<聖獣界ソーン・黒山羊亭冒険記>


光の花散る思い出話

「異国の風、ですよねぇ――えぇっと、何て言いましたっけ? ゆか、えっと、ゆか――」
「浴衣、ですわよ、ヴァレンティーノ神父」
「そうだぞ、毎年毎年着ているクセに、どーしてサルバーレは忘れっぽいかな……前の年も忘れてたよな。浴衣、って単語」
 呆れるように首を振ったのは、白衣姿の医者であった。
 その目の前に、だって、と、立ち竦む神父と、腕を組んだ態度の大きな女牧師が立っている。
 ――黒山羊亭の、常連客達。
「エスメラルダさんも聞いていらっしゃるのではありませんでして? 私(わたくし)は初めての経験になりますけれども」
「そうね。天使の広場での夏祭りは有名だけど……マリーヤ牧師にしてみれば参加するのは初めてになるのね」
 カウンター越しに、エスメラルダがこくりと頷く。そういえば、この牧師がエルザードに赴任してきてからまだ一年と経っていない。
 とりあえず、カウンターにでも座ったら? というエスメラルダの誘いに、ようやく三人が椅子へと腰を下ろした。適当な飲み物の注文を受けながら、
「……で、今回はどんなトラブルを持ち込んできたのよ?」
「持ち込んできただなんてそんな、それじゃあまるで、私達が疫病神みたいじゃないですか」
 食い下がる神父に、
「あら、だってそうじゃない。全く、毎回毎回トラブルばかり持ち込んでくれちゃって、」
「違うよ、エスメラルダちゃん。トラブルを持ち込むのはコイツだ、コイツ」
 医者が、神父の長い耳を思い切り引っ張りながら言う。いてててて、という涙声も無視して、
「で、遊びに行こうと思ってるわけだ――と、言いたいんだけど」
 そこでふぅ、と一つ、溜息をついた。
 白衣の色が正され、ふと消毒液の香りが漂う。どうやらつい先ほどまで、医者は仕事をしていたらしい。
「今年はちょっと事情が違うんだよ、事情が。なんてったってこの不幸なサルバーレ・ヴァレンティーノ司祭サマがね、見事に貧乏くじを引き当ててくれちゃって、」
「び、貧乏くじってっ?! わ、私はただ、少しでも困ってる人の助けになれればなぁ、だなんて――!」
「どうも祭りの出店数が足りなかったとかで、主催長から出店を出すように頼まれて引き受けちゃったらしいんだよね、コイツ。しかも、俺達の事をきっちりと巻き込みやがった」
 曰く、おかげで一緒に出店を出すことになってしまったのだと言う。
 うわ、この神父、まぁた不幸を背負ってきたわ……。
 エスメラルダが、頭を押さえる。いつもの事ながら、どうしてこの神父は面倒ばかりを背負ってくると言うのだろう。
「けれどもクレープ屋さんだなんて、楽しみですわね」
「マリーヤちゃんにとってはね。だけどね、俺は面倒が嫌いなんだよ……! どうして愛想笑い振りまいてクレープなんか売らなくちゃならないんだっ!」
「まぁまぁ、これも神の思し召し、という事で――しょうがないじゃないですか! 人数が足りなかったんですもんっ! そりゃあ、勝手にスタッフ名に名前を書き加えたことについては謝りますけれどっ!」
「謝る、謝らないの問題じゃないっ!」
 神父の言葉が気に障ったのか、むっとしてテーブルの上の拳を握り締める医者。
 このまま放っておけば、きっと神父はボロ負けに負ける。
 それはあまりにも可哀想だろうと、ふ、と、エスメラルダがカウンターに肘を付きながら助け舟を出した。
「で、その手伝いを募集すれば良い、って事ね――」




