<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


<Minstre-L>精霊の力のカード

☆オープニング

 いつもと変わらずに繁盛している白山羊亭。酒を組み交わす者や、今日一日のうっぷんを晴らす者が声を大にして叫んだりしている。
 ウェイトレス見習中のファリア・ウェヌスも、最初はそれに驚いてばかりだったのだが、次第に慣れてきていた。
 そんな中、喧騒の中で浮いている存在の男を、ファリアは見つける。
「……? えーっとぉ、どうかしましたかぁ?」
 ファリアの尋ねる声に、顔を上げるその男。かなりの美形である。
 その男の座っている机には、数枚のタロットカード状の物が置かれている。
「……いや、何でもありませんよ? お気になさらず……」
 と、男がそう言う。しかしファリアは、その表情の中、何かに悩んでいるように感じ、その男の向かいへと座る。
「これ、何ですかぁ? すごく綺麗な絵が掛かれていますぅ」
「……触ってもいいよ。 君に危害を与えるようなものじゃないはずだ」
「分かりましたぁ……」
 と言って、ファリアが手に取ったのは、緑色の縁取りがされたカード。
 すると、そのカードは、軽く光るが後、収束する。
「……君、君は、精霊の力を持っているのか?」
 驚いた風のその男。ファリアは一旦戸惑うが、その後に肯く。
「えっとぉ……こう見えても、一応はエルフですからぁ……」
 次第に興奮していくその男。
「……君なら、君なら……私の思い描いていた夢を、実現させてくれるかもしれない。協力、してくれないか!」
 手をぎゅっとにぎるその男。ファリアは何がなんだかわからないうちに、肯いていた。

「私の名前は、マイス。マイス・ウィンザード。符術師と名乗っているが、実は精霊魔法使いだ」
「君が手にしたカード。それは精霊の力をそのカードの中に写し取るという力を付加したカードなんだ」
「君にお願いしたい事。それは四大精霊の力、火・水・風・土の力を、そのカードの中に写し取って来て貰いたい」
「場所は、全て教えよう……だが、一人では危険だと思う。君の仲間達を連れて、行って来ては貰えないか? 戻ってきたら、君達の希望、一つ叶えてあげるよ」
 そのマイスの温和な微笑に、ファリアは肯いた。

☆出発〜出逢い?〜

「ファリアさん、ちゃんと僕に捕まっててくださいね」
 ゴーレムグライダーのパイロットのレアル・メイフォードは、小高い丘からゴーレムグライダーにのって旅立とうと提案する。もちろんファリアも一緒に。
 しかし、ファリアは空高く飛んだこともなく、ゴーレムグライダーに乗ることをちょっと怖がっていた。
「でもぉ……大丈夫ですかぁ? ……ちょっと私、怖いですぅ……」
「大丈夫。僕がついてる。信じて下さい」
 ファリアの肩を軽く叩き、安心させようとするレアル。そんな言葉を言われれば、ファリアに断ることなど出来ない。
「分かりましたぁ……レアルさん、よろしくお願いしますぅ」
 頭を下げるファリア。

 という事で、場所は変わってエルザードの街から少し離れた上空。
「わぁ……景色がどんどん変わっていくですぅ♪」
 最初は目を閉じていたファリアだが、レアルの言葉で目を開けると、そこには今まで見た事のないような、綺麗な風景が広がっていた。
 グライダーという乗り物の形状上、ファリアとレアルの体はほとんど離れている訳もなく、ファリアはレアルのすぐ近くで喜んでいる。
 ファリアの体の暖かさを感じながら、優しい声でレアルは話す。
「どう? 風を切る感覚って、気持ちいいでしょう? いつも見れない風景も見れますし」
「はいですぅ♪ とても気持ちいいですぅ♪」
「よかった……もし、ファリアさんが良ければ、これからも時々、こうやって一緒にグライダーで飛びませんか?」
「え? 良いんですかぁ?」
「もちろん、僕で良ければ、ですけどね」
「はいですぅ、よろしくお願いしますぅ♪」
 とても嬉しそうなファリアの声。誘ってよかったと思いながら、最初に向かう風の精霊の下へと飛び続ける。

