<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


聖獣機神レオンマックス 最後の危機編
●撮影最後の落とし穴?
 今月もまた映画撮影の時期になった。今回で最終話となるレオンマックスには、既に多くのファンが声援を送るほどに成長を遂げていた。
「今回は最終話ということで、クライマックスには巨大ロボット、レオンマックスと、ダークの操るロボ、ダークウルフとの戦い、それにレオンとティアラの恋の行方や、ダークの最後と目白押しだからね。あたしも気合いが入るってもんよ♪」
 セアラは白山羊亭にて、他のスタッフとの打ち合わせをしていた。
「それにしても‥‥エトラ、遅いわね‥‥」
 今日は映画で世話になっているスポンサーに挨拶回りの日であった。いつもなら、もう既に帰ってきている時間だ。
 と、白山羊亭の扉が開かれた。
「セアラちゃん‥‥どうしましょう‥‥」
 真っ青な顔でエトラが戻ってきた。
「どうかしたの? エトラ‥‥?」
「スポンサーが‥‥もう、資金を用意出来ないって‥‥」
「ええええええええええ!????」
 その驚愕の事実にセアラだけでなく、その場にいたスタッフ達も目を剥いた。
「どうして? あんなに人気なのに!?」
「理由は分かりません‥‥だから、私も何度も頼んだのですが、ダメでした。次回で最終回なのに‥‥このままでは撮影出来ません‥‥」
 エトラはほろりと涙を浮かべた。
「‥‥泣いたって仕方ないわ。あたし達で、資金を集めましょう!! あたしはバイトをするから」
「セアラちゃん‥‥」
「ねえ? 皆だって協力してくれるわよね!!」
 セアラの言葉にスタッフも頷いた。
 最後の収録は、まだ終わっていない。
 全てはこれからなのだから‥‥。

●淋しい撮影会場
 爽やかな日曜日。忙しいはずの撮影会場は穏やかな時を刻んでいた。
 いや、閑散としていたというべきか。
 いつもなら既に撮影準備などで賑わう場所。しかし、今日は少し違っていた。
「あなたが死んで良くなることなんてありません! あなたがいなくなって‥‥あれ?」
 主役レオンを演じるクリス・メイフォードは一人、広い会場で黙々と練習をしていた。早々に台詞を間違えているようだが。
「うーん、もっと練習しなくっちゃ‥‥それにここはもっと心を込めてやらないと‥‥」
 台本を片手に一生懸命、練習を続ける。
「皆が頑張って資金を集めている間に、僕は僕の出来ることをする‥‥いい映画になるよう、もっともっと頑張らなくっちゃっ!!」
 むんと、気合いを入れて、もう一度稽古を続ける。
「僕は‥‥ティアラ様を守れればそれでいい!! マリア様から託された思いを‥‥」
 その稽古は夜遅くまで続けられたのであった。

 一方、レオンマックスとして使われるゴーレムが置かれた倉庫でも。
「うっわ〜!! これがレオンマックスなんだぁ!! すっごーい!!」
「あっちにはダークウルフもいるよっ!! すごいね、エクエス☆」
 エクエス少年とリール嬢、二人の子供が遊びに来ていた。
「どう? 喜んで貰えたかな?」
 そこに現れたのはシルヴィアーナ・シュファーズだ。今はこの映画スタントの総責任者にまでなっていた。主にゴーレムスタントを担当している。女性でありながらも、そのゴーレム操縦には誰にも負けない能力を持っていた。
「うん、すごいよっ!! こんなにおっきいんだね!!」
「ええ、そうよ。‥‥そうだ、一緒に乗ってみる? もちろん、リールちゃんも一緒にね」
 二人は暫く顔を見合わせ、驚いていたが‥‥。
『乗りたいっ!!』
 声を揃えて叫んだ。
「じゃあ決まりね。二人とも、こっちに来てくれる?」
 シルヴィアーナは二人を案内しながら、コクピットへと向かう。
「あの、さ‥‥ヴィアナお姉ちゃん」
「何?」
 おずおずとエクエスが訊ねた。
「映画、大丈夫なの? 全然撮影していないんでしょ?」
 そんな言葉にヴィアナは苦笑した。こんな小さな子供がこの映画のことを心配しているのだ。
「大丈夫よ。ちゃんと撮影出来るわ。そのために‥‥皆、頑張っているんだから」
 でも、未だ再開の目処は立っていなかった。けれど、多少の嘘でも‥‥いや、是が非でもこの映画を無事撮影し、彼らに見せてあげたい。その意識を持てば、きっと。
「ねえ、お姉ちゃん?」
「あっとごめんなさい。ちょっと考え事しちゃったわ。さて、お楽しみのコクピットに乗ってみましょうか?」
 きっと、叶うはずだから。