 後日、神父の旧教教会に集められた面々に、
「――勝負に、してみませんか?」
 テーブルの上のアイス・ティーを片手にした、新緑色のワンピース姿の一人の少女が――マリアローダ・メルストリープが、青い瞳を走らせた。
 窓を開け放った聖堂の長椅子を上手く利用し、円卓状に並んだ仲間達≠ノ、
「折角前半部と後半部にわかれるんでしたら、担当の時間の売り上げを競ってみません? 負けた方が、黒山羊亭で奢る、という条件もつけて」
 ただクレープを売るだけより、気合も入ると思うし、ね。
 自慢の長い金髪を、やわらかくかき上げた。
「そうだね……マリィの提案、面白そう☆」
 その横でぴっ、と手を上げたのは、琥珀色の瞳に紅茶を思わせる髪の良く似合う少女、アデーラ・ローゼンクロイツであった。
 お気に入りの薔薇のネックレスが、その表情豊かな動きにあわせて揺れている。
「ねぇ、メイちゃんはどう思う?」
「え、あ、あたし、ですか――?」
 突然話をふられ、純白の一対の翼を持つ戦天使・メイ――青銀色の腰までの髪を白いリボンで括った、小柄な軽戦士風の少女――が顔を上げる。伏せ目がちに輝く紫銀の瞳で、俯き気味に周囲を見渡すと、
「悪くは、ないと思います――」
 争い事は嫌いだが、こういう勝負を否定しようとは思わない。
 思いながらにも、周囲の出会ったばかりの人達の視線によって帯びた熱を、慌ててアイス・ティーで飲み込んだ。
 そんなメイの様子に、小さく、安堵感を与える微笑を向けたのは、
「私も別に良いと思います。――その方が、寄付金も増えると思いますし。ですよね、司祭様」
 エルフの少女、セリア・パーシスであった。エルフ独特のとんがり耳に、どこか秋の森を連想させる色彩の服装。肩までの金髪に、碧眼が鮮やかに神父の方へと視線を向けた。
 そういえば、セリアさんもエルフなんですよねぇ、と、話を聞きながら適当な事を考えていた、事の依頼者でもある神父が、
「え、あ、いえ、別に良いと思いますけれど」
 慌てて頷く。
 その様子に、横から教会の居候にして神父を最も良く知る人物の一人、オンサ・パンテールが溜息を付いた。
「……結局、お任せで良いんじゃないのかい? 神父は」
「おや、そんな事ありませんって。その方が楽しそうですしって、思っただけですよ」
 とてもそうは思えないけど。
 褐色の肌に、良く映える純白の入墨。木の幹にも似た強い光の瞳に、同じ色の長い髪がするりと揺れた。森の戦士の証でもある入墨を、隠そうともしないその姿は、けれども健康的に、オンサの野性的な美しさを醸し出している。
「それじゃあ、決定って事?」
 オンサの言葉に、マリィの隣からすっと問うたのは、近くの屋敷の令嬢、テーアことテオドーラ。その横から、そういう事じゃないですかね、と、その執事のエドことエドモンドが付けたした。
 その向かいで話を聞いていた医者が、
「「それじゃあ、早速組み分けを――」」
 不意に、牧師と声をハモらせた。
 ――黒山羊亭で手伝いを募った所、参加してくれる事になった面々に、神父がざっと説明を終えた後の話であった。
 どうやら、クレープの中身等、全てにおいてまだ何も決まっていないらしい。それを一から決めるため、全員はここに集まっているのだが。
 ……それじゃあ、まずは組み分けから、ですね?
 ふ、と。
 教会の外から話を聞いていた女性≠ェ、では、と呟いた。
「クジならここにあります。組み分けでしたら、クジが一番良いのではないかと」
 聖堂に、窓からやわらかな声音が響わたる。全員が立ちあがり、窓の方へと集まった。
「さすがソウセイザーさん。では、お願いできます?」
「ええ、」
 窓から、影が差し込む。刹那するりと神父の目の前に現れたのは、小さな箱を載せた、大きな金属でできた指先、であった。
 ――ソウセイザー。
 全長五十七メートルのロボットにして、命を労わる優しい心を持つ、エルザードでは有名な福祉活動員≠ナあった。
「ありがとうございます」
「いえ」
 空高くを見上げてお礼を言うと、神父は全員に順々にクジを引いてもらうべく、箱を差し出していった。
 そうして、結果――


I

 後半のチームは、メイ、オンサ、アデル、そうして、エドと医者、神父の面々となった。
「頑張りましょうね、皆さん。あたしも、人様のお役に立ててこその『天使』ですから……」
 恥ずかしそうに、けれども勇気を振り絞って気合を入れたメイに、全員が深く頷いた。
「あたしも、くれーぷはちょっと作った事がないんですけど、クレープって、小麦粉を溶いて薄く延ばして焼いて、上に色々なものをのせて、巻いて食べるわけですよね?」
「あたいもないから良くわからないけど……神父の話じゃ、そうらしい」
「あたしは食べた事あるよ! ふわふわの生クリームに、苺とかバナナとかを載せてチョコレートをかけて……。いっぺんやってみたかったの☆ クレープ屋さんっ!」
 メイ、オンサ、と続き、最後にアデルが、小さな手を打った。この上無く嬉しそうにざっと辺りを見回しながら、
「それじゃあ、どうしよっか? どういうクレープにするっ?」
 何か良いアイディアのある人〜! と、周囲にざっと聞いてみた。
 と、
「……クレープでしたら、苺ですとか、バナナですとか、チョコレートですとか、あ、あと、プリンですとかねぇ、」
「おいサルバーレ、そんな普通のクレープ作ったって、面白くも何でもないだろう」
 うーん、と腕を組んだ神父に、医者が鋭くつっこんだ。
「何か突拍子もないアイディアにしろ、とか言うわけじゃなくてね、うーん、その、まぁ、つまり……おかずクレープなんてどうだ?」
「おかずクレープぅ?」
 医者の提案に、えぇっ、とアデルが口を窄める。
 クレープって、だって、
「甘いのが美味しいのぉっ! おかずクレープなんて、そんな、お好み焼き屋さんとかたこ焼き屋さんで十分じゃないっ?」
「お好み焼き屋? たこ焼き屋?」
 アデルの指摘に、疑問の声をあげたのはオンサであった。あまり聞き慣れない単語に、
「えぇっと、そういう料理があるんだよね。東の方の料理なんですけど、コッテリとした味、なんですよ」
 小麦粉に色々な具を混ぜて焼くんです。
 エドが、解説を加えた。
「へぇ……」
「あ、そういえばオンサさんにとっては、こういう経験ってはじめてでしたっけ?」
「まぁ、ね」
 関心するオンサに、ふ、と、思いついたかのように神父が付け加える。
 ――神父の、言うとおりであった。
「街(こっち)の祭りだなんて、一体どんなのなのか――」
 森暮らしのオンサには、クレープを作った経験はおろか、勿論食べた経験も無い。どういう物なのかは、神父からざっと聞いたイメージでしか知らないのだ。
 そう言えばそっか、と頷いたのは、その傍で話を聞いていたあの似非医者であった。
「それじゃあ、俺がまず手本に作ってやるよ! クレープがどういうものなのか、手作りのアイス・クレープと焼きそばクレープという手本を――!」
「良いですね、それ――そうしたらきっと、皆様もわかるんじゃないかな、って、そう思います。あたしも似たようなものなら作った事があるんですけれど、生地は米粉でしたし、ハーブやお肉やお魚を乗せて食べるものでしたから、ちょっとクレープとは違うと思うんです」
 メイが頷いた。
 しかし、
「「「それだけは駄目っ!!」」」
 刹那、思わずオンサと神父とエドとが声をハモらせる。
 オンサは何も知らないメイを、つつつっ、と慌てて医者から引き離すと、
「あんたの料理は料理じゃないだろうっ!」
「ち、ちょっとオンサちゃんっ、それ、どーいう……!」
「悪いけど、生ゴミより酷いと思うね――あの色、形、臭い! どれをとっても……あぁ、思い出したくない……」
 あまりにも突然の展開に、オンサに抱えられながら、きょろきょろと辺りを見回すメイの視界の中では、全くだ、と言わんばかりに、神父とエドとが深く頷いていた。
 メイとアデルはまだ知らないが。
 実はこのメンバーの中には、ちょっとした暗黙の了解が存在していたりする。
 即ち、
 ――医者に料理をさせてはならない、と。
 数度お目にかかったことのある医者の料理≠思い出し、あぁ、恐ろしい……! と、オンサは当然の如く、身を震わせていた。


