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第一階層【オフィス街】逃げろ!
メビオス零
【オープニング】
おい、下手な所に触るなよ。ここは、元々会社関係のビルなんでな、セキュリティシステムが完備されていたらしいんだ。
もっとも、長い間放っておかれたせいで、たいがい壊れちまってるんだが、時々セキュリティがまだ生きてる事が‥‥
て、鳴り始めたな。お前か?
まあ良い、逃げるぞ。この警報に呼ばれて、すぐにタクトニムがうじゃうじゃやってくるって寸法だ。
良いから走れ! こうなったらもう、部品回収なんて後回しだ。敵はもうすぐ其処まで来てるぞ!
〜お宝の番人・その名は大怪獣!!〜
『ギャォォォオオン!!』
『た、大変なことになりました! ゴホラです! 東京にゴホラが現れました!!』
大都会のど真ん中を闊歩する怪獣を指差し、テレビレポーターが悲鳴のような声を上げている。しかし何も、怪獣の足下に残ってまで報告しなくてもいいだろうに。レポーターの背後には怪獣の足が写っており、あと一歩で踏み潰されるという所だ。あ、足が上がった。ようやく逃げ出すレポーターとスタッフの方々。いや、遅すぎるから。あ〜、潰され‥‥お、肝心のシーンではカメラを落とすことでグロ描写を回避か。ナイスカメラマン。
『ギャギャギャォォオン!!』
口から熱線を吐いて街を焼き払う怪獣。ちょっと待て。どうやって生物が炎を吐くんだ。そんな物を体の中に仕込んだら自分が燃えるだろう。大体その巨体にそんな物が必要なのか? 手足を振るだけでビルが次々に倒壊しているのに、そんな機能は余分だろうが。お前が生きていた時代ではそんな物がなければやっていけないほどに過酷だったのか。怖いな。あ、こいつ突然変異なのか。確かにそれを言ってしまえば何でも有りだ。
『撃てぇ! これ以上街を壊させるなぁ!!』
おお! ここまで来てようやく自衛隊が出てきたか。襲いぞおまえら、ちゃんと給料分の仕事をしろ。なに? まったく効果がないだと? ば、馬鹿な。あんな攻撃を受ければ上等なMSだって吹き飛ぶだろうに、なんて装甲‥‥じゃなくて皮膚なんだ。 あ、熱線吐いた。自衛隊が諸々吹き飛んだ。弱いなお前ら。
『ギャォォォオオン!』
勝つ誇る怪獣。自慢にはならんぞ怪獣。それだけ体格差があれば当然だからな? お前はそれを分かっているのか。分かってないな。まったく。誰だこんな大怪獣の設定を考えたのは。これでは無敵ではないか。ん? 何だ、様子がおかしいぞ。おお! あれはメカゴホラか。そうか、あれでトドメを刺すことに‥‥うわっ! 負けたぞ! なんだこれは、この事態をどうやって終わらせる気だ。なに? 自爆装置だと? 待てコラ、ここまで大暴れしておいてそんなオチなのか。あぁーーー‥‥‥‥!!!
「どう? おもしろかったでしょ!」
「いや、私には合わないな。せめて、シナリオをもっと‥‥」
「そうでしょ! こう、凄い迫力があってさ! やっぱり怪獣物は日本製だよね!!」
「聞いていないな」
都市マルクトの一角にある安マンション。ヒカルの所有するセーフハウスの一室。
手にしていたビデオを突っ返しながら、ヒカル・スローターは目の前で小躍りしそうな程にはしゃいでいる相棒、兵藤 レオナに呆れたような視線を送っていた。しかしレオナはそれにも気付かず、楽しそうにこの作品がどれだけ面白い物なのかを語り始めている。どうやら、仲間内から聞いた話は本当らしい。レオナがマイブームで特撮にはまりだし、語り始めると止まらなくなる、と‥‥
(やれやれ。レア物であるのは確かなのだが、やはり稀少度と内容は一致しないな。博物館にでも寄付すれば、大切にして貰えるだろうが‥‥)
ヒカルはレオナがどこからか持ってきた懐かしの特撮ビデオを押しつけられたのだが、残念ながら内容は大して面白いと思えなかった。と言うのも、肝心の面白そうなシーンではノイズ、画像の劣化や音飛びなどが特に多いのだ。さすがに発掘品だけあって、保存状況は最悪なのである。
しかしそんな物でも、レアであるのは変わりない。
そもそもセフィロトがあるここは南米にある。怪獣ものの特撮映画に特に入れ込んでいた日本製の物もあるにはあるが、本場ほどではない。それにいちいち吹き替え版を作らなければならないビデオ主体という記録媒体のせいもあるのか、数が非常に少ないのだ。
そしてそんな稀少品が、あの大破壊で更に少なくなった。現在の世界情勢を見れば、もはや特撮の撮影をしている所もなく、新たに製造しているという所もないのは明白である。なくなりこそすれ、増えはしないのだから、それは価値も跳ね上がるという物だ。
‥‥と言っても、興味を持てない者からすれば何の価値もないのであるが‥‥
「レオナ。やはりそれは、博物館に寄付するべきではないか? 売るのも勿論ありなのだが‥‥」
「やだよ! なに言ってるのヒカル!! これを手に入れるために、僕がどれだけの苦労をしたか‥‥!?」
「分かった、分かった」
ヒカルは食ってかかってくるレオナを躱すと、部屋から出て玄関口に向かった。
今のレオナと一緒に居続けると、恐らく特撮映画の鑑賞会になってしまう。特撮に耐性のないヒカルにとっては、かなり退屈な時間になると予想出来た。
「あれ? どこか行くの?」
「ああ。明日は伊達と共にセフィロトに潜る予定だからな。その打ち合わせだ」
「いつもは行き当たりばったりなのに」
「‥‥‥‥それはおぬしだからだ」
「そうかな? まぁいいや。あ、ボクもヨシノを誘ってまた潜ってくるから、戸締まりよろしく」
レオナはそう言うと、ヒカルの横を擦り抜けるようにして去っていった。その後ろ姿は嬉しそうに、ただ走っているだけなのに小躍りしているようにも見える。
「やれやれ‥‥これ以上、まだ増やすのか」
