<聖獣界ソーン・白山羊亭冒険記>
宝玉と黒ローブの魔道士 第3回 (全3回)
(オープニング)
黒ローブの魔道士が各地のマイナーな神を襲って4つの宝玉を奪っている事件は、何人かの冒険者の地道な調査により、大体の事情がわかってきた。
今までの調査でわかっているのは、以下のような事である。
1.宝玉について
4つの宝玉は世界の根本となる力を生み出す宝玉で、宝玉の力を用いた強力なマジックアイテムの量産が問題となり、現在は分散して管理されている。
2.黒ローブの魔道士について
宝玉を集めている黒ローブの魔道士は人間ではなく、大昔、宝玉の魔力によって生み出された『不思議の複製人形』というマジックアイテムである。
3.不思議の複製人形について
特定の人間の能力と容姿をコピーし、造られた時に与えられた使命に従って行動する魔法の人形で、現在はウルという魔道士の姿と能力をコピーしている。
4.宝玉と不思議の複製人形の所在地
現在、ウルをコピーした人形は、風の宝玉と水の宝玉を持ち、『人形師のダンジョン』という、1000年前に魔法の人形を作っていた魔道士(含、不思議の複製人形)のダンジョンで何かをしている。
そうした状況の中、黒ローブの魔道士を追ってきた者達は入り口が多数ある『人形師のダンジョン』に、二手に別れて乗り込もうとしていた。
一方のグループは、人形に自分をコピーされた魔道士ウル本人と相棒の盗賊娘ルーザ。もう一方のグループは、ウルの弟子の見習い魔道士ニールと水の宝玉の管理人の水神ルキッドになった。
「私、山に力を置いてきてるから役に立たないけど、よろしくねぇ」
「いえいえ、僕も見習い君ですから」
ルキッドとニールは、心強い会話を交わしながら『人形師のダンジョン』へと向かった。
(依頼内容)
・人形師のダンジョンに乗り込み、黒ローブの魔道士から宝玉を取り返してやって下さい。
・ウル&ルーザのグループに合流するとNPCが強力な分、PCの出番を食われる危険があります。
・ニール&ルキッドのグループは、逆に普通に危険が大きいです。
・そんなNPCそもそも興味ねーよ。という方は、NPCと合流せずに独自に乗り込むのも良いかも知れません。
(本編)
1.人形師のダンジョンに入ろう
「相手はウルのコピーなんだろう?
なら、ウルが宝玉に仕掛けた感知の魔法だって、ばれてるんじゃないのか?
下手に考えるより、正面突破で突撃しようぜ!」
なんだか酒ばかり飲んでいた気がするので、今回は暴れてやるぜ。と、突撃する事を主張したのは多腕族の戦士、シグルマだった。
「うん、人生は突撃だよ!
ウルくんのコピーだったら、ニールくんを見たらためらうだろうし、その隙を突いて攻撃しちゃおうよ!」
前回寝込んでたぶん、鬱憤が溜まってるのよ。と、突撃する事を主張したのは、魔法戦士というか、むしろ近所の暴走屋、フェイルーン・フラスカティだった。
「全くだね…
それに話を聞く限り、コピー人形の弱点は鼻らしいじゃないか?
一発、鼻面を殴ってやろうよ!」
なんだか前回はニールに上手くかわされたので、今度こそニールと(以下略)。と、突撃する事を主張したのはロミナだった。
「いえ!
