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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


それはまるで悪夢のような‥‥‥‥

ライター:メビオス零




 皆さんこんにちは。世界のヒロイン、兵藤 レオナです。
 早速ですが皆さん、一つ、質問があります。
 子供のような大人と、大人のような子供、どちらの方が好きですか?
 ボクはどちらも苦手です。嫌いではないですが、苦手です。
 子供のような大人‥‥うーん、見てる分には面白いんですけど、自分も巻き込んで騒動を起こしてくると大変なんですよね。手加減って物を知らない人が多いし、ワガママもいるし、周りがどれだけ言っても反省したことをすぐに忘れて突っ走るし。あまりの気楽さに羨ましくもなるけど、世話する方は大変なんだよね。え? それってお前のことだって? アハハ。面白いこと言うね。斬るよ?  そうそう。人の話は大人しく聞いててね。
 で、次は大人のような子供‥‥生意気な奴だなぁ。悪い事じゃないんだけど、若くして人生悟ってそうだし、大人のこと舐めてかかってきそうだし、まず間違いなく人のことを内心で馬鹿にしてくるようなタイプだろうね。見た目だけが大人びてるだけなら良いんだけどなぁ。それなら可愛いもんだよ。うん。
 え? で、何が言いたいのかって?
 えーと、そうだなぁ。正直、ボクもよく分からないのよ。いや、ちょっと今テンパってるって言うか、混乱中って言うか‥‥“何? この状況”って言う感じかな。だってアレだよ。君達だって、絶対にこんな状況に入ったら混乱するよ!
 だって‥‥ほら
 いきなり自分の親が幼児化してたら、誰でも驚くでしょ?






「なんて現実逃避をしている場合ではないのでありました。まる」

レオナは、セーフハウスの一室であるマンションの窓から外を覗き、マルクト夜景を遠い目で眺めながら呟いていた。
 開け放たれた窓から注ぎ込む静かな風が、妙に心地よい。普段ならば「寒いから閉めんか!」と怒鳴ってくる相方も、今日ばかりは静かなものだ。
 ‥‥しかしその静かさが、レオナの現実逃避に拍車を掛けていた。
 窓枠に両肘をついて両手を組み、空(マルクトなら天井なのだが)を見上げて天に祈る。

(神様。ボクは悪いことをしましたか?)

 答えはない。答えはないのだが‥‥‥‥

「おねーちゃんなにしてるの?」

 逆にレオナに問いかける声が、背後から聞こえてきた。

「ん? 何でもないよ。気にしないで」

 レオナは振り向き、室内で“遊んでいた”女性に手を振った。気にしないでと言われたことで気にしないことにしたのか、女性は「ふーん?」と不思議そうに首を傾げながら、テーブルの上に積み上げられたガラクタ(セフィロトからの発掘品)を、まるで積み木のように組み替えて遊んでいる。視線はレオナに向いたままだと言うのに、その手付きには全く淀みがない。まるで熟練者が銃の整備でもしているかのような素早さと正確さだ。
 が、やはり銃とガラクタでは勝手が違う。遊んでいた女性は、今度は積み上げたガラクタを解体し始めたのだが、あちこちに突き出している突起と得体の知れないコードが絡み合って取れなくなったらしく、「おねーちゃーーん!」と声を上げ始めた。
 そんな光景を、別次元の光景を見るように虚ろな目で眺めていたレオナは、深い溜息と共に窓から離れ、その頭に手を掛けた。

「はいはい。そんな目をしないでよ。ボクが直してあげるから。ね? “ヒカル”」
「うぐっ‥‥ひぐっ‥‥うん。ありがとうおねえちゃん!」

 目尻に滲んでいる涙を拭いながら、ヒカル・スローターはそう言った‥‥‥‥‥‥‥‥






 事の発端は、つい数時間前に起こった事件だった。
 セフィロト奥深くにまで潜ったレオナとヒカルは、その日一日の収穫物の内容で揉めていた。
 常日頃からタッグを組んでいる二人だったが、どれだけ長い付き合いだとしても、こういった言い争いは起こるものだ。大抵は二人の狙う獲物がぶつかることはないし、二人とも金銭に執着がないために収穫物の配分なんぞで争いなどしないのだが、レオナがコレクションに加えたがる物には貴重品が多いために、ヒカルが博物館やギルドに寄付することを勧めるのだ。
 まぁ、そう言ったヒカルの要求には、レオナはまず従わない。まるで子供のように駄々をこねてでも、自分のコレクションに加えてしまう。
しかし、そう言った“寄付しろ”という理由以外で攻められた場合は、話が変わる。
今回の場合は、そのケースだった。

「えー! 絶対やだ! この人形は絶対にコレクションに加えるよ! 大体博物館だって引き取ってくれないよ!」
「ならば売り払ってしまえ! なんだ、そのアヒルともイヌとも人間とも付かぬ面妖な人形は!」

 セフィロトの暗がりの廃墟を、ヒカルとレオナは口論しながら進んでいた。
 タクトニムの事を考えれば、夜のセフィロト内で声を上げて口論するなど論外なのだが、今の二人にはそれは完全に慮外のことだった。

