<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>


『緊急喫茶店!』

「うわわわわわ、シェリルさんがシェリルさんが〜!」
 白山羊亭に入るなり、ルディアがあたふたと通り過ぎようとした。
 聞くと、シェリルが、とある客と何か話しているうち、ふらふらと突然駆け出していってしまったので、あとを追おうとしているらしい。
「すみませんっ、わたしがシェリルさんを【取り戻してくる間】だけ、白山羊亭おねがいしますっ!」
 そう言うなり、ルディアは走って出て行ってしまった。一体何が起こったというのだろう。
 ちょうど時刻は昼食時。どんどん客は増えてくる。


■ソウセイザーの身に起きたこと:報告書(?)■

「あれれ、ルディアさーん?」
 知り合いのルディアに会いに来た、全長五十メートルはゆうにあろうかという超巨大変形ロボット―――ソウセイザーは、ルディアの言い残した言葉を守るため、仕方なく帰宅を待ちつつ、と思って店の裏口に腰を下ろした。

 ずしぃぃぃん……

 いい音が鳴り響いた途端、店の裏口からひょっこりと訝しげに茶色髪に黒瞳の長身青年が顔を出してきた。
(ビックリさせちゃったかな?)
 と心配に思っていると、青年が尋ねて来た。
「ええと……そこの。お前も『手伝い』の一人か?」
 ソウセイザーはなんだか少し嬉しくなって、こくこく頷きながら応えた。
「はい、あたしの名前はソウセイザー。家事が得意なので調理とお皿洗いなら任せてくださいー」
 すると彼のほうはイルディライ、と名乗ってきた。
「では、私はオーダーと清算係でもしようか……その巨体ではこの二つのことは出来まい」
「ですねー。あ、なんだか人が増えて来ましたよー」
 ソウセイザーが言うと、イルディライは店内へ戻っていく。が、裏口を開けておくことは忘れない。いつでも連絡を取れるようにと、そうしてくれているのだ。
(なんだかこういうのって嬉しいなー)
 例え、『同じ仕事を受け持っただけだから』とはいえ。
 やはり、人柄はどこにでも表れるものだ、とソウセイザーは早速、イルディライが取ってきた大量の注文を頭にインプットした。
「早速こんなにだ。調理出来るか?」
「お任せください、ただ厨房には入れないので、体内の家庭科室区分を使用して調理を行います。あ、あたしは疲れないのでイルディライさんはオーダーとかお冷やとかお願いしますねー」
「ああ」
 その会話のうちに、料理の一つや二つは簡単に出来ている。だが、どれも手の込んだものだ。ソウセイザーに作れぬものはない。
 味もまたたいしたもので、それを証明するかのように店内のあちこちから料理を褒め称える言葉が聞こえてくる。
 なんとなく、鼻歌なんて歌ってしまいながらソウセイザーは、ふと、センサーを働かせた。
 万が一にと食い逃げがないように働かせているセンサーだ。それは動かない、が。
 客は一向に出て行く気配もないし、むしろ入ってくる客が多く、立って食べる者も出てくるくらいだ。
「イルディライさーん、立って食べるお客さんも出て来ましたよー。どうしましょう」
 裏口からこっそりと……腰ごとひねって、顔をイルディライの身長まで持って来て喋ろうとするソウセイザー。
 その緑色の瞳に、見るからに珍妙な客がやってきた。
 がっしりとした体格で、身なりが異様にいい。配色センスは全くないが、アクセサリをじゃらじゃらさせ、髪の毛や髭にまで手入れが行き届いている。年の頃は40代後半ほどだろう。
 イルディライが、なにやら応対している。
(うーん?)
 何か、何かが―――店の客の何かが、今入って来た男の『何か』に反応している。
 よく分からないが、ここはイルディライの出方を待とう。
「いらっしゃいませ。なにに致しますか」
 イルディライは、ほかの客に対する態度と変わらない。流石なものだ。
「そうだな。じゃあオードブルにジャガイモと牛肉ロールキャベツのスープとエールをいただこうか」
「おかしいですね」
 イルディライが待ってましたとばかりに、渋く瞳を光らせた。なにがだね?とその客が聞くことも計算済みだ。
「ここに来る方はまず、必ずルディアさんのことを聞いてくるのに、あんただけは聞いて来なかった」
「常連客が来るとばかりは限らないではないか」
「それでも、『あなたが店主か』とは聞かれます。なにせ自分で言うのもなんですが、この仏頂面ですから」
