<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


Let's バザー!【打ち上げ編】
第一回エルザードバザーも無事、終了。
バザー出店者とバザースタッフに一枚の紙が配られた。

***

この度のバザーの成功と皆様のご協力に感謝して
打ち上げを行いたいと思います。
食事、飲み物等はこちらで準備致します。
また、ちょっとしたゲームも行いますので、どうぞ皆様ご参加下さい。

バザー実行委員長・柏原瑞慧
会場:エルザード王立魔法学校体育館

***

打ち上げは出店者とスタッフだけでやる模様ですが……
おや?客の方にも情報が流れているようだ。
さて、一体どうなる事やら?

◆打ち上げ会場へ
打ち上げ企画の書かれた紙がエレア・ノーアに回ってきたのは、彼女がほぼ完売状態の自分のブースを片付けていた時だった。
彼女はしばらく紙面に目を落とし、その美しい金髪を揺らしながら頭を傾けた。
「打ち上げ…ですか。思い出作りに丁度良いかもしれないわ」
そう呟いた彼女は、目の前に停まった馬車の陰に気付き、顔を上げると、そこにはこのバザーで顔見知りとなった本男が軽く会釈をして来た。
「どうも」
「あら、本男さん。もう、お帰りですか?」
頷いた本男にエレアは自分のところに回ってきた紙を彼に渡しながら言った。
「打ち上げがあるようなんですけど、本男さんも行きませんか?」
にこにこと笑顔を向けながらそう言って来たエレアに、本男はしばし考える。
本男はこのバザーで手に入れた本を早く読みたいと思っており、普通の彼なら即答でNOと答えただろう。
しかし、今日の本男はたまにはこんなものにも参加してみても良いかな?という気分になっていた。
「……そうですね。たまには、良いかもしれませんね」
その言葉にエレアは嬉しそうに微笑んだ。
「では、会場でまたお会いしましょうね」
「えぇ、会場で」
そう言って、二人は別れた。
「……打ち上げかぁ」
ゆらゆらと揺れる荷馬車の中から声がぽつりと呟く。
先ほどのエレアと本男の会話を聞いていた、ファン・ゾーモンセンが大きな絵本を大事そうに抱きしめている。
なぜ、ファンがこんな所にいるのかというと、バザーを手伝ったファンを本男が送ってくれるという事になったから。
本の行商人の本男の豊富な在庫にいまだ飽きず、売れ残った本の詰まれた荷馬車の台車の中でファンはその好奇心旺盛な目を輝かせた。

◆打ち上げ会場
本男はのんびりとすでに始まっている会場を見渡した。
そして、壁際に置かれている椅子を見つけると、真っ直ぐに向かい腰を下ろし、実にマイペースに、バザーで手に入れた本を広げ、さっそく読書に没頭し始める。
折角、打ち上げに参加しているのだから、飲み物の一杯やお菓子を一口食べるなりでもして、雰囲気を味わう事からしたら良いものだが、本男にとってこの会場に居る事だけで、十分雰囲気を味わっていた。
そんな本男に声がかかる。
「本男さん、こんにちは」
本男が顔を上げれば、そこにエレアがグラスを二つ手に持ち立っていた。
「こんにちは。もう、来ていたのですね」
「えぇ。いかがですか?」
そう言って差し出された深い葡萄色をした液体の揺れるワイングラスをエレアは差し出した。
本男は軽く会釈しながら受け取り、思い出したように口を開いた。
「そういえば…なにかゲームをやるそうですね。一体、何をするんでしょうかねぇ?」
「多分、ビンゴゲームか何かじゃないですか?この人数で出来る事といえば限られてきますから」
エレアがそう言って見渡した会場にはどんどん人が増え、今では百人近い人数が集まっていた。
「ビンゴ、ですか……ま、賞品で貴重な本が出るというのなら参加しなくもないのですがねぇ」
独り言ちた本男はワイングラスを少し傾けた。
「そうですか?楽しいと思いますけど…」
微笑みながら、エレアは言う。
そんな彼女を見つつ、また本男はグラスを傾けた。


