<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


依頼タイトル  :Let's バザー【バザー編】
執筆ライター  :壬生ナギサ
募集予定人数  :1人〜6人

------<オープニング>--------------------------------------

朝日に照らされた天使の広場に数発の破裂音と色とりどりの紙ふぶき。
そして、純白のハトの群れがスカイ・ブルーに輝き出した空に飛び立った。
「おはようございます、皆様!」
風喚師の術で声を周囲に拡散させて、柏原瑞慧は言う。
「天候にも恵まれ、今日の良き日に初のバザーが開催出来ます事嬉しく思います」
ぐぐっと拳を握り締め、瑞慧は続ける。
「バザー!それは買い手と売り手の真剣勝負!!売り手は銅貨一枚でも高く利益を上げ、買い手は少しでも安く良い物を手に入れる!それがバザーの醍醐味であります!!」
「…い、委員長?」
バザースタッフがお立ち台の下から慌てたように声をかけるが、瑞慧は更に続ける。
「今回のバザーには己の肉体、技術、またその有り余る知性や個性を世間に示すべく集まった方も多数参加しており、いかに最高の技をお客様に見てもらうか!それは即ち、客との真剣勝負!!」
もう、柏原瑞慧は止まらない。
「そう!このバザーは出店者とお客様との真剣勝負の場なのです!!では、只今よりバザーを開催致します!!!!」
……今日はとても良い天気になりそうである。

セラは心地よい小鳥のさえずりで目覚めた。
「ん〜良い天気〜。そうだ。朝のお散歩にいこ〜っと」
のんびりマイペースな天使見習いは、大きく翼と共に背伸びをし、朝日の中の散歩に出かけた。
パタパタと空を飛び、鳥達や植物に挨拶をしながらセラは大きな破裂音に惹かれ、天使の広場へと近づくと何やら楽しげな雰囲気。
たくさんの人に様々な屋台が軒を連ねている様にセラの緑色の目は好奇心で輝き出す。
「うわぁ〜人がたくさん!面白そう!!」
そうしてセラは広場の端へと降り立つとさっそくバザー会場へと走り出した。
白い小猿の曲芸。
おいしそうな輝きを持った果物や野菜の並べられた軒。
様々な洋服。
大きな本やかわいい絵本。
セラはしきりに歓声を上げながら、広場をぐるりと囲むようにして配置されている屋台を見る事に夢中だった。
今はドーナツ状になっている広場の通りの両脇の店をきょろきょろと見物しながら歩くセラは実に危なっかしい。
現に今も軽く他の人とぶつかったり、道に置いてあった木箱につまづきそうになったりとしているのだが、当の本人はよほど楽しいのか気にせずにどんどん歩いて行く。
「面白いな〜。朝のお散歩に来て良かった〜♪」
そう言って、セラはほとんど前を見ずに歩き続ける。
いつ人にぶつかってもおかしくない状況で、すぐにセラは尻餅をつく事になる。
「きゃッ!」
「わっ!」
セラは衝撃でころんと地面にお尻を打った。
「いたた……」
「大丈夫?!君」
セラにぶつかられた相手―このバザーに出店しているエレア・ノーアは慌ててセラを抱き起こした。
「うん。ごめんなさい。ボク、前見てなくって…」
素直に謝るセラにエレアは微笑んだ。
「いいのよ。でも、ちゃんと前見て歩きましょうね。ケガしたら大変だもの」
「うん」
こくりと頷いたセラの頭をエレアは優しく撫でた。
「……お姉ちゃんもお店屋さんしてるの?」
セラの質問に、エレアは自分にあてがわれたブースを見た。
商品台の上には自領のワイン、ラングドールにランの国の物産品それからお菓子とジュースが並べられていた。
「そうよ。そうだわ、このジュースを飲んでみない?」
そう言って手渡された葡萄ジュースをセラは飲む。
「おいし〜!」
「良かった。じゃあ、このお菓子はどうかしら?」
「これもおいし〜♪」
にこにこと嬉しそうにお菓子を頬張るセラにエレアも嬉しそうに目を細める。
そんな二人の様子に、客は気になったのかエレアのブースに集まり始めた。
これはエレアの作戦勝ちだろう。
いわゆるセラを桜としたのだ。
だが、それは半分。もう半分は純粋に自分で作ったジュースとお菓子の評価が欲しかったのと、素直なセラに無償で何かをしたくなったという気持ちもあった。
「はい。これは私の領地でつくられたワインですわ」
「えぇ、それはランの国の名産で……」
と、客の対応に忙しくなり始めたエレアを見て、セラはこくんとジュースを飲み干すと彼女の裾を引っ張った。
「おいしいものをありがと〜。ボク、行くね」
「えぇ。気をつけて、今度はぶつからないようにね」
「うん!」
バイバイと手を振り、人の流れに消えていくセラをしばらく見送ったエレアだったが、すぐにお客の注文の受け答えをし始めた。

