<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


聖獣機神レオンマックス サイン会編
●波乱の始まり? 一週間前
 白山羊亭では楽しそうにセアラが食事をしていた。
「これでやっとしばらくは、ゆっくりできそう☆ アイツと久しぶりにデートしようかな?」
 ぱくぱくとお気に入りのBランチを食べていたところ‥‥。
「セアラちゃん、セアラちゃんっ!!」
 エトラがやってきた。
「な、なんか‥‥嫌な予感‥‥」
 そんなセアラの予感は的中した。
「第2話の制作に取りかかれますわ!! 第1話のノルマを達成出来ましたのぉ〜☆」
「‥‥第2話はいいとして、ノルマって‥‥」
「し・か・も〜来週、出演者全員のサイン会もやりますわよ!!」
「って、えええええええっ!???」
 あまりの展開にセアラは手にしていたフォークを皿の上に落とした。
「来週って‥‥もう1週間しかないじゃないっ!!」
 そんなセアラの声もそっちのけ。エトラは構わず続ける。
「今度の第2話はレオンがティアラ姫を救う旅に出発するんですの。そのためには一緒に旅する仲間の必要ですわよね? ああ、今回も楽しそうですわ‥‥」
「それよりも、サイン会には何人来るの?」
 額に汗を浮かべながら、セアラはエトラに確認した。
「あ、それがたったの1000人です。もっと大勢の方をお呼びしたかったのですが」
「何処が『たった』よ! 充分過ぎるわっ!!!」
 セアラの突っ込みはともかく、今回もまた、一波乱ありそうな‥‥撮影であった。

●サイン会前の替え玉作戦!!
 サイン会当日。その日は雲一つない快晴で、逆に暑いくらいだった。
「なーんで、私がこーんなことをしなきゃなんない訳?」
 セアラはぶつくさと長い金髪を一つにまとめ、別の‥‥丁度、肩にかかる程度の金髪のカツラをつけようとしていた。ちなみに着ている服はエトラのものである。白く、レースが沢山使われたワンピース。
 と、そのとき。
 どんどんどんどん!
「何?」
 ものすごい足音がセアラのいる待合室の前で止まり。
 ばっったーーーん!!!
「これはどういうことなんですっ!!!!???」
 今、まさにカツラを被ろうとしていたセアラの元にやってきたのは、何故か15センチほど背が高くなっているメリッサ・ローズウッドであった。サイン会のためにすでにダーク役の衣装を身に纏っている。
「って、あら? エトラさんじゃなくて、セアラ‥‥さん?」
「あはははは。ばれちゃったみたいね‥‥まあ、いいわ。とにかく入って。誰かに見られるとヤバイから」
 そのセアラの言葉にメリッサは苦笑しながら、後ろのドアを締めた。
「で、エトラになんか用だった? 今、ちょっと‥‥体調を崩していないから、私が代わりに聞くわ」
 セアラの言葉にほっとしたようにメリッサは口を開く。
「確かサイン会では『役者は全員参加』でしたよね? エセル‥‥じゃなかった、アズラエルとティアラ姫がいないってどういうことです?」
 そういってメリッサは懐から一枚の張り紙を取り出した。
『誠に申し訳ありませんが、今回はティアラ役とアズラエル役のサインは都合によりやりません。ご了承下さい。レオンマックス運営スタッフより』
 と記載されていた。
「そのまんまよ。ティアラ役のノエルさんもアズラエル役のエセルさんもサインはしたくないって連絡があったの」
「アズラエルはともかく、ティアラ役はいわば、子供の憧れの姫ですよ? それがいないとなれば、予定枚数を消化することは出来ないんではありませんか?」
「そうかもしれないけど‥‥いないものはいないんだし、仕方ないわよ」
 と、二人の居る部屋に控えめなノックの音が響き、扉が開いた。
「セアラさーん、足りなかった色紙、やっと届きましたぁ〜」
 そこへやって来たのは汗をだくだくと流しながら、陽気に入ってくるノエル・マクブライトだった。といっても、今は何も変装せず、本来の姿である軽鎧を身に纏った剣士の姿になっていた。が、そんなことはメリッサは知らないことである。
「セアラ、さん? この方は?」
「ああ、今日のお手伝いさん」
「でも‥‥何かノエルさんに似ていません?」
 メリッサの言う通りである。っていうか、実は本人なのだが‥‥そんなスクープになることを言うような自殺行為をするほどセアラは馬鹿ではない。それにそのときのためにノエルと密かに打ち合わせをしていた。
「そ、そりゃそうよ。ノエルの双子の弟さんだから」
 ちょっと裏声になったが、セアラは何とかそう言い退けた。
「ノエルさんの双子の弟さん? 名前は何て言うんですか?」
(しまった、名前決めていないっ!!)
 セアラとノエルの二人は顔を見合わせ苦笑した。
「?」
「え、えーっと‥‥その‥‥え、エルノ‥‥君だったよね?」
 セアラは『これでいいわよね?』と威圧するような視線でノエルを見た。
「え、ええそうです。え、エルノです。その、よ、よろしくお願いします‥‥」
 あわあわと頷くノエル。
「なるほど‥‥」
 じっと代わる代わるセアラとノエルを見ていたメリッサがにやりと笑った。
「いいこと思いつきました。エルノ君、ノエルお姉さんの身代わりになってサインを書きなさい。そうすれば、気を揉まずに万事解決!」
「で、でも‥‥その、あの、ぼ、僕は男、ですし‥‥」
「大丈夫。何なら私も手伝いますし。黙ってサインを書けばいいんです。ねえ、セアラさん?」
「そ、そうね‥‥じゃあ、私も手伝うわ」
「って、セアラさん!?」
「じゃあ、さっそく‥‥」
 とじたばたと暴れまくるノエルをメリッサとセアラがしっかりと捕まえ、お着替え部屋へと連行しようと扉を開けたとき。
「!!!」
 そこには彼らの話を全て聞いてしまったエセル・ゼニフィールの姿が‥‥。ただ、様子を見に来ただけだったのだが、不運にもスタッフに見つかってしまった。
「あなたも一緒に来るわよね? エ・セ・ル☆」
 そのメリッサの言葉にエセルは大人しく頷いた。