 エルザードの街が地平線の彼方へと消える頃。
 ファリア達の目の前の、うっそうと生い茂る森の中から、突然大きな影が立ちあがる。
「うわ……っ!」
 慌てて回避しようと、レアルのゴーレムグライダー。
 すぐに止まることは出来ないものの、紙一重の所でかわすレアル。
「な、なんだ、あれは……」
 レアルが方向転換をすると、目の前に現れたのは……。
「……あ、ソウセイザーさんですぅ♪」
「ソウセイザー?」
 聞いた事のない名前をファリアが嬉しそうに話す。
 その大きな影はゴーレムグライダーの方を向く。
「突然立ちあがってしまって、申し訳ありません……ファリアさん、そして操縦している方、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫ですぅ〜。ソウセイザーさん、お久しぶりですぅ♪」
 頭の中を、「?」が渦巻くレアル。それに気づいたファリアが。
「えっと、レアルさん。この人は悪い人じゃ無いですぅ。ソウセイザーさんっていって、私が危ない時に、良く助けてくれた人ですぅ」
 実際には人ではないが、とても嬉しそうにソウセイザーの事を話すファリア。
「そう……えっと、僕はレアル・メイフォード。ファリアさんが頼まれた……」
「精霊の力を探しに行くんですね? 大丈夫、私こう見えても耳が凄く良いんです」
「そ、そう……協力してもらえますか?」
 ここから街までかなり離れていると言うのに、聞こえるというのには内心苦笑するしかないレアルであった。
「はい、もちろんです」
 多分にっこりと微笑むソウセイザー。
「ありがとうございます。 それじゃ、時間も惜しいし、早く向かいましょう」
「はいですぅ♪」
 ファリアは久しぶりのソウセイザーと出逢えて上機嫌。
 という事で、ゴーレムグライダーを追いかける巨大ロボットという光景が、エルザードの地を駆けていった。

☆風〜丘・移り気な風の精霊〜

 風の精霊の居る場所、それはただっぴろい丘とマイスは言う。
 そんなただっぴろい丘に、グライダーとそれを追いかける巨大なロボット。どこか滑稽な風景。
 ソウセイザーは隠れようとするも、その巨大な体躯を隠せる場所などこの丘に見つかるわけが無く、仕方なくゴーレムグライダーの後ろを着いていく。
 そんな中。
「凄く広い丘……何だか、眠くなりそうですぅ……」
 何も変わりばえの無い丘、くるくると飛んでいるとはいえ、ファリアが眠くなるのも至極当然であり。
「ファリアさん、寝たら駄目ですよ?」
 とレアルが言うも、ファリアは既にレアルの腕の中でうとうと。そして眠ってしまう。
 幸せそうなファリアの寝顔を見ながらレアルは。
「……本当に幸せそうですね。どんな夢を見ているのでしょうか」
 と思った。

 そして時間は夜。
 風の精霊も、ここに住むというわれる原住民族も見つからないまま。
 レアルは今日の捜索を終了し、ソウセイザーが体の中の家庭科室より、二人へとほかほかの料理を出して、ピクニックのような雰囲気が流れ始めていた。そんな時。
(くすくす……何だか、面白そうな人達が着てるよ? 大きい人♪)
「ん……レアルさん、何か言いましたか?」
 ソウセイザーが耳元で何か聞こえたような気がして、レアルに問いかける。
「え? いえ、僕は何も言ってませんが」
「そうですか……おかしいですね、何か聞こえた気がしたのですが……」
 少し考え込むようにするソウセイザー。
「きっと気のせいじゃないんですか?」
「そうだと、いいのですけれど……」
 と、ソウセイザーが言うと。
(ふふ……私たちを探しているのかしら? 無理無理、見つからないよ〜♪)
 と、再びソウセイザーの耳に聞こえる声。
「……また、聞こえました」
「ぅぅ…ん? ソウセイザーさん、どうしたんですかぁ……?」
 きょろきょろと周りを見渡すソウセイザー。
 すぅすぅと寝息を立てていたファリアが、目を擦りながら起き上がる。
「あ、ファリアさん、起こしてしまいましたか? 申し訳ありません。 何か、私の聴覚に、誰か語りかけてくるような声がするものですから……」
「……そうなんですかぁ? ……ふにゅ」
 目を擦り、そしてソウセイザーの方を向くファリア。
 視線を下からどんどんと上に上げていくと……。
「ソウセイザーさん、肩に誰か乗ってますよぉ? なんだか、小さい子供みたいな人達……」
「え、肩……ですかぁ?」
 ソウセイザーが肩を確認するも、そこには何も"見えな"かった。
 もちろんレアルが確認しても、そこには何も見えない。
(え? ……僕達の事、見えるの?)
 今度は、その声ははっきりとその場の3人に聞こえる。その声はどこか子供のようなあどけなさの残る声。
「ええ……なんだかぼわっとおぼろげな感じですけどぉ、ちゃんと見えますよぉ?」
(ふぅん……良く見てみれば、耳とんがってるじゃん、エルフなんだ。僕達が見えるのも仕方ないね。 どうしたの、こんな所で)
 そのおぼろげな見えない者達は、ソウセイザーの肩からファリア達の目の前に降りる。
 そして、次の瞬間。その見えない者達は、ソウセイザーとレアルの目の前に映る。まるで見えない外套を脱ぐように。
「……貴方達は、もしかして、風の精霊さん達ですか?」
 ソウセイザーがそう話しかけると、その者達は。
「うん、僕達はここに住んでる風の精霊だけど、それが何?」
「……一つお願いをしに、ここまで来たのです……聞いていただけませんか?」
 レアルがその者達の目線に合わせて話しかける。風の精霊達は頷く。
「貴方達の、風の精霊の力を、このカードに入れて欲しいのです。 ……お願いします」
 頭を下げるソウセイザー。巨大な体で謝られるのは、風の精霊達初めレアルにも始めての光景。
「……ふ、ふふふっ。 い、いいよ? それ位の事♪ こんな面白い光景、見たこと無いもん」
 声を抑えてはいるが、きっとソウセイザーが頭を下げて謝ってきた事が、風の精霊達が面白いと感じたようだ。
「良かった……ありがとうございます」
 再び頭を下げるソウセイザー。
 既に、風の精霊達はツボに入ったようで。笑いを堪えきれずに、声に出して笑い始めていた。
 
