<東京怪談ノベル(シングル)>
[how-to]
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「うそっ!?」
彼女は自分の手の中にある『物体』を凝視したまま固まった。
まるで時間が止まったかのように思考回路もフリーズした。
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ここはかの有名な『ガルガンドの館』。
その館のとある一室で、鼻歌を歌いながら楽しそうに資料の
整理を行なうジュディ・マクドガルの姿があった。
膨大な資料棚の間を小柄な身体でチョコチョコと動き回るそ
の姿は、可愛らしい小動物系を連想させる。
ジュディはふとしたキッカケで館の女主人ディアナと知合い
ひょんな事から資料の整理を手伝う事となったのだ。
「よいっしょ、と。」
本なのか紙なのか判別できないシロモノを本棚に押し込み、
ジュディは一息ついた。そうしてぐるりと周囲を見渡した。
噂の図書室はとても広く、そして膨大な量の本が結構乱雑に
並べられていた。
怪しげな、もとい、古く貴重な資料の数々に冒険者のタマゴ
であるジュディは興味津々で、この手伝いが出来る事がとて
も嬉しかったし色々と楽しくもある。
…のだが。しかし。
これが結構ツライのだ。
本は重くて腕はダルくなるし、中途半端な姿勢で腰は痛くな
るわと只今全身筋肉痛な感じなのだ。
仕事中はそんなに感じないのだが、こんな風に休憩したりし
ていると不意に思い出す。
「でもお手伝いするって決めたのあたしだし、ディアナさん
の為にも頑張らなくっちゃ!」
よしっ!と気合を入れて立ち上がったジュディは、いきよい
良く盛大にコケタ。しかも後ろに。
「イタタタッ…もぉう!こんなお約束アリなの〜ぉ!?」
尻餅を付いたその下に何か硬いものが有る事に気が付いた。
そっとお尻を上げると、それは1冊の白い本だった。
「わぁ!キレイな本…コレ何の本だろ」
ジュディはキレイな真っ白い本をお尻の下から引っ張り出し
手にとった。
それはまるで陶磁器の様な艶やかさで、手触りも硬くひんや
りとしていた。ページを捲ろうとしたその時、嫌な音が彼女
の手の中から聞こえた。
−−−−パキン−−−−
「………あ゛」
一瞬、その意味を理解する事を拒否した。と言うか、現実を
逃避したくなった。
ジュディは手の中にある『本の形をした陶器』は見事に真っ
二つに割れていた。
「うそっ!?」
そうして彼女はフリーズした…。
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外で鳴くカラスの声でジュディはやっと現実に戻ってきた。
手元に視線を落とせば…やっぱり真っ二つになった『陶器』
があった。どう逃避しても夢オチ、とはいかなかった様だ。
「どうしよぅ…あたし壊しちゃった…。」
深く溜息を吐きながらジュディはウ〜ンと唸った。
「これってマズいよね。不味すぎるよね…」
この壊れた『本の形をした陶磁器』は、表面に細かな細工や
加工が施されており、実際問題相当高そうだ。
「素直に謝ったら…許してくれるかなぁ…?でも…ディアナ
さんって怒ると恐そうだし…。やだ、ど、どうしようっ?!」
そう葛藤している彼女の耳に聞きなれた声が届いた。
「ジュディ?」
扉が開くと同時に、ジュディは咄嗟に『本の形の陶器』を近
くの本棚に押し込んだ。
「は、は〜い。なんですか?」
「あら?そこに居たのね。…あら?どうかした?」
「え?やっ、とっ、な、なんでもないです!」
「整理は何処まで終ったのかしら?」
そう言って本棚を覗き込んだディアナにジュディは素っ頓狂
な声をあげてしまう。それにディアナは驚いて彼女を不思議
そうに見つめた。
「あっ、いえ、別になんでもないですぅ…てへv」
ジュディは慌てて『本』隠した本棚の前に立って誤魔化そう
と引きつった顔で笑った。
「?……」
どうにも彼女の様子がおかしい。不審を抱いたディアナは、
ジュディが何かを隠そうとしている事にふと気がついた。
そしてそれが本棚に無造作に突っ込まれている白い本へ
と向かっている事にも気がつく。
そしてアレは確か陶磁器で作られていた事を思い出し…
「そう。成る程ね。」
「あの…」
「ねぇジュディ。その白い本、私に見せてくれないかしら?」
「!!!!!」
固まって動けないジュディの横からすっと手を伸ばしてその
『白い本』を手にとった。
当然ながらそれは二つにわかれてそこに存在していた。
「…やっぱり。」
「ディアナさんゴメンなさいっっ!!」
ジュディは涙目になりながら必死に何度も誤った。
「壊れてしまったものは仕様が無いわ。でもどうして直ぐに
言わなかったの?」
そう問われたジュディは、恐る恐る言訳を始めた。
「その、だから。本当は謝ろうって思ってたんだけど…」
話を最後まで聞いたディアナはふぅと深い溜息を吐いた。
そして優しく視線を落としてこう言った。
「失敗するのは仕方ないわ。でも、誤魔化して隠す事は一番
いけない事よ。この館には大切な物が沢山あるのだから。」
「は…はい。」
「今度からはちゃんと言わなきゃダメよ?」
「ご、ゴメンなさい…」
しゅんとして項垂れるジュディに優しく笑いかけた。
そのキレイな微笑みにつられてジュディも笑顔を作ったのだ
が、次の瞬間それは凍りつく。
「でも罰は必要、ね?」
ニッコリと微笑んだディアナの顔が厳しく怒られる事よりも
遥かに恐ろしく感じた瞬間だった。
**
パン
パン
パン
パン
パン
「ゴメンなさいぃーもう嘘吐いたりしないからぁ!!」
パン
パン
パン
パン
パン
「もうしませんッ!イタッ、ほ、本当だってばぁぁ!!」
ジュディは罰としてディアナにお尻を真っ赤になるまで叩か
れて半泣きで謝り続けた。
いくら見た目が幼くても、彼女はこれでも15歳。花も恥らう
何とかだ。それなのに…小さな子供がされるかのように素の
お尻をパンパン叩かれているのだ。
これは地味だがかなり精神的にクルモノがある。
「本当に反省したのかしら?本当ならこのままお尻を出した
まま廊下に立ってもらおうかとも思ったのだけれど…」
「!?!」
その台詞にジュディは身を硬くして真っ赤になったお尻以上
に顔を赤く染めた。
「でも今回は反省しているようだし、許してあげるわ。」
その言葉にホッとしたジュディにディアナはくすりと笑った。
「…でも次、嘘吐いたり隠したりすると…」
「はぃ?」
「ろ・う・か・1時間ねv」
耳元で告げられた言葉に、真っ赤になって固まっているジュ
ディを見てディアナは可笑しそう笑った。
もう絶対に嘘吐いたり、誤魔化したりし無いことを固く心に
誓うジュディだった。
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<オマケ>
「ジュディ、コレはどうしたの?!」
「ご、ご、ごめんなさーいっっ」
しかし数日後、ジュディの可愛いお尻は再び真っ赤に染まる
のであった。
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