<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
アニーとトニーの冒険!
昼の賑わいを見せる店内に小さなお客がやって来た。
白山羊亭に飛び込んで来たアニーとトニーの双子の姉弟はルディアに飛びつくなり、店に響き渡る位の大きな声で言う。
「大変、たいへんよ!ルディア!!」
「どうしよう?どうしよ〜ルディア!?」
「ど、どうしたの?!二人とも!」
スカートの裾にしがみ付かれたルディアは、危うく運んでいたサラダを落としそうになりながらも、何事かと二人に尋ねた。
「あのね、お母さんが風邪ひいちゃったの!!」
「頭いたいんだって!!それから、のども!!」
声を揃えて言う双子の顔は今にも泣き出しそう。
ルディアは内心、なんだ…とほっとしたが、この小さい子達にとって一大事なのをすぐに感じ取ったルディアは二人と目線を合わせるように屈んだ。
「今、お母さんは?」
「おうちでねてる……」
心配そうに、言ったトニーの隣でアニーがルディアに言った。
「あのね、ルディア!あたしたち森に薬草とりにいってくる!」
「ええっ!?」
これには流石に驚いたルディアは二人を止めようとするが、なかなか頑固な双子はどうやらどこかで『森に生えている七種の薬草で作ったスープを呑めば風邪が治る』という話を聞いたようで、頑として行くと言い張った。
それにはホトホト困り果てたルディア。
そんな彼女達に白山羊亭にいた者たちは自分達が連れて行こうと申し出たのだった。
▼同行者▼
まず、三人の側にやって来たのは銀の髪に黒い瞳を持ったかわいらしい少女。
「この前のこどものひとたち!おかあさんのために、森へはっぱを摘みにゆくの?」
スゥ・シーンは双子とは以前知り合ったので、いきなり白山羊亭に二人が飛び込んできた時は驚いたのだ。
そして、ルディアと話している内容を聞き、スゥは二人の力になりたいと思った。
何故ならスゥ自身、人形として自分を作ってくれた人を…母を探しているからである。
「あ、スゥ!!」
「スゥもいっしょにはっぱを探しにゆく」
その言葉にアニーとトニーは、今度は彼女に飛びついた。
「ホント?本当にいっしょに来てくれるの?」
「ぜったい?絶対にぼく達を連れてく??」
両手を引っ張られ、左右から同じ声で言われながらもスゥは頷いた。
ありがとう、と飛びついた二人をしっかり抱きとめたスゥを、だが、まだ不安そうな顔でルディアが見つめる。
そこに、もう一人同行者が名乗り出た。
「あたしも付いてってやるよ」
そう言ったのは傭兵戦士のロミナ。
だが、彼女の姿を見た途端、双子は怯えた様子でスゥの後ろに隠れてしまった。
それも無理はないだろう。
ロミナは牛と人を合わせたような半人半獣の姿。
野牛のような角と獣のような下半身と尻尾を持ち、筋骨隆々とした裸体の彼女には他を威圧するものがある。
そんなロミナと双子の間にスゥが手を広げ立ち、
「スゥはおねいさんだから、ふたりを護ってあげます」
と言われ亭内にいたロミナの仲間から笑い声が起こった。
げらげらと笑う仲間にロミナの怒声が飛ぶ。
「ウルサイんだよ!あんた達!!」
が、それは子供達を更に恐がらせる事になると気付いた時は遅かった。
アニーとトニーは半分泣きそうな目でロミナを見、更に身体を縮こませてスゥにくっ付いている。
「あ、あの……わりぃ。大声出しちまって……」
バツが悪そうに頬を掻くロミナにルディアが助け舟を出す。
「大丈夫よ〜二人とも。ロミナさんは見掛けはこわいけど、と〜っても優しいんだから」
そして、ロミナも子供達に少しでも恐怖を与えないように、目線を合わせて笑顔で言う。
「あたしが恐かったら離れて歩くよ。それじゃダメかい?」
アニーとトニーは顔を見合わせ、ヒソヒソと相談していたが、やがてロミナに頷いた。
「そうか。ありがとなっ!」
にこにこと嬉しそうに言ったロミナに一先ずルディアは安堵の溜息をついた。
「はいはい。話は纏ったようだね」
声と共に、ふわりと四人の間をシフールが舞う。
「あ、ようせいさん」
スゥに、にっこりとシフールのセンリ・ユーフォルビアは微笑む。
