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<PCパーティノベル・セフィロトの塔>


ブラジル【都市マナウス】休日はショッピングに
 コスパへGo!!

 ライター:斎藤晃





 アマゾン川を下ってはるばると。長い船旅だったが、ようやくついたな。
 ここがブラジルのアマゾナス州の州都だったマナウスだ。
 審判の日の後の一時はかなり荒れたが、今はセフィロトから運び出される部品類の交易で、かつて魔都と呼ばれた時代の様ににぎわっている。
 何せ、ここの支配者のマフィア達は金を持ってるからな。金のある所には、何でも勝手に集まってくるものさ。
 ここで手に入らない物はない。欲望の赴くまま、何だって手に入る。
 もっとも、空の下で思いっきりはしゃげる事の方がありがたいがな。何せ、セフィロトの中じゃあ、空も拝めない。
 お前さんもたっぷり楽しんでくると良いぜ。



   ◆



 その船着場で貨客船から飛び出すように降り立ったリマことマリアート・サカは『RK』と書かれたキャップのロゴを後ろに向けると、灼熱の太陽の光を全身で浴びるように両手を広げて大きく伸びをした。
「んーーーっ」
 ほっそりとした体躯に黒のレザーベストと同じくレザーの短パンをぴっちり貼り付け、そこから出した、透き通るような白い肌を惜しげもなく日差しに晒している。
 日焼けでもしたらどうするんだ、と白神空は内心気が気でない。勿論、小麦色の肌になったリマだって可愛いに違いないのだが、綺麗に日焼けするならともかく、ただ真っ赤になってしまうだけだったりしたら目もあてられない。ひりひりと痛む素肌に服を着るのも嫌がるかもしれないが。そんな据え膳を前に手を出せなくなるなんて。あってはならない。今日の夜にはいろいろ予定も控えているのだ。
 だから空は慌ててリマの肩にUVカット加工のショールをかけた。赤道直下のこのブラジルに降り注ぐ紫外線はお肌によくない。
 それを別段嫌がるでもなく、船旅で凝った体をほぐすようにストレッチを始めたリマの横顔を盗み見る。それがいつになく楽しそうな笑顔なのに、空は満足げに目を細めた。紅く塗れた唇の端が無意識に綻ぶ。
 いつもは動きやすいライダースーツなどを好んで着ている空だったが、今日は清楚な白藍のツーピースをそのスレンダーなボディーに纏わせていた。色気は少し抑え気味に。快活で黒尽くめのリマに合わせた装い。腰まであるはずの長い銀髪は、船旅の暇つぶしにリマに編みこまれて器用にまとめあげられてしまっていた。
 天気は晴れ。気温は昼に向かって上昇中。だけど乾いた風が涼やかに木間を駆け抜けてくれるおかげで、今すぐ冷房を求めるような暑さではない。かっこうのデート日和。
 空はつばの広い麦わら帽子と日傘を取り出す。ブラジル北部アマゾン川上流域に聳え立つ高層立体都市イエツィラーの入口に作られた都市マルクトでは無用の長物も、ここでは必須アイテムだ。
「はい」
 キャップを取りあげ、麦わら帽子をリマにかぶせて自分は傘をさした。本当はリマに傘をささせたいのだが、嫌がりそうなのでここは妥協。自分がさりげなく太陽の側に立って日陰を作ってやればいい。あまり恩着せがましくならないように。
 振り返ったリマの期待を含んだ眼差しに笑みを返す。
「行こうか」
「うん!」



