<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
<Minstre-L>Last 1 Month...
◆オープニング
「あのぅ……どういう事ですぅ?」
エルフの少女、ファリア・ウェヌスが困っている。
場所は白山羊亭へと向かう道。大きな通りで迫られていた。
「だから……僕と付き合って欲しいんだよ! 僕には、時間がないんだっ!」
ファリアに迫っているのは、同じくエルフの男リーフ。
いつもはファリアと同じ種族として、良いお兄さんのように接していたというのに。
今日は、いつものリーフではない。強引に、ファリアへ求婚している。
「うぅー……リーフさんはぁ、お兄ちゃんですぅ。でも、それ以上に思えないんですぅ」
そう言うと、ファリアは逃げ去るように白山羊亭へと走り出してしまう。
「くっ……僕には、僕には……あと1ヶ月しかないのに! せめて、ファリアを幸せにしてやりたいのに……僕にはそんな力も無いのかよっ!」
地面を強く叩く。手に血が僅かに滲む。
彼の残された命、それがあと1ヶ月。だからこそ思いを秘めていたファリアに告白したというのに。
「……御願いだ、皆……協力して欲しい。 僕の命はどうせあと1ヶ月だ、だから……彼女を幸せにしたいんだ」
彼の訴える瞳は、とても真剣だった。
◆Last 1 Month..
地面を叩く音が響く。
その音を聞きつけ、リーフを知る者が一人、また一人とリーフに近づいてくる。しかし周りの者、誰もが彼に声を掛けられずに居た。
その中、初めに声を掛けたのは、髪の間から節のある角が数本生えている女性だった。
「リーフさん……どうしたの。いつもの貴方らしくないわよ?」
優しい声で話しかけるその女性の名前は雷歌。体の一部を異形化させる能力を持つ、異形能力者だ。
「ほら、まず冷静になって……あの言い方では駄目、相手の気持ちも考えないで、自分の事情だけ相手に無理やり押し付けては……ね?」
リーフをなだめるよう、雷歌は出来る限り優しい声で話しかけている。
「恋は駆け引きなのよ? だから、よく考えて、そして策を練って……それで告白するの。 私は貴方についててあげるから……私が手伝ってあげるから」
そんな雷歌の優しい声に、次第に落ち着き始めたリーフ。
リーフは雷歌の手を取り、顔を上げる。
「……そうだったね。 強引に迫るなんて、僕らしくない……。 でも僕は、本当にファリアの事を幸せにしてあげたいんだ。……もう残り1ヶ月しかない僕の命……だから。 雷歌さんも、分かるだろう? ……僕と、ファリアがいつも一緒に居た事を」
そんなリーフに、横から声を掛けるのは、カーライル・スターウィード。
「しかし、リーフ。どうして残り1ヶ月の命なんだ? それにな……リーフ、お前は本当にファリアの幸せを願っているのか? ……本当にファリアの幸せを願うのなら、お前は死んじゃいけない。恋人になるなら尚更だ。 一月後、泣くのはファリアなんだぞ? お前もファリアが泣き虫な所、知らないわけが無いだろう?」
ファリアの泣く光景、ファリアを知る誰もがすぐに思い浮かぶ。
白山羊亭でお皿を割って泣いてしまったり、すっころんで泣いてしまったりするファリアの姿。
そんなファリアが、兄のように思っているリーフが死んでしまったらどうなるかなどは容易に想像が付いた。
「……僕だって、本当は死にたくないさ。 ……でも、僕の病気は、何処に行っても直す手段は無い絶望的な病。 ……僕達エルフの特有病だから、このような街に直せる手段はないって……」
「……だからって、何の努力もせずに、一ヶ月間死を待つだけか? 本当にファリアを幸せにする為に、お前も頑張って見ろよ。 お前が頑張るって言うのなら、リーフを幸せにするって言うなら……俺もお前が生きるために、出来る限りの事をするぞ」
カールが熱く語る。そして雷歌がカールの言葉を後押しするように、雷歌も頷く。
「一月だけで終わらせたりはしないわよ。リーフさんの命は、絶対に一月で終わらせない。約束するから」
そんな二人の励ましに、次第にリーフは勇気付けられて。
「……分かったよ。僕も、一生懸命頑張る。 死にたくないから……ファリアを、幸せにしてあげたいから!」
強い意志を込めた瞳で、リーフは言った。
「それでいい。じゃ、オレはお前の病気の治し方を探してくる、お前の病気の名前は、何て言うんだ?」
「僕の病気は……精霊病、って言うんだ。詳しくは多分ベルファ通りの魔術師が知ってると思う。そこで聞いてくれる?」
「分かった。雷歌、ファリアへの告白を任せた。宜しく頼む」
「ええ、分かったわ。 カールさんも気をつけてね」
互いに頷いた。
◆Happy? Days.
