持ってた奴らがバタバタ死んでいった中、インディオ達は何一つ変わらない生活を送っていたというんだから。
 本当に学ばなければならないものは、インディオの元にあるのかも知れないな。




〜女の戦い〜

 唐突だが、白神 空は不老である。
 超能力研究所で生み出された彼女は、細胞組織を直接変異・組み替えての変身を可能とする。それは人間の体から狐の獣人、人魚、果ては中空を舞える鳥人にまで姿を変えることにまで及び、その血や体液は、微量ながら治癒効果を持っている。この時点でも並のエスパーやサイバーより遙かに人間離れした存在ではあるのだが、最後に一つ、空にとってもっともネックとなっている能力がある。
 それが……不老長寿の能力。
 もちろん不老不死というわけではない。体は老いず、寿命が非常に長い(そもそも死んだことがないのだから確認のしようもないのだが、研究所の計算では恐ろしく長いらしい)だけであり、いつかは死ぬ。不老であるのは、変身能力に使われる細胞の性質による物だ。
分かりやすく説明すれば、ここに変形するロボットのような物があるとする。それは様々な複雑な機構を持ち、三種の物に変形するとする。しかしそれも、その外見が変化して形が変わり、余計な物が増えたにもかかわらず今まで通りに変形しようとしても、その変化した部分が引っ掛かってしまい、叶わぬ事になる。空のそれも同じようなものなのだ。細胞単位で一定の形に変身するように造られている空の体は、常に一定の体型・外観を保ち続ける。
よって、精々形を変えられるとすれば、特に変形を行わない髪ぐらいの物である。幸いにも常に一定の体型を保ち続ける空の体は、太りもしなければ痩せもしない。日焼けをしても数日で元に戻るし、身体的な欠損も時間をかければ再生出来る。
ある意味、それはこれまで様々な人々が理想としてきた形であろう。不死ではないが、そうなれるとしたら、多くの人がそうなりたいと思えるような理想の体……
その体が、現在、空の事を悩ませていた……




 ブラジル、密林地帯……
 季節は秋。しかし気温は四十度近くにまで上がり、数日に一回は降る大雨を蒸発させ、晴れの日には地上を歩く生物を蒸し殺そうと画策する……

「と、言うわけでお願いします」
「……久しぶりに来たと思ったら、そんなお願い……無理だよ」
「そこを何とか」
「ならないって」

 が、そんなことにもお構いなしに、インディオ村のテントの中では、暑いオーラが充満していた。そしてオーラは村の中心にあるテントから村全体に広がり、今では誰も外に出ようとさせなくしている。
エスパーでもない空が本来そこまでの“気”を放射するようなことない筈なのだが、誰でも苛立ったりしていれば周囲の空気も変わってくる。それと同じ理屈で、空の纏う空気は熱気となって辺りに撒き散らされ、目の前で向き合っている少女を包囲していた。
少女……このインディオ村の権力者の一人である祈祷師は、真剣な目で見つめてくる空から視線を切り、口を開く。

「別に、気にするほどのことじゃないと思うけど……」
「あなたは育つから言えるのよ。でもね、私はこのままじゃダメなのよ」
「十分綺麗だって。男の人から、声だってかけられるでしょ?」
「そうね。胸以外は褒められるわ。胸以外は」

 空はそう言うと、放っていた熱気を突如として暗鬱とした涼しげな物へと変化させ、祈祷師少女の心を竦ませる。空の言葉にどれだけの憎しみが込められているのかは、その変化だけで容易に感じ取ることが出来た。
 ……胸。今日この日、空がわざわざ手土産持参(村の食料となる動物一頭)で少女の元を訪れたのは、胸を大きくしてくれと言う願いを叶えて貰うためだった。何でも、マルクトの喫茶店にて友人とお茶をしている所をナンパにあったらしいのだが、そこで……
『HEY、そこのお嬢さん? Meとお茶シマセンカ?』
『あら、素敵なお誘いね』
『HAHAHA、Meはこちらのキョニューさんに声をかけてるのデース! アナタハ黙てて下さい!』
 ……などというやりとりがあったらしい。
 ちなみにこのコンマ数秒後に、声をかけてきた男は空に張り倒され店内中から集まってきた少女達から蹴り回され最後に空にジャイアントスイングで振り回された挙げ句窓から放り投げられて消えていったのだが、これは祈祷師少女が知る所ではない。