II

 とりあえず、市場を見て、アイディアを持ち帰る事で決定した。
 数日後に控えた祭りの準備に、天使の広場に異国の香りが感じられ始める。
 歩きながら感嘆するオンサの溜息が、周囲の雑踏に解け消えていった。
「すっごい――」
 楽しそう。
 神父の話しによれば、数日後の夜には、この場所がとりどりの光によって美しく照らし出され、様々な屋台が並び、色々なイベントが行われる予定なのだと言う。今回のクレープ屋の件もその一環であったが、どうにもはじめてな経験に、慣れない感覚を覚えてしまっていた。
「……わぁ、オンサちゃん、なんか楽しそうだね?」
「そんな、あたいは別に――」
 ざわめきを突っ切って、アデルの可愛らしい声音がオンサの耳へと届く。一応否定しながらも、お祭りの為の市場をきょろきょろと見渡すオンサに、
「でも、本当に楽しそうですよ。オンサ様も、アデル様も」
 メイがやわらかく、微笑を向けた。
 照れたように、居心地悪そうに、微笑んでオンサが頬をかく。
 オンサとて、普段は森の戦士であったとしても、その前に十六歳の一人の女の子なのだ。こういう心地はあまり経験した事が無い。
 が、
 悪い気は、してない――?
 心が、躍るというか。不思議な心地に、戸惑ってしまうような。
 ――と、
「あー、オンサちゃんだっ!」
 ぐるぐると考え込みはじめていたオンサの思考を断ち切る、元気な子ども達の声音が響き渡った。人ごみの向こうから、駆けて来るのは小さな子ども達――神父の率いる聖歌隊の子ども達であった。
「どしたのー、こんなトコロで?」
「あ、わかったわ〜〜〜、きっとくれーぷやさんのお手伝いをさせられたのね〜〜〜〜〜〜〜〜?」
「あ、なるほど、ヘタレ神父のぎせーしゃかっ♪」
「わぁ、カワイソー、オンサさん。あたし、結婚なんてしたくないな〜。ね、オクサンって、大変でしょ? ダメなオットをもつと大変なんだ、って、ママもいっつも言ってるし」
「いや、奥さんって……あたいはそんな、」
 四人の仲良し組みにまくし立てられ、膝を折ったオンサが苦笑する。子ども達と視線の高さを合わせた途端、
「ね〜、オンサちゃんも〜〜〜、おまつり、楽しいでしょ〜〜〜〜〜〜?」
 間延びした声で、少女が問うてくる。
「なんせ一年に一回だしな。楽しまなくちゃ、ソンだって!」
 ほら、みんな楽しんでるしな! と、まるでエルザードの自慢をするかのように、少年がざっと天使の広場を指し示す。
 ……しかし。
 おや?
 オンサの視線は、その指先には無かった。
「……それ、」
 小さな手からはみ出すそれ≠見つめながら、ふ、と呟いた。
「あ、コレ? 四葉のクローバー。さっきそっちで見つけたんだ! な〜?」
「うん、そー、そっちにウマってたの〜〜〜〜〜〜」
「四葉はうまってるって言わないよ、フツー」
 少年の手に握る、緑のクローバー。
 誰かに呼ばれたようにして、突然すっくと、オンサが立ち上がった。
「それだ」
「「――え?」」
 話を聞いていたアデルとメイが、思わず瞳を丸くした。
 オンサは急き込んだ様に、
「薬草クレープなんてどうだい? 健康にも良いし、ちょっと変わったアイディアだと思う!」
「……すっごぉい、オンサちゃんっ! あたしなら絶対そんなアイディア思いつかないもんっ」
「なるほど、ハーブを使ったクレープも良いと思っていましたが……一歩進んで薬草、も確かに面白いかも知れませんね」
 メイとアデルとが、迷子にならないようにと繋いだその手を、前後に振り回しながら笑う。
 何かに興味を惹かれたのか、挨拶も無しに、又どこかへと駆けて行ってしまった聖歌隊の子ども達を、開いたもう片方の手を振りながら見送ったメイは、
「実は、折角ですから、ハーブを利用しようかと考えていたんです。こちらの方々でしたら慣れているでしょうし、果物にもお肉にも合いますから」
「薬草とハーブだったら問題ないと思よ☆ 組み合わせても大丈夫だと思うな」
 飛び跳ねたアデルが、二人を見上げる。
「そうだね……薬草とハーブとだったら、組み合わせ次第でどうにかなるかも知れない」
「生地に甘みがありますから、匂いのきついものは避けて、清涼感のあるものが良いと思います。あ、でも……」
 オンサの言葉に、不意にメイは俯いて、
「薬草って、美味しくなるんでしょうか……」
 ふとした疑問を、余計な事かもしれませんが、と口にした。
 オンサはその肩を軽く叩くと、
「大丈夫。あたいも薬草の調合にはちょっとした自信がある。それに、ね。さっき話してたあの似非医者、料理こそはゲテモノだけど、薬草の扱いに関しては並大抵のものじゃないからね」
 心配しなくても、と、満面の笑顔を向けた。