●足りない資金を得るために!!
「全くどうしたものか‥‥」
 山桜ラエルは街を歩きながら、撮影資金調達のためにどうしたらいいのかと思案していた。
「ああ、いいこと思いついたよ、えるちゃん☆」
 隣で双子の弟、デュナン・ウィレムソンが楽しそうに続ける。
「こないだえるちゃんが押収したアレを売れば、一発解決☆」
「押収したアレ‥‥だと?」
 ラエルは記憶をたぐり寄せる。確か、昨日、麻薬常習犯を見つけ、逮捕した。その際押収したのが、ヤバイ葉っぱ‥‥麻薬である。ちなみにラエルはこれでも有能な警部さんだったりもする。
「だって、アレ、高く売れるって‥‥げふぅ〜」
 容赦なくラエルはデュナンに回し蹴りを一発お見舞いした。
「マトモに働け」
 そういうラエルの瞳はマジだ。
 と、そらからビラがぱらぱらと降ってきた。ラエルはその一枚を手にする。
『映画、レオンマックス最終話のスポンサー募集中!! 詳しくは白山羊亭のエトラまで』
 見上げるとアズラエル役のエセル・ゼニフィールが、グリフォンにまたがり、上空からビラを撒いていた。
「少しは見習って欲しいものだ‥‥」
「うう、冗談だったのに‥‥」
 お腹をさすりながら、デュナンは涙を流していたのだった。

 白山羊亭の食堂。そこでも資金調達に力を貸す者がいた。
「エトラさん、これを使って下さい」
 アレックス・バードナーが落ち込むエトラに渡したのは、沢山のお金の入った袋であった。
「アレックスさん!? こんな大金‥‥どうやって?」
「今までの映画の報酬ですよ。本当は別の用途に使う予定でしたが‥‥止めました。それよりも、私も映画を撮りたいと思うんです。子供達も街の人達も楽しみにしてくれていますしね」
「アレックスさん‥‥」
 エトラの潤んだ瞳。それは嬉しさからの涙だった。
「お熱いことやな、お二人はん」
 そこへ現れたのは、イリアス・ファーレロンと手伝いにきたセルジュ・ゼニフィールだった。
「せやけど、映画にはちーっとばかし足らんとちゃいまっか?」
 イリアスにそう言われ、エトラは俯く。
 大金といえども、それはやはり、撮影資金としては足りない額であった。
「でも、ないよりはましですっ!!」
 負けじとアレックスは叫ぶ。
「なんやて?」
 アレックスとイリアスが喧嘩しそうになるのを止めたのはセルジュだった。
「こらこら、イリアス。そう突っかかるな。相手はまだ子供だぞ? それに‥‥ここに来たのは別の理由で来たんだろう?」
 しぶしぶ二人はつかみかかっていた腕を解いた。それにほっとするセルジュとエトラ。
「そうやったわ‥‥。何か大人げないことしてしもうたな。‥‥わい達が来たのは他でもない、スポンサー探しに行くで」
「スポンサー、探し?」
「じっとしているよりも、足を使って探したらどうだい? 大丈夫、多少遠くても、俺のグリフォンが君達を運ぼう」
 イリアスとセルジュ、彼らはスポンサー探しのためにここへ来たのだった。
 アレックスとエトラは顔を見合わせ、暫く考えていたが、心を決めたようだ。
「ほな、行きましょか? ‥‥あっと、言い忘れてたわ」
 イリアスは思い出したように付け加える。
「最悪の場合、あんたを担保にする。ええな?」
 そう言ってエトラを親指で指し示しながら告げた。
「なっ!!」
「ええ、それで構いません」
 どうやらエトラは心に決めたようだ。
「ええ心がけや。映画っちゅうもんは、その『覚悟』で作らんとあかん。‥‥嬢ちゃん、気に入ったで」
 その言葉にアレックスがイリアスのことを睨んでいたが、気にせずスポンサー探しへと向かった。覚悟を決めたお陰か、見事、多くのスポンサーを得られたことは言うまでもない。

