<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>
シルバーフロスト戦記・第一話『風の村の少年』
●プロローグ
魔道帝国シルバーフロスト‥‥。
それは、超古代の遺産を修復し、その科学と魔道の力を融合させた『魔道科学』によって、一大勢力を築き上げた国家だ。
だが、力を持ちすぎた帝国は、その力故に、周囲の国々に圧政を敷き、やがて、急速に病み始める。そして、支配に抗った辺境諸国家は、反帝国の同盟を密かに作り、解放軍を結成して、帝国の病巣を取り除くべく、活動を開始していた。
●登場人物紹介
アーシエル・エクスト(6140):ヴィジョンコーラー。音速の翼ソニックスラッシュと同化する事の出来る、解放軍随一の剣士。
ショウ・シンジョウ(5370):ヴィジョンコーラー。腕はまだ未熟ながら、誰とでも仲良くなれると言う特技を持つ。
ラルラドール・レッドリバー(5565):かつては紅蓮の炎と呼ばれ、野獣の如き暗殺者として恐れられた存在。現在は、ショウを追っかけまわす遊び人。
サラヴィータ・チェリク(0357):太陽神官見習い。帝国兵に追われていた所を、アーシエル達に助けられ、以後行動を共にしている。
エシェ・レン・ジェネス(0606):今だ卵より上くらいの雛ナーガ。里を抜け出し、アーシエル達についてきた好奇心旺盛な少女。
ロミナ(0781):魔族。あちこちの街で傭兵稼業をしてきた。豊満な肉体を誇り、可愛い美少年が大好きと言う豪快な女性。
●砦に待ち受けるモノ
樹海を抜けた先にあったのは、海に面した断崖絶壁だった。少年達が連れて行かれたと言う砦は、その上に建てられており、他に大きな街道もない事から、海上ルートの監視兼寄港地としては、絶好のポイントだった。
「随分ものものしいな‥‥」
「それだけ重要な儀式なり何なりが行われていると言う事だろう」
ラッシュの言葉に、そう答えるアーシエル。だが、ただの港にしては、動き回っている帝国兵の数も多い。それは、この地が普通の施設でない事を物語っていた。
「で、どうやって助けるんだ? 警備、相当厳重そうだぞ」
「入口から入って、出口から出ればいいんじゃないの?」
レンが、ショウのセリフに、お気楽そうに言う。
「貴様ら‥‥。相手は帝国だ。そう簡単に、事は運ばないだろう」
「じゃあ、どうするんだよー」
考え付かないと言った風情のショウに、ロミナもまた、いらついた調子で、じれったそうに言う。
「ああもう面倒だねぇ。んなもん、全部蹴散らしちまえばいいじゃないか」
「あれだけの人数をか? 無茶だな」
首を横に振るアーシエル。と、そのやりとりを見守っていたラッシュが、こう言った。
「ここは一計を案じた方がいいってか。そうすると、俺様の出番だな」
「何をするつもりだよ」
ショウの言葉に、彼の口元に、何かを企む笑みが浮かぶ。
「まぁ、見てなって。ショウ、付き合ってもらうぜ」
「うわっ、離せってば!」
そのまま、彼の首根っこをずりずりと引きずって、港の方へと向かうラッシュ。
「あの二人って、いつもああなんですか?」
「まぁ‥‥な」
サラの問いに、アーシエルは頭を抱えながら、呟いた。
「さてと。あいつらばっかに任せておくわけにも行かないからねぇ」
「あ、ならちょっと待って下さい。今、魔法をかけますから」
ロミナもまた、港へ向かおうとする。と、サラはそれを押しとどめて、持っていたリングに触れた。両親の形見でもあるそれは、サラの魔力の源。まだ、未熟な神官であると自覚する彼が、まともに魔法を使うための必需品だ。
『陽の光よ。何時が光は我を表す光にあらず。我が心にある者に、仮初の光を与え給え‥‥』
