<PCクエストノベル(1人)>


ファイアー・オン・ザ・ウォーター〜豪商の沈没船〜

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【冒険者一覧】
【0925/みずね/風来の巫女】

【助力探求者】
【ペティ/メイド】

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☆序章

 聖獣界ソーン――そこは、人の魂と記憶が、想いを伴って集約されていく世界。
 異なる次元からのエトランゼを招いては、様々な事象に彼を引き合わせ、そして元へと還す。
 何らかの意志を持ちながらにして、その意志を決して人には察させぬ。
 全ての者達は、ソーンのしもべ。
 それは、世界を守護すると言われている一二の聖獣に関しても、決して当てはまらないことではない。
 しかしながら、どこの世界でも、世界そのものの流れは同じであるらしく――様々な場所で、様々な事件が起こっている。
 神の気まぐれが、人の営みが、そして世界の思し召しが。
 今日も冒険者たちを未知へと誘う。

 かつて、このユニコーン地域において、この世の贅を謳歌した一人の商人がいた。
 一節によれば、自宅の庭の木々には生肉を吊るし、泉の水は酒で注がれ、その内でこの世の悦楽を楽しむことが趣味であったという。
 そんな、程度の過ぎた娯楽も平気で行えるほどに、懐と商売は潤っていた、ということか。
 だが、そんな彼の守護聖獣がユニコーンだったことが関係あるのかどうか。
 とにかく、初めて他地方に商売の足を伸ばそうと、エルザードから出港した交易船は――見事に、藻屑となって海の底へと沈んだ。
 大破した船は、おおよその位置確認こそされたものの、引き揚げられることは無く、今に至っている。
 海に沈んだ、高価且つ珍しい交易の品々を諦めるほどの強力な障害があることを、その事実は物語っていると言えた――


☆本章

 エルファリア別荘の海岸に、一人のメイド姿がぽつねんとたたずんでいる。 
 城付きのメイドにして、別荘の管理の一部も担っている、ペティであった。
 耳元に、何やら手に持った巻貝の殻を近づけて、何かに問いかけるように口を動かしている。
 心得のあるものが見れば、その貝殻が、遠隔会話を可能にするマジックアイテムであることを、すぐに見破るのであろう。

ペティ:「そういうわけで、色々調べたんですけどっ――」

 発した声は、貝殻の中へと吸いこまれ……そして、つがいたる、もう一つの貝殻へと綺麗に抜けて行く。
 海岸から遠く離れた洋上、件の船が沈んだと想われる個所の上空に、みずねは浮遊していた。
 風と水を操り、背より自在に生やせる鱗の翼を以って、空を翔けることの出来る「風来の巫女」たる力であった。
 貝殻をペティと同じように、その耳に押し当てている。

みずね:「何か……お分かりになりましたか?」
ペティ:「はい、みずねさんの言う通りでしたっ。自然の災害、それも、海底の火山の噴火が原因で沈んだって」
みずね:「やはりそうでしたか……情報元は?」
ペティ:「ガルガンドの館で、なんか頭のよさそうな女の人が教えてくれましたです。特殊な宝石が、火山帯の活動を活発にしたんだという話です」
みずね:「特殊な宝石……」
ペティ:「その宝石が、船には大量に積みこんであったようです。これも、当時の積荷の資料で確認しましたっ」
みずね:「やっぱり、自然と偶然の折り重なりだったのね」
ペティ:「そういえば、どうして、そう分かったんですか?」

 ペティの問いに、みずねはさっと辺りを見まわして、

みずね:「邪悪な感覚が全く感じられないもの……まあ、凶暴な何かが海にはいるかもしれないけれど、凶暴なだけで――何かの意志を以ってその凶暴を働くといった気配……そういうのが、皆無なの」
ペティ:「はあ、良く分からないですけど、そうですか」
みずね:「まあ、様子見も兼ねて、少し潜ってみます……」

 言って、みずねは貝殻から手を離した。
 ペンダント上に加工されたマジックアイテムは――慣性で、彼女に遅れて海面へと引っ張られて行く。
 翼は瞬時にその姿を潜め、代わりにみずねの皮膚構造が、鮮やかなまでのグラデーションを伴いつつ、魚鱗のそれへと変貌して行く。
 体型が人魚を髣髴とさせるラインに変化した時には、彼女の体は水しぶきを伴って海中へと飛び込んでいた。

みずね:「あれね……」

 魚を想わせる、スピードに乗った潜行。
 水中における自在な運動と呼吸は、彼女が人魚の末裔たる所以である。
 程無くして、みずねは対象の沈没船を見つけるに至った。
 その鱗が、ひく、と震える。
 肌で分かる、明快な違和感を感じたからだった。

みずね:「水温が下がっていない……火山の影響はしっかりと残っているようね……」

 水温が低くない。
 ということは、この深度における水棲が、普通に活動しているとは限らないということだ。

みずね:「気配は感じられる……邪悪ではない、けれども凶暴な気配……」

 深海に晒された、船の残骸を望みつつ――みずねはそれ以上、距離を詰めることはしなかった。

みずね:「怪物相手以上に、火山噴火に反応する宝石を何とかすることの方が……大事そうね。自然素のバランスが著しく不安定で、これじゃあうかつに風や水を操ることも出来なさそう……火の要素を刺激したら、それこそ船は船ですら無くなってしまいそう」

 それでも、やるべきことが見えてきたためか、彼女の表情は明るい。
 水棲に対する警戒。
 予期せぬ事象に対する心構え。
 この二点を踏まえつつ、海底火山を刺激しないように、その刺激の元となる宝石を取り除くこと。
 それが、現時点で最も優先すべき行程であり、そして、船全体の事物を分析することにおいての最たる近道であると分かったからだ。

みずね:「さて、本格的な準備を始めようかしら……ペティ君にもたくさん協力してもらわなくちゃね」

 みずねがエルファリアの海岸に戻った時には、すっかり日は暮れていた。
 事の状況を、これからの準備を、はきはきとペティに伝えるみずね。
 待ちくたびれただけでなく、城関係の仕事も大いに残っているペティではあったが、それでも、何ひとつ不満を言うことなく応じる彼女を、みずねは嬉しく思った。

ペティ:「え? 何か言いました?」
みずね:「いえ……さあ、次が本番っ、宜しくお願い致しますね――」