ヒカルは玄関から見える室内の状況を振り返り、顔を顰めた。その周囲には、既に持ち込んでいるビデオの山が乱雑に積まれ、今にも崩れそうになっている。
‥‥ヒカルのようにあちこちにセーフハウスを持とうとしないレオナは、ヒカルのセーフハウスの一つを倉庫代わりに使っていたのであった‥‥
「‥‥なるほど。そいつは大変だったな」
「“だったな”ではない。“だな”だ。何しろ、まだ続いているのだからな」
向かい合う伊達 剣人の言葉に溜息を付き、ヒカルは注文したコーヒーに口を付けた。
ヒカルと剣人が向き合っているこの場所は、マルクトの繁華街にある喫茶店である。重要な用件ならばこんな人通りのある場所で打ち合わせなどしないのだが、今回は荷物搬送の手続きを行うための簡単なものだ。二人は互いの近況などを報告し合いながら、気楽に雑談をしていた。
「まったく。マイブームだか何だか知らんが、面白そうな物を見つけると、すぐに私の方に持ってくるのだ。そのくせマイブームが終わると、それまで集めた物はあっさりと見捨ててしまう」
「そして後始末はヒカルがするのか?」
「‥‥そうだな。まぁ、なんだかんだで手伝わせているのだが、時々、そもそも何故私が手伝っているのかが分からなくなる。『何で私はこんな事をしているのだ?』とな」
「それはまた‥‥苦労してるな」
剣人はヒカルの愚痴を聞きながら、勝手に笑みを浮かべてしまう口元と頬を両手で隠していた。ヒカルの話を聞きながらレオナの所業を聞いていると、大抵の者は笑ってしまう。おこりんぼうで喧嘩っ早く、気紛れでその場のノリで動いてしまうレオナの行動は、“見ている”もしくは“聞いている”分には笑い話だ。『HAHAHA。そいつは大変だったな!』で済まされる。が、もし巻き込まれるとしたら‥‥とても笑ってはいられない。
しかも一番厄介なのは、当の本人に悪気がない事だろう。レオナを相棒としているヒカルにしても、これで悪気があってやっていることだったら早々に見切りを付けて切っている。しかしそれも出来ず、悪びれながら謝り、事態を収拾するのを手伝ってくれと笑いながら言ってこられると、何だかんだ言っても付き合ってしまうのだ。
ヒカルの面倒見が良いというのもあるのだが、実際に向き合ってみると断れない。長い間連れ立っている者ほど、彼女からは離れられなくなっていく。
「はぁ‥‥まぁ良い。あやつのことを話していてもキリがない。アレは話のネタが多すぎる」
「そこまで愉快な奴だったか」
「仕事の話に戻ろう。回収する物なのだが、セフィロトのどの辺りだ?」
溜息混じりに話題を変えたヒカルは、手荷物から小さな地図を取り出した。
手書きのセフィロト内部の地図だ。地図には無数のメモ用紙が貼り付けられており、その場所その場所に何があったのかが事細かに書かれている。
セフィロトが屋外にあるのならば上空から写真の一枚でも取れば十分なのだが、セフィロトは屋内のためにどうしても自力で作らなければならない。マッピングは探索の基本であるため、ビジターならば大抵の者が自作の物を持っている。でなければ入り組んだ構造で迷い込み、とても帰還することは出来ないのだ。
ヒカルはそんな貴重な地図をシャープペンシルで叩き、剣人に質問する。
「そんなに入り組んだ場所ではないのだが、目撃証言では、この地下のショッピングモール辺りだそうだ」
「ふむ‥‥電気店が多いようだな。厄介な、また改造してるんじゃないだろうな?」
「いや、それはない‥‥‥‥と思いたいな。何しろ今回の相手は、周りの者と物次第でどうにでも変化するらしいからな」
「うむ‥‥そうだな」
剣人とヒカルは唸りながら、地図を睨み付けていた。
今回二人が行う仕事は、タクトニムの捕獲という高難度なものだった。破壊しろと言われれば大抵のモノは破壊出来る自信がある。しかし捕獲となると、つまりは相手を出来るだけ傷つけずに行動停止にしなければならない。向こうは攻撃出来るのに、こちらはろくにそれも出来ないのだ。
ただ居るだけでも危険なセフィロト内で、そんなことをしなければならないのだから、より一層危険になる。この手の依頼は、大抵のビジター達から敬遠された。
「やはりMSを使って鷲掴み、その後でがんじがらめに縛り付けるか?」
「出来ればよいのだがな。本体の大きさはどれだけだったか?」
「大体1メートル弱だそうだ。ただ、周りを部品で固められたのなら、どれだけになるのかは分からないな」
依頼書と共に渡された数枚のタクトニムの写真をヒラヒラさせながら、剣人は「もし自分を改造していたのなら、それを引き剥がす必要があるな」と溜息混じりに呟いていた。
写真に写っているタクトニムは、人の上半身と戦車の小さなキャタピラを繋ぎ合わせたような形状だった。ただし外見は白いフレームで固められているため、一目でロボットなのだと分かる。目には二つのカメラが取り付けられており、黒いスリーブの中に入っている赤い眼孔が、異様な迫力‥‥‥‥を醸し出さずに、何故か可愛いとさえ思えてしまう。
体にもこれと言って武装はされておらず、一見するとただの作業用、案内用のロボットである。が、では何故そのタクトニムの捕獲に高額な報酬が支払われるのかというと、その能力が異様なのだ。
写真に写っているタクトニムは、周りの電化製品を解体し、自分の体に装着していっていた。電化製品ならば何でも良かったのか、レーザー砲、スタンガン、電気マット、CDプレーヤー、便器、壊れていたタクトニム‥‥‥‥とにかく何でもかんでも解体し、自分の体に装着していくのだ。
まさに異様な能力である。自身を改造する能力というのは希有だ。依頼人が欲しがるのも無理はない。
どういう思考回路で便器などを背負おうと考えたのかは不明だが、その技術力と改造技術はMS開発チームとしては是非とも欲しいものだろう。捕獲後には研究所に送り、構造解析に回される手筈となっている。
