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ブラジル【密林地帯】インディオ村
メビオス零
【オープニング】
アマゾン流域の密林地帯には、昔ながらの暮らしを続けているインディオの村が幾つもある。
インディオは凄いぞ。あの審判の日と、それ以降の暗黒時代、高度なテクノロジーを持ってた奴らがバタバタ死んでいった中、インディオ達は何一つ変わらない生活を送っていたというんだから。
本当に学ばなければならないものは、インディオの元にあるのかも知れないな。
〜禁忌〜
ごろごろごろごろごろごろびったんばったんごろごろごろ‥‥‥‥‥
テントの中を、端から端まで転がり回る。時にゆっくりと、時には高速で回転しつつ跳ねてみたりと、意味不明の動作を繰り返す。その姿はまるで、坂を転がり落ちていくスーパーボールのようだ。時々行き先にある荷物を飛び越えるために体をくねらせて鯉のように跳ね上がり、びったんと着地してまた転がり出す。
狭いテントの中でそんなことをしていれば、普通は身内なり友人なりが来て「狭いテントの中で暴れるな!」と蹴り上げる所だったが、幸か不幸か、このテントにはそんなことをしにわざわざ出向いてくれるような者は居なかった。
「ひーまーだーーーー」
意味不明の回転往復百回を十分ほどで達成した白神 空は、今度は手足を投げ出して大の字に寝ころびながら、心底退屈そうに声を上げていた。
お正月をインディオ村で過ごした空は、当初の約定通りにインディオ村から出るつもりだった。クリスマスから年末まで、つまりはお正月までの滞在が、村人との契約である。下手に逆らうと今後は出入り禁止になる可能性もあると考えていた空は、元旦の日には荷物をまとめに掛かっていた。
が、ここから空の予想外の展開が繰り広げられた。
空は祈祷師の少女の客人としてこの村に居着いていたのだが、その妹‥‥未来の祈祷師少女からも客人として招かれてしまい、もう一週間の滞在が認められた。
村人達も、まさか村長クラスの権力者二人からの嘆願では無下にすることも出来ず、また、お正月から数週間ほどの間は近隣の村々との交流などで忙しいこともあり、「もう好きにしてください」と言った感じで、空の滞在は認められたのである。人手が足りない中で、単独で大量の食糧を確保してきてくれる空を“利用価値有り”と見たのかも知れない。
だがインディオ達の空を見る目は、どう見た所で‥‥
(余所者扱いから珍獣扱いに変わってるのよね‥‥‥‥変身は見られてないはずなのに、何でかしら?)
余程祈祷師の少女二人に気に入られている空のことが気に入らないのか、はたまた気になってしょうがないのか、空に対する態度は、あからさまに変わりつつあった。
あてがわれた簡易テントには、お正月から補強が加えられ、外側から見れば一目で空のテントであると言うことが分かるようになっていた。まるで猛獣を隠す覆いである。
そんな中で過ごす空の内心は複雑だった。まぁ、自分が本当に人外じみていると言うことを知っているのは祈祷師の少女だけだから、村人に皮肉を言っているような自覚はないだろう。見方を変えればテントの中でのことを外から察せられにくくなったのだ。ある意味ありがたいことでもある。
「うーー‥‥暇だよぉ。誰か助けてよぉ」
しかしそんなテントも、空が思っているような目的に使われるようなこともなく、ここ数日が過ぎ去っていた。この村で空と親しい者と言ったら祈祷師の少女以外にはいないのだが、その少女はここ数日、連日他の村に出向いての挨拶回りとマルクトから来る客のお祓いをしたりと忙しく、このテントには来てくれていない。
と言うより、お正月前からここに来ていないのだからもうそろそろ二週間ほどご無沙汰の状態になっている。
クリスマス以来ずっと期待に胸を膨らませていた空にとって、生殺しもいい所であった。
「‥‥何をしているんですか?」
「むにゃ?」
