<PCクエストノベル(2人)>


煌く宝石 〜イン・クンフォーのカラクリ館〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【0649 / カーディナル(カーディナル) / トレジャーハンター】
【1054 / フィロ・ラトゥール(フィロ) / 武道家】
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●序章
 聖獣界ソーン。
 様々な世界から、様々な異訪者や色々なものが集まる国。そして、雑多な知識や技術、文化が入り混じり共存する国。
 聖都エルザードには、かつてソーンに他世界からの者達が訪れる前から存在していたと言われる、たくさんの遺跡が残っていた。
 その遺跡は、ソーンの創世の謎を探る重要な手掛かりとして目され、こぞって冒険者を募りソーンの創世を探求しようと躍起になっていた。
 ソーンの創世を探るきっかけを持ち帰れば、その者に多大な報酬が贈られる。冒険者達は一攫千金を狙い、遺跡へと仲間と連れ立って探索に出て行った。
 それがこの世界でのいう冒険者たちの『ゴールデン・ドリーム』である。

 聖都エルザード。
 聖獣界ソーンにおいて、最も特異な都にして世界の中心。36の聖獣によって守護されている地域の中の一つ、ユニコーン地域の中に、エルザードはあった。
 そのエルザードから北西に海沿いに進むと、イン・クンフォーのカラクリ館がある。
 その館に向かうは、カーディナルとフィロ・ラトゥールの2人の冒険者。

カーディナル:「何だか怪しいおっさんだったな」
フィロ:「そうですわね。ですが、面白そうな依頼ですわ」
カーディナル:「あぁ。カラクリ館とはどういうところなのだろうな」

 2人は、エッケハルトと名乗る男から依頼され、イン・クンフォーを探しにカラクリ館へと向かっているのだった。

カーディナル:「研究所ってくらいだから、何か珍しいモノがあるといんだが」
フィロ:「あら。あれがカラクリ館でしょうか?」

 フィロが示した先に、一軒の館があった。何の変哲もないただの館で、研究所のようなイメージはなかった。

カーディナル:「何だ、ただの家か」
フィロ:「さぁ、どうでしょう。外見に騙されないように注意しないといけませんわね」

 興味を惹かれるような建物ではなかったので、カーディナルは落胆する。
 しかし、フィロの言うように、中はカラクリ館の名に恥じぬ仕掛けで一杯なのかもしれない。肩に乗せた冒険の相棒――ペンギンに外見は似ているが、それよりももっと小さく丸くしたような生物――を撫でて、その館の扉を開けた。


●一章
 館に一歩足を踏み入れるカーディナル。フィロがその後ろを続いて入ろうとすると、前のカーディナルが急に立ち止まった。

カーディナル:「‥‥初っ端から罠があるとは思ったが‥‥こういう罠とはな」
フィロ:「あら。かなり子供っぽい罠でしたね」
カーディナル:「どこが『カラクリ』館なんだ!」

 そう叫ぶカーディナルは頭から白い粉を被っていた。
 正面の扉を開けて入ると、頭上から黒板消しが落ちてくるトラップに引っかかったのだ。罠には注意していたが、このような安易な罠だと思っていなかった、カーディナル。
 わなわなと手を振るわせる。
 カーディナルの身体から粉をはたき落としながらフィロは閃いた。

フィロ:「『罠々』と手を振るわせる罠、ですわね」
カーディナル:「5点」

 更に2人は注意深く館の中を歩き回る。
 罠やカラクリが多く、こまめにカーディナルがチェックする。大抵のものはカーディナルが解除するが、難解な罠は一旦カーディナルが調べ、それでも無理そうであればフィロが破壊した。
 今も、扉に仕掛けられた罠をフィロが蹴り一発で破壊し、轟音が響いた。

フィロ:「けほっ、けほっ‥‥。また爆弾の罠ですか」
カーディナル:「ご苦労さん♪」
フィロ:「‥‥ちょっと思ったのですけど、爆弾系は全て私に壊させてません?」
カーディナル:「気のせいだ、気のせい♪」
フィロ:「でしたら、いいのですけど‥‥」
カーディナル:「それに、怪我なんてしなかっただろ」

 見かけは派手だが、大した殺傷力はない、爆弾の罠。怪我がない事をフィロは確かめる。

フィロ:「確かに威力が弱いものばかりですけど‥‥ね。今度はカーディナルがやってくださいよ」
カーディナル:「わかった、わかった‥‥って、フィロ! 迂闊に入るんじゃないっ!」
フィロ:「え?」

 ぼやきながらその部屋の中へ入ろうとするフィロを、カーディナルは止めようとする。まだ罠が仕掛けられているか調査していないので危険だからだ。
 しかし、制止する声で後ろを振り向くも、既にフィロの身体は部屋の中へと入っていた。

