<PCクエストノベル(3人)>


封じられし水神〜クレナモーラ村〜

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【冒険者一覧】
【0925/みずね/風来の巫女】
【1063/メイ/戦天使見習い】
【1091/鬼灯/護鬼】

【助力探求者】
【カレン/吟遊詩人】

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☆プロローグ

 特に何か、祭りがあるわけでも無かった――しかしクレナモーラ村はそれ程の賑わいを見せていた。
 中央の広場で、またもや、美しい神服姿が、細く美しい水を乱舞させている――みずねであった。
 風と水を上手に操ることで行う水芸に心和ませた村人、特に子供たちはその涼しさの虜となっており、みずねが再訪した折りにはちょっとした騒ぎになったものだった。
 しかも、エルザード都を活動拠点とする、ユニコーンの地ではその名の知れた吟遊詩人――カレン・ヴィオルドを彼女が伴って現れたのだから、村の盛況はまさしく坩堝のそれとして起こった。
 苦笑混じりに、しかし各々の芸を請われるままにはじめた二人。
 しかし、今回の来訪は、こうして興行にも似た行為をしに来たわけでは無かった。
 水辺の岩場に眠る、狂乱の歌――
 二人の心中は、青空へと吸い込まれていく飛沫や音色の爽やかさとは、程遠い。






 ソーン。
 12の聖獣の守る、ここではないどこか。
 夢の集う場所なのか。
 それとも、欲望が具現化する吹き溜まりなのか。
 それを知っているのは、そいつに必然を与えて世界へと引き込む、ソーン自身だけ――





☆前編



声:「こうして見渡せば、本当によさげな場所ですのにね」

 銀髪と銀の瞳。
 太陽に好かれるかのように光を吸い込み、水辺に移し出されるその無邪気。
 軽装鎧を着る彼女の名は、メイ。
 みずねと期を同じくして、ソーンへと誘い出された、現世では天使の相を持つ娘である。

メイ:「……何か応えてくださらないと、ちょっと寂しいですわ」

 そう言いつつ、メイが見据える先には――岩場そのものを凝視するかのように、ただ立っている単(ひとえ)姿。
 鬼灯(ほおずき)という娘であった。
 いや、娘と言うには、少々語弊があるのかもしれない。

メイ:「鬼灯――」
鬼灯:「聞こえています」
メイ:「ほっ……じゃなくてっ」
鬼灯:「じゃなくて、なんですか」
メイ:「いい場所なのに、って話ですっ」
鬼灯:「そうですね。自動人形として見ても、良いモノは良いと感じられるほど、良い所だと思います」
メイ:「どのあたりが、特に、そう思われますかしら?」

 ようやく岩場からメイへと視線を移し――しかしその瞳は深い闇のそれだ――鬼灯は言った。

鬼灯:「風がある。緑――木もある。土を司る岩もある。ヒトの心を司る金――楽器の音色も良い」
メイ:「それは……どういうことですの?」
鬼灯:「木火土金水。陰陽の理。世界を形成するちからの決まりです」
メイ:「……すいません。ちょっと、畑違いで、よくわからないです」
鬼灯:「そうですか」
メイ:「でも、足りないのがありますよね! 火はどうしたんですか?」
鬼灯:「無いですね。方角的にも一致します」
メイ:「一致――って、わあ!」

 メイが驚いたのも無理は無い。
 突然、漆黒たる鬼灯の瞳が稲光のような燐を伴ったかと思うと、瞳そのものから光が飛び出し、虚空へと何かを映し出したからだ――

メイ:「ああびっくりしたです……って、これは――」


   <北>

   川辺

<西>
村  岩場  森 
       <東>
   ??

   <南>



メイ:「位置関係、ですわね――??というのが、岩場の奥を表すのかしら?」
鬼灯:「そして、火を司る何かがある――しかし、その理の均衡が崩れている……ゆえに、秘神は狂っているのでしょう。火は土へと繋がっていく――しかし、火に何かあったために、その繋がりを受ける岩場の神も影響を受けているのでしょう」
メイ:「でも――先程の調査で、分かったわけですよね――過去の岩場が崩れたのは、意図的だって」
鬼灯:「はい……土の次は、金……つまり、あの場所で流れが止まらなければ、人間――村が狂っていたことでしょう」
メイ:「……怖い話よね……」
鬼灯:「怖い話です。原子層までの分解も、二度と御免です」



