<PCクエストノベル(2人)>


黒夜の塔にて〜永遠の少女・ニーナ

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【1102/狐鷹・柴染(こだか・ふしぞめ) /ジャイアント】
【1092/翠玉・裏葉(すいたま・うらは)/天明の踊師】

【助力探求者】
【/】

【その他登場人物】
【/ニーナ】

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 聖獣界ソーン。
 いくつもの世界との夢の架け橋を持つという不思議な国。
 今宵もまた、聖獣ユニコーンに導かれた冒険者がこの地に降り立つ。
 聖獣の祝福を受けつつ、この土地に安住の場所をも求めて……。

 聖都エルザードを離れ、西に向かう冒険者の一組がいた。
 頑強そうな肉体の持ち主、ジャイアント族の狐鷹・柴染(こだか・ふしぞめ)と、金色の美しい絹糸のような髪とエメラルドの瞳を持つ、小麦色の肌の娘・翠玉・裏葉(すいたま・うらは)。
 柴染の足元には牡丹と名づけられたマラミュート犬が従っている。白と黒の長い毛を持つ、丈夫そうな大型犬だ。
 二人と一匹は、もう長いこと歩き続けていた。
 街道沿いに、アクアーネ村、クレモナーラ村と過ぎ、街々から右の谷あいの道をひたすら歩き続けること数日。
 それでも先の見えない道のりに、先に疲れを訴えたのは裏葉の方だった。
 
裏葉:「まだかしら。もうずいぶん歩いてきましたのよ? 私、疲れてきちゃったわ」
柴染:「もうそろそろじゃ。あの前方にそびえる山の向こう、地図ではそうなっておる」

 先ほどから大事そうに右手につかんでいた地図を、柴染は裏葉に手渡し、「ここだ」と太い指で指し示した。
 

裏葉:「あと歩いてどれくらいかしら?」
柴染:「頑張れば日暮れまでには、到着するじゃろう」
裏葉:「……野宿はいやよ」

 裏葉はため息をつき、先を急ぎだした。
 谷あいの道は、奥に行けば行くほど、悪路になっていた。
 やがて二人の歩く道は大きな流れの谷川の畔へと繋がり、さらに上流に向けてひたすら歩き続けること数時間。

裏葉:「ね、もしかして、アレ?」
柴染:「もしかして、でなくてもそうじゃろうなぁ」
裏葉:「………………」

 周囲の山脈よりも、一段と高く険しくそびえた黒々とした山。
 その中腹より、黒い巨塔が暗雲を率い、天までそびえたっているのだ。噂通り、巨塔には入り口も窓も見えない。
 漆のように黒々とした、巨大な黒曜石のような光輝く城である。
 噂では、この塔の入り口は、遥か頭上にあるこの塔の上部に一つだけあるらしい。
 そしてこの中には、時空を曲げる魔物ダルダロスが住んでいると言われていた。

 二人は緊張を抱え、残りの道を急ぐ。
 険しい岩道を歩くこと再び数時間、塔のふもとへと二人がたどり着いたときは、あたりは既に夕暮れにかかっていた。

裏葉:「……やっとついたわね……これからどうします?」
柴染:「噂によるとじゃな……この辺りにニーナという娘が住んでいるというらしいんじゃが」
裏葉:「こんなところに!?」
柴染:「ああ。……ん。あれを見ろ」
裏葉:「どこよぉ〜? もう辺り暗いんだからそんなに目は……あっ、もしかしてあそこ?」
柴染:「そうみたいだな……」

 柴染は巨体を揺らして、塔の足元にある小さな森の外れにある小さな家に近づいた。
 ただでさえ小さく目立たないその家は、まるで見つけられたくないように、森と同じ屋根の緑、壁の茶。
 柴染は牡丹に家の近くで待っているように命じてから、家に近づき、その小さなドアを身をかがめて、続けて打った。

柴染:「頼もう! 頼もう! 旅の者だが、どなたかおらんかね?」
裏葉:「ああ、もうっ。先に行かないでよ。(はぁ、はぁ……)」
柴染:「居ないのかぁ?」

   ……ドアが開いた。
ニーナ:「あの……どなたですか?……」

 扉の向こうから現れたのは、細い銀髪の麗しい青い瞳の美しい少女だった。
 年の頃は17,18くらいだろうか。小柄でやせっぽっちの少女だ。 
 彼女は、柴染と裏葉が冒険者だと名乗ると、少し困ったような笑顔を見せたが、扉を大きく開いて、やはり小さな声で言った。

