<PCクエストノベル(1人)>


夢の続き 〜遠見の塔〜

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【冒険者一覧】

【 1095 / アーナンタ・シェーシャ / 賢者 】

【その他登場人物】

【 カラヤン・ファルディナス / 賢者 】
【 ルシアン・ファルディナス / 賢者 】

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☆序章

 雑多な文化、人種、種族、あらゆるものが混沌の中で混ざり合い、融合と断絶を繰り返していつしか、一つ一つの粒子は明らかに個別の形を保ちながらも、数え切れない程のそれらが集まって新しい一個体を形成している、それが聖獣界ソーン。それらの粒子の下となったのは、各地に残る古の遺跡からの出土品、冒険談、或いはインスピレーションなのだと言う。
 だがしかし、それでも尚、ソーン創世の謎が解けた断言するには真実は程遠く、誰もが納得する真実を手に入れる事が出来たのなら、富と名声を一気に手に入れる事ができると言われている。
 それ故、今日も冒険者達・研究者達が名誉と財産を夢見て、仲間と、或いは一人でソーン各地の遺跡へと、果てなき冒険の旅に出る。ある時は危険な、そしてある時は不可思議な冒険に…。
 それがこの世界での言う冒険者たちの『ゴールデン・ドリーム』である。


☆本章
〜白く光り輝く塔〜

 ここはエルザードから程近い静かな農村、アクアーネ村。この村の入り口辺りに、一人の男性が大股に腕組みをした勇ましい格好で立ちはだかっている。美しい白銀の髪と金色の瞳、額の真ん中にビンディを称えた美丈夫である。、金と言う色合いから、その瞳はどこかキツい印象を与えがちだが、常にそこに宿っている好奇心と人好きする光が、彼の知性と親しみ易さを前面に押し出しているようだ。賢者として日々、興味あるものに対しては飽く無き探求心を持ち続けるアーナンタ・シェーシャは、今、遠くの目の前にそびえ立つ、朝の眩い光をその身に浴びた美しい白亜の塔を眺めては、何やらニヤニヤ…もとい、ニコニコと満面の笑みを浮べていたのだ。
アーナンタ:「ついに……ついに来たな。遠見の塔」
 まるで長年離れてくらした愛しの恋人に再会したかのよう、アーナンタの瞳は誇張ではなくキラキラと輝いてみえる。瞳が金色の所為もあるだろうし、東の方向から昇りつつある朝日を受けている所為もあるだろうが、やはりそれはアーナンタの賢者魂を擽り続ける遠見の塔が目の前にあると言う、たったそれだけの事実が沸き立つような高揚感を伴って瞳へと現われているからであろう。
 遠見の塔とは、ユニコーン地方に幾つかある謎の多い建造物の一つだが、何よりアーナンタの心を揺さぶったのは、ここにある聖獣界のありとあらゆる知識を記したと語り継がれる書物や未だ記入されてはいない―――つまりは歴史も文化も知識も、まだまだこれからだと言う事だ。その事実がアーナンタの更なる向上心を揺さぶって止まなかった―――白紙の本、そして三十六地域の、望む映像を写しだすと言う天球などである。当然それらは彼の長き人生の中でも今だ目にした事のないものばかりであり、学問を志す者ならば一度はこの目で見てみたいと願うものばかりだろう。そしてまた、その塔に住むと言われるファルディナス兄弟にも心惹かれるものがある。百年以上の齢を経ても変わらないその姿形、それに興味を覚えるのも事実だが、だがやはりアーナンタとしては、彼等の持つ想像を超えるだろう豊富な知識や情報、その人となりの方が数倍強い興味の対象なのであった。昔から、賢しい人達との交流が何よりも楽しかった。自分とは違う分野の学者であっても同じ分野であっても、或いは学者と言う身分の者でなくとも、経験から得た深い知識の持ち主と語り合う事はアーナンタにとって至上の悦びであるとも言える。その辺り、俺は根っから賢者なんだろうな、と思わず自分に対して微笑ましい笑みを向けてしまうアーナンタなのであった。