魔呪をつむぐと、その指輪からぼんやりとした光が発せられる。その光は、一同を覆って行き、触れた箇所から、あたりの風景と同化させていく。
「何か変な感じー」
「これで、暫くは大丈夫です」
レンの怪訝そうな表情に、サラは姿隠しの魔法だと、説明する。
「だが、気は抜くな。帝国の魔道兵器の中には、見えないものを探知するものがあると聞くからな」
「わかっています」
緊迫した面持ちで、サラはアーシエルの言葉に頷くのだった。
●青年の本意
そうして、彼らは人目につかぬよう、警備をかいくぐって、砦の中に侵入していたのだが‥‥。
「あっちゃー、バラバラになっちゃったね」
「楽観視している場合じゃないですよぉ」
まだ、潜入だとかそう言った荒事になれて居ない年少組は、その途中で、港はぐれてしまっていた。
「ふぅ‥‥。ここが砦の中か‥‥。随分手薄だな‥‥。皆、出払っちゃってるのかな」
「この分だと、その男の子、簡単に見つけられそうだね」
辺りを見回しながら、そう言い合うサラとレン。港を預かる砦の中は、比較的がらんとしており、ここが本当に帝国の要衝かと疑ってしまいたくなる。
と、その時だった。
「あれ‥‥? ラッシュさん?」
目の前の角を曲がろうとして、彼らはその先を行くラッシュと、彼の二・三歩前を歩く黒服の青年の姿を目撃する。
「ショウさんと一緒だった筈なのに、どうしたんだろう」
「判らないけど‥‥行ってみよう」
一緒に潜入したはずのショウの姿はない。サラはそう言って、まだ魔法の効果が持続している事を信じ、こっそり後をつける。と、彼らは二階へと上がり、その奥まった一室へと入って行った。
だが。
「何の真似だ?」
その刹那、青年はそう口火を切る。
「へ? 何の話だよ」
「とぼけるな。貴様、この砦付きの者ではないだろう」
ぴしゃりと言い切った青年将の言葉に、ラッシュの表情がこわばった。だが、それも一瞬の事。すぐさま、不敵な表情を浮かべて、こう続ける。
「バレてるなら、どうして兵なり何なりよばねぇんだよ」
「その必要がないからだ。何が目的で忍び込んで来た」
よほど腕に自身があるのだろうか。ラッシュの攻撃なぞ、見抜けると言った風情の青年に、彼はこう言い放つ。
「単刀直入に言おうか。てめぇが掻っ攫ってきたガキを、返して貰いたい」
「風の村から集めてきた少年神官どもの一人か‥‥。あれを手にしてどうする。お前たちには、関りのない事だろう」
と、青年が動きを止めてそう言った。脈ありと見たラッシュは、さらに彼へ腕をからませるように囁く。
「ああ。関係はないさ。けど、そのガキを俺みたいな身の上にしたくないんでね。どこにいるんだ?」
「東の塔に隔離してある。もっとも、そう簡単に見つけられじゃないだろうがな」
かまをかけたつもりだったが、青年将はあっさりと少年の居場所を告げた。
「人の事、とやかく言うつもりはねぇさ。だが、人の事を好き勝手に扱うやつは許せねぇ。それだけさ」
まるで、彼らがその少年を救出する事を待って居るかのように。けれど、警戒だけは怠らずに。その態度に、仲間の一人のかつての姿を重ねたラッシュは、そう自分の思いを告げた。だが、青年は首を振りながら、こう答える。
「ふ、戦に身を置く‥‥か。好き好んで行うバカもいるがな。俺とて、言いなりになるのは嫌さ。だが、夜の中には、そうとしか生きられぬ不器用な人間も居る‥‥。この帝国では、誰もが皆、貴様のように自由に生きているわけではないんだよ」
だから、この場でラッシュを殺す事も出来ると。剣の柄に手をかけた青年に、彼は懐のナイフをちらつかせながら、こう凄んでみせる。
「どうしてもってんなら、相手になるぜ?」
「私に剣を抜かせさせるな。無用な血は流さぬ主義だ」
