<PCクエストノベル(1人)>
水底のバビロン〜落ちた空中都市〜
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【冒険者一覧】
【0925/みずね/風来の巫女】
【助力探求者】
【ペティ/メイド】
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☆序章
人は心理的に、高さと早さを求める生き物であるという。
そして、この、想いが人と文化を引き寄せる次元……聖獣界ソーンにも、そんな人間の証しは存在した。
古代の人間が、己のちからを固辞するかのように造った、巨大な都市。
その都市は、魔法の力で空に浮きながら、地に這いずるものどもをあざ笑っていたのだという。
……だが、そんなソーンのバビロンは、ある日突然、地へと墜ちるに至った。
まるで、高みを求めた翼を、太陽に焼かれたイカロスのように――
そんな都市が、時の様相を多少残しながらも、湖に眠っているという。
それを、人の昂ぶりの夢の跡である、という者もいれば、人の淀んだ欲望の結果である、という者もいる。
ただ一つ、間違いの無いことは。
この都市に、まだ現世(うつしよ)の者が見ぬ財宝や謎、そして――
……あまたになるであろう危険と冒険が、深くて暗い水底に潜んでいるということ……
☆本章
そんな、地に落ちた都市へと、空を滑空しながら近づいていくシルエット。
地球からやって来た冒険者みずねの翼であった。
その翼は鱗で形状を為しており、風来の巫女に相応しき神秘的なオーラを、まるで燐粉のようになびかせている――
良く見れば、彼女の下半身に捕まり、ぶるぶる震えている者もいる。
宮廷メイドのペティであった。
ペティ:「高い! 高い! 怖い……っ!」
みずね:「大丈夫……つかまっていれば……落ちないから」
ペティ:「そ、そんな! 保証! あるんですかっ!」
みずね:「……良く考えれば」
ペティ:「……か、考えれば?」
みずね「無いかも」
ペティ:「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
みずね:「もう、泣かないの……こっちでいいんですよね?」
ペティはうんうんと、青ざめた表情で何度もうなづいた。
早くこの時間が終わればいいと思った。
地に足が付いていないとは、まさしく彼女の状態そのものだった。
一方のみずねは、もちろん平静そのものである。
空に浮かんでいたという都市の遺跡。
そこには、自らの神のルーツが、もしくはそれに連なる何かが、隠されているかも知れぬ。
目的は決して、軽く、易しいものではない。
それでも、彼女の表情は決して、大きなものに対峙する時の顔つきではなかった。
あくまで、今回は「調査」であり、危険には決して自らを近づけないという心構えがあった。
それゆえの、余裕である。
だから、案内に同行してもらう者も、人当たりに絞ったフィーリングでの決定だった。
それで空を滑空する羽目になったペティは不運であるとしか言えまい。
……合掌。
ペティ:「つ、着いたぁ……こ、ここです……」
みずね:「……水が汚れてる」
ペティ:「えーっ。こんなに綺麗じゃないですか」
みずね:「ええ……綺麗なんですけど……ちょっと、違う感じです」
ペティ:「違う感じ?」
みずね:「自然とは違う、何か、人の意志を感じるような、そんな美しさ……こんなに美しければ、水妖の一人や二人、いてもおかしくないはずなのに」
ペティ:「良く分からないですけど……それがいないってことは、なんかおかしいってことですか?」
みずね:「そうですね……」
ペティ:「その……噂でしかないんですけど」
みずね:「なんでしょう?」
ペティ:「この湖、魔物が棲んでるって……噂を聞いたことがあります。だから、綺麗なのにちょっと違う、っのは、正しいのかも――」
二人は岸辺から、湖を見下ろす。
透き通った水面には、晴れ渡った空と、二人のいぶかしげな表情が映っていた。
みずね:「危険も、あるということですか?」
ペティ:「やっぱり、噂なんですけど、怪物がいるって」
みずね:「……岸での被害は?」
ペティ:「それは聞いたことはないです」
みずね:「そうでしょうね……ここらへん、周囲はほとんど荒れていないものね……」
言いながら、みずねは水面に手を這わせた。
一筋の波紋が、彼女の掌から小さく広がって行く。
ペティ:「……?」
同行者が完全な非戦闘員であるため、潜って直接調べるということは出来ない。
そう思うのは、みずねなりの優しさと気遣いゆえである。
だが、潜らなくても、見ることは出来る。
水中とは、水と、海底から漏れ出す微細量の空気で形成されている。
水と風、二つの自然において操作に慣れ親しむ彼女であれば――
みずね:「水鏡、我の視覚の望むものに応えて――」
極度の瞑想と集中により、水を、そして僅かな泡のしじまをも、その掌から視覚として捉えることが出来るのだ。
みずね:「……深い――そして、大きい……」
見えたのは、かつて栄華を極めた、人間のエゴの夢の跡。
根っこの部分は、海底を大きくえぐって埋まっているようだった。
そして……その夢の跡が生み出した、無数の水棲怪物――
みずね:「管理する人間が……いるのね。それに、そんな好戦的でもない」
そう感じたのは、触れながらにして見つめる水に、あからさまな血の気配が無かったからであった。
向こうから何か仕掛けてくることはないのだと、掌からの感覚がそう発していた。
みずね:「それでも何か知ろうとするならば、生半可な準備じゃとてもじゃないけど、足りないってことかしら……」
手を水面から離し、みずねはしばし考えこむ。
こちらから都市内部に関わって行くのは、なかなか骨の折れる作業になりそうな予感がしたからだ。
……それでも、やはり好奇心、何より探求心が勝った。
みずね:「ペティ君、戻りましょう……もう少し、この都市そのものについて知らなくちゃ」
ペティ:「戻るって……エルザード?」
みずね:「ええ。ガルガンドの館に、また御世話になりそうね」
ペティ:「そうじゃなくて、その……」
みずね:「その?」
ペティ:「どうやって戻るのかなー、なんて思ったりして……てへっ」
ペティの乾いた笑いは、すぐさま、青白いそれへと変わった。
みずねが、笑顔で、ばさ、と翼を開いたからだった――
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