<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


<Minstre-L> 見習い吟遊詩人の冒険?

〇オープニング


 白山羊亭に、楽しげな曲が流れる。
 時々音を間違えたりするけれど、それはご愛嬌という事で。
「ありがとうございましたぁ♪」
 そんな明るく可愛らしい声が、響き渡る。
 声の主は、ファリア・ウェヌス。エルフの、先日吟遊詩人としてデビューした少女だ。
 身長等は高いのだが、何故だか子供のような、そんな印象を受ける女の子。
「ファリアちゃん、ご苦労様〜、こっちの方、手伝ってくれる〜」
 白山羊亭のウェイトレス、ルディアがファリアを呼ぶ。そこには出来たての料理が山のように積み重なっている。
「あ、はい、今行きますぅ……きゃっ!」
 お決まりのように、そこへ駆けてくる途中で転んだりするファリア。
「大丈夫? 慌てなくていいから、気をつけてね?」
「はぁいですぅ……」
 顔を真っ赤に染める、ファリアの頭を撫るルディア。傍から見れば、仲の良い姉妹のように見えた。

「……うーん……。どうしたものかなぁ」
 白山羊亭の主人が、ファリアを見て悩んでいた。
 ファリアも19歳。冒険者として、そろそろ経験を積ませるのが必要だと思っていた。
 彼女の親、その姿を探すには、街の中に居るだけでは、いつまでたっても見つからないだろうから。
 そして、カウンターに居る冒険者達に、話しかける。
「なぁ、もし良ければ、ファリアを連れて、この依頼に行ってくれないか? 単なる買出しだがな、途中で山賊が出るって言う話なんだ。あの子だけだと不安だし……それに、ファリアも、そろそろ外の世界の事を見たほうがいいだろうしな?」
 白山羊亭の主人の、含みのある笑顔、借りのある冒険者達が、依頼を断れる事は出来なかった。

○出発!

「え……えっとぉ……皆様、宜しくお願いいたしますぅ……」
 冒険用の服に身を包んだファリアが、待ち合わせの場所へと到着する。
 全ての装備が真新しく、つい2,3日前に買ってきたばかりだと、その場にいる誰もが分かる。
「はは、そんなに硬くならなくても大丈夫だぜ? みんな見知った顔だろ?」
 金色の髪が印象的な、シーナ・リュートがまず始めに声をかける。
 シーナの言う通り、ここにいる二人はどちらも白山羊亭で逢った事のある面々だ。
「シーナさん……そうですけどぉ……でも、店の外で逢った事はありませんし……その……御迷惑をおかけするかもしれませんからぁ……」
「始めての冒険だろ? 誰だって始めは初心者さ。 ま、大船に乗った気持ちで俺たちに任せてくれよ、な? カーライル?」
 隣で、腕の中に黒猫のタンゴを抱きながら、声をかけられた男は静かに口を開く。
「ああ……ま、ただお使いに行って帰ってくるだけだ。途中で山賊が出たら、それをやっつける、それだけの仕事だからな。ま……あまり物見遊山気分でなければ大丈夫さ」
「まぁ、そういう事さ。ファリアちゃんは、俺達がちゃんと守ってやるから、心配するな、な?」
「はい……分かりましたぁ……一生懸命、頑張りますぅ……」
「それじゃ、出発するとするか……」
「おぅ、行こうぜ!」
 武器を持って立つ面々。
 そして、街を出るときには、ちゃっかりとシーナがファリアの横の位置を陣取っていた。

○巨大ロボット出現?

