<東京怪談ノベル(シングル)>


Ich habe es geschafft.

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ガルガンドの館からの帰り道。
ジュディはこの上なく上機嫌だった。
今日は珍しく失敗も何も無い順調な一日
だったからだ。彼女にとってそれは奇跡
的な出来事。
しかし彼女の上機嫌の理由は、実はそれ
だけではない。それ以上に嬉しい出来事
があったからだ。
その彼女の手の中にしっかりと握られて
いる、かわいくラッピングされた小さな
プレゼント。
『ガルガンドの館』女主人・ディアナに
貰ったプレゼントだ。

「これなんだろ〜楽しみ♪」

本当は貰った直ぐにでも開けて見たかっ
たのだが「仕事が終るまでは!」と一生
懸命我慢して今に至ったわけである。

「早く開けたいなぁ。髪飾り?それとも
お菓子かなぁ…やだ楽しみぃ♪♪」

不器用なスキップを踏みながら家路へと
向かうジュディの横顔は笑顔で満たされ
ていた。




****



ジュディは今日も元気にガルガンドの館
へ資料整理の手伝いに来ていた。
何時ものように元気に見える彼女だった
が、実は最近少々ヘコミ気味なのだ。

「あ〜ぁ…」

資料整理の手を止めてジュディはポフン
と出窓の縁へと腰掛けた。
ここの手伝いを始めて数週間。
慣れるどころか失敗の連続で、その度に
ディアナにお尻を真っ赤になるまで叩か
れてしまう。今日はまだ失敗はしていな
いが…。

「あたし、向いてないのかなぁ…」

今日もイキナリ呼び出され、もしかして
クビ?クビなの?クビかな…?、と不安
になりながらやって来たのにその呼び出
した本人、館の女主人のディアナは不在
のまま現在に至っているのである。

「ジュディ、今いいかしら?」

不安になっていたジュディの耳にディア
ナの声が聞こえてきた。

「あ、はい。大丈夫です。」

「ごめんなさいね、今日呼んだのはこれ
を貴女にあげたかったからなの。はい。」

咄嗟に構えたジュディの瞳に飛び込んで
きたのは何とも可愛らしい物体だった。
差し出されたそれは、可愛くラッピング
されたプレゼントと思しきもの。

「いつも一生懸命頑張ってくれてるから
これは私からのご褒美、って事かな?」

「あたし、に?」

クビかも!と怯えていただけに、この突
然の出来事にジュディは瞬時に反応でき
ずにいた。
差し出されたプレゼントとディアナを交
互に見つめながらジュディは困惑した表
情をみせた。苦笑しながらディアナはそ
っとプレゼントを彼女の手の中へ押し込
んだ。

「え…あ…」

しっかりと手に渡された小さなプレゼン
トをジッと見つめていたジュディの目じ
りに涙が薄らと浮かんでいた。

「ほら、泣かないの?」

「だって、だって、嬉しいんだもん……
ディアナさん…ありがとうぅ…」

思わず涙ぐんでしまったジュディをディ
アナ優しく抱きしめてあげた。でも仕事
の事も忘れていない。

「さ、仕事仕事!頑張りましょう、ね?」

「はい、あたし頑張ります!」


その後、手伝いも終わったジュディは、
うーんと伸びをした。今日は本当に珍し
く大きな失敗もなく無事に終われた。
これもそれも、ディアナから貰った励ま
しの言葉とプレゼントおかげかもしれな
い。

「ディアナさん、また明日お手伝いに来
ますね!」

「ええ、待ってるわ。また明日ね。」

ジュディは手を振りながら『ガルガンド
の館』を後にした。

今日はとても気分がいい。スキップだっ
てやっちゃいたいくらいに。
ディアナにとっては他愛無いプレゼント
なのかもしれない。でもそれはジュディ
にとってはこの上ない贈り物だった。
初めて得た自分の労働の報酬。
ぎゅっとそれを握り締めジュディはニッ
コリと笑った。ディアナは確かに厳しい
人かもしれない。でもこうやって失敗ば
かりな自分の事をしっかり見て評価して
くれた。それだけでも彼女にとって嬉し
い事だ。自分自身がこうして努力して頑
張ればこんな風にイイ事だってあるのだ
から。
彼女は前以上に頑張ろうと気持ちを新た
にしたのだった。




****



「あら?これ…」

ふと机の上にポツンとのっている小さな
物体に気がついたのはジュディが帰って
から暫らく経っての事だった。

「どうしてここに?あのコ、持って帰っ
たわよね…確か…じぁ…あっ!」

そおっとラッピングの中身を覗いたディ
アナは珍しく慌てた声をあげた。

「やだ!これっ!!」

彼女の手元に残っていたのはジュディに
あげる予定だった小さなプレゼント。
と、言う事は…今ジュディが持って帰っ
たプレゼントの中身は…



ガルガンドでディアナが珍しくも素っ頓
狂な声をあげていた同じ頃、ジュディは
いそいそとプレゼントのラッピングを解
いていた。しかし、彼女の目の前に現れ
たのは…可愛い小物でも綺麗な飾りでも
何でもなかった。
そこに現れた『モノ』は黒いクロイ――

「…え…っと?…あれ??」

真っ黒い煙の向こうに見えた光る二つの
輝き…
瞬間、ジュディの思考は停止した。

「??!?!?!!!!」

街中に響き渡るジュディの悲鳴は遠く離
れたガルガンドの館まで聞こえてきたと
か聞こえないとか。
窓から外を見遣りながらディアナはふぅ
と溜息を吐いた。

「…ま…いいわ。ただの幻影だしこれと
いって害は…多分無いし…(よね?)」

ディアナの手の中には可愛くラッピング
された“ホンモノ”のプレゼントがあっ
た。

「今度来た時に本当のプレゼントあげな
きゃね…ゴメンねジュディ。」

虹色の涙の形をした小さなペンダントが
ジュディの胸元を飾るにはまだ少々時間
が掛かりそうだ。



****



オマケ追伸>?

「でもあの幻影が詰った『ビックリ箱』
高いのよねぇ…勿体無いわ。お城のお給
料分位あるのに…あ〜勿体無いわ〜!!」

カラになった箱をヒラヒラと見ながら、
ディアナは深〜い溜息を吐きながら何度
も愚痴愚痴と呟いていた。

(って、そーなの??ってゆーか何の為
にディアナさんそんなの持ってたの?!)

ジュディのツッコミは心の中だけにとど
まったままディアナに聞こえる事はなか
った。


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