 さて、それはさておき。準備万端で遠見の塔に向おうとするアーナンタに、宿屋の女将が声を掛けた。
宿屋の女将:「ちょっとお客さん。遠見の塔に行くんだって?」
アーナンタ:「ああ、そうだよ。話を聞いたからには居ても立ってもいられなくてね。こう、如何にも賢者魂を擽る話じゃないかい?」
 ないかい?と聞かれても、一介の宿屋の女将としては、そうだねぇとしか答えようがなく。だが女将はここに長年住んでいるだけあって、遠見の塔に関する噂も数多く知っているらしい。眉を潜めると、立てた人差し指をチッチッと振りながら言った。
宿屋の女将:「行くのはお客さんの自由だけどね…こんな噂があるんだよ。遠見の塔は興味本位で昇ろうとする者には容赦が無いって。長く続く螺旋階段があるそうなんだけどね、その魔力に囚われて、昇っても昇っても先が見える事はなく……諦めて踵を返した途端、何かに背中を押されるような衝撃を受けて一気に階段を転げ落ちて行くそうだよ。しかも不思議な事に、何時間も昇って来た筈なのに、転げ落ちる階段はほんの十数段だと言うんだよ。まぁ、死人や酷い怪我人が出たと言う話しは聞いた事がないけど、用心するに越した事はないよ?」
 心配そうに告げる女将に、顎に手を当てて考えていたアーナンタだったが、やがてにっこりと茶目っけたっぷりの笑顔を向けると、
アーナンタ:「大丈夫さ、女将さん。学問や研究を生業とする者達の中に、悪い奴はいやしないさ」
 自信満々でそう告げ、女将に礼を言うとアーナンタは手をひらりと振って歩き出した。それは強がりでも言い訳でも何でもなく、彼が本当に心底信じている事なのであった。


〜永久の螺旋階段〜

 アクアーネ村から遠見の塔までは歩いて然程の距離も無く、尤も、鍛え抜いた体躯の持ち主であるアーナンタにとっては、全然対した事のない行程なのであった。まさに文武両道のアーナンタではあったが、今は探求心の方が大きく成長を遂げている為、滅多な事ではその格闘の腕前を披露する事はなかった。塔の真下、大きな石造りの両開きの扉の前に、さっきと同じようにがっつりと立ちはだかるアーナンタの長身が、綺麗に浮かし彫りの模様が入った扉に長い影を作った。
アーナンタ:「…………ん?」
 暫く感慨深げにその扉を眺めてたアーナンタだったが、ふとその瞳の風合いが変わる。ガッ!と扉の透かし彫りへとかぶり付くと、そのひとつの模様を見詰めた。
アーナンタ:「……これはもしや、揺らぎの風の文様を図案化したもの……? いやしかし、あれはまだまだ多くの謎に包まれた魔法の筈……こんな場所に、しかもこんな古い建造物に刻まれている筈が……ああいやいや、ここはそう言う時の流れとは関係無い場所なのであったか。…ああ、だが……」
 ぐるぐると頭の中で、アーナンタの知識と記憶と推理力が総動員しているようだ。そう考えると他の模様も、同じように何かの魔法を図案化したもののように思えて来る。それらは彼には心当たりがないものばかりなので、もしかしたらまだまだ未知の魔法が数多くあるのではないか…そう思うと自然アーナンタの端正な容貌は、崩れんばかりの笑みに満たされるのであった。
アーナンタ:『…………幸せだ』
 ほんわりと幸せそうな表情を浮べたまま、アーナンタは両手でその重い石造りの扉を開いた。
アーナンタ:「……おおおおおっ、これは―――ッ!」
 思わず大声を上げた先にあったのは、暗い螺旋階段の壁に等間隔に、明かり取りの目的で埋め込まれたのだろう、赤く内部で炎が息衝く輝石である。むろん、アーナンタならばすぐにそれが永遠の炎であると気付いたのだろう。知識としては以前より持ってはいたが、実際目にするのは初めてであったし、しかもこんなに数多く目の当たりにすると感激も一入というものである。思わず壁に張り付いてその輝石を、間近でまじまじと見詰める。まるでその熱い視線に恥じらうかのよう、永遠の炎の揺らめきが一段と激しくなったような気がした。
アーナンタ:「はッ!これは!精霊魔法の極めて古い形の文言では!? またこの図案化のデザインがオーソドックスながら洗練されている事と言ったら……で、こっちはユニコーン地方伝説の竜馬の絵柄!?何処かで同じ絵を見た事はあるが、ここまでディテールの細かいものはさすがに……おおぅ、これはもしや…………」
 もうアーナンタにとっては、右を向いても左を向いても、塔の内部は驚きと悦びに溢れているらしい。塔の玄関口にあたる広いホールの真ん中で立ち尽くした彼の表情はと言えば。