   ◆



 思えばここまで、長い長い苦難の道であった、と空はぼんやり思う。
 出会ってからここまで。陽の光も月の光も差し込む事のないセフィロトの塔に、何度となく『たまには日光浴でもしようよ』などという誘い出しを敢行し『塔の外に出るだけで充分だよ』と、色気のない返事を同じ数だけ返されてきた。工場が忙しいからと近場で済まされ、実際留守の事も多かったけど遠まわしに敬遠されていたような気さえする。
 第一、多忙という割りにヘルズゲート内探索の時だけは毎回二つ返事だった。もしかしてやっぱり避けられてるんだろうかと凹んだ事も数知れず。そう。例えばあのカーニバルの日以来。やっぱりあの時、リマの持つ接触テレパスに下心は筒抜けになっていたのだろうかと思うと頬が引き攣るのを如何ともしがたいような。警戒されているのだろうか。
 おかげでデートと言えばおおよそデートらしからぬ場所ばかりに向かう事になった。甘いひと時なんてのも殆どなくて、毎回命からがら戻ってきたり。
 でもきっと、その地道な努力――『愛のつり橋効果作戦』――が、やっと効果を発揮してくれたのだろう。
 今日やっと念願叶ってリマを都市マナウスまで連れ出すことに成功したのだ。
 実は本当は明日ここで、ノウコム整備工場絡みの大事な商談があったりするんだけど。そんな事情は聞かなかった事にする。大体、明日来る予定だったのを1日前倒しにして一緒に付き合ってくれたのだから。脈なし、なんて事はきっとない。よね。少し弱気。
 空は傍らを歩くリマをチラリと見やった。
 その耳に揺れる赤い石の付いたピアス。以前、体術を教えて貰う時に見立てたピアスだ。それを付けてくれている。それだけでも、充分脈ありだと。
 今日は目一杯女の子を楽しむのだ。
 アマゾナス州州都マナウスは降り注ぐ太陽というその明るさだけでなく、規模、人口、街並み、全てに於いて都市マルクトを凌駕し、歯牙にもかけない。戦禍の爪痕を随所に残すマルクトとは違い、復興が進んでいる分、審判の日以前を彷彿とさせるようなビル群。オフィス街。繁華街。スラム街。
 そこここに並ぶ店もその品揃えも桁違いで、目移りさせられる。
 しかし空はそんな店々には脇目も振らず、一件の店のドアを叩いた。
 マルクトではいくら探してもなかった店。ハイカラ(死語)でモダン(死語)で無駄に綺麗で可愛い街並みに佇む女の子のための店。
「ここ……は?」
 リマが訝しげに店内を見渡した。こういう店はどうやら初めてらしい。物珍しげにきょろきょろしているが、商品のようなものは置いていない。代わりに受付カウンターが一つ。小さな町医者の待合室のようにも見えるが、病院に料金表なんてあまり見かけない。そもそも自分たちが病院に来る理由もない。料金表には聞いた事もないような言葉が並んでいる、とばかりに怪訝を貼り付けて睨めっこをしているリマを横目に、空はカウンターの向こうの女性に声をかけた。
「予約しておいたんだけど」
 と、IDカードを見せる。店員は慇懃に頭をさげて愛想のいい笑みを返した。
「はい、お待ちしておりました」
「素材はいいでしょ。可愛く仕上げてね」
 そう言って空は、まだ料金表と睨めっこをしているリマを振り返る。
「はい。畏まりました」
 店員が笑顔で頷いて、2人を奥の部屋へと促した。
「空?」
 わけがわからないといった表情のリマの背を押して、店員に案内されるままに奥の部屋へ進む。個室で簡単なカウンセリング。ちんぷんかんぷんといった顔のリマの代わりに空が受け答え。
「あたしも、同じコースで」
 なんて付け加えて、リマの服を下着まで全部脱がせる。ぽかーんとしているリマに薄手のピンクのバスローブを着せて、空もそれに着替えた。
 更に奥の部屋に案内されて、ベッドにうつ伏せに横たわる。再び真っ裸。
「な……何?」
 不安そうなリマの顔。
「楽しいこと」
 隣で寝そべって、アロマオイルの説明を聞きながら小声でフォロー。眉を顰めたリマだったが、それでもいざマッサージが始まれば、心地よさに強張った表情は瞬く間にほぐれた。
 気持ちよさそうなリマの、どこかうっとりとした顔に満足げに空も極楽の笑顔を零す。戦いの日々に疲れた体が癒され生き返った。
 余程気持ちよかったのか、うたた寝をしてしまったらしいリマを起こさないように場所移動。美容院のような部屋で鏡を前にメイクアップ。自分はともかく、リマは滅多に化粧なんてしないから。
