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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


都市マルクト【ビジターズギルド】初めての会員登録
邂逅

ライター:高原恵

 ビジターズギルド。ゲートの前のでかい建物だと言えば、その辺の婆ちゃんだって教えてくれる。
 中に入っても迷う必要はないぞ。上のフロアにお偉方の仕事場があるんだろうが、用があるのは一階の受付ロビーだけだ。階段昇らずまっすぐそっちに行けばいい。
 軌道エレベーター『セフィロト』探索を行う者達は、まずここで自らを登録し、ビジターとなる。書類の記載事項は余さず書いたか? 書きたく無い事があったら、適当に書いて埋めておけ、どうせ誰も気にしちゃ居ない。
 役所そのまんまで、窓口ごとに担当が別れている。お前が行くのは1番の会員登録窓口だ。
 並んで待つ事になったり、待合い席に追いやられる事もあるが、気長に待つんだな。
 同じような新人を探して、話なんかしてるのもいいだろう。つまらない事で喧嘩をふっかけるのも、ふっかけられた喧嘩を買うのも悪かない。
 まあ何にせよ、書類を出せば今日からお前はビジターだ。よろしく頼むぜ。

●今も変わらぬ光景
 南米ブラジル――『審判の日』以降完全に遮断されていたセフィロトへ外界からの侵入者が現れてから、はてさて……幾年月が過ぎ去ったことであろうか。
 次々とやってくる侵入者たちはいつしか自らのことを『ビジター(訪問者)』などと呼ぶようになった。そして1年も過ぎた頃には、セフィロト第1層の入口の一角を制圧して自分たちの街を作ってしまったのだからたいした根性だと言えよう。
 そうやって形成された都市である『マルクト』には、今も昔も多くのビジターたちが訪れる。ある者は貴重な品々を得ることによる一獲千金を夢見て、またある者は今なお残されているであろう『審判の日』以前の技術に魅了され、はたまたある者は生命を賭ける場を求め……といった具合に、各人様々な理由を持ちこの地を訪れる訳だ。まあ、この地を去る時に生命がまだ残っているかどうかなんてことは別にして。
 ともあれ、都市マルクトに足を踏み入れたビジターが最初にすべきことは昔から何ら変わっちゃいない。ゲートの前にある大きな建物――ビジターズギルドを訪れることだ。ここでビジターとしての登録を済ませないことには、セフィロトの内部へと赴くことは出来ないのだから……。
 そのビジターズギルドの建物から、今ちょうど1組の男女が連れ立って出てくる所であった。黒髪の男の方はがっしりとした体格、銀髪で小麦色の肌を持つ女性の方はといえばスレンダーボディで、ともに背は高かった。この建物から出てきたのだ、2人とも十中八九ビジターであろう。
 そんな2人に男が近付いてきてこう尋ねた。
「あの、すみません。ビジターズギルドは……」
「もう見えてる」
 カップルの男の方――東郷戒はぶっきらぼうにそう答えると、あご先で自分たちが今出てきたばかりの建物を指し示してやった。
「この建物だ」
 カップルの女性の方――マナ・イースタルはそのように付け加える。尋ねてきた男は2人に礼を言うと、そのまま意気揚々と建物の中へ乗り込んでいった。
「新しいビジターか」
 その後ろ姿を何気なく見つめながら、戒がぼそりとつぶやいた。
「だな」
 小さく頷くマナ。そして先程ちらっと見た1階受付ロビーの様子を思い返す。
「今日はそれほど待たなくて済むようだが……」
 と言ってマナは戒の返す言葉を待った。が、言葉が返ってこない。ふと顔を見てみると、戒の目は少し遠くを見ているように感じられた――。

