<PCクエストノベル(2人)>


迷い道〜エルフ族の集落〜

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【冒険者一覧】
【整理番号/名前/クラス】

【0401/フェイルーン・フラスカティ/魔法戦士】
【0402/日和佐 幸也/医学生】
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■いざ行かん、探索へ

 36の聖獣に守られし地──聖獣界ソーン。
 その中で聖獣ユニコーンにより守護された地域に、聖都エルザードは存在していた。
 『最も特異な都にして世界の中心』と銘打たれたそこには、日々異界からの訪問者が後を絶たない。
 今日もエルザードは賑わいを見せている。

フェイ:「幸也、準備は出来た?」

 そう言って肩までの金糸をふわりと揺らして振り返ったフェイルーン・フラスカティの背には、身の丈程あるであろう長剣があった。普通の少女なら振り回すどころか持つことさえままならないだろうに、フェイはいとも簡単にそれを使いこなす。
 魔法使いを挫折して魔法剣士になったとはいえ、今ではそれが彼女らしく映るのだから結果オーライだろう。
 そんなフェイはにこにこと笑顔を向けて、探索に行く気満々なようだ。

幸也:「ちょっと待ってくれ。どっかの誰かさんが無茶ばかりするから、薬草を多めに持っていく」

 そんなフェイを見てはぁと深い溜息を付くのは、長身の体を曲げて手荷物に薬草を詰め込んでいく青年。日和佐幸也である。
 幸也はうっかりソーンに迷い込み帰れなくなった日本人なのだが、好奇心旺盛な飼い主(?)さんのお陰で、今ではこの世界にすっかり順応していた。
 元々医学生だったこともあり、ここでは医者見習いと名乗っている幸也は、薬草の袋を腰に下げて立ち上がる。

幸也:「しかし……本当に行くのか?」
フェイ:「当たり前でしょ。何、幸也は知りたくないの?」
幸也:「そりゃ知りたいけど」

 準備も終え、後は出掛けるだけの段階になって、幸也は目的のことで最終確認をフェイにした。
 以前探索に行った”一角獣の窟”で、二人はユニコーンと思われる存在を見かけたのだ。
 一瞬の出来事だったし、見間違いだったのかもしれない。
 けれどそれなら尚更確かめたい、と思うのがフェイである。
 弾丸無鉄砲。でも可愛いフェイの頼みを幸也が断れるはずもなく、同行することになったのだが……。

フェイ:「大丈夫だよ。何かあったら幸也が絶対にいい知恵を出してくれるもんね」
幸也:「………そういうことになるのか、やっぱり」

 探索には持って来いの青空を見上げ、幸也の心にちょっと不安が生まれたのは内緒である。


 兎にも角にも好奇心旺盛なフェイと、知識オタクの幸也の冒険は始まろうとしていた。
 目指すは聖都エルザードから南西に下った場所に位置する、エルフ族が住まうと噂されている森。
 そこにはごく少数の者しか辿り着けないと言われている。

 果たして二人は、無事に辿り着けるのだろうか。


■集落を求めて…

 森の入口からどれくらい歩いただろう。当に歩いてきた道は見えず、エルザード城も木々に隠れてもう影すらない。
 深い森の中を歩き続ける二人は、時折持ってきた水で咽を潤し休憩をしては、また当てもなく森を歩き続けた。
 エルフの集落が一体何処にあるのかが判らない為、森の中を彷徨うように探すしかないからだ。
 それでも二人で居れば……退屈は何処かに行ってしまう。

フェイ:「幸也、こっちの方に行ってみようよ。なんかエルフの匂いがする」
幸也:「マテ。どんな匂いだ。犬じゃあるまいし、フェイの嗅覚は当てにならん」
フェイ:「ひっど〜い。飴玉あげないからね」

 幸也の前に立ち塞がり、あっかんべーをするフェイ。
 その背には大きな木の幹が存在し、太い根がフェイの足元に伸びていた。

幸也:「おい。後ろ!」
フェイ:「へっ?………のわっ!!!」

 ──ことは一瞬だった。

幸也:「フェイ……見事だな」

 幸也は拍手をしながら上空を見上げる。
 根に躓いてそのまま後ろ向きで倒れれば普通なのだが、幸也が見たのはフェイが上空へと上がっていく姿だった。
 どうやら木の根に躓いたのではなく、蔓に足を巻き取られ、逆さ吊りされてしまったらしい。

フェイ:「拍手なんかしてないで、助けてよ〜。あ、パンツ見たらご飯抜きだからね!!」
幸也:「……そういうことを言うなってば」

 じたばたと足を動かすフェイを見上げた幸也は、言われて初めて気付くフェイの様子に頬を紅潮させた。
 必死にスカートを抑えるフェイも、幸也を睨み付けながら頬を赤く染める。
 しかしあまり長時間つるされては、フェイの頭に血が昇ってしまうので、幸也はなるべくフェイを見ないようにして降ろしてあげた。
 そして頭から落ちては危険だからと幸也に飛び付くフェイは、そのまま幸也の腕の中へと収まり、更に二人の鼓動を早める結果となる。

幸也:「だ、大丈夫か?」
フェイ:「う、うん。大丈夫だよ。ありがとね、幸也♪」
幸也:「今度からは注意してくれ」
フェイ:「……そうするー」

 苦笑いを浮かべて、フェイは幸也の前方を大きく腕を振って歩き始めた。
 それを後方から眺め、またグルリと周囲を見回してから幸也も歩き出す。
 こうして集落探しは再開されたのだが……