 後日、ノエルは少し震えながらアレックス・バードナーにこう零している。
「アレックスさん‥‥どうして女の人って怒るとあんなに恐いんでしょうね?」

●楽しい楽しい? サイン会!
 いよいよサイン会が始まった。始まる前から並ぶファンはそれほど多くはなかったようだが、沢山のファンが詰めかけ、サインと握手を求めていた。中には写真まで撮るファンもいた。
「あのっ! サインお願いしますっ!」
 長い銀髪にバンダナを付けた女性が緊張した面もちでダークに扮したメリッサに色紙をお願いしている。彼女の名はシルヴィアーナ・シュファーズ。周りの者からはヴィアナと呼ばれている。ヴィアナは肩や胸にはガードのような物が付けられており、水着のようなレオタードに身を包んでいた。
 メリッサはその姿にそっと瞳を細めた。
「あなたのような方からサインをねだられるとは‥‥光栄ですね」
 さりげなくヴィアナの手を引き寄せ、そして‥‥。
「きゃあああっ」
 顔を真っ赤にさせるヴィアナ。
 メリッサはそっとヴィアナの手の甲にキスをしたのだ。周りにいたファンや、役者全員がその様子に釘付けとなる。と、キスを終えたメリッサと側で緊張しながらサインに奮闘しているクリス・メイフォードの視線が合わさる。メリッサはそれを確認してから、ふっと勝ち誇った顔をした。
「‥‥‥!!!!」
 ぼとっとクリスの手から黒のマジックが落ちた。
「お兄ちゃん、まだー?」
 ファンの一人からせかされて‥‥。
「あ、すすすす、すみません‥‥い、いい今、か、書き、書きます、からら〜」
 クリスの口が回っていない。クリスの目はぐるぐると回り始めていた。
 そしてこの暑さ‥‥。
「あ、れ‥‥?」
 クリスの体がぐらりと傾き。
「おにい、ちゃん?」
 ばたんと倒れた。
「って、何で倒れるのっ!?」
 思わずメリッサは女性口調で叫ぶ。
「どうしてエトラがいないときにこんなことになるわけ!?」
 エトラに扮したセアラも駆け寄ってくる。
「ちょっと避けて下さい!」
 ティアラ扮するノエルが駆け寄り。
「どりゃっ! さあ、避けて下さい! 運びます!」
 クリスをお姫様だっこで運ぶノエル。その鬼気迫る光景を見て、笑う者は誰一人いなかったのであった。
 その後、医師の診断によるとクリスは極度の緊張と暑さで倒れただけらしい。
 それに何故かファンであるヴィアナが新たなスタッフとして迎えられたことに皆は驚くのであった。
 そして、また撮影が始まる。