とっとと立ち去れと言いたいのだろうか。だが、彼が抜きたがらない剣は、すでに沢山の人々の血に染まっている。それが、ラッシュには理不尽に思えていた。
「はん! 村一つ壊滅させといて、よく言うぜ!」
「必要な血だ」
ぴしゃりとそう言って。全ては仕事のせい。仕方がないことだと。
「野郎!!」
だから、何をしても良いのか? 否。それでは、悲しむ人が出るばかりだ。故に、ラッシュはそのナイフを振るった。
「どうしてもか。仕方がないな‥‥」
最初の一撃は囮。本命は、叩き落されたそれではなく、紙と腕に仕込んだ絞首用のテグス。
ところが。
「っつ‥‥」
彼がその首を絞める前に、ラッシュは青年に脚払いをかけられ、ベッドの上に転がされていた。青年の指先が、ラッシュの服の襟首に触れる。腕を抑えられ、そのまま引き裂かれると思い、堅く目を閉じる彼だったが、予想した服の千切れる音は、彼の耳には届かなかった。
「止めた」
「な‥‥」
代わりに聞こえたのは、そんな言葉。
「お前をここで抱いても、何の得もないからな」
「てめぇは‥‥わかった」
その表情に、かつて‥‥男娼として働いていた自分を救ってくれた男の事を思い出すラッシュ。身を離した青年から、抜け出すように天井裏へと消えていく。
驚いたのは、それを覗き見していた年少組の方だ。
「何かすごく重要なシーンを見てしまった様な気がするんですが‥‥」
「でも、コレで男の子の居場所は判ったねッ♪」
どうしようと言った表情のサラに対し、お気楽な様子のレン。予想外の展開に、うきうきした様子で、そう続ける。しっぽがぱたりと、床を直撃していた。
「あっ、大騒ぎすると、術が解けてしまいます!」
思わず力が入ってしまったのか、揺れる廊下。慌てるサラ。その直後、もの音を聞きつけた帝国兵に見付かってしまう。
「そこっ! 何をしているっ!」
「ほら言わんこっちゃない〜」
彼らは、先の青年のようにワケアリなどでは決してないのだろう。あっという間に、蜂の巣をつついた様に警戒警報が鳴り響いていた。
「きゃぁっ。レディに何するのよっ!」
「逃げますよ!」
捕まれそうになって、慌てて彼らから逃げ出すサラとレン。
「鬼さんこちらー。手のなる方へっ」
「追いかけっこじゃないんですからぁ!」
真剣な表情のサラに対して、レンはまるで小言を言う長老から逃げ回って居るような、楽しげな表情だ。
「連行した神官の一人か!?」
「逃がすな! 捕えろ!」
兵士達は、そんな事を言いながら、彼らを追い掛け回す。が、所詮は多勢に無勢。あっという間に、窓際まで追い詰められてしまっていた。
「しまった!」
眼下は崖。落ちれば、命の保障はない。
ところが。
「サラちゃん! 捕まって!」
「何ッ!?」
帝国兵の驚く表情。一度だけ振り返ったレンは、大きく背中の開いた洋服から、翼を生やした。脚は、蛇を模した様なそれと化している。
「何故ナーガがここに!?」
「えぇい、捕えて研究所に送り込め!」
そう、彼女は人の姿のままでは、捕まってしまうと感じたのだろう。変化を解き、本来の女性ナーガとしての姿に戻っていたのだ。そのまま、サラを抱きかかえ、天空へと舞い上がるレン。
「うわぁぁっ。撃って来たよ!」
「わかってるよぉ!」
しかし、ここに居る帝国兵は、町でチンピラ同然の行いしかしない兵と違い、魔法を使える者も居る。空中にいるレンを狙い、風を操る術でもって、叩き落そうとする。
「ガキどもこっちだ!」
「良くやった! この隙に殴りこむよっ!」
ふらふらと飛び回る彼女達を見つけたのは、ショウとロミナ。建物の反対側で、二人を誘導する。
「少年は東の塔です!」
「わぁった! 乗り込んでやるさ!」
サラの見聞きしてきた言葉に、ショウとロミナはそう答え、東にある塔へと走り出す。