「そう言われても、私の薬が効くのかなぁ……」

 少女は首を傾げながら立ち上がり、壁(テントだから布)に歩き、薬草の詰まった木箱の蓋を開けた。中には雑草にしか見えないような平凡な草から、あからさまに怪しい草までギッシリと入っている。
……お祓いならまだしも、祈祷師である少女では専門外だと誰もが思う。しかしインディアンの祈祷師は、様々な未知の薬品と秘術を駆使し、人々の尊敬と権力を得るのが基本なのだ。この少女とて例外ではない。
 当然、この村周辺で採れる薬草の調合などには精通しているのだが……

「やっぱり、胸を大きくする薬なんてやめた方が良いと思うよ? 案外小さくなるかも」
「このままじゃあ、引き下がれないわよ。私だって……別にないわけじゃないのよ? あんな失礼な奴の気を引きたいわけでもない……でもね? この数年、私の胸は1pどころか数oも変わっていないのよ!」

 空は、少女と向かい合っていた態勢のまま、ワナワナと拳を固めて震えていた。
 通常は常人と同じ人間の形をしている空ではあるが、この形も変身の形態の一つである。常に一定の状態に変身するというのならば、この形態もまた、変化するようなことがない。それ故に不老であるのだが、変化することがない。育ちもしない。
 自然に生活しているだけでは、胸が成長するようなことはまずあり得ないのだ。
 体に登録されている形態が美しい成人女性の体であるだけ救いがあるが、今の空には慰めにもならないだろう。
 空から湧き上がる負のオーラに退きながら、祈祷師少女は数種類の薬草を取り出した。

「そこまで言うなら、何でここに? マルクトとかの都会なら、凄腕の闇医者とかも多いでしょ?」
「医者は嫌。病院はもっと嫌」

 空は“ふんっ!”とそっぽを向いて唇を尖らせた。
 元々が怪しげな超能力研究所で生み出された事もあり、大きな医療施設や医者など、そう言った類の物が苦手なのだ。大きな怪我などをしたときには、信頼出来る人物に頼っているが、普段からマルクトで顔を合わせるような相手に、こんな相談事はしたくない。閉鎖された空間に住む少女だからこそ、空は悩みを打ち明けているのだ。
 しかし肝心の少女は、薬草とにらめっこをしながら硬直している。

「やっぱり胸を大きくする……無理だよそんなの」
「そこをなんとか!」
「なってたら私のを大きくしてるよ!」
「インディオ四千年の歴史はどうしたの!?」
「何の話よぉ!?」

 諦めようとしない空との掛け合いに、祈祷師少女が本音を漏らす。まだ十代中盤であろう少女の胸は、空よりも更に……その…………貧しい。もちろん空が最初に言っていた通りこれからの成長には期待出来るのだが、気にするものは気にするのである。
 睨み合う両者。互いに一歩も退かない。
 空は、ここを最後の希望としてきたのだ。簡単には諦められない。
 少女は、どう足掻いた所で空の願いは叶えられないと分かっていた。並の人間の体でさえ、整形手術でもしない限りは胸を人為的に大きくすることは出来ない。こんな小さな村の薬で、空の特別な体を弄ることなど出来るわけもない。
 ……睨み合いは五分ほど続き、最終的に、空が膝を屈して終わりを告げた。
 恐らく、心の奥底では不可能なのだと言うことを理解していたのだろう。床に手をついて突っ伏し、静かに涙を流し始める。

「うう、なんて事。恥を忍んでここまで頼んだのに、結局はこんな仕打ちを受けることになるなんて……」
「で、でもそんな無茶言われたって……それにほら、小さく無いじゃないですか」

 ムニッ
 背後に回り込んだ少女は、床に突っ伏している空を抱き起こすようにして、両手を空の前に回していた。突然の感触に、空は赤面しながら「うひゃあ!?」などと叫びを上げる。
 それと対照的に、少女は仇を見るように視線を細め、空に囁きかけた。

「お姉様、本当にあるんですね」
「ちょ、ちょっと? ねぇ、どうしたの!?」
「私なんて男装したら、素で間違われるのに……」
「や、やめてって! ちょ、そこは私のポジションだから!」

 空は焦り、抵抗する。しかし普段から弄られてばかりだった少女は逆襲のチャンスを窺っていたらしく、ここぞとばかりに空の体を撫で回す。これまで空に散々弄られた影響からか、手の動きは異様に巧みだった。
 やがて空の体は、少女の手によって快楽の園へと……

「あ……そういえば、胸は揉むと大きくなるって言うわね」
「え?」

 導かれる前に、空の一言が少女の動きを止めていた。空はその隙を衝き、少女の手を引き剥がすどころか、その上に自分の手を重ねて動かし始める。拘束していたはずが逆に拘束されてしまった少女は驚き「ふぇぇええ!!」などと声を上げ、突然態度を変えた空から逃れようと身を退こうとした。
 だが、空は離さない。
 少女に対する反撃のつもりなのか、少女の手を巧みに操り、誘導していく。