まずは話し合いです。
交渉で解決出来るなら、そうするべきです!」
逆に、柄にも無く強行な態度で話し合いを主張するのはリドルカーナの商人、レアル・ウィルスタットだった。
「いや、まあ、みんな落ち着いて…」
そうして、ダンジョンに入る前から仲間内で殺気立つ一行をなだめているのは、医学生の日和佐幸也である。
しばらく話し合った後、とりあえず入り口が多いダンジョンだし、手分けして探索しようという事になった。
グループは三つ。
レアル、ウル、ルーザの理性派グループ。
ロミナ、フェイ、幸也、ニール、リキッドの突撃系+その他グループ。
シグルマ、シグルマ、シグルマの1匹狼グループ。
こうして、一行は三手に別れ、宝玉とそれを持つウル・コピーの所を目指す事にした。
「仲間の位置と宝玉の位置を探知出来る魔法の水晶玉を用意したから、何かあったら合流して連絡を取り合う事にしよう」
話がまとまった所で、ウルが人数分の水晶玉を一同に配った。各々の位置関係が立体的に水晶玉に表示されるという、ウルの自慢のアイテムである。
「おお、こりゃ確かに便利だ」
と、シグルマが口笛を吹いた。
さらに一行は、レアルの提案でウルに変装を施す事にした。ウルとコピーが対峙した時に確実に見分ける為である。
「実は、こんな事もあろうかと、赤いローブを持ってきたのよ」
と、盗賊のルーザはウルの黒ローブを赤いローブに着替えさせた。
「うん、眉毛とかも濃くした方がいいよね!」
「いや、やっぱり変装といったら、まずは髭だろう」
「何でもいいから、いっぱい描いちゃえ〜」
ルーザに限らずノリがいいフェイ、ロミナ、ルキッド達女性陣は、ウルの顔に変装と称してサインペンで色々と書き込んだ。
こうして準備を整えた一行は、それぞれダンジョンに乗り込むのだった。
ウルは、別れる直前に幸也を呼び止めて密かに囁く。
「幸也君、フェイを…よろしくね」
ウルの言いたい事は、よくわかる。幸也は無言で頷いた。
2.人形師のダンジョンを探索しよう(幸也編)
防御用の人形…というか、ダンジョンを守護する為に人工的に造られたモノ達は、人の形をしているとは限らなかった。そうした人工生物はダンジョンの各地で一行を迎え撃つ。
今度の部屋で一行を襲ったのは、体長50センチ程の蜂を模した人形の群れだった。
「ニール、あせる事は無いよ!
居眠りしてろとは言わないが、的外れに魔法を使われるよりは黙って立ってて貰った方がマシだからね!」
剣を振るいつつ、ロミナの声が飛ぶ。
基本的には突撃要因なのだが、意外とニールやルキッドなどを気遣う余裕もあるのが、ロミナである。
「うん、最初に援護魔法だけ使ってくれたらね、後は多分、私とロミナちゃんが何とかするから!
それでもだめそうだったら、幸也の言う事を聞いて魔法を使ってね!
幸也は弱いけど頭だけは良いから、困った時にはね、えーとね…」
「フェイ、しゃべりすぎだ…」
思わずしゃべる事に夢中になり、危うく蜂人形にさされそうになったフェイが、幸也に怒られた。
ごめんなさい。と、フェイは再び何も考えずに剣を振った。
ニールは、ロミナとフェイの言葉に頷きながら、自分の身を護る事に専念して、ロミナか幸也の指示があった時以外は、ほとんど魔法を使わない。賢明な判断だ。
「みんな頑張れ〜!」
さらに、そのニールの影に隠れて応援しているのはルキッドだ。
おおむね、そんな調子で一行は戦闘を乗り切っていた。
「おしゃ、次いこ!次!」
蜂人形を全て切り捨て、全く疲れた素振りを見せないのはフェイである。自分で言うように、確かに寝込んでいた分、力が有り余っているようだ。
「よし、どんどん行くよ!
