<PCクエストノベル(1人)>


Sword in Monster
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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

【0812/シグルマ/戦士】

【助力探求者】
【カレン・ヴイオルド/吟遊詩人】
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■序章

 聖獣界ソーンの南に位置する森に、封魔剣ヴァングラムと呼ばれる剣がある。
 その剣には魔物がとり憑いており、精神の弱い物は魔物の姿に変えられてしまうという呪われた剣だった。しかし、その魔物を捩じ伏せる事が出来るほどの強い精神力の持ち主がそれを所有すれば、魔物を自在に操る事が出来ると言われている。
 かつて何人もの強い戦士たちがその剣を求めて旅に出たかは数え切れない。
 今だかつて誰もその剣を手にできた者はいない。それ故に数々の人間たちを魅了し続ける武器だった。
 今回もその剣の話を聞きつけた男が一人、傭兵を従えて旅に出た。

■本文

 ソーンから南の森の近くに封魔剣ヴァングラムが在ると言われている場所に向かい、草原を突き進む二つの影がある。一人は大柄な男、一人は細身の綺麗な女だ。
シグルマ: 「白山羊亭のオヤジが言うには、この先の森に封魔剣ヴァングラムがあるんだよな」
 守護聖獣にホワイトタイガーを従え、黒い瞳に黒い髪と小麦色をした肌に左右2本の腕を持つこの多腕族の男はシグルマ。齢35歳。
 白山羊亭のマスターからヴァングラムの情報を聞き、それを求めて旅に出ている。
カレン: 「そうだよ。ここをずっと南に下るんだ」
 カレン・ヴイオルド。天使の広場にいつもいる、さまざまな情報に長けた女性吟遊詩人。
 今はシグルマの傭兵として雇われ、共に旅に出ている。
シグルマ: 「よし。今すぐ行ってヴァングラムとやらを拝んでやろう」
 シグルマは弾んだような声で先へ進もうとする。
無鉄砲な行動を起こそうとするシグルマをカレンはすかさず止めた。
カレン: 「シグルマ。急いで行ってもダメだよ。今のあなたじゃ魔物に変貌しかねない」
 カレンの言葉にシグルマの眉がピクリと動き、睨み付けるような眼差しでカレンを振り返る。相当気に障ったようだ。
 怯む様子もなく、カレンはシグルマを見ている。
シグルマ: 「カレン、お前俺をナメてるだろう?!」
カレン: 「別にそんなつもりはないよ。だけどね、興味本意でヴァングラムを手にとろうなんて考えていたら、今まで人たちと同じだって言ってるんだ。本気でヴァングラムを手に入れたいなら、それなりの覚悟を決めてかからないとダメだって事だよ」
 カレンの言葉にシグルマは足を止め言葉を詰まらせる。的確な指摘に、シグルマはさすがに返す言葉を無くしたようだ。
 シグルマのようすをチラリと一瞥しながら、カレンはシグルマの先を歩く。
カレン: 「それに、ヴァングラムの周りには、数え切れないほどの魔物がいる。力任せに突進していっても勝てる見込みは少ないと思うよ」
シグルマ: 「うるさい! 魔物なんぞ何匹いても俺の敵ではない! 全て叩き切ってやる!! カレンは黙って付いてくればいいんだ!」
 イライラしているシグルマは怒り任せに大股で歩き出す。次から次へ指摘される言葉がどれも気に食わない様子だ。
ずかずかと歩き、先を行っていたカレンをすんなりと追い抜いた。
カレンはシグルマのその背後を見る。
カレン: 「……ま、いいんだけどね。シグルマがどれほど強い精神力の持ち主か、私も知りたいし。あなたくらい強情な人なら、もしかして手に入れられるかもしれないね」
 カレンは小さく呟いて口元に笑みを浮かべる。