「可愛いじゃない“ドネルド・ドッグ”!」

 レオナが縄でグルグル巻きにしてある人形をヒカルに突き出し、見せてくる。
 薄暗い所為でぼんやりとしか見えないが、それが返ってアヒルともイヌとも人間とも付かない顔の異様さを際立たせ、爛々と赤光を放つ目が妖気を放っていた。
 別段ホラー物が苦手なわけではないが、ヒカルは「見せるな!」と言って退いてしまう。

「怖いわ! そもそもその人形、登場初期からあまりの不人気で、ものの三日で遊園地から姿を消したという伝説付きのキャラではないか!」
「だから稀少品なんだよ! 当時の最新鋭技術を結集して作った人形なんだけど、たったの十体しか製造されてなかったんだから!」
「そんな妖怪の等身大(身長2メートル・重さ150s)の人形など十体でも多いわ! そもそも最新鋭技術? 人形のどこにそんな技術を使う!?」
「ほら、この背中の触覚を押すとなんと目からレーザーが!!」

 ポチッとレオナが人形の背中の一部を押すと、人形の口が クワッ! と開き、目からレーザーが発射された。ヒカルの足下に突き刺さったレーザーは ジュッ! という音を立てて瓦礫を焼き切り、周囲に焦げ臭い匂いを充満させる。
 狙ったわけではないだろうが、ろくに狙いも付けずにレーザーのスイッチを入れたレオナに、ヒカルは抗議の声を上げる。

「危ないぞ! 何故そのような兵器を搭載しておるのだ!?」
「製造当時が戦時中だったからねぇ。説明書によると、“昼間はソーラー電池による充電期間として人形となりますが、夜になると昼間に溜め込んだエネルギーを使用し、戦場(街中)を闊歩、敵っぽい相手を問答無用で攻撃します”って書いてあるよ」
「遊園地に置くなそんな物! そもそも“っぽい”とは何だ! ええい、当時の関係者は誰も疑問に思わなかったのか!!」
「さぁ? みんな戦争続きでテンパってたんじゃないの? でも当時からして、発見次第壊されちゃったみたいだし、もしかしたら世界で唯一の生き残りかも知れないよ? まぁ、まだ機能が生きてるみたいだから博物館には置けないけど、本当に稀少品だって。絶対に持って帰るよ!」

 機能が生きている‥‥つまりは、今でも光を当てて放置しておくと動き出すと言うことか。
この人形がこうして停止しているのは、瓦礫の下に埋まり、光が当たらなかった御陰だろう。

「マルクトにそんなタクトニムまがいの物を持っていくわけにも行くまい。諦めんか!」
「大丈夫だよ! ヒカルのセーフハウスなら街からはちょっと離れてるし!」
「やはりそう来たか!!」

 既に予想が出来ていたヒカルは、セーフハウスの一つとして使われているマンションの一室‥‥既にレオナの物置となっていたが‥‥にこの人形が置かれた光景を想像し、身震いした。

「良いでしょ?」
「良いわけないであろう! 何故そのような物を私のセーフハウスに‥‥」
「魔除けにはなるよ。玄関先に飾っておこう!」
「客が退くわ!」
「なら抱き枕!」
「無理だ!」
「ケチ!」
「‥‥!」

 二人は口々に大声を出しながら、ゲート近くの廃墟にまでやって来た。と、そこで周囲に変化が起こった。
 何しろセフィロト内は、野生のタクトニム達で溢れている。そんな中、大声で口論をしながら歩いているのだ。それはジャングルの中で、餌が自分の存在をアピールしながら歩いているような物で、発見されないわけがない。
 そして襲われないわけがない。これまでは段々と殺気立っていく二人と異様な人形に気圧されて(奇しくも人形は魔除けになっていた)遠巻きに見ていただけだったタクトニムが、ゲートが近付いたことで焦り、行動に出たのである。

「ギィィィイイ!!」
「なっ!?」

 突然背後から襲いかかってきたケイブマン(筋肉が剥き出しになったかのようなモンスター)に、殴りかかられたヒカルは、咄嗟に前に飛ぶことによってダメージを受け流した。傷はない。しかし体勢を立て直そうとした所に、殴りかかってきたケイブマンが飛びかかり、押し倒される。

「ちょっ、こらっ! どこを触っておるかこの化け物!」

 ヒカルはケイブマンの手付きに怒声を上げながら、ホルスターから銃を引き抜き三連謝する。しかし分厚い筋肉に守られているケイブマンには、小口径の拳銃では至近距離からでも致命傷は望めない。

「あわわわわ! ヒカルが‥‥ヒカルが禁断の世界に入っちゃうよ!!」
「言ってないで助けんか馬鹿者!」

 「了解!」と返事をしたレオナは、素早く手にしていた人形の背中のスイッチを入れ、レーザーを発射‥‥しようとした所、でエネルギーが底を突いていることに気が付いた。そもそもレーザー数発分ものエネルギーが残っているのならば、歩き回っていても良いはずだったのだ。
 そうこうしている間にケイブマンはヒカルを襲っている。ああ、危うしヒカル。どうするヒカル! このままタクトニムにあんな事やそんなことをされてしまうのか!!
レオナは咄嗟に人形の足を引っ掴むと、まるで高周波ブレード‥‥いや、それこそハンマーのように振りかぶり、ヒカルを(いろんな意味で)食べようとしているケイブマンの後頭部に叩き降ろした。
ボンッ! そして着弾。普通に鈍器として使用したにもかかわらず、人形の頭部がケイブマンの後頭部に叩き付けられた直後、人形の頭部が爆発を起こして四散した。ついでとばかりに、ケイブマンの頭部も綺麗さっぱりとなくなっている。
 レオナは呆然と人形とケイブマン、そしてそのケイブマンに組みしかれているヒカルを見つめ、頷いた。

