<PCクエストノベル(1人)>


染まれる赤 〜森の番人ラグラーチェ〜

------------------------------------------------------------
■冒険者一覧■
■1113 /エーアハルト・ヴェルフェン /公子(貴族)

■助力探検者■
■なし

■その他の登場人物■
■ラグラーチェ/森の番人
■ウッソス/別荘の管理人

------------------------------------------------------------

エーアハルト:「それは本当の話なのか!?」
 金の髪に青の瞳が、高貴な雰囲気を周囲に知らしめている青年。日頃は発することのない大きな声を上げ、話をした管理人を驚かせた。
ウッソス:「本当…と言いましょうか、古より歌われ続けている童歌でございますよ」
エーアハルト:「……わらべ…歌――なるほど。」
 長く白い指を優美に顎に当てると、広い室内を歩き始めた。美しく磨き上げられた窓枠の向こうに、深く濃い緑の森が見える。
 手の甲にある十字傷を隠しもせず、むしろ見せびらかすかの如く、手の平を天井に向かって閃かせた。
エーアハルト:「長い歴史を疎んじる者もいるが、僕はそうではない。真実が隠されているからこそ、歌い継がれている……キミはそう思わないのかな?」
 ウッソスに類稀な花顔を向けると、目も眩む微笑をみせた。それが主人が無茶を言い出す前触れであると、初老の管理人は重々知っていた。瞬く間に強張った顔。当の若き公子は両手を広げて踊るように反転すると、再び樹木が密に並んだ森へと視線を向けた。

 ――ここは36の聖獣に守られたユニコーンの地。
 不思議と現実。伝説と街のにぎわい。様々な要素を含み、そして自然の摂理と人間の知恵で営まれている世界。ひとつとして嘘はなく、ひとつとして真実はない。
 人々の中にそれぞれ住まう、記憶と記録。ただ、それのみ。
 ふらりと諸国を遊流している公子エーアハルトにとっても、この世界は退屈しない――珍しく興味の持てる場所のひとつであった。

 今、エーアハルトが熱心に話を聞いていたのは、この近くの森で神話になっている「森の番人ラグラーチェ」について。
 真っ白な羽に赤い目を持つ梟で、森の奥深くに侵入してきた者を惑わし、罠を仕掛けてその先に人間が足を踏み入れるのを阻むと言われている。ラグラーチェが守る森は、一つ間違えば生命の危機を招くような巧妙で大掛かりな罠がいたる所に張り巡らされている為、今では森人や狩人でさえもこの付近には近づかないらしい。
 そして、最も彼が興味を示したのは、「世界でもっとも気高い伝説の鉱物が産出されるという泉を守っている」と言う部分だった。

エーアハルト:「願うなら、その鉱石見てみたいね」
ウッソス:「お、お止め下さいませ! あの森は人が近づくのを良しとは致しません」
エーアハルト:「ならばこそ、行ってみる価値があるのでは?」
 急に顔を青くし管理人が叫ぶので、公子は面白くなった。見てみたいという欲望は高まり、テーブルから落下するグラスのように光に輝きながら、心は森へと散っていく。
 心配顔の管理人を丁重に部屋から排除すると、エーアハルトは手の平でその白い顔を覆った。

エーアハルト:「瞳よ。我、高貴なる赤き瞳よ。森へ――伝説の森へ、ボクを誘え。森の番人ラグラーチェの元へ!!」
 充血した赤い目が、指の間から光を放つ。エーデルルードと呼ばれ、魔力があるとされる赤い瞳を持つ青年。彼の体が見る間に透けていく。
 そして、ついに姿は失われた。僅かな風だけを残して――。

                         +

 暗く冷えた空気の味。むせ返るほどの木の香りに、エーアハルトは瞬間的にむせた。咳が止まらない。胸ポケットからスカーフを取り出して、口を押さえた。

ラグラーチェ:「人間よ、何ようだ。用無きは去れ、意あれば語るがよい」

 突然の声に、エーアハルトは咳をすることも忘れ、周囲に目を凝らした。明るい室内から太陽の遮られた森と移動している青年の目は、番人の姿を捕らえることができない。小さな若木に覆われた空間を行き交った。
エーアハルト:「姿を見せぬとは失礼なヤツ。客人には優しくするのが礼儀ではないのか?」
ラグラーチェ:「見えぬなら、見えぬもの。目に映るものがすべてではない」
 公子は探すのを止め、どこへとなくここへ来た意味を語った。そして、返事を待つ。
ラグラーチェ:「行けぬ。泉への道をお前に開けることはできぬ」
エーアハルト:「ならば仕方ない、帰ることにしよう」
 そう言うと、白いマントを閃かせ立ち木の間へと歩き出した。声は何も答えなかった。