「ショウ! 無事だったか!?」
「ああ! この通りぴんぴんしてらぁ!」
途中で合流したラッシュに、そう叫び返すショウ。だが、再会を喜ぶ間もなく、帝国兵があちこちから姿を見せる。
「にしても、後からわらわらと出てきやがって‥‥」
「本命が出てこねぇうちに、仕事済ますぞ!」
ショウの文句に、そう言い放つラッシュ。「おう!」と言う威勢のいい声と共に、帝国兵は次々と屠られて行った‥‥。
●東の塔
「騒々しいですね。将軍、何をぼんやりしているのですか? 早く奴らを捕えなさい」
「鼠二匹程度、どうと言う事もないでしょう」
東の塔の真正面では、再び蠢動する悪の声。先程の青年が話して居るのは、緑の髪の女性めいた青年。
「私が捕えろと言ったのは、あの様な子どもではありませんよ。良いのですか? 相当気に入っていたのでしょう?」
「く‥‥っ」
その視線は、レンやサラではなく、彼らを守りながら剣を振るうショウや、ワイヤーを振り回すラッシュの姿に向けられていた。
「今のは‥‥。そう言う事か‥‥。レンちゃん、塔に行って! そこに皆も居るはずだから!」
「うん、わかった!」
ナーガの姿になったままのレンに、サラがそう言う。その視界の隅に、不敵に笑うその男の姿があった。
「ふふふ。どうやら、招かれているようですよ。それとも、貴方が行かないのなら、私がこの手で奴らを八つ裂きにして差し上げましょうか? あの少年ごと」
「‥‥わかった」
唇をかみ締めながら、敵も味方も向かったのは、東の塔。
「中々開かないです‥‥」
「どきな! こんなものは、こうすりゃいいんだよ!」
錠前は特殊なものだったらしく、サラが得意とする鍵開けでも、開かない。と、業を煮やしたロミナが、一同を後ろに下げ、力を込めて扉を破壊していた。
「すげぇパワー‥‥」
「狂える野牛の名は伊達じゃないんでね! 坊や、大丈夫かい?」
中にいた少年に、そう声をかける彼女。と、異国風の衣装を着せられた少年は、その瞳の光を失わないまま、こう叫ぶ。
「誰だお前は! そうか、あいつらの仲間だな!」
「いや、あたしは違うんだって! こら! 何するんだ!」
部屋に武器はない。だが、そのあたりに転がっていた装飾品や、日常品を使って、ロミナに向かってくる。
「元気だなー」
「いや、確かに似てるけどさ。ってゆーか、のんびりしている暇あんのかよ!」
その勢いのよさ、外見。どこかで見たような奴だなーと言いたげなラッシュに、ショウがそう忠告する。
「ああもう、じれったいねぇ!」
「離せよー! ちくしょー、離せー!!」
ロミナが少年を抱え上げた。まるで荷物か何かの様に扱われ、少年がぎゃあぎゃあと文句を言うが、おかまいなしだ。
だが、事はそう上手くは運ばなかった‥‥。
「そこまでだ」
低い声音。
「あんたがここの将軍かい」
「ああ、そうだ。その子に触らないで貰おうか。大事な人質なのでな」
ロミナに向けられているのは、大切な者に触られまいとする気迫。
「何が必要なのかしらねぇがな、こんな子どもをぞんざいに扱う事ぁねぇだろうが!」
「ふん。だとしたらどうする」
挑発するような青年の言葉に、ショウは耐え切れ無くなったのか、懐からカードを抜いた。深紅のドラゴンを模したそのデザインに、彼は魔呪を唱え始める。
「待てショウ! むやみに突っこんでいくな!」
「来いッ!! 光の騎士、ナイトセイバーー!!」
ラッシュの静止を振り切って、己が盟友であるヴィジョンを召喚するショウ。と、青年の後ろから、緑の髪の持ち主が、こう命じる。
「成る程。ヴィジョンコーラーですか。それならば、かの子どもより、役には立ちそうですね。捕えてしまいなさい」
「悪く思うなよ」
冷たく、そう言って。
「く‥‥っ」