 薬草とハーブのクレープは、話した途端神父や医者やエドにも承認された。
 準備の期間は、さほど長いわけではない。
 市場に通いつめ、様々な材料の調達に走り回ったメイ。沢山の果物達を選び出し、オンサや医者のアイディアを聞きながら、試行錯誤の末に様々なハーブも選び出した。
 オンサの方は、医者と協力して、薬草の臭みや苦味を抑え、相乗効果を引き出そうとして齷齪していた。だが、二人の薬草に関する知識は確かなものだったらしく、メイの用意した材料と共にはじめてクレープを作った時も、メンバーからは大評判となっていた。
 一方、雑用的な事をこなしていたのは、アデルとエドであった。当日は宣伝塔代わりとなってくれるらしいソウセイザーに持ってもらう大きな札を作り、屋台の装飾を考えたりもした。とはいえこちらの方は、マリィとセリア達のチームとの合同作業となった。恋人同士、仲良く作業するエドとテーアとに茶々を入れながら、アデルもとても楽しんでいた。
 ちなみに神父の方は、祭り当日の聖歌隊合同公演の準備が忙しかったらしく、何かと席を外す機会が多かったのだが。
 ――こうして、準備の時間は過ぎ去り。
 やがて、いよいよ、前日。
「――こちらの世界のハーブについては、正直良くわからなかったので心配だったんです」
 曰く、腰痛に効くクレープの味見を終えて、メイはほっとして溜息を吐いた。
「でも、美味しくできて良かったです。あとは――お客さんに、喜んでもらえると嬉しいです」
「きっと大丈夫だね! あたしなら絶対買いに行っちゃうもん。すっごく美味しい!」
 甘い中にも、すっとした清涼感。満面の笑顔でクレープを頬張りながら、アデルが全員の方を見渡した。
 視線を受けてオンサも頷くと、
「きっと大丈夫だと思うよ。明日は――皆で頑張ろう」
 よしっ、と気合を入れた。
 その一方で、全員の様子を見つめながら、神父も思わず、嬉しさを感じてしまっていた。
 ――これは明日は、忙しくなりそう、かな?