ニーナ:「お困りならどうぞ……お泊まりになってゆかれてください」
柴染:「おお、これはかたじけない」
裏葉:「お邪魔しますわね」
ニーナ:「狭いところ……ですけど」

 招かれて入ったニーナの家は、小さいながらも小綺麗な部屋だった。調度はほとんどなく、かろうじて、食事をとるためのテーブルと椅子、客用のソファ、後は戸棚が一つ、二人の目に入った。
 彼女は客人になれているのだろうか?
 お茶を入れますといって、奥の部屋へと姿を消し、しばらく戻らなかった。
 テーブルにつきながら、柴染と裏葉は部屋の様子を見回していたが、ふいに裏葉が柴染の肘をつついて言った。
 
裏葉:「ね、柴染?」
柴染:「なんだ?いきなり小声で」
裏葉:「噂通りじゃない? ……鏡がないわ」
柴染:「言われてみれば……そうだな」

 聖都エルザードで、冒険者仲間達の噂に寄ると、ニーナは鏡を苦手にするという。
 それはなんでもない噂の可能性もあった。彼女と実際に会った者など、知り合った冒険者達の間にはなかったのだ。
 実際に、彼女の素朴な生活の中に、鏡が見当たらないということは、柴染にはそれほど大きな問題のようには思えないような気がした。
 しかし、裏葉の方はそうは思わなかった。
 彼女はその噂を聞いたときから、このニーナという少女のことを怪しんでいたからである。
 
 塔に住まうというダルダロスという化け物。
 それは、時空を変化する力を持ち、近寄るものを排除する強大な力を持っている。
 けれど、ニーナだけは排除されなかった。彼女は塔の下でずっと一人で暮らしてきたという。
 一体何のために。
 
裏葉:(あのニーナって子も、化け物なんじゃないのかしら……)

 考えられることはそれしかない気すらしていた。
 ニーナはダルダロスの仲間であり、油断をすれば、自分達を捕らえて、ダルダロスに突き出すつもりかもしれない。

裏葉:(まあ……そんな力がありそうには見えないけどね……)

ニーナ:「すみません、お待たせして。……お疲れかと思ってスープを作ってきました」

 奥の部屋からようやく、大きなワゴンを持ちニーナが戻ってきた。
 さびしげでおとなしそうな表情が微かに微笑んでいるかのようにも見える。

柴染:「おお、これはすまないな。いい匂いだ……。実は腹はかなり減っていた」

 豪快に笑うジャイアント。小麦色のエルフも腹の虫は正直で困る。
 変な薬でも入れられてたら、と心配になったが、ワゴンにのせた鍋から、三人分のスープをそれぞれよそう彼女の姿を見て、ひとまず安心することにした。
 それでも、ニーナが先に一口すくって飲み干すまでは、口のつけられない彼女であった。

柴染:「……これは上手いな」

 柴染の方は全く警戒心を持ってないのだろうか。
 勢いよくスープを口に運んでは、味わうように瞼を伏せ、幸福そうに微笑んだ。
 ニーナは彼の為におかわりを何度もついだ。
 ここに辿り着くまでにさんざん歩いてきた冒険者達の胃袋は、スープごときでは、やはり満足しないようだった。
 パンをとってくると、再び席を外したニーナの背を見送り、裏葉は柴染に耳打ちした。

裏葉:「……どう思う?」
柴染:「どう思うとは? うまいスープじゃった……」
裏葉:「そうじゃなくて……もぅっ。妖しくないかってこと」
柴染:「そうかのぉ……」
裏葉:「あの子に鏡を見せて反応を見たいわ……、一芝居うちたいのだけど、付き合ってくださる?」
柴染:「一芝居? どのような?」
裏葉:「ちょっと耳を貸してね……」

 ひそひそと裏葉が柴染の大きな耳に、手かざしして顔を近づけている時、ニーナは奥の部屋からパンの詰まったバスケットを持つて戻ってきた。
 慌てて席に戻る裏葉。
 ニーナは特に不審に思ったような表情はせずに、おなかのすいた彼らに手作りのパンをご馳走してくれた。
 それらをむさぼりながら、柴染はニーナに尋ねる。