「セーフ!」
「‥‥‥‥」

 ‥‥ヒカルが無事だったから、セーフだと言いたいのだろう。
 それも間違ってはいないのだが、ケイブマンの血やら肉片やらその他色々な物を顔に浴びてしまったヒカルの表情は固い。固いと言うよりも無表情だ。それもそのままピクリとも動かず、停止している。

「お、おーい。ヒカル? その‥‥あんな機能があるなんて思わなくってさ。怒ってる? 寝てる? 気絶した? それはケイブマンに襲われた恐怖から? それとも今の爆発のショック? 後者だったらやっぱりボクの所為?」

 レオナは動かなくなったヒカルの体を揺すりながら、まずは生存を確かめた。心臓は動いている。呼吸もしている。しかし眼球は動かず、目蓋も開けたらそのままで瞬きもしない。

「ただの気絶じゃあ‥‥ないかな?」

 まさか、今の一撃で精神的に壊れた‥‥などとは思いたくないが、そうなったら洒落にもならない。もっとも付き合いの長い相方を、こんな事で失ってしまったら耐えられない。

「いつまでもギャグパートでいるわけにもいかないね‥‥!」

 レオナは人形を放り出してヒカルを担ぐと、ゲートに向かって一直線に疾走した‥‥






「うむ。これは“脳みそスライム”と言う奴じゃな」

 以上、それが医師の診断だった。
 セフィロトから抜け出たレオナは、ヒカルを背負ったままでマルクトにまで駆け戻り、(ヒカルの)馴染みの医者の所にまで連れて行った。時刻は深夜。眠っていた医師のお爺さんを叩き起こし、無理矢理診断させること三時間‥‥その結果が、“脳みそスライム”である。

「お爺さん。真面目に診ないと殴っちゃうよ?」
「馬鹿もん。ワシはいつでも本気で真面目でマックスじゃ。ほれ、これを見てみい」

 ハリセンを手に脅しを掛けるレオナを平然と流し、医師は一冊のメモをレオナに手渡した。

「これは?」
「このスライムに付いてのメモじゃ。昔、スライムテロが流行っての。その時に書いた物じゃ」
「スライムテロって‥‥」
「うむ。まずはスライム生物を作り、その体に媚薬を混ぜて女子寮へ‥‥」
「犯人あんたでしょ!」
「違うわ! ま、幸いにもこいつに入り込んだのは、それほど害のない奴じゃ。ほれ、読んでみ」

 促され、メモ用紙に目を落とす。

“名称:脳みそスライム。外形:完全液状型、色は不透明。
どういう体をしているのかはかなり不明。恐らくある一定の電気信号(脳波か? 要研究)をキャッチすると移動し、対象の生物に寄生。そのまま脳内に潜伏し、脳内で分泌されるアドレナリンなどの分泌液を吸収すると推測される。
寄生された者に死亡者は確認されず、スライムには宿主を殺害する機能はない。自己にて偶発的に死亡例が確認されたが、その時に遺体の口からスライムが逃亡することが確認されている。このことから、宿主の死亡を察知させることで追い出すことが可能だと思われる。
追伸:幼女万歳”

 メモ用紙を握り潰す。

「つまり‥‥」
「ああ‥‥そう言う事じゃ」

 二人が視線を落とす。
 レオナは、メモから推測される治療方法に愕然となった。
 死ぬしかない? そうすれば出ていく?
それはつまり、仮死状態にでもしてスライムが出ていくまで放置しろと言うのだろうか。仮死状態にすること自体は難しくない。問題なのは、それを維持すると言うことだ。一歩間違えば死に直結することもあり得るのだ。
 沈黙が医務室を包む。
 医師はヒカルを寝かせている隣室に目を向け、椅子から立ち上がった。

「お前さんも、そのメモを見れば分かったはずじゃ。このスライムに、それほどの害はない。“死にはしない”。そう言う奴じゃからな」
「それじゃあ‥‥ヒカルは、ずっとこのままなの!?」
「そうじゃのう‥‥このままではそうなる。そう‥‥このまま‥‥‥‥」

 ガクリと、レオナの膝がくずおれる。
 恐らくこのスライムが寄生したのは、あのケイブマンの頭を砕いた時だ。ケイブマンの脳に寄生していたスライムは、その体液を浴びたヒカルの体に寄生し、体を乗っ取ったのだろう。
 ‥‥ならば、ヒカルをこんな状態にしたのはレオナとも言える。もっと早く、ふざけずに助けていれば、こんな事にはならなかったというのに‥‥
 自責の念に駆られるレオナの肩を叩き、医師はグッと拳を突き上げた。