他の連中より、絶対先に行くからね」
ロミナも元気そうである。
「あんたらが元気なら、俺は構わんが…」
と、幸也達は付いていく。一行の気苦労を全て一人で背負っているのが彼だった。
実際、回復役に特化した能力を持った幸也が居なければ、ここまで力押しで進む事は不可能なのだが…
罠や鍵付きの扉も力づくで突破し、ほぼ直線ルートで幸也達一行は進む。
途中、結果的にルキッドがニールにべったりくっついている事に気を悪くしたロミナが毒蛇の人形に足を噛まれた事を除けば、特に大きな危機は無かった。
その毒蛇の件にしても、大分余裕があったロミナは、
「あんたが治療術を使うまでも無い」
と幸也に言って、ニールに毒を吸い出させて平然と歩き始めた位だ。
「どう考えても、俺が治療した方が良いと思うんだが…」
「うん、私もそう思う…」
絶対ロミナは他意があると、フェイと幸也は、ひそひそと話してたものだ。
ともかく、こうして一行は宝玉のかなり近くまでやってきた。
「このまま直線距離だと、この、次の次の部屋辺りに宝玉がありそうだな」
幸也が水晶玉を見つめながら言った。
部屋の大きさと水晶玉に表示される点の位置関係は、他の者にも同様に見えた。
「な、なんか、物凄いボス人形とか居たりして…」
逃げ腰になっているのはルキッドである。
ここに来るまで、彼女は全く何の役にも立っていない。一体、彼女が何をしにダンジョンに来たのかは、幸也の頭脳を持ってしてもわからなかった。
「物凄いボス人形には、心当たりがあるんだがね…」
ロミナが低い声で言う。
ウルと同じ姿をした黒ローブの魔道士人形の事を、皆、思い浮かべた。
「鍵は掛かってないよ。扉を壊すのって疲れるから、良かったね」
と、フェイが扉の様子を見た。ここまで、何枚の鍵の掛かった扉を破壊してきただろうか…
「んじゃ、行くか」
幸也が言ったのを合図に、フェイが扉を開けた。
扉の影に隠れるようにして、中の様子を伺う。
…のっぺりとした小さな人形が、部屋の真ん中に置いてある事を除けば、今まで通りの石造りの部屋だった。扉は奥に一つだけある。それを抜ければ、宝玉のある場所に着きそうだった。
「なーんだ、平気みたいねぇ〜」
と、不用意に部屋に入ったのはルキッドだった。
「うわ、ルキッドちゃん、あわてちゃだめだよ!」
と、フェイに言わせるのだから、やはりルキッドは普通じゃない。
フェイの声が合図になったかのように、部屋の中央に置いてあった人形は、ルキッドの方に顔を向けた。
…ち、本当に使えない神様だね。
と、ルキッドを庇う様に飛び出したのはロミナだった。
そして、ロミナがルキッドの前に立つか立たないかのうちに、人形から閃光が走る。一瞬フェイ達は視界を失った。
「ほーう、そう来たかい…」
視界が戻った後、にやりと不適な笑みを浮かべたのはロミナだった。
部屋の中央、人形があった場所には、虚ろな表情で佇むフェイ達一行の姿があった。ただし、ルキッドの姿だけがそこには無かった。
「うん、こういうのも、ちょっと面白いよね!」
その、新しく部屋のに現れたフェイ達一行を、フェイは見ながら言った。
「俺達全員のコピー…か。
装備品まで同じとは、大したもんだ」
幸也は冷静にコピー達の様子を観察している。
…見かけは俺達をコピーしているけど、中身はどうだろうな?
少し、様子を見たい所である。
「気に入らないねぇ」
ロミナは、自分のコピーを睨みつけている。
そして、
『優しく流れる風よ…』
ニールとニール・コピーが風の防御魔法を唱えたのが、開戦の合図になった。
ロミナはまっしぐらに自分のコピーとぶつかっている。ニールも自分のコピーと地味な魔法戦を始めたようだ。
「一番弱そうな所から、倒したいところだがな…」
どうしたものだか、と、幸也が様子を見ながら呟く。
「うん、それで行こう!」
フェイが弾かれるように飛び出した。
「お、おい、無茶するな!」
あわてて止めるが、フェイは一気に走っている。
目標は幸也・コピーのようだ。
…いや、考え方としては間違って無いと思うけどな。
問答無用で彼のコピーを切り倒すフェイである。まあ、変に躊躇したりしないのがフェイらしいと、幸也は思った。
…でも、次の展開は考えて無いんだろうな、あいつ。
今、ロミナとニールは各々のコピーと戦っている。フェイは幸也・コピーを斬り、ルキッドは、のほほんとしている。
必然的に一人余る形になったフェイ・コピーは、今がチャンスとばかりに幸也に向かってきた。こっちのフェイが行ってしまったので、幸也を守る者が居ない。まあ、当然の結果だった。
フェイ本人と同様の太刀筋で振られる剣を、しかし、幸也は何とかかわす。
…なるほど、動きだけは本人に似てるな。
と、虚ろな表情で剣を振るうフェイ・コピーを、幸也は観察した。
こんな人形に殺されるのはごめんだと、幸也は逃げ回る。
すぐに、
「こら、あんた、私なのに幸也を攻撃しちゃだめでしょ!」
と、フェイが彼のフォローに帰って来た。
「お前に言う筋合いは無いと思うぞ…」
まあ、それでも、こうしてすぐに助けに来てくれるフェイは、何も考えて無いとは言っても、本当に何も考えてない人形では無い。と、幸也は思った。
フェイは、自分のコピー相手に剣を振っている。
彼女とコピーの対決は、冷静な分だけコピーに分があった。
幸也を狙われて、明らかに動揺しているフェイは動きに隙が多く、彼女は何度も自分のコピーに斬られる。が、フェイには幸也が居た。
フェイが斬られる度、幸也が冷静にフェイの治療をしている。それが当然の事であるかのように。
やがて、自分のペースを取り戻したフェイは、自分のコピーを倒す。
ロミナとニール達も、自分達のコピーを倒したようだ。
「何と言うか…お前が俺の事をどう思ってるか、良く分かった…」
幸也が憮然としながら、ため息をついた。
さすがに、気まずいフェイ。
「そ、そうでしょ?