「一番厄介なのは、他のタクトニムを改造して合体している場合だろうな。やはりアマネにバックアップを頼んだらどうだ? 電子戦に持ち込めば、イチコロだろ」
「無理だ。最近はレオナと共にセフィロトに潜るのに忙しいそうだ。ほれ、さっき言っていただろう? レオナが昔のビデオを発掘していると。あの手の物は好事家が大金を出して買うからな。それが目的だろう」
「‥‥‥‥‥‥レオナのことだ。蒐集した物がこっそりと持ち出されていても、たぶん気が付かないんだろうな」
「ああ。恐らくヨシノにいいように騙されているのだろうな‥‥」
ヒカルは、今ごとレオナと共にセフィロトの奥地で宝探しをしているであろう孫と相棒‥‥‥‥ある意味、(戦闘能力的に)相性最高でありながらも(食物連鎖的に)相性最悪な二人を想い、遠くを見るような目で空(マルクト内だから天井なのだが‥‥)を見上げた‥‥‥‥
と、そんな風に思われていると言うことなど露知らず、アマネ・ヨシノは本日三本目のビデオを手荷物に加えていた。
ヨシノが来ているのは、セフィロト中央地帯にある地下のショッピングモールである。地上で大型ビルが倒壊していたが、奇跡的に地下の方の被害は少なかったらしく、ショッピングモールの店舗は四割ほどが生き残っていた。埋まっているわけでもないのに六割が使えなくなっているのは、単純に時間経過によって中の店舗が見るも無惨な姿になっているだけである。分かりやすく言えば食料品。特に肉屋付近には近付きたくもない。
と言うわけで、ヨシノが探索を行っているのは電化製品を取り扱っている店舗だった。見せに剥き身で陳列されているような物には壊れている物もあったが、当然箱に仕舞われて倉庫に眠っている物の方が多い。しかも地上のビルが倒壊していた御陰か誰にも発見されていなかったらしく、荒らされることなく残っている。
‥‥まさに宝の山。あとはここに残っている物品をこっそりと外に持ち出して売りさばくだけである。
「ふふ〜ん♪ いやぁ、あんさんの話に乗って良かったわ。こないな宝の山が見つかるなんて思ってもおらんかったさかいな」
「そうでしょそうでしょ♪ いやぁ、話の分かる人がいて良かったよ! ヒカルに手伝って貰いたかったのにさ、『貴重なんだから博物館にでも寄付したらどうだ?』だって。もう、どうしてヒカルには特撮の素晴らしさが分からないのかな?」
レオナはそう言いながら、レンタルビデオの棚に陳列されている特撮ビデオを、手荷物の中に詰め込んでいた。
ヨシノは、レオナにレンタルビデオ店のビデオの運搬を手伝って貰えないかと誘われたのだ。何しろ、ビデオはかさばるために何本も持つと動きにくくて仕方ない。レオナとて、このセフィロトにタクトニムがわんさかと巣くっていることを熟知している。一回の探索で持ち出せる量があまりにも少ないために、痺れを切らしたレオナは他人の力を借りることにしたのだ。
‥‥その結果として、手荷物に放り込んだビデオのケースから中身だけが消失するという事になるのだが、それが発覚するのはもう少し先の話である。
「そらわからんやろ。趣味人の話について来れるのは趣味人だけや」
「そーかもしれないけどさーー」
「それよか、これどないする? 回数分けて運ぼ思うと、あと何十回も往復せんとアカンで」
レオナの不満げな声を、ヨシノは華麗に流して棚を見渡した。
ビデオの棚は、店の端からは今で続き、更に何棚にも別れて並べられている。勿論全てが特撮ではないが、まさか特撮だけを持っていくわけではない(少なくともヨシノは)。とすると、最大で千を越えるビデオを持ち出すことになる。二人でに手荷物一杯にまで運んだ所で、一回につき数十が限界だ。
レオナも「やっぱり二人じゃ無理かな?」と唸り、考え始めた。
「う〜ん、それじゃあ、トラックでも持ってこようか?」
「ここまでは持って来れへんけど、今よかましやろ。あんま時間かけとると、他のビジターに目を付けられるで」
連日セフィロトに潜るようなことは、大抵のビジターは行わない。セフィロトに潜るには必ずゲートを潜らなければならにと言うこともあり、張られれば何度と往復するのを見られ、お宝の気配に気付かれる可能性は非常に高いのだ。
セフィロトで宝を探す時には、回数を重ねず、日を明けることがコツである。
レオナといえど、それは理解している。直接的な戦闘ならば退くことはないかも知れないが、宝の取り合いではむしろ弱い。せっかく見つけたコレクションを、横取りされたら目も当てられない。
「仕方ないね。じゃあ、入り口を隠しておこうか?」
「せやな。それくらいなら‥‥‥‥ちょいまち」
アマネはシッ‥‥と口元に指を当て、レオナを沈黙させる。
「どうかした?」
「静かに。誰かおるで」
ヨシノはそう言うと、チョイチョイと指で店の外を指差した。そこでレオナもようやく気付く。今までビデオに気を取られていて気付かなかったが、確かに外から小さな電子音のような音が聞こえてくる。
ショッピングセンターや軍備施設などには、生物的なタクトニムよりも、機械で構成されている警備ロボットの方が出没する頻度が高い。外にいるのも、似たような警備ロボットの類だろう。すぐに襲いかかってこないのを見ると、まだこちらに気付いていないか、それとも増援を呼んでいる最中か‥‥‥‥
「「‥‥‥‥‥‥」」
二人は互いに視線を向けると、すぐに行動を開始した。
棚に隠れながら、少しずつ音の出所へと足を向ける。隠れたままでやり過ごすという手もあったのだが、これからもこの場所には来なければならないのだ。
もし敵が単独ならば、破壊しておいた方が良いだろう。
「‥‥‥‥」
レオナはヨシノに向けて手を小さく振り、止まるように指示する。ヨシノが銃を手にして身を隠すと、レオナは音を立てさせないため、高周波ブレードを停止させたままで構えてジリジリと歩を進めた。
(まだ‥‥もう少し‥‥あれ?)