III

 そうして、夜に鮮やかな光の照り映える、祭りの当日。いよいよ前半の販売も終え、オンサ達の出番がやってきていた。
 宣伝塔代わりのソウセイザーに、休憩中、の大きな札をかけてもらい、そうして前半部と後半部のメンバーは入れ替わった。
「一度作ってみたかったんだよね〜! ほら、クレープ屋さんが鉄板の上でくるぅり、ってヘラみたいなのを一回転させると、まぁるい生地が焼けるよね? 憧れてたんだ〜☆」
 魔法で熱した鉄板の上に、くるぅりと油を敷きながら、
「さぁ、頑張らなくっちゃ――だね! オンサちゃんもメイちゃんも一緒にがんばろーね☆」
 屋台の光の下、水色の金魚模様の浴衣の長い袖をたくし上げて背後を振り返ったのは、アデルであった。
 そこには丁度、生地の素を作り終えたばかりのメイが立っている。
「ええ、そうですね。がんばりましょう!」
 自分にも気合を入れるかのように、勤めて明るく微笑んだ。本当なれば、大勢の前に出る事はあまり得意ではないのだが、
 ――接客業も、天使には必須ですから。
 このままではいけない、と思った事も数多くあった。折角大勢の人と出会える機会が目の前にあるというのに、
 それを無駄にしてしまっては……勿体無い、ですよね。
「それじゃあメイちゃん、ここに生地の素を垂らしてね〜」
「はい、わかりました。えぇっと、この辺で宜しかったですか?」
「うん、そんな感じだねっ。お玉に一杯で丁度良いってエド君が言ってたから……」
 水分の飛びはじめる良い音と共に、甘い生地の焼ける香りがふんわりと漂った。アデルは満足気ににっこりとメイに微笑むと、手にした平べったいヘラを、くるりと円に合わせて一回転させ――
「ちょっとアデルさんっ?!」
 唐突に。
 慌てて駆け寄ってきたのは、聖歌隊の公演準備の為にいなくなっていた神父であった。急いでアデルを抱えあげると、
「駄目ですって! 浴衣、汚れちゃいますよ?」
 鉄板から離し、ヘラを取り上げる。
 屈んで視線の高さを合わせると、
「えぇっ、そんなぁ。あたし、折角クレープ作れると思って――!」
「でもそれ、汚すと後始末が大変なんですよ。普通の服と同じように洗濯できませんからね」
 ヘラを取り戻そうとされながらも、諭すように、微笑みかけた。
 実際、浴衣は特殊な形をしている上、帯などは一度汚すと洗うのに一苦労する。アデルの好奇心がわからないわけではなかったが、
「後でね、終わった後にでも一緒に作りましょう? 私もアデルさんの作ったクレープ、食べてみたいですしね」
 その場を取り繕うための言葉ではなく、心の底からそう思う。子ども達が一所懸命になる姿は、見ていてとても、嬉しくさせてくれるもの。
 ――って、もうアデルちゃんの歳なら、子ども扱いされたら怒っちゃうかな。
「……苺の入ったクレープなんて美味しそうですね」
「うん、わかった。それじゃああたし、お客さん呼んで来るねっ!」
 間接的な言い回しに神父の本気を悟ったのか、アデルがふわりと踵を返した。浴衣が着崩れしてもおかしくないほど元気に、屋台を飛び出して行く。
「……さすが神父」
「さすが、って、いえね、私は別に、何もやってませんよ?」
 気がつけば、後ろには薬草とハーブとを抱えたオンサとエドとが現れていた。神父はよっこらせ、と立ち上がると、
「それにしても、お疲れ様です、オンサさん、エド君。もう後半部なんですね〜。私、途中から暫くいなかったんで、どうなったのか良くわからないんですけれど、」
「マリィちゃんから聞いた話しによれば、前半部の売り上げはかなり良かったらしい。……少し気合を入れないと、勝てないかもしれないな」
 悪戯っぽく微笑みを浮かべる。
 颯爽と生地を焼き始めているメイの横に、とさり、と薬草とハーブとの入った箱を置くと、オンサは簡単な所から調合を始めた。
「しっかしまぁ、健康クレープだなんて、面白い発想ですね。――大丈夫です、きっと売れると思いますよ?」
 味見をさせてもらった事もあったが、独特の臭みなどもなく、なかなか美味しいものであった。
 まぁ、オンサさんとリパラーレの手にかかれば、そうなっちゃって当たり前、なんだろうけど……。
 幼い頃から森で育ってきたオンサと、腕だけは確かなリパラーレ。薬草の扱いに関しては、この二人に任せておけば全てが上手く行く。
「……って、あれ? リパラーレは?」
「あの人、マリーヤさんを追っかけてどこかに行っちゃったみたいだけど……」
「まぁたやってるんだ、リパラーレ……全く、どうにもなりませんね」
 エドの返答に呆れて笑うと、神父はやおら、オンサの隣へと並んだ。
「それじゃあ、私がお手伝い致しますよ。えぇっと、どれをどうすれば良いんですか?」
「そこにあるヤツをこれと一緒にすりつぶせば良い。えぇっと、道具はコレを使って、」
「わかりました。えと、割合は……」
「一対二、くらいかな。こっちが一で、こっちが二」
「わかりました」
「それじゃあそろそろ、店を開けても良いでしょうか?」
 二人の会話を、生地を焼きながら聞いていたメイが、遠慮がちに振り返った。
 神父はえぇ、と頷くと、
「お願いします。メイさんも一緒に頑張りましょうね」
「――はいっ!」
 メイは胸の前で手を組み、勢いかかった返事を返す。丁度目の前を通ったアデルをすみません、と呼びつけて、お店がはじまる趣旨を告げた。
 アデルが、ソウセイザーの元へと駆けて行く。
「ソウちゃん、札代えて! もう始めるって――とっても美味しい・オススメの健康クレープのお店だねっ☆」