●聖獣機神レオンマックス 第2話 旅立ち
 朝もやに包まれるサーレ国の門。そこに一人の少年の人影ともう一人‥‥。
「どうしても、お一人で行かれるのですか? レオン様」
 お供を連れずにここまでお忍びで来たのはティアラ姫の妹、マリア扮するマリアローダ・メルストリープであった。
 その姿にレオンは驚きながらも口を開いた。
「今は‥‥いつ他国が攻めてくるかもしれぬ状況なのです。兵を出すことはしないと言う国王陛下のお考えは正しいのでしょう。ですが、僕は納得いきません。たとえ一人でも姫を助けなければ。そうでなければ‥‥捕らわれてしまったティアラ姫様が可哀想すぎます!」
「‥‥レオン様‥‥」
 そう言い切るレオンにマリアは胸にそっと手を押し当てた。悲しそうな表情を浮かべて。
「では、マリア姫。僕はそろそろ行きます」
「何処へ? 彼らの行く先は知っているのですか?」
「まずはダーク城の場所を知るために東のレジーナ山に住む賢者様を訪ねるつもりです」
「レジーナ山? 戻ってきた者はほんの一握りとかいう、あの厳しい山へですか!?」
 マリアは瞳を大きくさせながら驚く。
「これも僕の鍛錬のためですから。ティアラ姫を守りきれなかったこと、それは僕の未熟さゆえのこと。レジーナ山を越えることぐらい出来なくてはティアラ姫を救うこともできないでしょう。相手はどんな者なのか分かりませんし」
「‥‥わかりました。それならこれを持っていって下さい」
 マリアはそう言って胸に付けていたペンダントを外し、レオンに渡した。
「これは‥‥」
「ティアラお姉様がさらわれたときに身につけていたペンダントと同じものです。私の代わりに持っていってくれませんか? お守り代わりに‥‥」
「マリア姫‥‥」
 マリアはそっとレオンの手にペンダントを握らせ、そして瞳の端に涙を滲ませながら、レオンの顔を見る。
「お姉ちゃんをよろしくお願いします‥‥」
 ぺこりと頭を下げるマリアにレオンは力強く頷き、マリアの肩を優しく叩いたのであった。

 一方その頃、無事、ダーク城へ戻ってきたアズラエルは眠ったままのティアラをダークに言われた通り、奥にある立派な部屋のベッドにそっと寝かせた。
「もうしばらく、ここで眠っていて下さい」
 静かにティアラを起こさないように部屋を出るアズラエル。と、城の窓から一羽の鷹が飛び込んできた。
「鷹? しかも手紙を持っている?」
 鷹はアズラエルの腕に降り立つ。足には手紙がくくりつけられ、その口には小さな箱があった。アズラエルはまず、手紙をそっと外した。中を見る。
『お父様が亡くなりました。残されたのはこの箱だけ。ですが、私達の力では開けられませんでした。どうやら魔法の力がかけられているそうです。まずはアズラエルお姉様に送ります』
 そう短くか弱い筆圧で手紙は書かれていた。これはアズラエルの妹の文字である。しかし、残された箱とは何なのだろう? 父の死を知ってもまだ冷静な自分にアズラエルは密かに嫌悪し、顔を歪めた。
 そして次に箱を受け取る。すると鷹はすうっと消え失せた。どうやら鷹は魔力で生み出されたものだったらしい。そっと箱を開けてみる。
 ぱかん。
 難なく開き、そこにまた手紙が入っていた。アズラエルはそれをゆっくりと開き中を見る。
『アズラエルへ
お前には何度も苦労をかけた。そしてこれからも‥‥。ダークはお前の妹までも病という形で呪いをかけた。それを解くには私の力が必要だそうだ。恐らく、私はダークの城に閉じこめられ、死ぬことになるだろう。だが騙されるな。この手紙を手にしたこと、すなわち私が死んだことに他ならないのだから。くれぐれもダークの言葉を鵜呑みにしてはならない』
 そして、記載されたサインは間違いなく、アズラエルの父親のものだった。
「まさか‥‥そんなこと‥‥」
 カタカタとアズラエルの手紙を握る手が震える。
 その手紙を急いで、けれど大切に懐へしまうと、アズラエルは駆け出した。
 あの、ダークの元へ。