「皆様。お手元にカードは行き渡りましたでしょうか?」
瑞慧は全員カードを持っている事を確認すると、ぐっとマイクを握りなおした。
「では、これより第一回エルザードバザーお疲れ様!NOT・ビンゴ大会を始めます!!」
声高らかに宣言した瑞慧だが、彼女の言った「NOT・ビンゴ大会」とやらを聞いた事のある者は誰もおらず、皆戸惑い知り合い同士互いに顔を見合わせていた。
「NOT……?普通のビンゴじゃないんでしょうか?」
「どうせ、彼女の事ですからまた自分で勝手に作ったんじゃないですか?」
冷めた口調でそう言った本男にエレアは苦笑しながら瑞慧を見た。
「ルールは簡単」
戸惑う参加者を尻目に楽しげに続ける瑞慧。
「タテ・ヨコ・ナナメの数字が一列でも揃えばアウト!失格となります♪」
「そんな〜!」
ビンゴに自信のあるファンは非難の声を上げる。
だが、それは彼だけではなく会場のそこここからファンと同じ様な声が聞こえる。
しかし、そんな事でめげる様なヤツではなく、瑞慧は無視して続ける。
「どんどん数字を引いて行き、最後までビンゴにならなかった人には豪華賞品を差し上げます!」
簡単でしょ?と最後に付け足した瑞慧に参加者の一人が手を上げた。
「なんで、普通のビンゴじゃないんだ?」
もっともな質問。
「だって、私ビンゴ揃った事ないんだもん」
と、まぁなんとも個人的な理由をあっさりと述べた瑞慧。
きっと、ビンゴしたら負けというルールのゲームなら勝てるとでも思ったのだろう。
瑞慧は弾むようにゲームを始めた。
「…ビンゴになっちゃダメ。…ビンゴになっちゃだめ」
まるでおまじないのように呟くファン。
だが、彼の幸運(今はそう呼べるかどうか分からないが)は簡単に無くなるはずが無かった。
「ナンバー42!」
初っ端から数字を引き当てたファンは嬉しいような嬉しくないような変な気持ちでカードを見ていた。

「あら。また当たり」
パチっと当たった数字を折り曲げるエレア。
彼女もまた順調に数字を引き当てていた。
現在、出た数字は七個。
もっとも早い脱落者が悔しそうにカードを床に叩き付けていた。
「しかし、変な事を考えるものだ」
パチっと本男はやっとひとつ、数字を折り曲げるとそう言った。
「そうですね……っと、17番17番…ないわ」
「……私もなし。ま、バザーのお陰で本を手に入れられただけで私は満足ですがね」
また一口、ワイングラスを傾ける本男。
「私も、満足です。これで確信をもってランの商品をエルザードで販売できます」
エレアは本男を見た。
「私、一度ランに帰るので、最後にこうやってお話出来て嬉しいですわ」
そう言った彼女に本男は目を細めた。
「いいえ、こちらこそ。仕事、上手くいくと良いですねぇ」
「有難う御座います」
良い雰囲気で笑んだ二人を元に戻すかのように、6番という声が響いた。

