<PCクエストノベル(2人)>


避暑へ行こう!〜水の都・アクアーネ〜

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【冒険者一覧】
【整理番号 / 名前 / クラス】

【0649 / カーディナル / トレジャーハンター】
【1054 / フィロ・ラトゥール / 武道家】
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●序章

 聖獣界ソーン。
 数多の世界から様々な冒険者が集う世界。そこからもたらされた雑多な文化技術が入り混じった世界でもある。
 そして、各地に眠るとされるたくさんの遺跡。ソーン創世の謎を探る手掛かりと目され、こぞって冒険者達が探求しようと躍起になっていた。その謎を持ち帰る事が出来れば、莫大な報酬が贈られる。そんな一攫千金を夢見て、彼等は仲間と連れ立って探索に出ていった。
 それがこの世界でいう冒険者たちの『ゴールデン・ドリーム』である。

 世界は、36の聖獣によって守護されている。
 その中の一つ、ユニコーンが守護する地域の中央部に、この世界の中心たる聖都エルザートがある。
 その南西へと移動したところに存在する小さな村。エルザートと他地域との中継地点として、または観光地として発展した村――アクアーネ。周囲を数本の河で囲まれ、また村中に張り巡らされた運河があることから、『水の都』と称されている。
 水の香り漂うその村は、夏でも涼しい事から避暑地としても名高い。
 その恩恵に与ろうと、フィロ・ラトゥールとカーディナルの二人も観光を楽しんでいた。

フィロ:「うーん、さすがにこの辺りは気持ちいいねぇ」
カーディナル:「そうだな。さすが、水の都ってとこかな」

 軽く腕を伸ばしながら、それぞれにくつろいだ姿勢の二人。雄大な運河に流れるゴンドラの上で、涼しさを満喫する。
 周囲を見れば、同じようにゴンドラを浮かべるお仲間が何人もいる。
 やはり、考える事は皆同じ、というところか。

フィロ:「カーディ」
カーディナル:「ん? フィロ姐、どうした?」
フィロ:「…どうせ避暑に来たんだし、あまり人の来ない所に行ってみないか?」
カーディナル:「フィロ姐…まぁた変な癖が出たな」
フィロ:「うるさいねぇ。折角来たんだから、避暑を存分に楽しまないとね。ほら、さっさと行くよ」
カーディナル:「はいはい」

 苦笑を浮かべながらも、言われるままにゴンドラを進めるカーディナル。フィロの方は河に手を入れたまま、後ろの方でくつろいでいる。
 そして、ゴンドラはゆっくりと運河を上る。その先に未知の領域が待ち受けているとも知らずに。


●第一章〜日頃の行いの賜物?〜

 運河から眺める涼しげな光景をしばらく楽しんでいた二人。
 そんな彼等の視界に、ふと奇妙なものが入り込む。

カーディナル:「なんだぁ、あれ?」

 思わず上げた声に、フィロの視線もそちらを向く。
 流れる運河の滝の裏に、ひっそりと隠れているように見える石造りの入り口。どうやら地下へと続いているようで、その先は真っ暗だ。
 どうやら連日の猛暑で運河の水位が下がったせいで、隠れていた入り口が姿を見せたらしい。

フィル:「どうやら新しい遺跡みたいね。これも日頃の行いのおかげかしら?」
カーディナル:「…………そうだな」

 にこやかに喜ぶフィルの横で、カーディナルは軽く溜息で返した。何か言いたそうな顔をするが、結局黙したままに留める。

フィル:「それじゃあ、早速探検してみましょうか!」
カーディナル:「…て、今からか?!」
フィル:「そうよ。善は急げって言うじゃない」
カーディナル:「あ、あのさぁ…俺たち、避暑に来たんだよな?」
フィル:「何言ってるの? 目の前に誰も踏み入れたことのない遺跡があるのよ。これを探索しなくて、どうしようっていうのよ!」
カーディナル:「あ、いや…どうしようって、あのさ…」

 意気揚々と宣言するフィルに、カーディナルの言は届かない。むしろ自分一人の盛り上がりに、彼を巻き込もうとしていた。
 そんな思い込んだら即実行、な彼女の性格を熟知しているカーディナルにとっては、もはやこんな会話は日常でしかない。そして、次の彼女の行動も彼には解っていた。

