<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
<Minstre-L>White Memories...
☆オープニング
時はそろそろホワイトデー。
女性達が、男性達へと思いを伝える、バレンタインデーから一ヶ月。
「そういえば、もうそろそろホワイトデーね。 ファリアちゃん、どれくらいのチョコ渡したの?」
仕事が一息ついたときに、ディアナはファリアに聞く。
しかしファリアは、ディアナの言葉を聞いてもぼけーっとしていた。
「……ファリアちゃん?」
ディアナがファリアの目の前で手を振る。やっとファリアはそれに気づいて慌てる。
「あ、は、はい? 何ですかぁ?」
「どうしたの、ファリアちゃん。 バレンタインデーから何だかおかしいわよ? 時々上の空だし」
「えっとぉ……なんでもないですからぁ……気にしないで下さいですぅ」
「そう、聞いて欲しくない事なのかな? それだったら聞かないけどね」
と、ディアナが話を打ち切る。
「そういえば、今度はホワイトデーだけど……うちの白山羊亭でも、告白の場を提供するみたいなんだけど、ファリアちゃんも手伝ってくれるかしら?」
しかしファリアは申し訳なさそうに。
「えっと……ごめんなさいですぅ。 私、ホワイトデーの日は……お店休ませて下さいですぅ」
「そう、分かったよ。まぁ二人でも大丈夫だと思うから、気にしないで」
ファリアが居なくなるのを待って、ファリアはマスターの下へ。
「……マスター。 ファリアちゃん、ちょっとおかしくないかしら……」
「そうだね……心配だよ」
「……ファリアちゃん、きっと……まだリーフさんの事を忘れてないのよ。チョコレートも、一番大きいのを教会に持っていったみたいだから。 ……でも、もう戻ってこないのに……」
ルディアが言う。そして。
「……ホワイトデーに行っても、何もないなんて可愛そうだよね。 ……何か、出来ないかな?」
ルディアは、ファリアを元気付ける方法を聞きに、客の下へと走り出した。
☆陽の当たる下で
「……ファリアさん、最近元気が無いようですね……大丈夫でしょうか」
ファリアの事を心配するのは、体躯57mのソウセイザー。いつもファリアの困ったときに相談に乗ってくれる、優しい心を持ったロボットである。
街から遠く離れたところからでも、街の様子は分かる。だが、その中に元気なく、教会の方へと歩いていくファリアの姿を確認してしまう。
自分の記憶の中に元気の無いファリアの姿も記憶にあるが、しかしあそこまで元気がなさそうなのは初めてである。だからこそ、ソウセイザーはとても心配になった。
そのまま、ファリアを目で追っていると、ファリアはエルザードの郊外にある、小さな教会へと入っていく。
エルフは元々、神をあまり信じる事は無い種族のはずなのだが、現にファリアはその教会へと入っていったのだ。
しかし、ソウセイザーにはあの教会は覚えがある教会。
「……あの教会は……。 確か……リーフさんが葬られている教会でしたっけ……」
その教会は、ファリアが始めて好きになった同族の男性、リーフの葬られた教会だった。
ソウセイザーも、リーフの死の時に立ち会ったから、よく知っている。
「……そういえば、もうそろそろバレンタインデーから一ヶ月……ホワイトデーですね。ファリアさん……リーフさんが戻ってくるとか、と思っているのかもしれませんね……」
ファリアに、リーフの事を覚えていてあげる事、と言ったのは、ソウセイザー自身である。
自分の言った言葉……。
『普段は忘れていても、ふとしたことでもいいのです、その人達の事を思い出してあげること。
辛い事かもしれません、でも、覚えていて上げる事は、その人達が自分の心の中に存在している証拠でもあります。
……ファリアさんも、リーフさんの事、時には思い出して下さい。 リーフさんは、ファリアさんの心の中で、ずっと一緒に存在していますから』
あの時に言った言葉を、自分の中でもう一度繰り返してみる。そしてあの時から数ヶ月。
彼女の中で、ホワイトデーが近づくにつれ、次第にリーフの存在は大きくなっているのだろう、とソウセイザーは思った。
「……ファリアさんを助けないと、いけませんね。 ……ファリアさん。 私がきっと……元気にしてあげます」
と言うと、ソウセイザーは何をすべきかと考え始めた。
☆夜の帳〜教会の裏から聞こえる異国の歌〜
「……はぁ……」
夜の教会。ファリアは白山羊亭の仕事を終えて、ここに来ていた。
教会の裏にある、たくさんの墓標。その内の一つに、リーフの名が刻まれた墓標。そこに、ファリアは座っていた。
「……リーフ……リーフおにいちゃん……チョコ……美味しかったですか? ……私、一生懸命作ったんですぅ……。リーフおにいちゃんに教えてもらった、美味しい木の実使って、一生懸命作ったんですよぉ……」