その日から、雷歌とリーフの、ファリアへの告白への道が始まった。
まず初めに、リーフは雷歌と一緒に白山羊亭を訪れる。
時間は白山羊亭が開店して間もない頃。
『いらっしゃ……あ、雷歌さんとリーフさん。どうしたんですかぁ?』
ルディアが、白山羊亭の入り口から入ってきた二人を明るく出迎える。
『え? ……ぁ……ぅ』
しかし入ってきたのがリーフだと知ると、ルディアの後ろに居たルディアは、すぐさまカウンターの後ろへと隠れてしまう。
「あ、ファリア! 待ってくれ!」
と大声を出してしまうリーフ。
すぐさま雷歌が後ろから、雷歌に囁く。
「大声だしちゃ駄目? まずは落ち着いて。 ファリアちゃんに謝るんでしょ?」
雷歌に言われ、再び冷静さを取り戻すリーフ。そして。
「そ、そうだったね……。 ごめん、ファリア。 この前は僕が悪かった……だから、出てきてくれないか?」
いつもと変わらない、兄としての笑顔でもってファリアに微笑む。
その笑顔を見て、ファリアはルディアの後ろから出てくる。
『リーフお兄ちゃん……ううん、私も突然のことで驚いたけど、怒ってないから大丈夫ですぅ……?』
上目遣いにリーフへと話しかけるファリア。隣にいた雷歌を見つけて。
『あ……雷歌さんもいらっしゃいませですぅ♪』
いつもの通り、店のマスコットとしての顔で接していた。
「そっか……まぁ、ごめんな。嫌われたらどうしようか、って思っていたよ」
優しく笑い、リーフはまず当たりさわりのない言葉から始めていった。
雷歌の焦らず、じっくりと行けという言葉を、自分自身で一つ一つ試すようにしながら。
暫くの間、二人は話し続け、以前のようにファリアも笑顔が出始めてきたとき、リーフは切り出す。
「なぁ、ファリア。罪滅ぼしって訳じゃないけれどさ……今度街に、一緒に遊びに行かないか?」
『ぇ? ……お兄ちゃんとですかぁ?』
「ああ。 ほらファリアはまだここに来てあまり長く経って無いだろ?」
『でもぉ……お仕事まだ頑張らないとぉ、皆に迷惑かけちゃうですぅ……』
渋るファリアに、雷歌が声をかける。
「ファリアさんは、凄く一生懸命頑張っていると思うけど? ね、ルディアさん。 マスター?」
『うん、まだ時々失敗しちゃうけど、皆ファリアちゃんの頑張りは分かってると思うわよぉ〜』
「ほら、みんなそう言ってるでしょ? 皆ファリアさんの頑張りは分かっているって事。だから、時には皆の好意に甘えて、骨休めがてらにリーフさんと遊びに行くのも良いんじゃないかしら?」
ファリアは恥ずかしそうに俯く。たった二人だけ、そう考えるとやっぱり恥ずかしい。
そんな中雷歌は、ルディアに目で合図を送る。
『ええ、そうね。 ファリアちゃん、一生懸命働いてくれているから、明日は休んでくれて良いわよ♪ リーフさんと一緒に遊んでいらっしゃいよ、ね? 明日位、私達だけでも大丈夫だからさ、ね?』
二人に促されては、当然ファリアに断る理由も無かった。
『ぅー……分かったですぅ……。でもぉ、何処に行くんですかぁ?』
顔を赤く俯かせたまま、その言葉に従った。
その後、雷歌は、ずっとリーフのファリアへの告白を目標にデートを重ねさせていった。