☆中編



 先刻のことである。
 みずねの指示に従い、しかし人が通れぬ道を通るために、鬼灯はその身のからくりを原子レベルにまで変化させ、極細の水道を通り、秘神と対面したのであった。
 極度の集中を持続させねば、人形たる自分の体も水宙に溶け消える中、鬼灯は見事岩場の中へと辿り着いた。
 人形なのに、汗をかいたような気がした。無論そんなことは無く、肌に張り付いたのは、原子から自らの体を再構成する際に、残り物としてまとってしまった多少の水滴だけだ。
 人魚の姿をした神――そいつは神であると、鬼灯は理解していた。
 神の力を学術的に分析し、擬似的に操る、陰陽の系譜に基づいて作られたゆえである。
 秘神が、鬼灯を威嚇するように声を張り上げる。

鬼灯:(確かにいい音とは思えない――)

 しかし、脳というものを持たない擬似の体ゆえ、その影響を鬼灯が受けることは無い。
 その特性を見込まれて、今回の件、みずねに協力を頼まれたのだから――

鬼灯:「どうして、こんなことをしているのです」

 その言葉は、みずねの言葉でもある。
 術者と式神に代表される、陰陽的な感応を利用して、擬似的な会話を行っているのであった。

秘神:「…………」

 言葉なく、歌うだけ――

鬼灯:「歌っているだけでは、分からないです……私達は、あなたの敵ではない」
秘神:「……押し戻して、炎を鎮めて――」
鬼灯:「何……?」

 ふたたびの問いに、しかし秘神は聞く耳を傾けることは無かった。
 ……どうやら、わざと、このような不快な歌を歌っているらしい。
 鬼灯が瞬間的に理解したのは、このことだけであった。



 また、消えて無くなる危険を伴って、鬼灯は外界へと戻ってきた。

鬼灯:「……汗をかく、とは、こんな感じなのでしょうか……」
メイ:「うわっ……人形が汗かいてるっ……」
みずね:「で……どうでしたか?」

 鬼灯が一連の出来事を話すと、みずねはうんと頷いた。

みずね:「カレンさんの話と一致していますね――」
メイ:「"炎の巨人伝説"ですね。静かに、ただその炎の身を横たえる、悠久の火神――他要素との調和を担うと言われている巨人が眠る地でもある、と」
みずね「その巨人かどうかは分かりませんが……あの岩場の奥に眠るのが、炎を司るものであることは間違い無いですね……」
鬼灯:「しかし、あの火神は、押し戻せと言っていました――あっ」
メイ:「どうしました?」

 ……炎は火。岩場は土。人々は金――

鬼灯:「人間の力で、火を押し戻す……?」
みずね:「どうしたの?」
鬼灯:「土だけでは、その場に留めるのが精一杯……金にまで狂気が届かないように、その場で踏ん張っている――狂っているんじゃなくて、狂いをその場に留めている――ああ、全て、繋がりました」
みずね:「詳しく……説明して頂ける?」



☆後編



 火→土→金。
 火が狂い、それを土……秘神が食い止めている。
 かつての岩場の崩落は、秘神の苦肉の策であったのだ。
 そして、秘神は、狂いを相殺するための"押し戻し"を求めている――
 金が司るのは、人間。
 人間の力だ。
 クレナモーラ村の力……それは、音楽。

カレン:「というわけです――そういうわけで皆さん!」

 ……歌いましょう!
 その言葉を待つ前に、それは既に始まっていた。
 みずねとカレンは、自分達の芸で人が集まったところで、今回の件の事情を話した。
 とは言え、深刻に話すことはなく、せっかくだから皆で音を楽しもう、という趣旨である。
 村の人々はそれに、むべも無く乗った。
 もともとお祭り好きな、楽器を作ってばかりいる彼らである。
 音が音を呼び、歌が歌を木霊させ――各々の波長が一致していく。



  この音楽は君に炎を教えてる

  このリズムがあれば頂点へまっしぐら

  なびかすこの手も躍らせなきゃダメさ

  その足を止めないで徹底的に楽しもう



 思わず聴き惚れそうになったみずねであったが、

みずね:「鬼灯クン――」
鬼灯:「(心得ました――)」

 離れた岩場で、鬼灯が頷く。

メイ:「聞こえてきた……激しい炎みたいな音楽ね――ビートを刻んでるわ」

 かすかな音に併せ、メイも、カレンの言いつけ通りに、手に持つ楽器――シタールの弦を鳴らし始めた。
 フレットは抑えて動かさないままに、ただリフだけを刻み続ける。
 なによりも情趣を伝えることが重要だった。