 街を出て数時間。まだ日は高く昇っている頃。
 まだ山賊は出てなく、のんびりとした空気が流れていた。
「俺、こうしてファリアちゃんと冒険出来るなんて、思っても見なかったな。ほら、いつもファリアちゃんって、白山羊亭で歌を歌ってるだろ? こんな機会、無いと思ってたよ」
 ファリアの隣で、ファリアに話しかけるシーナ。
 今までこうやって、男性と1対1で話した事が殆ど無かったファリアは、顔を真っ赤にさせながら答える。
「……そう、ですか……? 私も……冒険に出るなんて、思っても見なかったですぅ。……でも、カーライルさんと、シーナさん……何度も冒険に出かけていますから……ちょっと、安心してますぅ……」
 小さな微笑で、言葉を返した後に、再び真っ赤になるファリアだった。

 そんなこんなで、街道を進んでいくと、目前から気配を感じ取る。
「……シーナ、誰かいるぞ。 ファリア、俺の後ろに隠れてろ」
 武器を構えるカーライル。
「そうみたいだな……ま、ぱっぱと山賊を倒すとするか」
 同様に、弓を準備するシーナ。だんだんと近くなる気配。
「……シーナ。来るぞ」
 弓矢を構える。そこに。
「待ってください、私は敵じゃありません、皆様の仲間です」
 ずーんと、遥か高い上空までの体躯を持つロボットが、三人の前に現れる。
 名前をソウセイザーという、巨大変形学園のロボットだ。
 全長57mで、遥かに高さの及ばないファリア達は、ただ見上げるだけしかなかった。もちろん、攻撃など出来るはずも無い。
 その場にいた三人は、ただ唖然とするばかり。
「私はソウセイザー。白山羊亭の主人様の言葉を聞きまして、自分も何かお手伝いが出来ないか、と思いまして参りました。どうか、同行させていただけませんでしょうか?」
 暫く四人の間に静寂が流れる。一番最初に声を出したのはファリアだった。
「え……えっと、その……あの……お、お願いしますぅ。シーナさんも、カーライルさんも、構いませんよね?」
 さすがに突然すぎて、そして意外すぎて。咄嗟に判断出来なかったようだ。
「ぁ、ああ。別に、仲間は多いほうがいいだろうしな」
「ありがとうございます。街まで、私の肩に乗って下さい。街の近くまでお連れします。街の中に入ると、パニックになってしまうかもしれませんので……どうぞ」
 そう言うと、ソウセイザーが手を下ろしてくる。ファリア達が手のひらに乗ると、ぐんぐんと上昇して行く。
「うわぁ……すっごく高いですぅ……」
「私は、全長57mありますので……高くて怖いかもしれませんね、すみません」
 本当に申し訳なさそうな声を出すソウセイザー。その巨体からは想像もつかない程の、優しく感情に富んだ声であった。
「では……移動します」
 そう言うと、動き始めるソウセイザー。
 動きはスムーズで、本当にロボットの上なのか、とも言える程に、ゆれないでいた。
 しかし、ソウセイザーは。
「揺れますか? 申し訳ありません」
 と、肩の三人に向けて謝っていた。
「いや、ぜんぜん揺れていない。 むしろ、歩きより快適なくらいだ。 ありがとうな、ソウセイザー、だったっか?」
「はい……ありがとうございます」
 そうして、ソウセイザーのお陰で、2週間かかる筈のキュリアの街への道のりは、たったの丸一日で到着してしまうのであった。

●夜空の下で〜悩み〜
 
 ソウセイザーがキュリアの街へと向かう間。
 空は暗くなり、闇に包まれた。
 誰もが寝静まった頃。
 むくりとファリアは起き上がる。
「……どうしました、ファリアさん。 揺れて眠れませんか? 申し訳ありません」
「ううん……違うんですぅ……ちょっと……考えてることがあってぇ……」
「そうですか……もし良ければ、私が相談にのりますけれど」
「え、でもぉ……それは……そのぉ……」
「……そこでは他の方々に聞かれて困るでしょうね。あまり片付いて無いですが、もしよければ……二人きりで話せる場所、ありますよ」
 そう言うと、ソウセイザーの肩が、僅かに開く。
「入ってください。ここなら、誰にも声を聞かれずに話せますから」
「……ありがとうございますぅ……」
 と言って、ファリアはソウセイザーの中に入った。