残りの時間は、たったの1ヶ月。着実に雷歌は、リーフとファリアのデートを重ねていくようにしていた。
一方、カールはベルファ通りを訪れていた。
リーフの病、精霊病の治し方を知るかもしれない魔術師を探しに。
しかし、揃いも揃って魔術師達は、先延ばしにする方法はあるにしろ、完全に治す特効薬の話は無かった。
「おい、どういうことだ? 精霊病を治す薬は無いって」
『仕方ないじゃろ。 精霊病は、守護精霊の力を受け付けずに衰弱していく病。エルフ族特有の病じゃ。世に出てきているエルフ等、数が少ない。そのような病の特効薬など発見できるわけが無いのじゃ』
カールは悔しかった。せっかくリーフを助けると約束したのに、治療法が全く無いという魔術師の言葉に。
『出来る事はただ一つ、リーフの守護精霊の力の宿った果物を食べる事じゃ。それでも一つでほんの数日しか延びぬがな』
全ての魔術師からの死の宣告。カールは辛かった。
しかし、絶対に何か手段があるはず、と。足が棒になるまで歩き回り、情報を聞き出す。
そんな一生懸命な彼に、僅かな光明が射した。
『そういえば……あくまでも噂じゃが。どこかの森に、精霊病を治すと言われる果実があるとは聞いた事はある。夜に輝くその果実、それを食べさせると、精霊の力を受け付けるようになると、な』
「……本当か? その果実の場所はどこにある?」
『さぁねぇ……わしはしらぬ。でもエルフが多く暮らす森にあると聞いたがの。まぁあきらめることさ。エルフは元々長寿の民じゃ。時には短く人生を終わらせるものが居るのも自然の摂理じゃろうて』
カールの中で、何かが弾けた。その魔術師の胸ぐらをつかむと共に。
「お前に何が分かる? 人を失う苦しみは何事よりも辛い。それが最愛の人であれば、尚更な」
胸倉を捕まれ、苦しがる魔術師を降ろす。
途端に魔術師はその場から走り、逃げ去っていった。
カールはその後姿を見ながら呟く。
「……エルフの暮らす森か……あても無いが、行くしかない、か……」
自分に言い聞かせるように言った。
そして夜。カールは街を出発した。
一刻も早く、リーフを助ける果実を得るために。
そんな彼の前に、立ちふさがる者がいた。
カールが街道のわき道に入ると……。目の前に現れる、体長数十メートルの巨大な体躯が現れた。
「……カールさん、私も、お手伝いさせていただけませんか?」
普通なら驚くところだが、既にカールは、この巨大な体躯を持つものが誰かを知っていた。
ソウセイザー。以前ファリアの始めてのお使いに出掛けたときに始めて出会った、心を持つロボットだ。
「……ソウセイザーか……お前、ここに居たのか?」
「ええ……やはり、私が街に近づくと、無用な騒ぎを起こしてしまいますから。 ……それよりも、私にもカールさんのお手伝いをさせて貰えませんか? 私も、リーフさんを助けたいのです」
「全て話は聞いていた、という事か……そうだな、今は一刻も早く移動できる方がいい。時間が無いからな、宜しく頼む」
「分かりました……肩に乗ってください」
手を差し出すソウセイザーの手に、カールは乗り込んだ。
◆Finally Day...
