<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
禁欲のサファイア
(オープニング)
最近エルザードで起きた彫像事件の犯人は、『欲望のルビー』という呪いの宝石に心を犯された魔道士だった。
欲望のルビーは、見たものの心を『欲望のルビーを手に入れたい』という欲望で満たす、危険な宝石である。
数人の冒険者の活躍で、一応、事件は解決したのだが…
事件解決の数週間後、閑散とした白山羊亭の片隅の事である。
黒ローブの男と、街娘風の若い女が居た。
「うちの宝箱売りのやつが、やられちゃってねー…」
娘が困った顔をする。
黒ローブの男は、無言で聞いている。
男はソラン魔道士協会のウル。娘は盗賊協会のルーザだった。
『無欲病』と呼ばれる病気が、エルザードの商人の一部で流行している。
「この世に楽しい事なんて何も無い。何もいらない…」
などと言い始めて、欲という欲、食欲までも忘れてしまう病気だった。
ルーザの盗賊協会にいる、宝箱売りと呼ばれる強欲な男がその病気にかかったという。
「あの人が、そんな事になったんだ…」
宝箱売りの強欲さを、ウルはよく知っている。
罠付き宝箱を安く仕入れて、盗賊などに高く売るのが得意な男だった。
あの人から欲を取ったら、何が残るんだろう…
事件の事より、まずそっちが気になるウルだった。
(依頼内容)
・ あらゆる欲求を無くし、食べる事すら忘れてしまう病気がエルザードの商人の間で流行しています。誰か助けて下さい。
・ 今回の話は、前回の『彫像を壊すな!』の続編になっていますので、前回の話を見直してみるのも良いかもしれません。
(本編)
食欲すらも忘れてしまう程、無欲になってしまう謎の病気がエルザードで話題になっていた、ある日の朝の事である。
日和佐幸也はエルザード新聞の朝刊の見だしに目を奪われた。
『噂の無欲病、盗賊協会にも被害者が!』
エルザードに盗賊協会と言えば、1つしかない。
とりあえず記事を読んでみると、どうも『宝箱売り』が、無欲病にかかったようである。
医学的な見地から病の元を探れるかどうか試してみようかと思っていた幸也は、丁度良い機会なので、ひとまず盗賊協会へ行ってみる事にした。
だが、幸也は家を出るのをしばらく待つことにする。
ここ数日会ってないから、そろそろアレが現れる気がしたからだ。
「幸也暇だよー、遊ぼう!」
案の定、フェイルーン・フラスカティがやってきた。
我ながら良い勘している。別に嬉しくはないが。
「フェイ、今朝のエルザード新聞の朝刊見たか?」
家にやってきたフェイに、幸也が声をかけた。
「うち、新聞取ってないよ?」
フェイは、きょとんと答える。
「そっか…
いや、あの『宝箱売り』が無欲病にかかって、大変らしいんだよ。」
そう言って幸也はフェイに、今朝の朝刊を見せる。
「あの、欲の塊みたいな奴がねー…
ただ事じゃないね。
行ってみようよ、幸也!」
面白そうじゃん!