「次は38番で〜す♪さぁ、だいぶ人数が減って来ましたねぇ。一体最後に立っているのは誰なのか!?」
ビンゴになってしまった人数がとうとう半分を越え、瑞慧は次々と数字を読み上げていった。
ファン少年はなんとかビンゴにならずに来ていたが、とうとうヨコ一列開いてしまった。
「あ〜あ……ビンゴになっちゃったぁ。つまんないの」
ぽいっとカードをテーブルの上にほおり投げ、ファンはまたお菓子に手を伸ばした。
だが、何か違和感に気付きその動きが止まる。
「……えほん。ボクの本がない!!」
そう。絵本をテーブルの上に置きビンゴに夢中になっていていつの間にか無くなっている事にファンは気付かなかったのだ。
「本!本!ボクの絵本〜〜?!」
慌ててテーブルの上を見、テーブルカバーをめくって下を探し、辺りを見渡す。
だが、その姿形はかけらも見つからない。
「うっ…ううっ……うわぁ〜〜ん!!」
とうとう泣き出してしまったファンだが、その大きな泣き声に会場の目が一気に集中する。
「おや〜?迷子かな?」
瑞慧もビンゴの手を止め、首を捻る。
泣き続けるファンに優しく声がかけられた。
「どうしたの?君」
問い掛けたのはエレア。
お救い小屋の女主人と呼ばれる彼女にとって、困っている人はほって置けないのだろう。
ファンと目線が同じになるように屈んで、エレアは優しく涙を拭ってやる。
「うっ…あ、あのね……グスっ…ボクの、え、絵本が……な、無くなっちゃったの…」
嗚咽交じりにそう言ったファンはまたポロポロと涙を零し始めた。
「そう。可哀相に」
エレアは優しくファンを抱きしめ、背中を撫でてやる。
人の優しさに触れて、ファンはまた声を上げて泣き始めた。
「お〜っと、なんとなんと!あんな小さな子供の絵本がなくなってしまいました!!皆さん、探してあげようじゃありませんか!」
ゲームを一時中断し、そう言った瑞慧に拍手が起こる。
皆、ファンに励ましの言葉をかけ、その小さな頭を撫でたりして、会場全体で彼の本を探し始めた。
「さっ、涙を拭いて。私達も探しましょ」
「う、うん!」
涙を袖で拭い、ファンは大きく頷いた。

「絵本……」
ゲームが宝捜しへ変わっても、本男は相変わらず椅子に座り我関せずといった感じで会場内を見ていた。
と、一人の男に本男の目が止まった。
皆があちこち探している中、その男は一緒に探すふりをしながらも、どこか周りを気にして出口に向かって歩いている。
脇には立派な装飾の大きな本。
本男はゆっくり立ち上がると、静かに男に近づいた。
「……絵本、見つかりませんねぇ」
突然声をかけられ、男は勢い良く本男を振り仰ぐが、すぐに平常心を装って返事を返した。
「あ…あぁ。そうだな」
「ところで」
本男は懐から白い手袋を取り出し、手にはめながら続ける。
「その本。実に珍しい物のようですねぇ。是非、拝見させて頂きたい」
物腰柔らかに男に向かって白手袋をした手を差し出したが、どこか有無を言わせぬ雰囲気に男は一歩後ずさった。
「そうそう。そういえばその本、可愛らしい少年に譲ったんでしたっけ」
しれっとそう言った本男に男の顔色が変わる。
次の瞬間、男は体の向きを代え駆け出した。
「黒狼!」
本男の言葉に呼応するように、一匹の黒い狼が本男の影から飛び出すように現れ、逃げる男の背中に駆けた。
「う、うわあぁあっ!?」
床に転がる男に前足を乗せ、その口には大事そうに美本が咥えられていた。
「よくやった」
狼から本を取り、本男は優しく表紙を撫でた。
「まったく……これは歴史的にも非常に貴重な、芸術としても価値の高い絵本なのですよ?それをそんな小汚い手で持ち歩く神経を疑いますね。教養よりも育ちの問題でしょうかねぇ。ま、小さな子供から物を盗む事からしてその人間性の小ささが知れるというものですがね」
口調は穏やかながら、辛辣な言葉を遠慮せず並べ立てる本男。
流石にカチンと来たのか何か言い返そうと睨んだ男の前に、黒い狼がその白い牙を見せる。
「良いですか?この絵本は今から五十年程前、デルファンという小さな村をその活動場所としていた有名な童話作家ゲイル・ウィルバーが創り上げた……」
「あ、ボクの絵本!!!」
つらつらと男に向かって薀蓄を垂れ始めた本男を遮るように大きな声がし、ファンが人影から飛び出して来た。
「良かった〜」
本男の手の中の本を見上げ、ファンは大きく息を吐いた。
「本男さんが見つけてくれたんですか!良かったわね」
エレアもほっと安心したように息を吐いた。
「なんですか……人が折角この男にこの絵本の素晴らしさと説こうとしていたというのに…」
明らかに不満気にそう言った本男はファンの顔を見もせず、絵本を返した。
それでも何やらぶつぶつと言いながら、椅子へと戻る本男は酔っている。
ワインはたった一杯しか飲んでいないが、それでも酒の強くない彼にとっては充分な酒量だった。
どうやら彼は酔うと、語り癖があるようだ。
「さぁ、立て!」
逃げ場を無くした男を掴み上げ、参加者の一人である屈強そうな男が犯人を然るべきところへと連れて行った。
「良かったわね。でも、次から気をつけるのよ?」
「うん。わかってる!ボク、もう放したりしないよ」
そう言って、腕に力を込めたファンの頭をエレアは優しく撫でた。
「さ〜って。犯人も捕まり、絵本も無事戻って来たところで、再びゲームの再開で〜す♪」
瑞慧のひとりテンションの高い声に皆、苦笑を漏らした。