そんなこんなで、時は経過していく。
リーフとファリアの間の距離は、雷歌の望む通りに、ゆっくりと確実に近づいてきていた。
そして、リーフの死の宣告の日まで残り数日という日。とうとう、リーフは告白する決心をする。
「今日こそ……告白したいんだけど、大丈夫かな……?」
リーフの不安な言葉に、雷歌はお姉さんのように優しく微笑む。
「ええ、きっと大丈夫よ。 ファリアさんも、リーフさんに対して沢山笑顔を見せるようになったでしょ? 大丈夫、自分を信じて」
リーフの手を、自分の手で包む。
「……うん、分かった。雷歌さん、どうもありがとう」
そして、リーフは待ち合わせの場所へ。ファリアが少し遅れてやって来る。
『ご、ごめんなさいですぅ……少し遅れちゃいましたですぅ……』
いつもと変わらないファリアだが、声には嬉しそうな気配を含んでいる。
確実にリーフとのデートを楽しみにしているのが雷歌にも分かった。
「ううん、気にしてないから……。 ……あのさ、ファリア。一つ、聞いて欲しい事があるんだ。驚かないで、聞いて欲しいんだ」
ファリアの肩に手を掛け、目を見るリーフ。
対するリーフは、何が起こるかわからず、リーフの瞳を見返し。
『え……なんですかぁ?』
「その……あの。僕と一緒にいて、楽しいかい?」
『うん、楽しいですよぉ?』
「そう。良かった……それで、あのさ……ファリア。僕は、ファリアの事が好きなんだ。……ファリアじゃないと駄目なんだ。 ……だから、僕と、これからも一緒に……居てほしい」
声を詰まらせながらも、告白をするリーフ。
ファリアは少し戸惑いながらも。
『え……えっとぉ、私も、リーフお兄ちゃんのこと、大好きですぅ。 ……これからも、ずっと一緒に居たいって、思いますよぉ?』
「そ、そう……良かった。本当に、これからも一緒に居ていい、かな?」
『う、うん……いいですよぉ?』
顔を赤らめながらも微笑むファリア。
隠れていた雷歌が二人の所へとやって来て。
「良かったわね、リーフさん。 そして、ファリアさん。 これからも幸せにね?」
心から二人のことを祝福する雷歌。
「うん、雷歌さんも、ありがとうございました。 ……きっと雷歌さんが居なければ、僕……告白なんてできなかったと思う。 ……色々と、感謝してます」
「私はただ手助けしただけ、全てリーフさんが頑張ったからこそ、よ。 ……さ、私なんて気にしないで行って来なさい」
「うん。いってきますね」
『はいですぅ。行って来ますぅ♪』
二人が手を繋ぐ姿を見送る雷歌だった。
幸せになっているリーフとファリアに対して、カールとソウセイザーの二人の間には重い空気が広がっていた。
魔術師の言う、夜輝く果実。幾つもの場所を探して回ったが、結局の所その果実は見つからずに終わってしまっていたのだ。
既に残り一日となった時。カールは苦しい選択を、ソウセイザーに告げる。
「……ソウセイザー。もういい、街に戻ってくれ……間に合わなくなっちまう」
ソウセイザーも、仕方なくそれに従う。
カールの手には、幾ばくかの精霊の力を宿した果実はある。
「……すみません……私の力が足りなくて」
ソウセイザーは、カールを載せながら沈痛な声を出す。
「いや、ソウセイザーのせいじゃないさ。 ……数日延ばす果実はある。せめてこれで、幸せな時を少しでも長くあいつに感じさせる事は出来る……これが間に合わなくなってしまえば。もし果実を見つけられたとしても……意味が無いんだ」
「そう……ですね」
ソウセイザーは、カールの気持ちを少なからず理解していた。今までロボットとして生きてきた自分。何代もの生と死が繰り返される長い間、自分自身は生きている。
街外れでカールを降ろす。そしてソウセイザーはカールに告げる。
「……カールさん、後で……ファリアさんが落ち込んでいたら、私の所に連れて来て下さい。私がファリアさんに出来る事は、慰める事しか出来ませんから」
「分かった。 ……じゃ、行って来る」
カールは、果実を持って走り出した。床に伏せているリーフの下に。
「……間に合ってくれ、御願いだ!」
残りの時は、刻々と近づいていた。
◆Good Bye...
