|
まいごのおこさまをさがせ 〜 feat. SATYR HEART
〜お店のなかで。
看板が気になった。
そう、看板なのだろう。多分。あまり自信は無いが――何らかの店らしいその建物に提げられている、ボロ板と表現しても誰からも文句は言われなさそうなその板がクレイン・ガーランドの視界に入ってくる。
板の表面に書かれていたのは、【SATYR HEART】とだけ。
特に何の店だとも説明は無い。
場所はセフィロトの塔、第一階層の入口周辺区画こと都市マルクト内にある歓楽街。ヘブンズドアから少し離れたところ。歩いていて偶然気に留まったその店とその看板。
…看板があがっていると言う事は営業はしているのでしょうか。
そう思い、興味本位で中を覗いてみた。
実際に足も踏み入れてみる。
誰も居ない。
店内入ってすぐ、中の様子は…何と形容するべきかいまいち迷った。取り敢えずビリヤード台。それからそこかしこに前世紀の娯楽道具がちらほらと置かれていて――それ程広い訳ではないがちょっとしたアンプラグドな屋内アミューズメント施設の如き様相でもある。店舗建物として元々はカウンターバーでもあったのか、はたまた店主の趣味なのか――そんな作りの棚にぽつぽつと酒など並んでいたりもする。
ともあれ、実際店内に入ってみてもクレインには何の店だかよくわからない。
取り敢えずその場にある物から考えて、遊び場か酒場か。そんなところだろうとは思うのだが…。
と、入ったところで悩んでいると、客の来店に気付いたか奥の部屋からひょっこりと一人の青年が現れ――おや、新顔さんだね? とまず声を掛けてきた。眼鏡を掛けた穏和そうな東洋人――中華系だろうか。襟の立てられた黒服を着ており、真っ直ぐの長い髪を頭後中程で束ね、そのまま垂らしている。
にこやかに笑いかけられた。
「…いらっしゃい。【SATYR HEART】へようこそ」
「こんにちは。お邪魔しております。…貴方が御店主さんですか?」
「そうだよ。私がここ【SATYR HEART】の店主、狼・西虎」
宜しく。
「貴方は…ここに来たと言う事は、花を愛でたくて来たのかな?」
「? …花、ですか?」
「一見さんには酒と情報を。花を紹介するのは三度目以降になっているんだけどね?」
さらりと続ける店主の科白にクレインは一瞬何の事かと考える。
と、奥の部屋から笑いさざめくような複数の女の声がした。
すとんと腑に落ちた。
「…そういう店なのですか」
少し驚く。
と、西虎と名乗った店主は慣れた感じの『苦笑』で応えた。…いつも言われる事、そして同時に、元々そう思われる事をわざわざ狙って接客しているかのような態度。
甘やかな軽い余裕と抜け目なさ、若いながらも確かな貫禄が垣間見えるその態度は――まさに娼館の主に相応しいような。そんな風に見える。
が。
…次に続けられた言葉は少々それを裏切った。
「んー、まぁ、表向きは娼館に見られているけどね。実際のところは派遣所みたいなものなんだ」
職員は私を除いて皆女性ばかりだが、腕は確かだよ。
「それで、花、なんですね」
「そう。でも一見さんにはうちの職員のレンタルはしていないんだ。最低三回は顔を出してもらわないとね?」
「と言う事は…お客さんの人柄を見極めてからでないと派遣できない、って事ですか?」
「その通り。ある程度顔見世してもらわないとうちの職員は出せない」
それが、『三回』の理由でね。
でも…貴方はどうやら、そういう用件で来たのでは無さそうだね?
「…あー、すみません。通りすがりにここの看板が気になりまして、何のお店かなと思って入って来てしまったところなんですよ」
「ふぅん…そうなんだ。ま、ここ【SATYR HEART】で取り扱っているのは酒と情報と派遣――仲介の三つ。…これも何かの御縁。折角来たんだからここで顔を繋いでおくのも悪くないと思うけど、どうする?」
…改めまして。何か御注文は、ありますか?