柴染:「おぬし、いつから此処に住んでるんじゃ?」
ニーナ:「……さあ、物心ついた時にはここに住んでいましたわ」
裏葉:「ひとりでこんなところさびしくないの?」
ニーナ:「慣れました。それに……ひとりじゃありませんの」
柴染:「どなたか同居人が?」
ニーナ:「いえ、この家には私のほかには誰も……」
裏葉:「じゃあ、もしかして……、あの塔の」
 
 ニーナは小さく頷いた。
 二人は身を乗り出して、ニーナに話を聞き出そうとする。
 ニーナは冒険者達が聞きたがってることが何であるか、わかっているのだろう。
 静かに語りだした。

ニーナ:「あの塔には、時空を操るダルダロス様がおひとりで住んでらっしゃいます。私は、あの方の慈愛を受け、ここで暮らしてきました」
裏葉:「ダルダロス様って……、会ったことあるの? あの塔に登ったことがあるの?」
ニーナ:「……ええ、ございます」
裏葉:「どうやって?」
ニーナ:「……」
柴染:「秘密……か?」
ニーナ:「あなた方に話すべきなのかどうか、まだ決めかねております」
柴染:「何か条件のようなものでも、あるのじゃろうか」
ニーナ:「…………」

 しばらく重い沈黙が続いた。
 裏葉はそのじれったい状況に苛々したように、突然席から立ち上がる。

裏葉:「まあいいじゃない? 話したくないものは、強制しても仕方ですもの。……それよりも、ニーナさん、そんなにお美しい方なのに、お化粧もされないなんて……」
ニーナ:「お化粧……?ですか」
裏葉:「こんな山の上では、必要ないのかもしれないですけど……、お美しい方が何もされないのも花に水をやらないようなものですわ。もしよろしければ、わたくしに任せていただけないかしら」
 
 言いながら裏葉はニーナの隣に腰掛けた。
 きょとんとするニーナを自分の正面に向けると、裏葉は自分のウェストポーチから化粧道具の入った小袋を取り出した。

裏葉:「さあ、目を閉じて。綺麗にしてあげますからね」
ニーナ:「……あ、あの……」
裏葉:「すぐ終わりますから」
 
 半分有無を言わせず、彼女に化粧をほどこす裏葉。
 柴染は半分苦笑しながら、その様子を見守った。
 女というのはどうして化粧が好きなのだろう。美しくなるから? それとも美しく見られるから?
 そういう彼は白粉臭いのはあまり好きではない。
 けれど、そんなことを裏葉に言うと、怒ってしまうだろうから口には出さない。

裏葉:「ね、あの塔の入り口って本当に上の方にあるのかしら? 噂ではそう聞いてきたのだけど」
ニーナ:「……ええ、上にあります」
裏葉:「……どうやって登るのかしら?」
ニーナ:「導きの石があれば、難しいことではありません」
裏葉:「導きの石?」
ニーナ:「……はい」

 白粉を塗り終わり、唇に紅を差す。ニーナは幼さを残す可愛らしい少女から、ぐっと女っぽい色気を漂わすような美少女へと変化する。
 やりがいがあるじゃないの、と裏葉は喜びながら、筆を動かした。

柴染:「ダルダロスはどうしてあんな塔に住んでるじゃろう?」
ニーナ:「……ダルダロス様があの塔を作られたからです」
裏葉:「塔で何をしているの?」
ニーナ:「……ただ日々を平和に暮らしておられます……」
 
 その言葉を言ったとき、ニーナの口調はとても冷たく感じた。
 本当の言葉ではないかもしれない。柴染も裏葉も同じように直感した。

裏葉:「そ、そう……。ね、導きの石ってどこにあるのかしら? ご存知ないかしら?」
ニーナ:「……」

 多分彼女は知っているし、持っているのだろう。
 けれど答えてはくれなかった。
 二人は内心、途方にくれ始めていたが、仕方なかった。

裏葉:「それじゃ、これで完成っと♪ まあ、なんて綺麗なのかしら!! ほら、ごらんになって? 柴染」
柴染:「ん……どれどれ」

 化粧を終え、裏葉はニーナを柴染の方へと振り返らせた。

柴染:「!!」

 それは女性の価値観であれば綺麗というのだろうか。
 ナチュラルに美しかったニーナの顔を白い白粉で塗りこめ、朱色の紅で唇を染めた。
 柴染にはそうとしか思えなかったが、裏葉はひどく満足そうである
 そして、ポケットから手鏡を取り出すと、そっと、ニーナの前にかざした。

裏葉:「ほら、ごらんになって?」
ニーナ:「あっ!!」

 鏡がきらりと光に反射した。
 ニーナの悲鳴と同時に、手鏡の中に映ったニーナの姿は。

裏葉:(えええええっっっ!!)