棚に身を隠しながら競って期していたレオナは、音の発生源に違和感を感じて立ち止まった。
ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥ピッ‥‥
小さな電子音。一回ごとに少しずつ間隔を空けて鳴る小さな音は、ずっと同じ場所で鳴り続けている。
タクトニムが、ずっと同じ場所に居続けると言うことがあるだろうか?
あるとすれば、燃料や弾薬の補給時ぐらいである。こんなショッピングセンターで立ち止まるわけもない。
敵がいたために増援を呼んでいる最中? ならばその敵が動いたのだ。自分は身を隠すなり、応戦して足止めするなりしなければおかしい。
レオナは警戒しながら棚から身を乗り出し、音の発生源を目視した。これまでは壁に遮られていて見えなかった場所を確認し、レオナは息を飲んだ。
そこにあったのは‥‥‥‥ラジカセ、であった。
それも裏面のケースが外され、少々解体されているラジカセである。電源は入れられているもののエラーが出ているらしく、それを告げるために電子音が鳴っているのだ。
「なにこれ?」
レオナは無造作にラジカセに近付き、怪訝な表情で探ってみる。
害はない。ないのだが‥‥
これを解体して、スイッチを入れたモノは何処に行った?
「他に誰かいるのかな?」
レオナはヨシノに手を振って合図を送ると、自分も周囲を警戒しようと、振り向いた。
そして‥‥
「ヨウコソイラッシャイマシタ」
「うぇっ!?」
突然背後からかけられた声に、レオナは仰天して飛び退いた。しかし崩れそうになった態勢を慌てて立て直し、声をかけてきた張本人と向き合う。
レオナの様子を察したのだろう。ヨシノはすぐに飛び出し、銃を構えた。ちょうどタクトニムを挟んでレオナと向かい合うような構図だ。タクトニムを撃ち漏らした場合にはレオナに命中するのだが、そんなことに構っているような余裕はない。
ヨシノは引き金に指をかけ‥‥
「コチラノショウヒンハ、ゲンザイシュウリチュウデゴザイマス。モウシバラクオマチクダサイマセ」
銃口の先にいるロボット‥‥タクトニムの台詞に肩すかしを食い、盛大に息を吐いた。
現れたタクトニムは、人の上半身と戦車の小さなキャタピラを繋ぎ合わせたような形状だった。外見は白いフレームで固められているため、一目でロボットなのだと分かる。目には二つのカメラが取り付けられており、黒いスリーブの中に入っている赤い眼孔が、異様な迫力‥‥‥‥を醸し出さずに、何故か可愛いとさえ思えてしまう
実際に、二人はその容姿に完全に戦意を奪われていた。見たところレーザーや内蔵銃も確認出来ないのも理由の一つだ。
確かに、このセフィロトには警備用のロボットがタクトニムとして徘徊している。しかし、その全てが敵というわけでもない。
中には案内用や修理用、掃除用などの用途別に開発された物も配備されているのだ。
レオナとヨシノは、目の前のタクトニムをそのタイプなのだと判断した。そもそも警備系のタクトニムならば、出会った瞬間に殺し合いである。
「ふぅ、冷や冷やさせるね」
「何や、驚かせてくれるやないかこのロボは」
「ナンダカワカリマセンガ、モウシワケゴザイマセン」
タクトニムはそう言うと、ぺこりとお辞儀をしてから素早くラジカセに近付き、カチャカチャと修理を再開してあっと言う間に完了した。どうやら、先程姿を見せなかったのは、修理のための部品を探しに行っていただけらしい。
二人はタクトニムの正体に緊張を解き、質問タイムに移行した。
「あんさん、ここで何しとるの?」
「ワタシハ、コノフロアノデンシキキノシュウリ、オヨビオキャクノヨウボウヲデキルカギリカナエラレルヨウニトアンナイガカリヲマカサレテオリマス」
「片言で分かりにくいわ」
「要するに、メインは電子機器の修理であとはお客の要望を叶えるための掛かりなんだよね。て言うことは、ボクたちはお客?」
「ソウデス」
「お客のためなら、大抵のことはするんやな‥‥?」
「ソウデス。フロアナイノゴエイ、ニモツノウンパン、コモリナドナド、サマザマナヨウボウニコタエサセテイタダキマス」
律儀に答えてくるタクトニム。どうやら完全にレオナとヨシノを客としてみているらしく、丁寧な対応だ。
「さよか。荷物の運搬やら護衛やら、ね」
「ふぅん。これはまた‥‥珍しいタイプだね」
レオナとヨシノは顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべた。
・・・・・・・・・・・・・・・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
・・・・・・・・・・・・・・‥‥‥‥・
‥‥‥‥‥
「これで良いかな?」
「せやな。それでええやろ」
レオナは両手で抱えていた巨大なハリボテを床に置くと、その場に置かれているがらくたの山に目を見張った。
レオナをそうさせているのは、ハリボテの周りに積み上げられているビデオの山、山、山‥‥‥‥そしてそれを守るかのように積み上げられているビデオデッキやテレビ、CDプレーヤーetc.etc.‥‥‥‥とにかく外に持ち出せそうな電子機器の数々であった。