フィロ:「きゃぁぁぁーっ!」
カーディナル:「フィロっ!」

 部屋へ足を踏み入れた途端、その床が大きく口を開いたように見えた。
 落とし穴。
 単純な罠だが、床全体に仕掛けられるこの罠は回避が難しい。足元の床が消え、フィロは暗闇の奥へと姿を落とす。

カーディナル:「えぇぃっ!」

 カーディナルもフィロを追いかけて、穴に飛び込んだ。


●二章
 幾ばくか気を失っていたのだろうか。
 フィロが意識を取り戻し、周囲を見渡そうとしても暗闇ばかりで何も見えない。

フィロ:「そういえば、カーディナルは‥・」
尻の下の物体:「下だ、下っ! 早くそのデカいケツをのけてくれ!」
フィロ:「大きいのは胸ですわよ?」
下敷きになった者:「いいから早くっ!」
フィロ:「仕方ありませんわね‥‥あら、その声はカーディナルですわね?」
カーディナル:「‥‥むぎゅぅ」

 フィロは慌てて立ち上がりその場に立つと、荷物から手探りでカンテラを取り出し、灯りを点けた。
 カンテラの光に照らされたのは、うつ伏せになったカーディナル。半ば意識を失いかけているようだ。

フィロ:「カーディナルっ‥‥カーディナルっ!」
カーディナル:「う‥‥うぅん‥‥」
フィロ:「一体誰がこんな酷い真似を‥‥。許せませんわね」
カーディナル:「(ハリセンチョップして)フィロっ、おまえだろ!」
フィロ:「うぅっ‥‥痛いですわ」

 涙目で叩かれた頭をおさえる、フィロ。
 そんな彼女を尻目に、カーディナルはカンテラによって暗闇が追い払われた周囲を見渡した。

カーディナル:「何もないな」
フィロ:「そう‥‥ですわね。どうやって抜け出しましょうか」
カーディナル:「おや? あそこに階段があるな」
フィロ:「行ってみましょう」
カーディナル:「ん? そう易々と行かせてくれないか」
フィロ:「‥‥! ゴーレムですわね」
カーディナル:「どうする?」
フィロ:「聞くまででもないでしょう」
カーディナル:「じゃぁ、行くぞ!」

 そして数分後。二人の前にただの瓦礫と化したゴーレムの残骸だけが残った。

カーディナル:「よっ、弱い」
フィロ:「どのように強いかと思ってたのに‥‥期待半分もありませんでしたね」
カーディナル:「珍しいものだったのになぁ」
フィロ:「まぁ、次に期待しましょう」

 2人が階段を昇ると、今までとは違った部屋に出た。異形のカラクリがところせましと転がっており、その中でも目立つのは、歯車を内部に埋め込まれた人形。その人形はカーディナルとほぼ同じ高さ。

カーディナル:「どういうところなんだ‥‥?」
フィロ:「出口はなさそうですわね。あら、この縫いぐるみ、かわいい☆」
カーディナル:「という事は、この部屋のどこかに隠れ扉とか、仕掛けとかありそうだな‥‥って、フィロ」
フィロ:「しくしく‥‥犬の人形に噛まれましたわ」

 2人は手分けして室内を探る。途中、フィロが珍しい宝石に警戒せずに触れ爆発させたり、カーディナルが面白そうなカラクリをいじってると感電したりとあったが。

カーディナル:「ふむ‥‥やはり、この人形が怪しい」
フィロ:「同じような人形が3体。しかもそれぞれのポーズが違いますわね」
カーディナル:「動くのは腕の部分のみ、か」
フィロ:「あら、カーディナル。何してるのですか?」
カーディナル:「まぁ、見てな。‥‥えーっと、ここはこうやって‥‥次もこうして‥‥よしっ」
フィロ:「人形の腕を全部上に上げたのですか。でも、何も起きませんわね」
カーディナル:「あれ? おかしいな? ‥‥フィロ、その手に持ってるのは何だ?」
フィロ:「これですか? 先程床に落ちていた『人形による隠し扉設置マニュアル』というものですわ」
カーディナル:「だったら早く言えーっ!」

 フィロから奪い取ったマニュアルどおりに人形の腕の向きを変える、カーディナル。
 上上左右と向きを変更した途端、天井から音が響き、階段が降りてきた。

フィロ:「さて、どこに続いているのでしょうかね」
カーディナル:「ともかく、行くぞ!」


●三章
 この向こうには何が待っているのだろう、と2人が階段を駆け上ると、様々な道具や機材が並べられた部屋に出た。フラスコやビーカというものから、ノコギリやトンカチなど。
 そして、その部屋の中央には老人が一人、研究に没頭していた。だが、部屋に現れた2人に気づき、こちらへと向く。