「さて、こんなものか」
本を並べ終えた本男は、ふむと頷いた。
商品台の上には数冊の本が並べられているが、その後ろ―本男の後ろには、荷馬車が停めてあり、その中にはまだまだたくさんの本が山積みされていた。
本男は馬車の荷台に腰掛、のんびりと本を読みながら客の入りを待つことにした。
本当なら、今すぐにでもエルザード城の王室書院が出店しているブースへ行って、あれやこれやと本を物色しつつエルザード創世記のオリジナルが売りに出されていないかチェックしたいところだが、出店した以上、本しか見えない本男でも少しは真面目に商売をしなければ…という気でいた。
と、そこへ最初の客が現れた。
が、初め本男は気付かなかった。
気が付いたのは並べておいた本が動いたからだ。
訝しく思い、商品台の前に回ると小さな客が、ひとつの本を興味津々といった顔で見ていた。
それは子供には大きすぎるハードカバーの絵本。
色とりどりの色彩に様々な細工がされ、大人が見ても飽きる事の無いものだ。
「いらっしゃい」
本男の声に少女のような少年は、飛び上がるように驚く。
「わっ!?ご、ごめんなさい!!」
何も悪い事はしていないはずなのだが、咄嗟にそう言ったファン・ゾーモンセンに本男は青い目を瞬かせた。
「……別に怒った訳ではないですが?」
「あ、そうですね…」
自分の早とちりに顔を赤らめたファンは、話を変えようと絵本を指差した。
「あ、これ、すごい綺麗ですね!」
「そうでしょう?これは五十年ほど昔の有名な絵本画家が作った作品で数の少ない貴重な品なのですよ」
「へぇ〜そうなんだぁ」
本男の言葉に更に興味深そうに絵本を覗き込むファン。
「……これって、高いんですか?」
「そうですね。ざっと金貨三枚といったところでしょうか」
「金貨三枚?!」
驚きの声をあげるファン。
金貨三枚といえば、相当な高値。
日本円で三万円の値段である。
そんな大金をファンが持っているはずも無く、だが諦めきれないといった顔で絵本を見、しばらく何か考えていた彼は本男に向き直った。
「あの!」
「なんでしょう?」
「こんな事、絶対ぜ〜ったい!ムリなお願いだって分かってるんですけど、ボクこの絵本が欲しいんです。でも!お金なくって…だから、ボクを雇って下さい!」
突然の申し出に本男は目を大きく見開き、目の前で頭を下げている少年をまじまじと見る。
しばし考え、そして口を開いた。
「いいですよ」
「ほんと?!」
「えぇ。しっかり働いてくれればこの絵本、お譲りしましょう」
その言葉にファンは文字通り飛び上がって喜んだ。
「ありがとうございます!」
「いいえ」
そう言って笑んだ本男もこの思いがけない展開はかなり好都合だった。
「では、さっそく働いてもらいましょうか。私が離れている間、留守番をしていて下さい」
「は〜い♪」
片手を挙げて元気な返事を返したファンに頷き、本男は黒いコートの裾を翻し、バザーでごった返す人ごみの中へと歩き出した。
もちろん、目指すは王室書院の出店ブースである。