フィル:「さ、宿屋に戻って早速準備するよ」
カーディナル:「フィル姐、本当に行くのか?」
フィル:「当たり前さ!」
カーディナル:「……やれやれ」

 そしてゴンドラは、宿屋へと方向転換をする。
 折角の避暑がぁ〜、と嘆くカーディナルを後目に。


●第二章〜地下通路の遺跡〜

 ピチャン、ピチャンと時折落ちる水滴の音に混じり、ゆっくりと進む足音が響く。長年水に沈んでいただけあって、通路はかなり滑りやすくなっているようだ。

カーディナル:「そこ、滑りやすくなってるから気を付け……どわぁっ!」
フィル:「カーディ…言ってるそばから自分で滑ってどうするの。ほら、ちゃんとカンテラ持って、照らすのよ」

 先頭をカーディナルに任せ、フィルがその後をついていく。二人が冒険する上でのいつもの定位置だ。
 カーディナルに罠の感知及び解除、そして遺跡のマッピングまで任せ、フィルは彼の後ろで鼻歌でも歌いそうなぐらい軽やかに歩みを進める。
 と、しばらく進んだ所でカーディナルが足を止めた。注意深くきょろきょろと辺りを見回し、拾った小石を通路の真ん中に放り投げた。
 途端、パカッと穴が開き、小石はあっという間に落ちていった。…ただし、一向に跳ね返ってくる音は聞こえてこなかったが。

カーディナル:「ま、古典的な罠だな」
フィロ:「……音、返ってこなかったわよ」
カーディナル:「気にすんな」

 それからも仕掛けられた罠に注意しながら二人は進む。
 通路はかなり折れ曲がってはいたが、基本的には一本道だ。特に何かの部屋がある訳でもなく、どこまでもどこまでも続いている。
 そんな単調の繰り返しに飽きがきたのか。

カーディナル:「随分歩いたけど、どこまで続いてるんだろうねぇ」

 そうぼやくカーディナル。少し欠伸なども出始める。

フィロ:「うーん、この調子じゃあ、河はとっくに越えてるだろうな。下手したら、エルザードまで続いてるんじゃないか?」
カーディナル:「ちょ、ちょっと待ちなよ。それじゃあなにかい、私達は歩いてエルザードまで帰ってるって事なのかい?」
フィロ:「あ、あははは…」

 フィロの問いに否定出来ないカーディナル。
 洞窟の向きや、進んできた道順を頭の中にあるソーンの地図と照らし合わせ、確かにエルザードへ向かっている事は明白だ。
 ひょっとしたらこの遺跡は、王城の秘密の地下通路なのかもしれない。出口――二人からすれば、入り口だ――が運河の水の中に隠してあったのも、そう考えれば辻褄が合う。
 ひょっとしたら骨折り損だったかもな〜と、カーディナルが心中で嘆いていると、不意に何かにぶつかった。

カーディナル:「痛ッ! なんでこんなところに壁が…」

 打ち付けた鼻をさすり、前方を見る。
 組み込まれた石壁。手で触ればひんやりとした感触。

カーディナル:「行き止まり……?」
フィロ:「カーディ、そこをお退き!」
カーディナル:「えっ? ……うわっ、ゴーレム?!」

 首根っこを引っ捕まれ、ぽいっと後ろに投げられるカーディナル。入れ替わり、前へ躍り出たフィロ。

フィロ:「ちょうど退屈してたんだ。準備運動ぐらい、させてもらうよ!」

 嬉々として躍り掛かるフィロ。
 その繰り出された一撃は――あっさりとゴーレムを粉砕した。

フィロ:「…なんだ、こんなものなのかい」
カーディナル:「あははは……」
フィロ:「これじゃあ準備運動にもなりゃしないじゃないか」

 欲求不満気味に愚痴をこぼすフィロを見て、カーディナルは乾いた笑いしか出てこない。「あのーそれは相手が弱いんじゃなくって、フィロ姐が強すぎるんじゃ…」とは、口が裂けても言えない。
 何故って?
 そりゃあ、まがりなりにも命が惜しいから。
 そんなこんなでゴーレム――おそらく番人だったのだろう――を打ち倒したその先に見えた扉に、二人はようやく遺跡探索も終盤に近付いている事を確信する。
 ただし、あくまでも王城の隠し通路であるという懸念も頭の片隅に置いて。