■
では、お酒など頂いてみる事にします。
気まぐれでそう決めて、クレインは西虎にそう頼む。取り敢えず勧められたのはホワイト・ウィングス。ではそれをとこれまた気まぐれであっさり決める。受けた西虎はカウンターの中に入ると、ジンとホワイトペパーミントのボトルを取り出し――慣れた手付きで客に勧めたそのカクテルを作り始めた。出したボトルの中身をそれぞれ適量シェーカーに注ぎ入れ、振る。クレインはその手際をのんびり拝見。…これもまた酒場のカウンターに於ける楽しみの一つ。
やがて出されたホワイト・ウィングスのグラスを傾けつつ、クレインはまた店内の様子に目を向けてみる。真ん中に置かれたビリヤード台をはじめ、壁にはダーツの的、各種テーブルゲームやパズルのような物がディスプレイの如くあちこちに置いてあったりもする。
「お酒と情報に仲介、のお店にしては色々と興味深い物が置いてありますね?」
てっきり、こちらの物で遊ぶようなお店なのかとも思ったりしました。
「はは。これらは私の趣味で。うちの職員には殆どガラクタ扱いされてるものなんだけどね。たまに気が向くと遊んでる事もあるけど――良かったら、何かやってみるかい?」
「良いんですか?」
「構わないよ。…何が良いだろう。ビリヤードでもやってみる?」
言いながら西虎はカウンターから表に出てきた。これまた壁際にある台から棒――ビリヤード用のキューを一本取り、先端のタップにチョークを塗り付けている。そしてビリヤード台に向かうと、転がしてあるボールをラックで九個並べていた。白い玉――実際に撞く手玉を取り上げ、にこり。
「まずはナインボールでも――と。その前に、やり方はわかるかな?」
「…宜しければ一から教えて頂けますか?」
■
コン、と軽快な音がする。クレインのショット。西虎に教わった通りの丁寧なフォームで手玉を撞いている。
一度クッションにバンク――壁に当たって跳ね返り、狙った三番ボールがころりとポケットに落ちた。
…結構筋が良い。
「こういう感じですか?」
「なかなか上手いね。次は四番だけど…どうかな?」
と。
そんな調子で和気藹々としているところで、何やら奥の部屋の様子が変わった気がした。何かばたついているような、そんな気配がする。少し間を置き、奥の部屋から一人の艶やかな女性の姿が見えた。…極東の着物をアレンジしたようなセクシーな軽装に、長く豊かな紫の髪を頭後高い位置で纏めて垂らしている女性。クレインたちの居る表の部屋に遠慮がちに顔を覗かせて、ちょっと、と憚るように西虎を呼んでいる。
西虎はその姿にすぐ気付き、ちょっとすみません、とクレインに断りを入れてからその女性の元に歩み寄る。
気にしてしまっては悪いかと思ったが、クレインの耳にも会話が漏れ聞こえてきた。
「…あのね、誰も気付いてなかったみたいなんだけどさ…」
「はぁ…。…。え、キース君が居ない? いつから?」
「それがわからないんだよ。紛らわしいのが居たから余計気付かなかったってのもあるかも」
「うーん。キース君の姿は私も見ていませんが…ともあれ今は接客中なので…」
と、考え込みながら西虎が言ったところで。
西虎の正面で話している女性の視線が、考え込む西虎を通り越しその後ろに行っていた。
その視線の先に居たのは――いつの間にかそこまで近付いて来ていたのは、クレイン。
「私が口を挟むのも差し出がましいとは思いますが…何かあったんですか?」
「あ、いや、貴方の気を煩わせるような事じゃなくて…ああでも心配です。済みません、ゲームが途中になってしまいましたが取り敢えず今日のところはお引取り頂けませんか? どうやらうちの子が一人、迷子になってしまったみたいで…」
捜さないとなんですよ。と、西虎が申し訳無さそうにクレインに言った時点で――クレインは今居る室内をまた見渡している。