ぐるぐると歩き続けたセラはさすがに疲れ始め、道の真ん中で立ち止まった。
「い〜っぱいありすぎて疲れてきちゃった」
他の人の迷惑も気にせず、セラはどこか休める場所が無いか、きょろきょろと見渡す。
「あれ?」
そこで、セラはあまり見かけること無い存在を認め、道を横切る。
たどり着いたのは本男のブース。
見上げる先はあの細工美しい絵本である。
「うわぁ〜キレーだな〜」
その声に、荷台で本を読んでいたファンはさっそく仕事だと、商品台の前へまわりこんだ。
「いらっしゃい!何探してるの?」
「この本キレーだね〜」
ファンの問いにのほほんと絵本を指差しながら言うセラ。
だが、ファンにとっては一大事である。
自分の欲しい絵本がもしかしたら売れてしまうのではないか?
そんな不安から、ファンは慌てふためき大きな声で捲くし立てる。
「あ、この本はダメだよ!もう予約があるんだから!!んっと、そう『ひばい品』ってやつ」
「ひばいひん〜?何、ソレ?」
「だから、この絵本は売れないの!」
「へぇ〜そうなんだ〜」
「そう!」
えっへんと胸を張り、大きく頷くファン。
だがセラはもともと冷やかし同然の見物客であるから、買うはずもないのだが、ファンは気付いていない。
と、セラは後ろへと周り込み、本の山を見つけ歓声を上げた。
「わ〜すごーい。本がたくさんだー」
その言葉にファンも相槌を打つ。
「すごいよね。ボクも初めびっくりしちゃった。あ、そうだ!」
ファンは荷台へ上がり、ガサガサと本の山の中から一冊取り出すと、セラを手招きした。
「何〜?」
セラも荷台へと上がると、ファンの手の中の古ぼけた本を見た。
「いい?じゃん♪」
ファンの声と共に、開かれた本から飛び出たのは紙で作られたカエル。
それは飛び出す絵本だったのだ。
「びっくりした〜。何これ〜?すごーい!」
「でしょ、でしょ?他にも一杯あるんだよ〜!」
「本当?」
そう言って、いつの間にやら仲良くなってしまった二人は本の山から絵本を引っ張り出しては、キャッキャと遊びに夢中になって行ったのだった。

「ふぅ・・・少し落ち着いたわね」
薄っすらと滲み出た額の汗をぬぐい、エレアは商品台の上を満足気に見た。
ラングドールはほぼ完売。
他の菓子やジュースなども、あと数点の残すのみとなっていた。
それも全ての値段を安く抑えて販売したお陰、ともいえるだろう。
と、顔を上げたエレアは人込みの中に見知った顔があるのを見つけた。
「本男さん!」
エレアの呼びかけに、本男も気付きエレアのブースへとやって来た。
「あぁ、エレアさん。どうですか?売れ行きは」
「えぇ、良いですわ。皆さんランの商品は珍しいらしくて、喜んで帰っていかれたんですよ」
にこにこと嬉しそうなエレア。
話を聞いている本男も何やら嬉しそうである。
「本男さんは?」
尋ねたエレアに本男は待ってました、と言わんばかりに持っていた本を突き出した。
「御覧なさい。エルザード創世記です!しかもオリジナルですよ?」
そう、興奮気味に言う本男の手にはしっかりと白い手袋がされており、それだけでとても貴重なのだろう事がエレアには容易に想像できた。
「まぁ。どこで手に入れたんですか?」
「王室書院が出店していたんですよ。ふふふ…やはりこのバザーに参加して正解でした」
本の表紙を優しく撫でる本男。
だが、この本を手に入れるのにもう一人の購入者と激しい値段合戦をしたのだが、無事勝利した本男にとってそれで支払った金額はたとえ赤字であったとしても屁でもないのだ。
上機嫌の本男は今何されても笑って過ごしそうなくらい、舞い上がっていた。
そんな本男にエレアもにこにこと嬉しそうに言う。
「それは良かったですね。私も皆さんがランの国のことを今回のことで良く知っていただけたんじゃないかと思ってるんです」
「そうですか。お互い、良いかったですね」
「えぇ」
顔を見合わせ、二人は微笑んだ。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス / 種族】

【0586 / 本男 / 男 / 25歳 / 本の行商 / 人間】SN01
【0650 / セラ / 男 / 7歳 / 天使見習い / 天使】SN01
【4077 / エレア・ノーア / 24歳 / 貴族 / ヒューマン】MT13
【0673 / ファン・ゾーモンセン / 9歳 / ガキんちょ / ヒューマン】SN01

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■         ライター通信          ■
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セラ様、ファン様はじめまして。
ヘタレライターの壬生ナギサと申します。
本男様、エレア様、二度目のご参加有難う御座います。
バザー編いかがでしたでしょうか?
少々物足りない、かも知れませんが・・・・(汗)
やはり、ムリに全員をいとつの話で絡ませようとしたのが間違いだったのか・・・
でも、私なりに良く出来たんじゃないかと思っているのですが(汗)
スミマセン。まだまだ力不足が目立ちます(−−;
もし良ければ気軽に感想などお聞かせ願えると助かります。
尚、次回打ち上げ編は11月の中盤にシナリオUP予定です。
もし、ご都合が宜しければそれにもご参加くださいませ。