 とびっきり綺麗に、なんて注文に、リマに薄化粧を施していく店員の作業を見ながら、自分にも。
 化粧を終えて、傍のパネルを操作している頃、隣の椅子に座っていたリマが目を覚ました。
 鏡越し、目の前の鏡に映る自分に面食らっているのかリマのビックリ眼。挙動不審で辺りを見回す彼女に空が声をかける。
「目、覚めた?」
「あ、うん」
「ね、ね。どれがいいと思う?」
「どれって?」
 空はパネルをリマの方へと移動させた。そこに映っているのは色とりどりの模様。薔薇や蝶や氷の結晶、etc...
「何これ」
 パネルを覗き込みながらリマが尋ねる。
「ネイルアート」
「ネイル…アート……」
 反芻するように呟いて。
「ネイルアート!?」
「そ」
「そんなのした事ないよ」
「大丈夫だよ」
「そうですよ」
 なんて、店員が2人の間に入ってくる。
 どんな風になるのか想像も出来ないでいるらしいリマに、店員が自分の爪を見せた。マリンブルーに魚が泳いでいる。パネルに映ったものがそのまま綺麗にプリントアウトされていた。
「あ、可愛い……」
「でっしょ。リマもやってもらおうよ」
「うん」
「どれがいいかなぁ……」
「あ、じゃぁ、私が空のを選んであげるよ」
「え? ……じゃぁ、あたしはリマのを選ぶね」
 なんてしばらく2人でパネルと睨めっこ。数千種類あるとさすがに迷うわ迷うわで、結局。空がリマに選んだのは、白とピンクのベースに、フランボワーズのような可愛い赤の薔薇。リマが空に選んだのは、蒼がベースのアゲハチョウ。
「全部の指を違うデザインにも出来ますよ」
 なんて店員が勧めてきたが、それは2人で丁重にお断り。目移りしすぎて、なかなか決められないからだ。
 数分とかからずに爪に模様がプリントアウトされる。
 かくて全てのコースを終了。
「な…なんか変な感じだね」
 店を出て歩き出す。リマが言った。
「何が?」
 なんて、本当はわかっているけどそらっとぼけて聞いてみたり。化粧をしたり、ネイルアートをしたり、普段しない事をしてるから、周りの視線が気になってなんとなく落ち着かないのだ。
「……うん……」
 うまく説明できなくて困ったように、或いは周りの視線が気になって照れたように俯くリマが可愛いから。
 ああ、もう、見せびらかしたいような。勿体ないような。
「お昼にしよ」
「うん」
 美味しいものを食べて、ウィンドウショッピングを楽しんで、時々衝動買いをして、れいのものを受け取って、陽が暮れた頃、予約していたホテルにチェックイン。
「夕食はここのレストランに行くの?」
 ツインルームのベッドに腰を下ろして、今日買ったものをあれこれ広げながらリマが尋ねた。
 空は首を横に振る。
「ううん。パーティーがあるから」
 なんて、シレッと答えながら、鏡台の前で編まれた髪をほどいている。
「パーティー?」
「そ」
「え? そんなの聞いてないよ。パーティーって……こんなかっこでいいの?」
 場合によっては正装でないとまずいのでは。なんて慌てるリマに、空は髪をブラッシングしながらさらりと言ってのけた。
「うん、ダメ」
「……パーティーなんかに着ていく服なんて持ってきてないよ」
「大丈夫。用意してあるから」
「用意?」
「うん」
 そう言って空は、先ほど街で受け取った特注品の『れいのもの』をリマのベッドに投げ出した。
 リマが紙袋から箱を取り出し中を開ける。
 白いヒラヒラのレース。
「……これ?」
 リマは広げてみた。
「うん」
「エプロンドレス?」
「うん」
 それも、パンツルック仕様。
「もしかして接待する側?」
「ううん」
「……何のパーティー?」
「コスプレパーティー」
「…………」
 半ば絶句しているらしいリマを促す。
「はいはい、着替えるよ」
「空もメイドなの?」
「違うよ」
「…………」
 何か言いたげに口を開きかけたリマだったが、結局観念したように立ち上がった。
 エプロンドレス。ニーソックス。ガーターベルト。カフス。などなど空が順に並べて行く。
 さて、どれから着せてあげようか。
「コスパってどこであるの?」
 尋ねるリマの服のボタンをはずしながら空が答える。
「このホテルの2階にあるホール」
「…………」
 全部脱がせて今度はリマの後ろに立つと、そのまま一緒にベッドに座らせて、後ろからニーソックスを穿かせてやる。
「ま、いっか」
 どこか投げ遣りにも聞こえなくもないリマの呟き。だけどそれに続いたのは。
「せっかくだし、楽しまないとね」
 そんな笑顔。