●スポンサーの思惑
 デュナンはその後、広場で演奏し、お金を得ることに成功を収めていた。
「ちょっと少ないかもしれないけど、大丈夫だよね?」
 金貨の入った袋を抱えながら、帰路へと向かう。
「そういえば‥‥エトラちゃんが前にスポンサーを頼んだっていう、ダヤンさん‥‥どっかで聞いた名前なんだよね。‥‥何処だったかな?」
 むうっと眉を潜める。と。
「ダヤン様、いいのですか?」
 デュナンの目の前を背の高いエルフの青年が横切った。
「お前が口出しすることもないだろ? サレオス」
 その前には黒髪で頬にそばかすのあるやんちゃそうな、少年のような青年がいた。
「え? ダヤンって‥‥も、もしかして‥‥あの人がエトラちゃんの元スポンサーっ!?」
 デュナンは思わず、手にしていたお金の袋を落とした。
「思い出した‥‥この街に三本の指に入るほどの資産家の一人が‥‥まだ若い青年、ダヤン・ドレンアークだって‥‥」
 落ちた袋を拾いながら、デュナンはそのことをラエルに告げるため、急いで駆け出したのであった。

「へ、へえ‥‥案外広いのね?」
「え、ええ‥‥す、凄いです。いえ、凄すぎ‥‥です」
 ここはドレンアーク財団の事務所であった。事務所といっても、当主の自宅も兼ねているので、事務所らしさは全く感じない。むしろ、資産家に相応しい豪邸のような佇まいであった。そこに二人は来ている。メリッサ・ローズウッドと、ノエル・マクブライトだ。今は当主を待つため、立派なソファーとテーブルのある客間に通されていた。
「まさか、こんな豪邸の人がスポンサーだったなんて‥‥知りませんでした」
「私も聞いていないわ」
 しかも、二人はこの建物の姿を目の当たりにして圧倒されている。
『ちゃんと探れるかしら‥‥』
 メリッサは珍しく弱気になっていたが、それを振り払うように首を振る。
「こんなところで負けては駄目よ。気合いよ気合いっ!!」
「め、メリッサ‥‥さん?」
 自分で気合いを入れているメリッサにノエルは汗を流して見つめていた。
「気合いは充分みたいだな?」
 そこへ現れたのは。
「へ?」
「ほえ?」
 一人の少年。いや、少年のように見える若い資産家。きちっとしたスーツをいとも簡単に着こなし、その脇には背の高い青年が控えていた。
「君達が俺に用だって聞いたけど?」
「あ、あの‥‥」
 突然の登場と思いがけないスポンサーの姿に驚いて、メリッサの声が小さくなった。
『ああ、駄目、こんなんじゃ聞きだせっこないわ。気合い、そう気合いよ!!』
 びしっとダヤンに指差しながらメリッサは言う。
「ちょっとあんた!! 何様だか知らないけど、大人気の映画、レオンマックスに資金を出さないってどういうことなのっ!? 待っているお客様だっているんだからね!!」
 早口でまくし立てるメリッサ。それをはらはらと見ているノエル。
 と、ダヤンが突然、笑い出した。
「あはは、君達そのために来たのか? 嫌だな。俺はスポンサーを降りるなんて一言も言っていないぜ。まあ、『暫くの間、撮影資金を出すのを見合わせる』そう言っただけだ」
 そんな意地悪い台詞、それでメリッサの頭に火がついた。
「何ですってっ!! 金持ちだからって、そんな我が侭、許されると思っているのっ!!」
 メリッサはぐいっとダヤンの首元を掴み、揺さぶった。
「ダヤン様!!」
 すかさず、お付きの青年がメリッサを引き剥がそうとしたが、ダヤンは無言のまま、手で青年を止めた。大人しく引き下がる青年。メリッサもその様子にやる気が失せたのか、ゆっくりと手を離す。
「一つ聞いても良いかしら? 何故そんなことを?」
 襟元を直しながら、ダヤンは告げる。
「俺は、エトラの心意気を知りたかったかもしれないな」
 いつになく真面目な口調でダヤンは告げる。
「映画は周りだけの力だけでは出来ない。作る本人の心意気‥‥いや、覚悟も必要だと思うんだ。大作だからこそ、その最終話だからこそ、最上の作品を作って欲しい。俺はそう思う。‥‥最も俺も、あの映画のいちファンなんでね」
 そう言って少年らしい笑顔を見せた。
「それじゃあ‥‥またスポンサーになってくれるんですか?」
 嬉しそうにノエルが言う。
「どうだろう? まあ、アイツの出方次第、かな?」
 こうして、二人は去って行く。結局、ノエルはダヤンを説得することは出来なかったが、ダヤンが資金を渋ったこと、それに理由があることを彼らは知るのであった。