フェイ:「も〜!なんで〜〜!!!」
幸也:「落ち着け。今降ろしてやるから…」

 フェイ、3度目の逆さ吊り体験中──…

 ちゃんと前を確認していた。
 大きな木があるなぁと避けもした。
 なのにフェイは最初と同じようにスカートを押さえ、足をじたばたさせている。
 流石に3度目ともなれば幸也の頬が紅潮するわけもなく、呆れた表情を浮かべながらさっさとフェイを降ろした。
 そして降ろされたフェイはといえば、ムッとしたまま背負っている剣を鞘から抜き、さっきまで自分の足に絡み付いていた蔦をズタズタに切りつける。──途中までだが。

フェイ:「今回はこれくらいで見逃してあげる」
幸也:「届かないだけだろう……それにしても」
フェイ:「うるさいな…ってどうしたの?」

 その場に散らばった蔓の残骸と周囲の景色を見回した幸也が、何かに気付いたように呟いた。
 何か違和感がある気がする。
 最初にフェイが吊り上げられた時と、どうにも今見ている風景が一緒のような気がしてならないのだ。森の特性から考えて、似たような風景に見えてしまうものなのかもしれないが、フェイが躓きそうになった大きな木もやはり見覚えがある。

幸也:「なぁ…この場所って、さっきも通らなかったか?」
フェイ:「そう言われてみれば、この大きな木って最初の場所でもあったよねー?」
幸也:「いや2度目のときもあった」
フェイ:「……やっぱり飴玉あげない」

 3回も引っ掛かってしまったフェイは飴玉を口に放り投げて、ぷぃと幸也から視線を外した。
 フェイ、ちょっとご立腹。

幸也:「あ、いや、ここって自然の罠があるんだ。だからこれってそうのかな、って思って……」
フェイ:「そういう情報は先に言ってよー!」
幸也:「乗り気だったから、てっきり知ってるとばかり」
フェイ:「知ってたら3回も引っ掛からないよ。それよりこれからどうしよーか。エルフの集落見つからないしー」

 フェイがその場に座り、幸也もまたどうしようか、と思ってた時、カサリと草が揺れる音がする。
 二人がそっちに視線を向けると、そこには一人のエルフの女性が立っていた。


■エルフとの出会い

エルフ:「私達の集落に来たいというのですか?」
フェイ:「どうしても知りたいことがあるの。だから案内して欲しいんだけど」
エルフ:「知りたいこと?どういうことかしら」

 フェイの言葉に、エルフの女性が首を傾げれば、フェイの隣りにいた幸也が口を開く。

幸也:「実は俺達、一角獣の窟に行ったんです。そこでユニコーンらしき生き物を見かけたんですけど、遠目だったし本当にユニコーンだったのかを知りたいんです」
フェイ:「私達ユニコーンを捕まえたいとか、悪意を持ってるわけじゃないの。あれがなんだったのか知りたい。私達は幻を見ただけなのか、そうじゃないのか。…ただそれだけなの」
幸也:「エルフ族ならユニコーンと交流があると聞きました。だから連れて行って欲しいんです」

 フェイと幸也の真剣な表情に、最初は困った顔をしていたエルフの女性も、次第に柔らかな表情になっていく。
 そして女性は近くの切り株に腰を下ろすと、二人に向かってゆっくりと言葉を紡いだ。

エルフ:「残念だけど私達の住む場所に連れて行くことは出来ないわ。いきなり他種族の人が来たら、怖がる者もいるの」
フェイ:「そんな〜〜〜」

 フェイはそれを聞いて、ガクリと肩を落とす。
 集落に行くことが出来ないとなれば、自分達が見たものを知ることも出来ない。
 肩を落とすのも無理はないだろう。
 そんなフェイの肩に手を置き、幸也も「そうですか」と元気なく言葉を返した。
 知りたがりの幸也にとっても残念な結果だ。

エルフ:「いきなりは無理だけど、私が帰って説明するわ。だからまた日を改めて来てくれるかしら。あの大きな木は集落への道しるべ。根をきちんと辿っていけば、きっと迷わず来れるはずよ」
幸也:「それじゃ……」
フェイ:「行けるよ!幸也、エルフの集落に行けるよ!!」

 喜ぶフェイに抱きつかれ、幸也も抱き返して素直に喜ぶ。
 何度も同じ場所に来るのは、そういう理由だったのだ。
 二人が喜ぶ姿を見て、エルフの女性は立ち上がり微笑みを浮かべた。

エルフ:「それじゃ、またね」

 そう言って歩き出した女性は、ふと立ち止まって振り返ると二人に向かって手を振る。

エルフ:「そうそう。あなた方が見たというユニコーン。本当にユニコーンだったかもしれないわよ。あそこには綺麗な水があるの」
フェイ:「本当!?私達が見たのはユニコーンなの!?」
エルフ:「それは出逢ったユニコーンに聞かないと」
幸也:「それはそうかもな」

 クスクス笑って、エルフの女性は森の奥深くへと消えて行った。
 見送ったフェイは一気に脱力したのか、その場にズルズルと座り込む。それでもその表情は曇ったものではなかった。
 一角獣の窟で見たものは、限りなくユニコーンに近いことは判ったのだ。

フェイ:「さてと……幸也、帰ろう♪」
幸也:「そうだな、今度は蔓に吊り上げられないでくれよ?」
フェイ:「それじゃ、こうすればいいんだよね」

 言って幸也の背中に飛び乗るフェイに、幸也も笑みを浮かべる。

幸也:「フェイ……重い」
フェイ:「そんなことないもん!女の子に重いなんて、デリカシーないよ!!」

 こうしてフェイと幸也は、来た道を戻って行った。