完璧なまでに気力を無くしてふやけている空に、不意に声が掛けられた。
大の字になって寝ころんでいた空は、顔を上げて声を掛けていた人物に目を向ける。
「あら、妹さん。あなたは他の村に行かなかったの?」
「私が行っても、役目なんてないんですよ」
テントに入ってきた祈祷師の妹は、そう言って頬を膨らませていた。
空とこの少女は、祈祷師の少女繋がりで年末に知り合った。空は少女のことを“妹さん”と呼び、少女は空のことを“空さん”と呼び合っている。
この妹は妹で、空と同じように暇を持て余しているのかも知れない。空とは違った意味ではあったが、この少女も祈祷師候補と言うことでデリケートな扱いを受けていた。
「大切にされるって言うのも、大変ね」
「遊ぶことも働くことも出来ないのって、大切にされているとは言えますか?」
「う‥‥微妙なところね」
空と大差ない状況だ。いや、空は午前中には狩りや採集に連れ出されているのだが、午後には何もすることなくゴロゴロするだけだ。可愛い女の子を誘って遊ぼうにも、この村で空のことを警戒していない者などまずいない。これまでに買収や交渉で親しくなっている者も居るのだが、周りの者達が空のことを警戒している以上、あまり余所者と親しくして共に睨まれたくはないのだろう。空と積極的に話をしようとする者は居なかった。
「で、そんな暇な祈祷師様が、一体どうしてこんなところに? あなたの場合、村人に監視されていたりしているわたしに、近付くのも問題なんじゃないの?」
「そうでもありませんよ。あなたと姉さんのこともありますから。『普段何をしているのかを探ってくる』って言えば、案外何とかなる物です。姉ももうそろそろ帰ってくることですし、村の人達も、その出迎えで忙しいみたいですから」
少女は笑みを浮かべていた。村人達を出し抜いてやったことが面白かったのだろう。
しかし、自分がどれほどのリスクに向かっているのかと言うことを、分かっていない。
「‥‥そう。普段何をしているのかを‥‥ね」
少女の笑みにつられて、空の口元がニヤリと歪む。
‥‥まだ甘い。
空が何のためにこの村に来ているのかを、この少女は察せていない。
あえて村人達がスルーしていた、ある意味目を逸らしていた事実に気付いていないのだ。
空はガバッと跳ね起きると、少女をマジマジと観察した。
「な、何ですか?」
怯える少女。が、空はまったく頓着することもなく、少女を見続けた。
‥‥スラッと伸びた手足には、絶妙な弾力と張りがある。
日焼けした肌には、傷一つなく。それを覆い隠そうとする衣服も、まるで水着のような簡素な物で、その体を隠し切れていない。
青い瞳は、自分を観察している空に対して微かに怯え、瞬きを繰り返す。
ほんの些細な好奇心で近付いてきた、まだ何の汚れも知らない少女‥‥‥‥
「OK。いいわね。むしろ最高ね」
「何がですか? あ、あの‥‥目が‥‥‥‥」
少女が、ゆっくりと後退りする。そこに空が、素早く回り込む。
ちょうど入り口から入ってきた少女の背後に回り込むことで、空は少女の退路を断っていた。
思った通り、少女にはまだ、空という存在に対する危機感も、対処するための経験も足りていない。いつもの祈祷師の少女ならば、都合が悪ければすぐにでも退散したはずだ。それこそ空が身を起こした瞬間に出て行っていただろう。
‥‥‥‥空の両腕が少女の体を抱きしめる。少女の体が、ビクリと震えて硬直した。
「え、えっと?」
「あら、どうしたの? 私とあの子が、一体ナニをしているのかを調べに来たんでしょう? あとで報告する時のためにも、少しぐらいは知っておかないとダメでしょう?」
「あわわ! へ、変な所を触らないで下さ きゃうっっっ!?」
空の左手が“変な所”に触れ、硬直していた少女の体が跳ね上がった。
仰け反ろうとする上半身。それを右手で抱え込んで拘束し、ついでに服の合間へ蛇のように右手を差し込み、その体を蹂躙する。