IV

『それじゃあ私は、そろそろ行きますので――』
 どうやら神父は、相当忙しい合間を縫ってこの場所へと顔を出したらしい。すぐにいなくなってしまった彼の代わりに――と言わんばかりに戻って来たのは、
「またフられたよ……全く、人生って過酷だねぇ、無情だよ、本当」
 敗北宣言のように愚痴を呟く、白衣姿の似非医者、リパラーレであった。
「……やっぱり駄目だったんだ」
 オンサの隣で、薬草の調合を手伝いながら呟いたエドは、
「うるさいよ、エド。自分は上手くいってるからって、そーやって……!」
「――そういうワケでもない、んだけどな」
 ふ、と、自嘲気味に苦笑した。
 意外と言えば意外すぎるエドの返答に、医者は一瞬、答えに窮してしまう。オンサもオンサで、横からその話を伺いながら、一瞬その手を止めていた。
 ……そういうわけじゃあ、ない?
 オンサの見た所によると、エドとテーアの関係は今でも順調なはずであった。まさかエドからこのような発言が飛び出すとは、誰も考えはしないであろう程に。
 ――異様な雰囲気を察したのか、
「あ、いや、別に別れが近いだとか、僕がお嬢様の事を嫌いになったとか、そーいうワケじゃあない、んですけれど……ね、」
 慌てたエドの取り繕いに、
「どういう事だい?」
 思わず、オンサが問いかける。
「あ、いえ、本当大した事じゃあ……」
「じゃあ、」
「本当何でもないんですよ。大丈夫です」
 そんな会話を、
「ミントチョコのクレープをお願いします〜!」
 何も知らない、いかにも忙しそうなメイの声音が切り裂いた。
 医者はふ、と、自然な動きでメイの横に立つと、
「一人で大丈夫かい? 難だったら俺、手伝うけど」
「あの男、まぁた女を口説いてるよ……」
 オンサの言葉も聞えないふり、神妙な面持ちで、彼女の手を取った。
「……あ、あの、」
「大丈夫、一と二を掛け合わせれば二とは限らない――それが人と人との不思議な結びつき。それにね、ここで出会えたのも何かの縁だってね、ずっとそう思っていたんだよ」
「いえあの、あたし……」
 伏せ目がちに輝く紫銀の瞳が、白衣の青年をじっと見上げる。
 いかにも困りきってしまった彼女に、
「これが終わったら……そうだな、射的にでも一緒に行こうか。君の欲しい物を取ってあげるよ」
 紳士めいた口調で、微笑みかけた――オンサから見れば胡散臭い事この上ない笑みであったが。
 夜目の利くオンサの視線のその先に、ずらりと並び始めたクレープを求める人々の姿が映る。
 ……全く、
「おい似非医者、メイはテーアと同い年――それでも、十三歳だ」
「……はぁっ?!」
 仕方なく、水を注す事にした。
「あんたの守備範囲外。しかも、それじゃあ犯罪だよ?」
 クレープを包むオンサの言葉に、
「本当(マジ)?!」
「はい、あたしは一応十三歳です。あ、いらっしゃいませっ」
 絶句した医者の横で、メイがどこか申し訳無さそうな面持ちで再び注文を取り始めた。
 と、
「メイちゃんっ、大分後ろまで並んでるよ〜! 早くしないと後ろのお客さん帰っちゃう!」
 ひょっこりと背伸びし、屋台に顔を出したのは、アデルであった。
「お疲れ様です、アデル様」
 礼儀正しくアデルに目礼し、注文とお金のやり取りを再開したメイの横で、
「メイちゃんこそ。って、そーいう場合じゃなくて! そこの似非医者もきちんと仕事するっ! 本当このままじゃあマズいって」
 アデルの言葉に、再び医者が穏かさを失う。
「誰が似非医者だ誰が! ってゆーかアデルちゃん、そーいう事、誰から教えられたの……」
「誰って、神父さん!」
「――サルバーレのヤツ……後でぜってー殺す」
 わなわなと左の拳を握りつつ、右の手でオンサに手渡しされたクレープを客に突きつけた。
 あまりのぶっきらぼうさに、オンサが溜息を付く。
「いらっしゃいませ、ありがとうございました、くらい言え」
 尤もな指摘に、
「あぁもう今日は不幸な事ばかりだ! あぁもう主よ、俺までアイツの不幸を背負っちゃったみたいなんですけどっ!」
「うわ、似非医者がカミサマにお祈りするだなんて、珍しい事だねっ」
「……アデルちゃん、誰からそーいう事、教えられたのかなぁ?」
「誰って、神父さん! リパラーレは不信だって、すっごい悩んでたみたい」
「――予防注射の時は覚悟しとけよ、サルバーレ……!」
「とにかく、似非医者も仕事してよねっ! あたしは向こうでお客さん呼んで来るっ☆」
 医者の怒りにも気が付いていないのか、無邪気にアデルが踵を返した。
 長いお客の列を、振り返り振り返り眺めながら、アデルはそれに沿って走り続ける。浴衣の裾をたくし上げながら、
「ねぇ、クレープ食べたくない? 薬草使ってるから、とってもヘルシー、だねっ! ハーブも良い香りだし、安心して食べれるよ☆ 体にも良いんだからっ」
 肩を抱いて歩く、浴衣姿の恋人同士の前で立ち止まった。
 愛らしい少女ににっこりと微笑みかけられ、二人が顔を見合わせる。
 そうして、暫く。
 微笑が、夏の夜を暖かく彩る。
 ――かくて。
 医者が仕事をし始めたのか、列の進み始めたクレープ屋の列の最後尾に、二人のお客が並ぶ事となったのだった。