「……私の歌……本当に、皆の為になっているのか、他の人を癒しているのか不安なんですぅ……」
 ソウセイザーの中は、学校のようになっていた。そして、ファリアがたどり着いたのは、保健室のような場所。
「私は、ファリアさんの歌を聞いた事がありませんから分かりませんけれど、でもきっとなっていると思います。ファリアさんの声、とても綺麗では無いですか? その声で歌っているのですから」
 看護ロボットの心を持ったロボットのソウセイザー。だからこそ、人の悩みに対しては親身になって応じていた。
「……声は、残してくれたものの一つだからぁ……それしか、私が皆に対して、頑張れることが無いからぁ……」
「自信を持ってください、一人で悩んでないで。 私で良ければ、相談には乗らせていただきますから。 ……もし良ければ、これを食べてください。落ち着きますよ」
 ソウセイザーの声が響いた後に出てきたのは、クッキーや紅茶だった。
「これ……なんですかぁ?」
「私の作った、クッキーと紅茶です。 ……お口に合えばいいのですが、もし合わない場合は申し訳ありません」
 そして、ファリアはクッキーを一口食べる。
「美味しいですぅ……これなら、誰にも美味しいって、きっと言われるですよぉ」
「そう、でしょうか? あまり、普通の人とは逢えないもので、好みが分からないのですが……良かったです」
「でもぉ……」
「どうしました?」
「あのぉ……これにもう一つ、あるものを加えれば、もっと美味しくなりますよぉ。もし良かったらぁ、教えますけどぉ……」
 遠慮しがちに言うファリア。
「……はい、ありがとうございます。ぜひ、教えてくださいませ」
 と、ソウサイザーは答えた。

○キュリアの街

 時間はもうそろそろ夜になりそうな時。
 街からソウセイザーが見えない場所、という事で、少し離れている場所で。
「街につく頃には、夜になってしまいますね……皆さん、私に構わず、夜は街で休んで下さい。私はここで、皆さんが戻ってくるのをお待ちしています。明日の朝には戻ってこられるでしょうから」
 と言って、ソウセイザーは三人を肩から下ろす。
「あの……ソウセイザーさん、家庭科室に、お菓子作っておきましたから……もしよければ、食べてくださいね?」
「はい、ありがとうございます……ファリアさんも、お使い頑張ってくださいね?」
「……うん……ありがとうございますぅ」
 にっこりと答えるファリア。
「じゃ、そろそろ行くぞ? 永遠の別れじゃないんだから、ファリアも早く用意しろ」
 カーライルにせかされ、慌てて準備を整えるファリア。
「それじゃ……行って来ます、ソウセイザーさん」
「はい……いってらっしゃいませ」
 そう言い、三人はソウセイザーと別れた。
 手を振るソウセイザーの姿は、1時間歩いた先からも見えていた。

 エルフの森の傍らに立つ街、キュリア。森と共存する街。
 街につく頃には、もう空に月が出てきて、街はそろそろ夕飯という時間であった。
「そういえば、宿屋をとっておかないとな。俺が取ってくるから、二人はお使いをすませてきてくれよ、じゃな!」
 そう言うと、シーナは走り出す。何故そんなに急いでいるかは、二人には分からなかったが。
「え……えっと、じゃあ……カーライルさん、行きますねぇ……」
 白山羊亭のマスターから預かった地図を取り出し、地図を見るファリア。
「……えぇっと……今、ここで……行く雑貨屋の場所は、大通りから少し奥の、この店みたいですねぇ……」
「……ファリア、地図が逆だ。これはこっちが上だ」
 地図をファリアの手から抜き取り、逆にして渡してやるカーライル。
「あ……ぅ、あ、ありがとうございますぅ……」
 再び顔を赤くするファリア。
「気にするな……まだ始めての冒険だ。地図が見れなくても仕方がないさ」
 無愛想な表情で、ファリアに接するカーライル。
 傍から見れば怒っているように見えるのであるだろうが、ファリアはその奥の優しさを感じていた。
「ほら、行くぞ」
 と、ファリアの手を引いて、カーライルは雑貨屋へと向かった。