ヨシノの指示でそれらの物品を運び込んだレオナは、自分が運んだにもかかわらず、それらの量に圧倒されかけた。この全てを外に運び出そうというのだから、ヨシノの悪知恵は恐ろしいとレオナは思う。
そして当のヨシノは、タクトニムに何やら事細かに指示を出しているらしく、口を絶え間なく動かしている。
「せやから、わいらが戻るまでは、ここらの映像を大音量で流して置いて欲しいんや。ほれ、この爆発音と、怪獣の鳴き声のとこな」
「リョウカイシマシタ」
ヨシノの指示に頷くタクトニムが見ているのは、ヨシノがどこからか持ってきた液晶画面付きのDVDプレーヤーである。怪獣映画のDVDがセットされているそこには、現在怪獣が大暴れするシーンが映し出されている。
そしてDVDプレーヤーは、その音声をより大音量で流すための大型スピーカーに繋がれていた。
「くくっ、ホンマにこいつは使えるで。出来ることなら、外にも連れ出したいわ」
「いや、それは無理だから。たぶんだけど、ゲートで引っかかるでしょ。仮にもタクトニムを警戒するためにあるんだしね」
「わかっとる。言うてみただけや」
どうだか。隙あらば持ってくつもりなくせに‥‥
レオナはそう言いそうになるのを辛うじて堪え、ビデオの山を見仰いだ。
ヨシノが考えた悪知恵とは、怪獣映画の戦闘音声を絶え間なく流し続けて近付く者を威嚇し、それでも近付いてきた者は、怪獣のハリボテで追い返そうという子供じみた物だった。
だが実は、こんな子供騙しがセフィロトではまかり通ってしまうのが現実だ。
レオナにしてみても、もし自分が相手の立場だったら‥‥この場所には近付かない。
何しろ、このセフィロト内には出会いたくないような相手がごまんと徘徊している。そんな中で、わざわざ戦闘音や方向の響いている方向へは向かいたくもない。むしろ、万全を喫して遠回りに回避していくべき場所だ。
これはレオナだけではなく、セフィロトに潜る者達の鉄則だ。ビジター達は、決して無鉄砲な暴れん坊ではない。何だかんだで金銭的な、もしくは精神的な利潤を求めてここに来ているのだ。
死のリスクを回避するのは当然である。
「ほな、これでええやろ。後は頼むで」
「オマカセクダサイマセ」
ヨシノに肩(?)を叩かれたタクトニムは、大人しく頷いていた。
タクトニムに任された役目は、二人が外に戻って準備を整えるまでのプレーヤーの操作である。まさかレオナ達二人のうち一人が残ってプレーヤーを操作して音声を流し続けるわけにもいかないため、このタクトニムをいいように使って役を任せようと言うのだ。
万が一他のタクトニムが現れても、このロボットが破壊されるだけ。現れたタクトニムが機械ならば、破壊もされずにノーリスクで回避してのけるだろう。
「うちらは外で運搬の用意をしとるさかいな? ええな? あとでまた手伝って貰うさかい、余所へ行ったらアカンで」
「ウンパンノテツダイモスルノデスネ。リョウカイシマシタ」
「せや。手が空い取ったら、そこらの箱にでもこのビデオとかをしまっといてくれや」
「‥‥カシコマリマシタ。ハコビヤスイヨウニシテオキマス」
一瞬、タクトニムの赤い目が細かい点滅を繰り返した。が、事が上手くいっていると信じている二人は、特に気にとめることもなく頷き、大喜びでその場をあとにする。
「‥‥‥‥ハコビヤスイヨウニ、ヒトマトメニ‥‥‥‥ダレモチカヅケズ‥‥」
タクトニムは二人が去ったあと、プレーヤーを操作しながら、静かにがらくたの山を見据えていた‥‥‥‥
次の日の昼頃、レオナとヨシノは、トラックの運転席に座っていた。
既にセフィロトのゲートは潜り抜け、目的地のショッピングモールに向かって走行している。瓦礫の山を回避しながら進んでいるためになかなか思うように進めないが、多少の瓦礫は併走している鎧武者型MS『流星』がどかしてくれているため、それでも当初予定されていた予定時間よりかは、数段速く走行していた。
「‥‥‥‥なんでこうなったんだっけ?」
「なんでやろな?」
レオナは運転席にいるヨシノに質問したが、仏頂面で運転を続けているヨシノは、レオナをギロリと睨んでいる。その視線に絶えられず、レオナは口笛を吹きながら窓の外に視線を移した。
『まぁまぁ、そう邪険にするなよ。こうして手伝ってるだろう?』
「せやな。それはありがたいわ。けど‥‥」
「ほう? では、私が同伴しているのが気にいらんのか? なぁ、ヨシノ」
トラックの荷台側から響いてくる声に、ヨシノとレオナの肩がビクリと震えた。
声の主は少々不機嫌なのか、それとも上機嫌すぎるのか‥‥‥‥笑いを堪えているかのような声色で、二人に声をかけてくる。
「おぬしらに任せていると、貴重品が壊されかねん。私が管理させて貰うぞ」
「‥‥‥‥もう、好きにして」
ヨシノはそう言ってガックリと肩を落としながら、再びレオナを睨み付けた。
‥‥‥‥二人と同行しているのは、もちろんヒカルと剣人である。剣人は併走するMSの中にいて、ヒカルはトラックの荷台に乗り込み、運転席に通じる窓から話し掛けてきている。