V

 テーアの迎えにより、途中で店を抜け出したエドの影響もあったのだろうか。
『行っておいでよ、オンサちゃんっ! ほら、こーいう機会にアタックかけておかないとっ! あの神父さんはにぶぅいから、きっと気づいてくれないよ☆』
 いつの間に着替えていたのか、演奏の指揮を終えて戻ってきた浴衣姿の神父を見るなり、アデルがオンサの背を押した。
 オンサには、アデルの意図している事が良くわからなかった。
 が、
「……こういうのも良いですね。何と言いますか……趣深いと言いますかね。オンサさんも、好きでしょう?」
「まぁ、ね」
 悪くは無いと、単純にそう思った。どうしようも無くお人好しで、いつも損ばかりしているような、可哀想な神父。今回も、事の発端には呆れてしまったものだったが、
 でもまぁ、らしいと言えば、らしい、んだろうな。
 神父と二人きりになる度に、いつもあの似非医者に茶々を入れられる事は確かに気に食わなかったが、
「楽しいって言うか……上手くは言えないけど。すっごく、わくわくするって言うか、」
「十分素直な言い様ですよ。私もわかります、その気持ち」
 頷いた神父に、
「あ、あれやってみよう! 神父! 射的……か、面白そう!」
 突然、出店を見回していたオンサが、指を指した店の方へと駆けて行った。その後ろをゆるりとついて行きながら、神父は知らず、微笑んでしまう。
 ――あーしていれば、普通の女の子、なんですよね。
 普段は獣牙の女戦士として、強く、逞しい印象のオンサ。しかし一度、解き放たれてしまえば、
 本当に普通の、女の子だ。
 十六という歳相応の無邪気さ。いつものきりりとした印象が、まるで幻であるかのような。
 こういう、不思議な場所でもあった。
 お祭りの、会場と言うものは。
 薄い浴衣地に、夜風が心地良い。
「早く早くっ!」
「はいはい、本当に元気なんですね、オンサさんは。正直私、少し疲れて――」
 手招きされて、小走りで近づいた。景品と同じように隣同士に並んだ途端、オンサが瞳をじっと覗き込んでくる。
「何が良い? あ、神父にはアレなんかお似合いじゃあ、」
「アレって、抱きつき人形ですかっ?! しかも、クラゲのっ?!」
「あの間抜な顔がいかにも、って感じじゃないかい? うん、似合ってるよ、きっと。よし、取ってやるよ♪」
「えぇっ! ち、ちょっと本気ですかっ?! そりゃあ、確かに可愛いですけど……!」
「おい親父、一回お願いっ!」
「はいよっ!」
 威勢の良い店屋の親父が、コルク銃をオンサに手渡した。
 じっと景品を狙う少女の集中力を殺がない様にと、
「……やぁ神父、あの子は恋人かい?」
「皆してそうやって……私とオンサさんが一緒にいると、皆してそうやって言うんですから」
 ひっそりと下から回り込んだ親父が、神父を軽くからかった。
「第一、私は神父なんですから。しかもオンサさんは十六ですよ? 私これでも、」
「いやあんたエルフだし。並んでても違和感無いから問題無いって。神父、見た目は二十とちょっとにしか見えないよ? お世辞じゃなくて、本当の――お!」
 ぱんっ、という音と同時に、不意に話を打ち切った親父が、慌てて店の奥の方へと駆けて行く。それからすぐに戻るなり、オンサに何かを手渡した。
 ――宣言どおりの、クラゲの抱きつき人形。
「ってうわすごっ?!」
 驚いた神父に、
「そりゃあ、いつもは弓だからちょっと勝手が違ったけど……こういうのには、馴れてるからね。おっちゃん、ありがとう!」
「はいはい、デート、楽しんどいてよ!」
「いえだから私とオンサさんはね――!」
「そんな事より、早く行くよ、神父! ほら、花火も始まった……!」
 オンサが人形を神父の腕に抱きつかせた瞬間、空に光の花が咲いた。
 世界が、轟く。
 大きな音に、震えていた。
 輝く光が、闇に散る。
 花火の合間に、オンサが神父の方を振り返った。
「良い所見つけといたんだ。高い所からだと、もっと綺麗に見えるだろう?」
「……疲れる所は嫌ですよ。もしかしてオンサさん、木の上とかそーいう事考えてるんじゃあ――」
「大丈夫! あたいが手伝ってやるって。どれほど神父が体力に自信がなくても、きちんと上れるようにしてやるからさ!」
「そ、それだけは勘弁して下さいよ……! 浴衣も汚れちゃいますって!」
「言い訳は後から聞くから。それじゃあ、行こうか! 早くしないと終わっちゃうよ!」
 そぉんなぁ、と項垂れる神父を、オンサがぐいぐいと引っ張って行く。
 人ごみの中を、いつのまにか二人は、手を繋いで駆け出していた。
 ――高く、高く、花火を見上げに行く為に。
 二人きりの、静かな所まで。




「――売り上げの集計結果が出ましてよ」
 祭りも終わった、その夜中。
 今度は牧師の新教教会の礼拝堂に集められた面々の目の前で、
「皆さん、本当に今回は感謝してます。出店の主催長からも宜しくお伝え下さい、との事です――寄付金も、大分出ますしね。本当に大助かりでしたよ。ありがとうございました」
 牧師の言葉に続けて、神父が丁寧にお礼を述べた。
「いえ、私も神に仕える方のお役に立てて、本当に幸いです」
 胸に手を当て、精霊達に祈りを捧げるかのようにセリアが言う。続けてメイも、
「あたしも……沢山の方々の笑顔を見れて、本当に嬉しかったです」
 こちらこそありがとうございました、と付け加えた。
 そんなメイの隣から、
「で、売り上げ競争はどっちが勝ったの?」
 結果が気になる、と言わんばかりに、アデルが手を上げて言った。
 マリィもマリィで、アデルと気持ちを同じくしているらしい。身を乗り出しながら、神父の言葉を待っていると、
「――それがですね、どうやら今日は、奢りとかなんとか、そういう必要は無さそうなんですよ」
 祭りの会場とは違う、やわらかな光の下で神父が微笑んだ。
 その横から、オンサが説明を加える。
「ソウセイザーが、打ち上げなら家庭科室でどうですか? って」
 ソウセイザーの体内は、学園のような構造になっているらしい。その上ソウセイザー自身も、家事手伝いに料理は得意であった。今回はその大きさが故にクレープ作りの手伝いはできなかったものの、
「――ちょっとしたお料理を用意させていただきました。気に入って頂けるかどうかは、わかりませんけれど――」
 開け放った礼拝堂の窓から、響き渡るソウセイザーの声。曰く、家庭科室には、もう料理が準備してあるのだと言う。
「それから、ソウセイザーさんに聞いた話によりますと、調理場を貸していただけるそうなので、ね。私もエド君とマリーヤ先生と一緒に、皆さんに料理を奢らせて≠「ただきますよ。アデルちゃんにも、クレープを作ってもらうように約束してありますしね」
「ちょっとマテ、俺は――」
「リパラーレは駄目。絶対台所に立っちゃ駄目」
 浴衣姿のままで、神父が医者の言葉を珍しく強く却下する。
 がっくりと項垂れた医者の言葉を取っ払うかのような、
「そーだね、それも面白そう! あ、でもサルバーレ、あんた、後できちんと売り上げの内訳とか公表しなさいよ?」
「わかってますって。きちんと前半分、後半分共に整理してありますよ。それは義務みたいなものですからね」
 不意なテーアの指摘に、神父がくるりと振り返る。
 そのままそれじゃあ、と、全員に移動を促した。
「あっと、そういえば神父さん、あたし、皆の分の金魚取ってきたんだ! メイちゃんが手伝ってくれたの☆――どうしよっか?」
「――とりあえず、向こうに水槽がありますから、そちらに袋ごと入れておいて下さって構いませんわ。帰り際に配られると良いかと思いますわ」
「うん、それじゃあそうするね」
 大量の金魚袋を手にするアデルに、牧師が近くの一室を指し示す。
 その一方、並んで玄関に向いながら、マリィがセシールに微笑みかけた。
 ――祭りの後の静けさは寂しいけれど。
「花火、綺麗だったね」
「うん。ボクも又見たいな」
 玄関の扉を開けて、空を見上げる。
 満天の星が、今日の笑顔の数を表しているかのような錯覚に、
「……私、こういう楽しい雰囲気は、大好きなんです」
「あたしもです、セリア様。又いつか、こういう日が来ると……嬉しい、ですね」
 その横に並んだセリアもメイも、知らず微笑んでいた――。