カーディナル:「うーん、罠は…ないようだな」
フィロ:「鍵はどうなんだい?」
カーディナル:「ん、これぐらいなら、簡単に開けられるさ」
フィロ:「それじゃ、早いとこ頼むよ」
カーディナル:「あ、ああ」

 ブンブン腕を振り回すフィロ。どうやら暴れ足りなかったおかげで、多少欲求不満らしい。
 冷や汗混じりの笑みを返し、カーディナルは扉の鍵を開けた。

カーディナル:「んじゃ、行くぜ」
フィロ:「ええ」


●第三章〜お宝は何処へ〜

 ゆっくりと扉を開く。その向こうから溢れてきた光に思わず目を覆う二人。さっきまで暗くジメジメしていた場所にいたから、とっさに状況判断が出来ずにいた。
 ようやく目が慣れてきたところで辺りを見渡した二人の目に飛び込んできたのは――。

司会のお姉さん:「パンパカパーン、おめでとうございます! あなたは見事、地下通路を発見してここへ無事に辿り着く事の出来た一人目のお客様です〜!」
カーディナル:「は?」
フィロ:「…どういうこと?」
司会のお姉さん:「はい。今、ここアクアーネでは、特別イベントと致しまして『秘密の通路を探せ!』を開催しておりまして、お客様はこの企画の最初の到着者になります」
カーディナル:「えっと…それって事は…これはいわゆる企画イベント?」
司会のお姉さん:「ええ、そうです。一週間前から始めたんですが、皆さん、なかなか発見出来なくて」
フィロ:「…………」
カーディナル:「あ、あのさ。それってどっかに告知とかしてた?」
司会のお姉さん:「はい。ここアクアーネに到着されたお客様全員にチラシを配ってますよ。ほら、こういうの(チラシを見せながら)ここにちゃんと書いてるでしょ」
カーディナル:「………あ」
フィロ:「カーディ?」
カーディナル:「えっと…そういえば……」
フィロ:「……どういうことかしら。説明してもらえる? カーディ」
カーディナル:「あは、あは…えっとですね…確かにこのチラシは貰ってるんですけど、フィロ姐は興味ないと思って…捨てちゃったんだよ……あはは、はは…」
フィロ:「………(にっこり)」

 フィロの浮かべる笑顔が怖く、カーディナルは一歩下がる。

カーディナル:「フィロ姐…お、落ち着いて…ッ!」
フィロ:「こ〜の、スカタ〜ン!(バシッ)」
カーディナル:「うわぁぁぁぁ〜〜〜…」

 哀れ、フィロのハリセンの餌食となったカーディナルは、お空の星と消えたのだった。

フィロ:「まったく、折角避暑に来てたのが台無しじゃないか……」
司会のお姉さん:「あ、こちらは景品です。お一人目の方ですので、本来1パックのところを10パック差し上げます」
フィロ:「景品? そんなのいらな…」
司会のお姉さん:「アクアーネ名産のお肌がつるつるになって疲れがばっちりとれるマッサージ水『アクトルーネ』です」
フィロ:「いただくわ」

 何事もなく司会を進めるプロのお姉さんに――脱帽。


●終章〜避暑地のお約束〜

 燦々と照り付ける太陽の元、、誰もが木陰に寝っ転がって涼しげな雰囲気を楽しんでいた。静閑としたその場所で、とある一カ所からの声は余計に周囲に響いていた。

フィロ:「ほら、しっかり塗りなさい。折角頂いた景品なんだからね」
カーディナル:「…フィロ姐、もう勘弁して〜」
フィロ:「なに言ってんだい。折角の避暑を台無しにした代償はきっちり肉体労働で払ってもらうよ」
カーディナル:「そんなぁ〜。だいたいあれだって、フィロ姐の方から言い出し――」
フィロ:「なんか言ったかい?」
カーディナル:「(フルフルフル)な、なんでもない…」
フィロ:「それじゃあ、さっさと口を動かさず手を動かしな。そんなんじゃ、疲れなんか全然取れないよ」
カーディナル:「えぇ〜〜ん」

 静寂の避暑地にて。
 いつまでもその声は響き渡っていたという。


【END】