<PCシチュエーションノベル(ツイン)>
盗賊と温泉と貞操と
とある山中。
山道を登る、2人の冒険者がいた。
忍者の影楼丸と、炎剣士の虎王丸。2人は持っている雰囲気が違えども容貌がどことなく似ていた。それは兄弟ゆえに当然であろう。しかし、虎王丸が兄だとは一見しただけではわかるまい。何せ、弟の影楼丸の方が背が高いのだから。
「そこ、うるせぇんだよっ」
「どうしたんだ、兄さん?」
突然機嫌悪そうに叫んだ兄の様子を訝って、影楼丸は心配そうに見る。
「かわいそうに‥‥もう、ボケるとは‥‥。年は取りたくないものだな」
「またんかっ! 俺とおまえは、たった1つ違いだろうが!」
ともかく、今はそうふざけあってる場合ではなかった。この山の麓にある村で、2人は盗賊退治を依頼されていた。
この山には秘湯があり、その周辺に盗賊が出没するらしい。それで、2人はその秘湯目指して険しい山道を登ってるところだ。
「そろそろだな。さぁて、どうやってとっちめてやろうか♪」
血気にはやって、盗賊が出てくるのを待ち構える虎王丸の様子を見て、影楼丸はニヤリと笑う。
「兄さん‥‥頑張れ」
「へ? ‥‥影楼丸、おまえ‥‥何をした‥‥ん‥‥だ」
バッタリと地に倒れ、静かに寝息をたてはじめた虎王丸。影楼丸の忍術によって、眠りの世界へと誘われたのだ。
ぐっすりと眠っている事を確認すると、影楼丸は虎王丸の身体を木の陰へと運んだ。
いつものように、秘湯目指してやってくる旅人を狙って盗賊達が山道を降りていくと、道の真ん中に何かが転がっているのを見つけた。
「ん? 行き倒れかよ」
山道の真ん中で旅人が寝転がっていた。近づいてみると寝息を立てているのが聞こえる。単に疲れて寝込んでしまったのだろう。
盗賊達は意味ありげに目配せしあうと、未だぐっすりと寝ている虎王丸の身体を担いでその場を去った。
その様子を樹上から一対の瞳が逐次見ていた。
「兄さんの犠牲は忘れないよ」
言葉とは裏腹に、影楼丸は何か楽しげであった。
盗賊達は虎王丸を己らの本拠地に連れ去るであろう。事前に調べた情報では、盗賊達は男を好んで喰うらしい。勿論、喰う、というのは比喩的表現であるが。
その事を知って、本人の了承を得ないで、虎王丸を囮にした。そして、連れ去られる虎王丸と盗賊達を追いかければ、敵の本拠地を突き止めれる事ができるはずだ。
そこで一網打尽にしてしまえば、今後の憂いなく盗賊を壊滅する事ができる。
これから虎王丸に起こるべく事を知っても尚、平気に盗賊達の後を木々を伝わって追いかける影楼丸であった。
山の奥の洞窟。そこが盗賊達の本拠地であった。貧相なねぐらだが、ただの盗賊にとっては重要なアジトだ。
薄暗い洞窟の中でランプを灯し、虎王丸の身体を地に投げ出す。
「‥‥うっ‥‥ここは‥‥?」
痛みで眠気が吹き飛び、意識を取り戻す虎王丸。
最後に見た景色――森の中ではなく、微かな灯りだけが頼りの洞窟の中だという事に気づき、はっとする。
気づけば、鎧の類が全て取り払われていた。それどころか、手足を厳重に縛られていて、自由に動き回る事ができない。
「やっと気づきやがったか」
その声で、数人の荒くれ者に囲まれている事に気づいた。
「てめぇら! 何しやがるっ!」
取り囲んだ者らは、いずれも逞しい身体を露わにした下帯一つの姿だという事を知り、虎王丸は不審に叫ぶと共に思った。もしかして‥‥という恐怖が脳裏に過ぎったが、そうでない事を祈る。だが、一人の男が言った事はその想像を肯定するものであった。
「何って? 勿論、俺達を楽しませる為に自由を奪ってるだけじゃねぇか」
よく見れば、下帯にはくっきりとこれから何をするかをよく示すかのように、猛々しいものがくっきりと形を押し上げていた。
「いくぜっ!」
そのかけ声をきっかけに、盗賊達は一気に虎王丸に襲いかかった。
荒々しく衣服を破り取られ、上半身がさらけ出された。
一人の男が虎王丸の胸に舌を這わし、力強いその手で肌を厭らしげに触る。もう一人はズボンの上から強く虎王丸自身のものを握り、もう一人は更にその下へと指を延ばす。
「ほらっ」