 キラキラ。

 この一言に尽きただろう。それはまるで、数え切れないぐらいのケーキを目の前にした甘党のように。または強欲な守銭奴が、己の、命よりも大切な財産を部屋中に広げて悦に入っている時のように。まだ螺旋階段を一歩も昇ってもいないのに、アーナンタの興奮はMAXに近かった。

 クス。誰かがどこかで、秘めやかに笑った気がした。


〜知識と興味の宝庫、そして〜

 そんな調子で一段一段ゆっくりと検分していきながら螺旋階段を昇っていったので、アーナンタの歩みはカメやカタツムリよりも遅々として進まなかった。これで同行者でもいれば、余りの遅さに喧嘩になること必須だったが、それを見越してか最初からアーナンタは一人で来ていたので、その危険は避ける事が出来たのだが。
 やがて、そんなノロノロの歩みでも進んでいる事は確かなのだが、実際彼としてはどれぐらい時間が経ったのか、どれぐらいの距離、階段を昇ったのかもすっかり分からなくなっていた。面白い本を読み始めたら、日が落ちて文字が判別出来なくなっても止められない、その性格そのままが出ているようだった。そんな彼が今は壁際の台座に置かれた一つの置物に注意を向けている。それ自身はただの花瓶なのだが、その素材に使われている物が世にも珍しい鉱石で作られていたので、自ずと興味を引いたのだ。取り出した硝石で作られたルーペで詳細に検分しているアーナンタの肩を、誰かがぽん。と軽く叩く。
アーナンタ:「んー?」
 気のない返事を返すものの、アーナンタは振り向こうともしない。もう一度、ぽん。と男の肩に手が置かれる。
アーナンタ:「んんー………?」
 次にアーナンタが取った行動はと言えば、己の好奇心探求の邪魔をする、その手を肩からぱしりと払い落とす事であった。すると背後で、クスクスと忍び笑いが漏れた。そこまで来てようやく、アーナンタは気付く。この塔の内部で、己以外に人が居るのだとすれば。
アーナンタ:「……!?………あ…」
 慌てて振り向いたアーナンタが目にしたものは、金色の眩い髪と海よりも空よりも深くて高い青い瞳を持った一人の少年だったのだ。それは噂に聞いた、ファルディナス兄弟の弟の方、ルシアンの容貌、そのままであった。
アーナンタ:「……………」
ルシアン:「ようこそ、お客人。兄上も待ってますよ」
 にっこりと太陽のような笑みを浮べて、ルシアンはそう言った。