レオナ達はビデオを運搬するためのトラックを購入するために行き付けの中古車店に出向き、同様にタクトニムを拘束して運搬するためのトラックを購入しようとしていたヒカル達とかち合ったのである(ちなみに“借りる”のではなく“購入”なのは、万が一にも損壊した場合に弁償代を吹っ掛けられる可能性が高いからだ)。
まぁ、ただかち合っただけならば問題などなかった。しかし偶然にもヒカルと出会ったレオナは、よりにもよってとんでもないことを言ってしまったのである。
『あ、ヒカル! よかったぁ、会えて。あのさ、ビデオを置いてるあの部屋以外に、空いてる部屋はないかな? ビデオの数が、今の四倍以上にはなるから、出来れば二部屋以上は欲しいんだけど。って、あれ? 怒ってる? ちょ、銃を抜かないでよ!? ま、待って‥‥‥ぎゃーーーーー!!!!』
などという経緯を経て、ヒカルと剣人を加えての団体行動となったのである。
しかも怒ったヒカルは、これ以上レオナのコレクションで大事なセーフハウスを占領されては堪らないと、入手したビデオの類を全て博物館に寄贈すると言い出したのだ。
コレクションに加えてゆっくり鑑賞しようとしていたレオナも、好事家に売りに出そうとしていたヨシノも抵抗した。しかし、レオナはヒカルにセーフハウスにあるビデオを人質(物質?)に取られ、またヨシノも祖母のオーラに当てられてダウンした。
それに、ヨシノとレオナは分かっていた。ヒカルと剣人が目当てとしているタクトニムは、自分達が嘘を吹き込んで良いように使っているあのタクトニムなのだと言うことを‥‥
ここでヒカルから逃れた所で、目的地が一緒なのでは逃げ切れない。ならばと、レオナはビデオを多少なりとも回してくれることで妥協し、白旗をあげたのだった‥‥
「まったく。人手が足りんからと言ってタクトニムを利用しようなどとは‥‥レオナ。クリスマスの時に、人を利用して街に侵入しようとするタクトニムがいたのを忘れたわけではあるまいな?」
「覚えてるけど、あれは大丈夫だと思うよ」
「そう言う油断に付けこむのが敵だろう。もう少し反省を‥‥む?」
ブーブーと唇を尖らせてヒカルに反論するレオナをいさめようとしていたヒカルは、遠くから聞こえてくる轟音を聞きつけ、言葉を途切れさせた。
剣人もその音をセンサーで拾ったらしく、トラックの前に立ちはだかって周囲を探っている。轟音は、まるで火を噴いたりビルを倒したりするような、盛大な破壊音だ。とても人の体で対抗出来るような規模だとは思えない。
レオナとヨシノも、その音を聞きつけて怪訝な顔をして‥‥顔を見合わせた。
「まさか‥‥」
「あはは。あり得ないでしょ。だって‥‥」
二人は顔を見合わせながら冷や汗を流し、恐る恐ると背後のヒカルを窺った。元々勘の良いヒカルである。二人の異変にはすぐに気が付き、極上の笑みを浮かべていた。
「おぬしら、まさか‥‥まだ隠しておることなどあるまいな?」
「!?」
「あ、あるわけないやろ!?」
「ほう‥‥」
『お前ら、来るぞ!』
ヒカルが二人にプレッシャーをかけている間も策敵を行っていた剣人が、警告を発する。
見ると、既に爆発音や破壊音の他にも何者かの兆候が出ていた。何しろビルの陰から巨大な生物の陰らしいものが伸び、ゆっくりとこちらに向かって歩いてきているのだ。
『この大きさ‥‥おい、まずくないか?』
「‥‥そうだの。下がって様子を見ておいた方がよいかも知れん」
陰の大きさ、そして足跡の大きさから迫ってきている驚異の度合いを呼んだ剣人は、MSをジリジリと後退させた。トラックを運転しているヨシノもまた、ギアをバックに入れて後退する。
‥‥と、こぞって退こうとした時に、その怪物‥‥‥‥いや、怪獣は現れた。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
『‥‥‥‥』
「ギャァォォォオオオオン!!!!!」
猛る咆哮。響く破壊音。重い足跡は腹の底まで響き、手が触れたビルは軒並み抉られ、中には倒壊している物もある。
背丈は目測50メートル。重さは数十トンか、百トンほどだろう。
口からは時折炎のようなものを吐き、運悪く目の前にあった建物を焼いていた。
‥‥百人が百人とも口を揃えて言うであろう、見まごう事なき怪獣である。
見事なまでに怪獣である。
完膚無きまでに怪獣である。
ヒカルや剣人、レオナにヨシノ。四人ともこのセフィロトに潜って長いのだが、これほどまでの巨体を誇るタクトニムなど始めてみる。‥‥と言うより、こんな怪獣がセフィロトの中にいること自体が奇怪すぎる。あまりの広大さ故に忘れがちだが、セフィロトは屋内にあるのだ。こんな巨大な生物が生息していれば、とうの昔に何らかの大事件が巻き起こっているはずだ。
「‥‥二人とも、あれについての心当たりは?」
「ないようなあるような‥‥」
言葉を濁すレオナ。ヨシノは怪獣に気付かれないように慎重にトラックを動かしているためか、ヒカルの言葉も聞こえていないようだ。故に、レオナの自白同然の挙動にも気付いていない。
(あの怪獣、あのハリボテだよね‥‥?)