リーフの精霊病の告白から一月後。
リーフの家には、雷歌とファリアがやって来ていた。
ファリアは、リーフが突然倒れたと、雷歌に伝えられていた。
そう、リーフの病は最終段階に達していたのだ。
部屋へと入ると、そこには伏せているリーフが。
「……ぁ、ファリア……来てくれたんだね?……嬉しいよ」
ベットの上から、力無く手を振るリーフ。
『り、リーフお兄ちゃん、大丈夫、ですかぁ……?』
リーフの手をぎゅっと握るファリア。
しかしリーフは、握り返す力もなく。
「……僕のこと、心配してくれて……ありがとう。本当に、嬉しいよ……」
『そ、そんな事……そんな事、ないですぅ……?』
ファリアにも、リーフが弱っているのを感じたのだろう。ファリアの瞳に段々と涙が溜まっていく。
「……ファリア、騙すつもりは無かったのに、騙す事になっちゃってごめん。先月、ファリアを驚かした事があっただろ? ……その時既に、僕は死ぬことは分かってたんだ。でも……そこにいる雷歌さんと、君も知ってるカールさんに助けてもらって、ファリアに告白したんだ。」
全てを告白するリーフ。
「……ファリア、そして雷歌さん、カールさんには……凄く、感謝してるよ。 だって……僕、あのままだったら、誰一人幸せにすることなく、きっと終わってたから……」
「リーフさん……貴方、死にたくないって、ファリアさんを幸せにしてあげたいって言ってたじゃないの。 貴方が死ぬことで、ファリアさんは幸せになると思うの?」
雷歌が、リーフを励まそうと厳しい口調になる。が、それよりもファリアの泣き声の方が大きくなっていく。
『私……私、リーフおにいちゃんが死ぬなんて、嫌ですぅ……。そんなの、幸せなんかじゃないですぅよぉ……』
リーフの手に、ぽろぽろと涙を流し始めるファリア。
『リーフおにいちゃんが、この街で出会った、唯一の同じ種族の人なんですぅ……おにいちゃんが居なくなったら、私……私ぃ……又一人ぼっちになっちゃうですぅ……』
涙を流すファリアの頭を撫でるリース。
「……ファリア。 君はもう……一人ぼっちじゃないよ。 ……君にあげた指輪があるだろう? ……今の僕の指にも、その指輪はある……。僕達は、ずっと一緒だよ……」
その時、突然に部屋のドアが開いた。
「リーフ……持ってきたぞ。魔術師から聞いた、お前の命を延ばす果実……を」
全力で走ってきたカールの姿。
両手一杯に、果実が載せられていた。
「ほら、食べろ……特効薬は無いと言われたが……これを食べれば、少なくとも数ヶ月は命が持つはずだ」
しかし、リーフはカールに小さく微笑む。
「……特効薬は無かったんだね。 ……カールさん、ありがとう。 でも……もう、僕はいいよ。ファリアに告白できたし……それに、ファリアが、ボクを好きでいてくれたのも、良く分かったから……。 ……数ヶ月先になっても、どうせ僕は死ぬ……それは、ファリアを苦しめている事に他ならないよ。 ……そんなの、僕は耐えられない……」
『リーフ……おにいちゃん……御願い、おねがいだから、死なないでよぉ……』
リーフは、優しく微笑んで。
「……ファリア、そして……カールさん、雷歌さん……本当に、ありがとう。 ……僕、幸せだった.……よ」
静かに目を閉じるリーフ。
その目が再び開かれる事は、無かった。
◇After Days...
リーフが旅立ち、ファリアは一日泣き崩れていた。
ファリアは、カールも雷歌も部屋から追い出し、リーフの部屋の中で一日中泣き続けていた。
雷歌とリーフは、リーフの部屋の前でファリアが泣き止むまで、声を掛けられなかった。
そして、一日後。ファリアの泣き声が止んだ部屋。
「……ファリア、部屋、入っていいか?」
カールが中に居るファリアへと話しかける。
『……はい……です、ぅ……』
泣き枯れている、ファリアの声が返ってくる。
カールと雷歌は、部屋へ入る。
リーフは、一日泣き明かした、赤くはれていた目になっていた。
「……ファリア、大丈夫か?」
『……だいじょうぶ……ですぅ……』
どこか心ここにあらずといった風のファリア。
二人は、どう声を掛けるか迷っていた。そんな中でファリアが口を開く。
『……どういっていいか……分からないけど……リーフさんはぁ、私の近くに、いると……おもいますぅ。 ……少なくとも、私の心の一番近くには、大好きな、リーフさんが一緒に、いますぅ……』
精一杯強がって見せるファリア。二人に心配させまいと、ファリアは振舞っていた。
しかしファリアの言葉が、僅かに震えているのは二人には良く分かっていた。