Finis



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            I caratteri. 〜登場人物
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<PC>

★ メイ
整理番号:1063 性別:女 年齢:13歳 クラス:戦天使見習い

★ マリアローダ・メルストリープ
整理番号:0846 性別:女 年齢:10歳 クラス:エキスパート

★ ソウセイザー
整理番号:0598 性別:女 年齢:12歳
クラス:巨大変形学園ロボットの福祉活動員

★ アデーラ・ローゼンクロイツ
整理番号:0432 性別:女 年齢:10歳 クラス:エキスパート

★ オンサ・パンテール
整理番号:0963 性別:女 年齢:16歳 クラス:獣牙族の女戦士

★ セリア・パーシス
整理番号:1087 性別:女 年齢:117歳 クラス:精霊使い


<NPC>

☆ サルバーレ・ヴァレンティーノ
性別:男 年齢:47歳 クラス:エルフのヘタレ神父

☆ リパラーレ
性別:男 年齢:27歳 クラス:似非医者

☆ テオドーラ
性別:女 年齢:13歳 クラス:ご令嬢

☆ エドモンド
性別:男 年齢:15歳 クラス:執事

☆ マリーヤ
性別:女 年齢:25歳 クラス:女牧師

☆ セシール
性別:女 年齢:12歳 クラス:フルート奏者



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          Dalla scrivente. 〜ライター通信
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 まず初めに、お疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はお話の方にお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。又、いつもの事ながらに、締め切り当日の納品となってしまいまして、本当に申し訳ございませんでした。
 突然ですが、どうでも良い話になってしまいますが、今回の台風はかなり大きいですとかで、普段は台風に嫌われている蝦夷ですら、雨がざんざんぶりだったりします(ちなみに台風自体は温帯低気圧に変わり、本日はそこそこ晴れていますが/笑)。しかも、日々凄まじく蒸し暑いんですよね(汗)実は今回のお話を書かせていただくにあたり、あたしの手元にあるのは保冷剤だったりします。このままでは干からびて死んでしまうわ……と、本州の方からはお叱りを受けてしまいそうなのですが……(苦笑)
 今回のお話には、ちらっと伏線を張らせていただきました。エド(執事)とテーア(令嬢)の関係についてなのですけれども、この件を取り扱うのは、次回の黒山羊亭での受注予定話『肩並べへの間奏物語』となります。宜しければ、ちらりとでも覗いてやって下さいましね。

>オンサさん
 今回のプレイングもとっても素敵でした♪ 字数の関係上あまり書き表せなくて非常に申し訳なく思っておりますが、実はきっちりツボに入っていたりします(汗)神父との場面ですとか……。
 金魚すくいの方も面白そうだったのですが、今回は射的にさせていただきました。ちなみにクラゲは、あたしの名前とは関係がありません(笑)クラゲといえば、のぺーんとしててほのぼーのとしているようなイメージがあります。……さされると酷い目に遭うらしいんですけれどもね(汗)
 時間軸の都合上、プレイングの方、大分いじくってしまいまして申し訳ございませんでした。聖歌隊の子ども達と……もしかすると、シフトの入れ替わる前に無邪気に遊びまわっていたのかも知れません。ヨーヨーすくいの後に、「でもこれでどうやって遊ぶんだ?」ですとか、子ども達に教えてもらっていそうな感じもします♪

 では、乱文となってしまいましたがこの辺で失礼致します。
 PCさんの描写に対する相違点等ありましたら、ご遠慮なくテラコンなどからご連絡下さいまし。是非とも参考にさせていただきたく思います。
 次回も又どこかでお会いできます事を祈りつつ――。


11 agosto 2003
Lina Umizuki