「この部屋には取り敢えず私たちの他には誰も居なさそうですが…何でしたらその迷子さん捜し、私もお手伝いしますが? 私は元々お客として来た訳でもないですし。…結果としてお酒を頂いたりはしましたが」
勿論、御迷惑でなかったらですが…。
「…いや、迷惑なんてそんな…けれどお客さんにそんな事をさせる訳には…」
「お気遣いなく。困った時はお互い様でしょう?」
「いや、ですが…」
と。
西虎が渋っているところで。
その西虎を呼び付けた色っぽい女性の後ろから、砂色を纏う少年がこちらの様子を伺うように顔を覗かせていた。
…クレインにとっては見覚えのあるその顔。
見合ってお互い、きょとん。
「…おや、エリニュス君」
「…やっぱりクレインさん?」
聞こえてくる声からして何となくそんな気はしてたんですが。
砂色を纏う少年はそう呟く。
と、西虎は砂色の少年――エリニュス・ストゥーピッドとクレインの姿を改めて交互に見た。
「…お知り合いなんですか?」
「ええまぁ。…ってこういうお店に来る事あるんですかエリニュス君」
「と言うか…えーとですね、取り敢えず店の客として来てる訳じゃないです。ロン兄ちゃ…じゃなくてブラッドサッカーさんの伝手で彩麗さんたちのところにちょっとお邪魔してただけの事で。…本人は今爆睡中ですが」
「そう。紛らわしい事に。…多分それで気付くのが遅れたんだよ」
キースの坊やが居なくなってる事に。
…キースもあんな感じで気が付くと良く寝てるから。
そこまで言うと、はぁ、とこれ見よがしに色っぽいそのお姐さん――彩麗は嘆息している。
今度はクレインが苦笑した。
「…ってブラッドサッカーさん、何処に居ても相変わらずなんですね」
では、私の事は店の客ではなく彼の代わりの人手、とでも思ってやって下されば――あまり気にならないのでは。
あっさりとそう続け、クレインは西虎と彩麗の二人へと、にこり。
…いつの間にか店の客としてではなく中に入り込んでいる。
■
居なくなったのは、キース、と言う少年らしい。
西虎や彩麗にとっては家族のような存在で――と言うかそもそもここ【SATYR HEART】の職員に当たる面子は皆家族のようなものになるらしいので、このキースと言う少年は彼らにとって末弟のような立場になるとの事。
第一印象として、のほほんとしていて非常に危なっかしいとか。この子なんだけど、と皆で撮ったと言う写真も見せられたが、外見だけなら十四と言う年相応…と言うか少し大人びて見える気さえする。が、精神年齢はその容姿に反してかなり低いらしく、むしろ小学校低学年程度と見た方がいいらしい。…だからこそ少し居なくなっただけでも心配される。
瞳の色は右が青で左が緑のオッドアイ。どちらの色も鮮やかなのが人目を引く。肌は褐色で、髪の色は肌の色より淡いベージュ系。濃い茶のノースリーブに黒の上着。…今現在着ているだろう服装もその写真と変わらないらしい。
一緒に写っている人物との対比で考える限り、どうやら背は高め。
となると、隠れられそうな――その気がなくとも隠れてしまいそうな場所は限定される気がした。
曰く、彩麗が西虎に声を掛ける前の時点で、奥に居た皆でざっと店内を捜してみたとの事だが、それでも見付からなかったらしい。
なら、外だろうかと思い、皆で手分けして外に捜しに出る事にした――捜しに出ようとしたところで。
クレインがちょっと引き止めた。
店内を一通り探したとは言え、見落としがある可能性はないかと。
そんな訳で、彩麗と西虎、それとやはりここの職員である無愛想な少女――美星の三人が取り敢えず表に捜しに出、同じく職員な少女――日系らしい斎条・るかとアラブ系らしいシャラザード、それと偶然居合わせたエリニュス、お手伝いを申し出たクレインの四人でもう一度店内を捜してみる事にした。
…ちなみにブラッドサッカーは前述の通り爆睡中な為、何の戦力にもならない。