他の男が、虎王丸の前に雄々しく形を見せる薄汚い下帯を突きつけた。
虎王丸は嫌がって顔をそむくが、男が頭を掴んで強引に頬をその硬い幹に押し付けた。
「さて、俺が最初に頂くぜ」
首領らしき一際逞しい体躯の男が己の下帯を外すと、虎王丸にのしかかった。そして、そのまま最後に残された衣服を剥ぎ取り、虎王丸を下帯一つの姿にした。
「やめ‥‥っ!」
虎王丸は叫ぼうとするが、その口に匂いがきつい布を押し込まれて口を塞がれてしまう。
首領は下卑た笑いを浮かべると、虎王丸の下帯に手をかけた。
その時。
「そこまでにしてもらおうか」
凛と響く男の声が洞窟内に響いた。
盗賊達が入り口の方を見やると、忍者装束に身を纏った黒髪の少年が鋭い視線で睨んでいた。
影楼丸。
その少年を見て、虎王丸はその名を呼ぶが、口の中に押し込まれた布のせいで言葉にならない。
盗賊達が武器を手に襲いかかるが、影楼丸から放たれた凍気が、その動きを阻んだ。
「兄さん、これを!」
そう叫ぶと、影楼丸は虎王丸に剣を投げた。
剣先は地面に突き刺さり、虎王丸は剣に近づくとその刃で己を戒めている縄を切った。そして、剣を手に立ち上がる。
「てめぇら、許さんからなっ!」
影楼丸に向かっていた盗賊達の背後から、剣を振り上げて走る。一人がその刃の前に倒れるが、他の盗賊達はその隙に2人を取り囲んだ。
影楼丸と虎王丸は背中合わせになり、盗賊達の攻撃を凌ぐ。
虎王丸が力で押し切り、その隙間を縫って盗賊が近づけば、影楼丸が凍てつく刃で牽制する。互いの持ち味を生かして、隙のない攻撃を盗賊達に与える。
氷の刃が首領を斬りつけ、更にその身体を束縛した。続いて虎王丸の刃が、その身体を突き刺すと、最後に残ったのは影楼丸と虎王丸の2人だけであった。
湯気が辺りに立ちこめる。
戦いが済み、盗賊を壊滅させた事を確認すると、その足で2人は秘湯へと向かった。返り血やごにょごにょで汚れた身体を洗い清める為だ。
「兄さん、しっかりとつかって‥‥その汚れてしまった身体を癒すんだよ」
「こらっ! まだ俺は汚れてない!」
自分がされた事、されそうになった事を思い出して、顔を赤らめて怒鳴る虎王丸に、くすっと、笑う影楼丸。
「そうだね。兄さんの危機に俺が駆けつけたんだからね」
確かに、危険なところを助けられたには違いない。唸って首筋まで身体を湯に沈める虎王丸。
ふと、疑問に思う。
「‥‥ちょっと待てよ。そういえば、やけにタイミングよく現れたなぁ。もしかして、ずっと見ていたのか?」
「そんな事はない。兄さんが口の中に何か押し込められたり、貞操が奪われる直前だったというのは知らない。勿論、胸を舐められて艶っぽいいい声を出していた事も」
その影楼丸の言葉を聞いて、再び湯の中から立ち上がって怒鳴る、虎王丸。
「‥‥てめぇっ!」
「あれ? 舐められて感じた事は本当なんだ?」
「うるせぇっ! それよりも俺がどんな目にあったか‥‥っ!」
「ふぅん、どんな目にあったんだい? その辺詳しく教えてくれよ」
飄々として虎王丸の文句を聞き流し、それどころか問い詰める影楼丸。
恥ずかしい記憶をまた思い出し、しかも言葉に出して言えず、虎王丸は握りこぶしをただ震えさせるだけであった。
「もう、出るぞ!」
湯に浸かっていたせいか、それとも怒りか、恥辱か。顔を真っ赤にしたまま温泉から出ようとする虎王丸。その背に向けて、影楼丸は言葉をかけた。
「兄さん。そこに鎧と替えの服を置いてあるからね。流石に破れた服で帰るわけにはいかないだろう」
「おうっ、ありがとよ」
弟の思いやりに感謝の言葉をかける、虎王丸。だが、そこでまた気づく。
「‥‥何でそんなに用意がいいんだよ? それに鎧はおまえが持っていたのかよ?」
影楼丸はその低く尋ねる声を気にせず、明快な声で虎王丸に言う。
「何か文句あるんだったら、下帯一つで帰るんだな」
「畜生っ!」
泣きながら走っていく虎王丸の足音を耳にしながら、口笛を吹きながら温泉を楽しむ影楼丸だった。
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