「ショウ!!」
攻撃を仕掛けるよりも先に、ショウ自身を捕える。ラッシュが、助け出そうと一歩動くと、ショウは彼とその少年を交互に見比べ、こう叫んでいた。
「俺はどうなってもいい! 俺が身代わりになるから子供は開放してやってくれ!」
例え、自分がどうなっても、レンやサラ、そして少年達が、跡を継いでくれる‥‥。そう信じて。
「させるかっ!! ショウは俺のもんだっつーの!」
だが、その刹那、ラッシュはそう叫んでいた。聞きようによっては、危険極まりないセリフだったが、今はそんな事を詮索している場合ではない。
「レンさん! 奴にブレスをっ!!」
「うんっ!!」
サラにそう言われ、レンがかぱりと口を開く。
ところが。
「邪魔ですね‥‥」
振られた指先。魔呪も何も口にしてはいないのに、その指先から、風の刃が二人に遅いかかっていた。
「きゃぁっ」
「うわぁぁぁっ」
はじき飛ばされる。壁にしたたか背中をぶつけ、地面に転がる二人。
「大丈夫?」
「うあーん。痛いよぉう‥‥」
心配するサラに、レンが涙声で訴えた。どうやら、刃がかすって翼を怪我してしまったらしい。
「今、治してあげますから‥‥」
「てめぇ‥‥」
生命の水で、その傷を癒すサラ。まだ子供とも言える彼らに手を出した事が、ラッシュの怒りを駆り立てる。
「陛下、手を出さないで頂きたい。ここは、私の砦なのですから」
と、青年が意外な事を言い出した。どうやら、手出しをされて、頭に来ているのは、彼だけではなさそうだ。
「ふふ‥‥。貴方がそう言うのなら、暫くは黙って見ていましょうか‥‥」
陛下と呼ばれた彼は、口元に笑みを浮かべながら、数歩、下がった。
「ショウのヴィジョンで適わなかった相手‥‥。果たして、どこまでやれるか‥‥」
紅蓮の炎と呼ばれ、数限りない人々を殺めた経験さえあるラッシュ。だが、所詮は生身。一度、地に転がされた事のある相手に適うかどうか‥‥あまり自信はなかった。
緊張が、最大級に高まった刹那。
「そこまでだ」
「アーシエル‥‥!」
遅れていた最後の一人が、姿を見せる。
「一人忘れて貰っては困るな」
「まだ一人、残っていたか」
その全身に、冷気ともいえる闘気をまとって、そう不敵に笑う彼‥‥アーシエル。
●戦いの行方
「話は全て聞かせて貰った。何が貴様をそこまで悪に駆り立てて居るかは知らんが、貴様の罪、この剣にかけて断たせて貰うッ!」
「いい腕だ。良かろう。我が剣さばき、受けて見るがいい!」
するりと剣を鞘から外す音が聞こえたかと思った瞬間、二人は剣を合わせ、細かい技の応酬を始めていた。
「すごい剣の応酬だ‥‥」
「あの野郎‥‥。ただの将軍じゃねぇな‥‥」
「闘気と闘気がぶつかり合っています‥‥」
「これが本当の戦いなのね‥‥!」
見守るショウやラッシュ、サラやレンの口からも、そんな言葉がこぼれ出る。
「どうした。貴様の実力はその程度か」
「それはこちらのセリフだ。貴様も本気を出せ。俺も最高の技を持って答えよう」
好敵手に出会ったときそのままの表情で、今までの戦いが、小手調べでしかない事を告げる二人。
「いいだろう。その挑戦、引き受けた‥‥」
アーシエルが、剣を高々と掲げた。
「あいつ、まさか‥‥!」
「ヴィジョンカード!? アーシエル! 危険だ!」
にわかに天は掻き曇り、砦の上に雷雲を作り出す‥‥。
「人の可能性を恐れ、芽が出ないうちに詰んでいく‥‥。確かにそれは負けないための戦術かも知れんが、戦士としては‥‥最低だな」
「俺とて、好きで悪事を重ねているわけではない! それでも、気に食わないと言うのなら、その力、解放して見せるがいい!」
轟音を立てて落ちる雷。その雷をまといて現れるもう一人の存在。
「強き者との戦いを避けている貴様にこの動きが見切れるかな!!」