「イルディライさん、その胡散臭いお客さんのオーダーおまちでーす」
 料理を渡す時に、一本の包丁もコッソリ持たせることを、ソウセイザーは忘れない。いざという時のために、イルディライの武器は取っておかなければ。否、イルディライだけではない、旅人や剣士等は尚更そうしなくてはならないからだ。
 思った通り、イルディライは、
「ルディアさんとシェリルさんに『あったこと』を知っているな?」
 どす、と更にソウセイザーから渡された包丁のひとつをテーブルに突き刺した。
 すると客は、にっかりと笑った。
「穏便に。穏便にいこうじゃないか、青年よ。ロボットよ。私の名前はサーゴット。なぁに、たいした事件でもない」
「事件、事件って言いましたよこの人」
 ソウセイザーが相変わらず調理の手を止めずに裏口から口を出して来るがイルディライは一向に構わない。
「たいした事件でなくとも、かかわってしまったにおいがするからな、私とソウセイザーは」
 こくこく、とソウセイザーも頷く。
「においに敏感なのは―――」
 サーゴットの青い瞳がきらりと光った。
「悪いことでもないが、それは命取りにもなるぞ、青年よ!」
 ざっ、とサーゴットは腰の革袋の中身をぶちまけた。
「!?」
「なんですかこの香り?」
 毒煙かと咄嗟に鼻と口を塞いだが、そうではないらしい。妙にふわふわした感覚が懐かしい。これは―――
「な……酒の香……?」
「へにょへにょ〜いいきもちでふ〜」
 妙な話だが、ロボットであるはずのソウセイザーまで酔っ払った症状が出ているようだ。店の中の客全員までも、被害にあっている。ある者は眠りこけ、ある者はけたけた笑い出し、ある者は踊り出し―――。
「ふはははははは! これぞ『伝説の銘酒』の力! シェリルとやらいう娘で実験してみたが、これはいい! 全てが私の操るがままだ! 思いのままだ! ふはははははは!」
 テーブルに片足を乗っけて、高らかに笑うサーゴット。
「『伝説の銘酒』だと……? シェリルに何を命じた……?」
 まさか高貴な人物の暗殺など考えては……と酔い現になりながらも睨め上げたイルディライを、サーゴットは得意げに見下ろした。
「もっと『伝説の銘酒』を手に入れて来い、と。なぁ? たいした事件でもあるまい?」
 と、その時、ソウセイザーの踵をちょんちょんとつついた者がいた。
 ふらふらの頭で振り返り見下ろすと、話題の張本人達―――ルディアとシェリルが何かを持って突っ立っている。
「シェリルさん? 今、あなたのことをサーゴットという男の人が……、」
「分かってます」
 と、ルディアは慌てた様子で説明した。
 シェリルはサーゴットの命令どおり、「もっと『伝説の銘酒』を手に入れてきた」のだ。そこで暗示のようなその症状がとけたというわけだ。
 だが、「もっと」と言うわりにはシェリルが持っているのは小さな革袋ひとつだけ。聞くと、本当に希少価値があるものらしく、これだけ手に入れるだけでも相当に苦労したらしい。
「症状から覚めるには、個人差があるみたいですね」
 ロボットだからか、早くも酔いから覚めてきたソウセイザーが革袋を受け取りながら言う。そして何食わぬ顔で、店内へ声をかけた。
「その、『伝説の銘酒』ってのはなんなんですかー?」
 こんこんと自分の頭を叩きながら、ソウセイザー。
「特殊なものからしか手に入れられない酒のことだ。その酒の香を嗅いだ者は、嗅がされた者の命には決して敵わないのだ!」
 これまた得意げに、サーゴット。
「初めて聞きました、メモっときましょー」
 と、本当にきっちりとメモを取るソウセイザー。
 そして、にっこりと笑みを形作った。
「イルディライさん、こっちむーいてくださーい」
「ん……」
 てれんぱれんになりそうになるのを必死に自制していると見られたイルディライが、どうにか裏口から顔だけを出してきた。
 そこへ、ソウセイザーは、今渡されたサーゴットが持っていたものと『同じもの』を降りかけた。
「うっ……そ、ソウセイザー、お前は何を……、」
「じゃあイルディライさん、サーゴットさんをやっちゃってくださいー♪」
「よし!」
 ぎらんと瞳を光らせ、今度こそ自分の武器でサーゴットに突っ込んでいくイルディライ。
「あ、鞘は抜いちゃダメですよー、生け捕りです」
 そのソウセイザーの『命令』どおり、イルディライは恐れ戦くサーゴットを追い掛け回すまでもなく、ふんじばったのだ。