☆水〜滝:柔和な水の精霊〜

 大きな滝の流れる奥地。エルザードにしか居ない人達には、まず見た事の無いような光景。
 そこに、水の精霊は居ると、マイスは話す。
「では、水の精霊は、この先の滝の所に居る……という事なのですね?」
 レアルが、その地に住み着く原住民の女性へと話を聞く。
 どうやらこの街には殆ど男性はいないようで、原住民の長も女性である。
 もちろん、ソウセイザーは見つからないようにと離れている。
 しかし、滝に行くとなれば、村の横、つまりその巨大な体躯はばれる以外に道はなかったりするのだが……。
「ええ、この時間だったら、多分今外に出て来てる筈よ」
 レアルの礼儀正しさと、柔らかな物腰の口調に、温和な微笑で居場所を告げる原住民達である。
「そうですか……ありがとうございます」
 にこりと微笑で去っていくレアル。対してその女性は、少々顔を赤らめた。
「……ファリアさん、どうかしましたか?」
「……なんでもないですぅ」
 少しふくれるファリア。レアルさんを取られたとでも考えているのだろう。
 しかし、何故ふくれているか、レアルはすぐ気づかなかった。

「さてと……ここらへんですね」
 ソウセイザーと共に、更に森の奥地へと入っていく一行達。
 離れた所から周囲を確認しているソウセイザー。目線を周囲に張り巡らせると、原住民達の言っていた大きな滝が目の中に入る。
「北の方に、大きな滝があるみたいです」
「そう、分かりました」
 レアルがソウセイザーの指示に応じて、北のほうへと進んでいく。ファリアがその後ろをついていくと……。
(〜〜♪ ふぅ……今日もいい天気♪)
 水浴びをしている、水の精霊の姿が、滝下の湖に。
 もちろん、水浴びをしているので裸。そして、女性の姿である。
「!!」
 レアルは、とっさの事に声にならない叫びを叫び、そこに立ち止まる。
「きゃっ! ど、どうかしたんですかぁ?」
 突然止まるのに気づかないまま、ファリアがレアルにぶつかってしまう。
「な、な、な、なんでもないですっ! き、気にしないで下さいっ」
 思いっきりあわてているレアル。
 しかし、こんな声を出してしまえば、気づかれてしまうのも当然。
「……貴方達、そこで何をしているのかしら?」
 氷よりも冷たい声が、レアルの後ろから響く。
 後ろを見てみれば……裸の女性の姿。水の精霊が不敵な笑みでレアルを見つめていた。