「あんたも行くのか?」
「最近、季節がら風邪引く人が多くてさ。うちも補充しようと思ってたとこなんだよね」
そう言ったセンリはそれに、と続けた。
「こういう事は専門家が居た方が良いんじゃないかな?」
センリ、スゥそしてロミナを見て、ルディアはぽんと手を叩いた。
「三人とも、アニーとトニーをお願いしますね。アニー、トニー。お母さんには私から言って置くから」
『ありがとう、ルディア!!』
呼吸ぴったりに礼を言った双子を見て、センリはロミナの肩にちょこんと立った。
「じゃあ、さっそく出発しようか?」
こうして、五人は白山羊亭を後にした。
▼薬草探し▼
薬草の生える森は街から半日もしないところにある。
が、それは大人の足での話。
子供を二人連れた一行はゆっくりと森へと向かうが、双子は街の外が珍しいらしく途中途中で止まったりするものだから、更に時間がかかってしまった。
森へと着いたのはお昼を過ぎた頃。
少し疲れたのか、静かになった二人をロミナは心配そうに言う。
「疲れたか?なんなら、担いでやろうか?」
「ん〜ん。いい」
「まぁ、遠慮するな。ほら!」
と、首を横に振った双子をそれぞれ肩に担ぐと、ロミナはスゥとセンリを振り返った。
「さて、じゃあさっさと薬草探すか」
「スゥたくさん探すの。でも、どこにあるかわかりません」
しょぼんと少し表情を曇らせたスゥの前をセンリが飛ぶ。
「僕が案内するよ。さ、こっちだよ」
薬剤師として薬屋も開いているセンリにとって、もっとも使用頻度の高い薬草の生育場所のチェックは当たり前の事。
しっかりこの森もチェック済みである。
スーっとすっかり葉を落とした寒々しい木々の間を抜け、まずひとつ。
「さぁ、ここだよ」
そこには深緑の草が小さな絨毯のように生えていた。
「あった!すごい、すごい!!」
「やったね、アニー!」
ロミナの肩の上でアニーとトニーは手を打ち鳴らした。
そんな二人にロミナも笑顔になり、担いでいた二人を地面に降ろした。
下りた二人はすぐさま薬草に飛びつくと、センリを見上げた。
「ねぇ、これ全部取っていいの?」
「全部はダメだよ。そうだね……半分くらいなら良いかな?」
「じゃあ半分摘みましょう」
と、スゥの差し出した布袋に双子は次々と薬草を入れ始めた。
「おいおい。そんなに入れたら他の薬草が入らないぞ?」
「あ……そうか。じゃ、これくらいにしよ」
「うん。ななつ取らないといけないもんね」
そう頷き合うと二人は布袋の口を閉じた。
「じゃあ、これはスゥがもちますね」
「よし。次に行こうか」
こうして、センリの案内のもと次々と薬草を手に入れていった。
「わぁ〜たくさん集まったね!」
アニーはスゥの抱える大きく膨らんだ布袋を見て、嬉しそうに言った。
「うん。あと一つだね!」
トニーもニコニコと言う。
「じゃあ、さっさと手に入れて帰らないとな。案内頼むぞ、センリ」
肩の上の二人を優しく見ながら、ロミナはセンリに言ったが、センリは少し困ったように腕組みをしている。
「どうかしましたか?」
首を傾げたスゥにセンリは木々の間から見える岩壁を指差した。
「あと一つはあそこにあるんだけどね……ま、行ってから話すよ」
と、先へ進み始めた。
「なんだ?」
首を傾げ、センリの後を歩き出したスゥの背を見ながら、ロミナも首を傾げた。
「早く行こうよ、ロミナ!」
「そうだよ〜見失っちゃうよ!」
「はいはい。わかった、わかった」
双子に急かされ、苦笑しながらも子供達が懐き始めた事に嬉しくなりながら、ロミナは軽く駆けた。
キャッキャとはしゃぐ声を上げる双子の声に振り返り、スゥもセンリも微笑みを浮かべ、五人は岩壁へと歩いた。
センリの示した岩壁は近くで見ると結構な高さがあり、ゴツゴツとした岩には苔やら雑草やらがまばらに生えていた。
「で、どこだ?薬草は」
ロミナの問いにセンリは岩壁の一角を指差した。
高さ十メートルはあろうかという場所には小さな黄色い花をつけた草。
「最後のやつはあそこなんだよね。ん〜僕が行ってもいいけど、流石に多くは取ってこれないし……」
ん〜、と腕を組み岩壁を見上げるセンリにロミナも双子もう〜ん、と悩む。