クレインはキースの不在に気付く直前、ちょうどリネン類の回収をし終えたところだったらしいと言う少女二人の内片方――るかを捕まえてまず話を聞いてみた。
と言うか、まずは闇雲に捜すのではなく取り敢えずその場に残った四人で何処を捜したか捜してないか、捜したところ以外で隠れられるような場所はないかどうか考え、整理してみる。
「――…リネン類の回収をし終えたところだったって事は…空いてるお部屋については既に確認済みって事ですよね?」
「あ、はい。…でもベッドの下とかまではまだ見てないですけど」
そういう変なところに居る可能性もあるかも、とるかはひとりごちる。
エリニュスがクレインを見た。
「一応キースさん本人の部屋も確認させて頂きましたけど、居ませんでしたし」
シャラザードもそこに続ける。
「それから他の皆の部屋にも居なかった、って…るかさん仰ってましたよね?」
続けられるなり、その通りなのでるかは頷く――頷きながら、あ、と声を上げた。
「…三階、確認してないかも」
「三階ならさっき一応って彩麗さんが行ってましたよ?」
「あ、そっか…。じゃあ二階のベランダ…ってさっき美星がカーテン開けて見てたわね」
「ユニットバスにも居ませんでしたし…あ、一階表の部屋のカウンターの中とかなら…ひょっとしたら隠れられそうかなって思うんですけどどうでしょう」
「一階のカウンターは…私、さっきお酒を頂いたんですが…西虎さんの様子を見るに誰も居なかったんじゃないかと思いますが。今こうやって話してて候補に出る以上、一応見直した方がいいかなとは思いますけど」
「うーん。じゃあまずは空いてる部屋からもう一回見直して見る事にしましょっか」
「そうしましょう」
眠るのがお好きな方なら、そういう場所の方が静かで良さそうな気もしますし。
■
そんな訳で、改めて店内残留組は捜索を開始する。
一階奥の空き部屋に、表の部屋。三階、オーナーの部屋もざっとだが確認させてもらう。ちなみに皆が今話をしていたのが二階のリビングで、現在進行形でブラッドサッカーが呑気に寝こけているのもここ。職員皆の住み込み部屋があるのも同じこの階であり――要は二階は職員の――と言うより【SATYR HEART】の皆さんのプライベートな生活空間になっている階になるらしい。
「…やっぱり外って事かしら」
はぁ、と溜息を吐きつつ、るかは一階空き部屋の一つから出てくる。
こっちも居ないみたいですー、とエリニュスが一階表の部屋から奥の部屋に戻って来た。
クレインは二階から一階屋内への階段に顔を出し、そんな一階からの声を聞いて、うーんと唸っている。
と。
一階から二階に上る階段の脇、リネン類の置き場が不意に気になった。
暫しじーっと見下ろしてみる。
クレインの様子が少し妙な事に気付いたのか、その後ろから顔を出したシャラザードも何も言わずに暫し様子を伺ってみる。…彼女は目は見えないのだが、その分他の感覚は鋭い。
………………クレインの視線の先で何か、もぞり、と動いた。
………………殆ど同時に、シャラザードの耳にも微かな衣擦れの音が届いた。
………………るかもエリニュスも、クレインの見ている場所に気が付いた。
「…」
「…」
「…」
「…」
まず、るかとエリニュスがリネン置き場に駆け寄り、積んであるそれらを数枚引っぺがす。と、その中に埋もれて幸せそうに丸くなって眠りこけている、捜されていた当人の姿があった。
一同、脱力。
「…キース」
「…んー……うにゃ? るか?」
「…るか? じゃないでしょ。何処で寝てるのよ、もう」
皆心配したんだからね。
「そうですよ。キースさんが居ないって外にまで捜しに行ってるんですから」
彩麗さんとか西虎さんとか美星さんとか。
指折り挙げつつ、はぁ、と肩を落としつつ溜息のエリニュス。
目覚めて早々に二人から言われ、キースはそのまま縮こまっている。
「う…ごめん…つい…」