   ◆



 目を疑うような奇抜な衣装の人々に唖然。メイド衣装の自分なんてまだ可愛いものだと別の意味で恥ずかしくなる。それはエレベータホールを待っていた時から感じていた事だった。ホテルには、このパーティーに参加する人たちが他にもいっぱい泊まっているらしい。
「すごっ……」
 怖気づくリマを。
「行こ」
 豹柄ボンテージ姿の空がにこやかに促す。気後れしながらリマは後に続いた。
 豪華な料理の並ぶビュッフェ。ホールの半分を使ったダンススペースはカーニバルさながらの派手さ。奥にあるのは特設ステージ。写真撮影用。撮影はこのエリア内でのみお願いします、と大きく貼り紙がされている。
 それらを見やりながらリマはシャンパンを取った。ブラジルでの飲酒は18歳以上になってから、なんて言われていたのは審判の日以前の話し。今ではヨーロッパ文化の影響もあるのか、18歳未満でもアルコールを嗜む者は多い。かくいうリマもその一人だ。
 シャンパンを手にホールの片隅に立っていると、オードブルを取り分けた皿を持って空が近づいた。
「はい。リマの分」
「ありがと」
 なんて2人で舌鼓。さすが高級ホテルの三ツ星料理。
 空は白ワインのグラスを傾ける。酒豪の彼女は多少の度数じゃまったく動じないが、リマはそうでもない。あまり飲みすぎるとすぐに酔ってしまうので、2杯目はソフトドリンクをとジュースバーへ歩き出す。その肩を誰かが叩いた。
「すみません。1枚いいですか?」
 カメラを掲げて男が言う。見るからにオタク系。何のコスプレをしているのかは不明。
「え……? えっと……」
 返答に窮するリマの代わりに空が割って入った。
「可愛く撮ってね」
「はい!」
 男が勇んで答える。
「…………」
 半ば以上呆気にとられるリマの背を押して撮影スペースへ移動。
 その時突然、ダンススペースの方から叫び声。
「盗撮よー!!」
 ざわつく会場。動きにくいかぶりものを着ていた一団が犇く一角。慌てた勢いで右往左往。引っかかる。バランスを崩す。転ぶ。巻き込まれる。ドミノ倒し。
 阿鼻叫喚し始める会場。人々の合間を縫って逃げる盗撮男。
「待てーーーーー!!」
 突如始まる捕物帖。空とリマは顔を見合わせる。
「行く?」
「勿論、行くでしょ」
 両者にんまり。
 既に動き出している数人の影。同業者ってやつだろうか。いずれにせよ腕に覚えのある者たち。
「生身の人間相手って、手加減難しそうよね」
「せっかく覚えた体術の見せ所じゃない?」
「それもそっか」
 なんてホールを出る。廊下を駆ける盗撮犯。それを追う面々。完全に出遅れた形の二人。
「追いかけるの大変そうだし、先回りしようか」
「どこに?」
「うーん……玄関?」
 リマがアームレットをはずして言った。
「なるほどね」
 肩を竦めつつ空も納得顔でフロントへ向かう。
 ホテルから出るには、正面玄関、裏口、地下駐車場出入口、非常口、窓のいずれか。正面玄関以外なら、盗撮犯を先に追いかけた連中が捕まえられるだろう。
 正面玄関から逃げるなら、きっと―――。
 案の定、盗撮犯を追っていた連中が、犯人を見失ったように右往左往し始めた。
 事件はコスプレパーティーで起こったのだ。変装なんてお手の物に違いない。
 一人の女性がロビーを横切っていく。スカーフを頭から被り、大きなボストンバッグを手にした妙齢の婦人。
 リマがさりげなく婦人に近づいた。肩をぶつける。接触テレパス。
「すみません」
「いえ」
 野太い声を裏返らせたような声が短く答える。
「空」
 リマが目配せ。
「了解」
 反対側から空が近づく。愛想笑い。
「盗撮は行けないなぁ」
「何のことでしょう」
 とぼけようとする婦人。
「残念でした」
 空が婦人の腕を掴む。
「くっ……」
 裏声が戻った婦人ならぬ盗撮犯の男が、空の手を振りほどこうともがく。
「ふっ。甘い!」
 体落とし一本。寝技に持ち込み、犯人確保。
「観念しなさい」
 周囲からは、鳴り止まぬ拍手。


 そんなこんなでパーティーは無事再開。
 空とリマは犯人を捕まえ一躍ヒーロー。
 女豹とパンツメイドは後にコスパで語り継がれ、やがてジャパニメーションで活躍する事になるのだが、それはまた、ずっと末来のお話。
 まずは一先ず。


 ――― 一件落着。


「ホテルのオーナーがスイートルームを用意してくれるって! 甘い語らいしなくっちゃ」

 空が意気揚々とリマの首に抱き付いた。

「それスイートの意味違うから……」





【大団円】



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┃登┃場┃人┃物┃紹┃介┃
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【0233】白神・空


【NPC0124】マリアート・サカ


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┃ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 ありがとうございました、斎藤晃です。
 楽しんでいただけていれば幸いです。
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