と、フェイは乗り気だった。
「そうだな。」
そうして幸也はフェイと共に家を出て、宝箱売りの居る盗賊協会まで行く。
また来たのかあんた達。とばかりに幸也達を迎えるルーザの所には、先客が来ていた。
「2人とも、相変わらず仲良さそうですね。」
リドルカーナの商人、ヴィジョンコーラーのレアル・ウィルスタットだった。
「レアル君も、無欲病の事を調べに来たの?」
「はい、うちの商人協会でも被害者が増えてきましたからね。」
久しぶりだねーと話かけるフェイに、レアルは答える。
ともかく情報を集めようと、彼はルーザの所までやってきたそうだ。
「まあ、三人であいつの話聞いてきなよ。
何だか別人みたいになっちゃってさ、困ってるんだよ。
ていうか、ご飯位食べないと、死ぬぞあんたみたいな感じでさ。」
ルーザは、宝箱売りに会っていきなよと言う。
元よりそのつもりでここまで来た三人なので、ルーザと別れ、宝箱売りの部屋まで行った。
「人間、欲張っちゃいけねぇ。欲を持つから、人間は幸せになれねぇんだ。
あれも欲しい、これも欲しいっていう終わりの無い欲望を捨ててだな、友達や家族に感謝して生きていけばいいんだよ。人間なんて。」
盗賊協会でも強欲で知られる悪徳商人『宝箱売り』は、もっともらしい人生論を語る。
安く仕入れた罠付き宝箱を、宝箱開けのプロの盗賊や冒険者に高く売りつけるのが得意な男だった。
「それはそうかも知れませんけれど、食欲くらいはもたないと、死んじゃいますよ…」
レアルは、これは重傷だなーと思いながら返事をする。
「レアル君の言う通りだな。
ていうか、あんたが言っても説得力が…」
「大丈夫?
あんたから欲を取ったら、私から暴走を取ったみたいになっちゃうよ。」
幸也とフェイも、彼に声をかけた。
確かに、無欲病としか言い様の無い病気である。
精神病の一種だろうか?
幸也は考えるが、まだ何とも言えなかった。
ともかく彼がこうなって原因を調べようと思い、三人はしばらく宝箱売りに話を聞くが、人生の素晴らしさについて語るばかりで、あまりまともな返事は返って来ない。
だが、1つだけ気になる言葉があった。
最近、何か変わった事は無かったかというフェイの質問に、
「心が洗われるような、きれいなサファイアを見たぜ。
たまには自分で宝箱を開けてみたくなって、開けてみたら入ってたのさ。
その宝石をどうしたかって?
どこぞの宝石商人にくれてやったぜ。俺には宝石なんて無用だからな。」
宝箱売りは答えた。
三人は思わず顔を見合わせる。
宝石を見て心を病んでしまう別の事件に、三人は出くわしたばかりだった。
『欲望のルビー』と呼ばれる呪いの宝石の輝きを、三人は一瞬思い出す。
ともかく一通りの話を聞き終えた三人は、宝箱売りの元を離れた。
さて、どうしたものだろう?
調べられるだけの情報は調べてみたいのだが…
まずは医学的な治療が可能かどうか、そこらへんから調べてみるかな。
自分は残って、治療を試してみると幸也はフェイ達に言った。
「人の欲を吸い取る呪いのサファイア。さしずめ、『禁欲のサファイア』とでも言うべきですかね。
僕はサファイアの行方を追ってみる事にしますよ。
うちの商人協会で無欲病にかかった人達も、サファイヤに接触したと言ってる人が多いですからね。」
人に欲を与えて狂わす呪いのルビーがあるなら、逆に人から欲を奪って狂わす宝石もあるんじゃないかと、レアルは言った。それにはフェイと幸也も同感だった。
「確かに、病気の元を断つ事を考えた方が良いかもな。」
幸也は頷く。病気の元を断つ方法。治療法。その二つが見つかれば、事件は解決したも同然だろう。
一方フェイは、彼女にしては珍しく、神妙に考えこんでいた。