 周囲を散策する。森を歩くことなど滅多にないことであるため、足が草に取られ上手く歩けない。
 鳥の鳴き声、葉ずれの音。自分の踏む小枝の高い音――。心が珍しく澄んでいくのを感じた。手に入れようと思っていた。だが、見せられぬと言われてしまった。

 そんなにも鉱石は大事なものだと言うのか?

 現実を重んじるエーアハルトにとって、古の歌に登場する「森の番人」が本当にいたこと自体が面白い。鉱石を手に入れる――それは捨てがたい欲望だ。だが、今は見るだけに甘んじてもいい気がした。
エーアハルト:「楽しませてもらった礼、と言うことにしておくか……」
 赤に変わり始めた青い瞳。集中力を使うため2度も使うのは躊躇われたが、一歩を踏み出すその一瞬さえもおしい。帰るためにもう一度使うことになるだろう力。
エーアハルト:「限界まで疲れて眠るのも悪くない」
 その瞬間、彼の姿は消えた。小枝に止まった鳥は失われた人間の姿に気づきもせず、楽しげな声を交わしていた。

                         +

ラグラーチェ:「見たいか……ならば見よ」
 白い羽の梟。童歌通りの姿が、目を開けたエーアハルトに飛び込んできた。番人は突然現われた人間に驚いた様子もなく、意を知ったるか如く言葉を発した。
エーアハルト:「この瞳にしかと刻む。その色、その形、その高貴なる力のすべてを」
ラグラーチェ:「目を閉じよ。強く想い描く者だけにその姿は現われるであろう」
 目を閉じた途端、光が瞼を覆い尽くす。閉じていても眩しいその光が次第に引き、僅かに残った。エーアハルトは目を開けた。
 そこにあったものは――。

エーアハルト:「赤い色……これは、これは僕の瞳!!」

 水鏡に映った自分の顔。そして、赤く光る瞳。
 エーアハルトが目にしたのは、高貴なる鉱石ではなく、自分自身のエーデルルードであった。

ラグラーチェ:「己が真実を見よ。泉への道はその奥にある。今のお前のままでは、鉱石は眠り続けるだろう」
エーアハルト:「なるほど……己を磨け、と言うわけか」
 公子は高く笑うと、高い枝に止まった白い梟に視線を向けた。用を果たした水鏡は幻の如く消える。マントの裾を跳ね上げ、膝をつくと芝居掛かった丁重なるお辞儀をした。
エーアハルト:「非礼を詫びよう。再来の時、再びその美しい羽を拝みたいものですよ」
 瞳が赤く光った。経ちどころに金の陰影だけ残して姿は消えた。

 今宵は、よく眠れる。
 長い幻を抱いて、眩しい赤の光に包まれ、ゆるりと夢を楽しむとしよう。
 到着が遅れている旧知の部下も、明日には顔を見せるだろう。小言の一つももらうことになろうが――。

 エーアハルトの微笑が、日の落ちた景色を描いた硝子にぼんやりと映った。
 夜は森にも屋敷にも平等に広がっていった――。


■+■+■+■+■+■+■+■+■+■+■+■+■+■+■

 初めましてvv クエストノベル初仕事の杜野天音です。
 たくさんのライターの方から、私を選んで下さり本当にありがとうござ
います(*^-^*)
 実はこの作品の文章形態を書くのが初めてだったので、上手く書け
ているか、かなり心配です。
 公子様は言葉遣いに気を使いました。「ナルシスト気味」というところ
が、表現不足のような気もしますし、語尾が「なのか」にしてしまったの
で「です」だったらどうしよう……。

 とにもかくにも、気に入ってもらえたら幸せですvv
 また書いてみたい思える、奥の深いキャラでした。楽しいお仕事をあり
がとうございました!!