大好きだよ、幸也!」
と、フェイは幸也の腕を掴む。
まあ、俺も大好きだよ。と、幸也は再びため息をつく。
「こいつら…全然魂が篭ってなかったね。こんな連中なら、何も怖くはない」
真面目な様子で言っているのは、ロミナである。
全くだ。と、幸也も思う。具体的には連携がまるでなっていない。幸也コピーが狙われているのに、他のコピー達は誰も見向きもしなかった。そんな連中には負けたくないし、負ける気もしなかった。
その後、部屋の扉を調べてみると、かなり頑丈で魔力も通さない素材のようだった。ニールが魔力をほとんど使い切り、幸也も治療能力がほとんど底をついていた事もあるので、一行は小休止した後、扉の破壊に挑戦する事にした。
しばらく、言葉も無く休む一行。そこに、ウルのグループがやってきた。シグルマも一緒である。
「なんか、あんた達、限界みたいね…」
ルーザが幸也達の様子を見て、すぱっと言った。
「そんな事も無いけどね、ちょっと疲れたからさ…
休んでから扉をぶっ壊しちゃおうって、みんなで話してたの」
フェイが事情を説明した。
「ぶっ壊すって…あんた達、本気で真性のアレなの?」
ルーザが呆れたように、ため息をついた。
「さっきもシグルマに言ったけど、いい?
扉ってね、壊す為にあるんじゃ無いの、開ける為にあるのよ?」
そう言って、ルーザは無造作に扉に目をやる。
「あんた達、『鍵が掛かっていたら、すなわち開けるべし』って、盗賊協会の最初の講義で習わなかったの?」
そんなもん知るか!
と、フェイ達一行は怒りの声を上げるが、ルーザは取り合わず、一瞬で扉を開錠してみせた。
「お前…いつか殺してやるよ」
「ルーザちゃんなんて、大嫌いだ!」
ロミナとフェイは怒りの声を上げるが、鍵の掛かった扉を簡単に開けられる事をちょっと羨ましいと思った。この人は相変わらずだな。と、幸也は無言だった。
「ルーザちゃん、凄いねぇ」
ルキッドは無邪気に感動している。ウルだけが、いつもの事だね。と微笑んでいた。
そして、一行は扉を通った…
3.人形の王
「よく来たね。
さて…何から話すべきかな?」
様々な書物や薬品が並ぶ一室で言葉を紡ぐのは、黒ローブの魔道士だった。
ウル・コピーである。
「別に、聞きたい事は無いね。
…黙って宝玉を渡して、とっととくたばりな」
「うん、どんな野望を持ってるんだか知らないけど、絶対許さないよ!」
ロミナとフェイが言う。シグルマに至っては、無言で武器を構える。
「いえ、話しましょう。全てはそれからです!」
レアルが、彼にしては限界まで厳しい調子で、三人と黒ローブの間に割って入った。
「一つだけ言わせてもらうとすれば、俺の野望は、もう叶ったんだよ。
みんな、もう、知ってるんだろう?