 そんな二人を送り出したシーナは、宿屋を探しながら。
「なかなか、部屋が2部屋両隣が空いている部屋がないなぁ……」
 とぼやいていた。

○ ソウセイザー〜巨大な体躯〜

 そして朝になり、帰還の途に着く三人。
 ソウセイザーの元へと着くと。
「お早うございます、また、肩に乗せますね」
 と、手を下ろしてくるソウセイザー。行きと同じように肩に乗せられて行く。
 暫く移動してて、ファリアが思い出したかのように。
「……そういえば、盗賊さん……でてきませんねぇ……」
 望んでいるわけではないのだが、全くと行っていいほど盗賊が出てこない。
「私のせいですね……すみません」
 巨大な体躯。
 57mもある体躯が動いていては、山賊もさすがに出てこれるはずが無い。
 山賊も人間。宝よりも、命が大事だろう。
「いえ、出てこないに越した事は無いって、マスターも言ってましたからぁ……ソウセイザーさんのおかげですぅ……ありがとうございますぅ……」
「ありがとうございます……。そう、ファリアさんが教えてくれたやり方に従って、お菓子を作ってみました。どうぞ、食べてください」
 そういうと、三人の前にお菓子と紅茶が。
「わぁ……ソウセイザーさん、昨日教えた事、もうやってみたんですねぇ……すごいですぅ……」
「ファリアさんが、詳しく教えてくれたからです。始めてやってみましたけれど、どうでしょうか?」
「うん……おいしいですぅ」
「良かったです。 どんどん食べてくださいね?」
 巨大なロボットと、少女の会話。シーナもカーライルも、ソウセイザーがロボットである前に、一人の女性であるというのを、二人の会話を通じて感じていた。

○帰還

「では、ここでお別れですね。皆さん、気をつけて、都まで帰って下さいませ」
 エルザードまで数時間と言う所で、ソウセイザーは全員をおろす。
「……ソウセイザーさん、お別れなんですかぁ……寂しいですぅ……」
 何だか泣きそうなファリア。
「……泣かないで下さい。ファリアさん。なにもここで永遠のお別れとは決まった訳ではありません。またいつか、どこかできっと出会えますよ」
「……ぅぅ……本当、ですかぁ……? 約束、してくれますかぁ……?」
 寸での所で涙を堪えるファリアに。
「ええ、約束です。 ……いつか、また会いましょうね」
 そう言って、再び立ち上がるソウセイザー。
「……分かりましたぁ……じゃぁ……ソウセイザーさん、また……今度ですぅ」
 ソウセイザーが山の方へと消えていくのを、三人は手を振って見送っていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

〜MT12・エターナルヴォイスMT〜
【 6176 / シーナ・リュート / 男 / 19歳 / スカルホースナイト 】
【 5865 / カーライル・スターウィード / 男 / 18歳 / 冒険家 】

〜SN01・聖獣界ソーン〜
【 0598 / ソウセイザー / 女 / 12歳 / 巨大変形学園ロボットの福祉活動員】

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■         ライター通信          ■
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皆様、始めまして♪
ソーンでは初依頼になります。ライターの燕(つばめ)と申します。
まずは、ご参加いただいた方々、どうもありがとうございます。
聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記・<Minstre-L>見習い吟遊詩人の冒険?をお届けします。
ちなみに、これはシリーズ物となっています。同じNPCを主軸にして執筆して行きます。

本当は山賊を出すつもりでしたが、さすがに57mのロボットの身長の前にはびびって出てこれませんでした(汗)
なので、戦闘メインではなく、道中をメインにして書かせていただきましたので、ご了承下さい。
依頼は、問題なく大成功です。荷物も、期間も余る位ですしね。

ちなみに、リアクションは各々少しずつ違っている部分があります。
又、サブタイトル部分で●となっている部分は個別部分となっていますので、他の参加者のも見て見て下さいね。

では、又の冒険でお会いできる事を……。

ソウセイザー様>ファリアからの印象は、現在【悩み事を相談出来る方】です。
ロボットが来るとは思って無かったので、盗賊は出番は無かったです(汗)
ソウセイザー様を、上手く表現できたか不安ですが……どうでしょうか?
ご感想等、お待ちしております。