それはまぁ、洗い立てのリネン類に埋もれてたと来れば…ふかふかで気持ち良くてつい寝こんでしまったとかそういう理由なのだろうが。
まぁまぁ、とクレインの後ろから宥めるようにシャラザードが階下に声を掛けている。
「…どちらにしても、無事に見付かって良かったです」
キースさんが。
そう言い、にこり。
受けてクレインも頷いた。
「確かに。御無事で何よりです。…でも、次からは――お休みになるのなら、ちゃんとお休みするべきところでお休みなさっていた方が良いですよ」
皆さんから離れて何処かに行く場合は、誰かに声を掛けておいた方が良いでしょうし。
貴方にはちゃんと貴方の事を心配してくれる人が居るのですからね。
「…うん。わかった。そうする。…ところでお兄さん誰?」
と、キースは素直にクレインの言を受け入れ頷きつつも、小首を傾げてそこで誰何。
…まぁ、今初めて会った以上は当然の疑問ではあるのだが。
■
それから。
外に捜しに出た三人それぞれに無線で連絡を取り、まいごのおこさまが見付かった旨知らせて暫し。
まいごのおこさまを捜していた皆の姿が【SATYR HEART】店内、一階表の部屋に揃っていた。
…そして今、何故か一部の人々が固唾を飲みつつ床にへばり付いている。
よくよく見れば何かテーブルゲームのコマのような、手の中に収まる平べったい長方形――と言うかサイコロのような模様の正方形が二つくっ付いているそのコマ――ドミノ牌を一つ一つ注意深く立てていた。それぞれ少しだけ――倒れたら連鎖的に隣に立てた牌も倒れるくらいの間隔を空け、列を作って並べるようにしている。
まぁ、要はドミノ倒しを試みている状態である。
…リネン類に埋もれて眠っていたキースを見付け、起こして――外探索組も戻って来てから。ほっとしたのと心配したので【SATYR HEART】の皆からキースがもみくちゃにされた直後、取り敢えず一段落着いたところで――クレインがそのキースに何か遊び道具で御一緒に如何ですかと誘ってみた為この状態になっている。
何かいい玩具ありますかねと西虎に聞いて見たところ、少し考える風を見せてから――では、と提示されたのがドミノ牌。それでドミノのゲームではなくドミノ倒し。…確かにこれなら精神年齢がやや幼いキースでも難しくないし単純に楽しめる。そしてドミノ牌の並べ方――並べる図柄や仕掛けに凝るなら結構大人でも楽しめたりする。
そして、折角だからと何故かその場に居た皆もお付き合いして一緒にドミノ牌を並べていたりした。結果として部屋中のそこかしこにドミノ牌がずらりと配列されているような何だか大袈裟な状態にもなっている――大袈裟なくらいの大作な図柄もいつのか間にか誰かが考えた。
床面、ビリヤード台周辺ではエリニュスがそーっと並べている。ソファに近いところではるかが。カウンターに近い方ではキースが並べている。
クレインはスツールの一つに腰掛け、その手許を見ている。
キースは息を詰めつつそーっとドミノ牌を垂直に立てては、満足そうににこり。続けて次の牌を立てようと頑張っている。西虎も邪魔にならないようにと思ったかドア側の壁際に寄り、その様子を眺めている状態で。
彩麗とシャラザードもソファの方に座って皆が黙々とドミノ牌を並べるのを見物している――シャラザードの方は見物は出来ないのだがその場の空気を楽しんでいる事は同じ。ちなみに美星は彼女たちの――ソファの脇に立っており、その手に何やら一枚の紙を持っている。…その紙には何やら凝った図柄が描かれている――実は先程るかに手渡されたものだったりする。どうやらそれが今頑張って並べているドミノ倒し用に誰かが作成した図柄のよう。何となくじーっと見入っている。
そんな中。
ふわぁ、と大欠伸しながら誰かが――寝惚け眼のブラッドサッカーが一階に下りて来た。と思ったら無造作に表の部屋――つまり皆が今ドミノ牌を並べている部屋――へのドアを開けている。と――わー、きゃー、ダメダメー、入るなー、動くなー、待ってー、倒すなー、と誰からともなくいきなり波状攻撃で大声上げられ、ノブを掴んでドアを途中まで押し開けたそのままの状態で問答無用で足止めされた。