 数日後、エトラ達の集めたスポンサーのお陰で、映画撮影が再開され、無事、撮影を終えることが出来たのである。

●聖獣機神レオンマックス 最終話 最終決戦
 ここは魔の住む城、ダークのいる城である。
「ティアラ様‥‥いえ、ティアル王子、ここは危険です。私と共にここからお逃げ下さい」
 仮面の女騎士、アズラエルは目の前の王女‥‥いや、王女として育てられた王子、ティアルを前に頭を下げた。
「ですが、私には‥‥」
 渋るティアルにアズラエルは自分の剣を渡した。
「前に一度、お手合わせ頂いたことがあります。あの時の強さは‥‥あなたが影ながら手に入れたものに違いありません。私だけでは無理でも、私とあなたの力があれば、出来ないことはありません」
 ティアルはアズラエルから、その剣を受け取る。
「‥‥そうですね。行きましょう、アズラエル。僕らはどうしても、ここから逃げなくてはならないのです!!」
 そのティアルの様子にアズラエルは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「それは困るな、アズラエル。聡明な君の英断だろうが‥‥彼女を‥‥いや、私から彼を奪うことは出来ん」
 部屋の奥、影が出来た場所から現れたのは、あのダークだった。
「愚かなことを‥‥そう易々と逃れられると思ったのか?」
 ダークは二人にそう言い放ち、手を挙げた。そこから現れたのは、異形の獣達‥‥いや、異世界の魔物だ!!
「ティアル様っ!!」
 魔物を払い除けながら、アズラエルはティアルに声をかけた。
「アズラエルっ!!」
 ダークの手が、ティアルの背後に迫ったとき。
「キュイイイイイイ!!」
「何っ!?」
 ダークに強烈なアタックをかけ、ティアルを救ったのは、アズラエルのグリフォン、アンバーだった。
「アンバーっ!! こっちに来いっ!!」
 アンバーはアズラエルの声に応え、アズラエルの側に寄る。その背に救われたティアルとアズラエルが乗る。
「ティアル様、しっかりお捕まり下さい!!」
 飛び立つ二人を苦々しい表情でダークは睨み付けていた。
「馬鹿な人間共めが‥‥」
 ぱちんとダークは指を鳴らす。黒い渦の中、アズラエル達の向かおうとした前方に。
 ゴオオオオオオオオオ!!!!
 現れたのはダークウルフ。そう、ダークの持つ黒い巨人であった。ダークはそれに乗り込み、アズラエル達を捕まえようとする。巧みな綱さばきでアズラエルはダークウルフの伸ばす手を躱し、旋回、そして別の避難ルートへと向かう。しかし、二人を乗せ飛び回るグリフォンの羽では、ダークウルフのスピードには敵わない。ダークウルフの手が、アンバーの行く手を塞いでしまった!!
「ああああっ!!」
 思わずティアルは目をつぶる。
 キイイイン!
「お怪我はありませんかっ!? ティアラ姫!!」
 そこへ現れた者。それは、ティアラ‥‥いや、ティアルを追ってここまで辿り着いたレオン達だった。そう、レオンマックスの力を借りて、やっとここまで来たのだ。レオンは共にコクピットに乗っていたマーニを安全な場所へと降ろす。ティアルも、アズラエルも一緒だ。
「おのれ、レオン‥‥また邪魔をするのかっ!?」
「姫を守り、お前を倒すこと‥‥それが僕の使命なんだ!!」
 レオンマックスとダークウルフは互いの両手を組み、押し問答をしている。
「うおおおおお!! 負けてたまるか!!」
 そのレオンの気合い。それが勝負を決めた!!
 ドオオオオオン!!
 ダークウルフを押し退け、大破させたのだ!! 煙を吐き出しながら、ダークの乗ったダークウルフから声が聞こえる。
「これで勝ったと思うな、レオン‥‥。ヴィ・ディス・ダルク・ゼート‥‥」
 ダークの唱える呪文にマーニは気付いた!!
「やめろ、ダークっ!! 死ぬ気かっ!?」
 ダークの呪文、それは、ドラゴンの姿へと変化するためのものであった。それは時に術者の命をも奪う危険な呪文‥‥。ダークは呪文の力で黒く巨大なドラゴンへと変化したのだった。
『レオン、気を付けて。奴は手強いです』
 レオンマックスからのアドバイスを頷くレオン。レオンはティアル達に被害が来ないよう、ダークドラゴンとの戦いを始めた。