「そう‥‥このままヒカルは、ずっと幼女化したままなのじゃ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・‥‥は?」

 レオナの目が点になる。
 力強く声を張り上げた医師は、反応の薄いレオナに目を向けて怪訝そうに声を掛けた。

「何を呆けておるか」
「いや‥‥ヒカル、このまま寝たきりなんじゃないの?」
「誰がそんなことを言った。そのメモ、ちゃんと読んでおるのか?」

 レオナは再びメモを開き、目を通す。
 確かに、脳に寄生するからといって、どういう状態になるかは書いていない。だからこそ、レオナはスライムが寄生した時の状態‥‥全くの無反応の状態のままだと思っていたのだが‥‥
 医師は静かに、レオナが開いたメモに指を突き付けた。

「その最後の一文、それを読め!」
「え? ‥‥最後?」

 目を落とす。
 “追伸:幼女万歳”

「その一文に、ワシは全てを込めた! 当時、偶然にもテロの起こった女子寮の近所で開業していたワシは、運ばれてきた女子大生達を見て愕然とした! そう、皆して幼児化していたのじゃ! 無論、体は元のままじゃ。しかし精神的に、一人残らず五歳児ほどにまで退行しておった!! そんな女子大生達を見て、ワシは‥‥ワシはぁぁァ!!!」

 ゴンッ!
 医師が完全に沈黙した。

「ヒカル!?」

 レオナはすぐに駆けだし、隣室への扉を開けた。
 雑然とした病室で、ヒカルは既に起きていた。ベッドに腰掛け、周りをキョロキョロと見渡し、入ってきたレオナに目を向ける。

「おねーちゃん、だれ?」

 ブッ!
 ヒカルの首を傾げる仕草に、レオナは鼻血を吹き出した。





 ‥‥‥‥そうしてヒカルを連れてセーフハウスに戻ったレオナは、これからどうしたものかと、真面目に考えていた。
 まさかあのスケベじじいの元にヒカルを置いていくわけにも行かず、こうしてヒカルのセーフハウスの一つに入ったは良いのだが、これからどうすればいいのだろうか。
 考えられるプランは二つしかない。
 プラン@:ヒカルを仮死状態にする。(ただし医師の協力が必要。殴打でも出来るが、非常に危険)
 プランA:このままヒカルの“おねえちゃん”として暮らす。

「やっぱりAかな‥・ってなに考えてるんだボクは!!」

 ヒカルが組み立てたガラクタに頭突きをかましながら、レオナは必死に冷静さを保とうとしていた。

「おねえちゃん、しずかにしなきゃダメだよ。おとなりさんにおこられるよ?」
「ああ、ごめん。でもどうしてそう言う知識は残ってるのかなぁ‥‥」
「えっへん!」
「褒めてないよ‥‥はぁ」

 溜息混じりにガラクタを放り出したレオナは、完全に幼児化しているヒカルを眺めながら立ち上がった。
 思えば、既に明け方近い。昨日はヒカルと共に一日中セフィロトに潜っていたし、それからは病院に行き、そしてヒカルの相手をしていたのだ。もう既に、心身共に疲れ果てていた。
 レオナはヒカルを置いて、部屋の奥に向かっていく。

「どこにいくの?」
「シャワー浴びて、もう寝るよ。何でだか、今日は仕事が一杯だし」

 ヒカルがこの状態なら、その分の仕事もしなければならないだろう。少なくとも、レオナにはそれぐらいはする責任がある。
 これから先のことを思って暗くなっているレオナ。そんな不安を洗い流そうと、脱衣所で服を脱ぎ、お風呂場に入っていく。
 そうしてシャワーを浴びて過ごすこと数分間‥‥

「わたしもおねーちゃんとはいる!」
「ぶはっ!?」

 安寧の場に来た途端、後から付いてきていたヒカルの奇襲によって、そこは混沌と百合の渦巻く魔境と化した。
 ‥‥レオナの名誉のために解説を付けるが、レオナには断じて同性趣味はない。
 しかし普段は真面目で、固く、聡明で、強く、そして友人間ではもっともおば───年長者であるヒカルが、相棒の自分のことを“おねえちゃん”と呼んでくるのだ。それも、非常に可愛らしく‥‥‥‥
 そう言う趣味はない。ないのだが‥‥何というか‥‥‥効く。まるで顔面にストレートパンチでも貰ったかのように、効く。いろんな意味で。
 突然の状況変化に付いていけないレオナの隙を突き、ヒカルは石鹸とスポンジを持って「せなかをあらってあげるね!」と、抱きついてきた。

「タンマタンマ! なんか変だよ! なにこれ? やっぱりボクって悪い事したのかな!?」
「? おねえちゃん、どうしたの?」
「待って! そんな純な目でボクを見ないで! ひぃい体を押しつけないで抱きつかないで!」
「やだよーだ! わーい!」
「★○×♂♀◎▼」

 心底楽しそうな声を上げるヒカルと、もはや声にならない声を上げるレオナ‥‥‥‥
 この時、レオナは微かに、とある一文を思い起こしていた。

“幼女万歳”!!

