<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『緊急喫茶店!』

「うわわわわわ、シェリルさんがシェリルさんが〜!」
 白山羊亭に入るなり、ルディアがあたふたと通り過ぎようとした。
 聞くと、シェリルが、とある客と何か話しているうち、ふらふらと突然駆け出していってしまったので、あとを追おうとしているらしい。
「すみませんっ、わたしがシェリルさんを【取り戻してくる間】だけ、白山羊亭おねがいしますっ!」
 そう言うなり、ルディアは走って出て行ってしまった。一体何が起こったというのだろう。
 ちょうど時刻は昼食時。どんどん客は増えてくる。


■イルディライの身に起きたこと:報告書(?)■

 ルディアが出て行ったことには無関心に、『依頼』をされた第一号、茶色髪に黒瞳の長身青年がいそいそと店の準備を始めた。自分のほかには誰もいないらしい。
 ―――否。
 
 ずしぃぃぃん……

 裏口から外を見ると、白山羊亭の後ろで全長五十メートルはゆうにあろうかという超巨大変形ロボットが腰をおろしたところだった。
「ええと……そこの。お前も『手伝い』の一人か?」
 すると緑色の瞳がこちらを見た。
「はい、あたしの名前はソウセイザー。家事が得意なので調理とお皿洗いなら任せてくださいー」
 どうやら女性らしい。青年も名乗る。
「私はイルディライ。では、私はオーダーと清算係でもしようか……その巨体ではこの二つのことは出来まい」
「ですねー。あ、なんだか人が増えて来ましたよー」
 うむ、と頷いてイルディライは店内へ戻る。ソウセイザーといつでも連絡が取れるよう、裏口は開け放しておいた。
 早速オーダーを取る―――さすが昼時、20も30も来る。
 イルディライは裏口から顔を出し、遥か上にある顔に向けてオーダーを読み上げた。
「早速こんなにだ。調理出来るか?」
「お任せください、ただ厨房には入れないので、体内の家庭科室区分を使用して調理を行います。あ、あたしは疲れないのでイルディライさんはオーダーとかお冷やとかお願いしますねー」
「ああ」
 深く考えず、イルディライは言いながら作り上げた貝の香菜煮込みをエールごとソウセイザーから受け取り、注文した客に渡す。
 そんな調子でやっていると、あちこちから料理や飲み物への絶賛の声と追加注文の声が聞こえてきた。
(そろそろの筈だが)
 と、いぶかしみ始めるイルディライ。ソウセイザーもなんとなく、調理しながらも店内を気にしているようだ。
 そう―――そろそろ、一番始めの客が清算をする頃なのだ。見かけで人を判断してはいけないが、とイルディライはその男を皿洗いの傍ら観察する。
 それほど貧乏そうでもなく、かといって金持ちそうでもない。彼が注文したのはなんだったか―――細かく取っておいてあるメモの一枚を覗き込む。エールに貝の香菜煮込み、それに追加注文で海老とホウレンソウの煮びたしに豆のスープだ。
(支払えない額ではないだろう)
 が、一向に店を出ようとしない。食い逃げをするふうでもない。二番目三番目の客も同様だ。
 入る客ばかりになっている状況―――これはおかしい。
「イルディライさーん、立って食べるお客さんも出て来ましたよー。どうしましょう」
 裏口からこっそりと……腰ごとひねって、顔をイルディライの身長まで持って来て喋ろうとするソウセイザー。
 返答しようとした時、イルディライの黒瞳の端に不審な人物が映った。
 がっしりとした体格で、身なりが異様にいい。配色センスは全くないが、アクセサリをじゃらじゃらさせ、髪の毛や髭にまで手入れが行き届いている。年の頃は40代後半ほどだろう。
「いらっしゃいませ。なにに致しますか」
「そうだな。じゃあオードブルにジャガイモと牛肉ロールキャベツのスープとエールをいただこうか」
「おかしいですね」
 イルディライが待ってましたとばかりに、渋く瞳を光らせた。なにがだね?とその客が聞くことも計算済みだ。
「ここに来る方はまず、必ずルディアさんのことを聞いてくるのに、あんただけは聞いて来なかった」
「常連客が来るとばかりは限らないではないか」
「それでも、『あなたが店主か』とは聞かれます。なにせ自分で言うのもなんですが、この仏頂面ですから」
「イルディライさん、その胡散臭いお客さんのオーダーおまちでーす」
 本当に作るのが素早いソウセイザーの手から料理を受け取り、その客の前に置くイルディライ。言葉を置くことも忘れない。
「ルディアさんとシェリルさんに『あったこと』を知っているな?」
 どす、と更にソウセイザーから渡された包丁のひとつをテーブルに突き刺す。自分の武器はいざという時まで取っておくものだ。
 すると客は、にっかりと笑った。
「穏便に。穏便にいこうじゃないか、青年よ。ロボットよ。私の名前はサーゴット。なぁに、たいした事件でもない」
「事件、事件って言いましたよこの人」
 ソウセイザーが相変わらず調理の手を止めずに裏口から口を出して来るがイルディライは一向に構わない。
「たいした事件でなくとも、かかわってしまったにおいがするからな、私とソウセイザーは」
 こくこく、と裏口から頷く気配。
「においに敏感なのは―――」
 サーゴットの青い瞳がきらりと光った。
「悪いことでもないが、それは命取りにもなるぞ、青年よ!」
 ざっ、とサーゴットは腰の革袋の中身をぶちまけた。
「!?」
「なんですかこの香り?」
 毒煙かと咄嗟に鼻と口を塞いだが、そうではないらしい。妙にふわふわした感覚が懐かしい。これは―――
「な……酒の香……?」
「へにょへにょ〜いいきもちでふ〜」
 妙な話だが、ロボットであるはずのソウセイザーまで酔っ払った症状が出ているようだ。店の中の客全員までも、被害にあっている。ある者は眠りこけ、ある者はけたけた笑い出し、ある者は踊り出し―――。
「ふはははははは! これぞ『伝説の銘酒』の力! シェリルとやらいう娘で実験してみたが、これはいい! 全てが私の操るがままだ! 思いのままだ! ふはははははは!」
 テーブルに片足を乗っけて、高らかに笑うサーゴット。
「『伝説の銘酒』だと……? シェリルに何を命じた……?」
 まさか高貴な人物の暗殺など考えては……と酔い現になりながらも睨め上げたイルディライを、サーゴットは得意げに見下ろした。
「もっと『伝説の銘酒』を手に入れて来い、と。なぁ? たいした事件でもあるまい?」
「その、『伝説の銘酒』ってのはなんなんですかー?」
 こんこんと自分の頭を叩きながら、ソウセイザー。
「特殊なものからしか手に入れられない酒のことだ。その酒の香を嗅いだ者は、嗅がされた者の命には決して敵わないのだ!」
 これまた得意げに、サーゴット。
「初めて聞きました、メモっときましょー」
 と、本当にきっちりとメモを取るソウセイザー。
 そして、にっこりと笑みを形作った。
「イルディライさん、こっちむーいてくださーい」
「ん……」
 てれんぱれんになりそうになるのを必死に自制していたイルディライだが、どうにかソウセイザーのいる裏口から顔だけを出すことが出来た。
 そこへ、また同じ香が降ってくる。
「うっ……そ、ソウセイザー、お前は何を……、」
「じゃあイルディライさん、サーゴットさんをやっちゃってくださいー♪」
「よし!」
 ぎらんと瞳を光らせ、今度こそ自分の武器でサーゴットに突っ込んでいくイルディライ。
「あ、鞘は抜いちゃダメですよー、生け捕りです」
 そのソウセイザーの『命令』どおり、イルディライは恐れ戦くサーゴットを追い掛け回すまでもなく、ふんじばったのだ。