■強者どもが夢の後■

「教えてくれ。あのあと私は何をしたんだ」
 シェリルがルディアを手伝って荒れた店内をほぼ片付け終わってもまだ、イルディライは裏口、店の後ろでソウセイザーに食い下がっていた。
「ええと、ですから、ちゃんとオーダーとってあたしの調理を運んで清算してましたよー?」
 だが、それだけなら何故ルディア達が時折くすくす笑うのだろう。あのあとの記憶が全くないだけに、イルディライは青冷めていた。
 まさかあのあと彼が、店内のテンパッている者達を技術と力でもってまとめ上げ説教し、華麗で精悍な剣の舞まで見せ、男客達を感動させたとはとても言えない。
「まあいいじゃないですかー、今日はルディアさんのお店、開店以来の最高売上達成だそうですよー」
 軽くイルディライの背中をぽん、と叩く。
「はい、これイルディライさんのぶんです。良かったですね、お給料出ましたよー」
「………………」
 渡されたものを、じっと見つめるイルディライ。
 手の中には金の詰まった袋と、何故か『弟子にしてくださいあにさん』というメモが山ほどあったのだった。



《完》



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】


☆0811/イルディライ/男/32/料理人☆
☆0598/ソウセイザー/女/12/巨大変形学園ロボットの福祉活動員☆

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。初めましての方は初めまして。ソーンでは初めてのお仕事となります。
この物語を書かせて頂きました、ライターの東瑠真緩(とうりゅうまひろ)と申します。

今回は「できれば5人揃ったら作成を始めたいです」ということだったのですが、なかなか集まらず、こんなに〆切ギリギリになってしまいました。そして当初予定のものとはちょっと違うものになりましたが、ご了承下さいませ。
『伝説の銘酒』についてもまたネタがあるのですが、よろしければ是非またご参加下さると嬉しいです♪

ソウセイザーさんは、香りが分かるのかな? でもお料理が上手なら味見もするだろうし、きっと味も香りも分かるだろう、と思って今回書かせて頂きましたが、お気に召しませんでしたら申し訳ありません;
でもイラストを見ると、何故かとっても可愛いロボットさんだな、という第一印象でした。何故でしょう……私がロボット好きだからでしょうか。
今回はイルディライさんのお話とはまた視点の違った書き方をしておりますので、よろしければそちらもご覧頂ければ幸いです。内容は同じなのですが^^;
ともかくも、ご参加、ありがとうございました。

これからも、魂を込めて作品を書いていきたいと思っておりますので、よろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