「そう……私の力が欲しくて、ここに来た訳ね」
「そうです、決してあなたの裸が見たくて、ここに来た訳ではありません」
 水の精霊の怒りを、なんとか静めるレアルとファリア。
 ソウセイザーはもちろんその光景を後ろから見ていたが、手を出すことはしなかった。
 ちょうど木々に隠れて、水の精霊がいると気づけなかったというのもあるが。
 ただ後ろから見守っていて、危険になったら助けようと考えてはいたが、水の精霊は逆上する事も無く、レアルとファリアの言葉に耳を傾けていた。
「それで、原住民の人達に場所を聞いて、ここに来たわけね……ま、いいわ。別に怒ってないし」
「あ、ありがとうございますぅ……えっとぉ、水の精霊さん、このカードに触ってくれますかぁ?」
 ファリアがカードを差し出す。そして水の精霊がカードに触れると、そのカードは光り輝く。
「……これでいいのかしら?」
「ありがとうございますぅ♪」
 微笑むファリア。そして立ち去ろうとすると。
「ねぇ……レアルさんって言ったわよね?」
「はい、レアル・メイフォードと言いますが……何か?」
「……私の体、どうだった?」
 からかうように話す水の精霊。
「……は、はい?」
 レアルの時が、僅かながらに止まった。

☆土〜森:故郷〜

 土の精霊の居る場所。
 それは南方のエルフ達が居場所を知っている、というのがマイスの言葉であった。
 という訳で、三人は南方の大森林地帯へと向かっていく。

「……ぅぅーん……」
 ファリアが、何かを思い出すように唸っている。ファリアの中に残る昔の記憶が。
「なんだか……懐かしい感じがしますぅ……」
「懐かしい、感じですか?」
 レアルがそう問いかける。
「はいですぅ……」
 そういうと、ファリアは目線を落とす。
 ファリアの父や母の記憶ではないかとレアルは思うも、ソウセイザーに言われたことを思い出して止める。
 ファリアが寝静まった昨日、ソウセイザーはファリアの過去の事を、レアルに聞いた。
 彼女が昔の記憶を失っていることと、その事を聞かれる事を極端に嫌がる事。そして以前居た、ファリアの恋人の事など。
 ファリアがここにきてから、いつも見守っていたソウセイザーだからこそ、その言葉は真実味を帯びし、事実でもあった。
「……ファリアさん、早く行きましょうか」
 ファリアの肩を優しく叩くレアルに、黙ってファリアは頷いた。

 原住民のエルフ族は、人間達が訪れたことを知り、はじめは警戒していた。
 しかし、レアルの後ろに隠れていたファリアがエルフ族の者達へと歩み寄っていくと、始めに子供達、そして次第に大人達もレアル達の所へとやってくる。
 久しぶりに見る、たくさんの同族達の姿に、ファリアはとても嬉しそうである。
 そして。
「……レアルさん、ソウセイザーさん。 私、今日一日ここで泊まっていきたいですぅ。私、生まれて始めて、こんなに友達が出来たのは初めてですぅ……。 だから、みんなと一緒にたくさん話したいんですぅ」
 少し潤んだ瞳のファリア。
「……構わないと思いますよ? ファリアさん。どうぞ私達は気にせずに……」
 ソウセイザーの言葉に、レアルも頷く。そしてファリアは連れて来ていた子供とともに、再び村の方へと戻っていく。
「……ファリアさん、すごく楽しそうですね」
「ええ……今まで、たった一人エルザードの街に居たのですから……さびしかったのでしょう。顔には出さなかったとしても、心の内ではきっと……」
 ソウセイザーはまるで姉のように、村でのファリアの姿を確認している。
「……とっても楽しそうです、ファリアさん。 良かったですね」
 どことなく寂しそうなソウセイザー。妹が結婚相手の先に嫁ぐような感じだろう。
「……ソウセイザーさん。僕……ファリアさんの事、好きになってしまったみたいです。 ファリアさんの気を引くには、どうすればいいでしょうか」
 するとソウセイザーは、優しい声で。
「ファリアさんを泣かせるようなことをしないって、約束できますか?」
「ええ、もちろん約束します」
 にっこりと微笑むレアル。ソウセイザーは真剣な声で。
「そうですか……ファリアさんはこの前、恋人の死を乗り越えてきた所です。 強く振舞ってますが、その事で心にはまだ、癒しきれない傷をおっていると思います。 ですから、私からアドバイス出来るのは、ファリアさんを暖かく見守ってやって下さい。 レアルさんは優しいですから、きっとファリアさんもどんどんと引かれていくと思いますよ」
「そうですか……分かりました。ありがとうございます」
 ソウセイザーの言葉に、レアルは頷いた。