 しかし。
 ドラゴンになったダークは、レオンマックスの言葉通り、手強い敵だった。先程までの優勢は何処へやら。今はレオンが押される一方であった。とうとう、レオンマックスも装甲が剥がれ落ち、所々からスパークが見え始めていた。
「このままやられてたまるかっ!!」
 それでも、レオンは諦めなかった。そんな痛々しい様子にティアルは思わず。
「もう、もういいです!! レオン!! 私が‥‥僕が死ねば、こんなことには‥‥」
 レオンの戦いを止めようとした。
「あなたが死んでよくなることなどありません」
 そんなティアルにレオンは続ける。
「あなたがいなくなっただけで悲しんでいた陛下と王妃様‥‥そして妹君のマリア様のこと‥‥それを知らないとは言わせません」
「レオン‥‥」
 そんなレオンにティアルは俯き、言葉を失う。その瞳からは一滴の涙が‥‥。
「だが、お前はこの私に負けようとしている。お前に勝利などありえん!!」
 ダークドラゴンからの声。しかし、レオンはそれに負けてはいなかった。
「僕は‥‥ティアラ様を守れればそれでいい! マリア様から託された想いを遂げることが出来るのならっ!!」
「勝利のない戦いに己の命を捧げるとは、何と愚かな‥‥ん!?」
 突如、それは起きた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
 蒼いドラゴンの瞳が鮮やかな紅へと染まる。先程の攻撃よりも激しい爪と炎の攻撃に、レオンマックスは片腕、片足を奪われてしまった。
「いけない‥‥あんな傷ついた体でドラゴンになったから‥‥ドラゴンの力が暴走し始めたんだ‥‥」
 マーニは辛そうに、けれど目を逸らさずにその戦いを見守り続けていた。
 と、ドラゴンの注意がレオンマックスから外れた。ドラゴンの先にいた者。それは‥‥ティアルであった。
「グオオオオオオオオオン!!」
 ドラゴンは一直線にティアルへと牙を向けた!!
「ダークっ!!」
 その盾になったのは、あのマーニ。だが、来るはずの、ドラゴンの牙も衝撃も何もなかった。炎を吐き出すと思われた口から、マーニへと言葉がかけられ、再び離れるドラゴン。
「ダーク‥‥お前は‥‥」
 マーニの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「レオン!! お前に力を送るっ!! その力でダークを‥‥いや、ドラゴンを止めてくれっ!!」
 マーニから送られた暖かい魔力。その暖かい光に包まれ、レオンマックスはたちまち、その大破した部分が、まるで何もなかったかのように元の姿へと戻って行く。
「マーニさん‥‥ありがとうございます。ダークは、必ず止めますっ!!」
 レオンマックスは再度、起き上がった。その体中にみなぎる力。その心強い力を受けながら、レオンはダークドラゴンへと剣を向けた!!
「ダークっ!! 覚悟っ!!!」
 ドラゴンは動くことなく、それを受け止め、そして。
「ガアアアアアアアアアア!!!」
 レオンマックスの剣が勝利を収める。
 そして、レオンマックス、ダークドラゴンが消え、そこにいるのは、レオンとダークのみになった。レオンの握る剣を胸に受け、ダークは血を吐きながら嗤った。
「見事だ、レオン‥‥だが、これで‥‥勝ったと思うな。人の‥‥心、に‥‥闇がある限り、私は甦る‥‥そう、何度、でも‥‥だ‥‥ふふふ‥‥あーっはっはっはっ!!」
 消えた。ダークはレオンに不吉な言葉を残し、この世から消えたのだ。
「ダークっーーーーー!!!」
 マーニは声の限り、叫び、そして涙した。そんな彼女を思い、ティアルがそっと駆け寄った。剣を納め、レオンは振り返り、マーニに一つの疑問をぶつけた。
「マーニさん‥‥ダークが攻撃を止めたとき、何と?」
 その言葉にマーニは涙を拭い、苦笑しながら答えた。
「お前は生きてくれ‥‥と。そんなこと言われなくとも、生きるというのに‥‥ダークの分まで私は幸せになる‥‥」
「マーニさん‥‥」
 ティアルはそっと彼女を抱きしめた。勇気づけるように‥‥。