●あの日あの時あの場所で
 あの日――登録のためにビジターズギルドを訪れた戒は、非常な混雑の中で自らの順番を待っていた。書類さえ出してしまえば登録は完了だとはいえ、同じような輩が多く集まっていたのでは当然ながら時間はかかる。
 しかしながら、待ってさえいればやがて順番はやってくる訳で。その瞬間を待つべく、戒は空いている手近な壁の方へと向かうことにした。待ち合い席の粗末な椅子はとっくに全て埋まってしまっていたから、壁にでも寄りかかって待つつもりでいたのだ。
 特に何かをする訳でもなく、やや手持ち無沙汰な様子で壁に背中を預けている戒。そんな戒に、同じく登録の順番を待っているらしい大柄な男が下衆な笑みを浮かべながら近寄ってきた。戒よりも大きな体格の男だ。
「ようアンチャン。テメェもビジターの登録に来たのか? ヘヘッ……」
 ニヤニヤと笑いながら話しかけてくる男の息からは、酒の匂いがぷんぷんと漂っていた。どうやらそれなりに飲んできているようである。
「…………」
 戒は無言で、ちらと男の顔を見た。男はといえば戒のことを見ているが、その目はどこか見下すような様子であった。戒は視線を戻すと、そのまま何も男に返さなかった。
「おい。アンチャン、聞こえてンだろォ?」 男は戒の態度に少しムッとしたのか、あるいは多少なりとも酔っているせいもあるからか、ニヤニヤ笑いをやめて再度声をかけてきた。
「……ああ、聞こえてる。聞こえてるから向こうに行っててくれ」
 面倒になったのだろうか、戒は男にそう言った。適当にあしらって済ませようとしたのかもしれない。が、それがどうも男の癇に障ったようで――。
「アァン? ナニィ? テメェ……舐めた口聞いてンじゃねェ!」
 何と突然、男が戒の腹部を目がけて殴り掛かってきたのである!
 男の右のこぶしが、下から抉るように戒の腹部を狙う。ところがそれを戒は右手で下に向かって払うように受けると、一転男の右腕を下から抱え込んだ。ちょうど右肘の内側辺りだ。
「ァイテテテテテテテテテテッ!!」
 苦痛に歪む男の顔。それはそうだろう、関節辺りをしっかりと戒に固定されてしまっているのだから。
 しかし戒はそれ以上どうこうすることもなく、しばし男の顔を苦痛に歪ませた後にぱっと手を離して解放してやった。
「……クソッ!!」
 男はぎろっと戒を睨み付けると、忌々しげに舌打ちをしてからそそくさとその場から立ち去った。……逃げていった、の方がより正確な表現かもしれないが。
 戒は小さく溜息を吐くと、改めて壁に寄りかかり直した。はっきり言って、荒くれ者に絡まれることは戒にとって別段驚くべきようなことではない。軍隊にだってそういう輩はごろごろしてた訳なのだから。だが、こういう場での荒くれ者どもはまた違ったタイプである。
(今度来る時は、仲間でも引き連れてるかもな)
 そんなことをぼんやりと戒は思いながら、さらに順番を待ち続ける。それから少ししてのことだった。
「すまないが……」
 今度は女性が戒に話しかけてきた。無言で顔を声のした方へ向ける戒。そこには銀髪の女性――マナが立っていたのである。
「間違っていたら申し訳ない。もしや……」
 マナがとある国の名前を口にした。それは戒がつい先頃まで軍に所属していた国名であった。
「……の軍に居たことがあるのでは?」
「ああ。その通りだが……?」
 戒は訝しげにマナを見た。それはそうだろう、第一声でそんなことを言われたらまずは警戒するものだ。が、その警戒は取越し苦労であった。マナが次の言葉を続けながら、敵意のないことを仕草で見せたからである。
「失礼。私も同じなんだ」
「……同じ?」
 それを聞いて戒はピンときた。なるほど、そっちも軍を辞めてここに来たのかと――。
「見覚えある軍隊格闘術を目にしたものだから、つい興味を持った」
 そうしれっと言い放つマナ。つまり、さっきの戒と男のやり取りを見ていたということだ。
「なるほど」
 手品同様、種が分かれば納得である。しかしながらあの短いやり取りの中で見覚えあるなどと判断したのだから、マナの実力は推して知るべしかもしれない。
「……かなり待つのか?」
 互いに名を名乗った後、マナはゆっくりと周囲を見回して戒に尋ねた。ここに居てそんなことを聞いてくるくらいだから、マナもまたビジター登録へやってきたのであろう。
「待つのには慣れてるよ」
 そう返す戒。まだ自分の順番はやってこない。窓口の方を見たら何やら揉めている様子である。この分ではまだまだ時間はかかりそうだ。
 マナはごく自然に戒の隣へ並び、壁に背をもたれかからせた。
「そういえば、あそこのレーションはイマイチだったな」
 軍隊で配給された食料のことを思い返し口にするマナ。軍隊だろうがどこであろうが、食事の味がよいに越したことはなく。
「俺はゲリラ部隊だったから半分自炊だったな」
 と返す戒。ゲリラ部隊となれば、現地調達になることも決して少なくない。それは何も食料だけに限ったことではなく。
「ゲリラ部隊に居たのか。なら顔を合わせるはずもないな」
「そっちの部隊は?」
「……MS部隊だが」
 すなわちマナはMS――マスタースレイブ乗りであるということだ。
「MS部隊か。俺もMSに乗るが、部品調達には困らされたな」
 やれやれといった様子で戒は言った。ゲリラ部隊ともなれば、破損しても交換部品がまともに届くとは限らない。そうなると、現地で『調達』した方が手っ取り早いのだ。
「腕のいい整備士が居たんだな」
「いや。俺がやるんだ」
 戒がそう答えた瞬間、マナが感心したような視線を向けた。整備も出来るのか、といった具合に。
 それからなおも2人の会話は続く。テニスや卓球のラリーのように弾んでいるとは言わないが、特に速い球を投げる訳ではないキャッチボールのような感じで何となく会話は進んでいた。
 そんなやり取りでも、次第に少しずつ相手のことは分かってゆく。マナがかなりの実力と実績を持ったMS乗りであったこと、戒がMSの操縦のみならず整備にも長けているといったことなど。
(ん? もしや……)
 やがて戒は感じた。ひょっとしてこれは、互いの利害関係が一致しているのではないか、と。これからここでビジターを続けてゆくのなら、実力ある相棒が居るに越したことはない。逆に向こうにしてみれば、自分みたくMSの整備にも長けた相棒が居れば何かと便利であるはずだ。
 そんなことを戒が考えていたからだろうか。一瞬、会話に妙な間が空いた。マナはどうしたのかといった視線を戒に向ける。その次の瞬間、戒の口からこんな言葉が飛び出していた。
「どうだろう……俺とコンビを組まないか」
 それは唐突な、突然のコンビ結成の申し出だった。マナの動きがはたと止まる。
(……しまった、な)
 言ってしまってから、戒は不味いと思った。これは取りようによっては、ナンパだと思われても仕方ないのではないか、と。第一、マナの動きが固まってしまっているではないか。
 正直言って、戒はグーパンチの1つや2つ飛んでくることを覚悟した。しかし、マナから返ってきた言葉はとても意外なものだった。
「……それはいいな。私は構わない」
 何と二つ返事でマナは承諾したのである。
「そうか。なら……これからよろしく」
 すっと右手を差し出す戒。マナはその手に自らの右手を重ねると、しっかりと握手を交わしたのだった……。