 次の日。
 ファリアは名残惜しそうにしながらエルフ達と別れ、土の精霊の住まう大樹の下へと向かう。
 レアルが土の精霊に温和な笑顔で話しかけると、土の精霊も信頼したようで、微笑みながらカードへと力を込める。
 光り輝くカード。そして、その力はカードに封印された。


☆火〜活火山:飲み比べ?〜

 最後の精霊、火の精霊の居る場所は、活火山の中とマイスは言う。
 燃え盛り、今にも爆発しそうな活火山の中に、その火の精霊は居るのである。

 ソウセイザー達は、その活火山へと辿りつく。
 何故かレアルの手には、酒の瓶が。
 ソウセイザーが上から見ても、活火山の中から立ち上る熱気が襲う。
 その場にいる誰もが一歩引く事だろう。
「燃え盛っていますね……本当に、この中に炎の精霊は居るのでしょうか?」
 内心とても動揺しているが、それを見せないようにしているソウセイザー。
 鋼鉄の体といえども、さすがに活火山に落ちてしまえば……と恐ろしさが伴う。
「でも、原住民の人達はここって言っていたですぅ……それに、私ここの奥底から何か強い力を感じますぅ」
 不安そうに、レアルの裾をつかむファリア。
 レアルも又、その熱気に一歩引くが、ファリアに良いところを見せようと気合を入れる。
「ファリアさん、僕から離れないで付いてきてください」
 レアルがそう言うと、ファリアはもっとレアルの裾を掴む。
「そうですね……私が一番前で降りましょう。 少しでもレアルさん達の負担は減るでしょうから」
 二人の命を守れるのは、自分しか居ない。そう考えるソウセイザーは、熱さに負けずレアル達を守りながら活火山の奥底へと降りていく。

 最深部では、ファリア達を待ち構えていた火の精霊が居た。
「暑さにも負けず、良く来たな」
 既にソウセイザーは、暑さでかなり疲弊している。
 レアルがファリアの前に立ち、火の精霊へと話しかける。
「あなたが、火の精霊ですか?」
「いかにも、私が火の精霊である」
 そう聞くと、レアルは持参して来ていた酒を出し。
「……もし良ければ、一緒に酒でも酌み交わしませんか?」
 僅かに目尻が上がる火の精霊。
「面白い事を言う奴だな。 こんな所まで来て、私と酒を酌み交わすだけではないであろう。 何が望みだ?」
「……僕達の望みは、貴方の力を僅かに分けて欲しいのです。それ以外、何も望みはありません」
「ほう……私の力が欲しいと。 ……それで、私と共に酒を酌み交わそうという事か。  はは、面白い奴だな」
 豪快に笑う火の精霊。そして。
「ただ酌み交わすだけでは面白くないな。 そうだな……私と飲み比べでもしようか。先に酔い潰れた者の負けという事でどうだ?」
 不敵に微笑む火の精霊。
 言い出した手前、レアルにそれを断る事など出来るわけも無かった。

 数時間経過。
 レアルも火の精霊も、もうすっかり出来上がっている。
 ファリアはソウセイザーの肩に乗り、二人の姿を見ていた。
「……何だか、レアルさん、いつもと違いますぅ……」
「ファリアさん……レアルさんを見捨てないであげて下さいね。 人は、お酒を飲むと変わる事がありますから」
 少々曲解されそうだが、ソウセイザーなりにファリアとレアルの仲を進めようと考えた結果の答らしい。
 そして、更に時間が経つと。
「もう……飲めません……くぅ」
 ぱたりと倒れこむレアル。対して火の精霊は、まだまだ飲んでいる。
「はは、もう酔い潰れたか。全く情けない」
 そう言うと、火の精霊はファリアを呼び寄せる。その口調は、どことなく明るい。最初に感じたような怖さは既に消えていた。
「今日は面白かったからな、私の力を分けてやろう。 さぁ、どうすればいい?」
 ファリアがカードを差し出し、火の精霊がそのカードへ力を込める。
 全ての力のカードが揃い、ファリアがぺこりと頭を下げると。
「お礼はこの男に言うんだな。 こんなに楽しく酒を酌み交わせたのは久しぶりだ」
 と言い、火の精霊はその場から姿を消す。
 ファリアは、レアルの所へと向かい、肩をゆすりながら。
「……レアルさん、大丈夫ですかぁ?」
 ファリアが声をかけるも、火の精霊との飲み比べ対決に負けたレアルが起きる事は無かった。
「……レアルさぁん、レアルさぁん?」
 レアルの耳には、ファリアのちょっぴり悲しそうな声が響くのみ。
 そんなファリアの瞳に、一粒の涙が流れる。
 ……どうやら、ファリアはレアルが死んでしまったと思い込んでしまったようだ。