 ダークはいつもの玉座にはいなかった。
 なぜなら彼はティアラのいる部屋にいたのだから。未だ眠るティアラをダークは細い目で見つめる。
「封印を解くためには私も、そして、この場所にも力と時間が必要だ。半月‥‥半月あれば時は満ちるだろう」
 そしてダークはふっと笑みを浮かべた。
「それにしても最後の封印の鍵が、あのような美しい娘とは‥‥粋なことをしてくれる」
 ティアラの眠るベッドに腰掛け、囁くようにダークは続ける。
「だがこれももうすぐ私の力に、糧となるのだ。幸せに思うがいい」
 がたんとドアが開かれた。そこにいるのはアズラエル。信じられないといった表情でじっとダークを見つめていた。
「おや、アズラエル。ノックも無しに婦人の部屋に入るとはいけないな?」
「ダーク様‥‥いえ、ダーク! 私の、私の父をどうした!?」
 そのアズラエルの声にダークの側で寝ていたティアラがそっと目を覚ます。
「それを知ってどうする? それにお前にはわかるはずだ。お前の腕を持ってしても‥‥私には適わぬとね‥‥」
 ダークのその不気味な笑いにアズラエルはきっと睨み付けることしか出来なかったのだった。ぐっと血を滲ませるほど拳を握って‥‥。

 高く険しい山を目の前にレオンはゆっくりと息を吐く。
「ここがレジーナ山‥‥賢者様の住む神聖な場所‥‥」
 きっと顔を引き締めて、レオンはまたそこへ向かうのであった。

「果たしてレオンは無事、レジーナ山に住む賢者に会えるのであろうか? そして、真実を知ったアズラエルとティアラに希望はあるのだろうか? 次回、『目覚めのとき』。伝説はこうして紡がれる‥‥」
 そして映画館のスクリーンにスタッフの名前が映し出される。
「何で‥‥僕、ティアラ役なんですかぁ〜」
 呟くようにノエルが言う。
「仕方ありませんわ。誰もやる方がいなかったんですもの。それにサイン会でも代わりを勤めたのですから‥‥このまま続けてやってはいかがです?」
「うう、僕がやりたいのはレオン‥‥」
 と、ノエルが呟く横でエトラを突っつく者が。
「あの‥‥またナレーターは、アレックスさん、なんですか?」
 エセルがそっと訊ねた。
「ええ、決定です☆ ああ、このナレーションを収録するのに7時間もかかったんですよ」
 にっこりと笑みを浮かべるエトラが、エセルには恐く見えた。そう言えば、げっそりとした顔で朝食を取っていたアレックスの姿を見かけたような気がする。
「とにかく、今回はアズラエルさんのファンが増えそうですわね」
 どうやら今回の映画も成功のようだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【0217/ノエル・マクブライト?/男/15/ノエルの双子の弟? 姫代役】
【7453/エセル・ゼニフィール/女/25/大変な役? アズラエル役】
【7204/メリッサ・ローズウッド/女/23/ある意味無敵ダーク役】
【6312/アレックス・バードナー/男/18/嫉妬深い? 助監督】
【0846/マリアローダ・メルストリープ/女/10/サインで大活躍! マリア役】
【6311/クリス・メイフォード/男/14/緊張しすぎなレオン役】
【0847/シルヴィアーナ・シュファーズ/女/20/大胆なファン1号!】

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■         ライター通信          ■
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 今回のノベルはいかがでしたか? 相原きさです。依頼に参加していただき、ありがとうございました☆ 今回もまた、新たなスタッフが加わりました☆ 次回もまた、増えるといいのですがどうなることやら。
 それと一つ注意を。
 私の依頼では、控えめなプレイングは「回りに流されやすい」です。ですから、なるべく「強気な」プレイングで試してみて下さい。もしかするともしかするかもしれませんよ?
 というわけで、また不運にもティアラ役をやっちゃいました(苦笑)。せっかくノエルさんの双子の弟と偽った意味がなかったかもしれません。次回こそは頑張って下さいね〜。それとも、エトラの言う通り、姫役続けます? 次回もプレイング楽しみにしていますね。
 次回の依頼公開は8月頃を予定しています。気になる方は8月になってからOMC依頼をチェックするか、相原サイトをチェックするかしてみて下さい。
 また、良ければ今回の依頼の感想等お聞かせ下さいね☆
 次回の参加もお待ちしています♪