……静かに、時が経過する。そして、カールは提案をする。
「……ファリア。お前に、逢わせたい奴がいる。 ……ついてきてくれないか?」
『……うん、分かりました、ですぅ……』
カールの提案、それはソウセイザーの下に連れて行くことだった。
『……ソウセイザー……さん、お久しぶり、ですぅ……』
精一杯、笑顔を出してみせるファリア。しかし昨日の事のせいで、その笑みにかなりのぎこちなさが現れていた。
「ファリアさん……大丈夫ですか? 落ち込んではいらっしゃいませんか?」
ソウセイザーからの優しい言葉。
ファリアは次第に、感情を抑えられなくなり始め……。
『えぐ……そう、ソウセイザー……さぁん、私、私……辛いよぉ、嫌だよぉ……』
ソウセイザーに向けて、感情をあらわに泣き始めた。
「……カールさん、そして……雷歌さん。ファリアさんが落ち着くまでには、暫くの時間が必要だと思います。 ……ちょっと、私に任せていただけませんか?」
カールも雷歌も、今のファリアには、泣かせる以外には思いつかなかった。
「ええ、ソウセイザーさん……御願いするわ」
雷歌の言葉にカールも頷く。そして。
「……ファリアさん、私の手に乗ってください。 ……暫くの間、私の中に住んで……私が、貴方を守りますから」
ファリアは、涙を流しながら、ソウセイザーの手に乗った。
リーフがソウセイザーの体内に入って十日が経過する。
カールと雷歌は、白山羊亭でリーフの帰りを待つ日々が続いていた。
「……もう、十日ね。 ファリアさん、大丈夫かしら?」
「ソウセイザーに任せれば、きっと大丈夫さ。 ファリアはソウセイザーに懐いているからな」
そんな日々が続くと、白山羊亭のドアに見覚えのある姿が。
『……ただいま、戻りましたぁ。 遅れてごめんなさいですぅ』
周りの場を和ませるような、のんびりした声で、ファリアは白山羊亭へと戻ってきた。
『あ、ファリアちゃんお帰り〜♪ もう、十日間の遅刻だよぉ? もう、本当にのんびりしているんだからぁ』
ルディアがファリアを迎える。ちなみに膨れっ面だが、真剣に怒っているわけではない。
『ご、ごめんなさいですぅ……、一生懸命遅れは取り戻すですぅ』
『勿論、一生懸命はたらいてもらうわよ♪ じゃ、ファリアちゃん、厨房に行ってここの二名さんのお料理運んできて〜』
『は、はいですぅ〜』
戻ってきた早々、ルディアに指示されるファリア。
そして、厨房からの料理を運んだテーブルには、雷歌とカールの二人が居た。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
〜MT12・エターナルヴォイスMT〜
【 5865 / カーライル・スターウィード / 男 / 18歳 / 冒険家 】
〜SN01・聖獣界ソーン〜
【 0598 / ソウセイザー / 女 / 12歳 / 巨大変形学園ロボットの福祉活動員 】
【 0652 / 雷歌 / 女 / 21歳 / 異形能力者 】
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■ ライター通信 ■
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少々遅れまして申し訳ありません。ライターの燕です。
<Minstre-L>シリーズ:第2回目のリプレイ「Last 1 Month...」をお届けします。
今回の題材は「死期迫る人」です。最近のドラマに影響されました(汗)
依頼自体は、皆様にとっては失敗に移るかもしれませんが、
ファリアは今回の依頼によって心境の変化等があると思います。
その点については、以後のリプレイで表面化していく事でしょう。
今後も、ファリアが登場するリプレイは<Minstre-L>シリーズとして
続けてまいりますので、ファリアが心配な方は雄見守りくださいませ。
では、また次回の依頼でお遭いできますよう……。
>雷歌様
初めて御参加いただき、どうもありがとうございます。
今回雷歌様は、リーフの(お目付け役の)お姉さん的な感じで書かせていただけました。
イメージと違っていたら、真に申し訳ありません。
告白は成功しました。ファリアはリーフの事を本当に好きになりました。
死んではしまいましたが、今後もリーフはファリアの心の中に生き続けていくことだと思います。
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