■強者どもが夢の後■

「教えてくれ。あのあと私は何をしたんだ」
 いつの間にか戻ってきていたシェリルがルディアを手伝って荒れた店内をほぼ片付け終わってもまだ、イルディライは裏口、店の後ろでソウセイザーに食い下がっていた。
「ええと、ですから、ちゃんとオーダーとってあたしの調理を運んで清算してましたよー?」
 だが、それだけなら何故ルディア達が時折くすくす笑うのだろう。あのあとの記憶が全くないだけに、イルディライは恐ろしかった。
「まあいいじゃないですかー、今日はルディアさんのお店、開店以来の最高売上達成だそうですよー」
 軽くイルディライの背中をぽん、と叩く。
「はい、これイルディライさんのぶんです。良かったですね、お給料出ましたよー」
「………………」
 渡されたものを、じっと見つめるイルディライ。
 手の中には金の詰まった袋と、何故か『弟子にしてくださいあにさん』というメモが山ほどあったのだった。



《完》



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


☆0811/イルディライ/男/32/料理人☆
☆0598/ソウセイザー/女/12/巨大変形学園ロボットの福祉活動員☆

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。初めましての方は初めまして。ソーンでは初めてのお仕事となります。
この物語を書かせて頂きました、ライターの東瑠真緩(とうりゅうまひろ)と申します。

今回は「できれば5人揃ったら作成を始めたいです」ということだったのですが、なかなか集まらず、こんなに〆切ギリギリになってしまいました。そして当初予定のものとはちょっと違うものになりましたが、ご了承下さいませ。
『伝説の銘酒』についてもまたネタがあるのですが、よろしければ是非またご参加下さると嬉しいです♪

イルディライさんはミスマッチな美青年といった感じで、いい意味で「いい男だな」と感じました。ので、こんなことをしていいものかどうか……と思ったのですが、お気に召しませんでしたら申し訳ございません;
今回はソウセイザーさんのお話とはまた視点の違った書き方をしておりますので、よろしければそちらもご覧頂ければ幸いです。内容は同じなのですが^^;
ともかくも、ご参加、ありがとうございました。

これからも、魂を込めて作品を書いていきたいと思っておりますので、よろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