「私、ちょっと思ったんだけどさ。」
やがて、口を開く。
「その、ヤバイサファイア見ておかしくなっちゃった人に、この前の『欲望のルビー』を見せてみるって言うのはどうかな?」
フェイなりに考えた答えだった。
「アホか」
「それは危険過ぎるのでは?」
幸也とレアルは即座に否定するが、
「そーかなー…
ま、まあ、私もルビー手に入れ・・じゃなくて、色々情報集めに行ってみる事にするよ。じゃーねー!」
そう言ってフェイは、さっさと行ってしまった。
「お、おい、ちょっと待て。」
幸也の声がむなしく響く。
こりゃ、フェイの監視もしなくちゃいけないのかもな…
憂鬱な幸也。
「僕が言ったくらいでどうにかなるとも思えませんけど、一応、フェイさん見かけたら注意しておきますよ…」
レアルはそう言って盗賊協会を後にしたが、フェイを何とか出来る自信は無かった。
まあフェイの事はひとまずほっといて、宝箱売りの治療を試してみるか。
幸也は再び宝箱売りの所へと向かう。
今度はしばらく宝箱売りの話を聞いてみて、彼の心理状態、精神状態みたいなものを分析しようとしてみた。
宝箱売りと色々話してみた感じ、彼は精神的には特に病気という訳でもないようだった。言ってる事のつじつまは一応あっているし、意識もはっきりしているようである。ただ、欲を捨てる人生の素晴らしさというか何というか、そういう事で頭がいっぱいになっているようだった。
強い暗示にかかって、マインドコントロール、洗脳などをされているようなそんな状態だなーと幸也は思う。
ならば、そういった暗示を取り払い、正気を取り戻させるような魔法を使ってみて何とかならないか試してみる事にした。
それほどあわてる必要も無いし、ヴィジョンの力を借りてゆっくりしてみるかな。
幸也はグリフォンの聖獣カードを手に取る。
人が居る前じゃ、あんまり使いたくないんだけどな…
幸也の呼びかけに応じて、グリフォンが現れる。
「おいおい、それがグリフォンか。」
宝箱売りが大笑いしている。
だから、あんまり呼びたくないんだよなー…
幸也の呼び出したのは、確かにグリフォンだった。
だが、獅子の体に鷲の翼と頭を持った勇壮なグリフォンでもなかった。
猫の体に燕の羽と頭が付いたような、そんなグリフォンだった。
聖獣カードこそ持っているものの、ヴィジョンコーラーとして訓練を受けていない幸也である。やはり、レアルのように優秀なヴィジョンを使いこなすというわけには、なかなかいかない。
「そいつ、飛べるのか?」
あどけない表情をした、子猫ほどの大きさのグリフォンを眺めて宝箱売りが言った。
「余計なお世話だ。」
宝箱売りを無視して、幸也はパニックになった心を元に戻す魔法、『平穏』の魔法を唱えてみる事にした。
傍らにいる幸也のグリフォンが、何やら目を閉じて力を込めるような素振りをみせる。
ゆっくりと、幸也は『平穏』の魔法を使う。
体力的には、とても戦闘なんか出来ない幸也のグリフォンだが、魔力自体はちゃんとした聖獣と比べても、それほど引けは取っていない。少なくとも幸也よりはよっぽど優れている。
なので幸也は、本気で魔法を使う時はグリフォンを呼んで、魔力を借りながら魔法を使う事にしていた。
これでだめなら、医学的な治療は俺には無理だな。
幸也は『平穏』の魔法を唱え終えるが、宝箱売りに対して目立った効果は無かった。
おそらく、宝箱売りが受けた暗示というか呪いというかそんなようなものの力が、幸也とグリフォンの魔力を上回っているのだろう。
力づくじゃだめか…
グリフォンを返しながら、幸也は思う。
ならばいっそのこと、宝箱売りが受けたと思われるのと同等の暗示を与えてみるのはどうだろう?