●そして今、この場所で
「……い。戒!」
 戒はマナの呼び声ではっと我に返った。先程戒たちに尋ねてきた男の姿はもう見えない。建物の中に入ってしまったのだろう。
「何を思い返してたんだ」
「ああ……」
 窘めるマナに戒は生返事を返した。
(あれから5年経ったのか)
 そうだ、戒がマナとコンビを組んでからもう5年の月日が流れていたのである。その5年の間も本当に色々なことがあった。
 戒がそんなことを考えていた時、マナはふうと溜息を吐いていた。何やら回想してただけじゃなく、生返事を返した戒に少し呆れていたのかもしれない。
「まさか、戒と身体のパートナーにもなるとは思わなかった」
 そんなマナのつぶやきは溜息に混じり、戒には聞こえないような声であった。が……。
「ん?」
 何を言ったかは分からなくとも、何か言ったようだとは感じ取ったようで、戒がマナに聞き返した。
「何でもない」
 長い銀色の髪を掻き揚げ、マナは戒を突っぱねるとぷいと顔を背けた。もしかすると今の表情を見られたくなかったのかもしれない。
「それより次の仕事の準備を」
「ああ。まずはパーツの調達からだな」
 先に歩き出したマナの後を、戒が追って歩き出した――。

【END】


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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【整理番号(NPCID)】 PC名:クラス

【0829】 東郷・戒:エキスパート
【0830】 マナ・イースタル:エキスパート


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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・『サイコマスターズ・アナザーレポート PCパーティノベル・セフィロトの塔』へのご参加ありがとうございます。本パーティノベルの担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ビジター登録した当時の想い出をここにお届けいたします。
・何事も過去があって現在に至り、そして未来へ繋がる。書きながら高原は改めてそんなことを思ったりしました。当時から現在までの間にも色々とあったのだろうな、とふと考えたり。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、またお会いできることを願って。