 ・・・・・・・・・・・・・・・‥‥‥‥‥

 ・・・・・・・・・・・・・・・‥

 ‥‥‥‥‥



 レオナは次の日(厳密には夜の間に日付は変わっていたが‥‥)、ボロボロの状態になっていた。
 顔には僅かに青い筋が浮かび、手足は気を抜くと力が抜けて倒れそうになる。異様に消耗しているレオナを気遣ってか、レオナと共に自警団の仕事に就いている者達は、一様にしてレオナから距離を取っていた。
 あの後二人でシャワーを浴び、洗いっこをし、お湯に浸かり、ヒカルの体を拭き、寝間着に着替えさせ、一緒のベッドで眠ってしまった。もっとも、眠ってしまったのはヒカルだけで、レオナは眠れぬ夜を過ごしている。幼児退行したヒカルは寝相まで変わっているのか、ただ単に寒かったのか、隣で寝ていたレオナを抱き枕にして眠ってしまったのだ。レオナは引き剥がすことも躊躇われ、為すがままにされていた。
 無論、全て幼児退行したヒカルのためである。断じてレオナの趣味ではない。そして本来、ヒカルにもこんな趣味はないし、甘えん坊でもない。つまり、これは誰の所為でもない。誰の所為でもないのだ。

「ドォォォオラッシャァァアアアア!!」

 だからといって、堪るものは堪る。そしてそうして堪った物は、吐き出してしまうのが一番だ。
 レオナは酒場で大暴れをしていたビジターを殴り倒すと、起き上がろうとするビジターにヤクザキック(カカトで蹴り付ける。痛い)を連発し、ゲシゲシガスガスとトドメを刺す。

「ドリャァァァアアア!!」

 また別の場所では、不正改造のソフトエラーによって暴走したオールサイバーを高周波ブレードで四肢切断し、残った胴体を坂道にまで引きずって転がし落とすという荒技を行った。これにはさすがの自警団員達も声を上げようとしたが、何か大事な物を取り戻そうとするかのように、必死になって暴れているレオナには近付くことが出来ず、ただ黙って見守っていた。

「おねえちゃん、おかーさんどこ?」
「ひぃぃいい!!」

 ただ何故か、自警団詰め所に預けられている迷子にだけは、レオナは近付くことが出来なかった。首を傾げる自警団員達だったが、恐らく何か、恐ろしい目にあったのだろうと察し、あえてなにも突っ込もうとはしなかった。

「ダメ! もう限界!! これ以上はボクが死にます!!」
「むぅ、もう少し楽しみたい物なのじゃが‥‥」
「楽しまないで!! こっちは本気で必死なんだ!!」

 レオナは結局、仕事が終わるや否や、昨日殴り倒した医師の元へと駆け込んでいた。
 他のまともな病院にも相談だけはしてみたのだが、どうやらあの“脳みそスライム”についての情報はないらしい。このじいさんは、どうやら重要な情報だけは自分の所で握り潰したようなのだ。やはりスライムテロの犯人なのか。しかしそんなことは、もはやどうでも良い。
 レオナは医師の両頬を掴むと、左右に引っ張って攻撃した。

「戻して! 僕たちの平和な日常を戻して!!」
「今でも、別に荒れているわけではあるまい。むしろ天国のような毎日を‥‥イタタタタタタタ!!!」
「天国通り越して桃源郷だよアレは!! だけど何か、自分にとって大切な物が刻一刻と確実に失われている気がする!!」
「ひゃかった(わかった)! ひゃかったひゃはひょうはひゃへ(分かったからもう離せ)!!」

 ギリギリと引っ張られる痛みに耐えかねたのか、医師が悲鳴を上げる。
 レオナはハァハァと荒くなった呼吸を何とか正そうと、必死になって深呼吸を行った。

「とにかく‥‥‥‥頼むよ。あの状態は、一刻でも早く元に戻して貰わないと‥‥」
「むぅ‥‥仕方あるまい。ま、彼女を狙う輩も、少なからず居るだろうしの。ここらが潮時か」

 医師は残念そうに、「ヒカルを連れてきなさい。準備をしておく」と告げ、頷いた。
 そうと決まれば、レオナの行動は早かった。
 マルクトの街を疾走する。道に飛び出し人を跳ね飛ばしビルからビルへと飛び移り、追っ手を裏路地に引き込んで撒いて目的のマンションを視野に納めて更にスピードを跳ね上げる。マンションの階段を駆け上がるのももどかしく、隣のビルの壁を蹴り付け三角飛びを連発し、あっと言う間にセーフハウスへと到着した。

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥‥‥」

 ゼイゼイと肩で息をする。
 ここまで全力を出したのはいつ以来だろうか? 命を賭けた戦闘でも、ここまで必死になったことはなかったような気がする。つまり現在では、戦闘以上に危険な状況か。危ない。そんな状況に身を起き続けるのは非常に危ない。すぐにでも脱出するべきだ。

「ヒカル! ちょっと来て────   来て‥‥くれ‥‥な‥‥‥‥い‥‥‥‥‥‥‥ヒカル?」

 扉を開けたヒカルは、室内の静寂に段々と声を潜め、目と耳を疑った。
 誰も‥‥‥いない。
 これまで、ヒカルがレオナの呼びかけに応じなかったことはない。幼児退行してからでも、それは同じだ。むしろ幼児退行してからは、ヒカルはレオナに懐いていた。こちらからの呼びかけに応じないわけがない。
 もしかしたら眠っているのかもと、室内を捜索する。いない。どこにもいない。なんで?