だがここまでくれば、少女とて、これ以上進めば冗談では済まなくなると言うことを理解する。少女は体を左右に動かし、何とか空の手を振り解こうと藻掻き始める。
‥‥しかし悲しいかな。その行為も、散々お預けを喰らって本気モードになった空の本能を刺激するだけの効果しかなかった。完全に逆効果である。冷静に拒否していれば、まだ空の良心や理性が僅かなりとも‥‥‥‥たぶん出てきたのだろうが、もはやそれは望めないだろう。
「ひゃっっっ‥‥や、やめ」
「い・や・よ。大丈夫。フフフ、すぐに気持ちよくしてあげるわ」
元より獣分が多いせいか、もはや止まろうなどとは微塵も考えていない。こうなるとエロ親父を通り越して獣である。もしこの場に誰かがいれば、変身しているわけでもないのに、空の尻尾がブンブンと振られているのが手に取るように分かっただろう。
「も‥‥ダメ‥‥‥‥」
少女の足がガクガクと震え出す。
空はそれを目敏く察し、抱きかかえてテントの中央に押し倒した。ゴロゴロと転がっていた時からひきっぱなしだった寝床に横たえられた少女に覆い被さるようにして空がのし掛かり、その首筋に口付ける。
「跡が残るのはまずいかも知れないけど、こっちの方がゾクゾクするでしょ?」
「ひあああああ!! や、やめっ‥‥あ」
空の手がシュッと動くと同時に、少女の腰に巻かれていた布が静かに落ちた。指先だけを器用に獣人化させ、鋭利な刃物へと変えた空が切り裂いたのだ。
少女はもはや、悲鳴も上げられない。
「さぁ、これからが本番よ」
「あ‥‥あのぉ‥‥」
「私に任せておけば、きっといい思い出に‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥っ!?」
少女を安心させようと、言葉から籠絡させようとした空の台詞が中断した。
同時に、少女の体を弄んでいた空の両手も、見事にピタッと停止した。
‥‥その背後に、誰かの気配を察してしまったから。
「ごきげんようお姉様。すいません。お楽しみの最中でしたでしょうか?」
空は視線すら動かせない。
弄ばれていた少女も、指一本動かせない。
‥‥少女が悲鳴を上げなかったのは、テントの外にいる相手に気取られないため。“もうそろそろ帰ってくる”と言っていた相手が、まずこの村に帰ってきて、真っ先に様子を伺いに来るこの場所に自分がいると、悟られないため‥‥
だが、それも虚しい努力だった。少女の視線は既に空に向いておらず、肩越しに見える“その先”を見ている。
「それで、お相手の子は‥‥あらあら。まぁ、なんと言うことでしょうか。まさかそんな小さな子がお相手だったなんて‥‥‥‥ふふっ、少し、物足りなかったのではありませんか?」
少女‥‥妹さんが震えている。自分もまさかこんな展開になるとは予想してなかったのだから、悪気があったわけではない。状況を見ると誤解は免れないのだが、自分は被害者であり一切の罪はない。
‥‥筈なのだが、そもそも弁解の機会など与えては貰えそうにない。と、妹さんは本能的に直感した。
空もまた、自らの置かれている状況を冷静に分析していた。
既に熱は冷めている。背中に感じる凄まじい殺気に、まるで冷水どころか液体窒素をかけられたように冷え切り、行為を続行しようなどとは微塵も考えられなかった。
(まずいまずいまずい‥‥ど、どうしよう)
空の思考がフル回転し、そして無意味に“どうしよう”と連呼する。
普段からセフィロトの危険地帯に平気で入っていく空にとって、この程度の危機はほんの些細な物の筈だった。が、その筈なのに思考は錯乱し、考えとして纏まろうとしない。
まるで蛇に睨まれた蛙だった。それも、蛇は蛙の背後を取り、蛙はそんな蛇には気付きもせずに呑気に餌に食いつき、租借しているような、そんな状況だ。
そして食いつかれている状況になった時、既に蛙には、抵抗する方法も脱出する名案も浮かびはしない。
「ねぇ、お姉様。何か言って貰えませんか? 私、もうそろそろ限界です」
なにが限界なんでしょうか?