俺が宝玉の力を借りて、何かを『造ろう』としていた事を…」
ウル・コピーは、本人同様、無意味に落ち着いていた。
「何を…造ったのです?」
口を開いたのは、レアルだ。
造った物によっては、彼ですら話し合いの余地は無いと考えていた。
「自分の目で見た方が、早いね。
そっちの扉の向こうを見てごらん…」
ウル・コピーの言葉に、
「あんたが、開けな」
ロミナが即答する。
ウル・コピーはは静かに微笑むと、一行に背を向け、扉を開いた。
「『これ』は、我が主、不思議の人形師ベルク・マッシェの最後の作品だよ…」
嬉しいのか悲しいのか、微妙な表情でウル・コピーは扉の向こうを示した。
「『これ』の完成間近で、神々が宝玉の使用を禁じてしまったからね。我が主は『これ』を完成させる事は出来なかった」
一同は、言葉も無く、扉の向こうの光景を眺めていた。
「…幻覚の魔法じゃない事は、確かだ…しかし…」
ウルですら、動揺していた。
「だから、我が主は俺を創って、俺を試練のダンジョンに置いたのさ。
いつの日か、人格と能力に優れた者が俺を拾い、その者の知識を俺がコピーして、俺の知識と合わせ、『これ』を完成させる事を願ってね…
宝玉は返すよ。俺には、もう用は無いからね。
どうする?
『これ』を傷つけるのであれば、俺は命を賭して『これ』を護る。
それも、俺の『役割』だからね…」
ウル・コピーは言った。
「なるほど…
確かに、あのダンジョンは魔道士の資質を試すようなダンジョンだったね…」
ウルは人形を見つけたダンジョンの事を思い出す。
「…いや、まあ、確かにたまげた。ある意味、究極のマジックアイテムかもしれねぇ。お前の創造主とやらは大天才だ。それだけは認めるぜ」
ようやく、シグルマが言った。
扉の向こうに広がっていたのは、本来なら珍しい光景では無かった。
建物が建っていた。
人の姿をしたものが歩いていた。
雑踏を行きかう者達が、何かを求めて声を上げている。
それは、人間が『街』と呼ぶものだった。
ただ、それが、ダンジョンに突然広がっていたのだ。
幸也達一行は、街の中の一軒の家から扉を開き、様子を見ていたのだ。
「広さは1キロ四方程。明かりは人工太陽だよ。中に住んでいる心を持った人形達は2000体程かな。
みんな、生まれたばかりだけど、毎日静かに平和に暮らしているよ……」
ウル・コピーは簡単に『街』の説明をした。
「あ、あのさ、確かにスゴイけど、何でこんなの造ったの?
ていうか、こんなの、どうするつもりなの?」
頭が混乱状態のフェイが尋ねる。
「我が主は人形が好きだったからね。
元々は、この、心を持った人形達の街で暮らす事を望んだのさ。命が尽きるまで、おもしろおかしく平穏にね。
…それを証明する術は、もう無いけど」
ウル・コピーが言う。
「それだけ…ですか?」
レアルは呆れている。
「創造の力を秘めた宝玉の使い方としては、確かに間違っちゃいない…けどな」
人形師ベルク・マッシェは、本物のアホであり天才だと、幸也は思った。
フェイの先祖じゃ…無いよな?