「あ‥‥なにこれ?」

 テーブルの上に置いてある、ガラクタ。そのしたには、一枚のメモ用紙が置いてあった。

“ひかるにおきゃくさんがきたので、いっしょにこーえんにいってきまふ”

「なにそれぇぇええ!!??」

 レオナが絶叫する。
 お客? 今のヒカルに? いや、その客は、ヒカルの異変など知らなかったのだろうが、普通、会えば一発で分かっただろう。それでも連れ出した。普段のヒカルを知らない初見の客? ならば仲介人を通してしか会えないはずだ。様々な組織を渡ってきたヒカルは、仕事を取る時にはしっかりと手順を踏んで安全を確認してからしか依頼人と会いはしない。そうでもしなければ、とてもここまで生き残ってはこられなかった。ならば初見の客はなしとして、誰だ? 今のヒカルに要のある人間。ただ連れ出して笑い物にしようものなら、元に戻った時に殺されかねないから、この線はないだろう。いくらヒカルが基本的には好々爺然とした大人でも、そこまでされて大人しくはしないだろう。
 では誰だ? そして、何処に行くって? 公園?
 それなら答えはそこにある!!

「待っててヒカル!」

 無事でいてくれと、レオナは来た時に倍する勢いでマンションを飛び出した。





 レオナがマンションのセーフハウスに着いた頃、ヒカルは見知らぬ小柄な男に手を引かれ、無人の公園に連れ出されていた。元々ヒカルがセーフハウスとして居を構えていたマンションは、街から少し離れた場所にある廃墟群の中にある。一応電気や水が生きているために人が住んでいるが、それでも一歩外に出れば無人の街だ。何をしようと、それは闇と静寂に紛れてしまう。

「まさかこんな素晴らしい状況が訪れるとは‥‥‥‥ついに天も、私に味方をする気になったらしい」

 男はそう言い、ヒカルの手を離して一人、静かに間合いを空けた。
 対照的にヒカルは、キョトンと首を傾げ、不安そうに男を見送っている。

「おにいちゃん、ここでなにをするの?」
「ふふふふふ‥‥なに、ちょっと思い出話を、ね」

 男は振り向き、ヒカルにニコリと、深い笑みを向けていた。
 それは男の女性と見間違うほどの美しい顔にピッタリの表情で、もし男と知らなければ、男でも十人中九人は見惚れてしまっていたかも知れない。
 正常なヒカルならば、そんな笑顔を向けてくる相手をこそ要注意人物として、決して警戒を解いたりはしなかっただろう。しかし現在のヒカルではそうはいかない。子供その物の精神構造になってしまったヒカルは、笑いかけてくる男に笑みを返して、「うんうん」と頷いている。

「そう‥‥アレは一年前のことだった」

 男はヒカルに笑いかけながら、静かに話を始めた。





〜 一年前 〜

「むぅ、偶にはこういうのも良いかもしれんな‥‥‥‥」

 一年前のヒカルは、この日、この無人の公園にて静かに休暇を取っていた‥‥
 普段から騒々しい相棒も、事件を持ち込む自警団員もいない。通信機器の類も所持していないため、飛び込みの仕事が入ることもない。正真正銘の休暇である。
 この廃墟群は確かに誰もいない寂しい街だが、それだけに静かで、普段の喧しい喧噪から逃れたかったヒカルにとっては、絶好の休憩ポイントとなっていた。

「はぁ‥‥こうしていると、普段やっていることが虚しくなるな‥‥」

 公園のベンチで寝ころびながら、ヒカルは静かに欠伸をした。
 いっそ、このまま一眠りしてしまおうか‥‥‥‥
 そんな時だった。

「きゃーーーー!!!」
「なっ!」

 すぐ傍、恐らく公園のすぐ外で響いたであろう悲鳴が、ヒカルの脳を揺さぶった。
 反射的に飛び起き、公園を見渡した。しかし公園内には誰もいない。ヒカルは、公園の外の様子を見てこようと足を踏み出した‥‥その瞬間。ヒカルの背後、ベンチを飛び越えて現れた男が、踏み出したヒカルに激突した。

「うわっ! あぶなっ!」
「むぎゃっ!」

 ヒカルは死角からの不意打ちに反応しきれず、男と激突して倒れ込む。ヒカルは倒れ込んだ時に頭を打ち、ほんの数秒、意識が朦朧としてしまう。その間男は「イテテテ‥‥」と頭をさすりながら、ベンチの後方、森の茂みと木々を掻き分けて近付いてくる足音に舌打ちし、ヒカルの頭を引っ掴んだ。

「おいお前、動くんじゃないぞ! 動いたらブッ刺すからな!」
「むー‥‥一体何事だ」

 男は懐からナイフを取り出し、ヒカルの喉元に突き付けた。しかしヒカルは怯みもせず、冷静に朦朧とする頭では抵抗しても危険なだけだと判断し、腕を組んでジッと待ち構えた。
 すると約十秒後、茂みを掻き分けて何人もの女性達が現れる。