例えば、それこそ『欲望のルビー』を使ってみるとか…
いやいや、それじゃフェイと一緒だ。
別の手を考えよう…
などと思いつつ、幸也は宝箱売りの元を離れて、今度はウルの所へ行ってみた。
フェイが何かしでかしてないか、また、欲望のルビーの封印はちゃんとしているのかを確認する為だった。
「フェイ、さっき来てたよ。
『ルビー貸して!』って言ってたんだけど、断わっておいた…」
ウルはため息をつきながら言う。
「ルビーの封印は大丈夫。魔力を一切遮断する宝石箱に入れてるからね。宝石箱が持ち出されて、開けられない限り大丈夫だよ。」
そして、そう続けた。
逆に言えば、持ち出されて開けられたらだめという事なのか…
「まあ、幾らフェイでも、うちの宝物庫に乗り込んで奪ってったりはしないだろうからね。」
いや、フェイならもしかしたら…
「まあ、また何か気になる事があったら来ますよ。」
そう言って、幸也はウルの所を後にした。
気がつけば、もう日が沈んでいる。
今日はここまでにするかと、幸也は家に帰る。
しかし、今回は色々と面倒だな。
とりあえず、禁欲のサファイア(仮名)が病気の原因の可能性が高いようだが、その行方はレアルが追っているから任せといて良いと思う。
問題は無欲病の治療法が、いまいち謎な点である。
今日、宝箱売りの治療を試した感じ、なんだかフェイが言うように欲望のルビーを使ってみるのも、意外と良いんじゃないかという気もする。明日はその辺について調べてみる事にしよう。
ついでにフェイが暴走しないように、見張りながら一緒に行動するようにするかな。
などと翌日の予定を考えながら眠る幸也だったのだが…
翌日の朝。
「幸也君、居る?
ちょっとまずい事になったのよ。」
聞き覚えのある女性の声で、幸也は目を覚ました。
ルーザだ。何やらあわててるようである。
「どうしたんです?」
彼女があわてるくらいだから、ただ事では無いのだろう。
幸也はルーザの話を聞く。
「いやね、昨日、フェイと一緒に魔道士協会に忍びこんで、欲望のルビーを借りてきたんだけどさ、フェイがルビーと一緒にどっか行っちゃったのよね。」
幸也と目をあわせないようにして言う、ルーザ。
おーい…
「忍びこんで借りてきたって、あんた…」
まさか、ルーザがフェイと共謀して暴走するとは…
そんなの、俺に一体どうしろと言うんだ…
「ほんとにごめんね!
後でフェイと一緒に怒られるからさ、とりあえずあの子を探さないと。」
確かにその通りだ。
こりゃもう、予定も何も無くなったな…
幸也はルーザと共に、家を後にする。
最初にウルの所に行ってみた。
「ルーザ、フェイと一緒になって何やってんの…」
ウルはそれ以上、何も言わなかった。
俺は俺で探してみると、ウルは魔道士協会を出て、幸也達とは違う方へと去って行った。
ともかく、幸也達は街の中を探し回ってみる。
白山羊亭や駄菓子屋など、フェイが行きそうな場所を巡ってみるが、足取りは全く掴めなかった。
夕方。
あきらめムードの幸也とルーザ。
「ほんと、ゴメンね…」
ルーザがうなだれている。
彼女にも責任はあるけれど、基本的には自業自得である。あまりルーザを責める気は幸也には無かった。
だが、自業自得だろうが何だろうが、フェイを探さないわけにもいかない。
欲望のルビーに魅入られた魔道士の姿を、幸也は以前見た事があった。
ただルビーだけを求めて暴走する彼の姿は、思い出すだけで哀れだった。
フェイがあんな事になったら…
だが、もう心当たりの場所は、あらかた回った。
「く、もう思いつかない…」
幸也は考える。
「ていうか、ちょっと待ってよ幸也君!
1箇所、忘れてる!」
おもむろに、ルーザが叫んだ。
いぶかしげにルーザの方を振り返る幸也。
やがて、彼も気づいた。
「俺の家か!」
朝、あわてて家を飛び出してから、家には帰ってなかった。
不本意と言えば不本意だけれど、あいつが一番行きそうな場所と言えば、確かに俺の家じゃないか。
幸也とルーザは駆け出した。
もう、他に当ては無かった。
頼むから、おとなしく家に居てくれ。幸也は祈りながら走る。
もしも、フェイがフェイじゃなくなってたら、その時は…
一緒に死んでやる位の事は、してやるかな…
日和佐幸也の自宅前。
「あ、幸也、どこ行ってたの?」
いつもと変わらない様子のフェイが居た。
「お前、大丈夫か?」
あまりにもいつもと変わらないフェイの様子に、しかし幸也は違和感を覚えた。
「うん、平気。
ずっと待ってったのに、なかなか帰ってこないんだもん。
寂しかったよ…」
疾風のように、フェイが幸也に近づく。
速い。避けられない。
「大好きだよ、幸也…」
フェイは幸也の体に手を回す。
「く、やめろ!」
幸也は振りほどこうとするが、無理だった。
やはりフェイが正気ではない事を幸也は確信する。
幸也に抱きつくように形になったフェイ。しかし、特に何をするわけでもなかった。強いて言えば、幸也にしがみついて甘えるという感じである。
それだけだった。
はて?