 そして、数ヶ月後。

「ティアル様っ!! ティアル様っ!!」
 レオンはティアルを探していた。そんなレオンの鎧には、騎士団長のエンブレムの入ったマント止めが付けられている。
「僕はここですよ。レオン」
 そういって王子姿のティアルが木から飛び降りてきた。どうやら木の上で寝ていたようだ。
 あの後、全てを知り、驚きながらもレオンは真実を受け入れた。そして、こうしてティアルとも大切な親友として共にいることを決めた。
「全く、何をしているんですか。もう少し、王位継承者としての立場をわきまえて欲しいものです」
「レオン、君も父上と同じ事を言うようになったね」
 思わずティアルは苦笑する。
「ところで用とはなんだい?」
「あっと、遅れました。陛下がお呼びなのです。隣の国から王女様がいらっしゃったとかで‥‥」
「父上も懲りない人だな。僕は自分の決めた人と共に生きると言ったはずなのに‥‥」
 そういってティアルはうっとりとレオンを見つめた。
「君という素晴らしい人をね‥‥」
「!!!!!????」
 たちまちレオンはパニックに陥る。目を白黒させ、頬を真っ赤に染めていた。そんな様子をティアルは楽しそうに笑いながら。
「ちょっと冗談が過ぎたかな?」
「ティ‥‥ティアルっ!!!」
 レオンは怒り、思わずティアルを愛称で叫んだ。
「ちょ‥‥冗談だよ、だから落ち着いて‥‥って、うわああああ!!」
 澄んだ青空が眩しい。そんな下、王宮の庭で二人は幸せそうに喧嘩をしているのであった。

 一方、そのころ‥‥森の奥地でも。
「泣き声? それも赤ん坊の?」
 マーニは先程から聞こえる泣き声を追い、奥地まで歩いてきていた。と、マーニの足が止まった。そこにはバスケットの中に置かれた可愛い赤ん坊が。マーニは優しい眼差しで赤ん坊を抱く。どうやら、この森にこの赤ん坊は捨てられてきたようだ。
「もう泣くな‥‥いい子だから‥‥。そうだ、お前は今日からダーク。ダークだぞ。私と共に生きよう。お前がそう望んだように‥‥永遠に、な」
 マーニの手の中で、赤ん坊は泣きやみ、笑みを浮かべたのであった。