レオナは怪獣を見上げながら、昨日のハリボテとDVD映像を思い出していた。
何がどうなったのかは分からないが、目の前にいるのは正真正銘の怪獣だ。それも、自分が“格好良いから”という理由で持ってきたハリボテの怪獣である。
今は完全に実態を持っているようだが、レオナは何とも言えない責任を感じていた。
『とにかく、あんなのとやり合ったらどうなるか分からん。隠れなら、ゲートまで引き返‥‥』
ガシャン!
ブブーー!!
剣人の言葉を遮り、辺り一面にけたたましいクラクションの騒音が撒き散らされた。反射的にクラクションの出所であるトラックを振り返る剣人。‥‥そこにあったのは、車輪を溝にはまらせ、その振動でハンドルに頭をぶつけたヨシノがあった‥‥‥‥
「‥‥アハハ」
「笑っておる場合か‥‥」
怪獣に気を取られすぎていたヨシノによる、後方不注意の小さな事故‥‥
ただの事故だったら、まだ許せた。
しかし現在の状況を考えると、今のは最悪の事故である。
「グォォォオオオン!!!!」
眼孔がヒカル達を捕らえると同時に、開戦の雄叫びを上げる。
ズンズンと地面をめり込ませてヒビを入れながら、怪獣はトラック目掛けて走り始めた。
「来た来た来た来た来た!! ヨシノ、急いで!」
「わかっとるわ!!」
ギアを切り替えアクセルを踏み込みハンドルを切りこれまでの消極的な退却から本格的な逃走へと移る。しかし瓦礫の散らばる地面で急発進をさせたためか、トラックのタイヤの一つが破裂を起こし、トラックはガクンと体勢を崩して火花を挙げた。
『おいおい!』
剣人のMSは少しでも怪獣の進行を遅らせようと、頭部バルカンで応戦する。が、MSの頭部バルカンなど、一つ一つの弾丸は数センチもない小さな物だ。そんな物では、何十発と撃った所でこの巨体には意味がない。
ギギギギンと、着弾した弾頭が金属音のような物を奏でて跳ね回る。
「ガォォォオオオン!!」
『どういう体だよ!?』
剣人は高周波ブレードを起動させ、怪獣の横合いに回り込むようにステップを刻み、素早くその足下にまで肉薄した。
『化け物めっ!』
鈍重な怪獣を斬りつける剣人は、半ばヤケになっていた。
規格外の敵としては、破格の部類にはいるであろう相手を前に、何処まで攻撃が通用するのかは見当もつかない。もしここで高周波ブレードの刃が弾かれるようなことになれば、それは絶望を意味する。
‥‥剣人の見立てでは、この攻撃も、あまり期待はしていなかった。
何しろ、足だけでも一回り十メートル以上はある巨大さである。刃が通ったとしても崩すには至らない。むしろ、斬りつけた瞬間に足を少しでもずらされて蹴り上げられたらどうなるか‥‥?
考えるまでもない。その巨体の重量から推測するに、MSなどひとたまりもないだろう。
ズガシャアア!!
「ギャァアアアオオオン!!」
『‥‥なに?』
しかし予想に反して、剣人の耳に届いたのは怪獣の悲鳴と切断されて飛び散るがらくたの破片の騒々しい音だった。
高周波ブレードは、易々と怪獣の足を切り裂いた。しかし剣人を驚愕させたのは、更に別の事実である。本来ならば怪獣後や肉片が飛び散るべきだろうに、あろう事かそこら辺に落ちていそうな電子機器や、そのがらくたが現れたのだ。
見た目は生物。しかし中身は機械‥‥その事実に直面した瞬間、剣人はMSを更に踏み込ませ、第二撃を打ち込んだ。
中身がどうとか、そう言う疑問はあとで好きに考えておけばいい。目の前の敵が倒せる相手なのだと分かった以上、今必要なのはこれを打ち倒すことである。
頭部バルカンは使わず、高周波ブレードを使って足を切り裂き、体勢を崩す。バルカンは大して効果がない。先程使い、そして切り裂いた手応えから剣人はそう判断した。元より中身ががらくたならば、表面上しか攻撃出来ないバルカン砲など意味がない。
「あ、やっぱりがらくたか」
「ほう、“やはり”ときたか」
ヒカルは大型のライフルを手にしてトラックから降りていた。
元よりトラックのタイヤが破裂した以上、そこにいる意味はない。例え相手が銃弾など意に介さない相手だとしても、まさかトラックの荷台で隠れ続けているわけにもいかない。
レオナも高周波ブレードを手に、既に駆けだし始めていた。
「二人には、あとでゆっくりと話を聞いておくとしよう。が、今は‥‥」
ライフルの銃口が向く。引き金に指がかけられ、レオナと剣人を踏み潰そうと躍起になって暴れまくる怪獣に照準する。
「ははっ。怪獣退治なぞ、一生かけてもすることになろうとは思わなかった、ぞ!」
ドゥン!
轟く銃声。対MS用に開発された特製のサイボーグ用大型ライフルから放たれた銃弾は、まるで大型ハンマーで殴りつけたかのような衝撃を怪獣の腕に与え、そのがらくたを吹き飛ばした‥‥‥‥
ドン! ガガガガガガガガガガガゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!