「幸也ぁ、一生離さないよー。」
とにもかくにも、幸也にしがみつくフェイ。
これってもしかして…
「命の心配はとりあえず無さそうね。」
フェイを振りほどこうとあがく幸也を、何となく眺めるルーザ。
「だめ、逃がさないよ!」
「だー、やめんか!」
端から見ると、抱き合ってるようにしか見えない。
「フェイ、ルビーじゃなくて、幸也君の事しか考えられなくなっちゃったのね…」
ルーザは少し気が抜けてしまった。
「ルーザさん、何とかして下さいよ!」
助けを求める幸也だが、
「いや、あたしに言われても…」
ルーザは何となく2人を眺めていた。
しばらく、まったりと時が流れる。
やがて、ウルとレアルが疲れきった顔でやってきた。
「心配してきてみれば…」
呆れた顔のウルと
「何だか楽しそうですね。」
苦笑するレアル。
「フェイ、ルビーを見た時に魔力に抵抗しようとして、違う事考えたんじゃないかな。
それで、ルビーじゃなくてその事しか考えられなくなっちゃったのかもしれないよ…」
フェイと幸也の様子を見て首を傾げながら、ウルが言う。
「『私のルビーは渡さない!』なんて言って、襲って来られるよりはマシよね…」
ルーザが言って、ウルはため息をついた。
なんか、もうどうでもいいや…
幸也はそろそろ抵抗するのをあきらめて、フェイの好きにさせている。
「まあ、こういう事は宝石の魔力なんか借りずに、自分の意志でやるべきですよね。」
レアルはしみじみと言って、
「幸也さん、ルーザさん、目を閉じてください。
ちょっと試してみたい事があります。」
そう、言葉を続けた。
2人は、言われた通りに目を閉じる。
「人の欲望を吸い取る宝石『禁欲のサファイア』よ、フェイさんの心に住みついた余計な欲を吸いとるんだ。」
幸也達が目を閉じたのを確認して、レアルは懐から取り出した青いサファイヤをフェイに見せた。
「レアル君、サファイアを見つけたのか。」
目を閉じながら幸也に答えるレアル。
「はい、やはりこの宝石が無欲病の元凶だったようです。」
食い入るように宝石を見つめるフェイ。
やがて恥ずかしそうな顔をして、幸也から離れた。
「あ、あのね、私は嫌だって言ったんだよ、ほんと。だけどね、ルーザちゃんが無理矢理ね…」
「嘘つくな。」
「ごめんなさい…」
そんなフェイと幸也のやり取りを放っておいて、
「『欲望のルビー』と『禁欲のサファイヤ』…か。
それにしても物騒な宝石ね。一体、何々だろう、この宝石。」
ルーザが言った。
「ただの偶然かも知れないけど、昔の魔道士の研究で気になるのがあったよ。」
ウルがルーザに答える。
心が沈み、何もする気が無くなってしまう病気。
逆に心が弾みすぎ、物事が手につかなくなってしまう病気。
そういった心の病を解決しようと、ある日魔法の道具を作った魔道士が居た。
魔道士は、人の心を静める宝石と人の心を弾ませる宝石を作った。
だが、効果が強すぎる失敗作で、二つの宝石はどこかに封印されたという。
「元々、一対の道具として作られたのなら、ルビーを見て狂った奴が、サファイヤを見て元に戻ったのも納得がいく話ですね。」
幸也がウルの話を聞いてうなずいた。
「何でも魔法に頼っちゃいけないって事なのかな?