〜天空の空間〜

 少年に案内されてアーナンタが行き着いたそこは、とてつもなく広い空間の部屋だった。それは、塔の外観から想像できる広さの数十倍もあり、その構造の謎もさる事ながら、アーナンタの気を惹いたのは、まさに膨大な数の書物を称えた、冗談のように広い書斎であった。
カラヤン:「ようこそ、遠見の塔へ。ここまで辿り着いた方は久し振りですよ。お会い出来て光栄です」
 そう言って、カラヤンだと名乗ったその青年は、艶やかな黒髪と怜悧な印象を与える眼鏡、それらの冷たいイメージをカバーするように面に浮かぶ穏やかな笑顔が特徴的な青年であった。言葉数は少なそうだが、そのふと漏らす一言一言が満ち溢れんばかりの叡智と知識、情報に彩られ、アーナンタにとっては希代の美女の微笑みよりも数倍魅力的に感じてしまう。
 打って変わって弟のルシアンはと言うと、万華鏡のようにくるくる変わる表情と息継ぐ間も無く向けられる質問と言葉が、まるで絶える事のない好奇心がそのまま服を着て歩いているような活発な少年であった。一見すると無邪気な少年であるが、その言葉の端々には兄と同じく、深い叡智を見て取る事ができ、見た目のままのコドモコドモした少年でない事は確かであった。
アーナンタ:「俺の方こそ、キミ達兄弟に会えて嬉しいよ。…と言うか、途中までは全く失礼な奴だったな、俺は。人様の家に押し掛けた分際の癖に、つい挨拶も後回しにしてしまって…俺にとっては興味深いものがあまりにあり過ぎてな、……血迷ってしまった、と言う所だろうか」
 どこか照れ笑いのような笑みを浮べてアーナンタは後ろ髪を掻く。その様子を見詰めて、カラヤンが小さく口元で微笑んだ。
カラヤン:「構いません。と言うか、貴方のその対応こそが、ここへ辿り着く唯一の鍵であったのです。ここにある書物、情報、知識、それらは全てこの聖獣界ソーンで暮らす方達の共通の財産だと思っています。ですが、誰でもそれを利用する事は許されないのです」
ルシアン:「中には、この知識で一儲け企んだりとか、それか独り占めして自分だけが得をしようとか、そんな事を思う人も多いからね。だから僕達は、勝手ながらここにやって来る人達に条件を科してふるい落としているんだ」
アーナンタ:「…もしやそれが、さっきの俺のように、存在に気付きもしないで観察を続ける…とかそう言うことなのかい?」
 そうアーナンタが言うと、思い出したのか、ルシアンが可笑しそうにくすくすと笑う。それを諫めるようにカラヤンが苦笑いをした後、穏やかな笑みをアーナンタへと向けた。
カラヤン:「方法はどのようでも構わないのです。ただ、その方がどれだけ知識を得る事に飢えているのか、悦びを求めているのか、そして努力を惜しまないのか。そう言った事を示してさえ下されば、誰でもここまで容易に辿り着く事ができるのです。…残念ながら、最近ではそう言った一途な方はお見えにならなかったのですが……」
 そう呟いてカラヤンが細く溜め息を零す。それはまるで、失われて行くこの世の探求心や好奇心、研究心などを嘆いているようでもあった。
カラヤン:「いずれにせよ、貴方はここに入る資格を得ました。ここにある書物はどれをどれだけお読みになっても構いません。持ち出しする事は不可能ですが、その頭の中に詰め込んで行く分には構いませんよ」
 笑み混じりにそう告げるカラヤンを見詰め返すアーナンタの瞳は、先程の続きでか、それ以上にキラキラと悦びと期待に打ち震えた。


☆終章

 それからどれぐらい、アーナンタがそこに滞在したかは自分でも分からない。まるで、あの空間だけ時間の流れが違うのかと思うぐらい、そこに流れる時は緩やかで、また穏やかであった。アーナンタは心ゆくまで書物を楽しみ、天球を覗き、そして兄弟と語り合った。アーナンタが塔を辞する時、カラヤンがこう告げた。

カラヤン:「貴方は私達の生命の秘密を問おうとはしませんでしたね。それが、私達にとっては何よりも嬉しかったですよ」

 その神秘に興味がなかった訳ではない。だが、それよりも兄弟の深く聡い知識に魅了されていたから、それを知らずともアーナンタの魂は充分満足出来ていたから。



おわり。




☆ライターより☆

 初めまして、ライターの碧川桜です。この度はクエストノベルのご依頼、誠にありがとうございました。初めてのクエストノベルでしたので、海の物とも山の物ともつかず、長らくお待たせしてしまった事をまずはお詫び申し上げます。如何だったでしょうか?少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
 それでは、またお会い出来る事をお祈りしつつ……。