幸也は、ちらりと彼女の方を見た。
「まあ、造っちまったもんは仕方ないか。あたしらが、すぐにどうこう出来るもんでも無いしね。
…しかし、あんた、落とし前はどうする気だ?」
ロミナが厳しい口調で言う。
「水の宝玉を奪ってルキッドの馬鹿を封印した事によって、ライマ村が水不足で苦しんだ。
土の宝玉を奪う為にビッケの神殿を襲い、信者達を傷つけた。
黒ローブを纏うソラン魔道士協会が濡れ衣を着せられて、迷惑した。
…ま、大きなのはこれ位ね」
ルーザが淡々と言った。
「永く眠っていたからね…
ウルの人格をコピーするまで、時間がかかってしまったんだよ。
だから、手荒な事を繰り返した。
俺が『本当に』ウルになったのは最近なんだ」
事実だけをウル・コピーは言った。
後の判断は、一行の手に委ねられる。
しばらくの、沈黙。
「…まず、犯した罪を償って回る事。」
悩みながら口を開いたのはレアルだった。
「次に、ウル・コピーの言葉どおり、本当にこの街が無害なものか、本当に何の悪意も無いものなのかどうか、時間と人手をかけて調べましょう。
それで、いいんじゃないですか?」
交渉で解決できる可能性があるうちは、それを続けようとレアルは当初の主張を繰り返す。
少なくとも、この場でウル・コピーと戦う意味は無いと、彼には思えた。
「…甘いね」
「全くだ」
ルーザとロミナが、ぼそっと言う。
そして、また沈黙。
「何だか、難しい話になってるな」
先程から、退屈そうに話を聞いていたシグルマが口を開いた。
「…まあ、あれだ。
こういう時は、とりあえず、酒でも飲もうぜ。
飲みながら話した方が、こういう事は、まとまるもんだ」
と、シグルマはにやりと笑って、人形の街の一角にある酒場らしき建物を示した。
「そーだね。私、ルキッドちゃんと遊んでるから、難しい事は、みんなで話しててよ!」
「ていうか、ライマ村の事は大丈夫よ。私が泣いて駄々をこねれば、多分、みんな許してくれるわよ!」
フェイとルキッドが言った。
それで、大体、話の方向性は決まった。
「…すまない」
とだけ、ウル・コピーは言った。
「もう一つだけ頼みがある。
…宝玉を扱える俺の力は危険だからね。
俺は、いつまでもウルで居るわけにはいかないんだ。
ニール…
後の事は君に任せたい。
だから…だから、俺はここで、君が来るのを待っていた。君がエルザードから、ここに来るまでに体験してきた事を俺にくれないか?」
そう言って、ウル・コピーはニールの方を見た。
「ウルさんのコピーをやめて、ニールさんのコピーになるわけか…」
幸也が言った。
先程から、ずーっと黙って一行の話を聞いていたニールは突然話を振られて、驚いた表情を浮かべる。
「ニールなら適任だ。あたしのパートナーだからね」
ロミナがニールの肩を叩いた。
「わかりました、やってみます」
と、ニールは答えた。
そして、ウル・コピーの存在は消滅した。人間の感覚で言えば、それは『死』と言えるかも知れない。
「皆さん、ありがとうございます…」
それが、ニール・コピーの最初の言葉だった。
そのまま、新たに生まれた人形の王は、その場に泣き崩れる。
4.おつかれ
「そいじゃあ、乾杯だぁ」
音頭を取るのは、当然シグルマである。
一行の出発地、炎の宝玉の神殿に、『糸無し糸電話』の魔法で状況を報告した後、一行は人形の街の酒場に繰り出した。どうやら、ここの人形達は人間と同じように飲み食いするらしい。酒場には酒も食べ物もある。
「いやー、事件も解決して、ほんとに疲れたねー」
フェイが幸せそうに、ルキッドが召還した銘水を飲んでいる。何よりも水を欲するほど、疲れていた。
「ていうか、何も解決してない気もするけどな…」
酒場の隅で、ひたすら泣きじゃくるニール・コピーと、それをなだめているニール本人、ロミナ達を幸也は眺める。
「ニール・コピーが王様で大丈夫なのかな、この街は…」
「大丈夫、何とかなるよ!」
フェイは、明らかに何も考えていない。でも、そういう前向きさも大切なものだと、幸也は思いながら、ひたすら泣き崩れているニールの事を見ていた。
翌日、地上から人形の街まで直通になっている安全な入り口を紹介された幸也達一行は、地上に帰る。
宝玉と黒ローブの魔道士の件は、これが、ひとまずの決着だった。
(完)
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】
【0401/フェイルーン・フラスカティ/女/15才/魔法戦士】
【0402/日和佐幸也/男/20才/医学生】
【0812/シグルマ/男/35才/戦士】
【0781/ロミナ/女/22才/傭兵戦士】
【0954/レアル・ウィルスタット/男/19才/ヴィジョンコーラー兼商人】
(PC名は参加順です)
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■ ライター通信 ■
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毎度ありがとうございます、MTSです。
相変わらずのサポート役、ご苦労様でした。いえ、本当に…
確かに、今回は幸也がウルの方に行っていたら、ニールのグループがなんだか凄い事になった気がします…
オチに関しては、何と言うか、引っ張った末にこんなオチになってしまいましたが、如何でしょうか…
ともかく、おつかれさまでした。
また、気が向いたら遊びに来てくださいです。
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