ウル君も気をつけなよ。」
フェイが言った。すっかりいつもの調子である。
「お前が言うな、お前が…」
幸也が間髪入れずに言った。
「そうすると、逆にサファイヤを見て無欲病にかかった人は、ルビーを見れば治りそうね。うちの宝箱売りの奴で試してみようよ。」
ルーザの言葉に、皆、賛成だった。
一行は盗賊協会へと向かう。
「ところで、レアル君、サファイヤを見てたみたいだけど、平気なの?」
ルーザがレアルに言った。
「はい、あの宝石の力は僕には効きません。根性ですよ、根性。」
レアルは答える。
「そりゃ、たいしたもんだな。」
幸也が感心していた。
盗賊協会に着いた一行は、箱売りにルビーを見せてみる。
「ち、質素倹約なんて、俺らしくもねぇ。
全く、面目ねぇな。」
箱売りはばつの悪そうな表情をする。
案の定、箱売りはフェイのように元に戻ったようである。
「後は、他の人にもルビーを見せて回れば良いわね。ひとまず解決かな。
あたし、疲れたから、今日は帰って寝るよ。」
ルーザの言う通りだった。
「良かったね!
私も今日は、もう帰るよ。」
フェイが言った。
よしよし、このまま流れに乗って、帰っちゃえ…
「ちょっと待って。
泥棒2人は帰っちゃだめ。ちょっとうちまで来て。」
いそいそとその場を離れようとする女子2人を、ウルが引きとめた。
だめか、やっぱり。
フェイは助けを求めるように幸也の方を見るが、
「悪い、さすがに今回はフォローのしようがない…
俺は怒らないから、ウルさんに怒られてこいよ。」
幸也は、そっぽを向いた。
正直、フェイに抱きつかれて、怒ろうと思っていた事も半分位忘れてしまった幸也である。
「しょうがないから、怒られに行こうか…」
元気なくルーザが言った。
「うう、しょうがないか。
ごめんね、幸也…」
無言で魔道士協会へと歩き出すウルに、フェイはついて行った。
レアルは、やれやれと家に帰って行った。
一応フェイも無事だったし、まあ良いか。
何だか、今回はフェイに振り回されてるうちに全て終わってしまったような気がした幸也だった。
その後、ウルに言われたフェイとルーザが責任もって無欲病にかかった人、つまり禁欲のサファイアを見た人達に欲望のルビーを見せて回り、事件は解決するに至った。
ただ、ソラン魔道士協会の警備がやたら厳重になった事と、正門の前に、
『ルーザ禁止』
『フェイルーン禁止』という2枚の立て札が似顔絵と一緒にしばらく飾られ、道行く人の話題になったそうだ。
数日後。
「何も看板立てなくても良いじゃん。」
「今回は、しょうがないだろ…」
いじけるフェイの相手をする幸也の姿があった…
(完)
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0402/日和佐幸也/男/20才/医学生】
【0401/フェイルーン・フラスカティ/女/15才/魔法戦士】
【5007/レアル・ウィルスタット/男/19才/ヴィジョンコーラー】
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■ ライター通信 ■
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毎度ありがとうございます、MTSです。
なんだか今回の幸也君は、事件の調査と某暴走キャラのフォローという、
二つの難題を求められたようで、大変そうでした。
結果的には本文中にも書いたように、
フェイに振りまわされているうちに事件が終わっていたという感じになってしまいました…
また、幸也君のヴィジョンに関しては、
ヴィジョンコーラー以外の扱うヴィジョンは何らかの問題を抱えてるだろうなーと思いつつ、
幸也君のヴィジョンならこんな感じかなーと書いてみましたが、どうでしょう?
ともかくおつかれさまでした…
(この小説は株式会社テラネッツが運営するオーダーメイドCOMで作成されたものです。)
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