それまで全く静かなところで、いきなりである。
…ブラッドサッカー、思わずきょとん。
何事かとそのままの位置から頭だけで表の部屋の中を覗き込んで見れば、床にずらりとドミノ牌が並べられている状況が目に入る。
納得。
と、納得はしたが――はてこの先どう動くべきかと何となくそのまま停止。
停止したその状態からブラッドサッカーがそれ以上動かないでいる事を見届けてから、大声上げた方々はまた黙々とドミノ牌の配列作業を再開した。
「…」
部屋内の反応からして尚更、ブラッドサッカーは今のこの状態から動けない。
改めて何となく室内の様子を黙ったまま一通り目で窺ってみる。
と、エリニュスでもこの店の人でもない人を見付けた。
しかも知り合い。
ブラッドサッカーがその人の姿を見付けてちょっと意外そうな顔をしたところで、彼に見付けられた知り合い――クレインの方もブラッドサッカーのその顔を見返している。
クレインは少し待って下さいと言うようなジェスチャーでブラッドサッカーに掌を軽く突き出して見せると、にこり。
受けてブラッドサッカーはおどけたように肩を竦めている。
…その一連の様子を見、西虎は何か忘れていた事でも思い出したようにぽむと手を合わせている――とは言え周囲の集中ぶりに気遣って音は立てていない。
西虎は自分が寄っていたその壁際を伝い移動して、外と出入りする為の入口ドアから外へとひょっこり顔を出す。
そしてドアの外側ノブに、一枚の板を提げた。
――――――【CLOSED】。
ぱたん。
店主は店の中へと戻り、ドアは静かに閉じられる。
それから、暫し。
静寂が続いていた閉店中な筈の店の中からは、やがてぱたぱたぱたと連続する軽快な音と、何やら楽しげなざわめきと歓声が漏れ聞こえてくる事になる。
Fin.
×××××××××××××××××××××××××××
登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
×××××××××××××××××××××××××××
■整理番号/PC名
性別/年齢/クラス
■0474/クレイン・ガーランド
男/36歳/エスパーハーフサイバー
×××××××××××××××××××××××××××
…以下、登場NPC(当方NPC→■/緋烏様よりの共有NPC→◆)
◆狼・西虎
◆彩麗
■エリニュス・ストゥーピッド
◆斎条・るか
◆シャラザード
◆美星
■ブラッドサッカー
◆キース
×××××××××××××××××××××××××××
ライター通信
×××××××××××××××××××××××××××
そんな訳で、今度こそサイコマ最後の納品で御座います。
改めまして、「困ったちゃんを連れ戻せ」に「気が付けばいきなりの事」、それと今回の「まいごのおこさまをさがせ」の三件、発注有難う御座いました。
で…土日の休日絡み故ではありますが前回ライター通信で書いた通りお渡しがやや遅れました…。
やっぱり最後まで何だかしまらないライターです。
作成日数目一杯上乗せした上に大変お待たせ致しました。
今回のシナリオはイラストレーターの緋烏様とのコラボ品になります。
ので、SATYR HEARTと言う場所とそこのNPCさんにお付き合い頂きました。内容としては外まで出歩かず店の中だけで話が完結するプレイングを頂いた訳ですが…結果のノベルとしてはこんな形になっております。
如何だったでしょうか。
少なくとも対価分は満足して頂ければ幸いです。
では、今後はサイコマでとは参りませんが、お気が向かれましたらその時はまた他ゲームにて、どうぞ宜しくお願い致します。
深海残月 拝
|
|
|