 草原を南に下ってから数時間。カレンとシグルマは森の入り口に立っている。
 森の奥からは重々しい空気と共に、湿度を増した空気が二人を包み込んでいる。
シグルマ: 「異様な空気だな」
 感心したような言葉でシグルマはあたりの様子を伺う。この先何が起こるか分からないので、用心に越した事はない。
 シグルマは一通りあたりを伺ってから、一歩足を踏み入れる。
遠くからは不特定多数の獣のうめき声が轟いている。様子を伺ってみて大丈夫な様子だが、いつ魔物に襲われてもおかしくは無いほど不気味な雰囲気だ。
 カレンはシグルマの後を追いながら、この雰囲気に飲まれたのだろうか。徐々に不安に駆られ始める。
カレン: 「ちゃんとした在り処が分からないのに、不用意に森に入って大丈夫だったの?」
 シグルマはわざとカレンの言葉を聞き流す。最善の注意を払っているから仕方が無いのかもしれないが、その態度にカレンは眉間に皴を寄せる。少し頭にきたようだ。
 その時ふと、シグルマは足を止める。
シグルマ: 「?」
カレンも足を止める。森の奥の一部分から、ケタ外れた強い気配を感じ取ったようだ。
 ビリビリと電流が流れているような痺れる感覚にシグルマは確信した。
シグルマ: 「俺が思うに、絶対この先にヴァングラムがあるな」
 シグルマは自信たっぷりに言った。にんまりと口元に笑みを浮かべる。
 それに対してカレンもまた力強く頷く。
カレン: 「そうだね。私もこの先にヴァングラムがある気がするよ」
 二人は怯む事も無く、まるでヴァングラムに誘われるように先に進む。
 ガサリ…。突如近くの茂みから何かが動く物音が……。
 二人がハッとなって振り返ると同時に、キラリと光る一筋の糸のような物が目に飛び込んでくる。避ける暇がない。
 ドス…ドスドスドス…! と、足元に何本かのダガーが突き刺さる。
 シグルマは一瞬驚いたような表情を浮かべるが、足元に刺さったダガーを目にするとこの先にヴァングラムがある事は間違いないと確信を持ち、にやりと微笑む。
シグルマ: 「お出ましだな!」
 シグルマは待ってましたとばかりに、背に担いでいた剣を抜きダガーの飛んできた茂みに飛び込む。
 ザシュッ! と、敵を頭から縦に真っ二つに切り落とす。叫び声をあげる間もなく魔物は死んだようだ。シグルマは紫色の返り血を浴びている。
 シグルマの横に立っていたカレンは、あたりの奇妙な視線に気づき顔を上げる。
 木の陰の四方八方から魔物がこちらを覗いているようだ。
カレン: 「囲まれているよ」
 カレンのその言葉にシグルマはあたりを見回す。
 一見何もないように見える風景の中に、異様な数の魔物がこちらを見ている様子に気がつく。半端じゃない量の多さに、シグルマは目を見張る。
シグルマ: 「この数、ただ事じゃねぇな…」
 シグルマは魔物の数を多少甘く見ていたようだ。この魔物の数は並じゃない事を肌で直接感じ、一筋の冷や汗を流す。
 その汗が顎を伝って足元の草むらにポタリと落ちる、その僅かな音を聞いた魔物の様子が変わる。訝しげな表情を浮かべているようだ。そして突然二人に飛び掛ってくる。
シグルマ: 「うおおぉぉぉっ!」
 シグルマは四方から飛び掛ってくる魔物をことごとく叩きのめす。一挙に押し寄せて来る魔物の群れに、一瞬シグルマは怯んだがすぐに我を取り戻したようだ。
 カレンもそのシグルマの背後で応戦している。
手にした竪琴を構え、細い指でその弦に触れた。
カレン: 「喪失を与え、その力を封じるレクイエムを贈ろう…」
 弦を弾く度に空気を伝わって優しく、そして少し悲しげな音色が流れた。
 魔物は突如聞こえてきたその音色にハッとなり、思わず動きを止める。
シグルマ: 「今だ!」
 シグルマは四本の腕に握っていたそれぞれの剣を真一文に振る。ブン! と風を切るように剣がうなると同時に一瞬シン…とあたりが静まる。
 すると目の前にいた全ての魔物の胴体が、上半身と下半身に分かれて地面に崩れ落ちる。
シグルマ: 「やったか…?」
 呟くシグルマ。身体の動きを止めたままあたりの様子を伺う。
 静寂があたりを包み込んでいる。他の魔物の動きも気配もないようだ。
 ただ、その魔物たちがいた場所の奥からはビリビリとした空気を感じられる。
シグルマ: 「行くぞ」
 歩みを進めるシグルマ。カレンもあたりに注意を払いながら用心深くシグルマの後に続いて歩き出す。

 目の前には開けた場所がある。
 その開けた広場の中央には、シグルマの求める封魔剣ヴァングラムが少し斜めになって大地に突き刺さっている。
 異様なまでのこの張り詰めた空気は、ヴァングラムを中心にひしめいているようだ。
 シグルマはまるで怯む事も無く、ずかずかとヴァングラムの前まで歩み出る。
シグルマ: 「これが、うわさの封魔剣ヴァングラムか…。なるほど。凄まじい気を感じるぜ…」
 シグルマはマジマジとヴァングラムを見る。そして意を決したようにヴァングラムの柄に手を伸ばし、掴む。
 ビリビリ! と、体中を少し強めの電気が走り抜ける感覚に囚われる。
 目には見えないが、その柄から漆黒の闇が溢れ出てシグルマを包み込もうとしているようだ。
 シグルマは額に玉のような汗を浮かべて腕に力を込め、ヴァングラムを引き抜こうとする。多腕族の根性とシグルマ自身の我の強い性格が、後には絶対に引かないと言い張っているようだ。迫り来る暗闇に自我を手放しそうになるが、必死に繋ぎとめる。
 ヴァングラムもそれに抗うかのように凄まじい力でシグルマに対抗しているようだ。
シグルマ: 「……ッ……。多腕族を……」
 苦しそうに呟くシグルマ。その顔と腕には幾筋かの血管が浮かび上がる。
シグルマ: 「多腕族を……なめるなぁぁ――――ッッ!!!」
 パンッ! と何かが弾ける音が聞こえた。それと同時に、シグルマを取り巻いていた暗闇が弾け飛んだようだ。
 シグルマの手にはヴァングラムがしっかりと握られて、地面から抜かれている。
シグルマ: 「……。……ッおっしゃあッ!! 見たか俺の実力を! 俺はヴァングラムを手に入れたぜ!」
 シグルマは嬉しくなって、空高く手にしたヴァングラムを突き上げる。
 カレンはそんなシグルマを微笑んで見ている。

■終章

 ヴァングラムを手にしてから一日かけて、シグルマとカレンは聖獣界ソーンへ戻った。
 二人は白山羊亭で祝い酒を交わしているようだ。
シグルマ: 「わはははは! 飲め飲め! 俺の奢りだ!」
 豪快に琥珀色の酒が入ったコップを煽りながら、シグルマは大声で騒いでいる。
 この喜びを押さえきれないようだ。
 カレンは黙って隣りに座り、シグルマと同じ酒をゆっくりと味わって飲んでいる。
シグルマ: 「おい、カレン! 皆に聞かせてやれよ! 俺のこの旅での活躍を!」
 シグルマの言葉に、カレンは1つ溜息を吐く。少し呆れているようだ。
 側に置いてあった竪琴を手に取ると、この冒険でのいきさつを詠い始める。