叫びながら、アーシエルは地を蹴った。
「アーシエルのヴィジョンが同化していく!?」
「闘気が増大していく‥‥。あれは‥‥音速の翼‥‥!」
天空で、その黒き翼を持つ存在が、アーシエルを包み込む。
「その力、今こそ我が手に‥‥来い! ソニックスラッシュ!」
まるで、重なり合うように。融合する二人。その魔力の矛先が、青年へと向けられ‥‥振り下ろされる。
「きゃぁっ!!」
「アーシエル!」
魔力が放出された余波で、見守っていた一同がはじき飛ばされた。当たりに立ち込める土煙が、視界を奪い、どちらが勝ったのか‥‥それさえもわからなくさせていた。
「やったか!?」
その煙が晴れたとき、立っていたのは。
「ほほぅ。これは中々に珍しいパワーですね。とても興味深い研究材料だ‥‥」
「き、貴様‥‥」
アーシエルと、そして‥‥陛下と呼ばれた緑の髪の青年。大量の魔力を消費した余波で、剣を杖代わりにようやく立って居る状態のアーシエルに、彼はこう言い放った。
「これは私どもに必要な存在なのでね。まだ渡すわけにはいきませんよ」
膝をついて、ダメージをこらえて居る様子の青年将の背に、指先が触れる。
「待て‥‥!」
まだ決着はついていない。そういいかけたアーシエルの目の前で、彼らは二人とも姿を消す。
「消えた‥‥」
後に残ったのは、無残な姿の砦。そして、遠くから聞こえて来るときの声。どうやら、ナーガの長老が気を利かせて、解放軍を差し向けたらしい。
「大丈夫か? ショウ」
「ああ」
へたり込んでいるショウを助け起こすラッシュ。
「子どもは?」
「無事だよ」
一時は、命すら投げ出す覚悟を決めた彼だったが、天命は彼をまだ見放しては居ないらしい。
「お前‥‥あいつを、殺したのか?」
「いや。トドメをさしたわけじゃない‥‥」
その彼の視線の先では、捕えられていた少年に、そう尋ねられるアーシエルの姿がある。
「あいつは俺が倒すって誓ったんだ。お前なんかには、絶対に倒させないからな」
「ガキがなま言うんじゃないよ! 自分の力をわきまえな! 今のお前はお尻を叩かれて泣き出す子供なんだよ!」
「俺はそんなお子様じゃない!」
ロミナの言葉に、反論する彼。が、彼女はそんな少年の頭を押さえつけ、こう言った。
「ふん。悔しいかい? ならばその悔しさをバネにしな。あたいが鍛えてやる。強くしてやるよ‥‥」
「何でお前なんかに‥‥。俺はひとりでも強くなる。女の力なんか、借りないからなっ!」
ぱしりと差し出された腕をはねのけようとして、逆に捕えられてしまう。
「上等だ! びしびし鍛えてやるから、覚悟しな!」
「離せ〜! 離せってのー!!」
じたばたと暴れる少年を、またも荷物のように抱え上げるロミナ。サラが不安そうに「放っておいていいんですか?」と問うたが、年長組は「手を出す必要はねぇなー」だの「ま、いいんじゃねぇの?」と、知らん振りだった。
少年が、当たり前のように解放軍へと身を投じたのは、この事件の直後である‥‥。
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■ ライター通信 ■
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と言うわけで、シルバーフロスト戦記の第一話をお送りいたしました。はい、参加者の半分以上はネタが解っているとは思いますが、このシリーズはそう言った『雰囲気』を楽しむものです。まぁ、しょっぱなっから押し倒すのもどうかと思いましたので、あえてこうなりましたが。
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