「ぅっ……あながち迷信じゃないらしいわ……よ? 昔、科学的に検証した結果ちゃんと効果があるって……あぅ……どこかの本で見たわ」
「思いっきり自滅してるし!」

 少女が叫んだ通り、空の行動は僅かに少女を怯ませただけで実際のダメージは空自身に返っていた。当たり前である。
 しかし空も、本気で受けに回る気は無い。少女が叫んだ瞬間に素早く少女の腕をかいくぐって体の向きを反転させ、向かい合うように体勢を整えると、少女の両腕を思いっきり引いて“引き倒した”。

「え? え!?」

 動転して為すがままにされる少女。
 ちょうど空を押し倒すような態勢で床に倒れた少女に、今度は空が手を這わせた。ついでに少女が逃げないように、両足を少女の足に絡ませて立ち上がることを不可能にする。

「ふふふ。そう言えば、あなたも胸のことを気にしていたわね。男装したら間違われたんですって? 可哀想に……ふふふふふ。私が大きくしてあげましょうか?」
「え、遠慮するよ! 私はまだ未来があるから!」
「まるで私にはないみたいに言わないで! この体になるまではちゃんと育ってたんだからぁ!!」
「そんな歳になったら、減りはしても増えはしな──」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 言ってしまってから、少女は「やばっ!」と内心で叫び、何とか空の両手を外そうと腕に手をかける。しかし、ビジターである空と、純粋な力勝負で勝てるはずもない。空の両手は、少女の体を蹂躙しようと巧みに動き回り……

「‥‥今までも一緒に楽しんでたけど、あなたホントに小さいわね。気にしなかったから気付かなかったわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・‥‥‥‥」

 空の言葉に、紅潮し始めていた少女の顔から表情が消え失せる。代わりに空の両腕を掴んで外そうとしていた手が離れ、空の体に伸びていく。

「うひゃう!」
「私だけだと不公平だし、お姉様のも大きくしてあげるね。でもこんなにあって気にするなんて‥‥ぁ、もしかしてパッドとか、中に何か仕込んでるとか? ふふふ。お姉様も大変ですね」

 少女が不敵に笑う。‥‥否、それはただの笑みではない。
 まるで嘲笑。自分はまだまだこれから育つという確信を持った者の、持たざる者へ向ける冷酷な笑みだった。
 空の表情が引きつり、両手に力が篭もる。

「い、言うじゃない。でも、あなただって育つかどうかは分からないわよ。いつまで経っても育たない人もいるし」
「お姉様みたいにね?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥」

 二人が笑みを浮かべて見つめ合う。その間にも互いの手は動き続け、二人から異様な、どす黒いオーラが放たれ始める。この場を目撃した者がいれば、間違いなく場のカオスっぷりに耐えられずに逃げ出して行くであろう光景が、数十秒ほど続けられた。

「その勝負、買ったわ」
「先に胸を大きくした方の勝ち‥‥なら、お姉様がそれ以上育たないと証明してあげます!」
「上等よ!」

 二人がもつれ合い、普段の百合オーラなど皆無で異様な絡みが展開される。もはやここまで来ると、互いに意地の張り合いである。仲睦まじかった恋人(?)関係は、こうして、戦争状態へと突入したのだった。




が‥‥




「何で‥‥1oも増えないのよ‥‥」

 空の嘆きと少女の歓声によって勝敗が告げられたのは、それから一週間経った頃だった‥‥





☆☆参加キャラクター☆☆
0233 白神・空

☆☆WT通信☆☆

 お久しぶりです。メビオス零です。
 そして毎度のように遅れてしまってすいません。や、ほんとうにすいません。
 今回は、なぜか空と少女の戦い物になっています。う〜ん、何時の間にこうなったのか。しかし今回はかなり際どいギリギリのラインで書いてます。18禁じゃないけど、どこまで見逃してくれるか‥‥書いててかなり怖かったです。と言うか見逃して貰えませんでした。この作品、途中でリテイクくらってます。む、難しかった‥‥百合描写の境界って、難しいですね。
 今回のご発注、誠にありがとう御座います。
 作品での批評などは思いっきり遠慮無く送って下さい。その方が私のためにもなります。特にセリフ回りがおかしいとか、百合オーラが足りないとか、そこんとこは参考になりますので。
 またの機会がありましたら、その時にも頑張って書かせていただきますので、よろしくお願いします。