鬼灯:「……岩場を壊します」

 鬼灯が腕を付き出す。
 単の袖から出てきたのは、左手――ではなく、手の形をしたからくり。
 掌から対称に繋がった指先が形作ったのは、指そのものではなく、もはや違う何かであった。

鬼灯:「目標、前方の岩場――鬼砲、発射よろし」

 まわりの空気が、ぶおん! と大きく震えたその瞬間。



  烈!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 岩場に、一瞬にして大きな穴が穿たれていた。
 強烈な重力波が、岩のカーテンを抉り抜いたのだ。
 中の秘神と、メイとの瞳が合った。

メイ:「あなたにとどけ――この祝福」

 構造的に背中が開いた鎧の中から、一対の翼が、ふわと舞った。
 弦を刻むのはやめないままに、しかしその音だけが美しく岩場を包みこんでいく。



  心の中にはいつも炎が

  その熱で頂点へとまっしぐら

  あらゆる形の快感と幸せをさがそう

  それはあなたとわたしのものだから



秘神:「ヒトの――力!」



  みんな一緒に足取りきめていこう



鬼灯:「秘神――」

 秘神が音に併せて歌い出したことに、鬼灯は驚きを隠せなかった。
 古代伝承に伝わる、炎の巨人を祀る歌。
 儀式的なものとは程多い、原始の音程、剥き出しの表現。
 それが、炎を表すにもっともふさわしい――炎に分からせるにもっとも適していると、カレンが言っていた。

メイ:「……後は任せたです!」

 言うが早いか、彼女の前を猛スピードで横切っていく蒼。
 風来の力で、岩場の奥へと消えていくみずねであった。



●完結編



 岩場の奥には、光を通さぬ竪穴が一本通っていた。
 躊躇することなく、みずねは己の翼を以って急降下していく。
 メイの祝福が、音をここまで響かせている。
 衰えることなく、それどころか何らかの共鳴が起こっているためか――おそらく鬼灯が重力的なアプローチから音の拡張を手伝っているのだろう――炎を祀るアンサー・ソングは鳴り響いている。

みずね:「……見えた」

 ドーム状に開けた空間――そこは、マグマ溢れる溶岩の地であった。
 真上から見下ろす形になっている。
 酷く熱い。少しでも気を抜けば、意識ごと持っていかれそうなほどだ。
 紅の海を見下ろす。
 その中央に……そいつはいた。

みずね:「巨人――」
????:「音色が……聞こえる……いい響きだ……胸の奥から、純粋に燃えるような――」
みずね:「正気に戻りましたか……炎の巨人よ」

 もはや液体にも近い溶岩が、確かにヒトの形をなしている。
 意志を持った何かが、マグマの質量を伴って、みずねの前に現れたのだ。

巨人:「水精が、己の属性を変えたことによる狂いの力が、結果的に私を押し止めていた――」
みずね:「あなたも狂っていた……そうなのでしょう?」
巨人:「異邦人よ……気をつけろ」
みずね:「……何を?」
巨人:「この世界は、誰にも優しくは無い――何か絶対的な存在が、聖獣や神をも嘲笑う何者かが、私に干渉した――それだけは確かだ。ユニコーン地方に最近生じたという、闇の勢力すらも、誰かの茶番に踊らされているのかも知れん」
みずね:「……失われた神、について知っていますか」
巨人:「うむ……そのためにおぬしは来たか……私が知っているのは――その何者に刃向かうことで、私のように神としての正気を失われるに至るモノ、そして自ら消えて行くモノと……伝承と、その周辺の気配を追うことで、尻尾は掴めるだろう……」
みずね:「…………」
巨人:「異邦人よ。わたしはおぬしに感謝しよう――そして、今は、この音色を楽しもうではないか」
みずね:「…………ええ」

 神ですらも、何者かがその力と運命を握られている。闇すらも、その掌の上で踊る要素でしかない――

みずね:(しかし、その呪縛も、人は断ち切ることが出来る。今回の件だって、私だけじゃなく、みんなの力が、何者かの思惑を阻んだということ――この、心地よいリズム。魂を、想いを体現する力――それが鍵だということかしらね……)




  この音楽は君に炎を教えてる

  このリズムがあれば頂点へまっしぐら

  なびかすこの手も躍らせなきゃダメさ

  その足を止めないで徹底的に楽しもう

  心の中にはいつも炎が

  その熱で頂点へとまっしぐら

  あらゆる形の快感と幸せをさがそう

  それはあなたとわたしのものだから

  みんな一緒に足取りきめていこう



                MISSION COMPLETE.