☆終章

 全てのカードを揃い終えたソウセイザー達。
 早速街に戻って報告……と思うも、ソウセイザーは街には入れない。
「そうですねぇ……私が、マイスさんを呼んでくるですぅ」
「ファリアさん、待って……うぅ……」
 早速二日酔いになっているレアル。
 ソウセイザーの肩に乗り、エルザードの街まで帰ってくる間にファリアはレアルが死んでいないと言い、レアルも気を取り戻すが、頭が痛いのは直るはずも無く。
「……レアルさんはぁ、ここで待っていて下さいですぅ。 頭痛いのなら、無理しちゃだめですぅ」
 ファリアはレアルの事を心配して、レアルの手をぎゅっと握る。
「……分かりました、すみませんファリアさん」
 ファリアの手の暖かさを感じながら、レアルはファリアを送り出す。

「……でかいな」
 マイスがソウセイザーの姿を見て、驚く。
「ま、まぁ……カードを取ってきてくれた事に感謝するよ。ありがとう、ソウセイザー君と、レアル君」
 嬉しそうに微笑むマイス。そしてファリアから精霊の力が込められたカードを受け取る。
「確かに、精霊の力が入っているな。うむ、やはり精霊の力の篭ったカードは、美しいものだ!」
 カードを見て、不気味なほどに嬉しがるマイス。
 その不気味さに、誰もが後ずさりをする。
「……どうした? 皆変な顔をして」
 そして誰もが、マイスのその不気味な笑顔だと言えなかった。

「さて、三人とも、何が望みだい? 私に出来る事ならば、君達の希望、一つかなえてあげる約束だからね」
「僕は特に希望はありません。 別に報酬が欲しくてやったわけではありませんから……」
 レアルは頭を抱えながらにっこりと言う。
 内心では、ファリアとずっと一緒に居れた事だしと思っている。
 レアルがファリアを見つめていると。
「……? どうしたんですかぁ?」
「いや……何でもありませんよ」
「変な、レアルさんですぅ……」
 少々不服そうなファリアの声である。
 それはさておき。マイスはソウセイザーへと話しかける。
「そうか……それでは、ソウセイザーと言ったか? 君は何が希望だ?」
「私も、報酬が欲しくてやったのではありません。別に形になるような報酬は必要ありません」
「君もか……でも、誰も何も必要ないのは、私の気が晴れないのだが……本当に、私の出来る事ならなんでも良いのだぞ?」
「……そうですね、ではあくまでも希望なのですが……」
 ソウセイザーの希望、それは。
「私が街に入っても……騒ぎにならないように手配できますか?」
「……君を、か? ……ま、まぁ努力してみるという事で良いのなら、構わないぞ」
 ソウセイザーの希望に、マイスはこの後数日苦労する事になった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

〜MT13:竜創騎兵ドラグーン「現代編」〜
 【1119 / レアル・メイフォード / 男 / 19歳 / グライダーパイロット】

〜SN01:聖獣界ソーン〜
 【0598 / ソウセイザー / 女 / 12歳 / 巨大変形学園ロボットの福祉活動員】

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■         ライター通信          ■
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どうも、お待たせ致しました。燕です。
今回はかなり長くなってしまいました。(汗)
ボリュームありますので、お腹一杯になってくれると幸いです。

次回の依頼は、すぐにオープンする予定です。
今度はファリアが吟遊詩人として頑張ります、応援してあげて下さいね。

>ソウセイザー様
 どうも、いつもご参加いただきどうもありがとうございます。
 次第にファリアが嫁ぎ(?)そうですが、ソウセイザー様へのファリアの抱く気持ちは今後も変わらない事でしょう。(姉のように思う感覚は)
 嫁いだ後、ソウセイザー様がどうするか、凄く楽しみにしております。まだもう暫く先でしょうけれど、ね。