「あ! スローターさん!」
「む? ああ、あなた方は‥‥」

 ヒカルはポンと手を打つと、「何でこんな所に?」と質問した。現れた女性達は、皆一様にして、ヒカルがセーフハウスとして使っているマンションの住民だったのである。

「気を付けてヒカルさん! そいつ、私達のマンションに泥棒に入ったのよ!」
「ほう、盗人か」

 ヒカルは得心した。この手の廃墟には、まず自警団も来てくれない。盗んだとしても、追っ手がまず掛からない場所のため、こうした盗人騒ぎは珍しくもない。ただ今回は、滅多に捕まらない泥棒が騒ぎを起こし、追い掛けられていただけというわけだ。
 ならば、こいつを捕まえて自警団に引き渡すだけ‥‥‥‥そう思い拳を固めたヒカルは、男を取り押さえようと動き始め‥‥‥‥

「しかもそいつ、下着泥棒なのよ! さっきまでヒカルさんのベランダに干してあった下着を握ってたんだから!!」
「あれこいつのか! なんだよ畜生! 可愛らしいヤツだから十歳前後ぐらいだと思って盗ったのに!! こんな可愛い気のない年増の物じゃ商品価値だって────────」


 瞬間、ヒカルは男の腕をへし折っていた。男がナイフを取り落とす。が、ナイフが落ちることなど、誰一人として注目はしていない。そんなことに目を向けるような間などなかった。ヒカルは男の腕を折った後、腹部に肘打ちを見舞う。くの字に折れ曲がる男の体に振り向き様にボディーブローを叩き込み、体を曲げながら頭を下げ始めた所の頭を掴み、膝蹴りをお見舞いする。飛び散る前歯。男は鼻血を出しながら逃げようと藻掻くが、前後の判別も着いていない状態で逃げられるわけもない。逃走を試みる男の背中に回し蹴りを入れて吹っ飛ばし、ヒカルは地面に倒れ込んだ男に向かって、文字通り跳躍した。男の上に着地。凄まじい重圧に、男の口から「重っ!」と言う言葉が漏れる。しかしが更にヒカルの攻撃をヒートアップさせた。ヒカルはまず男の股間を踏みつけると(自主規制)し、さらに「盗んだ物を出せ!」と服を引っ剥がし、ゴロゴロと転がしてやる。しかしそれでも怒りが発散したりないのか、ヒカルは隠し持っていた銃を引き抜き、男の(自主規制)────────


 ────全てが済んだあと、男から奪い取った下着を握りしめ、「えい!」と破り捨ててゴミ箱に向けて投擲した。

「これはレオナの物で、私のではないわ馬鹿者!!」
「────────」

 しかし誰も答えない。
 後に残されたのは、とても言い表せないモノへと形を変えた、モザイク指定の異物だった‥‥‥‥




〜回想終了〜



「そ、それ以来私は‥‥ずっとこの日を夢見てきたんだ。お前を俺と同じ目に会わせないと、とてもではないが気が済まない‥‥見ろ、この顔を! これはなぁ、グチャグチャになった顔面を、医者が女顔に整形しちまったんだ! それだけじゃない、下だって‥‥‥‥うぅ、ダメだ。とても言えねぇ。自警団に捕まった俺は、あの後ゲイバーに売られて地獄を見たんだ! 貴様も、ボロボロのメッタメタにした後、男顔にして売りさばいてやるぅ!」

 むしろ売れないと思うが、怒り心頭を遙かに超えている状態の男にとっては、そんなことはどうでも良いらしい。とにかく自分の苦痛の一片でもヒカルに与えなければ収まらない‥‥そう言う顔だ。
 無論、今のヒカルにとっては身に覚えのない話である。
 しかし、ヒカルもようやく、自分の目の前に現れた男が、どういった存在なのかを認識し、声を上げた。

「だれかー! ロリコンがいるーー!」
「誰がロリコンか! もっと言いようがあるだろうが!!」

 男は更に激昂して怒鳴り散らすが、ヒカルの認識は変わらない。
 そもそも回想シーン内で、“可愛らしいヤツだから十歳前後ぐらいだと思って盗ったのに!!”などと発言している辺り、違う事なきロリコン変態野郎である。断じてただの泥棒ではない!