◆それぞれの帰路
「今日はありがとう、本男さん!」
「いいえ…」
本を大事そうに抱えて言ったファンに本男は軽く首を振る。
「ふふふ……でも、まさか本男さんが優勝するなんてね」
思い出し、笑うエレアに本男は眉を歪める。
「NOT・ビンゴ大会」の栄えある優勝者、本男にはそれは素敵な商品―第二回エルザードバザー出店無料券が送られた。
それを受け取る時の本男のあからさまに嫌そうな顔を意に介さず、瑞慧は無料券を押し付けたのだった。
「まったく…本じゃないにしても、せめてもう少しマシな物にしても良いはずでしょうに」
「でも、そしたら今度もボクがお手伝いしてあげる!」
本男を見上げ、そう言ってにっこり微笑んだファンにエレアも手を打つ。
「それは良い考えね。良かったですね〜本男さん」
にこにこと本気でそう言ってるのか、エレアも本男を見た。
そんな二人の視線を受け、本男はやれやれと頭を振った。
「では、お二人とも。しばらくお別れですわね」
迎えの馬車の前に立ち、エレアは言った。
「また、いつかお会いしましょう」
「ありがとう、エレアさん!」
そう元気よく言ったファンとは対照的に本男は静かに微笑み頷いた。
エレアの乗った馬車が辻の角に消えるまで二人は見送り、本男は言った。
「さて、私たちも帰るか」
「うん。…また、送ってってくれる?」
上目遣いにそう訊ねて来たファンに本男は意地悪く笑んで、自分の馬車へと歩き出す。
「どうしましょうかねぇ?本を大事にしない人は乗せたくないのですが……」
「するする!ボク、大事にするよ!!」
慌てて追いつきながらそう言ったファンを見下ろし、本男は言う。
「絶対?」
「ぜったい!」
「なら、送ってあげましょう」
「ありがとう!」
感情豊かに表情を変えるファンに本男はくつくつと笑う。
「?…どうしたの?」
何故本男が笑っているのか分からないファンは首を傾げる。
「いや……なんでもないですよ。では、帰りましょう」
「うん!」
すっかり日が落ち、空には星々が瞬いていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【0673/ファン・ゾーモンセン/男/9歳/ガキんちょ】SN01
【0589/本男/男/25歳/本の行商人】SN01
【4077/エレア・ノーア/女/24歳/貴族】MT13

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■         ライター通信          ■
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壬生ナギサです。
まずは、納期を過ぎての納品申し訳ありません!
言い訳は何も申しません。
本当に申し訳ありませんでした。

酔うとどうなるかはお任せ、とありましたので
ちょっと理屈っぽくなる語り癖を付けてみました。
同じテーマで二時間も三時間も喋っている……
そんな感じで(笑)

本編の内容は他の参加者PCと若干違っております。

では、次回もご都合が宜しければよろしくお願い致します。
又、今後はこのような事が無いよう気をつけて行きます。
では。