と、そんな四人を不思議そうに見ていたスゥ。
そして、岩壁に生えている薬草を見上げ、ぽんとその両手を叩いて言った。
「スゥが取ってきてあげます」
布袋のひもを肩にかけ、岩壁に手をかけたスゥにロミナが驚き、センリは慌てて彼女の前に回った。
「危ないよ、スゥ!ここはやっぱり僕が行って取ってくるから…」
「いいえ。スゥが行きます。だから、妖精さんはここでこどものひとたちとまっててね」
と言うと、スゥは岩に手をかけ足をかけ足がかりを探しながら登って行った。
下ではハラハラしながら見上げる四人。
「……大丈夫かねぇ?」
「仕方ないですよ……あそこまで登ってしまったならスゥに取って来てもらうしか…」
スゥはすでに五メートル程の高さまで登り、要領を得て来たのかひょいひょいと登って行く。
両足と片腕で身体を支え、スゥは目の前に咲く黄色い花をひとつ摘み取った。
「これなのね。みんな摘んでいきましょ」
ひょいひょいと薬草を袋へほおりこみ、スゥは降りようとした。
そんな彼女の目に白い清楚な花が目に入った。
「大丈夫かなぁ?スゥ……」
不安気に見上げるアニーの目にふわっとスゥの身体が宙に浮いた。
「あっ!!」
と声を上げる間には、スゥの身体はストンと大地に降り立っていた。
「ただいま」
まさかの行動に皆、呆然とし目を白黒させていたが、センリが大きく息を吐いた。
「はぁ……心臓が止まるかと思ったよ。まったく」
「こら!驚くじゃないか!!」
ロミナの怒声にスゥはびくっと肩を竦め、小さな声でごめんなさいと言った。
「ねぇ、薬草は!?」
「はい。ちゃんと摘んできたよ」
と、袋を開けて見せるスゥに双子は喜び、そして次には街へ戻る事を考えていた。
「早く帰ろっ!お母さんが待ってるわ」
「うん。そうだ!お母さんにスープを飲ませなきゃ」
急かす二人にスゥは待って、と言って一輪の花を差し出した。
それは岩壁の上に咲いていた白い花。
「な〜に?」
「おかあさんにおみやげ。もっていってあげるときっとよろこぶわ」
にこっと微笑んだスゥにアニーとトニーは花を受け取るとお礼を言った。
『ありがとう、スゥ!』
▼暖かいスープ▼
「はい、どうぞ」
「有難う御座います」
ルディアにお礼を言った双子の母親は、テーブルの上に置かれたスプーンを取り、湯気の立つスープに口をつけた。
「…おいしい」
「でしょう!おかあさん」
「これ飲んで早く良くなってね!」
にこにこと笑顔で纏わりつく子供達に、母親は嬉しそうな笑顔を向け、二人を優しく抱きしめた。
その光景を三人は窓の外から眺めていた。
「……良かったなぁ」
ぐすりと鼻を鳴らしたロミナの肩に座ったセンリもホッとしたような顔で部屋の中を見ていた。
「おかあさん……」
窓に手を付き、目を細めて親子を見るスゥはぽつりと呟いた。
「スゥのおかあさん……どこにいるのかな?はやく、会いたいな……」
「スゥ……」
バンっとスゥの背をロミナが叩き、肩を抱いた。
「すぐに会えるさっ!さ、白山羊亭に戻ろうぜ」
「そうそう。残った薬草を僕の店まで運んでからね」
にこっと布袋を指差し、センリも明るい声で言った。
ロミナとセンリの顔を見、スゥはこくんと頷いた。
「そうね……スゥもはやくおかあさんに会えるようにがんばるわ」
そうして三人は肩を並べて白山羊亭へと戻ったのだった。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0376/スゥ・シーン/女/10歳/マリオネット】
【0416/センリ・ユーフォルビア/男/18歳/精霊魔導師(地)兼薬剤師】
【0781/ロミナ/女/22歳/傭兵戦士】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
アニーとトニーの冒険!をお届け致しました。
どうも、壬生ナギサです。
初のご参加、有難う御座います。
どうでしたでしょうか?私の文章は??
いまだに未熟者でございますが、どうぞ長い目で見守って下さいませ。
そして、もし宜しければ感想など頂けるとあり難いです。
では、次も機会がありましたらよろしくお願い致します。
|
|