 鏡の中のニーナは、ひからびたミイラのように見えた。
 美しい銀色の髪の下は、深い皺が刻まれた茶色の皮膚。
 しかし、その面立ちの上だけは、白い白粉と朱色の口紅が美しく光っている。

ニーナ:「まあ…………」

 ニーナは裏葉の手から手鏡を受け取ると、その鏡の中の自分をうっとりと見つめた。
 そしてしばらく見入り続ける。
 裏葉は目を見開いたままで、何のことやらわからない柴染の後ろに隠れてしまった。

柴染:「どうしたんじゃ? 裏葉」
裏葉:「わ、わ、わ、私、どうしましょうっっっ!」

 ニーナは鏡を膝の上に置くと、二人の方向を振り返った。

ニーナ:「裏葉さま、あなたは魔法使いでらっしゃいますの? 私の顔をこんなに美しくしてくださって…………本当にありがとうございますっっっ」
裏葉:「……へ?」
ニーナ:「私はダルダロス様の永遠の恋人。あの方に永遠にお仕えできるように、時を止めていただく魔法をかけていただきました……けれど、鏡だけは私のことを侮辱いたしますの。干からびたミイラのような体で映し、永遠の時の魔法をあざ笑うのですよ。それなのに、このお化粧のおかげで、鏡の意地悪にも耐えることができます……。本当に本当にありがとうございますっ」

 ニーナは深々と頭を下げた。
 裏葉は柴染の背中の後ろから、ひきつったような笑みを浮かべた。

裏葉:「よ、喜んでもらえたなら嬉しいですわ……。よ、よかった……。よろしければ、その白粉と紅、差し上げますよ」
ニーナ:「本当でございますか!?」
  
 ニーナは飛び跳ねるように喜んだ。
 そして、自分の首からネックレスを外すと、柴染の手に握らせた。
 それは胡桃の実のような形をしていて、そして美しい深い青色の石が埋め込まれていた。

ニーナ:「こちらが、導きの石でございます。これをもち、塔の下まで参られませ。……ダルダロス様にお会いして、貴方型の望むものを手に入れてください」
柴染:「我々の望むもの…………?」
ニーナ:「はい。時空を操ることのできるダルダロス様。……ただ、今のあのお方は苦渋に満ちてらっしゃるかもしれません。私が道案内をしてもよいのですが、すべてはお二人の心のままに……」
柴染:「わかった……」

 柴染は石を手にして、手のひらに握った。
 その大きな手のひらの中で導きの石は、まるで熱を持っているのかように、熱く感じられたのだった。


○エピローグ

 彼らの出立の時間は、翌朝だった。
 ニーナは最後までご機嫌で、裏葉は何度も化粧のやり方を教えてやらなければならなかった。
 あんなに厚塗りしたら、あっというまに白粉も紅も使い果たしてしまうかもしれないけれど。
 客用の寝室と、居間のソファでそれぞれ一夜を過ごし、二人は塔の前へと向かう。
 ニーナの家でミルクをもらった牡丹も共にある。

柴染:「さあ行くか……」
裏葉:「そうね……、さあ次は何が起こるのかしら……。でも、貴方がいるから安心ね」
柴染:「ははは、どうじゃろうな」
裏葉:「護って下さるでしょう?」
柴染:「……まあ出来る範囲でな。……お前さんも強いじゃろうが」

 上目使いに自分を見上げる美しい小麦色のエルフに、柴染は素直に笑う。
 少し物足りなさそうな裏葉。
 
 目前にそびえる黒曜石の塔・ダルダロスの棲家。
 彼らの冒険はまだほんの序章でしかなかった……。

                                        fin

○ライターより

 はじめまして。ご注文いただきありがとうございました。
 納品が遅くなりまして、本当に申し訳ありません。
 おふたりの設定や、プレイング、大変楽しく拝見させていただきました。

 今回は、ニーナのことのみ、ということなので、このような形で締めくくらせていただきました。
 ダルダロスの塔、一体何があるのでしょうか。そしてどのようなものなのでしょうね。
 もしご要望などありましたら、レター等いただけると嬉しいです。

 それではまたどこかでお会いしましょう。ありがとうございました。

                                    鈴猫 拝