 そして、グリフォンに乗ったレオンとダークが戦う場面をバックに、壮大なエンディングが巨大なスクリーンに映し出されたのである。

●最後の落とし穴
「え? お金を返せ‥‥ですって!?」
 エトラは驚く。何故なら、借金はあの映画の大ヒットにより、全てを返し終えていた。
「だ、だけど‥‥それが、変なんだよ‥‥利子が払われていないとか、って」
 ノエルはあたふたとそう告げる。そこへ部屋の扉が開き、そこからでっぷりと肥えた男と、それに従える数人の男達が入ってきた。
「やあやあ、君があの映画の監督さん?」
「何ですか、あなた達はっ!」
 思わず、エトラの前に、庇うように出てくるアレックス。
「そうそう、私達には借金なんてもう無ありませんわ。だから、帰って下さい。もうあなた方には関係ないはず」
 メリッサも負けじとそう告げる。
「そうです。だから、お引き取り下さい!!」
 クリスも応戦するが。
「でも、利子は払っていないんだよ。ほら。まだ一千万も残っている」
 その肥えた男が見せた書類。そこにはきちんとエトラのサインが入っていた。
「あっちゃー、ハズレ引いたんとちゃうか? わいら‥‥」
 くしゃりと自分の頭を掻くイリアス。今、この事務所にはもう金など無い。全て借金の返済に充てたのだから。
「今日が返済日なんだよ。もし、返してくれないのなら、アンタの体で払って貰おうか?」
 そうエトラに男が詰め寄ろうとしたとき。
「ちょっと待った」
 そこへダヤンが現れる。
「一千万でいいんだな? だったら、ここにある」
 ダヤンは後ろに控える青年からジェラルミンケースを受け取り、開けた。そこには一千万、丁度入ったお金が綺麗に引き詰められていた。
「これで充分、だよな?」
「え、ええ。そうですわ。いやあ、助かりましたわ」
 帰ろうとする男をダヤンの付き人が捕まえた。
「それを渡して貰おうか」
 それはエトラのサインの入った書類のこと。しぶしぶ男はそれを青年に渡し、たまらんといった様子でそそくさと帰っていってしまった。
「ダヤン、さん‥‥」
「気にするな。それと‥‥今回の映画、とても良かった。その褒美ってやつさ。さてっと、用事も済ませたしサレオス、帰るか」
「ええ、そうですね」
 二人は笑い、去って行く。
「ありがとう、ございます。ダヤンさん‥‥」
 こうして、レオンマックスは全て、幕を下ろしたのであった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

【7204/メリッサ・ローズウッド/女/23/潜入する(?)ダーク】
【7411/イリアス・ファーレロン/男/32/ドラゴンを呼ぶエキストラ】
【6312/アレックス・バードナー/男/18/頑張る助監督】
【6609/デュナン・ウィレムソン/男/30/広場の大道芸人?】
【6907/山桜・ラエル/女/30/健気なマーニ】
【7453/エセル・ゼニフィール/女/25/必死なアズラエル】
【0205/セルジュ・ゼニフィール/男/30/グリフォン調教しているエセルの兄】
【6311/クリス・メイフォード/男/14/努力のレオン】
【0847/シルヴィアーナ・シュファーズ/女/20/心優しきスタントウーマン】
【0217/ノエル・マクブライト/男/15/レオンの良き親友へティアル王子】

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■         ライター通信          ■
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 どうも、相原きさです。最後のレオンマックス、いかがでしたか? 最後ということで、気合い入れた結果‥‥なんだが大作になってしまいました(苦笑)。その分、楽しんでいただけると嬉しいです☆
 こうして、レオンマックスシリーズが無事、最後を遂げることが出来ました。これも、参加して下さる皆さんあっての作品だと思っています。それと、このシリーズは過去渡しのOMC作品の中でも参加者さんが毎回10人前後という、一番の人気作品となりました。本当にありがとうございます☆ 今後もこの経験を生かし、また面白い作品を届けられるよう努力する次第です。今後もご贔屓して下さると嬉しいです♪
 最後までお姫様‥‥いえ、王子様になっていただき、ありがとうございました☆ 始めはどうなることやらと、私もはらはらしながら見守らせていただきましたが、無事、撮影を終えることが出来て、とても良かったです。EDの方ではおまけとして、ティアルの今後もちょっと書かせていただきました。喜んで貰えると嬉しいです。
 今後はソーンではなく、東京怪談を中心に進めていく予定です。よければ、こちらにも参加していただけると嬉しいです。こちらもレオンマックスに劣らぬキャラ描写を武器に頑張りますので、よろしくお願いします☆
 それでは、今日はこの辺で。レオンマックス最終話に参加していただき、ありがとうございました!!