「こ、殺してやる!!」

 男がナイフを手に、ヒカルに突進を始めた。
 普段のヒカルならば、銃を引き抜き手持ちの銃弾を両手足に一発も漏らさずに撃ち込んで終わりである。事こういった変態に対し、ヒカルという女は一切の躊躇も慈悲も示さない。
 しかし現在のヒカルはそうはいかない。逃げることさえおぼつかない。

「お、おねーーーーちゃーーーーん!!!!!!」

 叫ぶ。もはやこれしか、出来ることなどないだろう。
 そんなヒカルに、男は真っ直ぐに突っ込み‥‥‥‥

「正義の味方登場!!」
「ぎゃっふんだ!」

 割って入ったレオナの蹴りによって、見事なまでに吹っ飛んだ。
 数十q分の助走(捜索距離)と数メートルの跳躍の勢いを乗せた跳び蹴りは、違うことなく男の後頭部に突き刺さった。男の手から離れたナイフは、虚しく宙に投げ出される。が、ナイフが落ちることなど、誰一人として注目はしていない。そんなことに目を向けるような間などなかった。男は真っ直ぐ、“後ろから蹴られた衝撃で前に吹っ飛び”‥‥‥‥‥

「「あ‥‥!」」

 目の前にいたヒカルに、思いっきり激突していた‥‥‥‥‥‥

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 ‥‥‥‥‥‥


「ほっほぅ、なるほど、そう言うことか‥‥‥‥」
「うん。そう言うことなんだよ」

 レオナとスケベ爺の医師は、目の前の二人を見やり、静かに頷き会っていた。
 二人の目の前にいるのは、先程の男とヒカルである。しかし何があったのか、二人してベッドに寝かされ、今ではスースーと静かに寝息を立てていた。

「まさか、あんな抜け方をするとはね‥‥」

 レオナは腕を組み、静かに数十分前のことを思い出していた。


 あの時、ヒカルと男は激突した。レオナの蹴りを受けて吹っ飛んだ男の勢いは凄まじく、ヒカルは男の頭突きを頭部に受け、昏倒。男も気絶し、レオナはもしや死んだのかと駆け付けた。
 と、その時‥‥‥!!

「あ‥‥!?」

 思わず声を上げる。
それも当然だっただろう。
 何故なら‥‥昏倒したヒカルの口から、例のスライムが這い出してきたのだから‥‥!!

「こ、こいつ‥‥!」

 レオナはすぐにでもスライムを捕まえようとして‥‥やめた。そもそも退治の方法を教えて貰っていない。下手に踏み込んでレオナが寄生されたら、ヒカルと立場が逆転してしまうだろう。
 静かに見守るレオナ‥‥そんなレオナの逡巡を余所に、スライムはズルズルと体を引きずり、男の口内に侵入した。

「アーー‥‥‥‥‥‥」

 別にそっちは助ける義理もないや‥‥
 レオナはそう結論すると、スライムが完全に男の中に入ったのを確認し、ヒカルの介抱に取りかかった。


「つまりじゃ、よりよい餌を求めて、スライムが移動したんじゃろ。怒りに身を任せていたこの男の脳内物質は、御馳走じゃったろうからな」

 医師はそう診断し、男を引き取ってくれた。
 元より、ヒカルのために治療の用意はしてあったのだ。仮死状態にするための危険なものだが‥‥レオナは躊躇なく医師に任せて、診療所を後にした。

「まぁ、生命線だけは長そうだったし、大丈夫でしょ」
「う‥‥ん?」

 レオナがそう呟いた時、背中に背負っていたヒカルがゴソゴソと目を覚ました。

「ン‥‥あれ? 私‥‥ケイブマンは!?」
「うわっと! あ、暴れないで!!」

 背中で暴れ出すヒカルを、レオナはどうどうと宥めに掛かった。

(大人しかった方がよかったかな?)

 しかしそれでは、レオナの妹にはなれても相棒にはなれない。
 やはりヒカルは、このままで良い‥‥

「レオナ、あの後、一体どうなったのだ」
「え? あの後って?」
「だから‥‥私が襲われた後のことだ!」

 ヒカルは、どうやらケイブマンが弾け飛んだシーン前には気絶していたらしい。まぁ、あんな特殊なプレイ寸前ならば意識も飛んで当然か。

「あの後は‥‥」
「あの後は‥‥?」
「まぁ、色々あったんだよ」

 言葉を濁すレオナ。レオナの頬が紅く染まり、そこはかとなく嬉しそうな表情を浮かべる。それを見て、ヒカルの不安感が上昇した。

「な、何があった? あの後何があったのだ!」
「ちょ、っく、首が!」
「言わぬか! 一体何があったのだ!?」
「それはボクの口からは‥‥」

 あくまで口を濁らせるレオナの首を絞めながら、ヒカルは涙目になって問い質す。
 その顔を見て、“こっちでも可愛いじゃないか”と、レオナはほくそ笑むのだった‥‥‥‥












☆☆参加PC☆☆
0536 兵藤 レオナ
0541 ヒカル・スローター



☆☆あとがき☆☆
 ヒカルをロリにしたかった。
 半ば本気でそう思った、メビオス零です。
 今回の話ですが・・・・長い。そしてヒカルが可愛い。でも体が元のままだから、想像してみると怖いですね。外見が年齢道理の六十歳ぐらいだった‥‥悪夢です。よくぞ生き残ってくれましたよレオナさん。
 今回は、ギャグパートが多めです。しかし男は全員変態か。自分は男には容赦しないですよ。へっへっへっ(悪)
 さて、では、いつものように、そうそうにしめさせていただきます。
 今回の執筆は、私もずいぶんと楽しませて頂きました。作品に対するご指摘、ご感想は、送って下されば幸いです。貰えるだけでも励みになりますので、よろしくです。
 では、今回のご発注、誠にありがとう御座いました。これからもよろしくお願いします(・_・)(._.)