<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


月のかけら。

エルフェバイン山脈にあるという洞窟に、不思議な宝石の鉱脈があるらしい。
その不思議な宝石は、優しい光を常に放っているため、「月のかけら」と呼ばれている。
この「月のかけら」はかなり稀少な宝石であり、高値で取引されている。一攫千金も夢ではない奇跡の石だ。
しかし、この「月のかけら」のあるエルフェバイン山脈は魔物の巣窟で、洞窟には更に強力な魔物が住んでおり、ドラゴンの目撃情報すらある。一人で行くのは自殺行為である。いや、2、3人でも命を落とすことになるだろう。
「月のかけら」を手に入れるには、相応の苦労が必要である。
このチャンスに賭けるかどうかは、自由意志だが、一生に一度ぐらいはギャンブラーになってみてもいいんじゃないかい?

 さてはて、そんな月のかけらを探しに、二人の命知らず、もとい勇敢な冒険者が山に向かった。
 ちなみに二人は、それほどこの山脈が危険だとは思ってない。情報収集ロクにしていないから(爆)。
「さーて、宝探しや秘境探索といえば俺のお得意ジャンルだから任しとけ!」
 何故か自信満々のバリイ。
「エリスにプレゼントできるかな…」
 想い人・エリストアに「月のかけら」をプレゼントするために命懸けの挑戦をするレアル。
 こんな凸凹コンビが、「月のかけら」を手に入れるために、エルフェバイン山脈に向かうことになった。

 で、早速と言っちゃあ何だが、人食い鬼・オーガのお出迎え。
「おっしゃあ!俺に任せな!」
 オーガに飛び掛かり、ジャブを数回入れるバリイ。
 オーガは反撃するも、それもあっさりカウンターで返された。
「意外と強いですね」
「意外、が余計だ。俺は一流の冒険者だからな。「夢」を掴むためなら何でもできるもんさ」
「夢、ですか」
「そ。財宝発見や秘境の探険といった「夢」を売るのが俺の仕事だ。収入もいいしな。何より、自由に腕一本で世界中どこでも飛び回れるこの仕事が、俺の性格にあっているんだ」
 目を輝かせながら言うバリイ。
「大変そうな仕事ですけど、なるほど、そういう考え方もできますね」
「それにしても、あんたは何で、「月のかけら」を探しにきたんだ?」
「え」
 真っ赤になるレアル。その様子が面白いので、バリイはカマをかけてみた。
「素敵な女性に、プレゼント、か?」
 図星だったので、何も言えないレアル。
「…え?当たり?」
 バリイ本人も、まさか当たったとは思わなかったらしい。
「…子供っぽい、ですか?好きな女性にプレゼントしたいがために、命懸けで宝石を取りにいく、なんて」
「いや?いいんじゃねえの、ロマンがあって。…そうだ」
 さらにバリイは続けた。
「こうして一緒にいるのも何かの縁だ。ついでだし、俺が恋のキューピットとして、宝石探し手伝ってやるよ」
 そう言ってバリイはウィンクする。
 レアルは言葉でこたえることはなかったが、微笑みを返した。

 さて、しばらく進むと、オーガの大群が二人に迫ってくる!
「オーガ多いな」
 最初にオーガが出てきて倒されたから、それ以下のモンスターは襲い掛かれないでいるのだろう、多分。
「まあ、何とかなりますよ」
 バリイの拳が唸り、レアルの剣が閃く。
 その度に、オーガは倒された。
「やるじゃんか、お前も」
「まあ、そこそこにですが」
 オーガを倒した後、二人はこのような会話をした。
 ふと、何かがおかしくなって、二人は笑った。

「ふう…こりゃ野宿確定かな」
 しばらく歩くと、日は沈みかけていた。
「でも、モンスターがいる山で野宿って、危険じゃありませんか?」
「そりゃそーだが、背に腹は代えられないからな」
 モンスターに襲われる可能性もなきにしもあらずだが、それ以上に、歩き続けたので、二人ともかなり体力を消耗していた。
「あ、あそこに洞窟がありますよ」
「何だかありがちな展開だけど、まあ森の中で野宿よりは幾分かマシか」
 そう言って二人は、洞窟のなかに入っていく。

『人間め、何をしにきた!』
 途端、鋭い女性の声がかかった。
「…ドラゴン…!」
『また卵を狙いにやってきたのだろう!焼き殺してくれる!』
 ドラゴンが炎の息を吹き掛ける。二人はかろうじてだが、それをかわす。
「た、卵!?違いますよ、私たちは卵を狙いにきたわけじゃありません!」
 確かに、ドラゴンの卵は高価で取引されているらしいが、二人の目的は、「月のかけら」という希少な宝石であり、卵ではない。
「本当だってば!俺らはドラゴンハンターとかそういうんじゃないし、卵より、宝石が欲しいんだから!」
 ついつい本音が出るバリイ。しかし、それでドラゴンの動きが止まる。
『なんだ、卵が欲しいのではないのか…申し訳ありません、感情的になってしまいましたわ』
 謝ったドラゴンの後ろには、青白く輝く卵があった。
『卵を暖めている時の雌ドラゴンは、卵を守るためにしばしば感情的になってしまいますの』
「なるほど、やっぱりドラゴンも人間も、子供を大事に思う気持ちに変わりはないのか」
『もし、気分を害されたのなら、申し訳ありません』
「いや、そりゃいいけどさ、ドラゴンさん、「月のかけら」っていう宝石、知ってるか?」
『?お二人の周りにあるじゃないですか』
「?」
『ここの洞窟の岩盤自体が「月のかけら」なんですよ』
「ええええええええ!?」
『この宝石はこの洞窟でしか取れませんからね。その洞窟にドラゴンである私が住んでいる。だから宝石の希少価値が嫌でも上がるのですよ』
「なるほど」
『先程の無礼のお詫びの印として、欲しいだけ持って帰って構いません。これからまた取りにきてもいいです。それと、今日はもう遅いから泊まっていきなさいな』
「ありがとう」
 こうして二人は、希少価値が高い宝石を、平和的に手に入れることができたのである。
 さて、それはそうとして、レアルがどのようにプレゼントしたのか…は謎である。
 少なくとも、恋愛には発展してくれなかったらしいことだけは、確実である。
 頑張れレアル、負けるなレアル。いつか彼女も君を見てくれるようになってくれるさ。…ならないかもしれないけど。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
0046/バルバディオス・ラミディン(バリイ)/男/27/冒険者
5007/レアル・ウィルスタット(レアル)/男/19/ヴィジョンコーラー
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■         ライター通信          ■
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どうも初めまして今日和、蒼華珠璃と申す者です。
正統派ファンタジーのスラッシュ&ハック(モンスター倒してお宝ゲットな話のこと)はかなり久しぶりに書いたので、ちょっと変なところあったらごめんなさい。
いつも書いているファンタジーは正統派じゃないんで(爆)。
では、今回はこの辺で。機会があったらまたお会いいたしましょう。