老人:「なんじゃ、おまえらは」
カーディナル:「そういうおまえこそ何者だ? 尋ねるなら自分から名乗るものだろ」
老人:「侵入者の分際で何を言うか。まぁ、いい。儂はイン・クンフォーだ」
カーディナル:「俺はカーディナル」
フィロ:「私はフィロですわ」
イン・クンフォー:「それで、何しに来たんじゃ?」
カーディナル:「エッケハルトというオッサンから頼まれて来たんだ」
フィロ:「あなたを連れに、ですわ」
イン・クンフォー:「なんじゃと! 儂はまだ研究で忙しいんじゃっ」
カーディナル:「とは言ってもなぁ‥‥俺の依頼だからなぁ」
フィロ:「そうですわ。依頼が達成できないなんて、冒険者の名折れですわ」
イン・クンフォー:「むむっ‥‥そこは何とかならんか?」
カーディナル:「そうだな‥‥。ま、こっちの成功報酬より良い物貰えるんだったら、相談に応じる予知はある」
フィロ:「ただ働きは嫌ですわ、私」
イン・クンフォー:「ぬぅ。ちょっと待っておれ」

 カーディナルらをその場に待たせると、イン・クンフォーは奥へと姿を消す。
 待っている間、2人は研究室におかれた物珍しいものを眺めながら、暇つぶしをした。

イン・クンフォー:「待たせたな」
カーディナル:「待ちくたびれたぞ。‥‥これは?」
フィロ:「綺麗な宝石ですわね」
イン・クンフォー:「研究の失敗でできた石じゃ。これ自体は何の力も持たん」
カーディナル:「おぃおぃ。金になるのかよ?」
フィロ:「‥‥いえ、これは‥‥」
イン・クンフォー:「そちらの嬢ちゃんは気づいたようじゃの。これは宝石だが、未知の鉱物でできておる。要するに、2つとない種類の宝石じゃ」
カーディナル:「へぇー。それじゃ、高値がつきそうだな」
イン・クンフォー:「そういうわけじゃ。これで儂は研究に戻るぞ」
カーディナル:「あぁ。エッケハルトには俺からうまく言っておくよ」

 そして、2人は研究に戻ったイン・クンフォーを後ろに館を出ようと‥‥。

カーディナル:「おい、じーさん。ここからどーやって出るんだ?」
イン・クンフォー:「窓のところに滑り台があるじゃろ。それを使って外に出るんじゃ」
フィロ:「‥‥こどもの国ですか、ここは」


●終章
 カーディナルとフィロ、2人がカラクリ館を抜け出てエルザードに戻ろうと道を往くと、一人の男が現れた。
 丁度2人がエッケハルトと出会い、依頼された場所。

エッケハルト:「どうだ? ‥‥いや、イン・クンフォーの姿が見えない事から失敗したようだな」
カーディナル:「なかなか頑固なじーさんだったからな」
フィロ:「てこでも動きそうにもありませんでしたわ」
エッケハルト:「やはりな‥‥。どうしたら連れ出せるものやら。依頼は失敗だ。成功報酬は出せないからな」
カーディナル:「手間賃ぐらいはくれてもいいのじゃないか?」
エッケハルト:「前払いした報酬の一部でいいだろう。それでは、失礼する」
フィロ:「あら、もういなくなりましたわね」
カーディナル:「ま、すんなりと行ってよかったな」

 2人がエルザードに戻り、行きつけの酒場で今回の依頼の終了をねぎらう。

マスター:「今回はなかなかいい収入があったみたいだな」
フィロ:「えぇ。素敵な宝石が手に入ったのですわ」
カーディナル:「見ろよ、この輝き。高そうな値がつきそうだろ?」
マスター:「どれどれ‥‥ふむ。これは‥‥この世界に現存しない鉱物か?」
カーディナル:「あぁ、よくわかってるじゃないか」
フィロ:「だからこそ、この輝きがあるといえますわ」
マスター:「‥‥残念だが、これは売り難いかもしれんな」
カーディナル:「何でだっ!?」
マスター:「この世に現存しない鉱物だから、市場では扱い辛いだろう。商人どもが買い渋るな」
フィロ:「でしたら、好事家に売り込めば?」
マスター:「好事家なら喜んで買うかもしれんが、そんなのが滅多にいるかどうか」
カーディナル:「そうだな‥‥好事家は変なの多いから、宝石という普通な趣味持ってるのが多いとは思えないな」
フィロ:「でも、私はこの宝石気に入ってますわ」

 カーディナルの手の中で転がってる宝石は酒場の灯りを反射し、鮮やかに煌いていた。