耳を覆いたくなるような騒々しい崩壊音。まるで街一つが無惨に崩れ去っていくかのような轟音を残し、がらくたで出来た怪獣は崩れ落ちた‥‥
戦闘開始から十数分。頭部を潰され、片足を完全に失った怪獣は、自らの自重をさせられなくなって崩壊した。
『やっと倒したか‥‥』
「そのようだが、これを一体、どうやって動かしておったのだ‥‥?」
ヒカルは砂埃が漂う中、瓦礫と化した怪獣の中身を手に取り、頭上に?マークを浮かべて嘆息していた。
どうやって繋ぎ止めていたのかは不明だが、中から出てきたのはビデオデッキやらCD/MDプレーヤーやらの電化製品だった。
理解不能の現象である。いくら何でも、これはないだろう。MSを破壊しそうになり、散々ビルだの地面だのを破壊した正体が‥‥‥‥時代遅れの電化製品。
「何とも‥‥やりきれない相手だったの。せめて本当の怪獣だったのならば、まだそれなりの達成感も得られただろうに」
「ついでに名も上がっただろうね。でも正体がこれじゃあ、自慢しようにも証拠がないや」
「‥‥‥‥ほう、それは残念だの」
地面に腰を下ろして残念そうに言うレオナの肩に、ヒカルは静かに手をかけた。
その瞬間に、レオナはビクリと肩を震わせる。
「そう言えば、まだ詳しい話を聞いておらぬな。もうそろそろ聞いてもよいか?」
「いやぁ、まだまだちょっとほらあれだよこんなところじゃあれだからもうすこしそうだねあといっしゅうかんぐらいしてから‥‥‥‥」
「ほな、ウチはこれで‥‥」
「ヨシノ。そこまで私は優しくないぞ?」
「うぅ‥‥そないなこと言わんと‥‥」
『お前ら‥‥楽しんでる所悪いんだが、まだ何かいるぞ』
MSに搭乗して瓦礫の山を探っていた剣人は、その山の一部が微かに動いていることを視認した。
「そう! ほらヒカル、まだ何かいるって!!」
「そやな! 内輪で揉め取る場合とちゃうで!!」
「‥‥おぬしら‥‥」
本来ならば警戒するべきレオナとヨシノだったが、ヒカルから逃れられるという思いから、大喜びで瓦礫の山に走っていく。
ヒカルは腰に両手を当てながら、その後ろ姿を見送っていた。
「まったくあの二人は‥‥まだ私の仕事も終わっておらぬのに」
『そうでもなさそうだぞ』
「なに?」
センサーで瓦礫の山から這い出てくるモノを確認していた剣人は、自分達が目標としていた標的のデータと確認して当たりを付けていた。
「ふむ。私らの仕事も完了かの。まぁ、それなら‥‥」
一騒動の甲斐はあったと、ヒカルは胸をなで下ろした。
瓦礫の山の中から這い出てくるモノ。ヒカルの標的にして、この怪獣を生み出した張本人は、駆け寄ってきたレオナとヨシノを見るなり‥‥
「オマタセシマシタオキャクサマ。ゴシジドオリ、ニモツヲマトメ───」
スゴズシャァァアア!!!
勢いに任せたヨシノの跳び蹴りが炸裂し、這いだしてきたモノが仰け反った。そしてヨシノがそれと擦れ違った直後、間髪入れずにレオナが高周波ブレードを叩き付ける。
『「あああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」』
ヒカルと剣人の絶叫。レオナとヨシノはタクトニムの口を封じたことに一瞬だけ安堵をしたのだが、二人の声を聞いた途端に自分達の立場がより一層絶望的なモノに変化したことを、直感で察知していた。
‥‥二人は、ヒカルが駆け寄ってくるよりも速く、トラックに走り出す。
「アハハ‥‥ヨシノ。ビデオとか、いくつか積み込んでない?」
「そないな余裕どこにあるんや! ええから走り! 捕まったら殺されるで!!」
「おいていったらより一層酷いがな!!」
「「ひぃやぁぁぁあああ!!!」」
『‥‥‥‥逃げられやしないのに』
トラックに飛び込み、覚束無い走行で逃走を試みる二人。
それを追い掛けるヒカルを眺めながら、剣人は溜息混じりにMSを走らせた‥‥‥‥
☆☆参加キャラクター☆☆
0541 ヒカル・スローター
0351 伊達・剣人
0536 兵藤・レオナ
0637 アマネ・ヨシノ
☆☆あとがき☆☆
度々の発注をありがとう御座います。最近ゲーム作成(仕事)とかに手を出しているメビオス零です。
今回のシナリオ、皆様から提示して頂いた設定とかを多少弄くってお送りしております。まぁ、毎回そうなんですけど、どうなんでしょうね? 今回のシナリオは。
結局の所、レオナのビデオとかは怪獣崩壊によって壊滅。ヒカル達の標的としているタクトニムも、レオナによって粉砕。救いがないなぁ、タクトニムは親切にも荷物を運んできてくれただけなのに。まぁ、怪獣になってたけど、思考性能がよくないのか、もしくはエラーでも起こしていたのでしょう。
ヨシノさんに能力を使って貰ってもよかったかな?
結末は変わらないですけど(笑)
では、この辺でいつもの‥‥
今回のご発注、誠にありがとう御座います。
作品に対するご感想、ご指摘などが御座いましたら、まったく遠慮も躊躇もなく送って頂けたら幸いです。毎回送られてくるファンレター、ありがたく読んでおります。
重ねてお礼申し上げます。またの機会がありましたら、その時にも頑張って書かせていただきますので、よろしくお願いします。
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