寂しそうなリーフの声。その声は、教会の影に隠れていたソウセイザーの耳にも入っていた。
「……明日、3月14日は、ホワイトデーって言う日らしいんですぅ……。男の人が、女の人に感謝の気持ちを伝える日らしいんですぅ……。 ……お兄ちゃん、私……お兄ちゃんに、もう一度逢いたいですぅ。1分でも、何分でもいいから……おにいちゃんの声、聞きたいですぅ……」
墓標に涙を零しながら、言葉を紡ぐファリアに、ソウセイザーは、静かに歌い始める。
異国風の歌。ソウセイザーが覚えている歌の中で、一番古い歌を。少し音を外して歌い始めた。
「……? ……ソウセイザー……さん?」
その声に気づき、ファリアは声のする方、ソウセイザーの方へと振り返る。
ソウセイザーは、歌を止めて、いつもの優しい口調で語りかけた。
「……これは、数百年前に滅んだ国の歌……私が覚えている、最古の歌です」
「少し、音が外れているでしょう? ……これは、この歌を教えてくれた人が、音痴でしたからね……」
くすりと笑うソウセイザー。
「この歌は……その国と共に滅んだ人。 私の……友人に教えてもらったんです」
悲しみなんてないかのように、爽やかに話しかけるソウセイザー。そしてルディアに御願いしてあった、ファリアの竪琴をファリアへと渡す。
「……先日から、ファリアさんが寂しそうにしているのを見て、私は本当にファリアさんの事、心配でした。 ……ファリアさん、一緒に歌いませんか? 歌えばきっとリーフさんも喜んでくれますよ」
しかし、ファリアは竪琴を受け取るが、何を奏でればいいのか分からず、奏でられずにいた。
そんなファリアを、ソウセイザーは後押しする。
「ファリアさん。 どんな歌でも構いません。 貴方の大事な人と一緒に歌った歌、もう逢えなくなった人に教えてもらった歌。それで大丈夫です」
ソウセイザーに後押しされたリーフは、静かに竪琴を奏で始めた。
奏で初めて数時間。日付はホワイトデーになり、そして次第に朝靄が掛かり始める頃。
「……ファリアさん、あなたがこうして歌っていれば、いつでもその人たちとは逢えるんですよ。この前も言った通り、ファリアさんの心の中に、貴方の大事な人達がいるんですから。貴方が覚えているのは、その人達が生きていた大切な思い出。 貴方が覚えている限り、その人達はずっと一緒に生きているんです」
ソウセイザーの肩に乗っかったファリアは、ソウセイザーの言葉を聞き、頷いた。
「……ソウセイザーさん……本当に、いつもありがとうですぅ。 ……ソウセイザーさんの言葉、凄く励みになりましたですぅ。 リーフお兄ちゃんは、いつでも私と一緒ですぅ♪」
ソウセイザーの顔に寄りかかるファリア。ファリアなりに、ソウセイザーに甘えているのだ。
そして、ソウセイザーは優しい声で。
「……ファリアさん、私からの、ホワイトデーのプレゼントです。 ……創るの、大変でしたよ。でも……喜んでもらえたら嬉しいです」
ファリアの目の前に置かれた箱。それを開くと……。
「……ファリアさんと、リーフさんの一緒の写真。あの頃の楽しい思い出……これで忘れないで下さいね」
ファリアとリーフが、二人肩を寄せ合い、微笑んでいる写真が、箱の中に入っていた。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
SN01:聖獣界ソーン
【 0598 / ソウセイザー / 女 / 12歳 / 巨大変形学園ロボットの福祉活動員 】
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■ ライター通信 ■
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どうも、燕です。ご参加いただきどうもありがとうございます。
ホワイトデー依頼・<White Memories..>.をお届けいたします。
今回で、リーフに関するシナリオは一段落になります。
ファリアはリーフの事を思いながら、これからは二人一緒にいると感じながら生きていく事でしょう。
それが幸せかどうかは分かりませんが、私自身は幸せであると信じております。
人間は誰しも、誰かの助けを受けて生きている。そう私は思いますので……。
>ソウセイザー様
いつもご参加頂きどうもありがとうございます。ファリアは着実に心が強くなっていきます。
それをいつも傍で見守ってあげているソウセイザー様には、それが分かっている事でしょう。
今後は少しアクティブになったファリアの姿を、どうぞ御見守りくださいませね。
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