などと怖くて訊けない空は、僅かに「ひっ」と悲鳴を上げていた。
普段の軽く、聞く者を明るくさせる声色とは正反対の丁寧な口調が、より一層の恐怖心を与えてくる。
空は、この場を打破出来る気の利いた台詞を絞り出そうと、口を開いた。だが、すぐに閉じた。けたたましく警鐘を鳴らしている理性が、「気の利いた台詞などない!!」と叫んでいる。
しかし、何かを言わなければ、無言で殺されるだけだ。
背後の少女のことを考えれば、殺されることはないと分かるのだが、空はなぜか、妙な確信を抱いていた。
‥‥数秒の間をおいて、口を開く。
出来ればこれが最期の台詞にならないようにと願いを込めて、顔を上げ、(怖くて)振り向かないままに言い訳を口にする。
「認めがたいものだな‥‥自分自身の、若さ故のあやま「死になさい」うきゃ!」
ボカン!
最後まで言い切ることなく、粛正は開始され、そして終わった。
余所の村へ巡礼に言っていた祈祷師の少女のフルスイングが、空の体に直撃する。
巡礼時に持ち出していた祈祷師の杖は、見事に空の体を吹っ飛ばしていた。
(ああ、もう少し我慢していれば‥‥)
後悔先に立たず。
その言葉の意味を文字通り痛感しながら、空は静かに昏倒した‥‥‥‥
そんな日の夜‥‥と言うよりも日付の変わった次の日の深夜‥‥
「あの‥‥お願いです。許して下さい」
「ダメ」
妹を抱きしめながら、祈祷師の少女は空を睨み付けていた。
あのあと昏倒した空を解放した祈祷師の少女は、この際だからと妹をそのまま空のテントの中に留め置いておき、空が起きるのを待っていた。と言っても、空に役得をさせるためにその場に留まったわけではない。何というか、ただ単に空に対する“お仕置き”するには、空のテントにいた方がやりやすかった‥‥と言うだけのことである。
「姉さん、私、もう‥‥」
「そう? それじゃ、来て‥‥」
「ううう‥‥生殺しだぁ」
祈祷師二人の“遊び”をまざまざと見せつけられ、空は待ちきれないとばかりに身をくねらせた。しかし正座は崩さず、その場は動かない。その場所から動いたら最後、本当に今晩もお預けをされてしまうのだと言い聞かせられたが故に、動けない‥‥‥‥
普段とは真逆の立場に追い詰められた空は、唸り声を漏らしながらも、忠実に命令に従っていた。
「いい? あの人には近付いちゃダメよ? すぐに、無理矢理にでも食べられちゃうんだから。遊びたかったら、私に言いなさい」
「はひ‥‥わかりまひた‥‥」
空との秘め事によってすっかりテクニシャンになっている祈祷師の少女に籠絡され、妹さんは完全に虜になっていた。祈祷師の少女は不敵な笑みを浮かべながら空を観察し、空が、そろそろ我慢の限界に近付いていると言うことを察知して手招きした。
「そろそろいいかな? お姉様。もう、妹には手出しをしないと誓ってくれるのでしたら‥‥」
「誓います。お願いです。混ぜて下さい」
恥も外聞もない。いや、こんなことに外聞もなにもするわけがないのだが、これまで少女達に対して責める側に立ち続けていた空は、ついに白旗を揚げて全面降伏を決め込んだ。
‥‥次の日の朝、異様に“いい顔”をした祈祷師の少女と、疲れた表情の妹さんが空のテントから出てきたことで問題が発生したのだが‥‥
誰一人として、その真相を知る者は居ない‥‥‥‥
☆☆参加PC☆☆
0233 白神・空
☆☆あとがき☆☆
風邪って怖いですね。メビオス零です。
だんだんと祈祷師少女に押され気味になりつつある空さん。久しぶりに獣状態になった途端に妹さんに手を出し、挙げ句お姉さんに‥‥な事をされてしまいました。
いやぁ、そういえば久しぶりに百合っぽくなりましたね。今回のはどうなんでしょうか? かなり危ない気がします。
内容についての感想とかを送って頂けると幸いです。毎回言っていることですけど、感謝しております^^
では、今回のご発注、誠にありがとう御座います。
次のご依頼が来たときも、出来るだけ満足のいく作品を提供出来るよう努力する次第であります(・_・)(._.)
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